- 『死にたくなる様な夏』 作者:新先何 / アクション アクション
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全角3313文字
容量6626 bytes
原稿用紙約10.5枚
始
蝉がうるさい、蚊もうるさい、人もうるさい夏。
太陽が眩しい、アスファルトが眩しい、ビルのガラスが眩しい夏。
ここから逃げたい、ドスやチャカから逃げたい、死にたく無いから逃げたい夏。
俺の間違いは一人の友人の頼みを聞いてしまった事。
そんな夏。
問
「ポップコーンは何故白いでしょう?」
若手芸人が集まり難しいクイズを出され最終的に罰ゲームで盛り上げる、そんなクイズ番組を見ていた。外は天から降り注ぐ放射熱のせいでサラリーマンはハンカチを常に動かしている。俺は壊れかけたクーラーに無理を言わせて、そこそこ涼しい部屋でぐったりしていた。そんな矢先にサンペ―が電話をかけてきた。
鼠のサンペー。本名・大和三平 歳・俺と同じ つながり・同級生。
あだ名の由来は簡単、借金取りから鼠の様に逃げるから。実にシンプル、嫌いじゃない。
そのサンペーが、久しぶりに俺の携帯に電話を入れてきた。ただ俺は、言ってきた内容よりさっきのクイズの答えが聞けなかった事にかなり腹を立てたのを覚えている。
「一晩かくまってくれ。今かなりヤバくてさ、兄さんたちも聞いてくれないんだよ。まじでお前だけなんだよ最期の命綱が。いつかこのかりは返すから、な。じゃ宜しく」
俺の返事を聞く前に電話を切られた。上手い手、俺も今度人にもの頼むときに使ってみよう。
その、約一分後荷物を持った鼠が家にやってきた。近くの公衆電話からかけてきたらしい。用意のいい奴。
「久しぶり、タケ」
やっと出てきた俺の名前、猫屋剛志。
「なあ、サンペー」
鼠はリュックサックを肩からおろし、俺の冷蔵庫からいつのまにかとったジンジャーエールをラッパ飲みしながらこっちを向く。
「なに?」
「ポップコーンってなんで白いんだ?」
「知るか、俺はポップコーンとは何の関連性もないからな」
鼠は俺のキッチンで食いもんを探してた。
「でもポップコーンならここにあるぞ」
本当鼠みたいな奴。
鼠
日本は進化し過ぎている。ICチップだかなんだか知らないが、片手で潰せられるくらいのおおきさの物に様々な情報を入れられるなんて誰が考えた。
進み過ぎた技術のせいで鼠は大変な事になったのだ。
「本題に入るけどいいか?」
鼠が真剣な顔つきをするが、手からポップコーンは外さなかった。
「本題?泊めてくれって話だろ」
「違う、預かってもらいたいものがある」
鼠はジーンズのポケットから真空パックにいれたそれを出した。
「なにこれ」
鼠は得意げに言う。
「ICチップ」
「ふーん」
「ふーんっておかしいだろ。もっとさ『何のチップ?』とか『何が入ってるの?』とか聞けよ」
必死に喋る鼠。よっぽど言いたいらしい。
「いいよ、話して」
「じつわな、これ犬闘会の全データが入ってるんだ」
興奮していて飛ぶツバがうざったい。犬闘会と言えば、ここら辺を縄張りにしているヤーサンだ。やくざ絡みかよ。
「なんでそんなもの持ってん?」
「話し合いでちょっと犬闘会に行ったら落ちてた」
落ちてたってバカかこいつ、いやでも鼠に拾われる様な犬闘会のほうがバカなのか?
「で、どうしろと」
「持ってろ、俺はこれからハワイに行く」
夢見る鼠。
「やっかいごとを俺に押し付けて自分はバカンスかよ」
「大丈夫、お前のことは俺の近辺洗っても絶対出てこないはずだから」
「はずって無責任すぎるだろ」
「じゃ、そゆことで。いざ行かんバカンスの国へ」
「もう行くのか?」
鼠はさっきの荷物を持ち、立ち上がる。顔は何処か嬉しそうだ。
「そ、チップ無くすなよ。それかなりの値段になるから売るとこ売れば」
それが鼠と会った最期の日で鼠の俺との最期の言葉だった。
まいったね、犬は苦手だ。
男
さて、何をしようか。といっても、もう思いついているんだけどちょっとためらう。まず俺のやるべき事はチップの中身を確かめる事。鼠の事だから信用出来ない、だから俺はある奴に電話をかける必要がある。でも奴が奴だけに電話をかけようとするのだが手が動かない。だが、やらなくちゃ物事もこの話も進まない、俺はいまだに白黒画面の携帯を取り出し短縮を押した。やっぱり最新機種とかのほうがモテルんだろうか。
「はーい、珍しいわねタケちゃんから掛けてくるなんて。嬉しいわ」
3コール位で出たちょっとトーンの低い女口調のせいで俺の背中と頭は冷や汗の湖になっていた。
「そんな訳じゃ無いですけど、トノさん見てもらいたい物があるんですけど今からいいですか」
「あら、仕事の話ね。全然いいわよ、タケちゃんなら全然OK」
「ありがとうございます。今からそっち向かうんで、トノさん今家ですよね」
「そうよ、早く来てね」
最後の声が終わらないうちに俺は携帯を切った。あの人の声は俺の汗せんをしぼりまくるのだ。
まあ、チップの中身を知るためにはしかたない。俺は生き地獄へと足を運ぶ。タオルはいくつ持ってけばいいのか。
兎野中鉄、俺がやる事も無く街をブラブラしている時に出会ったのがトノさんだった。冬の寒さの中トノさんは露店をやっていた。錆びた鉄の机の上に並べてある綺麗なハンカチに見とれて足を止めてしまった。
その時のトノさんは凄く綺麗で、実際トノさんの家に行くまで女だと思っていた。頑張って口説こうとしてトノさんの家まで行ったのだが、話たい事があるのと言われ向き合った途端あれを見せられた。あれっつったらあれだ、男特有のね。
それがトラウマになり今でもトノさんと話すだけでいろいろな所から汗が出てくる。今からトノさんと二人っきりの密室に行くなんて死ぬんじゃ無いか?
トノさんの家は俺の家から歩いて十分程度の所にある安アパート「コーポTHEスーパーマン」。この名前付けた奴の顔が見てみたい。
アパートの2階にあるトノさんの城。
インターホンを押し、中から妙に色っぽい声が聞こえる。もう汗がヤバい
「待ってたわよ、タケちゃーん」
勢い良くドアを開けたトノさんが抱きついてきた、そのままキスをされる俺。そういえば俺のファースとキスもトノさんだった。マジで死にたい、さらば俺。
女
午後4時、俺の身体の中の水分は全て汗となり新品のアディダスTシャツを水浸しにしていた。これヤバイだろ、世界新でてんじゃないの?汗の量でギネス載れるかもしれない。という変な考えも出来ない位焦っていた。今俺の目に映っているのは裸のトノさん。
「トノさん、その、仕事の話しをしに来たんですけど……」
少しでもこの場を逃れようと仕事の話しを持ち出す。
「だーかーら、仕事の報酬を今もらおうとしているのよ。報酬はタケちゃんの身体」
強烈な右ストレートを喰らった感じ。ダメだこの人からは逃げられない、どうか神様今から刻まれる僕の記憶を消して下さい。
「そうだ、仕事が成功すればあの格好でしてあげますんで今はどうか……」
物凄いスピードでパソコンの前に移動したトノさんは、
「で、仕事の無い様は?」
とりあえずの延命処置……成功。俺は鞄からジップロックにいれてきたチップをトノさんに渡す。
「これ犬闘会の全データが入っているらしいんですけど、鼠からもらった物なんでいまいち信用出来なくて」
「つまりそれの中身が知りたい訳ね」
チップを見ながらトノさんはパソコンを起動させる。
「はい、じゃあとりあえず三日後にとりに来ますんでお願いします」
「ちょっと待って」
トノさんが俺を呼び止めた。危険な香り。
「少し位遊びましょうよ」
トノさんが床をはいながら近寄ってくる。
「いや、そのなんてゆうか、ごめんなさい」
急いで立ち上がり玄関へダッシュした。それに合わせトノさんもスピードアップする。走れ俺、ここで捕まったら死ぬぞ。次第に縮まりトノさんの荒い息づかいが聞こえる。ヤバイと思った瞬間手にがドアノブを見つけた。素早く開け一回転してからボロアパートの廊下を全力で走り抜ける。
「じゃ、そういうことで。トノさん自分はここらで失礼しまーす」
俺は、真夏のアスファルトに君臨するおかま型スーパーマンから逃げていく。今は、風呂に入りたい。
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2005/07/16(Sat)20:53:22 公開 / 新先何
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■作者からのメッセージ
自分の悪い癖発動中です。
更新がこまめに出来ないし更新してもほんのちょっとだけだし(鬱)ともあれ、今野生時代の青春文学大賞に応募するかYahoo!JAPAN文学賞どっちにしようか悩んでおります。誰かどっちに応募しようとしたか決めた人はいますか?それを含めて御感想、御指摘お願いします。
以上、新先でした。