- 『Pure love??』 作者:LOH / ショート*2 ショート*2
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僕は、君の声が好きだった。
笑う時の、大海原のような広い声。
話す時の、リズミカルな音楽のようなかわいい声。
鼻歌を歌う時の、朝焼けのような静かな声。
全ての瞬間の声が、君の表情が、動きが、瞬きさえが、大好きだった。
……ああ、何時の間に。
孤独のように小さく、淋しさのように切なくなってしまったんだ。
「ゴメンナサイ」
その音を、『声』だと認識するのにしばらくかかった。
更に意味を含める『言葉』だと気付くのに数秒。
君の美しい声は、夜闇に紛れそうな、涙声だった。
狭いアパートの一室。
彼女は僕が出した、グリーンのクッションに足を崩して座っていた。
表情はみえない。
僕は窓際の壁に寄り掛かり、頭を預けていた。
網戸にした窓をのぞくと、白い浮遊物のように、外灯に群がるものがあった。
外の雑草から聞こえる虫の泣き声が、窓から飛び込んでくる。
心地よい虫の合唱とはよく言ったもので、僕には耳障りな雑音にしか聞こえなかった。
彼女が僕の家のインターホンを押したのは、今からちょうど二時間程前だったろうか。
それからの大半の時間は、沈黙だけが響いていた。
彼女のために出した麦茶の氷が、からんっと音をたてて、今までの状態を崩した。
「何時も、あなたを見ていたの……」
彼女と僕は、同時に鼻をすすった。
何時も、僕を見ていた。
何時も、君は僕をみていた。
僕は……何時も、君を見ていたんだ。
月が、遠く白かった。
太陽の助けを借りて光を放つ月は、その事実を知っているのだろうか。
光る能力を知らない自分が、まるで、自らの力で輝いているように錯覚する。
それは、君と僕の関係。
僕はきっと、君がいなければ、無力の人間でしかない。
何時からだったろう、僕がそのことに気付き始めたのは。
何時から僕は、何光年もの、君への距離を感じ始めたのだろうか。
「―――でも、もう……苦しいの」
苦しい。
僕が、君を、苦しめていた?
それは、違う。
僕は……、僕が苦しかった。
僕は、君に苦しめられていたんだ。
でもそれは、被害妄想。
悲劇の主人公に、成り切っていたのだろうか。
わからない。
わからないことだらけだ。
「サヨナラ」
彼女は、ゆっくりと、ドアを閉めた。
僕は相変わらず、黒い絵の具に塗りたくられた空と、消え入りそうな月を、眺めていた。
頭を、部屋の中へ向けた。
何時間も同じ方向を向いていたから、首を回すのが痛かった。
今まで彼女が座っていたクッションは、浅くへこんでいた。
麦茶の氷は溶け切っていて、出した時より僅かに量が増えていた。
コップの横には、そこにあるはずのない、ゴールドの細い指輪。
鼻をすすった。
痛む首を気遣いながら、俯いた。
気が着いたら、空が白み始めていて、鳥のさえずりが聞こえた。
麦茶のコップについていた無数の水滴は、最早テーブルに小さな水溜りを作るだけのものになっていた。
僕は立ち上がって、網戸を開けた。
ようやく視界がひらけたようだった。
昨日のことは、まるでなかったことのように、太陽は顔をだす。
久しぶりに見る朝焼けは、学生時代に見たものと、同じだった。
言葉では言い表せないくらい、綺麗で。
―――君の鼻歌が突然、耳の奥で目を覚ました。
「あっ……」
目頭が熱くなり、睫毛を濡らす。
歯を食い縛ったのは、叫び声に似たものが、口を突いてでてきそうだったから。
そんな努力もむなしく、嗚咽は漏れるばかりだった。
涙が、熱く頬を伝っては、ぼたぼたと床を濡らした。
新聞配達のバイクの音が、聞こえた。
何故か、とても癒された。
君がいなくても、今日は始まる。
そんな当たり前のことが、また、僕の涙を促すのだ。
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2005/07/26(Tue)12:37:27 公開 / LOH
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■作者からのメッセージ
初めまして…の方が、ほとんどですよね。
だいぶ前はここに通っていたことがあります、ルウです。よろしくおねがいします。
久しぶりの投稿で、すこしびびり気味です(汗
投稿したのは、久しぶりに書いたSSです。
最近全く書いていなかったので、腕はもちろんのこと落ちている。
なので、みなさんからアドバイスをいただこうかと……。
ご感想、よろしくおねがいします!!