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『ピアノの森』 作者:永遠 / ショート*2
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「皆様、ご覧下さい。あの、黒い影絵の様な森が、ピアノの森、と呼ばれる森で御座います。
 ……さて、わたくしがこんなに森から離れて森をご紹介いたしますのも、理由が御座います。
その理由故、あの森はとても不思議な森なのです。
こんなところにひっそりとあるには惜しいくらいの、とても不思議な森なのです。
 これから、ゆっくりとご説明してからあの森へとご案内いたします故、どうかしばらくわたくしのお話にお付き合い下さいませ。

「まずは、わたくしが森から離れてあの森のお話をする理由から参りましょうか。
 皆様、信じがたいことではあるとは思いますが、あのピアノの森は、音の無い森なので御座います。
音の無い、と申しましても、郊外にあり煩くないと言う意味では御座いません。
全くの言葉どおりに、あの森に入ると、一切の音は聞こえなくなってしまうのです。
 森の中に入ればもちろん、森の近くも音が聞こえにくくなっております故、奇妙なことですが、
わたくしどもはこうして森から遠ざかったところでご説明させていただいております。納得していただけたでしょうか。
 あの森は、名前はピアノとついてはおりますが、あの森の中でいくらピアノを弾いても、誰にも聞くことは出来ますまい。
音と言う音は一切、どんなに大きな音でもあの森の中では無効になってしまうのですから。

「それだけでは御座いません。ピアノの森は、また、色の無い森でもあるのです。
先ほどわたくしはあの森を“黒い影絵のような”と表現いたしましたが、それは非常に言い得て妙な表現なのです。
 皆様は、一度は影絵をご覧になったことがおありでしょう。
影絵と言うのは、影だけで物を表現いたしますから、色は付いていません。
それと同じで、あの森の中には色が御座いません。
例えるならば、あの森の中の景色は、モノクロオムの写真の様なのです。感じが、分かっていただけたでしょうか。
 左様な理由故、あの森は闇の無い森とも呼ばれております。
色が無く、光の明暗のみで構成される景色を持った森ですので。その全ての景色は、光によって形作られているのです。
ですから、光だけがある、つまり闇が無い、と言いますのが由来で御座います。

「さて皆様、森の話ばかりで、さぞかし退屈されていることでしょう。
そろそろお話はおしまいにいたしまして、いよいよピアノの森の中へご案内いたしましょう。
 先ほど申し上げたとおり、あの森は音の無い森です。
ですから、お連れ様とのお喋りや、わたくしへの質問等は出来なくなってしまいますが、今のうちに何か御座いませんか?
……ないようですね。では、参りましょう。

「さあ、森に近 いてきま たね。
 そ  は 様、森を抜 るまで、ご げんよ 」
2005/06/08(Wed)20:39:52 公開 / 永遠
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■作者からのメッセージ
掴み所のない森の、掴み所のない案内人によるお話ですが、
世界の雰囲気に浸っていただければ幸いです。
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