- 『creation and destruction <1>』 作者:heaven-7 / 未分類 未分類
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私がもし人形なら貴方のために踊りましょう。
私がもし楽器なら貴方のために奏でましょう。
私がもし絵筆なら貴方のために描きましょう。
私がもし人間なら
貴方のために何が出来るのでしょう?
「第一幕」
目が覚めた時刻は六時半。
いつものように壁の時計で確認する。
・・・・またいつもの夢か。
なんてコトはない、退屈な夢。
脳が見せる、ただの妄想。
「ファルス様?そろそろお起きになられては?」
下から僕を呼ぶ声が聞こえた、
「ああ、起きているよ。今そっちへ行く」
カーテンを開け、日差しを浴びる。
暗闇に慣れていた瞳に光が差し込む。
「今日は晴れたんだな・・・」
最近は、何日も前から雨ばかり降っていた。
洗面所に行き、軽く顔を洗い、階段を下りていく。
「おはよう」
「おはようございます、ファルス様」
僕は、彼らにそう笑いかけた。
彼らとは、この家に勤めている使用人の事。
もう一緒に暮らして十年にはなるだろう。
こんなに大きな家なのに、ここには僕以外の家族は住んでいない。
「朝食が出来ています、お食べください」
広いリビングに、十人は座れそうな大きなテーブル、そして豪勢な朝食。
「またこんなにいっぱい作ったのかい?」
「ファルス様にはいっぱい召し上がって頂かないといけませんので」
「そうですよ、ファルス様はもっと太るべきですわ」
メイド達がそう言って笑っている。
「僕は今のままの体型が好きなんだけどなあ・・・」
「痩せ過ぎです。」
即答で答えが返ってくる。
「じゃあ、皆、食べようか」
『いただきます』
本当は、貴族は使用人とは一緒に食事をしないらしい。
しかし、僕が無理矢理頼み込んで一緒に食べてもらっているのだ。
・・・・・だって、一人で食べる食事なんて寂しいだけだろう?
「今日はとても質のいい卵を使っているんですのよ?」
「うん、そんな気がしていたんだ」
皆が「本当に?」と言うような笑顔でこっちを向く。
「な、なんだよー、皆して・・・」
うん、やっぱり大勢での食事の方が楽しい。
「・・・ところで今、軍の状況は?」
楽しかった食卓に、一転して重い空気が流れ込む。
「やはり、コルツ山の麓の防戦に手間取っているようです・・・」
執事のドイルが、そう話してくれた。
「父上も気が重いだろうな」
僕の父親は、軍の騎士団長をしている。
今、この国「ミシェーリア王国」は、隣国「ハルバード王国」と戦争中だ。
「僕だってもう戦えるのに・・・」
悔しさと寂しさが入り交じったような声を出す。
「お気持ちはわかりますが、ファルス様はこの国の数少ないアーティファクチャー。今ファルス様に戦闘に出られては、この国を誰が守ると言うのでしょう」
「アーティファクチャー」とはその名の通り、物を作り出す者の事を現す。
この能力の最大の特徴は、今その場には無い物を作り出す事が出来ると言う事だ。
例えば、「石」を作り出そうと思えば、それを想像するだけでいい。
しかし、そのものが何で出来ているか、どんな元素によって作り出されているかをしっかりと憶えていなくてはならない。
何千年も前の秘術書に書かれていた術で、今この技を使いこなせるのはこの国に二十人近くしか居ない。
というのも、この術を使うには「膨大な知識量、鮮明な記憶力、途切れない集中力」の三つが必要であり、それらを持つ者を探し出す事はとても困難だからであった。
「こう言ってはきっとファルス様は嫌に思われるでしょうが・・・あなた様は天才なのです」
ドイルが、言うか言うまいか考え込んだ後に、ボソリと話した。
「僕は天才なんかじゃ・・・」
そう、天才などではない。ただ、『一度憶えた事は、二度と忘れる事が出来ない』のである。
たとえどんな細かい事であっても、何年後でさえ忘れる事は無い。
「僕は体が弱いから、父様や兄様のように剣を持って戦う事は出来ない。だから、神様は代わりにこの力を授けてくれたんだと思う」
本当なら、僕だって剣や槍で戦いたい。
ううん、本当なら戦いなんて望んではいない。
「・・・どっちが幸せなんだろうね」
僕は吐き捨てるようにそう言った。
「どっち、とは?」
不思議そうな顔をしてドイルがそう尋ねた。
「戦いによって秩序が守られる世界と、戦いはないけど無秩序な世界。どっちが幸せなのかなぁ」
半ば諦めるような言葉に、ドイルは答えてくれた。
「いずれの世界だったとしても、大切な物を守るのは自分自身、そうファルス様の力なのです。守るべき物があるからこそ戦う、それが真の戦いだと私は思っています」
じっと僕の目を見据えながらそう話した。
・・・僕には、大切な物など無い。家族だって、二年も会っていなければ関心を持たなくなる。
「見つけ出す事が出来るのかな、大切な物を」
そう言うと、ドイルは笑顔を見せた。
「私は、ファルス様ほど優しい方を知りません。自分では気づいておられなくても、ファルス様はこの国のことを大切に思っているはずです。それに、それを見つけ出す事が人生の課題なのですよ」
ズキン。何だろう、この胸の痛みは。
「ありがとうドイル。大切な物を見つけて、それを守れるような男になってみせる。そのためのこの力だと思うから」
精一杯、作り出した笑顔。
・・・・・・・・・・・・・。
また、嘘をついた。
嘘吐き。ウソツキ。うそつき。
本当は、戦いなど投げ捨ててしまいたい。
こんな能力も全て捨ててしまいたい。
・・・本当なら、父上にも、兄上にも帰って来て欲しい。
「ファルス」と言う名前は、昔の言葉で「嘘」という意味らしい。
まさに大当たりだ。その名の通りになってしまった。
僕には、守りたい物どころか、好きな物すら無いんだから。
「嘘吐き」なんじゃなくて、僕自身が「嘘」なんだろう。
いつまでも難しい顔をしていたらしい、僕を呼ぶ声が聞こえた。
「ファルス様?もうそろそろ出発のお時間ですよ」
「あ、もうそんな時間か。ありがとう皆、美味しい朝食だったよ」
今日は、これから病院に向かう事になっている。
「アーティファクチャー」の能力で、怪我をしている人の傷口を治す事が出来るとわかったのは、数年前だ。
本当は、傷を治すんじゃなくて、細胞を作り出すんだけど。
「ファルス様、息子の傷が完全に良くなりました。なんとお礼をしたら良いか・・・」
先日、戦闘で大怪我を負った兵士の母親が深々とお辞儀をして、そう言った。
「いいんですよ、お礼なんて。この国を守るために怪我をしてしまったのに、僕が働かないでどうするんですか」
にっこりと微笑み、僕は答えた。
やはり病院だけあって、怪我人、医者、お見舞いに来た人など、たくさんの人で溢れかえっている。
僕はそんな中、一つの光景を目にした。
「チクショウ・・・俺に力があれば兄さんは・・・」
顔をぐしゃぐしゃにして、遺体にすがりついている。
・・・僕には、その気持ちが痛いほどわかった。
「ごめんなさい・・・。僕がもうちょっと早く傷を治す事が出来たなら・・・」
彼の傷は、昨日僕が治した。しかし、治したときには彼の魂は死んでしまっていた。
魂、心までは作り出す事が出来ない。
「ファルス様・・・。あなたは一生懸命頑張ってくれました。兄さんも、綺麗な体のまま死ねて、満足だと思います」
精一杯の笑顔を見せ、彼はそう言って後ろを振り向き呟いた。
「ハルバードがこの国に攻めてこなけりゃあ死なずに済んだのに・・・」
ぽたり。
床に涙が一粒、落ちた。
ハルバード王国が、この国との同盟を破り、攻め込んで来たのは五年前。
それまでは、戦争など何一つ無い、平和な国だった。
ハルバードだって、「あんなこと」がなければ、平和だったろうに。
当時のハルバード王国の王、ベルファウスは、温和な性格で、「国民の為に」と言うのが口癖の良王だった。
しかし、ある一部の争いを望んだ大臣たちが、国にクーデターを起こした。そして、王を始め、穏健派だったもの達を全て殺し、そのリーダーであったギルバートが王となり、我が国に攻め込んで来た。
今、ハルバードの国内は、酷い有様だと言う。
しかし、いつになっても戦争が止む事が無いのは何故なんだろう。
「この戦争はいつまで続くのかな・・・」
その後、二十数名の怪我人を治した後に、僕は病院を後にした。
「ファルス様、お父上のアンスウェル様から、電報が届いております」
それが、帰って来た僕に伝えられた最初の情報だった。
「成る程、最高の騎士五名と、最高のアーティファクチャー一名をハルバード国に侵入させる・・・と」
送られて来た文書をテーブルの片隅に丸めた。
「それは、王様、オグル様からの命令なのですね?」
「たぶんね。遂にこちらから動くのか・・・」
「ということは、アンスウェル様、トゥルス様、ファルス様が攻め込む・・・と」
トゥルス、とは僕の兄上のことで、全く僕とは正反対の人。
「トゥルス」とは、「真実」を意味する言葉。
「真実」と「嘘」お互いを良く現してると思うよ。
「寂しくなりますね・・・」
メイドのうちの一人がそう漏らした。
「大丈夫、戦争を終わらせて、ちゃんと元気に帰ってくるから」
にっこりと笑って、ぼくは強がりを言った。
「じゃあ、そろそろ部屋に戻るね」
椅子から立ち上がり、使用人達に軽く礼をすると、部屋へと向かった。
その日は、珍しく本も読まずにベッドに入った。
「父上や兄上と会うのは二年ぶりになるのか・・・」
僕の事、憶えてくれているかな。忘れられてるかもなあ、僕の事なんて。
「本格的な戦いになったら、生き残れるのかな・・・」
本当は怖くて、ビクビクしてる。出来る事なら、逃げ出したい。
「この力でたくさんの人を殺すのかな・・・」
誰も殺したくなんてない。傷つけたくもない。ただ、守りたいだけ。
「すぅ・・・。」
・・・けて。・・・れか・・・たすけ・・・。きこえ・・・?
誰かの声が聞こえる。あぁ、夢の中か。
いつもと同じ夢。誰かの僕を呼ぶ声。
でも、日に日に、だんだんはっきりとした声になってる気がする。
「君は、誰?」
僕は声の主に語りかける。
「わたしはーーーーーー」
そこで、目が覚めた。
第一幕<了>
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2005/07/22(Fri)15:32:27 公開 / heaven-7
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■作者からのメッセージ
夏休みの自分への課題?みたいなので書きました。
非常につたない作品になってると思います。
おかしいな、と思う場所、ふざけんな、と思う場所などありましたら、是非お教えください。
では、話は続かせて頂きます。