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『喜ばしい話のはずだった。《読みきり/修正》』 作者:D-99 / 未分類
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この平和な2005年の地球には「ありえないこと」がある。
時のイタズラにはまってしまうことがこの地球にはあるようだ。
そして、はまった人間は時に「なぜだぁ〜!」と叫んでしまうことがある。

2005年 この物語は「東京のとある病院の病室」から感じたことだ。

突然、冒頭から言うのもなんだが
  「私、‥出産しました」
これは喜ばしい、メデテェじゃねェか! なのに、なのに、なぜか喜ばしくもなんとも思わない俺。
菅沼誠・エリート(だけど、未だに独身)。

不思議だった。
なんとも思わない、そんな自分が不思議だった。
出産、それは新たな生命が誕生する瞬間で、喜ばしいのだ。

のはずなのに、エリート組、またの名を「愛Love和久戦隊 - かずちゃんを愛す会 - 」の会員さんたちは「出産」という話にも動じず、ただただ仕事を遣り通していた。
 それはいいが、いい年して「戦隊」はないだろ、戦隊は。

俺は今日、この五月雨の中、行き帰り飲み歩いていた道路を今歩いている。
その訳はエリート(指導者)である俺にとって今日は最高に特別だった。
同僚の会社員である宮元和久(かずひさ)がこの度めでたく出産したということで、俺は愛する女(ひと)の元へと足を進める。
進めるのだが、これが俺だけならばまだしも俺一人が出かけたのではないと言うことをまず、言っておこう。
俺から見ても、他のエリート組からしても『エリートの中のエリート、男の中の漢(おとこ)、史上最強の指導者』と言われるお偉いさん。
つまり、権力を一番握り持ってる人物。
そんなお偉いさんがなぜかこの俺、つまり平凡エリートである俺の今は「お付き合いさん」なのだ。
周りから見れば、俺の、ではなく俺が「お付き合いさん」みたいな感じなんだけどね。
 ちなみに彼は「- かずちゃんを愛す会 - 」の会員ならぬ会長さん。

 時刻で言えば午前7時ジャストくらいだろうか。

俺はお偉いさんに連れられて来た先はとある病院だった。
病院名は『鹿直病院(しかじかびょういん)』。
 「ここですか、宮元和久のいる病院と言うのは」
宮元和久こと、かずちゃんは俺と昔からの幼馴染である。
そんでもって、かつ同僚かつ同い年なのだ。
俺はお偉いさんに、やっぱり連れられながら和久の待つ病室へと続く廊下を辿る。
しかも、看護婦さん曰く「宮元和久様の病室はこのフロントの脇を真っ直ぐ行って廊下の一番最後にありますよ」らしい。
実にわかりやすい説明だったので、看護婦さんの説明どおりの順序で廊下の一番最後にある病室目指して歩き出した。
 あった。2005号室‥て、年号かなんかですか、ここは。
ひそかに部屋番号にツッコミを入れつつ俺とお偉いさんは病室の中へと入る。

病室のドアを開けて直ぐ、目に来たのが4・5歳くらいの幼い子供。それから高齢者や車椅子の青年。
 そして、宮元和久。和久こと、かずちゃんは俺と昔からの長い付き合いである。
つまり、幼馴染。そんでもって、かつ同僚かつ同い年なのだ。
俺はそんなかずちゃんのめでたい日に限って最初に交わした言葉が、これだ。
 「ふぅん。‥で、それが何か」
初めての光景にどう接していいのか、こんなときなんていえばいいのだろう、
なんてことは一切考えていなく、ただ最初に発言したのが「それが何か」なのだ。
エリートと言えば、プライド高くて、いつも上で威張ってる指導的地位に入る人のこと。
俺はそんなに威張り散らさないけど、社長が俺らエリートよりも凄い威張るから、エリートも似たようなものみたいな感じに思われてる。
「本当は違うんだけどなァ‥てゆうか、似たようなもの」みたいな。
なのに、みんなエリートはみんなカリカリしてる。なんて思ってるらしい。
だからエリートって言う団体に入っちゃってる温和な僕(さっきの冷たい台詞からは考えられないほど)まで睨まれている。

   だが、唯一彼女だけは違った。
かずちゃんこと、宮元和久はそんなエリート(憎まれ組)に入る僕を幼馴染だから、とか知り合いだから、
などということは一切関係なく優しく接してくれた唯一のエンジェル。

今、病院にいるのはもちろん俺とかずちゃんだけ、ではない。
つまり、簡単に言うと英語で言えばトリオ、日本で言えば「組」。
そう、今病室にいるのは俺とかずちゃんともう一人。
その「もう一人」というのがとても厄介な「もう一人」なのだ。
今まですっかりさっぱり忘れていたのだが、俺にはおまけでお偉いさんがいるんだった。
 「…なんだね、そのいかにも不満があるような、何か汚いものを見るような嫌そーな目つきは。菅沼誠くん」
 お付き合いさん、こと、俺の先輩である宮元賢喩(けんゆ)さんは宮元和久の兄貴である。
俺にとっては先輩に当たる人で‥。
 え? 仕事はどうしたのかって? お偉いさんこと、賢喩さん曰く仕事をしているだけが仕事じゃないそうで、妹の推定で50万回目の出産(ホントかよ)の瞬間を祝うのも仕事のうちだ。らしい。
 しかも、その兄ちゃんはエリートとしては大変キレ者で、指揮官としての実力もさることながら頭脳戦でも会社では指折りの強さを持つ。
エリートの上に「超(スーパー)」でもくっつける、いや「ゴールド」(?)つきの早い話が並ではない。
ツワモノである。
部下達からは多数尊敬の言葉が飛び交うなか、下で働く部下達に時に手を差し伸べ、陰ながら見守っている。

 というのは凄い建前で、実際はただのシスコン兄さん。
妹の和久のことが世界一、ウルトラ、マジ心配で心配で、もー、どうしようもないっていうのが本性で、そのためちょくちょく仕事を休んでは、愛する妹(和久)の様子を見に出かけている。
そのたびに口から適当な言い訳をする。
俺はその適当な言い訳のせいで、このシスコン兄さんに「出産祝い」つき合わされたのだ。
今日の言い訳、デマはこうだ。
「社長が急な病名不明の病に罹ったため、今日からこの宮元賢喩が代理を務めさせてもらう」
ホントかよ。 つか、先輩仕事は? などの疑問はあえて口に出さずに黙って俺は病院についてきた。

 なんか、騙されてる気がする。
誠は和久の入るベッドへと近づき、幼馴染を前にぎこちないお辞儀をした。
彼女は笑ってくれたが、兄さんは機嫌悪いようだ。
 「誠くん、君は持ち場に付かなくていいのか。大丈夫、この娘の看病はこの私が完璧にしておく。安心したまえ」
看病。って、あんさん…。
というか、ただそれは妹のそばに居たいだけなのでは?
あえて口を出さずに俺はいったん彼女から目を離し、病室のドアの前でいったん止まり「おめでとう」と小声で僕は呟いた。
彼女は俺の小声に対して返事をするかのように少しだけだが頷いてくれた。

誠はドアノブを握ると軽く捻りドアの向こう側へと足を運んだ。
和久と彼女の兄・賢喩はドアが閉まるのを見届けていた。
そしてドアはバタリと音を立て、閉まる音が病室に響いた。

病室に残された和久とその兄は親子水入らずで話を続けたのだった。
「‥‥おまえは、あの男が好きなのか?」
「…ぁっ、に、兄さん! もう、ヤダぁ」
誠が去った病室内で今明かされる恋愛話。
だが、誠本人は病室のドアの向こう側でひそかに耳を傾けて盗み聞き状態。
「…じゃあ、嫌いか?」
「い、いえっ。嫌いではありませんよ。…ですが、何度も言ってる通り私は男、ですから男が男を愛すのは無理だとっ」
だったら出産予定はなし? 彼女、改め、彼は今まで小さいころから一緒にいた俺でさえ知らなかった真実。
それは宮元和久は男の子だったのです。
生まれつきの女顔を生かし、人生を生きて、楽しんでいるエリート兄の弟。
見事に、まんまと、俺ら(部下さんたちとその他エリート組みのみなさん)は騙されていたらしいです。
「の割には、おまえ…結構楽しんでいるだろう?その顔で」
  兄さんさり気無く鋭いこというなぁ。
「もちろん。それがなにか」
この『もちろん』の部分、強調。
賢喩はさらに、探りを入れるかのように会話をのめりこませる。
「そんなにからかいやすいのか?ここのエリート組みのやつ等でも」
エリート組みまでたぶらかした、彼・和久は史上最強(エリート組み談)の女の武器である。
「ええ、もちろん」
和久、何の顔色も変えずにさらり。
多分、この先、彼女はまだまだずっと俺らエリート組みを騙し続けるかもしれない。

 そのお美しい顔は、誰もが目を溺れさせます。

今、解った。今だったら、いえそうな気がする。
なぜ、俺が出産話で「喜ばしくない」と思ったのか。
それは『宮元和久は男なので、出産話は持ち込めない』ということだった。

出産話については二度と聞けないだろう。
2005/05/27(Fri)21:22:46 公開 / D-99
■この作品の著作権はD-99さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
修正してみましたが、どうでしょうか?
 まだまだ指摘が必要なようです…。

       失礼しました。
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