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『夏祭り』 作者:和蝶 / 未分類 未分類
全角1965.5文字
容量3931 bytes
原稿用紙約7.15枚
青空高く蝉が鳴く。
あぁもう夏が来たのかと僕は実感した。
忘れられない不思議な不思議な夏の夜…。

あの日もまた今日のように湿気が多く、蒸し暑い日だった。
あの日僕は友達の木村と夏祭りにでかけたのだ。

「なぁ坂田―あの子可愛くねぇ?」

木村は目の前にいる青い浴衣の少女を指差して言った。
木村はことあることに女女女。年中そんな感じだ。

「あぁそうだな。」

またか…と思いつつ生返事を返し、少女に目をやる。
その浴衣の色は青く真っ青という言葉がふさわしかった。
吸い込まれそうな…とでも言おうか、夏の夜に溶け込んでしまいそうな印象を与える。
頭の中を一筋の記憶がかすめる。
あの色…どこかで…。
それにあの少女、どこかで見たような気がする。気のせいだろうか?

きっとテレビかなにかで見たのだと自分を納得させ、僕は木村と馬鹿みたいな話に打ち込んだ。
気がつけば夏祭りも人が増え始めていて、僕は人でいっぱいになるまでそれに気がつきはしなかった。
しだいに夏祭りの公園は人でいっぱいいっぱいになり、やがて人の波におぼれるようになった。
しかし…。
こんな小さい、しかも地域住民がやる小さな夏祭りにこんなに人が来るものだろうか?
何か抽選でもやっているのか…?

「うわっ」

人はどんどん増え続け、いろんな人に体が当たる。

「大丈夫か坂田!?」

「あっあぁ…なんとか…いてっ!」

「どうした?」

「足踏まれた。」

誰が足を踏んだかなんてわからない、ただその足の激痛に足を踏まれたと実感した。
それほど人は多かった。

「木村は大丈夫かっ?」

…。

反応はなかった。
人ごみはうって変わらずざわめきを増すばかりで、すべてを飲み込んでしまいそうだった。

「木村…?」

もう一度読んでみたが返事はない。ただざわめきだけが大きく聞こえた。
僕は何もできずどこに立ち尽くした。
人の波がすりぬけてゆく、知らない人だらけの夏祭り。
そのとき僕の手を誰かがぐいっと引っ張った。

「木村か!?」

とっさにつかんだその手は冷たくひんやりとしてた。
遠い昔に…この手を握ったことがある。そんな気がした。
とにかく人の波から抜け出したくて、とっさにつかんだ僕に、それが木村か誰なのかも確認する余裕はなどない。
人ごみから抜け出したあと、僕はお礼を言った。

「ありがとうな木村…どうなるかと思った…」

人ごみから引っ張り出されて出た神社の前は、遠くに夏祭りの音が聞こえるだけで
木村の返事はなかった。
そっと木村のほうを振り向いたとき
その手の主が木村ではなかったことは僕は知った。

吸い込まれそうな青い色。夏の夜にとけてしまいそうなほどの…

少女がペコリとさげた頭を上げたとき、僕はその少女を懐かしく感じた理由が、ようやくわかった…。

「あ…。」

その顔には見覚えがあった。
はっきりとは覚えていないが、まちがえなくどこかで会った。
懐かしい顔立ち…。
少女は口を開いた。

「翔ちゃん…驚かせちゃってごめんね。私…いっぱい心配かけちゃったね」

「え…?なんで僕の名前を…?」

にこっと少女はまるで子供のような笑顔を見せた。
その時僕の中に眠っていた記憶が、ようやく目を覚ました。

「ゆ…由香ちゃん?」

「…覚えていてくれたんだね…翔ちゃん…。」

由香ちゃん…確かに覚えている。
6年前僕がまだ幼かった頃よく一緒にいたのだから…。
だがそんなわけがない。
由香ちゃんは6年前の夏にもう亡くなってしまっている。
ここに居るはずがない。
だけど現に目の前にいるのは由香ちゃんだ。
僕は何度も我目を疑った。
眼鏡をはずし、拭いて、駆けなおしたとき
もう由香ちゃんの姿はなく、由香ちゃんがいた場所には青いボールが1つ落ちていた。

ずいぶん前になくした僕のボールだった。
由香ちゃんと最後に遊んだときも、このボールはあった。
夏の夜の出来事だった。
一緒に河原でボール遊びをしていたのだ。由香ちゃんはボールを追いかけ
それっきり戻ってはこなかった…。
次の日の朝に由香ちゃんは川から冷たくなって発見された。
夜。生い茂る草もてつだって、由香ちゃんの姿はわからなかったのだ。
その後どれだけボールをさがしてもなぜか見つからなかった。
もしかしたら…由香ちゃんは僕にボールを返しに来たのかもしれない…。

そんなことを考えていると、僕の名前を誰かが呼んだ。
木村だ。

「おーい坂田ぁーお前どこいってたんだよ!」

気がつけば夏祭りの会場の人はかなりの数がいなくなっていた。
木村だった僕は木村にすべてのことを話したが信じてはくれなかった。
だけど確かに確かに由香ちゃんはそこにいたのだ。

その日家に帰ってから
今日が由香ちゃんの命日だということを母親に初めて聞かされた。

ボールの裏には小学一年生のような字で ありがとう と書いてあった…。
2005/07/04(Mon)15:23:59 公開 / 和蝶
■この作品の著作権は和蝶さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
初めまして。和蝶です。
小6のころにかいたものを書き直したもので、ベタな小説ですが…読んでいただけたら幸いです。
では
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