- 『君と二人で記憶のしりとり 最後の言葉は誰にも秘密』 作者:夢幻花 彩 / ショート*2 ショート*2
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原稿用紙約12.1枚
――じゃ、『しりとり』の『り』から始めるよ。なっちゃんから。
うんっ、 元気よくちっちゃな私は返事をして、えっと、りんご!!楽しそうに答える。ごりら、らっぱ、ぱいなっぷる、るーれっと、とけい、いちご、お姉ちゃんまた『ご』!
うーんじゃぁ、ごま、まいく、くるま、また『ま』だぁっ。んじゃぁ、まぁちゃん!!
――『ん』が付いちゃったよ、なっちゃん。『まぁちゃん』じゃ駄目だね。なにか別なの探してもいいよ。
私はみるみるうちに目にいっぱい涙を溜めて、叫んだ。
――まぁちゃんが駄目なら、そんなしりとりなっちゃんきらいっ!!
現代の、十六歳の私は苦笑してアルバムを閉じた。顔をぐしゃぐしゃにして泣く私と、哀しそうな顔をして目をちょっと潤ませた当時のお姉ちゃんの写真。折角遊んであげてたのにそんな事で泣かれたらちょっと気持ちが判る気がする。あはは、ごめんねお姉ちゃん。3歳の私に代わって謝っとく。
にしても、まぁちゃん、かぁ。しりとりにまで出したいほど、好きだったんだね。
どうしてか判らないけど、小さい頃って好きな物をしりとりにだしたがるらしい。たまに友達とかとやると、だんだんそういうのが見えてきてちょっと面白い。だけど流石に幾ら好きでも今の私が「まぁちゃん」をだしたりはしない。だからなのかなんなのか、私が「まぁちゃん」こと「高見 正人」のことを好きだっただなんて、……否、好きだなんて誰も知らない。
でももし「まぁちゃん」とか言ってるの見ても、判んないんだろうなぁ。だってもう何か「まぁちゃん」って感じじゃないもん、ね。
体育館の方からきゃぁぁって黄色い声がして、里香は大げさに顔を顰めた。
「あ〜、うざい」
ですねぇ。
「っていうかさ、あいつらどの部にも無所属なんだからはやく帰れーって感じだしね?」
ごもっとも、ところで里香君、君は何部に所属しているというのですか?茶道部の私のところに来て和菓子だけ食べてく「和菓子強奪部」というやつ?
「ん、あたし帰宅部だけど」
なんで心の声が聞こえてんだよ、っていうか聞こえてんならその「帰宅」という崇高で素晴らしすぎる活動をやれ。
私はふぅっと溜息を一つついて、ここからは絶対にみえない体育館の中を想像に描く。こういうとき、想像力が豊かってイイ。
多分さっきの歓声、バスケの試合で誰かがシュートを決めたんだ。男子部。誰だろう?……って考えるまでも無いか。ルックス最強なバスケ部キャプテンにして頭脳明晰、生徒会副会長。よく言えばクール、悪く言えば冷血な『彼』に違いない。
――「高見 正人」。そ、つまりは「まぁちゃん」。
なんか普通な事を言っちゃうと、私とまぁちゃんは幼馴染の関係にある。その頃のまぁちゃんはもっとなんていうか、ほわぁってしてて、抜けててぼんやりを絵に描いたような子だった。そうそう、いつも公園で私に付き合っておままごとやってくれて。それも「お父さん」じゃなくてよくて「赤ちゃん」、時に「ペットのポチ」。そこにはちょっと大きな木があって、その下にベンチがある。そこでお砂場道具を広げておままごとをすると本当の家みたいでとても面白い。ちなみにそこは私の縄張り(!!!)だったので誰も邪魔はしなかった。……にしても、二人でやるんだから、せめてお父さんやらせてあげればいいのに、その辺どうなの三歳の私。
小学校の三年生くらいまでは多分、そうやってまぁちゃんは一緒に遊んでくれてた。けれどそのくらいの時、まぁちゃんは私の背丈を越した。そのうち私だけでなく、近所の男の子と普通にTVゲームやサッカーをしたりして遊ぶようになった。
まぁちゃんはちゃんと普通の男の子だった。当たり前で、それが哀しかった。まぁちゃんが私の大好きなまぁちゃんで無くなっていくようで、淋しかった。
そのうちに私からまぁちゃんを避けるようになってそのまま。まぁちゃんが一二八cmをになって少しした、あの春の身体測定以来、ほとんど言葉も交わしていない。
だけど私は「昔のまぁちゃんは今でも私の心の中にいるの」とか言えてしまうほど乙女で純粋な女の子じゃない。まぁ、遠からず、だけど。
私も一応普通の女子高校生だったりするので、年齢に見合う程度な恋愛経験はある。今までに付き合った人は一人、恋したのはまぁちゃん含め二人。あれ、やっぱ少ないのかなぁ?兎に角一途にまぁちゃんだけ見つめていた、なんてことは無い。
私が好きになったのは、結構二枚目の人気者だった。
優しくて、今のまぁちゃん以上に支持がある子だった。なんていうか、皆がきゃぁきゃぁ言うからかもしれないけれど結構本気で好きで。毎日朝お早う、って言うのが何よりの楽しみで生きていたくらいに。不思議なんだけどその恋は意外にも告られちゃってOK,という嘘みたいな展開になって、毎日馬鹿みたいにはしゃいで嬉しくて。
なんだけど、
「俺さ、お前の事ちょっと好きかも」
「……あたし、も」
気がついたら駆け出してた。私が大好きな声が、私が一生大事にしようと思っていた大事な言葉を、私じゃない誰かに言っているのだけ、判った。気がついたらそれはもうわんわん泣いてて。顔がぐしゃぐしゃで。近所の公園のブランコに座ってぎぃ、ってやってたら、
――まぁちゃんがいた。
まぁちゃんは何も言わなかったし、勿論私も。ただなんかまぁちゃんの顔みたら物凄い泣けてきて、うわぁぁぁって。そしたらまぁちゃんが何も言わずに、何かをなげてよこした。
ソーダ味の飴玉。私が小さい頃、大好きだったやつ。一瞬呆けて、次の瞬間噴出して、またちょっと泣いた。馬鹿みたい、そう思いながら。
気がついたら、私はまたまぁちゃんが好きになっちゃってた。どんなに背が伸びても、まぁちゃんはちゃんと、まぁちゃんだったんだ。
しりとり、しよ。
いいよ。じゃぁぼくからね。えっと、りんご!
んと、ごりら!!
らっぱ、ぱいなっぷる、るーれっと、とけい、いちご、ごま、まぁちゃん……
……あぁ、『ん』がついちゃったんだね。もう、このしりとりは終わりだね。
…………………………
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部活が終わるのが遅くなって、帰り道はすっかり日が落ちてしまっていた。ここは結構暗くなる道が多いから怖いなぁ。車ばあんまり通んないから良いけど。とりあえずさっさと通り抜ける事にする。私は茶道部一が自慢の足……ってあんまり自慢にもならないか茶道部じゃあ。でも良いんだもん、茶道部で一番運動神経悪かったらそれこそマジで哀しいし。ちょっとだけ律儀にも凹んで、結構本気でいじけて、我に帰って何やってるんだ私、とたしなめてからせーの、と心の中で小さく呟き走り出す。公園の脇を走り抜けようとしたところで、
一瞬視界の端に、何かが見えて私は立ち止まった。はあはあという息が熱い。
「…………」
その公園は、私とまぁちゃんの思い出の公園だった。あの木の下には今も変わらないベンチがある。そこはまるで本当の家みたいで、今でもお砂場道具を持っていけばまたまぁちゃんと私であのおままごとができそうだった。わんわん、まぁちゃんはポチの役を忠実にやる。私はポチ、ご飯の時間よって砂を盛った葉っぱを差し出す。
けれど、それはもう二度と叶うことはなかった。
当たり前だ。私とまぁちゃんは、その頃はただ笑っていればよかったんだから。
哀しい時は、素直に泣く事だって許された。
喚いたって、怒ったって、いやだよぉと叫ぶことも許されていた。
――今あのベンチのしたにいるのは、「私」と「まぁちゃん」じゃない、
「高見君」と「里香」。
なんとなく、気付いてはいた。
ちょっとした噂くらいにならなっていたし、だいたい里香の様子を見ていれば判る、「バスケ部がね」「男子バスケ部の」なんて言葉をよく聞いたし、大体里香は可愛い。髪もさらさらだし、へたなアイドルなんかに比べたらずっと綺麗だ。
そして、
そして。
私が見ているのも気付きもせずに、二つのシルエットは重なる。
涙は零れてこなかった。だから、私は代わりに思いっきり笑った。
なんて馬鹿なんだろう、嬉しくもないのに笑うなんて。
けれどそうでもしないと、泣いてしまうから。立ち直れなくなってしまうから。
泣く代わりに、嬉しくもないのに笑う代わりに、それなら最後にもう一度しりとりをしよう。
しりとりの「り」から。
りんご、ごりら、らっぱ。ぱいなっぷる、るーれっと、とけい、いちご、ごま、
最後の言葉。
一番、大好きな、大切な言葉。
……それは、私の胸のうちにしまっておこう。
流さないと決めた涙が、何故だか足を濡らす。
誰にも秘密の最後の言葉が、何故だか余計に私を哀しくさせていた。
終
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2005/07/17(Sun)00:16:45 公開 /
夢幻花 彩
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■作者からのメッセージ
ほのぼのな幼馴染のお話を書きたかったのに、性格がひねくれているので主人公とまぁちゃんがくっ付く形ではないのです。それもこれもAがBで私は初めCだったのにBになり結局Cであり続ければ良かったのにBになってしまったせいなのです(何のことだか全く通じない 笑)
そんな訳のわからないことをいうのはやめて、今日は吹奏学部の夢幻花最後の大会でした。「絶対県大会行こうね!!」と皆でいってたのに結果が8位で、6位までしか県大会行けないので大泣きして帰ってきました。こういうことで熱くなれる仲間がいるって良いですよね。特に後輩が私たちより泣いちゃって、「先輩引退しないでください」って。うぅっ可愛い(号泣)
さてさて。
そんな(どんなですか)夢幻花に、レスをいただけたら嬉しいです。