- 『脱出かもよ』 作者:ツチノコ / 未分類 未分類
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全角15255.5文字
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原稿用紙約43.3枚
は、腹がいてぇ!!いてぇ!いってぇ〜これやばいかもしんない・・・
僕は急に痛くなってきた腹を押さえ、痛みに悶絶しながら親に訴えた。
ぎらぎらと力強く照りつける太陽の下、僕は必死に助けを求めていた。外を見ると葉っぱが一枚二枚・・・と落ちてきていた。不吉だ。痛い。とにかく痛い・・この耐え難い痛みに必死に耐えている僕を見て、親は冷酷な笑顔を見せた。
目はつり、鼻はいつもと特に変わっておらず、口は著しく変化していた。乾いた唇の間から垣間見える真っ白な歯は冷淡に僕を見つめ、とらえようとしている。まるで野生の狼を見ているような気分だ。しかし、恐怖という感情は僕には殆ど無かった。
腹が痛い・・ただそれだけだった。勝手にフル活動する僕の腹の感覚神経は、まるで暴れ牛の様に激しく、そして熱くなっていた。まるで言う事を聞かない。聞いてくれない。親も・・
僕は必死に母に「痛い」と訴え続けた。しばらく訴え続けていると、僕につばを吐き、台所へ向かっていった。僕は薬を持って来てくれるのだと思い、その場でうずくまっていた
いや・・・
もしかしたら・・
「持ってきてくれる」ではなく・・
「盛ってきてくれる(毒を)」なのではないか・・・・?
僕はそんな事を想像して少しニヤリとした。
台所ではガチャガチャという金属の音がよく聞こえる。少し薄暗く、湿った台所は僕の最も嫌いな場所だった。害虫の住処----そんなイメージしかなかった。
やがて母が手に何かを持って戻ってきた。きっとビンか何かだろう。手に収めらているのは光を受けて銀色に輝いており、なぜか僕に恐怖心を持たせる。ビンなのに。よく見えないが---銀色に輝いているのだけは、はっきりと確認できる、妙に、妙に。 その銀色に輝く物体を手に持ち、キイキイと古い床の音を鳴らしながら母は迫ってくる。さらに恐怖心が募る。キイキイキィ・・・と、悪魔のようなささやきがこの部屋の静寂を破る。キイキイキイキイキイキィ・・・・一歩一歩確実に、悪魔のささやきが近づいてくる。僕はもう声が出なくなっていた。まるでおびえる事しかできない、肉食動物に追い詰められた草食動物のように。
後五歩・・という所まで母は迫ってきていた。と、その時、僕にははっきり見えた・・母が手に持ってる銀色の物体・・悪魔のささやきを一層際立てる不気味な物体を・・・・
僕の心臓は、鐘の如く、鳴っていた。暗闇から、いつ母が襲ってくるかと思うと気が気でなかった。
---------背中に冷たい汗が流れる
その物体は、先端が鋭く尖り、独特の雰囲気を醸し出している。
正真正銘の刃物・・包丁だった。僕はそれが見間違いだ、ということを切望した。
しかし・・
その思いを、すり抜けるかのように----
もうはっきり見える・・手を伸ばせば届く・・そんな距離まで母は迫ってきていた。目に映る像がはっきり見える距離は僕にとってとても近い。それほど近い距離。それほど大きい恐怖。
もうだめだ・・逃げなければ確実に殺される・・・実の母親に。今、目の前で母親が僕を殺そうとしている。自分を生んでくれた親になら文句は言えまい。生殺与奪だ。
あぁ・・・今すぐにでもごめんなさいと謝りたい・・自分が助かる為ではない。僕を殺すまでに母を追い詰めた自分への戒めとして謝りたかった。しかし全く声が出ない。今、ここで僕は殺される・・・人生の終わりを迎えようとしている・・・・・。
母は、持っていた包丁を僕に向け、その細めの腕を、僕に向けた。必然的に包丁を正面から見る形に・・・・・・
真っ赤な血が太陽の光を受けて光りながら宙に飛び散った。床は一瞬にして赤く染まり、返り血を浴びた母の服も赤く染まった。僕だけが、まるでスローモーションのように、ゆっくりと、床に向かって体を傾けていった。何も聞こえない。見えるのは、もう見ないであろう最後の景色が広がっている。そして、最後の力を振り絞り、最期の声を発した・・一番言いたかった言葉、何よりも母に伝えたかった言葉を。
「ありが・・とう・・」
その時、僕は確かに見た。今まで見た事もないような、キレイな花を。お礼を言い終わったわずか0.1秒ほどだが、この目ではっきりと見た。現実か、それとも神が僕に最期に見せてくれた幻なのか・・・その美しすぎる花は、神々しい光で、周りを満たしていた。もちろん、僕も。僕に向けられた一筋の光を、その時、確かに認めた。
僕はその場に倒れ伏した。倒れる直前に確かに、確かに見た。なんとなくだが、笑っているようにも見えた、母の顔。もう、花なのか、母なのかよくわからないが、どちらも確かに見えたのだ。
どんな笑顔かは分からない。僕から解放された嬉しさの笑顔なのか・・それとも、殺した事の喜びか・・もしかしたら、僕にくれた最後のプレゼントかもしれない・・・
時間が止まった。僕だけ時間が止まった。これ以上は進めない。どんなに願っても、あがいても前に進めない。過去にも戻れない。僕が死んでも、なんの差し支えも無くこの世は回っていくだろう。一人だけ。僕だけが時間という闇に取り残されて。
ピ・・ピ・・ピ・・ピ・・ピ・・ピ・・ピ・・ピ・・ピ・・ピ・・ピ・・ピ・・ピ・・ピ・・ピ・・ピ・・ピ・・ピ・・ピ・・ピ・・
規則正しい電子音が僕の耳に突き刺さる。僕は死んでないのか・・
ここはどこ・・?
僕はその音を聞き、はっと目を開けた。力強い太陽の光だけが僕を照らしていた。五月蝿い。
その電子音に負けず、僕の心臓は激しく鼓動している。
・・・・はぁ・・良かった・・・全て夢だったか・・・
横にさりげなく置いてある目覚まし時計が、この部屋の静寂を破っている。
僕の心臓はバクバクと激しい振動と音を発していた。体を伝ってうるさいほどに聴こえるその心臓音は、部屋中に響き渡るほどに激しく脈を打っていた。
はぁ・・と僕はもう一度ため息をついた。良かった・・・
その夢の記憶ははっきりと、リアルに僕の脳に焼き付いていた。僕は急いで腹を確認する。其処でもほっと一息ついた。無傷!と思わず小声で言っていた。部屋中に舞う小さな埃は光を受けてキラキラと輝いていて、僕の目覚めを祝福してくれている様だった。
本当にそう思った。夜中、魘されていたのだろうか・・?と、そんな疑問が頭をよぎる。僕は不意に外を見た。すると発破が一枚二枚・・と降るように落ちてきていた。ちょっと、ドキッ、とした。あの日の情景と同じだったからだ。僕の夢の記憶の像と今の像が焦点を合わせ、僕を恐怖に陥れる。
まさかとは思うが・・・そう思えば思うほど、そう思えてくる。何故だろうか。
僕はベッドから身を起こし、少し古びた床に立とうとした。すると、
ズキ・・
と、今の僕にとって最も嫌な痛みが体中を駆け巡った。腹が痛い・・・
衝撃的だった。本当に似ている。場所こそ違うのだが。しかし、まだ「痛みは気のせい」という可能性もあり、それが事実となるとき、僕は「正夢」という絶望を知るのである。
ズキ・・
痛・・・・この痛みはどうやら本当らしかった。悪魔のささやきの如く、押し寄せる痛みの波は徐徐にその間隔を狭めていく。
ズキ・・
先程よりも痛みの感覚が狭い。ここで確定した。
腹が痛いということを。気のせいでもなんでもなく、そこにあるのは事実だけだった。と、その時
「真実はいつも一つ!」
という言葉が僕の頭をよぎった。いつもは
かっこつけてんじゃねぇよ。かっこいいと思ってるのか?あぁん?全然かっこよくねぇんだよ・・
見たいなことを思っているのだが、この時ばかりは違った。正に、その通りだと思った。心の底からどうでも言いと思っていた台詞を、この時ばかりは崇拝したくなった。人間は大体そうだ。憎い、うっとうしい、と思っていても、一度優しくされるとその思いはスッと、どこかへ消えてしまい、ついには完全に消滅する。(作者の場合はね)
こういった形で、人は邪悪な組織や宗教に手を染めてしまうのだろうか・・・。今までは全くその気が無くても、家と会社の往復だけの生活とか、上司に怒られっぱなしの毎日、遂にはリストラ。その上、妻には逃げられ、サラ金に手を出す・・といった現代社会において十分あり得るシナリオを見事にこなし、人生おいて常に絶望感を抱いている人は、心の底から思う。
消え失せろ。全て消滅すればいい。何もかも。死ね、失せろ、全人類よ。いや、地球よ。
と。そういった時に、オウム真理教などといった犯罪組織に招かれ、ついには組織に身を委ねる。それが悪の道であることを知っていても。心の底からどうでも言いと思っている人間にとって、それは唯一の生きる道だ。犯罪に身を染め、組織の為に献体する。社会から必要とされなくなった俺でも、組織は俺を必要としてくれている・・そう思うと人は組織を崇拝の対象とし、その中で己の存在理由を確かめ、生きる道を見出してゆくのだ。
ズキ・・・・・・・・・・ズキ・・・・・・・ズキ・・・・・ズキ・・・ズキ・・ズキ・・
確実に痛みの波は狭まってきている。夢の焦点と現実の焦点が合うたび胸は苦しくなってくる。今も夢の世界と現実の世界を行き来している僕の心。
この腹の異常を母に知らせれば何が起こるかわからなかった。正夢だと確実に死だし、それが正夢でなかったら、ただの腹痛で事は終わる。しかし、これまでの状況が似すぎているのも、また事実だった。
僕は夢の状況を回避するべく、一人で病院に向かう事を決めた。まず、腹の痛みをこらえながら、着替えを済ませ、廊下に出る。ばれない様に、常に母親警戒網を張り巡らして廊下を歩く。一歩二歩・・と、少し負荷がかかるだけでもキィキィと音を発する古い廊下を細心の注意を払って爪先立ちで歩く。少し行くと廊下から階段の下の居間が覗けた。
僕はこの位置から、毎年家庭訪問の様子を盗み聞きしていた。何を話すのか・・僕のことをどう思っているのか・・・と、自分に関することを追求するのは妙に楽しい。僕は近くにある手すりに体の体重を全てかけ、下の階の様子を観察した。青色や赤色など、沢山の光が不規則に光っており、それに共鳴するように、音楽や効果音、笑い声といった情報も光に劣らず入ってくる。
起きているな・・
僕は確信した。確実に起きている。時々聞こえてくる母の少し高めの笑い声。そんな声を聞いていると、殺されるはずが無い と、思えてきて、コソコソやってる自分が嫌なほどに恥ずかしくなってくる。しかし、念には念を。僕はさらに注意を払い、やっとの事で階段にきた。しかし、これで喜んでいてはやっていられない。ここが正念場----そう僕は思った。廊下は歩いても距離的に問題は無かったのだが、階段は違う。降りれば降りるほど、母のいる部屋に近づいていくので、さらに注意する必要性が出てくる。
一瞬でゴキブリを見つけ出す・・・
母はそんな恐ろしい聴覚の持ち主だった。僕が何も感じないうちにゴキブリの居場所を察知し、一瞬にして抹殺する。その姿はまるで、10日間獲物にありつけなかった猫がネズミを見つけ出し、一瞬のうちに仕留める様に、素早く、そして早い。
ズキズキと不規則にくる痛みを必死にこらえ、僕はゆっくり、ゆっくりと階段を下り始めた。細心の注意を払って、いつばれるかわからない恐怖と必死に戦いながら慎重に降りる。落ちているホコリにも目を配り、僕の人生の中で最大の集中力を発揮し、一段一段確実におりてゆく。途中、何回もドキリとする場面があったが、何とかばれずにすんだ。
後三段・・・・・
後二段・・・・・
もう一階は目と鼻の先だった。あと少し・・・と、そこへ、ハエが運悪くが飛んできて僕の周りをブンブンというあのうっとうしい音を発しながら飛び始めた。まるで僕の邪魔をしているような飛び方だ。顔の前を飛び回るので、見たくなくても視界に入り、本当にうっとうしい。僕はこのハエを何とかしなければ・・と思った。こんなハエがいたんじゃ集中力が欠けてしまうからだ。
僕はその場で情けなく暴れ始めた。足は動かさないので、音はならない。鳴るのは、ハエを捕らえられずにただただ空を切る僕の腕だけだ。ふふふ・・腕が鳴るぜ・・・「ハエを取らせたら世界一だよアンタは」の異名を持つこの俺に刃向った罰だぜぃ・・・・。と、僕は心の中でボソボソといっていた。現実にはそんな事ないのだが。
僕は完全にハエとりに没頭していた・・・・異名の名に懸けて諦めるわけには行かないのだ。脱出する事などもはや頭の中には無かった。今、頭の中はハエだけ。
‘ka please.(蚊)
`hae only.
不意に、頭の中でフィッシュオンリーのCMのハエバージョンが流れた。ふふふ・・我ながら面白い。僕はニヤニヤしながら尚もハエ取りを続けていた。すると、
バン!
という鈍い音が響き渡った。
・・・?しまったぁ!!!!
やっちまった・・・
やっべぇ・・・・
僕はハエを取りたいが為に激しく手を動かしていた・・・それが災いして、僕の手は壁に勢い良くぶつかった。 痛い・・・が!!それどころじゃない!僕は危機感を持ち、どうしようかオロオロした。母にばれる・・・やばい・・。それに対する恐怖が思考を邪魔しており、さらに冷静さも欠いていた。そんな状態で脱出方法を見出だせるわけがなかった。
どうしよ・・どうしよーー!!!!!!!!!!!!!!!!
精神がどうにかなってしまうかというくらい、僕はパニックになった。
夢のあの記憶がめまぐるしく鮮やかに、脳裏によみがえる。心と頭に鮮明に残る画像は、この状況をさらに、この上なく、僕を恐怖に陥れ、拘束する。
手が震る。足も。やがて、ひざも震え、ついには腕も震える。僕は考えた。この状況を打開する得策は何か・・浮かばなかった。そう簡単に浮かぶはずがない。
気づいたら、腕をぶつけてから5分くらい経っていた。冷静さを取り戻した僕は、ほっと、胸をなでおろした。あの異常反応はゴキブリに対してのみ発動するのか・・・新たな疑問が浮かんだが、今はそんな事どうでもいい。早く、このズキズキ痛む腹を治療しに病院へ行かねば。今ので分かった。少しくらい音を立ててもばれない。今のようなかなり大きく鈍い音でも気づかれなかったのだから、足音など気づくはずが無い。僕はそんな根拠の無い仮定を立てて、脱出方法を煉った。
まずは状況整理。とにかく、外に出てしまえばこっちのものだ。僕が発する多少の騒音は車や工事現場などの喧騒がかき消してくれる。・・玄関までの距離は、階段が残り一段と、底から玄関まで。距離にして、約5メートルほどか・・・。
玄関まで行くには、母のいる部屋の隣の道を通っていかなくてはならなかった。母のいる部屋と廊下の間にあるドアは透けていて、ぼやけるのだが、何があるかはドア越しにも十分に確認できる。そこを通るとき、まさしくそのときが正念場だ。
早く、そして静かにそこを通っていく必要がある。そこを無事に通ったら、靴を持ち、玄関のドアを開けて外へダッシュ!・・・・完璧だ・・・・僕は、自分の立てたしょうもない計画に自画自賛し、勝手に自己満足を得ていた。しかし、うかれてばかりいられない。
早く立てた計画を実行に移さなければ、全てムダになる。文字通り、「水の泡」だ。・・・思えば、いつもこうだった・・・。いつも計画だけで実行しない。僕の悪い癖だ。
ーー去年の夏休み初日、僕は異常に燃えていた。今年の夏は学力向上の夏だ!!・・と。
「固める夏」「入試の基礎を磨く夏」などという塾の勧誘チラシを馬鹿みたいに真に受けて、先程にも言ったように、目標を掲げて、一生懸命頑張ろうとした。「今年は学力向上の夏だ!!」と。僕は、それは無謀だよイクラなんでも、という勉強計画を2時間かけて立てた。本当に無謀なものばかりだった。夏休みというわずか40日間の間にこれだけのことをやれる人がいたら、僕は心からすごいと思う。
その計画のタイトルは
「勉強計画」
タイトルはとてつもなくシンプルなものだった。簡素で質素。だが、肝心なのはその計画内容だ。その計画の殺人的な内容とは・・・?
前文
勉学を志ざしたる者、毎朝6時に起床し、その後30分以内に・洗顔・トイレ・着替え・朝食・トイレを済ませる事を当然の事とし、これを毎日の日課とする。これを怠った場合、その時点で受験失敗と心得よ。6:30かそれより前に勉強開始。昼食は朝食と同様とし、晩御飯のお呼びが掛かるまで決して机を離れること無かれ。晩御飯が終了次第、休む暇なく勉強開始。12:00までみっちりやる事。これを最低限度とする。勉強は下の計画に沿って行い、これを達する事が出来なかった場合、学校で裸で踊るの刑であると心得よ。
・英語ノート10冊分(中学生及びその他の熟語を完全暗記)
・英語問題集5冊(基本から最上級問題へ)
・英語リスニングトレーニング(英検問題集及び高校入試対策問題集)
・英検2級取得
・漢字ノート10冊分(漢検1級及び高校入試対策問題集・200字詰め)
・国語問題集100冊(小説、随筆、説明文、古典、漢文、詩)
・漢検1級取得
・数学問題集30冊(1〜3学年問題集及び高校入試対策問題集)
・数検2級取得
・理科問題集50冊(1〜3学年内容含問題集及び高校入試対策問題集)
・理科検定1級
・社会問題集100冊(1〜3学年内容含問題集及び高校入試対策問題集)
・歴史検定1級
・地理及び歴史資料活用問題集10冊
・高校入試過去十年問題集
これらを抜かり無くやりぬく事。なお、これはあくまでも最低限度である。
以上が僕の立てた殺人的な計画だ。絶対これらを終える事は不可能だ。しかし、当時は本気でこれを終わらそうと思っていた。まず、僕は夏休み初日に計画を全うするのに必要な消しゴムやシャー芯、ノート、問題集を買って来た。
すごい金額だったのだが、そこは親の援助で何とか事なきを得、後は実行するだけとなった。本当に高かった。全部やり遂げないと親に何されるか分からない。確か・・10万は掛かったような・・・いや、50万・・いずれにせよすごい金額だった事は間違いない。僕は、夏休み2日目から勉強をする事にした。
翌日、僕は予定通り目覚ましに起こされた。時計は5:50を指していた。僕は早速顔を洗い、トイレに行き、朝食を取ってトイレに行き、机に座った。
6:20 予定より10分早いのだが、前文に「それより前に」と記載されているので、それに準じて勉強を開始した。まずは、膨大な量の問題集からどれをやるか選ぶところから始まった。僕は選んでいる時間がもったいないと思い、くじ引きみたいにして、手に取ったやつをやるようにした。最初に手に取ったやつは、いきなり「高校入試過去問題集」だった。
もちろん、いきなりそんなやつが出来るはずがないのだが、僕はそれをやった。馬鹿なのか、チャレンジャーなのか、微妙なところなのだが、一度決めた事はどんなとこがあっても覆さない(くつがえさない)というのがぼくのモットーだったので・・・とにかく、僕は勇んで「高校入試問題集」をやり始めた。
10分・・20分・・30分・・・そろそろ額に汗がにじんでくる。最初にやり始めたのは数学だった。中学一年生の僕が高校入試問題を解けるはずが無いのだが、当時はそんな事まったくお構いなしだった。決めたらやりとおす。もはや自分のモットーしか信じていなかった。中間は俺のモットーのみだ。
40分・・・後5分で試験終了だ。僕の時計が終了の時を知らせようとしている。ち・・ち・・ち・・と静かになる時計。それとは対照的に僕はうなっていた。次から次へと立ちはだかる難問、難問、無理難題の嵐に。
ぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴ
僕は手に持っていたシャーペンを机の上に落とした。そのときの僕の顔はいかにも何かをやり遂げた!という顔とは全く違っていた。後悔・遺憾でいっぱいの顔だった。良い天気の下で馬鹿みたいにうんうんうなっている僕・・・・。ようやく自分の馬鹿さに気づいた。
そして答え合わせ。・・・わずか10秒足らずで答え合わせは終了した。それもそのはず、僕は、この45分間、ずっと、最初の計算問題のところでうなり、悩んでいた。1・2番は問題なく出来た。(結局間違っていたが)しかし、三問目の連立方程式は全く出がつけられずに終わった。見た事もない問題な上に、二年の内容だ。方程式しか知らない一年にとって初見の連立方程式を解くのは酷だ。天才なら何とかなるかもしれないが・・到底無理。
0点・・・僕は人生最低の数字に愕然(がくぜん)とした。唯一解けた方程式や文字式も余裕こいて間違っていた。そんな僕が入試問題を解くなど、身の程知らずもいいとこだ。
一気にやる気が抜けた。今までやる気にみなぎっていた僕の心はこの45分間のせいでどこかへ吹っ飛んでしまった。
しかし!こんなところで落ち込んでなどいられない!僕は半ば強引に心にやる気をみなぎらせ、他の教科をやり始めた。
・・・・・結果はやはり散々だった。英語などもってのほかだった。見た事もない単語、文法が大量に出てきまくり1点。理科や社会はそこそこ出来ると思ったのだが、いずれも2点。一番ましだった国語は12点だった。これにはまぁ満足が得られた。(他の教科と比べて)
僕は、挫折というものを味わった。人生で初めてだ。こんな大きな挫折は。僕は入試問題集を床に投げつけ、手とひざを床について(_| ̄|○)がっくりと肩を落とした。
と、ふと投げつけた問題集が目に入った。するとそこには当時の僕には信じられない事実が書かれていたのだ。
「入試は各教科20点、合計100点です。」
ええぇ!!??一教科20点!?僕は100点だとばかり思っていた。
ってことは・・数学0点でも全然問題ないジャン!理科と社会2点!?俺天才ジャン!英語1点!?まずまずジャン!国語12点!!俺天才だ!!!!!!!
僕はどこまでも、果てしなく馬鹿だった。もう本当に今思うと馬鹿だ。結局、これが一週間続いたのだが、それからは全く机に向かわなくなってしまった。
明日からやろう・・・・・・
明日からでいいよ・・・・
昨日、今日の分やったしなぁ・・・・
てか、実質、昨日、今日の分も入ってたしな・・
などと、言い訳を作って自分に言い聞かせ、やらずにいた。一週間の勉強でやった量は、英語10ページ、高校入試問題集一回ずつ、漢字5ページ、理科問題集1ページ、社会問題集2ページだけだ。残りの問題集はごみ同然となってしまった。
このままだとママに怒られる・・
50万以上を払って息子に買ってやった問題集が、綺麗な白色のままやまず身になっている哀れな姿を見て怒らない親などいるはずが無い。
外は灰色の空の色に染まっていた。太陽の顔が全く見えない空を僕はボーっと見ていた。ずっと見ていると吸い込まれそうな気分になってくる。その広大で、少し怖い感じの空に。快晴のときはあんなに青く、優しかった空が、今は恐怖さえ感じるほどになっていた。雲の上は何も無い、ただただ青空が広がる神秘的な世界だ。
どこまでも、どこまでも澄んだ青のみが見える世界だ。さらにその上には宇宙というさらに広大な空間が広がる。空気も、雲も、もちろん青い空も何も無い。ただ暗く、ただ寂しく・・・ 僕は、そんな世界に思いをはせながら、このごみの処理をどうしようか・・それだけを考えていた。きっと、この空が晴れてくれれば答えが見つかる・・・・やがて、太陽が顔を出した。ゆっくりと、ゆっくりと、まるで恥ずかしがるようにして雲の陰からそっとでてきて、この大地を再び照らし始めた。
鳥たちは、太陽に呼ばれたかのように飛び回り、草木についた滴は地面に音も無く落ちてゆく。太陽というたった一つの存在が、この大地を、世界中を明るく照らし、生命の源ともなる。太陽が存在しなければ、人間は愚か、草木だってこの世に誕生していたか分からない。
僕はようやく、このゴミ同然の問題集の山の処理方法を思いついた。証拠隠滅、跡形も無く消す方法・・それは、灰にして飛ばしてしまうことだった。つまり、焼却だ。この発想も、今思えばとてつもなく馬鹿な発想に思える。50万円近くの問題集を燃やすということは、実質、50万円を燃やすのと同じだ。この馬鹿な行為についてはとても後悔している。残しておけば今年も使えただろうに・・・・もう自分の馬鹿さに腹が立ってくる。
今が絶好の好機チャンスだ。親は買い物に行っているし、弟たちもいない。僕は早速実行するべく、道具を用意した。ライター、新聞紙、灯油・・・大体は揃った。後は場所だけだ。安全かつ、絶対に見つからない場所・・・
僕は、近くの廃工場に、問題集を運んだ。問題集を運ぶだけでも30分は掛かった。早くしないと帰ってきてしまう。そういった懸念が僕をせきたてる。僕は問題集を山積みにし、その上から灯油をぶちまけた。そして、僕はためらう事無く、新聞紙にライターで火をつけ、少し離れたところからその激しく燃えている新聞紙を灯油まみれの問題集の山に投げつけた。
問題集の山は一瞬のうちに火だるまと化し、激しい炎で20万円相当の問題集たちを容赦なく燃やしていった。その光景は圧巻だった。つい見とれてしまうほど、綺麗で、そして力強かった。太陽を小さくしてここに持ってきたような光景だった。やがて、灰色の煙が発生し始めた。その煙は徐徐に廃工場を侵食していき、ついには視界がゼロになるほどに充満した。
まるで、ここだけさっきの天気に逆戻りしたようになっていた。雲のような煙は、中心で燃えているはずの太陽のような問題集の山を見せてくれないほど、濃かった。僕はその光景を、廃工場から少し離れたところで見物していた。まるで放火犯になったような気分だった。
楽しい・・・放火魔もこんな様な気持ちだろうか。人目のつかない場所で、自分が起こした火を眺めて楽しがっている放火魔・・
尚も火の勢いは強まっていく。僕は少し焦っていた。予想よりかなり火が大きくなってしまったからだ。せいぜい問題集が燃えるだけかと思っていたが、それが間違いである事が分かるのが遅すぎた。もう、火というより炎というべきか。その炎は周りの葉やちり・ほこりをまきこんで、建物中に広がっていた。やがて、炎がはっきりと確認できるようになった。赤くそびえ立つ炎。水を受け付けないほどに広がる炎。そんな凄まじい炎を見て僕はどうしようかと迷っていた。
ーーー通報するべきか・・だが、そうすれば僕がやったとばれてしまう・・・しかし、放っておくわけにもいかない。建物の外は林が広がっている。もし、それに少しでも火がつけば・・・・
焦る。焦る。焦りまくる僕をよそに、さらに勢いを増す炎。依然勢いを弱めない炎。
もう、燃えていたはずの問題集は全く見えなくなっていた。見えるのは赤い炎と、煙だけだった。10メートルくらい、ここと、あそこは離れている。しかし、ここまで熱が伝わってくる。意味もなく燃えている炎と、意味もなくつっ立っているだけの僕。
逃げろ
僕の脳が下した決断だった。自分に対する罪悪感と、親に対する罪悪感、この地域の人に対する罪悪感を振り切って、僕は走った。自分の家へと。真っ赤に燃えまくる炎を背にして、ただ走るだけだった。いつの間にか、あたりが少し暗くなっている事に気がつくのに、少し時間が掛かった。炎のせいで、昼間と変わらない明るさだったからだ。黄色くて、まんまるの月が、薄い雲に掛かってぼんやりと輝いていた。ぼんやりと輝く月だけが、必死に逃げる僕を見ていた。灰色に染まっていく空。やがて漆黒へとかわってゆく。黒くなればなるほど、月の光は鮮やかに、そして美しくなってゆく。
はぁはぁ・・と、息を切らしていた。どのくらい走ったか、見当がつかない。もうすぐ家に着く。僕は、ゆっくりと、炎がある場所に目を向けた。家、建物、林などが、視界を遮ってみることが出来なかった。このまま。家に帰ってもいいのか・・・。誰かに言うべきか・・・
やがて、サイレンの音が聞こえてきた。もちろん、消防車。そのほかに、警察、救急車も来ているようだった。額に汗をかき、手にも多量の汗をかいている。涼しい夜のはずなのに。もう黒一色に染まった空に美しく映える月の下で、僕はなにもせずに立っていた。声になって出てきそうな激しい感情を内に秘め、ただ寂しく吹いてくる風に身を委ねていた。
怖い・・
・・・・・・黙ってれば見つからないって・・ 責任転嫁・・・
どうしよう・・
言わなくちゃダメだ・・・
揺れに揺れる僕の心。良心と邪心の狭間で揺れる「恐怖」という二文字が目の前をチラついては、良心をかき消してゆく。
気がつくと、僕は自分の部屋にいた。部屋の中で一人、うつむいた自分がいた。
結局、誰にも言わなかった・・・自分の犯した女・・いや、過ちを、結局、誰にも話さないで一日を過ごしてしまった。朝のまぶしい光を受けているカーテンが光に透けそうで、それがなんとも言えないほど、僕には綺麗に見えた。久しぶりに見る光景だった。僕の部屋に、この窓から光が入ってくるのも久しぶりだった。カーテンの前には、手をつけていない、山済みになっていた沢山の問題集ゴミが置いてあった。それらがなくなることによって生まれたこの懐かしい光。
その光の後ろから、かすかではあるが、とてもやさしい風が吹いていた。草木のようなにおいのする、心地よい風だった。その風は、痛んでいた僕の心に安らぎを与えた。責任から逃れるように。しかし、僕のやった事は事実に変わりは無い。夢ではない。ゆめじゃない。
罪悪感の塊だ。僕は親や、その他の人、そして、自分を一度に裏切った。そして、町に甚大な被害をもたらした。僕が。
・・・・あの時の僕は馬鹿だった。本当に馬鹿だった。
しかし・・
そんな事はいつまでもいってられん!
と、僕は開き直り、目の前にある問題に全力でぶつかろうとした。そう。脱出。
距離は変わらず5メートル。運のいいことに、財布が入っている鞄は、玄関においてあった。僕にとって、その距離は短いようでとても長い距離だった。5メートルと言う短い距離でも、50メートルにでも、500メートルにでも見えてくる・・ちょっと大げさだが。
高鳴りする心臓を、周りに聞こえないように必死に押さえ込もうとした。しかし、そんな僕の気持ちとは裏腹に、心臓の鼓動は速く、大きくなってゆく。頬を伝って汗が首筋に流れ込む。冷ややかな気のにおいがする階段で、僕は静かに好機チャンスを待っていた。どこからか、侵入してきた風が、音も立てずに僕の体に当たって、そして去ってゆく。
次の風が吹いたらいこう・・・
そう心に決め、僕はあの涼しげな、どこか恐怖を感じる風を待っていた。
10秒・・20秒・・以上に時間がゆっくりと感じられる。授業がもうすぐ終わるのに、なかなかチャイムが鳴らなくてイライラする・・そんな気持ちと似ていたが、少し違う。授業には「終わる」という保証がある。しかし、風にはそんな保証はない。しかも、いつやって来るのかわからない。30秒・・依然として、風は来ない。40秒・・また、汗が顔を伝う。何度も、何度も顔を拭いてはまたたれてくる。・・・そろそろ1分が経過する。
と、その時、汗でぬれた背中に、かすかな微風を感じた。僕は、それを感じ取り、体勢を整えた。すると、体に、強い風を感じた
今だ!
-----------頭の中で、六年生のときに、学芸会でやった曲が頭の中に流れた。F1のテーマ曲。
ちゃちゃーん ちゃちゃーん ちゃちゃーん ちゃちゃ〜ん♪
僕は、階段を降り、一気に玄関まで行った。そして、かばんを手に取り、靴をもう片方の手で持ち、ドアを開けて、裸足のまま全力疾走で外に駆け出した。階段を降り、アスファルトの上に出る。太陽に照らされていたせいか、足の裏が、焼けるように熱い。熱い上に、アスファルトの上に小石がゴロゴロ転がっており、とても走れる状態じゃない。僕は、靴を下に落とし、滑り込ませるように足を入れ、トントンと、つま先を地面に叩きつけながら小刻みに走った。微風が顔に当たる。かすかではあるが、空気の流れを感じ取る事ができた。そうこうしているうちに、うまく足に靴が入り込み、全力で走る準備は整った。そして、走った。急とまではいかないが、少し長い上り坂を、息を切らし、少し汗を流しながら、必死に走った。
まるで、見えない「何か」と、競争しているみたいだった。流れている汗に、走るスピードが手伝っての強風が当たって、心地よい。80メートルぐらい走ったころ、後ろを確認し、ほっと一息ついてから、その場に座り込んだ。極度の緊張感から開放された僕は、感慨に浸り、自分の家を見渡した。どこか、いつもと違う雰囲気が家を包んでいるような気がする。
-------あのときの風は・・・そう。あの日の風と似ていた。強さこそ違うが、その性質も、草木のにおいも・・そしてなにより、「やさしさ」が、その風にはあった。まるで僕に、頑張れとでもいっているような感じで吹いてくる。あの時も、そうだった。心身ともに満身創痍まんしんそういだったあの日、僕はその風に救われたと言っても過言ではないような---------------気がする。
いつも体に受けている風。いつも近くにある風。常に一緒にいる風。それらは、全く見分けがつかない。しかし、やさしい風、それだけはどこか違った。やさしいだけじゃない。他にも。けれどこ言葉では言い表せない「何か」が、そこにはやさしい風にはあった。
気がつくと、僕は、草花が生い茂る野原の端に、一人、たたずんでいた。周りには、人は確認できず、僕だけがその場にいた。電車のように吹き抜けてゆく風は、草花を揺らしている。風が吹くたびに、ざわざわと、ざわめき、動く草花。どこまども、どこまでも、続く青い空。自然の一つ一つに個性があり、皆、それを主張しあっている。 周りの全てが、夏の始まりを予感させる風景だ。青々とそこらじゅうに生える草や木、それに彩りを加えて、見事な天然の庭園を作っている色とりどりの花。風が止むと、いままでザワザワとした、体に心地良い音がピタリと止んだ。
耳を澄ませば、草花の会話が耳に届くくらい、しんと静まり返っていて、なんだか寂しいような変な気持ちになる。微風にも、強風にも、それぞれ違った声で、草花は返事をする。さわさわ・・ざわざわ・・・。風向きも色々だった。その表情も。ある風向きになると、風上から、キレイな花の香りが風に乗ってふわふわと、優雅にやってくるし、ある風向きになると、今度は僕を圧倒するかのような風も来る。自然と一体化してしまいそうだった。
つらい現実から逃げて、この自然界に溶け込んでしまいたい。悩むことなど微塵も無く、ただ、風と共鳴してなびくだけ。
-----僕は、壮大な自然界の中にいた。風、天候、草花や木・・・全てが関係しあっている場所に。自らに誇りを持ち、色あせる事も無く・・美しさの極みともいえるこの自然界の端に。
美しい-------と僕は心の底から思った。
普段、明鏡止水に無縁のこの僕が、こんなにも花鳥風月に心を打たれるのは何故だろうか・・極度の緊張感から抜け出した、長い長い闇のトンネルを抜けた安心感からくるものだろうか。
僕はもう、腹など痛くなかった。病院へも行く必要も無いし、行った所でどうなるのか。大体予想がつく。
「あなた、仮病使ってますね」
「え・・・そ、そんなことは・・・痛・・・いてっ・・いたたたた・・はらがぁ・・」
みたいな事になるに違いない。
つまり、僕は目的を失った。行くあてもない。かといって帰る勇気も無かった。
帰ろうという気持ちが脳裏に現れては、夢の恐怖がそれをかき消してゆく。
どうしよ・・
と、小さくつぶやいた。その微かす かな声は、ひゅうひゅうと鳴り響く風に乗せられてどこかへ行ってしまった。
青い海のような空がちょっと、霞かすんで見えた。空に浮かんでいる太陽でさえも、 少し霞んで見えていて、なんとも言えないような、ちょっと、悲しい気分になった。僕の心に美しく映えていた青い空は、一瞬にして、ただ一つの理由によって、曇ってしまった。やがて雨が降ってしまうかもしれない。こんなにきれいな青空が見えている日和なのに、僕の心はそれに背くかのように、曇っている。太陽の光でさえも、薄くなり、遮られてしまいそうだ。
この地に来てからどの位時間が経っただろうか。気がつくと、もう太陽が傾き始めていた。昼間の空とは全然違う真っ赤な風景が空全体に広がっていた。その空を背景に赤とんぼが飛んでいると、とても趣がありそうだ。もっとも、もう夏が近いのだが。季節はずれの思いを馳せながら僕は、現実に目を向ける。
その時、僕の視界の下のほうで、何かが輝いたのが見えた。
なんだろう・・と思い、僕は、ひざを曲げて、しゃがむような形になった。そして、その輝く何かを見た。確かに輝く、しかも神々しい輝き。とてもきれいな花だった。
--------------どこかで見たような・・
なんとなく、珍しい感じがする。青を基調とした色で、ところどころに赤や黄色の点があり、角度によっては、少し色を変えて、そこに存在する。周りを見渡しても、他にそんな奇妙な花は無い。
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2005/06/25(Sat)11:34:18 公開 / ツチノコ
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