- 『FEAR』 作者:風間新輝 / 未分類 未分類
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夕暮れ時を僕は走る。
ヤツから逃げるためだ。ヤツが何者かは言うまい。僕に言えるのはヤツがあまりにも巨大だということ。そして、僕がヤツに比べるとあまりにもちっぽけなことだ。そんな僕の逃げる範囲なんて限られている。それでも僕は逃げる。全生命力を使い、脱兎の如く逃げる。ヤツに捕まれば……。うまく言葉にはできない。できるだけ近い表現を僕の数少ない情報からひねり出すならば、人間に踏み潰される蟻だろうか。いや、蟻はまだましだ。僕はヤツの存在に気づいてしまっている。知らない方がましだった。
大袈裟なと思うかもしれないが、僕の感じている恐ろしさをがわかるのは、それを体験している僕だけだ。僕だけが体験していることなのだから、他の誰かが理解するのは無理なのかもしれない。
どうしようか。このまま走り続けるにも限界がある。
こういう時に仲間がいれば、助けてもらえるのだろうが、残念ながら僕に友達はいない。いや、嘘だ。1人だけ友達はいるが、話しかけても返事一つしてくれないし、何をしても無反応だ。それでも、僕は友達だと思ってる。周りがなんと言おうが関係ない。こんな時ですら、友達はなんともしてくれない。
ここまで来れば、大丈夫だろうか。油断は全くできない。
物音がする。ヤツがきたのだろうか。ズンズン。この足音はおそらくヤツだ。僕は息を止め、ヤツがすぎるのを待つことにした。足音が徐徐に近づいてくる。1秒が1時間のように長い。僕の体は僕の意志に反し、震える。足音が止まる。方向転換をしたようだ。ますます足音が近づく。ヤツが視界に入る。ヤツはもう僕に気づいている。
も、もう駄目だ。
ヤツの大きな手が、逃げようとする僕の背中を掴む。体が浮く。一瞬、重力がなくなったかのような錯覚をおこす。僕の顔はヤツの顔の前にある。絶体絶命。
ジョリジョリ。
「マキ。縫いぐるみを出しっぱなしにして〜。まあ、赤ん坊に片付けられるハズがないよな」
わかってるなら言うなっつの。腹が立つ。腹は実際には立てないし、僕はまだ足でも立てない。
そう、僕の恐怖とは親父の髭面を僕の頬になすりつけられることだったのだ。この感触だけはどうしても耐えられない。実に不幸だ。
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2005/07/31(Sun)13:58:49 公開 / 風間新輝
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■作者からのメッセージ
受験からの逃避が僕の創作意欲っす。まともな作品が書けず、ストレスはたまる一方です。