- 『りすとかっと』 作者:ゆか / 未分類 未分類
-
全角3037文字
容量6074 bytes
原稿用紙約10.05枚
【紅】
紅いものには、昔から興味があった。だけど、痛いのは好きじゃなかった。
居場所がなくなって、辛い時とか苦しい時に紅い色のものを見ると、とても落ち着いた。
落ち着くと同時に、自分の中の紅いものがうずいてそれ以上に興奮した。
それでも、やめられなかった。だれも、止めてはくれなかった。
【リストカッター】
遠藤仁美、15歳。中3。
今日も目覚ましをかけ忘れて学校には遅刻。いつものこと。
遅刻してしまっている校門の隣の塀を飛び越えた。かなりの脚力はあるものの、部活はなにも入っていないという・・・ただの無駄な能力だった。
薄暗い下駄箱。全校生徒の汚れた靴がいくつかの箱に密集しているという、汚臭の残る場所。
靴を脱いで、ほとんど勉強道具の入っていない、とてつもなく軽く青い小汚い3年間使い切っている鞄をじべたに放った。あまり大きな音はしない、軽いから。
ゆっくりと上履きに履き替える私の耳に、大きな音が入った。
「やっべ、遅刻!」
もう1限目など、絶対に間に合わないと分かり切っている私に対して、「やっべ、遅刻!」と言った奴は、
「おい、お前遅れるぞ!」
と、無意味な言葉を放って走り去った。
ぼそっと、
「今11時だし。完全に遅れてるから。」
のささやかな暴言を、走り去った彼にささげた。
一人で廊下を歩くのは、嫌いじゃない。
見渡す限り、まっすぐの続く道。こんなに迷わず気楽なものはない。
ペタペタという音とキュッキュとなる音。床に張り付く上履きの鳴き声が響く。
授業をする教師達の声が、廊下まで漏れていて私は情けなくなった。
こんなに必死に教えている教師達に対して、こんなに不真面目で授業に遅れる生徒がいること。
それに気づいても、なんの手も打とうとしないこの学校の校長が情けない、と。
自分の教室が見えた。
歩き続けると[3年4組]の札がどんどん近くなって、ついに扉の前についた。
こうして遅れてくることは、あまり怖くなくなっていた。
でも、前から入るにはまだ勇気がなかった。後ろの扉まで来ると、なぜか心臓の音がうるさくなっていた。
ドクン、ドクン!
息がつまった。体中の水分が冷や汗となって、頬を伝い腕を伝い足を伝い。いろんな場所から流れ落ちてくる。
こんな時、私が決まってすること。
「あ、紅・・・紅」
左利きの私は、左手で右手首を探った。
あった。
傷。その傷をなぞると、かなり心臓が落ち着いた。
私がリストカットをし始めたのは、遅刻が原因だった。
一度やり始めたら止まらなくなった。
それが、私。リストカッター。
【一人の世界】
キーンコーン・・・
午後4時、今日一日の授業がすべて終わった。教室が騒がしくなった。
隣の席の子とおしゃべりする子がいれば、先生も戻っていないのに帰る準備をしたり部活の服に着替え出す子もいた。
私の近辺だけ、人も寄らず静まりかえっていた。しかし、私の周りは静かでも私の心の中は心臓が高鳴っていた。手首をずっと握っていたせいか、右手首だけ血の色が変色していた。ゾっとした。周りにこんなに人がいる中で、私一人だけ別世界。つまらなかった。でも、わくわくしていた。もう、帰れるんだということに。
そんな時。
「おーい、遠藤。遠藤仁美いるかぁ??」
教室の隅、いわば。私が遅刻して入ってきたあの後ろの扉から、大きな声で名前を叫ばれて私は敏感に反応した。
「遠藤って・・・誰だっけ?」
私を呼んだ人の近くにいたクラスメイトのうちの一人がつぶやいた。多分小さな声だっただろう。それでも私は猫のように耳をたてて聞き取った。
「えー、お前もう三年だぞー。しかも半年たってんだぞー。クラスメイトの名前くらい覚えろよな!」
誰かが、言った。私は一瞬勘違いした。かばってくれた?まぁ、そんなわけがないのですぐに気づいたのだが。
「あー、もういいや。とりあえずっ!この教室に遠藤仁美って人いたら聞いといてほしいんだけど!!今日ちょっと残れ〜。遅刻ばっかりだからな。居なかったら誰か言っといてやってな。」
その、後ろの扉から呼んだ奴はそう叫ぶと。多分、友達だろうと思われる男子と教室から離れていった。
さてはて。
居残りの件だが、リストカットまでやっている女生徒が遅刻なんかで残らされて怒られるなんてまぬけなことするわけがない。
帰る。
心のなかでそんなことを考えていた。
何度目かのチャイムが鳴ると一斉に「さようなら」と規則正しい帰りの挨拶というものを、中3になってまで廊下に響くような大声でクラス中が言った。いや、叫んだというほうがきっとあっているだろう。私は残れと言われたことを忘れていた。フリをした。
「遠藤さん残ってね〜?」
クラスの誰かが忠告してくれたのだが、聞こえないという変わらない表情で教室をでた。
『人を隠すのなら人の中』
そんな教えを、頭のなかで誰かが放った気がした。
どのクラスも人間であふれかえっていて、人人人だらけだった。
私は隠されながら、下駄箱に走った。
いつ来ても、臭かった。
誰よりも先に、汚臭のただよう世界をでた。
鞄は軽かった。足取りも好調だった。それだけ、早く。切りたかった。
家が見えた。赤い屋根。5年前に改装した、家。赤色を提案したのは。私だった。
扉も赤。かなりのマニアに見られているのではないだろうか・・・
玄関に入ると、パートにいっている。母親はいない。会社に勤めている。父親はいない。
静まった廊下。少し長めの曲がった階段。私の部屋は階段を上がってすぐ近くだった。
急いで部屋に駆け込むと、机の引き出しの鍵をノートが重なった底の方から抜き出した。
その鍵を一番上の鍵穴に。小さな小さな穴につっこんだ。
その引き出しの中に出てきたものは。カッター。
私の生きている証をつけるタメの道具だった。
【傷隠し】
一日が終わるころ。
私は笑っていた。いや、微笑んでいた。手首を切ったあとだった。
他人が見たらきっと気持ち悪がるような笑顔。
1年前の私なら、泣いていた。
一日が終わるころ。いつもいつも、ベッドの上で涙を流していた。
決してきれいな涙じゃなかった。でも、涙を流していた頃の方が自分自身の本音を吐き出せていたかもしれない。
1年前。
2年生の秋に、初めて学校に遅刻した。ただの寝坊だった。
遅刻っていっても、5分校門に入るのが遅れただけ。なのに、担任が学年主任だったからなのか。
反省文、居残りで一時間目の分の授業の補習、説教、親の呼び出し、しかもすべてが内申として成績に関わっていった。こんなひどい仕打ちはないでしょ・・・。
結構落ち込んだ。
その日、一日が終わる頃。
初めての遅刻と共に 初めて手首を切った。
次の日。
学校に来ると、近くの机に座っていた女の子達が、
「私・・・リストカットしてるんだ。」
を大暴露。
聞いていて、泣きそうになった。
私は、その中今入っていって私もリストカットをしてるんだ。と言えば、その一人の女の子と仲良くなれるはずだと思った。
同類。
きっと、類は友を呼ぶのだろう。
しかし
「やめた方がいいよ!」
その中で聞いていた一人の女子が言い出した。
私は言うタイミングを失ってしまった。
その日から、傷を隠すことを考え始めた。バレちゃいけない。隠さなきゃいけない。
その女の子達が言っていた。やめた方がいいよ、の一言。
そうか、やめた方がいいんだ。あんなに白い目で見られるんだ。
居場所がさらになくなった。
すべてを隠し通さなければいけない日々になった。
-
2005/07/15(Fri)23:04:37 公開 / ゆか
■この作品の著作権はゆかさんにあります。無断転載は禁止です。
-
■作者からのメッセージ
えー、はじめまして。
ゆかと申します。よろしくお願いします。
この作品は、多分長くなります。
それに読みづらい形になってしまうと思います。かなりの初心者なので・・・。
これからまだまだ続きます。
楽しんで読んでもらえたらうれしいと・・・思ってしまいますので。
感想等お願いします。
*付け加え
更新がかなりのスロースピードになります。ご了承ください。