- 『【曲名のない旋律】 』 作者:チェリー / ショート*2
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少女はピアノの椅子に座り、なにもせずにずっと黙っていた。楽譜がけには白紙の楽譜が置かれている。まだ真新しく、書かれていた様子もない。視線を窓へ。まだ時刻は4時。太陽の光が部屋の中を覗いている。光を映し出すピアノは音を出す事はない。ただ沈黙を続ける。
――キミは天才だ!
ふとあまたをよぎるいつかの言葉。天才ピアニスト、リース・セフファング。弱冠14歳にしてコンクールを総なめ。17歳で世界一に輝いた。
―10年に一度の逸材―
昔はそう呼ばれていた。しかし今ではどうだろう。リースはピアノをもう半年も弾いていない。
――調子が悪いだけ。また弾けるはず
リースはそう自分に言い聞かせるが、結局半年も経ってしまった。作曲家に楽譜をもらって弾いてみようとするが楽譜を見た時点でなにかが心から抜けてしまうのだ。そのなにかは自分が知ってるはず、そう思って作曲をしてみた。リースには作曲などたやすいものだった。いくつでもオリジナルの曲を作れる。しかし、それらすべて楽譜を見た時点でやはり同じ感覚に陥ってしまう。
なにがリースの心を刺激するのか、なにがリースを動かすのか。楽譜は答えを言うわけではない。リースは楽譜を手ではじいた。宙を舞う数十枚の楽譜。リースは席を立って窓へ向かった。
石造りの建物がずっと並んでいる。右を、左を見れば果てしなく続くように見える。2回から見る風景はあまりにも平凡すぎる。しかしリースはあきもせずただ外を見つめる。まだ春になったばかりで木々の葉はすこし少ない。人々は数人が歩いている程度。リースは腕時計に目をやる。そろそろ30分を過ぎる頃。そして視線をまた外へ。
――来た
毎日同じ時間にこの歩道を通る青年。いつも忙しそうに走っていて、古い感じのリュックを背負って息を弾ませながらここを通り過ぎていくのだ。銀髪・・・・・・。おなじ地域の生まれではないのかもしれない。ここの生まれのひとは皆金髪である。
リースはふと青年の背中に目が止まった。なにか紙のようなものがくっついている。いや、リュックからすこし出ているのだ。リュックのチャックが壊れているようだ。ここからから見てリースは結構古そうなのでかなり年季が入っているものとみた。
すると窓が震えだす。地震?いや、地震ではない。歩道の木々が左右に勢いよく揺れだした。そしてなにやら青年は声を出した。リースは見てみると紙が飛ばされているのだ。風に乗ってどんどん上空へ。その紙の一枚が窓の張り付いた。
「・・・・・・楽譜?」
紙は確かに楽譜だった。青年は作曲関連のなにかをしているのだろう。リースはその楽譜を見るや、なにか心惹かれるものを感じた。
――弾いてみたい
リースは直ちにピアノの椅子に座った。鍵盤に指を置いた。楽譜はもう記憶した。リースは指を動かした。美しい旋律。流れる音。途中までしかないのですぐに演奏は終わってしまったがいつまでもリースの心にはその音楽は響いていた。なぜ、こんなにこの楽譜に惹かれたのか、それはわからない。
窓の外から拍手が聞こえてくる。リースは窓を覗くと青年が笑顔で拍手していた。リースはすぐに窓を開けて青年に言う。
「楽譜を、もっとあなたの楽譜を見せてください!」
「ええ!喜んで!」
青年は急いで楽譜を拾い始めた。おもわずリースは外へ駆け出した。一緒に楽譜を拾った。どれをみてもとても美しく思えるその楽譜。
「ぼくの名前はアルレッド・アーセル。君の名前は?」
「リース、リース・セフファングです」
アルレッドはリースという名前を聞いて驚いた。表情が笑顔になり、突然握手してきた。手をぎゅっと握り、上下に勢いよく振ってアルレッドは喜びを隠せない。
「あなたに弾いてもらえるなんて光栄です!まさかあなたがあの天才ピアニストだったなんて」
アルレッドも窓から覗くリースに気づいていた。ピアノの音が聞こえてこないため彼女がピアニストだなんて思いもしなかったアルレッド。
楽譜を拾ったはいいものの、数枚はどこかへ飛ばされてしまったようだ。リースはアルレッドを自分の部屋へ招待した。普段はリースの稽古部屋のピアノしかないこの部屋。家は別にあるので家族はここにはいない。
「今なくなった楽譜を書きますので、すこし待ってください」
リースは床で黙々と書いているアルレッドをしゃがんでずっと見た。真剣なまなざしの彼には楽譜と同じくらいに魅かれた。
「できました!どうぞ!」
リースは楽譜を受け取る。アルレッドと目が合い、心臓の鼓動がすこし高鳴った。
「う、うん!これの題名は?」
「あ、まだ決めてません・・・・・・。なかなか思いつかなくて」
笑みを見せるアルレッド。リースは早速椅子につく。もうあのときのような感覚はない。今はピアノを弾きたくて仕方がなかった。しかしこの曲は本当にすばらしいものだった。愛が満ちたような、そして愛をまた求めるようなこの曲はもうリースの心を動かした。弾いているうちに涙が瞳からこぼれる。あまりのすばらしさに感涙したのだ。しかしそうしてこのような逸材が無名のままなのだろうか。演奏が終わった。
「どうしてこれほどまでの作品を作るあなたが無名なのですか?」
「ええ、実は家庭的にいろいろとありましてね。ちょっとそれで発表が遅くなったんです。実は今日これをもっていって発表しようとしてたんです」
貧しい作曲家の卵にはよくあることだ。作曲した作品も発表するとなると、審査などを通らないといけないためいろいろと費用がかかる。毎日走っていた理由は仕事だったようだ。しかし今日は仕事ではなくこの楽譜の発表のために走っていたのだ。
「お金もそろったのでこれから見せに行きます。いつかまた弾いてくれますか?」
リースはその言葉に笑顔で答える。
「ええ、もちろんです!」
リースの心にはいつしか弾きたいという気持ちがあふれていた。なにが足りなかったのか、それはリースが誰のために弾くのかということだったのかもしれない。楽譜を見たとき、彼が書いたということで、彼のために弾きたいというのが無意識に出ていたのだろう。リースは自分でも気づいていなかったようだ。毎日走っていくアルレッドに、本当はずっと前から心が惹かれていたということに。
そして翌日。リースは家でTVを見ていた。もしかしたらもうすでにアルレッドの作品が騒がれているかもしれない。そう思っていた。しかし――
『昨夜、音楽館近くで人身事故が起こりました。死亡したのはアルレッド・アーセル氏、19歳。彼は音楽館に作曲した楽譜を発表しようと――』
「し、死亡・・・・・・?」
まさかそんな・・・・・・と声を失うリース。顔写真も出て、見る限り彼に間違いなかった。体のちからが抜けてでもうなにも考えられなくなるリース。
『彼は病院に運ばれた時に掴んでいた一枚の楽譜に『Deer Rith』と書いてたということです――』
Deer Rith?リースは我に返った。そして数時間後、リースの元にアルレッドの楽譜を持った音楽協会の者達がやってくる。
「この曲をあなたに、と」
リースは楽譜を受け取る。くしゃくしゃになってしまっている楽譜。血がついたものは仕方なくほかの紙にうつしたようで紙の質がすこし違う。リースは涙を流してその楽譜を抱きしめた。
―そしてそれから半年後
500人はかるく入る大きなホール。観客は満席だ。ステージにはピアノと、リースがいる。ライトスポットがリースに集中する。
「皆様、お集まりいただき誠にありがとうございます。この作品は私の人生で、最高の作曲家が作った作品です。作曲は今は亡きアルレッド・アーセル。聴いてください」
リースはピアノの椅子についた。今でも心の中に残る彼との出会い。会ったのはたったの1日。しかしリースにとってその1日は永遠だ。いつまでも心の中には残るのだから。そして人々の心の中にアルレッドという名が刻まれていくのだ。この旋律にリースはいくつもの想いを乗せる。アルレッドに聞いてほしい。いつもより強く鍵盤を叩こう。遠くにいても聞こえるように、どこにいてもかならず聞こえるように。聞こえたのなら題名を教えて。私には題名をつけることはできない。これはあなたの最初の作品だもの。
「曲名をあえていうならば・・・・・・【曲名のない旋律】」
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2005/06/02(Thu)02:04:44 公開 / チェリー
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■作者からのメッセージ
はぁすみません。こんな作品で。なんだかうまくできなかったなぁ。おそらくわかりづらいかと。そしてなんだか変な作品かと。ぼぉとCMみてたらなんだかこういうのが浮かんだだけですので(何 まったくこんな作品書いて申し訳ありません(泣 全然へたくそバカヤロウ作品で申し訳ありません。なんだか書きたいなぁと思って書いただけなので。ご指摘・辛口・アドバイス等をよろしくお願いします。あっちの作品の感想の返事はなんだか今日は無理しすぎたのでかけません。すみません。では失礼します。