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『太陽で焼け死ね 前編』 作者:若葉竜城 / 恋愛小説 恋愛小説
全角2391文字
容量4782 bytes
原稿用紙約7.7枚












         「太陽で焼け死ね」


 夏の徹底節約シーズンがまたやってきた。といってもたったの一週間だけ。しかし、その間の会社は地獄絵図。エアコンは使えず、電気をつけることも許されず、自動ドアは開けたままにする。そして、電気をつけてはならない代わりに太陽光を取り入れようとブラインドも下げず、窓は全開。流石に水道を止めることとパソコンを止めることはしないが、これだけでも十分社員を唸らせるものだった。
 さて、そんなわけで現在蒸し暑い会社内から午前中のノルマをやり終えた社員達はぞろぞろとクーラー完備の飲食店へと向かっているわけである。かくいう私もその一人。節約が始まる前に、と先日から残業して少しだけ今週分の仕事をやっていたこともあり、むしむしする社内からいち早く抜け出せた。ああ、太陽の光が眩しい。
 私がそうやって目を瞬かせていると、後から聞き覚えのある声がした。
「優葉先輩」
「あれ、さくら。久しぶり……でもないか。二日前だもんねえ」
 私が頭を掻いてみると、さくらは気の強そうな顔を可愛らしくして、くすくす笑った。
「先輩の会社、クールビズどころか徹底節約してるそうですね」
 私の会社はそういうところでけちくさいくせに給料は割と高額だったりする。企業の中でも俗に言う一流企業だし、変な会社ということで就職活動中の大学四年生にはなかなか有名なのだろう。
「そうそう。しばらくはかなり暑いから有休とって一週間海外旅行とかに逃げてる奴もいるぐらい」
 私は少しおどけて言った。決して真剣には言ったつもりはなかったけれど一瞬激しくさくらの顔が固まった。私が心配して、さくらの顔をじっと見ているとそれに気づいたさくらは曖昧に笑った。
「あ、先輩、暑いですよね。早くどっかファミレスでも入りましょうよ」
「え……ああ、そうだね」
 私はあやしすぎるさくらを少し変だなと思ったけれど、この時はまさか原因があんなことだとは思いもしなかった。
 この気が強そうな女子大生はさくらといって、私の弟の彼女であり、私が大学四年の時に入学してきた部活の後輩でもある。弓道部で唯一私と張れた後輩だったせいか、私もさくらとは付き合いやすかった。そして大学三年になったさくらと偶然にも再会し、話の流れでさくらを家につれてきたらちょっと目を離した隙に同い年の弟と付き合い始めていた。
 まったく、これだから手の早い男は……。
「先輩、ここでいいですか?」
 姉の後輩に普通手え出すか?
「先輩……大丈夫ですか?」
 あいつとか馬鹿だし。
「先輩?」
 いいとこないし。
「先輩ってば!」
 ほんと、あいつのどこがいいんだろ。
「……さくら、あいつのどこがいいの?」
 思わず口に出した私の言葉にさくらは顔を強ばらせる。
「ま、真人さんは……」
 そう言うとさくらは口ごもって今度は私が慌ててしまう。さっきからさくらの様子が変だとは思っていたけれど、いつも喜々として弟の話を姉の私にしてくる態度とは大違いだ。
「さくら、なんか相談事があるんだね?」
 さくらがいきなりうつむけていた顔を上げて少し涙目で私を見た。
「じゃあ、中で話そう」
 私はまたうつむいたさくらを促して、店に入っていった。



 店に入って、椅子に座るとさくらは少し落ち着いたようだった。鼻をずずっといわせて、目尻を指で軽くこすった。
「あ、あの、先輩。ほんと付き合わせちゃってすみません……。あ、大したことじゃないんです」
 今更それを言うな!
 ここで大したことではない、と照れられてもこっちは気になって仕方がない。さっきの様子からすると自分の弟が原因のようだし、そうなればこちらとしても対処のしようがあるというものだ。
「大したことないなんて言ったら駄目だよ。自分自身の悩みなんだから」
 うん、我ながらいいこと言った。
 とかなんとか私が満足げにしていると、さくらはものすごく感動したって感じで目を潤ませていた。
「う……先輩ぃ……」
 あぁ……ついに泣いてしまった。ウェイトレスや他の客の視線が痛い。これじゃまるで私が泣かしたみたいだ。
 泣き出したさくらを宥めつつ聞き出したところによると、どうもこういうことらしい。
 私の弟、真人(まひと)がさくらに秘密でイタリアに旅する用意をしていて、さくらはてっきり自分も連れて行ってくれると思っていた。しかし、真人は自分一人で行くつもりで、しかも折角の夏休みを全てつぶして旅行の予定を組んでいるのだ。
 はは……そりゃ怒るわ。我が弟ながら……馬鹿。
「あぁ……っと……あの、さ。真人の奴は高校の時も似たようなことばっかりしてたんだよね。ふらりと消えては海外旅行行ってたりとかして」
 さくらは涙声のまま顔も上げずに声を出す。
「え……親は、何も言わなかったんですか?」
「アルバイトで金貯めてあいつだけで行く旅行だったらまあいっか、だって。それに真人が毎回毎回土産買ってくるからうちの両親大喜びで見送ってたしね」
 さくらはそれを聞くと呆気にとられたようにして、情けない顔を私の前にさらした。
「うそ……やだ……やだ、やだ、やだ!」
 さくらは真っ赤になって私に泣きついてきた。私はいきなり叫びだしたさくらにまた居心地の悪い周囲の視線を感じた。
「さくら、さくら、ほら落ち着いて。どうしたの?」
「う……ひっく……先輩ぃ……私……子供、子供がいるんですよう……」
 ……は?
「どうしましょうぅ……」
 ……いや、いや……どうしましょう?



 私はとりあえずさくらを家に帰して、会社から帰ったらくわしい話を聞くことにした。といっても気になって気になって仕事が手につかない……。あのさくらのことだから弟の子供に違いない。とすると、だ。あの弟、姉の私よりも先に子供を作ったのか!
 まったく……帰ったらどうしてくれよう。
2005/07/26(Tue)22:09:44 公開 / 若葉竜城
■この作品の著作権は若葉竜城さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
覚えてらっしゃらない方多数のこととは思いますが、お久しぶりで御座います。

久々の小説が「太陽で焼け死ね」
金曜ロードショーの「ルパン三世」を見ていたらふと思いついたネタです。
現実的な話ですのでどうぞ付き合ってやってください。
では、感想アドバイス等宜しくお願いします。
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