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『323年生きた男』 作者:喪黒福造 / ショート*2 ショート*2
全角5537文字
容量11074 bytes
原稿用紙約19.8枚



僕は車に揺られながらぐっすり寝ていた。



僕が寝ている間に自己紹介をしておこう。僕の名前は吉永健一、歳は23歳で地元のコンビニでアルバイトしている。高校のときはサッカー部に入っていて、その頃は将来、サッカー関係の仕事を目指していたのだが学力が足りず断念した。



「バタンッ」



トランクを閉める音で僕は目を覚めた。


「健一、早く起きろよ!!」友人の啓太が言った。

「わかったよ」僕はゆっくりとドアを開けて、外に出た。外に出るとたくさんの車やトラックが綺麗に並んで止まっていた。


「啓太、ここどこだよ?」僕が迷いもなく聞いた。
「サービスエリアだよ、寝ぼけんなよ」啓太はトランクで探しものしているのだろうか、トランクに頭を突っ込みながら答えた。


僕たち2人は高校からの友人で、これから温泉に行く予定だ。最初の頃は男2人で温泉なんてなんだか嫌で僕は拒否していたのだけど、この頑固男がどうしても行きたいと言うので仕方なくついて来たわけだ。


「よっしゃぁ、そろそろ出発するぞ!!」探し物が見つかったのだろう、啓太がいつものハイテンションで言った。


「お、おう」僕はいつものローテンションで答えた。


僕と啓太は再び車に揺られながら目的地に向かっていた。運転席の啓太をふと見ると、なんだか険しい顔をして目から透明の液体を出していた。車内には昔の歌だろうか、聴いたこともないフォークソングが流れている。


「おい、お前なに泣いてんだよ」僕は、蚊の鳴くような声で問いかけた。啓太は何も答えなかった。聞こえたのはおっさんの歌声だけだった。


その後、沈黙が続いた。外を見ると瀬戸内海が広がっている。海の地平線の先は、円を描くように丸くなっている。こうして海を見ていると地球が丸いってことが良く分かるのだ。また目線を前に向ける、車は随分見かけていない。

横を見ると田んぼと山が海のように永遠と続いている。まるで同じ道を何度も走っているようだ。


「あのさ〜」啓太が久しぶりに言葉を放った。僕は久しぶりの会話にちょっとびっくりした。
「な、なに」
「ずっと黙っていたけど、俺のかあさんこの前死んだんだよ。」啓太は小さな声で一気に言った。
「え、あ、そうだったんだ」僕は返す言葉がなかった。啓太のこんな顔は見たことがなかった。まるで高校受験で落ちたような顔をしていた。
「この旅館って俺とかあさんが最後に行った場所なんだ」啓太がさっきの口調で言った。
「だからさっき泣いてたのか」僕は言った。啓太はゆっくりとうなずいた。
「だから、また行きたかったんだよ。母さんとの思い出の場所に、でも怖かった。1人で行くのが怖かった。」

啓太はそう言うとごめんなと僕に言い、また沈黙が続いた。



20分ぐらい経っただろうか、僕は急に腹の痛みを覚えた。


「ちょっとトイレ行きたい」僕は啓太に申し訳なさそうに言った。
「その辺の田んぼでしてこいよ、どうせ外でても誰もいないんだからさぁ」いつもの啓太に戻っていた。


「いや、大きいほう」



啓太は必死にトイレを探す。啓太は良いやつだ。


「なんかごめんなぁ、急に痛くなったから。」
「まぁいいってことよ。」啓太はいつもののりで言った。

10分後、僕らは古びた薬局の前に車を止めた。
周りには田んぼばかりで民家ひとつない。薬局の看板には出無薬局と書いてあり何年前の建物だろうか、1階建ての全て木造の建物で看板はサビきっている。カーテンは全て閉め切られていて正面には大きなドアがどっしりと構えている。

「すぐ戻る」僕は啓太をおいて薬局に飛び込んだ。ドアのぶをひねり中に入ると夏だというのにひんやりとしている。
「あの〜すみません」僕は入るととたんに言った。しかし反応は無い。店内は薄暗く、いろんな薬
が棚にびっしりと置いてある。


「あの〜すみません」僕はさっきよりも大きな声で言った。しかし反応は全く無い。僕は我慢の限界だった。


ゆっくり店の奥に入るとトイレを探した。店の奥は長い廊下が続いていて、その奥にはドアがあった。
「ここがトイレかなぁ」僕はゆっくりとドアのぶをひねり、中へ入った。
一気に暗くなり木の腐った匂いがした。僕は目をこらえて見ると、大きなショーケースが3つ、横に綺麗に並んでいる。



「人体模型??」



中にはリアルな人体模型らしきものが1つのショーケースに1つずつあった。しかし目をつぶっている。しかも何故か1番左のショーケースの模型は軍服を着ていて頭には迷彩柄のヘルメット、顔は真っ黒で汚れていたが結構若そうな青年のような人体模型だった、

1番右の模型は汚いジャケットにほとんど破けたジーパンを穿いていて、頭はぼさぼさでまるでホームレスかオタクの髪型だった。口周りには立派な白ひげを蓄えており70後半ぐらいのおじいさんだった。


真ん中の模型はちょんまげ姿だ。まるで時代劇の脇役で登場しそうな男だった。


「気持ち悪いなぁ」その頃にはもう腹の痛みは無かった。僕は興味半身でちょんまげのショーケースに近づき覗いてみた。本当にリアルだった、本物の人間ように。


僕はショーケースに手を掛け、開けた。

僕がショーケースを開けた瞬間だった


「ぎゃぁ〜〜〜〜」


中からちょんまげ姿の男が飛び出した。そこからはあっという間の出来事だった。
僕はちょんまげ男に手を捕まれ、一気にショーケースの中にぶち込まれた。ちょんまげ男は僕の入ったショーケースを必死に閉め、この部屋から急いで出て行った。


「はぁはぁ、なんだよあれ。まさか生きていたのか??」


僕は足をガクガクさせながら、ショーケースから出ようとした。

「ガタ、ガタ」あれ??開かない。

「フンッ」僕は思いっきりショーケースを押したが、ビクともしなかった。


僕は、冷んやりとしたショーケースの中で立ち尽くしていた。両サイドには軍服男とホームレスおじいさんの模型が立っている。ショーケースの中はとても狭くて、ギリギリ座れるほどのスペースしかなかった。

どうしよう……ってまさかこの軍服男もホームレス爺も生きているかも。僕はふと思った。

「あの〜、そこのおじいさん」僕は恐る恐るホームレス爺に言った。しかし反応は無い。ショーケース越しだから聞こえないのかもしれない。今度はもっと大きな声で言ったのだがまたまた反応は無い。やっぱり生きてるわけ無いか。

「おぉ〜新入りかぁ〜」

僕はびっくりしてホームレス爺の方を見た。確かにホームレス爺の口が動いている。しかし、目は瞑っていて、身体は全く動かない。
「しゃ、喋れるのか??」僕はびっくりして聞いた。
「そりゃ人間じゃから喋ることぐらいできるわい」確かにホームレス爺が答えたのだが、口以外は全く動かない。まるでロウ人形のようだ。
「ど、どういうことだ??」僕がそう言うと、ホームレス爺はこの建物について詳しいことを教えてくれた。


「わしの名前は平沢正造じゃ。まぁこんなところでこんなことしているのはお前がさっき起こった出来事と同じ感じだ。わしは、元々ホームレスじゃった。」やっぱりかぁ僕は思った。
「わしはこの前まで、東京に住んでいたのじゃが田舎に帰りたくなってのう。わしは残り少ない金でここに来たのじゃ。でもその頃は冬で田舎といっても泊めてくれる人もいなくて、我慢できずにこの建物に入ったのじゃ。」当時、冬ってことは今夏だから相当時間が経ってるなぁ。でも食料はどうしてたんだろう。


「この建物は誰もいなかったのじゃが暖かくて、いい気持ちじゃったんじゃが食べ物がなくて、食べ物を探すためにこの部屋に入ったのじゃ。そうしたらお前みたいに変な男に無理やりショーケースに入れられて今はこのありさまじゃ。」


ホームレス爺はふーっと息を吐いて口を閉じた。


「おいっ!!スグルも黙ってないで何か言うんじゃ」スグル=軍服男らしい。


「えへへへ、ちょんまげもとうとう帰ってしまったか。」スグルは笑いながら細い声で言った。


「あの〜スグルさんは何でこんなところに居るんですか?」たぶん僕の方が年上なんだけどなぜか敬語で言ってしまった。

「俺はこの爺と同じ感じでここに入ってんだよ。好きでこんなとこ入らないしな。」スグルは友達と話しているかのように僕に言った。


その後は誰も何も喋らなかった。

あれからどのくらい時が経っただろう。1時間ぐらいかな。
僕は、その場に座り込んで眠ってしまった。






「健一まだかなぁ」啓太は車の前でタバコを吸っていた。啓太は我慢できず、出無薬局の前に立った。
「なんか薄気味悪いなぁ」啓太はそう言いながらドアのぶをひねった。

啓太が薬局に入った瞬間だった、中から変な男が飛び出してきて啓太を突き飛ばした。

「痛ってぇ、おい!!待てこの野郎!!」
啓太はぶつかったくせにひとつも謝らないこの男に言い放った。この変な男は走るのを止め、その場に止まり、後ろを向いたままモゾモゾと動いている。

なんだこいつ……啓太と男とは30メートルぐらい離れている。

「お、おい!!」啓太は男に言ったのだが、男をよく見るとちょんまげ姿だ。


その時だ、ちょんまげ男はくるっと振り向き啓太の方へ走ってきた、その手には大きな刀を持っている。
「な、なんだよ」啓太が逃げる余裕も無くちょんまげ男は啓太の馬乗りになり、刀を振り下ろした。「平家の大将の首はもらったぞ!!」ちょんまげ男の顔は返り血で真っ赤だ。



「わぁぁぁぁぁぁ」啓太の悲鳴がこの蒸し暑い田舎の町に響いた。



僕は眠りから覚めた、辺りはいつも薄暗いので今は夜なのか昼なのか全く分からなかった。でもかなり時間が経った気がするのに空腹も疲労もなにも感じなかった。ホームレス爺もスグルも立ったまま動かなかった。


その時、


「ドンッ」とドアの閉まる音が聞こえた。誰かがこの建物に入ってきたらしい。


ここの主人??僕は薄暗い中、助かる期待感と何が起こるか分からない恐怖感があった。

「カチッ」

この部屋のドアのぶが回り、外から眩しいほどの光が差し込んだ。
ドアから現れたのは茶髪で黒のサングラスを掛けた僕より若い青年だった。

男は口をパクパクして、何かを喋っているようだが全く聞こえない。すると後ろから若い女性が出てきた。

「ちょっとここから出してくれ!!」僕は必死で言った。しかし青年は聞こえていないら
しい。僕は自分がこのショーケースにぶち込まれたときのことを思い出した。
もしかしてあのときのちょんまげ男のようにしたらここから逃げられるかもしれない。すると青年は僕のショーケースに近づいてきた。
ここを開けてくれ!!僕は心の奥で叫んだ。
すると青年はショーケースに手を掛けた。また口をパクパクして何かを喋っているようだ。たぶん後ろに居る女性に話しかけているのだろう。僕は青年がショーケースを開けると確信し、飛び出す準備をした。



カチッ青年がショーケースを少し開けた瞬間、僕は思いっきりショーケースを開けた。思ったとおりさっきまでビクともしなかったショーケースが開き、外から暖かい空気が入ってきた。


僕は急いで青年をショーケースに入れようとしたが意外と力が強く、一気に押し倒されてしまった。青年からは大きな息遣いが聞こえた。


僕は「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」と叫び馬乗りになっている青年を投げ飛ばし、押し倒してよろけた青年を一気にショーケースにぶち込んだ。後ろを見ると女性が恐怖と驚きの顔をして突っ立っていた。

僕は走った。女性を突き飛ばし、部屋のドアを開け、廊下を突っ走り、僕は出口のドアを
開けた。


一気に熱気が体を包んだ。ミーンミーンと蝉の声も聞こえる、あの時と全く同じだった。しかし啓太の姿は無かったし車も無かった。


助かった………


僕は深呼吸をして永遠と続くコンクリートの道路を歩き出した。



2時間ほど経ったぐらいだろうか、僕は小さな町に出た。周りを見渡すと小さな民家や雑貨屋さんや小さなスーパーなどがあった。しかし人の気配は無い。
僕はいきなり凄い空腹にみまわれた。
僕はあまりの空腹でその場に倒れこんだ。

「うぅぅぅ、痛って〜」僕はここから動くことが出来なかった。
その時だった、1人の老人が現れて僕の前に座り込んだ。


「おめぇ見かけない顔だねぇ」老人の顔は全く見えない。老人は手にはスーパーの袋と新聞紙を持っていた。その新聞紙を見ると2305年8月19日とかいてあり、

表紙の一面には
「地球から火星へ、50歳以下の人間は火星へ移住完了」と書いてある。

「えっあのおじいさん、今、西暦何年ですか??」僕は正直戸惑った。

「いまかぁ??今は2305年だよ」老人は当たり前のように言った。

「な、なんですか??火星移住って??」僕は冷や汗を流しながら言った。
「おめぇ知らねーのか??、俺ら老人は地球に残って若い奴らはみんな資源の豊富な火星に行っちゃったよ」

ど、どうなってんだ??この世界はなんなんだ??

僕は訳が分からないままふと横のスーパーの大きな窓を見ると、自分の顔がみるみる老けていき、白髪が生えてきて口の周りからは白い髭がみるみる生えてきた。顔を触って見るとしわしわで、顔に沢山の凹凸があった。

「なんなんだこれは……」これ以上声が出なかった。老人はいつの間にか居なくなっていた。
するとみるみる目が見えなくなり、身体も動かなくなって息をするのも辛くなってきた。



まるで一気に300年分の成長が進んだかのように……







10分後、









僕が居たはずの場所には人間の骨が横たわっていた。





その骨は紛れも無く健一の骨だった。


2005/07/10(Sun)20:45:44 公開 / 喪黒福造
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