- 『lonely got child 「孤独な神の子」』 作者:花神楽 蓮未 / 未分類 未分類
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原稿用紙約4.4枚
この頃、学校である人物が話題になっていた。その人物についてわかることは、この学校の人物であるという事と、この学校の生徒であるという事だけである。彼女は、放課後誰も上れないような高い木とかとにかく誰も上れないところに現れ、歌っていた。英語の歌詞で、意味はよくわからなかったがとにかく美しい歌だった。いいや、歌が美しいんじゃない。彼女の声が、肌が、姿が、髪の一本までが全てが美しかった。けれども、いつでも彼女は淋しげに歌っていた。そんなとこから何時しか彼女は「lonely got child(孤独な神の子)」と呼ばれていた。
今までにも多くの女子が私が「lonely got child」だと言い張ったが、結局は全員うそをついていた。正体もわからない彼女の為のファンクラブすらある。いいや、正体がわからないから逆に魅せられるのかもしれない。その神秘性に日常では味わえない快感を求めているのかもしれない。彼女はこの学校の誇りであり、この学校の神秘であり、この学校の天使的存在だった。何時しか、生徒たちの噂が、そして好奇心がそうさせていた。
天沢華音。彼女も「lonely got child」だと噂される一人である。華音は長い黒髪と、異国の血が混ざっているのか何故か紅い目が特徴的な綺麗な女の子で現在、設楽学園高等部二年。今は、中庭でこれまた美しい少年と何かを話している。少年の名は雅楽聖司。設楽学園高等部三年で華音とは恋人関係にある。
「華音そろそろ中に入ろう。雨の匂いがする」
空のほうを向いたまま、聖司は顔をしかめてそういう。
「雨…?私は全然わからない。それに、中は嫌いなの。煩いと思わない? 私が『lonely got child』だなんて。違うに決まっているのに」
空のほうを見る聖司とは対照的に、華音は地面を見つめていた。彼女の黒髪がゆっくりと風になびく。悲しげな表情をする華音を聖司優しく、見つめる。ふと、華音が顔を上げた。
「誰かが呼んでいる、私を。ちょっと待っていて、行って来る」
華音に聞こえたその声が聖司にはまったく聞こえなかった。華音が走り出すと、聖司も後を追う様に走り出した。中庭は異常に広い。そして、木がたくさんあるため声が通りにくいのだが彼女には聞こえたらしい。二分ほど小走りをすると、刹那がいた。
「刹那? 私の事呼んでいた?」
刹那はキョトンとしら顔をしながらも再び微笑みながら答える。
「ええ、呼んでいたわ。華音に教えてあげたいことがあって、ね」
刹那とは若宮刹那の事。刹那は設楽学園高等部三年で、華音の従姉妹であり、唯一の華音と同じ目をした肉親である。彼女は茶色っぽい髪の毛でボブ。背が高い。
「それで、教えてあげたい事というのがね、貴方の嫌いな『lonely got child』の事。彼女についてもう一つわかったことがあるの。其はね、彼女は胸に蝶の形の痣があるそうなの。雨の日に彼女を見かけた人がみたそうよ。これを手がかりに再び『lonely got child』を探して頂戴。頑張ってね」
彼女はそれだけ言うと、すぐに何処かへ行ってしまった。
華音は「lonely got child」を探している。自分が「lonely got child」であるという噂をかけられているのが嫌だからだそうだ。彼女がつかめれば疑惑が晴れる、華音はそう信じていた。
ふと、華音の耳元で聖司が囁く。
「相変らず、素晴しい聴力ですね。何処かで華音の噂でもしようものなら、必ずばれそうで怖いくらいだ。それと、俺からも一つ情報を提供しよう。『lonely got child』は紅い目をしているらしいよ。となると…わかるだろう?」
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2005/07/29(Fri)18:22:30 公開 / 花神楽 蓮未
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