- 『Sky』 作者:ラィ / 未分類 未分類
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全角9801文字
容量19602 bytes
原稿用紙約36.55枚
この世界は何も変わらない。
誰が死のうが、泣いていようが、ボロボロになっていようが、大声で楽しそうに笑おうが…
変わらない…
そんな時代――……
ファイル1 ≪痛みと時間≫
「だりぃ…」
あぁ、まぢでだるいぞ。
早く終わんないかな…
「おーい、生きてるのかぁ?」
「…死んでるよ」
本当にヤバイ、寝そうだ。
ったく何の意味があってこんなだるい勉強をやる必要があるんだよ。
授業はだるいし、夏のクセに何(なん)か寒いし…
キーンコーンカーンコーン…
「終わったねぇー。どうよ、寝なかった?」
「ギリギリなんとか…」
「おぉ、すごいじゃん」
「…だろ?」
眠い中笑ってみた。
けど変な顔になってしまった。
「ぷっ…拓(たく)笑えてないよ」
わかってるっての…
でも俺は負けじと言い返した。
「お前、テストどうだったんだよ?」
高崎亜沙美(たかざきあさみ)の顔が変わる。
やっぱりな…
「…駄目に決まってんじゃん」
脱力したように答える。
「お前、勉強しなさすぎなんだよ。もうすぐってか俺ら受験生だぞ?」
さらに釘を打ってみた。
亜沙美の顔はさっきより険しくなっている。
「わかってるよ!いちいちうるさいなぁ…」
「まぁ、どうでもいいんだけどな?亜沙美の成績は俺には関係無いし?」
「だったら言うな!」
どうもちょっと怒ってしまったみたいだ。
「だってさ、お前いじると面白いからさ」
コレはまぁ俺は亜沙美をさらに怒らせるつもりだったんだけど…
どうも最近様子がおかしいような…
どうしたんだ?
「ぇ、ぁ。なっ…何言って…」
亜沙美は顔を真っ赤にしながら答える。
はぁ?
まぢでこいつどうかしちまったのか?
「おい、顔赤いけど」
「え。あ…んなことない、んなことない。ちょ…ちょっと暑いのかも」
いや、そんなことはありえない。
7月の前半だけど今日は暑いってほどじゃないはずだ。
逆にちょっと寒いくらいだと思うんだけど…
雨も降ってるし…
明かにおかしい。
頭おかしくなっちまったのかよ。
亜沙美の奴。
「ま、帰ろうよ。もうほとんど誰もいないし」
「あぁ」
俺達は学校を出て傘を出し、ゆっくり歩き始めた。
もう6時半なのにまだ明るい。
人は流れを止めることなく急ぎ足で歩いていく。
俺と亜沙美もその流れの中にのみこまれながら歩く。
通りすぎる店には灯りがつきやわらかい雰囲気がただよう。
「亜沙美」
「ん?」
「今日、家に親いんのか?」
「今日はいないんだよねー。だから大丈夫」
大丈夫…か。
無理してるクセに。
夏なのに長袖のカッター着てるのはさ見せないためだろ?
「何かあったら言えよ」
言い慣れない言葉が自然と口からこぼれた。
「あ、うん」
亜沙美は聞こえるか聞こえないくらいの声で返事をする。
学校の時と同じように顔が赤くなっているのが少し見えた。
でもその顔をはっきりと見ることはできなかった。
「じゃぁな」
「またね」
俺達はほぼ同じに家の中に入った。
なんていっても家が真向かいにあるからだ。
俺と亜沙美は小さい頃からずっと遊んでいる仲で、もうほとんど家族同然の付き合いだ。
男よりも仲が良かったかもしんない。
今は普通だけどな。
「拓のアホー」
本当に拓はバカ。
鈍感…
普通の男なら気づくのにさぁ。
ったく…
バタンッ
え?帰って来た…?
嫌な足音があたしの部屋に近づいてくる。
あたしは、急いで電気を消しベットの中に入りこんだ。
けどそれは、無駄な行動だった。
ガチャッ!
「おい!起きろよ!さっきまで起きてたんだろ?」
「………」
この時をやりすごしたかった。
けどそれは無理で、絶対にありえないこと。
「起きろって言ってんだろ!」
無理やりベットから引きずり下ろされる。
そしてあたしの身体をボコボコに殴り倒す。
抵抗はしない。
したら余計に酷くなるから。
まだ…このほうがまし。
「うっ…あっ…」
部屋にはあたしの呻き声と母親のあたしの身体を殴り、蹴る音だけが聞こえている。
その影は拓の部屋から見えていた。
「…!!」
俺はその影に気づいた。
カーテンの影にはモノトーンのようにくっきりと誰かが何かを蹴っているような動きが見える。
もちろん誰かっていうのはわかった。
「帰って来ないんじゃなかったのかよ…!」
机の上に置いてある携帯を鷲づかみ、亜沙美の家に電話をかける。
いつもこの方法で亜沙美の母親の気を引く。
プップップップッ……プルルルルル……プルルルルル……
呼び鈴がやけにうるさく聞こえてくる。
相変わらずカーテンには母親の動きがはっきり見える。
「まだか?」
プルルルルル……プルルルルル……プルルルルル……
カーテンの影を見ながら電話に出るのを待つ。
いつもならもう電話が鳴ってるのがうざったくなってやめるはずなんだけど、まだ蹴り続けているみたいだ。
もう少し待とうか…
いや、そんな気長に待っていられない。
だって、その間だけで亜沙美が苦しんでんだぜ?
「このやろっ…」
俺は部屋を出て階段を走って降りる。
たった15段の階段がすごく長く感じる。
それと同じになんで自分の足がもっと速く動かないのかと苛立ちを覚える。
階段を降り玄関をでて俺の家と亜沙美の家の3メートル間を走ってあっという間に走り抜ける。
そして戸をとにかく叩く。
ダンッダンッダンッダンッ
「亜沙美!!亜沙美!!!」
「…た…く…」
拓の声はあたしの部屋まで届いていた。
さすがに母親はあたしの蹴るのをやめ、無言で玄関へ向かう。
あたしは灯りが付いている部屋の真中で痛みを感じながらもどこか安心していた。
「…はい」
やっと玄関の戸が開き母親が現れた。
「すいません、大声出して。なかなか来られなかったのでどうしたのかと思いまして」
「…ちょっとごたついてて。で、亜沙美に何か?」
何かをつまらせながら母親は答えた。
ごたついただ?
何抜かしてんだよ、こいつは。
さらに怒りを覚えつつ俺は続けた。
「亜沙美と遊ぶ約束してたんですけど、時間に来ないんで心配して来てみたんですが」
もちろんコレは嘘だ。
本当の事を言うとこいつは何でも良い訳を俺に言い続けるから。
そんな嘘丸出しの良い訳なんか聞きたくない。
すると、母親は顔を曇らせあらか様に困った様子が漂う。
「…ちょっと待っててね」
バタンッ
母親の姿が消えた。
ここからは俺は待つしかできない。
「うっ…はぁ…はぁっ」
痛みに耐えながら身体を丸くして横になる。
ギシッ
足音が近づいて来る。
また母親が来る。
ガチャッ
「おい」
うずくまっているあたしを見下して言う。
その声には優しさなんて一欠けらも無い。
「水野拓(みずのたく)と遊ぶ約束なんてしてたのか?」
遊ぶ?そんな約束はした覚えは無いけど…
「なんだ?違うのか?」
じりじり迫りながら母親は喋り続ける。
あ……拓が嘘ついたのかも…
「どうなんだ?」
「…そう…だか…ら…言っても…いいです…か…?」
苦しくてはっきり喋れない。
「バレルなよ」
ばれてるっつーの。
母親はそう言うとあたしの部屋から出ていった。
あたしは急いで支度をする。
「まだか…」
音が聞こえないからもうやられてないと思うけど…
大丈夫なのか?
「拓、ごめんね。時間に遅れちゃって」
玄関が開き、笑いながら明るい声で亜沙美が出てきた。
俺の嘘に合わせて演技をしているみたいだ。
そっか、そうだよな。
この戸を閉めるまでは気抜けないよな。
「遅すぎ!行くぞ!」
無理やり笑顔を作った。
「はぁーい」
それに合わせて笑顔で亜沙美は答える。
バタンッ…
虫は静かに鳴き、少し肌寒いけどいい感じな空気が流れる。
俺達は近くの公園のベンチにすわって話している。
「どれくらいやられた?」
「そんなたいしたことないよ」
さっきの演技の明るい声とは違って暗く低い声で答える。
「嘘つけ、見せてみろ」
「ちょっ…」
無理やり腕をとり夏には似合わない長袖をまくる。
すると無数のアザが出てきた。
うす暗い外灯に古いアザ、新しいアザがぼんやりと映し出される。
「…………」
亜沙美は腕を見ず、だまって下を向いている。
「亜沙美?」
俺は自然と口が動いた。
「…ん?」
あたしが振りかえると何かフワッとした空気がきて…
んで、すごく優しい暖かさがあたしを包んだ。
「!!」
やっぱビックリして拓があたしを抱しめてるのが信じられなかった。
「お前さ、そうやって無理すんなよ」
あたしを抱しめながら言う。
「駄目な時は駄目って言え。助けて欲しいなら頼めばいいだろ?今みたいに無理して自分を潰すことにだってなりかねない。俺の言ってる事わかる?」
どこか優しいような、暖かいような言葉で身体の痛みも感じなくなるような気がした。
「うん」
あたしがそう答えるとゆっくり身体をはなして頭をなでられた。
「よしよし」
真顔で拓はそう言う。
「何か…拓お父さんみたい」
「亜沙美がガキすぎなんだよ」
微笑しながら拓が答える。
「違う。拓が老けすぎ」
「何だと??」
そこからあたし達はギャーギャー喋り始めた。
でも本当は、こんな冗談が言えるほど心の余裕は無かった。
だってさ、あんなギュってされてドキドキしない人がいると思う?
でもそんな行動は拓はナにも思ってない…と思う。
拓がそんなんでも今日のさっきの瞬間は忘れられない思い出になる。
きっと。
しばらく俺達はそのままベンチに座って話した。
亜沙美はさっきより笑うようになった。
正直、俺でさえ何であんな行動をとったのかわからなかった。
なんか身体が勝手に動いて…それで亜沙美をギュッって感じで…
嘘じゃない。まぢで自分でもわからない。
でも、その行動によってこいつが笑ってくれるんなら良かった。
話し終わると亜沙美と俺は俺の家に行って、そして泊まることになった。
亜沙美を家に帰すとまたやられかねないからな。
っていっつもこうなんだけどな…
で、さすがに俺と一緒には寝ない。当たり前だけど。
亜沙美は俺の姉の部屋で寝る。
「おやすみ」
風呂上りなのか頬がほんのり赤くなっている。
そんなに長くもないセミロングの髪の毛が少し濡れている。
「おう」
俺はそれなりの返事をして部屋に入った。
そして亜沙美も…
バタンッ
「ふぅ…」
拓のお姉さんはほぼ家に帰ってきていないみたいだった。
1回理由を聞いたことがあったけど拓は何も知らないみたいだったしそれ以上深く聞けなかった。
チャララン♪チャララン♪
静かだった部屋に携帯が鳴る。
なんかいつもより余計にうるさく聞こえる。
「誰からだろ」
―こんばんは
亜沙美、今日は大丈夫だったか?
俺は近くにいないけど何かあったら頼れよな
それじゃ(^−^)
和樹(かずき)―
和樹さんは前、あたしがメル友を探してたときに友達になった人で。
年はまぁ…23ですごく大人の人なんだけど…
すごく頼りになる。
ぶっちゃけ拓よりもずっと…
あたしは電気を消しお姉さんのベットに入った。
夜は静かですっごい暗くて何も音が聞こえない。
ただ1人で広い空間に取り残されている気分。
チャララン♪チャララン♪
ボタンを押し画面を見る。
―水野君、ずいぶん亜沙美に優しいんだな
俺も近くに居てればやってるんだけどな(笑
じゃぁさ、今度会おうか?どう?
和樹―
会う…
携帯の画面に写る「会おうか」があたしの頭の中で繰り返される。
前も言われたことがあったけどなんとなくはぐらかしてしまっていた。
会ってみたい…けど危ないかもしれない…
誰かに問いたくなったけど、この部屋にはあたしだけしかいないし…
でも、真ん前の壁を突き抜ければ拓がいる。
メールでも隣の部屋に行けば何か答えは返ってくるだろうけど…
…けど。
なんか拓には秘密にしておきたい気がした。
あたしはしばらく考えてこう返信した。
―はい
会ってみたいです
じゃぁ、いつにしますか?
亜沙美―
もう送ってしまった。
もう後戻りはできない。
なんかわかんないけど頭がいっぱいになった。
すると携帯が鳴る。
また、さっきと同じ行動を繰り返す。
―じゃぁ…
7月20日にしよう
和樹―
あたしはこの日があたしと拓を変える日になるなんて思ってもなかった。
きっといつもと同じ日々を過ごすんだって
退屈で…暴力受けて…あたしの気持ちに気づかない拓と話したり…
そんな毎日が続くと思った。
ただそこに和樹さんと会うって事だけが入るだけだと…
今日は13日
20日まで
残り1週間
ファイル2 ≪ニュース≫
「亜沙美おはよー」
「おはよー」
暑い日差しが3階の教室に突き刺さるように入ってくる。
風は軽く吹いてカーテンを少しだけ揺らしているが、それでも今日は暑い。
何か昨日あったことが嘘みたいに思えてくる。
昨日の事を知っているのは拓と和樹さんだけ。
他は当たり前だけど誰も知らない。
話さない。
それにしても本当に今日は暑くて、この長袖が余計に嫌になってくる。
本当に暑い…
「はぁ…アザさえ無くなればなぁ…」
まぢで思う。
あんな痛い思いをした上にこんなしっかりとした痕まで残されるんだからホント、たまったもんじゃないよ。
「はぁっ…はぁっ…はぁっ…あっぶねぇー…」
今の時間は8時28分。
学校が始まるのは30分からで拓はその2分前に来た。
超ギリギリ…
「相変わらず遅いんだから。もっとゆとりを持って準備できないわけ?」
本当に拓には呆れる。
学校に来るのは遅いし、授業もほとんど寝てるかサボってるし…
けど、勉強はすっごいできるんだよね。
何なんだ、こいつは…
「無理無理。俺だって女みたいに身だしなみを整えなきゃなんないしな。ワックスで髪立てたりして」
「そんなの汗ダラダラ流しちゃったら終わりじゃん?」
「バカだな。その汗で男らしさを出してクラスの女子に爽やかさをアピルんだよ。わかる?」
わかんないって。
「あーそう!んじゃこのクラスの女子巡りでもしてアピってこれば?」
なんつーアホなんだろ。
汗=爽やかとか…爽やかの前に臭いだろ…
しかもそれをアピルとか…
まぢバカ。
「やー今はもう時間が無いしな。残念残念」
なんて、さ・わ・や・かに笑って言う。
けどやっぱかっこよく見えた。
あれだけ言っといて何だって感じだけどさ。
それにしても今日の拓は昨日と違ってすっごく普通。
やっぱ本当にあの時のアレは何も思ってなかったんだ……
今日もだりぃ授業が始まる。
先生達は自分達なりに考えた勉強方で俺ら生徒に教える。
やる気がしない。
さっきテンションを上げてくれた亜沙美には感謝していた。
何だかんだ言ったって亜沙美はいい奴だし…
けどさ、そんないい奴がさ何であんな事をやられなきゃいけないんだってすっげぇ思う。
いいかげん母親も落ち着けばいいのに。
だってさもう…10年も経つんだぜ?
いいかげん時効だろ?
「おい、水野。何ボーっとしている」
「……すいません」
先生に怒られて、ちょっとは真面目に聞いてみた。
黒板には公式やら例題の問題やら、いつの間にか書いてある。
ノートに少し写したが、やっぱり集中はできなかった。
隣では亜沙美が必死になってノートを写している。
暑いのか、額には汗が少しにじんでいる。
俺はなんとなく…からかいたくなってノートをちぎり何か書いて机にほってやった。
―バーカ、必死すぎ。そんな頑張ったって無理なんじゃね?(笑 T.M―
亜沙美はそれを見つけるとすごい目つきで俺をにらんで来た。
相当必死なんだな…
…ってゆーかその目まぢこぇーし……
まぁ、お前のニガテな数学だもんな。
そりゃ真剣だ。
キーンコーンカーンコーン……―
「あぁー、終わったぁ…」
亜沙美はタオルで汗を拭いながら言った。
この状態だったらこいつ絶対着やせするな…
「ちょっと、亜沙美」
「何」
まだあの紙の事で怒っているのだろうか。
またあの目でにらんでくる。
ホント止めろよ、その目…
「腕…捲くれないのか?」
ささやくような声で言う。
亜沙美はえっというような顔をしてから困ったような顔をした。
やっぱ…無理か…
アザ見えちまうもんな…
「無理だよ。手首の方はアザ無いけど、それだけ捲くっても変わんないし…」
周りを気にしながら答える。
やけに弱弱しい。
「そーか…」
今年の夏もいつもみたいに長袖着て暑さに耐えて過ごすのか。
結構それ見てんのキツイんだよな…
「あ、拓……」
「ん?」
目を泳がせながら亜沙美が口を開く。
「あの、その……あ…―――」
「拓!後輩ちゃんが呼んでるぞー」
イキナリ廊下の方からダチの大声が聞こえた。
「あ?後輩?」
俺は亜沙美に何も声を掛けずにその場を立って、冷やかし声を出すダチの所へ向かった。
さっき言いかけた言葉は何だったんだろ…
「おい、後輩っていったい何なんだ?」
そう言いながら俺は廊下の方に顔を出した。
「あっ……」
俺はその場面を見てすぐわかった。
はぁ…朝っぱらかよ…
そこに立っていたのは3,4人の男子…いや暇人に囲まれた背がちっこい女子だった。
だぶん背は154…156cmくらいだと思う。
髪の毛は毎日手入れがしてあるかのようにツヤがあり肩より10cmくらい下まで伸びている。
顔はまぁ…かわいいとは思うけど…
「みっ水野先輩。あのっ…好きです!つ…付き合って下さい!!」
頭を下げ余計に小さく見える。
その子の周りでは暇人が口笛をヒューヒュー鳴らしてハヤしたてている。
「……名前は?」
その子のさっきまで下がっていた頭が勢い良く上がる。
ビックリしたような顔で俺を見る。
話しかけられるなんて思っても見なかったんだろう。
「…宮内です…」
宮内さんか。
って別に名前聞いて興味を持ったわけじゃないんだけどな。
後輩つってたし1年か2年だよな。
俺は誰にもわからないように軽くため息をついた。
宮内さんは俺に期待するような目で見てくる。
その目を見て名前を聞いた事に後悔しまた小さなため息を出す。
「ごめん」
俺はそう言うとたったその一言で今にも泣きそうな宮内さんを置いて。
そして囲んでいた暇人が大丈夫?なんて声を掛けている横を通りすぎて自分の席に戻った。
少し経って、宮内さんは帰ったのか、周りを囲んでいた暇人が俺の所へ来た。
「おーい、結構かわいかったじゃねぇかよ。何で駄目なんだ?」
「別に何も理由なんてねぇよ」
「じゃぁ、どーせ彼女いないんだし付き合っちゃえば良かったじゃん」
そんな軽い気持ちで付き合えるかよ。
なんて、こいつらに言ったら真面目とかってギャーギャー言われるだけなんだけどな。
けどさ、何て言うか気がのらないんだよ。
のっててもそう付き合ったりしないけど…
「まぁ、いいじゃん。別に」
「拓はいいよな。チャンスありまくりだし。かっこいい男は羨ましいな」
どこがだってーの。
彼女なんて俺、いたことないのにさ。
てめぇらは、いたことある癖に…
「んなことねぇよ」
一応返しておく。
「んなこと有るって。お前1日に1回は絶対告られてるだろーが」
「それになぁ、この時代に下駄箱なんかにさラブレターさんとか入ってんじゃん!」
「ラブレターさんって何だよ。さんって」
もうしつこかったから笑ってごまかした。
だって、これ以上言われんのも何かアレだしな。
まぁ確かに、こいつらの言ってる事は間違ってはないんだけど…
朝来たらだいたい2,3通入ってるし。
入ってても数回しか読んだ事ねぇけど。
告られたってのも、言ってたことはあってるんだけどなぁ。
何か…認めたくないってゆーか…
考え方古いかもしんねぇけど、俺のすべてを見てない、わかってない気持ちは受け入れたくない。
受け入れられない。
ちょっと変かもしんないけど……
ってゆーことになると、めちゃくちゃ話した事のある奴とかに断定されているわけだけど……亜沙美は違う。
そういうんじゃない。
他の奴よりかは、俺の事知ってるけどな……
次の授業にも集中できなさそうな俺は席を立ち、廊下に出た。
風がほんの少し吹き、短い髪を軽く揺らす。
俺は、ゆっくり歩いていった。
何かこの廊下がずっとどこまでも続くように思えた。
出口もなければ入り口もなくただその空間にいる気がして…
ブーーーー…
チャイムが鳴る前の機械音が響きわたる。
「……サボろ」
俺はそう言ってチャイムが鳴る中、日の光に照らされた廊下を歩いていった。
今度は理科…
なんでこう、嫌な教科が続くんだろう…
でもま、いっか。実験だし。
「こらっ、そこ。物思いにふけってないで手伝って!」
「ごめーん」
友達の仲の良い沖田麻由(おきたまゆ)に怒られ、やっと動く。
今ここに居るのは理科室で、大きい机が6つ2列になって並べられていて、そこでは各班が先生に指示された実験内容を行うことになっている。
何故か、戸も窓も閉め切られてて、クーラーもないからすごく暑い。
これも実験の為なんだろうけど、あたしにはかなりキツイ…
「それで、ガスバーナーつけて。あ、フラスコ割らないでよ!」
麻由は何かと引っ張っていってあたしらの班長的存在。
本当は、あたしが班長なんだけどね……
「準備いい?亜沙美、ちゃんとフラスコ持っててよ」
「はぁーい」
ガスバーナーに火が灯る。
金でできた網に、火が絡み付くように熱している。
その上にあたしが持っているフラスコをかざす。
「高崎頼むぞ。お前がここでフラスコを割ったら終わりだからな」
「わかってるよ」
班のメンバーの男子に念をおされる。
その後もずーっと男子に「近すぎっ」「ちゃんと見てろよ」とかあたしに向かって、鉄砲球みたいにピュンピュン飛んでくる。
あー、うるさい!
パリンッ
「あっ…」
一瞬周りの空気が凍った。
やってしまった…
辺りを見まわすと、じとーっとした目で男子軍はあたしをにらんでくる。
その目つきに思わず額から冷汗がつたう。
「ご…ごめん!なんんてゆーか……ほんと、ごめん!」
必死で誤ったが、許してくれるはずもなかった。
「何でいっつもこうなんだよ」
「また、俺らだけ記録とれねぇーじゃん!」
「班長何だから、ちゃんとしろよー」
あー……もう反撃する力もないよ……
なんたって、あたしのせいで今までやってきた実験駄目にしてるもんなぁ…
何か、悲しくなってきた…
「男子、うるさいよ!第一あんた達が無理やり1番重要な所を亜沙美に押し付けた癖に、何いってんの!」
急に男子が静かになった。
さすが、麻由。
「大丈夫?割れた破片とか刺さってない?」
「たぶん大丈夫…」
「亜沙美ちゃん、カッターに…」
「え?」
他の子に言われて気がついた。
腕にガラスの破片が刺さって、カッターに血がにじんでいる。
「うっわー、カッターの上から刺さってるよ」
「亜沙美、腕かして」
麻由がそう言い、腕を差し出そうとした。
しかし、はっと気づきやめた。
「どうした?かしてごらんって」
「…いいよ。大丈夫だから」
「どっからどう見ても大丈夫じゃないでしょ。ほらっ」
麻由の手が伸びる。
無理だ。
たぶん麻由はガラスをとって、カッターを捲くる気だから。
そんなことになったらみんなに、アザが見えてしまう…
そうじゃなくても、拓以外この学校ではアザがあるなんて知らないんだから…
「本当に大丈夫だって。あたし、保健室に行ってくるね」
周りを心配されないように笑顔を作って言った。
顔、引きつってないかな。
「あたしも一緒に行こうか?」
「ありがとう。でも大丈夫だから」
また笑顔を作り、心配する麻由を横目に理科室を出ていった。
廊下に出た瞬間すごく涼しかった。
でも一瞬だけ。
職員室の前を通り、保健室の戸を開けた。
「よかった。誰もいない」
中には誰もいないけどクーラーがかかっていた。
保健室には、ベットが2つ白いカーテンに覆われていて、その前に長方形の机と長椅子が2つ置いてある。
あたしは戸を閉めて、棚から消毒液とばんそうこうを取って椅子に座った。
そして、ガラスをすっと抜き取り、ゆっくりと袖を捲くる。
1つ2つとありとあらゆる大きさと色のアザが次々と顔を出す。
しばらく、そのアザをボーっと見ていた。
シャッ
カーテンの開く音がした。
誰かベットにいるのだろうか。
腕のアザは露になったまま、固まってしまった。
振り向くのが怖い…
「おい」
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2005/07/30(Sat)18:58:48 公開 / ラィ
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■作者からのメッセージ
めっちゃお久しぶりです。ラィです^^
最近は本当に暑いですね。東京の方では地震なんかも起きて大変だったみたいですが。みなさんどうお過ごしでしょう?(笑さて、本当に久しぶりの更新ですが、かなり遅くなってしまってもうしわけないです。今のところ普段っていうか穏やかなストーリが続いています。それでは感想&意見等待ってます。