- 『俺は二度死んだ』 作者:するめいか / ショート*2 ショート*2
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「全く。ええ、何も」
男はあっけらかんと言った。その笑顔を見ていたら、無性に殴りたくなる。
「無い!? 無いって、どういうことだ。ああ!? 俺を馬鹿にしてるのか!」
硬く拳を握りながら、しゃあしゃあと男に言った。
「そんな、慌てないでくださいよ。時間はまだこんなにあるんですから……。ええ、まあ」男は髭を手で擦った。
「何だと……!」
男の眼鏡がキラリと後ろの街灯を反射した。「ええ、ですから」
鈍い音がした。
「こういうことですよ。ええ、まあ」
其処から先、記憶が無い。
――頭を打ったようだ。
ズキズキと脈打つような痛みが、何秒か置きに俺の頭を直撃している。全身は、無数の細かい針でチクチク刺されているような痺れがあり、見えているものは全て二重三重に見えた。腕を動かそうとしても、ピクリとも動かない。足を動かそうとしても同じことだった。
「…………」何かを話す気にもならない。
と、其処へあの男が入ってきた。
「お目覚めですか?」にっこりと(否、にんまりといったほうがいい)男は笑った。
俺はパチパチと瞬きを繰り返した。だんだん、見えているものが一つになっていく。男は、薬と水を近くのテーブルの上に置いた。
男は、ニヤリと口の端を吊り上げた。その姿は、不気味――と一言では言い表せないほど、俺の背筋をゾクリとさせた。
「お薬です。体、痛いでしょう。そうでしょうねェ、何せ頭を強打したのですから。もしかしたら、脳にどこか異常があるやもしれませんねェ……。ええ、まあ」
そういえば先程から、この男は『ええ、まあ』と何回言った? 何がええ、まあなのかわからない。とりあえず、男の口癖なのだろうと勝手に解釈しておいた。
「……め、んのつもり……だ」
てめえ、何のつもりだ――と言ったはずだったが、実際聞こえたのは……め、んのつもり……だという声。これでは、意味がわからない。舌がよく回らない。
「麺のつもりですか? あなたは人間ですよ、ははは」男は軽く笑う。
やっと声が出せるようになったのは、男が差し出した薬を飲んでから二時間後だった。
「……っく! 貴様、何を企んでいるんだ? 俺の要望したブツを差し出さなかったくせに!」
しゃあしゃあと、言いたい事を全部いっぺんに吐き出した。
男は、眼鏡をクイとあげる。「何のことですかね」
「なっ……! ふ、ふざけるな!」俺は無我夢中で叫んでいた。
「何のことですかね? とぼけるなっ! 俺はお前と契約を交わした。……俺に届くはずだったブツは! ブツをよこせ!」
ああ、と男は髭を擦りながら言った。
「あなたでしたか。そうですねえ……ありませんでしたよ」
「嘘を言うな! 決して死なない体をくれるって、言ったじゃねえか! 俺に!!」
男はまだ髭を擦っている。
「だって、もうなっているじゃないですか。ええ、まあ」
しばらく経ってからの返答だった。
「どういうことだ」静かに、下から突き上げるように言った。
男は髭を擦っている。
「だって、あなたと私はこの世にいないのですから。……ご満足ですよね? もう死ぬことなんてないのですから。ええ、まあ」
「成仏しますか?」男は尋ねた。
俺はこくんと頷き、そのまま目を閉じた。
それから記憶は……ない。
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2005/07/10(Sun)15:44:29 公開 / するめいか
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■作者からのメッセージ
二度死んだ――という話を書きたくてついついキーボードをかちゃかちゃ叩いていたするめいか略してするめ、いかです。
とりあえず意味不明なものが出来上がった気がするので……。