- 『英雄伝説 七聖士物語 第4話』 作者:蒼月 / ファンタジー 未分類
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全角25008文字
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「前言撤回よ。」
エミリィーは少しきつい口調で、ぜーぜーと息を荒げている勇気に言った。
「貴方、才能ない。」
こっちは体力的にも精神的にも疲れきってるっていうのに、何もとどめを刺す様なセリフを言わんでも…。
そう思いながらも、対抗するようにこっちも言う。もちろん、息は荒いまま…。
「俺も前言撤回…。エミリィーは…全然…優しく…ない…。」
4話「美しき踊り子」
「やっと、解放されたぜ〜。」
勇気はため息をついて言う。
魔法の修行を朝早くからお昼すぎまで、休みなしで続けていたわけだが…。
しんどいなんてもんじゃない。ほんとに地獄の特訓だった。
もう後半は、本当にエミリィーが鬼に見えた。
夢にまで出てきたほどだ。(もちろん夢の中でも鬼だった。)
しかも魔法の星に来てからもう3日も経つが、寝るときと食べるとき以外のほとんどの時間を修行にあてていた。
おかげで、まだ魔法の星というものをゆっくり見れてはいない。
「気に食わない言い方ね。もう見てやらないわよ。」
エミリィーが横目で睨みつけて、勇気のその言葉に返した。
それに勇気は慌てて謝罪する。
「ご、ごめんって!でもさー、人生時には休みも必要ってかさぁ〜…。」
「だから、今休ませてあげてるでしょう?」
「そーですね…。」
休ませてるっていったって、本当に休んでるわけじゃなかった。
魔法の修行をやっていないだけで、今は街に出て情報集め中だ。
サファイアとカルーファはというと、自分の家に一時帰宅した。
現在地から二人の家はそう遠くないので、特に問題もない。
二人はこっちに家があるわけだし、俺と違って持っていきたいものもあるだろうしな。
あ、余談だが、サファイアの家はお城だった。
しかし勘違いはしてはいけない。
彼女の場合エミリィーとは違って、王様の正式な娘なのだ。
それに、彼女の家は魔法の星をまとめる城ではなく、国ひとつをまとめる城らしい。
この星では、国ごとに城が置かれていて、地方の政治はそこが主立ってやるんだってさ。(さらに、その国ごとの城の下には村長や街長などのさらにこまかくわけた地方を治める長もいるとのこと。)
王というのは、城に住み込みで働くので、その子供も城に住むケースが多いらしく、実際サファイアはそうやって育った子なのだ。
余談の余談だが、やっぱりというか何と言うか…カルーファは一般人だった。
話は戻って、今俺たちが何の情報を集めてるかってーと、もちろん七聖士の情報集め。
それらしい力を持った人がいないか、情報屋とか酒場とかで聞くらしい。
情報屋ってのは、その名の通り情報を売り買いする場所なんだって。
んで、なんで酒場かっていうと、やっぱり酒場にはたくさんの旅人が訪れるから、中の人に聞いてまわるだけで、なかなかの情報が集まるらしい。
それに、酒場はモンスター退治の依頼を受け付けているので、モンスターハンターと呼ばれる旅人よりも戦闘能力に長けた、モンスター退治をして世界中をまわっている人も集まるので、そうゆう人からも情報を得られるから、まさに一石二鳥ってことで、情報集めをするときはこの二つの店に行くのが基本なんだと。
因みに、今居る街はここの星の首都、スティルアフロディア。
この街にはエミリィーの勤めているでっかい城があって、そこで寝泊りをし、修業をさせてもらっていた。
お城の人は皆親切で、お城の中はとても広く、衛生的だった。
だが首都のわりに機械化は進んでいない。
ある程度の機械はあるようだが、町並みも少し昔のヨーロッパに近いような感じだ。
道は石畳で、家なんかはレンガ造りに近い。
もっとも、レンガとは全く違う素材でできているが…。
知力が高い人種だっていうから、ロボットが普通に歩いてたりするのかなと思ってみたりもしたのだが…。
エミリィーに聞くと、環境破壊をおこさないためというのが一つあるらしい。(他にも失業者が増えるなどの問題面も多々あるが…)
ロボットなんかを作るとどうしてもそのゴミが半端じゃないくらいでるからな。
自然と人間の共存を考えると、今の形に辿り着いたというのだ。
必要最低限の便利さはあると言っていたが…まだこっちに来て、こっちの生活らしい生活をしてないので分からない。
地球にいたときと変わったなと思うのは、食事くらいのもので…。
こっちの料理はなかなか美味しかった。
口に合わなかったらどうしようかと思ったが、その心配はなさそうだ。
いまだに不味いと思うものに当たったことがない。
まぁ、自分は昔から基本的に好き嫌いはしないタイプだったが…。
そういや、服装も違うかな。
普通の人は、地球の服装とそんなに変わりはしないが、やはり旅人やモンスターハンターは違う。
マントを装着している人が多く、鎧を見につけ武器をどこかに身に着けていた。
こてやグローブを装備している人も珍しくない。
ついでに言うと、俺の服装もそうゆう人たちと同じような装備をしている。
鎧はもちろん、こてと剣を装備させてもらった。
鎧っていうのは、もっとずっしりしていて動きにくいものだと思っていたが、軽く丈夫な金属でできているため普通に動けるし、デザインもごつごつしたようなものではなく、いたってシンプルである。
マントもいらないかと、一応は聞かれたが、なんだがぴらぴらして慣れないので、そっちは断った。
エミリィーももちろん鎧を装備している。
鎧姿のエミリィーは別に違和感はなく、逆に似合っているくらいだった。
なんていうか、とてもかっこいい。
鎧姿がきりっとしたその表情にぴったりで、『剣士』という肩書きも『姫』と同じくらいしっくりきた。
しかし、やはり気になったのは仮にも姫の彼女が勝手に町の中を歩いていいのか、ということ。
聞いてみたら、特に問題はないらしい。
いつも公共の場にでるときは髪は頭の上で結っているので、髪をおろすと雰囲気が変わって、そうそう気づかないんだってよ。
束ねているところを見たことがないので、なんとも言えないが…。
それに、エミリィーはまだ見習いの身だから、そんなに大勢の前に出ることもないらしい。
それでも念のために、今はコートのようなマントのような上着をはおって、顔が少し隠れるほどのフードをすっぽりかぶっている。
流石に首都だと、知ってる人も多いしな。
ああ、後びっくりしたのが、こっちには車のような地面を走るような機械がないということ。
交通不便じゃないかよぉ!と思うかもしれないが、そんなことはない。
ただ、地面の上を通っていないだけなのだ。
地面の上じゃなけりゃ、どこだって?もちろん上だ。
その、地球で言えば車にあたる『クラプソーフ』という箱型のその乗り物は、空中で乗るものなのだ。
そのため、お店なんかの駐車場にあたる場所は常に屋上に位置していた。
どんな仕組みなんだ?って聞いたら「話しても理解できない。」といわれてしまった。
そりゃ当然といえば、当然だな…。
もちろん、その機械によって環境破壊は起こらない。
ともかくこの星では環境に影響がないと分かるまでは、一般には出されないらしいしな。
そこまでそのことにこだわる理由。
それは一度環境破壊によって、星に住む魔獣(魔力を持った動物)が生命の危機に立たされ、怒った魔獣たちが暴動をあちこちで起こし、戦争とも呼べるほどの戦いが星中で起きてしまったのがそもそもの原因だ。
切羽詰った魔獣の底力は強く、魔法族側にもたくさんの被害がでてしまい、その勢いは留まることはなかった。
最後には魔法族側がとうとう折れて、和解を持ちかけたんだそうだ。
「何でも言うことを聞く。」という条件で、その和解は成立し、魔獣の王が出した望みは「お互い共存できる社会を作ること。」だった。
それ以来、魔法の星には徹底的な自然保護が行われるようになったわけだ。
ふふん。よく勉強してるだろう。
…もちろん、エミリィーに教えてもらっただけだが。
しかし、やはり首都だけあって、人が多い。
道の脇からは活気あふれる声で、店の客寄せをしているので、常に音が途絶えることはなかったし、人の波もまた途絶えることはなかった。
とにかく、エミリィーの後にしっかりついていかねば、いつ迷うかわかったもんじゃない。
人の波をかけわけながら、勇気はエミリィーの背から目をそらすまいと、その姿だけを追った。
と、ここで急にエミリィーが立ち止まる。
「まずはここよ。」
そう言ってエミリィーは木製のドアを開いて中に入っていく。
その後に続いてその建物の中に入ると、ぷーんとアルコールの匂いがした。
あたりを見渡すと、ご機嫌に笑いあって器の中に入った飲み物を飲みあうものや、カウンターに一人で座ってゆっくりと飲み物を口にするものなんかが見受けられる。
なんとなく、これだけで察しがつく。
ここが魔法の星での酒場なのだろう。
それにしても、こっちの酒と呼ばれるものもアルコールが含まれてるのだろうか。
まぁ、水や海、空気、植物(もちろん地球にはない種類のものだが)なんかが地球と変わりなくあるということは、他の物質も同じものがあってもおかしくはないのかもしれないけど。
「私が話を聞いてくるから、貴方はここに座ってなさい。こっちの飲み物を飲んでみるといいわ。」
勇気が酒場の中をきょろきょろ見ていると、エミリィーがカウンターの前の席を指定して言った。
そういえば、こっちに着てから水しか口にしてなかった。
確かにいい機会…って待てよ。ここ酒場じゃん。
いいのか?こっちでは未成年が飲んじゃったりしても…。
こっちの気持ちを察したか、エミリィーは勇気が質問するより先に口を開いた。
「大丈夫よ。アルコール類は飲ませないわ。ここにはアルコール類以外にも色々飲みのが置いてあるから。赤い文字でメニューに書かれてるのがアルコールを含むものだから、それ以外のを適当に選びなさい。」
「分かった。」
「じゃあ、ここで大人しくしてなさいよ。」
「りょーかい。」
勇気の言葉を聞くとエミリィーは向こうの方へいってしまった。
(さーて、どれにすっかなぁ。)
勇気はメニューを眺めながらしばらく考えたが、考えても無駄なことに気づき、目に付いた「フエル」という飲み物を頼む。
なんで文字が読めるか疑問に思った人もいるだろう。
それ以上になんで、魔法族とどうやってコミュニケーションをとっているのかが疑問かと思う。
コミュニケーションは、こっちに来た直後に渡された腕輪に翻訳機能が付いていて、それが相手が話してることを勝手に日本語に訳してくれる。というか相手の話してることが日本語に聞こえるのだ。
こっちが話していることは向こうからすれば、魔法族の言葉に聞こえるらしい。
エミリィーたちも地球にいたときに、それをつけていたから、あんなにペラペラ日本語が話せたんだって。
で、文字は、素晴らしいことにこっちの文字の書かれているもののほとんどが、翻訳機能を持っていて、その書かれているものに触れた瞬間、触れた人の人種を見極めてその人の理解できる言葉に直してくれるのだそうだ。
おかげで、なに不自由なくコミュニケーションはとれている。
今思えば、これが『魔法族の知力の高さの賜物』の一つと言えるだろう。
「はいよ。」
カウンターの向こうから、おじさんが頼んだ「フエル」という飲み物を差し出す。
色は青色でコップの中に氷が4個ほどはいっていた。
とりあえず、味見…。
勇気はコップを持つと傾けて、少し口に含む。
(おお、なかなか美味い。)
少し甘ったるい気がしないでもないが、癖になる味だ。
そう思って、もう一度飲もうとコップを傾けようとした瞬間、後方からシャラシャラ…という綺麗な音がした。
コップを置いてその方向を見ると、後ろにあったステージのようなところに、髪を一つに束ねた、自分よりも年上だと思われる女性がいた。
少女はどこかジプシーを思わせるような、へそだしスタイルで肩が丸見えの露出度高めの服と、シンドバッドみたいな、ゆったりふっくらしたズボンを身にまとって、綺麗な首飾りをつけている。
それにしても、なんて美しい人なんだろう…。
いや、もうそれは美しいという言葉では物足りない気がする…。
さらさらとした金色の髪に、柔らかそうな白い肌、抜群のスタイルに、南国の美しい海をの色をそのままうつしたような綺麗なコバルトブルーの瞳、そして何より何をとっても欠点のない整った顔…。
色気が見るからに溢れ出ているというわけでもなく、エミリィーのようにきりっとした美人でもない。
どういったら言いのだろう、そのどちらもが彼女にはあり、そしてそれ以上の魅力があるとでも言ったところか。
とにかく、彼女の美しさを文字で表すのはとても難しい。
どの言葉も役不足だ。
勇気がその子を見ていたと同時に、他の人々も息を呑んでまじまじと少女を見つめていた。
それにも構わず、少女は微笑むと一言、透き通った美しい声で言った。
「こんにちわ。」
「うおーーー!!こんにちわーーー!!」
彼女のその挨拶に酒場の男共は耳が痛いほどの声を上げた。
ほとんどの者が彼女にもう魅入られてるといった感じだ。
それ以外の人はまったく興味がないのか、ステージの方に向きもしなかった。
反応がえらく極端だよな…。
普通に眺めてるのは、多分俺だけだろう。
彼女は箱を前に置くと、今度はこう言う。
「私、旅をしてるんですが、ちょっとお金に困っててぇ…。精一杯踊るので、もし満足いただけたら、お金を少しばかり与えてはくれないでしょうか?」
と、次の瞬間、すでに箱の中にはたくさんのお金が投げ入れられていた。
それに続いて、どんどんお金が投じられ、ついには箱の中に納まりきらないほどになってしまった。
まだ踊ってもいないのに…。
ああ、もう駄目だ。ステージの周りにいる野郎どもは完全に彼女の美しさの虜になっている。
彼女が目を嬉涙で潤ませて、
「ありがとうございます!では、お礼に踊らせていただきます。」
と、言ってぺこりとお辞儀をするとどこからともなく音楽が流れ出した。
少女はその音楽に合わせて、ゆっくりと体を動かす。
ゆったりとしたその曲にあった、なめらかな動きをしてはいるが、手から足の先までまったく気を抜いた様子はない。
彼女の腕にはめられた、彼女の腕よりも少し大きい金色のわっかの腕輪が動くたびにシャラシャラと綺麗な音を奏でる。
まるでそれさえも一つの楽器であるかのように、その曲のリズムにぴったりと合わせて…。
と、ここで急に曲調が変わる。
迫力のあるテンポの速いその曲に急に変わったのだ。
少しびっくりしたが、すぐに彼女の踊りに見入る。
激しく腕輪をシャラシャラと鳴らしながら、彼女の踊りも今までの踊りとは全く違う激しい踊りに変化する。
目まぐるしく動く足の動きに、メリハリのある腕の動き…。
だが、激しくなっても少女の微笑みと美しさは決して損なわれない。
知らず知らずのうちに勇気はその踊りに夢中になっていた。
「勇気!勇気!!」
自分を呼ぶその声にふと我に返った。
声のした方を見ると、むっとした表情のエミリィーがいた。
「一体貴方は何回私に名前を呼ばせるつもり?」
どうやら、何度も呼ばれていたらしい。
これは、だいぶ怒ってるな…。
そう思って、慌てて立ち上がり、謝罪する。
「ごめん!でもさ、あの人の踊りすげーんだぜ?」
「あらそう。でも、もう行くわよ。時間が惜しいわ。」
「えー?」
勇気はエミリィーの言葉に不満の声を上げる。
まだ彼女の踊りは終わっていなかった。
どうせなら最後まで見ていきたい。
だが、そんな願いがエミリィーの前で通用するはずはなかった。
「時間が惜しいのは誰のせいだと思ってるの?貴方の修行さえなかったら、私だってもっとゆっくりできたわよ。」
きっと睨まれてそう言うと、何も反論できない。
しかもその原因が自分にあるとなると余計だ…。
ここは素直に折れるとしよう。
「悪かったよ。行こうぜ。」
エミリィーはそれを聞くと何も言わずに店をでた。
あれから確実に2時間は経っただろう。
もちろん何をしていたかというと、ずっと町中の酒場回りをしていた。
だが、未だに何の情報は得られないままだ。
「仕方ないわね。お金がかかるけど、情報屋に行きましょうか。」
そういうとエミリィーは勝手に、大通りから細く暗い路地へと入っていく。
路地の奥は暗く、その先になにがあるのかは分からない。
「あ、おい!」
勇気が呼び止めたのが、聞こえなかったか、それとも応答つもりがなく無視しているのか、エミリィーは一瞬も足をとめず、どんどん奥へと足を進ませる。
勇気は少し進むのを躊躇したが、置いていかれては元も子もないので、小走りでエミリィーの後ろについた。
しかし、不気味だ。進めば進むほどあたりは薄暗くなり、湿気が高くなるのが肌で感じ取れる。
不安に思いながらも足を進めていると、寂れた街道に出た。
あたりはさっきまでの活気付いている街の面影はどこにもなく、とても静かだった。
傾いた看板に、割れたガラス窓…。
建物を建てたはいいが、こんな日の当たらないところでは、人が寄り付かないといったところか…。
それにしても、俺たちって情報屋を目指してるんだよなぁ?
ほんとにこんなとこにあるのか?
店どころか、人が居る気配すらない。
そう疑問に思って、勇気はエミリィーに言った。
「なぁ、ほんとにこんなとこに情報屋があんのか?全然人の気配ないんですけど…。」
エミリィーはその問いに振り向きもせず、静かに答えた。
「ええ。一見人が居ないように思うけど、ここの街道はちゃんと人が利用してるの。『裏街道』と呼ばれるこの街道には、確かにあまり平和的とは言えない店が存在してるわ。でも普通の『情報屋』だと、七聖士についてなんていうレアな情報は手に入らない。だから高額だけど、こういうとこを利用したほうがいいのよ。」
そうちょうどいい終わったその時、街道の突き当たりにある建物に差し掛かる。
その建物も他のものと同様に少し古びた建物で、全ての窓はカーテンで閉ざされているため、中の様子がまったく分からない。
エミリィーはその建物のドアの前まで行くと、古びた木製のそのドアをノックした。
「誰だ?」
と、建物の中から若い男の声がする。
「私よ。ちょっと聞きたいことがあるんだけど…。」
エミリィーは常連なのか、中の男はそれを聞くと、すぐ愛想のいい声になって答えた。
「おお。エミリィー様かい。ちょっと待ってな。」
そのほんの数秒後きぃぃ…という音をたててドアが開く。
そして中で応答していたと思われる、そのひょろっとした長身の、頭がつるつるのが、ドアの向こうから、にっこり笑って顔を出した。
頭がつるつるなのは歳じゃなくて、ファッションだろう。顔も声も若いし…。
それしにしても胡散臭そうな奴だ。本当に信頼していいのだろうか?
「どうぞ、お入りになってくだせぇ。」
男はにんまりと笑っていたが、勇気の顔が視界に入ると少し驚いた風に言った。
「おっと…そちらは?」
「勇気っていうの。」
エミリィーはこちらに少し目線をやってそれに答える。
「ど、どうも。よろしく。」
なんだか黙っているのは悪いような気がしたので、軽く頭を下げてありふれた挨拶をする。
すると、男はにっと笑って、
「俺はサムってんだ。こちらこそよろしく。ところで、お二人はどうゆうご関係で?」
と、言った。
彼の目が興味津々なのを語っている。
スキャンダルでも狙ってるなら、見当違いもいいとこだ。
でも黙ってたら逆に怪しまれるかな?そう思って、何て答えようか考えたが、勇気がそれを否定するよりも先にエミリィーが、
「別に。」
と、そうそっけなく答えた。
だが、サムはそれをはぐらかしたとでも思ったのだろう。
どうにか聞き出そうと、しつこく聞いてくる。
「またまたぁ〜。滅多なことでは男を連れ歩かないじゃないですかぁ。教えてくださって、それがいい情報なら、サービスしますよ?」
サムはそんなことを言っているが、エミリィーの『別に』は多分本当に『別に』という意味をさすんだと思う。
特にどーいった関係でもないと…うーん、そう思ってるんだろうなとは思ってたが、はっきりそう言われるとちょっとショックかも。
どうやら俺はまだ友達とも仲間とも思われてないらしい。
「ただの知り合い。訳ありでね…。」
エミリィーのその答えに、やっぱり…と勇気はため息をつき、サムは面白くないな…と言わんばかりに肩を落とした。
だが、エミリィーはそれに気づいているのか、いないのかは分からないが、構わず話を進める。
「それより、ちょっと手を貸してほしいんだけど…。」
すると、サムは招きいれるように、数歩下がるとドアから中へと入りやすいようにして言った。
「はいよ。まぁ、入ってくださいよ。」
「ええ…。」
エミリィーはそれに軽くそう返すと、勇気の方へと視線だけを移し、提案した。
「勇気、貴方はどうする?長くなりそうだからそのへん見てきてもいいわよ。」
勇気はそう言われると少し視線を上へと向けて、うーんと考える。
中に入ったところで自分にできることなんかあるかわからないし、むしろ邪魔かもしれない。
それに、ゆっくり星を見て回りたい気持ちも、もちろんあった。
ここはお言葉に甘えて、そうさせてもらおうかな。
勇気はそう結論すると、小さく頷いて言った。
「じゃあ、行ってこようかな。どれくらいかかんの?」
「そうね…2時間くらいかしら…。まぁ、飽きたら戻ってきてくれていいわ。それか先帰っててもいいけど?」
「いや、そのへん探検してくるよ。」
「そう。じゃあ、これ。」
エミリィーはそう言って、小さな布袋を勇気に渡す。
「これは?」
勇気が不思議そうにそれを受け取ると、エミリィーは、
「お金よ。自由に使っていいから。その中にこの街の地図も入ってるけど、もし迷ったら城に戻りなさい。城への行き方は街の人なら誰でも知ってるから、聞けば行けるはずよ。じゃあね。」
と、用件だけを言い、怪しい店の中へと入っていった。
「ふぅ〜。」
勇気はにぎやかな広場のベンチに腰掛けて一息ついた。
もちろん魔法の星の首都めぐりはやりたいし、やるつもりだが、今はともかくどこかでゆっくりしたかった。
修行が終わって即行で情報集め…。
しかも2時間も人ごみにもまれた挙句、ほとんど立ちっぱなしだ。
とにかく今は休みたい。
できることなら、静かな場所で寝転びたいところだが、ここは何と言っても首都だ。
静かな場所っていえば、さっきの『裏街道』くらいのもの。
いくら静かでも、あんな怪しく不気味なところでは寝転びたくない。
そういうなら城に戻ればいいだろう、と思うかもしれないが、絶対に戻ってしまえば寝てしまう。
それはあまりにもったいない話だ。
また修行に入ると、いつ外に出られるか分かったもんじゃないしな。
そうなる前に、色々見ておきたい。
それにしても、思った以上に地球人と魔法族の差はない。
こうして広場を眺めていると余計にそう感じる。
はしゃぎながら走り回る子供たちに、幸せそうに笑いあう恋人たち、そして何より親近感を一番覚えたのは、とりとめのない会話で盛り上がるおばさんたち…。
これはどうやら万国…じゃない、万星共通らしい。
まるでここが別の星ではなく、外国に旅行に来ているんだと錯覚してしまいそうなくらいだ。
いや、そもそも別の星の人だから、自分たちとは違うという考え自体が、間違った考えなのかもしれない。
がさがさがさ…
勇気がそんなことを考えていると、そんな音が頭上から降ってきた。
不思議に思って勇気は立ち上がり、その音のする場所を探るように頭上を見渡す。
すると、自分がさっきまでいたベンチの一番近くにあった大きな木の上の枝が揺れているのに気が付いた。
勇気はおそるおそるその木の下まで行くと、ゆっくりと首を持ち上げて、上を見る。
と、その時、頬に何かがかすめ、熱い感覚が走った。
そしてその熱さはだんだん痛みへと変化する。
見上げた格好のまま、勇気はしばらく固まっていたが、やがて頬をかすめたものが何かを見ようと目線を下に向ける。
そして勇気はそのかすめたものを見て、それを凝視した。
なんとそれは小型のナイフだったのだ。
思わずナイフに目線を合わせたまま、その場から数歩飛びのく。
そして、その地面に突き刺さったものを見てはっと思い、頬の痛みに手を触れさすと、手に赤いものがついた。
「………。」
今度は、しばらくその自分の手についた赤いものを凝視して、ようやく自分の身に何が起きたのか勇気は理解した。
「ぎぃやぁぁぁぁぁ!!血じゃー!血が出とるー!!」
勇気がやり場の無い驚きと頭の中の混乱で、血の付いた手をぶんぶん振り回し声を上げると、また木の枝ががさがさと動いた。
しかも、今度は上のほうではなく、地面に比較的近い枝だ。
ナイフを持ってるということは、少なからず人間ということになる。
しかも自分を攻撃するということは…いうことは…!!
勇気は混乱しきっている頭の中で一つの結論を出した。
(まさか、この上に居る奴は…八騎士!?)
勇気は剣の柄に手をかけ、すぐに剣を抜けるように構えた。
がさがさがさがさ…
もうそれ以上下に枝が無いところまで、そのがさがさが近づいてきている。
(いつでもこい!)
勇気が思ったと同時に、すとっと軽やかな音をたてて、枝から人影が降りてきた。
が、それは八騎士ではなく、意外な人物だった。
またもや勇気の思考がパニックになる。
「すみませーん!!大丈夫でしたかぁ!?」
その人はとても心配そうな顔でこちらに近寄って、傷口を見ると申し訳なさそうな顔でもう一度ぺこりと頭を下げ、「すみません!!悪気はなかったんです!」と謝る。
だが、勇気はそれに答えることもできず、というか、その人が言ってることなんて頭に入ってはなく、ただぱくぱくと金魚のように口を動かして、その人をまじまじと見るばかりだ。
「あ、あの…?」
その人が、綺麗なコバルトブルーの目で不思議そうに顔を覗き込んだやっとその時、ようやく声が出た。
「あああーーーー!!酒場の女の人ーーー!!」
「これでよしっと…。」
その言葉と同時に、踊り子のお姉さんの傷の手当ては終わった。
あの後、初めは断ったのだが、手当てすると聞かないので、再び同じベンチに座って手当てをしてもらったのだ。
幸い傷はかすり傷で、血止め薬とテープで十分手当てはできた。
にしても驚いた。こんなとこでまさか会おうとは…。
事情を聞くと、魔鳥(魔力をもった鳥)の卵が木から落ちていて、それを戻そうとしていたらしい。
ナイフは手を伸ばした時に、たまたま開いていた道具袋から落ちたものだと言っていた。
「ありがとうございます。」
勇気がお礼を言うと、お姉さんはぶんぶんと思いっきり顔を横にふった後、
「お礼なんかいらないよ!私が悪いんだから…。ホント、ごめんね!ごめんなさーーい!!」
と、大声で顔の前で手のひらを合わせ、謝った。
「いや、俺ももうちょっと気をつける必要があったかと…。」
あまりに必死に謝る姿に、こっちが悪いことをしたような気分になって、勇気は慌ててそう言った。
けれど彼女は、
「ううん!そんなことないっ、ないっ!私が悪いったら悪いの!ホントにごめんなさい、ごめんなさい!」
と、それを思いっきり否定して、うるさいくらいの声を上げる。その上、目に涙を浮かべる始末だ。
勇気の心の中は、さらに謂れの無い罪悪感で苛まれた。
とにかく、この状況をどうにかしよう。周りの人からも変な目で見られる。
こんな美女をこんなにも謝らせているとなると、こっちが十分な悪役だ。
勇気はそう思って、彼女を元気づけるように言った。
「気にしないでくださいって!そんなに大した怪我でもなかったわけだし。」
「でもぉ…。痛むでしょ…?」
お姉さんはそういうとそっと傷口に触れた。
心配そうに見つめるその目に、不覚にも少しどきっとしてしまう。
「あ…えーっと…。」
勇気が照れてるせいか、次の言葉を思いつかないでいると、お姉さんはまたごろっと表情を変えて、大声を上げた。
「こーゆー傷って意外と痛いのよねぇ!ちっさいくせに!紙とかで切ったりとかしたら、めっちゃくちゃ痛くなーい?」
「は、はぁ…。」
(酒場で見たときは、何だか大人しそうで繊細な感じがしたのに…。)
勇気は胸中でそう思いながらも、適当な相づちをうった後、これ以上傷の話題が続かないように、話を切り出した。
「ところで、お姉さん。」
その言葉に少し驚いたように、お姉さんはこっちを見て、戸惑い気味に聞いてきた。
「お、お姉さん?」
「え、年上かなーっと…。」
勇気がそれにそう答えると、彼女は少し考えて聞いてきた。
「うーんと…君はおいくつ?」
「17ですが…。」
「私も17ですが…。」
その後しばらくの沈黙があり、今度は勇気が声を上げた。
「ええ!?同い年!?」
すると彼女は笑いをこぼして頷いき、言った。
「そうよー。なーにぃ?私そんなに老けて見えるー?」
「いや、そうゆう意味じゃ…。だって酒場で見かけたときとか、すっごい大人っぽかったし…。」
勇気は驚きのあまりにまだ半分放心状態にのまま答えた。
大げさかと思うかもしれないが、それはナターシャのあの踊りを見ていないからだ。
あの色っぽい大人の顔を見たら誰でもそう思うはずだ。
20歳は確実にいってると思っていたので、余計にびっくりした。
同じクラスの女子と同じ歳…。
エミリィーといい、この子といい、並外れてるよなぁ…。
俺のだまされっぷりがそんなに可笑しかったか、その子はまだ笑ったまま言った。
「あははは、ありがとねー。でも、まぁ、あれは演技だしぃ?」
「演技…?」
勇気が首をかしげると、彼女は大きく頷いて微笑み答える。
「ほらぁ、だって、未成年は酒場であんなことしちゃ駄目じゃない?大人っぽく見せて、歳誤魔化したってわけ!」
「それって悪いんじゃ…。」
「バレなきゃいいのよ、バレなきゃ!!まぁ、仮にばれたとして、ちょーっと色目を使ったら、大抵酒場のマスターくらいなら、許してくれるし!許してくれなかったら逃げりゃいいだけだしね!」
「あ、あははは…。」
(可愛い顔してなかなかの悪子だな。)
まったく、にっこり笑ってなんて事を口走ってんでしょうね、この子は…。
勇気は愛想笑いを返しながら、心中で突っ込む。
裏切られたような、騙されたような…今はそんな気分だ。
でも、言われてみれば、大人しそうな顔をしてなきゃ、同い年に見えなくも無い。
というかむしろ年下に見えるくらいだ。
横に並ぶと思ってたより身長は高くないし、表情がころころ変わってまるで子供のようだ。
今はどっちかっていうと、美人っていうより、可愛いっていう表現のほうがしっくりくる。
酒場で見かけたときとはまるで別人だな。
まぁ、言ってもこれが現実だ。
勇気は気を取り直して、彼女に聞く。
「えーっと、じゃあ…なんて呼べばいいんだ?」
勇気がいうと、彼女はにっと笑って答えた。
「ナターシャ!ナターシャって呼んで!あ、因みに私の名前は、ナターシャ・ブロッサム。よろしくぅ!」
「分かった。ついでに俺も自己紹介。名前は一ノ瀬 勇気。勇気でいいよ。こちらこそ、よろしくな!ナターシャ!」
すると、彼女は満足気に頷いき、
「うん!で、勇気。さっき何聞こうとしたわけぇ?」
と、話しを戻した。
一瞬、自分自身何を聞こうとしていたのか思い浮かばなかったが、まだ痛む頬の傷のおかげで『ナイフ』という単語が頭に浮かび思い出せた。
「ナターシャの本職って何かな、って思って。」
踊り子なのか、はたまたモンスターハンターなのか…。
ナイフを持ってるということは、少なからず闘いを知っている人間だということだ。
まず普通に歩くだけなのに、道具袋にナイフを入れてるなんて考えがたい。
勇気のその質問にナターシャは少し首をかしげて答えた。
「ん?本職?モンスターハンターだよ。」
「やっぱそうかぁ〜。踊り子かと思ってたけど、ナイフ持ってるからさ。本職なんだろって思ったんだ。」
すると、ナターシャはその質問を何故投げかけたか納得したような顔をして、説明を加えた。
「踊りは、臨時収入ってとこかな。お金がピンチになっちゃった時とかの。」
「ってことは、今ピンチなんだ?」
勇気が言うと、ナターシャは少し苦笑して頷く。
「実はね、首都に来るのに、結構お金使っちゃってて…。その上急いでたから、来るまでの間、モンスターハンターの仕事もやってなかったんだ。で、こっちで宿とったらお金つきちゃって…。とりあえず、稼ごうと思って色んなところっで踊ってたの。ハンターのお仕事だと、ちょっと時間かかっちゃうし。」
「よっぽど急ぎの用なんだな。」
勇気がその話しの素直な意見を言うと、ナターシャは詳しい事情を話し始めた。
「私がモンスターハンターになったのは、そもそも強くなるためっていうのと、もう一つ、ある人物についての情報を手に入れるためなの。そしてついこの前、情報屋でそれについての情報を持ってる人が、首都にいることを教えてくれて…。それでいてもたってもいられなくなって、急いで来たの。けど、その人は遠方に行ってたらしくってすぐには会えなかったの。帰ってきた後も、忙しくて会えないって門で追い返されちゃった…。仕方が無いから、会えるまでここでねばってるのよ。今日はまだ会いに行ってないんだけど。」
「そっか…。」
よっぽど知りたい情報なんだな…。にしても、何て奴だ。
いつ会えるかとか、予定くらい立ててやってもいいだろうに。
門で追い返されたとか言ってるとこから考えると、身分が高い奴なんだろうなぁ。
もしかして、遠方に行ってるだの忙しいだのも、嘘なんじゃねーか?
勇気はそんなことを思って、腹立たしい思いを抱きつつも、ナターシャに聞いた。
「そいつ、そんなに偉いやつなのかよ?ったく、お高くとまりやがって。」
ナターシャはそれに、すぐには答えなかったが、やがて決心したように頷くとその人物の名前を口にした。
「その人は…この星の次期女王。エミリィー・アリルジェイド。」
そして勇気はその言葉を聞くと同時に、血の気が引くのを感じた。
エミリィーですと?次期女王ですと?
それはさっきまで、お隣にいた人のことですよね…?
「すみません!お高くないっす!俺が悪かったです!!だからその剣を突きつけないでぇ!」
急にばっと立ち上がって勇気がそんなことを言い出したので、ナターシャはもちろん、周りにいた人々も勇気を驚きの目で見つめた。
勇気はしばらくそのままの格好で静止していたが、辺りから放たれる目線が突き刺さるのを感じ、自分がした行為を冷静になった頭で改めて思い直し、赤面すると、
「や、何でもないです…。」
と言って、すとんと元の位置に恥ずかしさでうつむきながら座った。
その後しばらくは、その目線が突き刺さったままだったが、しばらくすると人々は関心がなくなったか、それぞれの作業へと戻る。
「ね、ねぇ。大丈夫?」
状況が落ち着いたその時、ナターシャが声をかけてきた。
「ごめん…。今のは気にしないで…。」
勇気はまだ恥ずかしさで、顔を上げることができず、うつむいたままそれに小さく答える。
その隣にいたナターシャも十分に恥ずかしかっただろうが、その行動を起こした張本人である勇気自身、恥ずかしくてたまらなかった。
何であんなことしたんだろう…。
それに、ほとんど無意識に言い放ってしまっていたことを思うと、自分を情けなくも思う。
とにかく、このままでは気まずいので、話しを戻すとしよう。
勇気は心の中にある嫌な感情を一息ついて全部吐き出すと、顔を上げて再び話しを戻した。
「つまり、エミリィー…姫がその情報を持ってるけど会えないから、どうしようもないってことか。」
「うん…。」
よくよく考えてみれば、勇気はその原因は自分にあるような気がした。
遠方に行っていたというのも、忙しいというのも嘘じゃない。
遠方も遠方。地球なんてとこに行くはめになったのは、俺がそこにいたからだし、忙しいのは稽古をつけるために、俺にかかりっきりだったからだ。
本当ならすぐにでもエミリィーのところへ連れて行ってあげたいところだが、そういう訳にもいかなかった。
その理由は、こっちに来たときに、エミリィーから言われたいくつか注意事項に関係する。
その注意事項とは…
@自分が地球人だと言わないこと。
A職業はモンスターハンターだと言うこと。
B絶対にエミリィーの正体が姫で、自分は姫の知り合いだと言わないこと。
この場合、Bの注意事項の違反になるだろう。
そんなことをすれば、どうなったかわかったもんじゃない。
そもそも七聖士という組織自体が星の最高機密。
人々の混乱を避けるために、ルギータが宣戦布告をしてきたという事実は知らせているものの、もうすでに闘いのエキスパートがルギータたちを抑えているという、嘘の情報を流しているそうだ。
だからこそ、姫が旅をするということも誰にも知らせてはならない。
もしそんなことが知れたら、何故旅をしているのかってとこからマスコミが調べ始めるだろう。
まぁ、本人が姫だからといって騒がれたりするのが嫌だ、というのもあるのだが…。
でも、今回のこの場合なら、知らせても大丈夫ではないだろうか。
特に大きな問題も起こらない。まだ、旅をしているわけでもないわけだし…。
星の中心である城がこの街にあるのだから、姫が居ても不思議じゃない。
ナターシャが本気だというのなら、一肌脱ごうじゃないか。
第一にその目的を阻止していたのは、自分であるわけだし。
「ナターシャ。どうしてもその情報が必要なんだな?」
勇気が確認をとるようにそう言うと、ナターシャは真剣な表情になって大きく頷き、言った。
「ええ!もちろんよ。私はその情報を手に入れるために、強くなるために、故郷とも呼べる場所から離れたのよ。どんなことをしても、絶対に手に入れてみせる。」
勇気はそれを聞くと、にっと笑って立ち上がると、ナターシャの方へと視線を向けて言った。
「分かった。じゃあ、会いに行こうぜ!」
「え…?」
彼女はそう言うと、きょとんとした顔でこちらに目線を送ったまま反応しなくなった。
まぁ、当然と言えば当然だろう。
突然姫に会いに行こうと言われたのでは、まず信じることもできない。
とりあえず当たり前な質問をして、彼女の意識をこちらへと戻す。
「エミリィー姫に会いたいんだろ?」
「う、うん。そりゃそうだけど…。そう簡単には会えないわよ!」
「それが、俺は簡単に会えるんだよなぁー。」
そう言われると、ナターシャはさらに驚いた表情になり、興奮した声で聞いてきた。
「え!?それって、それって!勇気って偉い人なのぉ?」
話の流れ的にはそう考えるのが自然なんだろうけど…。
いっそこのまま『自分は王室関係の者だ』と嘘をついてしまおうか。
勇気の頭の中に一瞬そんな考えが浮かんだが、数秒後にはその案は頭から捨て去られた。
なんせ勇気は人一倍嘘をつくのが苦手な人間だった。
言ってもすぐにばれてしまうことぐらい、自分でもよく分かっている。
なので、どちらともはっきりしない答えを返すことにした。
「いやぁー…偉くはないんだけど…。」
「じゃあどうゆう関係?」
そう聞かれると、勇気は答えにつまった。
まぁ、そう疑問を持つだろう。普通。
そう簡単に知り合いになれる相手ではない。
だけど、勇気自身どう答えていいのか分からなかった。
『仲間』は旅をすることには触れてはいけないので、NGだ。
『友達』っていうのも、相手はそう思ってないので、おこがましい話のような気がする。
さっきエミリィーが言ったように『別に』では流せない話だし…。
しばらく勇気は考えこんだが、やがてこう結論した。
「…あえて言うなら師弟関係かな。」
「はぁ!?」
ナターシャが理解できない気持ちも分かるが、これ以上この話題を続けるといつか墓穴を掘ってしまいそうなので、勇気はそれを適当に流し、エミリィーのところへ行くようにと、手を差し伸べて促す。
「まっ、ついてこいって!絶対あわせてやるからさ!」
「う、うん。」
ナターシャはまだ納得いってはいないような顔のままだったが、頷くとその手をとった。
(やっぱここは不気味だな。)
勇気は裏通りのど真ん中をてくてく歩きながら、辺りを少し見渡して改めてそう思った。
薄暗い上にこのひんやり感…。まるでお化け屋敷にでも入ってるような気分だ。
一歩足を進めるのにも、どうしてか気を抜けない。
もしかしたら本能自らが危険だと察知してるのかもしれない。いや、きっとそうだ。
それにさっきはエミリィーが居たから多少の安心感があったが、今度は自分がリードしなくてはならない。
そう思うと余計にプレッシャーがかかる。
ふとナターシャの方に目をやると、彼女は勇気以上に緊張した面持ちで、注意深く後ろで足を進めていた。
道具袋に入ったままの右手が、彼女の警戒心を明らかなものにしている。
おそらくその手にはナイフか何かが握られているのだろう。
とりあえず場を和まそうと、勇気が口を開こうとしたとき、ナターシャがそれより先に口を開いた。
「…ねぇ、勇気。ここにエミリィー姫がいるの?」
「え、ナターシャ、もしかしてびびってる?」
勇気はそれにからかい気味に答えた。
場を和ませようとしたのだ。悪魔でそうしようと思っただけだった。
だが、彼女は立ち止まると、勇気の方を睨みに近いような目線で見据えたまま、道具袋からナイフを取り出し、その刃先をこちらへと向け、きつい口調で言い放った。
「いいから答えて!」
勇気は何故彼女が急にこんな態度を自分にとるのかに驚き、やや戸惑い気味にそれに答えた。
「え?う、うん。いるけど?」
「本当でしょうね?」
勇気はそう言う彼女の疑り深い目を見て、ピンときた。
自分はどうやら不審者と思われてるらしい。
そりゃ、不審に思うわな。姫がこんなとこに居るなんて、普通に考えたらあり得ない。
怪しいとこに連れられたのかも、と思いもするだろう。
でもなんて言えば信じてもらえるのか、いい言葉が特に思いあたらないので、とにかく正直に言った。
「怪しむのもわかるけど、本当なんだ。」
「う、うん。」
「俺を信じて。」
勇気のその言葉を聞いて、ナターシャは少しためらったものの、ナイフを再び道具袋の中へと戻し、頷いた。
「わかったわ。」
勇気が情報屋の前で立ち止まると、ナターシャは少し距離を置き、後ろで立ち止まった。
やはり信じたと言ったものの、警戒は解いていないようだ。
まぁ、それは仕方ないか。
「うおーい!エミリィー!」
勇気が『裏街道』の情報屋の扉を右手の拳をあてて言いながらどんどんとノックすると、しばらくの間の後、きぃぃと言う音を立てて、扉が開いた。
「何よ?もう戻ってきたわけ?」
扉を開けたのはナターシャが探し続けた情報を持つという、他ならぬエミリィー本人だった。
その姿を見ると、勇気はほっと胸をなでおろした。
サムが出てきたら、ナターシャに帰られるかも、と思ったからだ。
なんせ、奴は怪しいオーラを見るからに放ってるからな。
「え!?エミリィー姫!?ほ、本物!?」
そしてそれと同時に後方でそんな声がした。
それは疑いの声ではなく、喜びの入り混じった驚きの声だった。
勇気はにっこり満足気に笑って後ろに向き、それに答える。
「ああ!言ったとおりだろ?」
しかし、その瞬間ぼかっとにぶい音がして、頭に激痛が走った。
「いってーー!!」
勇気が声を上げるのにも構わずに、エミリィーは思いっきり怖い目つきでこちらを見て、静かに、でももろに怒った口調で言った。
「貴方…ケンカ売ってるの…?」
それに勇気は向き直り、おそらく頭に走った激痛の原因だと思われる、エミリィーの強く握られた右手の拳をを見て、痛む頭を片手で抑えつつ反泣きで彼女の行為に対し抗議する。
「『ぐー』は痛いっすよ。『ぐー』は!せめて『ぱー』に…。っていうか、暴力反対。」
「黙りなさい。」
しかし、その勇気の抵抗も彼女のその鋭い声によって無力と化した。
「は、はい!」
挙句エミリィーの恐ろしい目つきに、勇気は大きく返事をして、その場で思わず正座した。
「むやみに私と知り合いだって言うなって言ったわよね?私。もう忘れちゃったわけ?よほど小さい脳なのね。同情するわ。いや、ほんっとに。」
同情してると言いつつ、エミリィーのその顔はそんな風には見えなかった。
(やばい。かなりマジで怒ってる…。)
勇気はエミリィーのその表情からそう悟った。
しかし、それも覚悟の上だ。事情を説明さえすれば、エミリィーだってわかってくれる。
勇気は自分にそう言い聞かせると、エミリィーを見据えて言った。
「けど、これには深い事情があるんだ!だから、その…怒らないで聞いてくれ。」
しかしエミリィーはそこまで聞くと、期待はずれな言葉で返した。
「深い事情でも、浅い事情でも、言った事実はかわらないのよ、勇気君。というか、怒りもするわよ。こっちは情報集めで忙しいっていうのに、貴方は街にナンパしにいってたってこと?やるじゃない。プレーボーイ。で?あの世に行く前に言い残すことは?」
その上エミリィーはそういって腰に挿している剣の鞘から鋭い刃を取り出し、その先を勇気の前につきつけた。
その瞬間、冷や汗が勇気の頬をつたい、本能の示す危険反応が、さっき裏通りを歩いていたときと比べ物にならないくらい高まった。
エミリィーは本当に何をしでかすか分かったもんじゃない。
それはあの地獄の修行でよーく思い知らされていた。
「ごめん!ごめんなさい!!俺が悪かったです!それは百も承知です!はい!」
そう思って、土下座をして謝る勇気に何か言おうとエミリィーが口を開いた瞬間、別の声がそれをさえぎった。
「待って!エミリィー姫様!私が悪いんです!どうしても、貴方に会う必要があって!!」
そう、ナターシャだ。
彼女もエミリィーが本気で怒っていると悟ったか、目が必死だった。
エミリィーはそれを聞くと、ため息を一度ついて聞き返した。
「会う必要?」
「は、はい!私、貴方にあることを伺いたくって、ここまできたんです!」
そう言われると、心当たりがあるのかエミリィーの表情が真剣な表情に変わった。
そして、考えるように右手をあごに添え、少しうつむき加減でしばらくじっとしていたが、やがて視線をナターシャの方へと戻しこう訊ねた。
「内容は、2週間前の事件?」
「え?あ、はい!」
彼女の答えにエミリィーはまた少し考えて、無表情に戻り、ゆっくりと口を開いた。
「冗談はさておき。」
(さっきのは冗談って言うのだろうか…。)
勇気は心の中で一人つぶやいた。
冗談とは、ふざけて言う言葉、またはたわむれに言う話の意味だ。
もう剣を突きつけられた地点で、おふざけでも、たわむれでもないと思うが…。
そう思いつつも、エミリィーの話に耳を傾ける。
「私、本当に今忙しいのよ。悪いけど、後にしてくれる?」
ナターシャはそう言われると、さっきまでの子供のような可愛い笑顔からは想像もできない、まるで仇を見るような目でエミリィーをきつく睨みつけ、怒りのこもった大きな声をあげた。
「そんなこと言って、私を追い返そうたってそうはいかないんだから!今までさんざん門で追い返されたのだって、あんたが仕組んでたんでしょ?けど、そんなことしても無駄!私は絶対に諦めない!あんたが教えてくれるまでこっから一歩だって動かないわ!」
エミリィー本人はその言葉にまったく動じず無表情のままだったが、勇気はその言葉に驚きの表情を隠しきれなかった。
エミリィーのことをあんた呼ばわりしていることにももちろんだが、そうとうな勇気がなければできない行動だったし、何よりその顔が今までのナターシャからは想像もできない表情だったからだ。
それほどまでに、ナターシャの決心が固いのだと勇気は思った。
エミリィーは前髪を右手でかき上げて、やれやれといったようにため息をつくと、大きなナターシャの声とは正反対の静かな声で言った。
「何か勘違いしてるようだけど…。私は貴方を追い返したつもりもこれから追い返すつもりもないわ。ただ、本当に今は手を離せないの。私もある情報収集をしていてね。もう少しでそれがつかめそうなの。貴方の話は後でちゃんと聞かせてもらうわ。」
ナターシャはそう言われると口をつぐんでそっぽを向き、何か考えているようだった。
多分、その言葉を信じていいかどうか迷っているのだろう。
ナターシャにしてみればやっと訪れたチャンスであり、もう二度と訪れない可能性があるチャンスだった。
ここでやすやすと引き下がって、それが嘘だったときのことを考えれば、今聞き出してしまいたいのだろう。
「勇気。」
と、その時ふと自分の名前を発音する鋭い声が頭上から降ってきて、体がびくっとなった。
「は、はい。何でしょう?」
勇気が体をぴんっと伸ばして、正座のまま姿勢を整えると、エミリィーは静かに言った。
「そういう訳だから、あの方をお城にお連れして。いいわね。」
それに返事をしようと勇気が口を開けようとした瞬間、
「話しを聞いてくださるんですか?」
と、少し驚いたような声が、後方から聞こえた。
「貴方が聞きたいって言ったんじゃない。言ったでしょう?追い返すつもりはないと。私は約束を破るほど性格腐ってもないわ。」
「あ、ありがとうございます!それとさっきはその…すみませんでした。」
ナターシャは申し訳なさそうな顔でぺこりとお辞儀した。
(素直な子だよなぁ。)
自分の思いを偽ることなくぶつけることができる彼女に、勇気は尊敬した。
自分が間違っていたことを素直に認めて謝ることってなかなかできないと思う。
「いいのよ。誰だって勘違いくらいするわ。」
エミリィーはというと無表情のままそう返した。
もうちょっと微笑んでやるとかすればいいのになぁ。
そしてついでにこうぼやいた。
「まったく…。今は勇気の手もかりたいぐらい忙しいのに…。」
勇気はそれにすかさず反応し、ついでに疑問を投げかけた。
「それ、どうゆう意味ですか。ってか、だったら初めから手伝わせてたらよかったじゃん。」
正直ちょっと疑問だった。
情報収集に行くってことでついてきたのに、エミリィーは勇気にそれの手伝いらしい手伝いはさせなかった。
ついてこさせた意味が全くもって理解できない。
その質問にエミリィーはこう答えた。
「こっちにきてから、修行ばっかりさせてたからね。たまには社会見学もと思ったのよ。まぁ、実際やってたのはナンパだったわけだけど。」
「ナンパじゃねーよ!!たまたまだっ!」
(何か勘違いしてるのはそっちだっての!)
勇気は心の中でも同時に突っ込んだ。
エミリィーは(多分)からかっているだけなのだろうが、街を見に行くと装って、目をつけていた女の子に声をかけに行ったなんていう表現をされることがあまりに不本意で、思わず必死に言い返してしまった。
「あー、そうですか。じゃあ、頼んだわよ。」
しかし勇気の必死の言葉もエミリィーは適当にあしらい、扉をばたんと閉めて店の中へ戻っていってしまった。
(ちくしょー。)
何だか悔しい気分になって心の中で一人そうつぶやく。
それにしても、エミリィーが俺を連れてきたのは、俺に気を使ってのことだったとは…。
本当に怖いんだか、優しいんだか…。
閉まった扉をじーっと眺めてると、突然背後から手が伸びてきて、ぎゅっと抱きしめられた。
「わっ!」
勇気は驚いて声を上げるが、ナターシャはそれを気にした様子もなく、子供のようなはしゃぎ声で言った。
「ありがと!勇気!!信じて正解だったわ!」
「まったく…。」
エミリィーはそうぼやいて、ため息をついた。
(やけに帰りが早いと思ったら面倒事を引き連れてきてたなんてね…。)
まぁ、今回のこの面倒事は吉なのか凶なのか微妙なところだが、おかげで一つ分かったことがあった。
そういった意味では良かったのかもしれないが、分かったことが良くないことだから、気分的にはやっぱり凶だ。
そんなことを考えながら作業部屋に戻ると、
「一般人に剣を突きつける王女かぁ。うーん、ネタになるかねぇ。」
と、サムがエミリィーを横目で見ながら、頭の後ろで手を組み、座る部分が回転するお気に入りの椅子に座りながら、からかい気味に言った。
「何よ。見てたの?」
無表情に言い放ち、エミリィーはサムの正面に座ると、前にある作業台の上に置かれた機械を慣れた手つきでいじりはじめた。
サムはその様子を横目で見つつ、その質問に答える。
「当たり前でさぁー。いろんなものに常に気をつけて見ること。情報屋として基本行為ですぜ。」
しかし、せっかくサムが答えたにも関わらず、エミリィーはそれを「何でもいいけど」と言って流し、少し彼を睨んで新たな質問をぶつけた。
「2週間前の事件の情報をばらまいたの、貴方でしょ?」
エミリィーにとっては『見ていたこと』なんて本当にどうでもよく、そしてこの質問はとても重要なことだった。
そう、これが分かったことだ。
サムは勝手に機密をもらしていたのだ。
七聖士のことと同様、2週間前の事件の真実は一般の人々には知られていないことだった。
なのにサムは偶然その場に居合わせたため、そのことの一部始終を知っている。
その上サムは、エミリィーの情報集めをするために、星が機密にしているある程度のことを教えられてもいた。
もちろん、すべてを教えているわけではなかったが、ばらされてはかなり面倒なことになる。
サムは強い味方でもあるが、それ以上に危険な人物だった。
だからエミリィーは、この男に一度だって心を許したことはない。
いや、あの時からサム以外の人間にだって心を許した覚えはないのだが…。
しかし、こちらの気持ちとは裏腹にサムはにっと笑って答えた。
「まーね。仲間には全員教えときやした。」
その言葉を聞くと、エミリィーは作業を続けていた手を休め、サムと話しをすることに神経を注いだ。
「やっぱりね。おかしいと思ったのよ。私がルギータに会ったなんて知ってるのは、あの時その場にいた貴方とお母様ぐらいのものだもの。」
「いやぁー。あれには驚きましたよ。ホント。」
ふざけたように笑うサムの顔をエミリィーはさらに睨みつけた。
自分の立場がわかっているのだろうか?もし、それが本当であれば、刑務所50年は免れない。
それが本当だとしてもエミリィーは彼を刑務所送りにするつもりはなかった。
大事な情報源だ。そう簡単には手放さない。
たとえ共犯となっても彼を守るつもりだ。第一、巻き込んだのは自分であるわけだし。
だが、法律はそれを許さない。
エミリィーはただの姫。女王の修行中の身であり、それ以上でもそれ以下でもない。
エミリィー本人にはまだ、何の権限もないのだ。決めるのは現在女王である、クリス女王。
彼女にもしそれを知られたら、エミリィー本人だってどうなるか分からない。
エミリィーにとって彼女は、師匠であり、義理の母(姫となると王を親として育つ)なわけだが、情でどうにかなる問題ではない。
なのにこの男のこのおちゃらけ様。エミリィーの癇に障るのも無理はなかった。
エミリィーは一度、鼻で小さくため息をつくと、きつい口調で言い放った。
「貴方、自分のしたことがどんなことか分かってるんでしょうね?機密をばらしておいて、よくそんな顔ができるものだわ。」
その少しでも下手なことを言えばどうにかなりそうな、緊迫感あふれるエミリィーの言葉に、流石にびびったか、おちゃらけた顔から少し焦った表情になって、サムはエミリィーをなだめるように言った。
「まぁ、まぁ。落ち着いて。俺はなにも、すべてをばらした訳じゃありませんって。『ルギータがこの星に現れた』ってことを仲間に話しただけです。それだけですよ。後のことは何も話してない。もちろん、貴方の前に現れたってこともね。」
「よくそれでその仲間が納得したわね。」
「いやぁ。後はそれに作り話をくっつけておきやした。『ルギータは現れたけど、すぐに追い返すことに成功。星はそいつの手がかりを持ってるやつに多額の賞金を渡すそうだ。』ってな感じでね。星にいる強い奴らってのは、大抵俺たちと繋がってるもんだ。強いモンスターの情報を誰よりも早く入手し、その賞金を手に入れるために。そいつらがルギータと聞いたら食いついてこないわけないでしょ。だから、その情報に食いついたやつがいたら知らせてくれって言ったんです。今のところ七聖士=強いってことぐらいしかわかってないんだし、地道にそーゆーことをやってくしかないじゃないですか。その奴らにあの玉を近づけてみればいつか当たるかもしれないでしょ?」
「けど、あの子は私がルギータに会ったと知っていたわ。」
「その情報源は絶対俺じゃねーです。こーみえても、俺は馬鹿じゃあない。そんなことをばらしていいか悪いかくらい、見分けれますよ。」
エミリィーはしばらくサムの目を見たままだった。
彼が嘘をついているのかどうかを目を見て判断しようとしたのだ。
だが、彼の目はそれを嘘だとは語っていなかった。
動揺はしているものの、自分の言っていることには自信があるようだ。
目線を反らそうともしないし、目が泳ぐこともない。
ただ困った表情をこちらに向けて黙っているだけだった。
エミリィーは彼が嘘をついてはいないと判断すると、静かに口を開いた。
「…疑ったりして、悪かったわね。けど、勝手にそういうことしないで。今度からは私に相談して。」
サムはそれを聞くと一瞬のほっとした表情の後、後の言葉について講義をした。
「本当はするつもりだったんですぜ?けど、エミリィー様はどっか出かけてるし、おまけにいつ帰ってくるかも分からないんじゃあ、行動しようもなかったんですよ。それを言うならエミリィー様も俺のこともっと信用してくださいよ。今のじゃあ、ちと情報不足だ。せめて連絡ぐらいすぐ取れるようにはしてくださいよ。」
「そう。悪かったわね。」
だが、エミリィーはそれに少し噛み合わない返事を返しただけだった。
というのも、エミリィーはサムの話を半分くらい聞いてなかったからだ。
もうエミリィーの頭の中は別のことでいっぱいだった。
(だったら一体、私とルギータが会ったってことを誰が教えたっていうの…?)
(何にしても一件落着だよな。)
勇気はスキップをしながら、上機嫌に自分の前を行くナターシャを眺めながら思った。
ナターシャはさっきからずっとそんな感じだった。
幸せそうだと言えば聞こえはいいが、浮かれすぎといっても過言ではない。
人目も気にせず鼻歌にしては大声すぎる鼻歌を歌っているし、人ごみの中でスキップをするもんだから、何度も人とぶつかっている。まぁ、彼女がにっこり笑って「ごめんなさい」と一言謝れば、許さない人はまずいないのだが。
(城に着くまでに事故に会わなきゃいいけど…。)
そんな彼女を見て、そう思わずにはいられなかった。
(それにしても2週間前の事件って何だったんだろう?エミリィーのあの真剣な表情からして、気軽に聞けることじゃないんだろーなぁ。後でエミリィーに聞いてみるか。)
勇気がそんなことを考えていると、ナターシャが少し人通りが少なくなった広場で足を止め、くるりと回ってこちらを向き、明るい声で言った。
「ねぇ!これからすぐに城に行っても、しばらくは姫様戻ってこないんでしょー?」
「あー、多分。」
ちゃんとした時間は聞いていないが、あの時「忙しい」って言ってたし、きっとまだ調べものがあるのだろう。勇気のその言葉に、ナターシャはさらに明るくなった声で言った。
「じゃあ、じゃあ。私と一緒にこれからデートしようよー!お礼もしたいし!」
「は、はぁ!?」
思いもしなかった言葉に思わずそんな言葉で返す。
(急にそんなこと言われても…っていうか、エミリィーが帰ってきたときに城にいなかったらものすんげー怒られると思うんですけど…。)
勇気がそんな自分の思いを発言する前に、ナターシャは勇気の腕に自分の腕を絡ませて、
「いいじゃない、いいじゃない。何か美味しいものでもおごったげる!ね、ほら行きましょ!」
と、強引に引っ張り始めた。
「ちょ、まっ、引っ張るなって。」
5話へ続く
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■作者からのメッセージ
4話目です。最近忙しく、なかなか更新できませんが…。見捨てないで、読んでくださるとありがたいです!!3話目まではHPのほうに載せてあるので、読み返しの際にはそちらもご利用ください。HPの方は少し読み返しにくいかもしれませんが、もう少ししたら見やすくしますので。
すみません…テスト勉強で忙しかったんです…。orz更新だいぶ遅れてしまいました。