- 『二度目の…』 作者:夢幻焔 / 未分類 
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 「…きんか」
 「……起きんか!!」
 僕は眠たい目を擦りながら、ベッドから起き上がった。
 「なんだよ、こんな朝っぱらから…」
 「ったく、やっと起きよったか」
 眠たい目で視線を送った先には、白髪頭がまるで何かの爆発に巻き込まれたかのような髪型になっているじいちゃんの姿があった。
 「ほれ、ようやく完成したぞぃ」
 じいちゃんが指差す先には、十代半ばくらいの女の子が全裸で目を閉じた状態で直立したまま、ドア横の壁にもたれ掛かっていた。
 「うわっ、じいちゃん! なんで女の子が裸で、しかもこの家にいるんだよっ!!」
 少なくともそのアンドロイドより年上とは言え、青春真っ只中な年齢である僕は、見つめるわけにもいかず、慌てて目をそらした。
 「こらっ、何を寝ぼけたことを言っておるか! これはワシの作った最新型の『アンドロイド』じゃよ」
 よく思い出せば、じいちゃんが数日前から研究室に籠もりっ放しで作っていた物だった。
 じいちゃんの作るアンドロイドは、悲しければ泣くし、楽しければ笑う。汗もかけば、ご飯も食べる。何から何まで人間と同等の機能を持っている。
 「あ、そういやそうだったっけ…」
 「やっと思い出しよったか」
 「は、はじめまして」
 アンドロイドだが、人間その物の容姿をしているため、つい挨拶をしてしまう。
 「阿呆、この子はまだ完全に起動させておらんわ。返事を返すわけ無かろうが」
 僕は少し恥ずかしくなって、頭をボリボリと掻く。
 
 (ったく、それを先に言えっての…)
 
 じいちゃんは爆発頭をボリボリと掻きながら大きなあくびをした。ここ数日、ろくに睡眠もとらずにこの子を作っていたのだろう。
 「さてと、一段落着いたところでワシは寝る。起きたら本起動試験をするからのぅ。絶対に研究室に入るんじゃないぞぅ。じゃ、おやすみ…」
 そう言い残すと、じいちゃんはアンドロイドを抱え、研究室へと戻っていった。
 
 
 
 「ったく、何なんだよ、朝から…」
 僕はぶつぶつ文句を言いながら、カーテンを開き、窓を開け放った。
 「うーん、今日もいい天気だな」
 朝日を浴びながら寝起きのダルさが残る体を伸ばす。
 窓の下では朝の市場が人々で賑わっていた。
 だが実際、人間の数は見た目以上に少ない。その理由は、この街の人口の約三分の一は、じいちゃんが開発したアンドロイドが混ざっているらしい。
 それらアンドロイドの全てが、じいちゃんが開発したものを会社が量産したものだ。
 その容姿、性格は一体一体異なり、じいちゃん以外には人間とまったく区別が付かないほど、精巧に作られている。
 
 (そんな事はさて置き、せっかくの休みだし、いい天気だ。釣りにでも行くか…)
 
 着替えを済まし、部屋の隅に置いてあった釣具一式を手に取り、部屋を出た。
 
 
 
 湖に向かいながら朝市を歩いていると、沢山の人から声をかけられる。
 あまりいい気がしたものではないが、その理由は、じいちゃんには少しマッドサイエンティスト的な面がある事は別にして、表向きはこの街一番の機械製造会社の社長ということになっているからだ。
 『表向き』という言葉を使ったのは、その『裏』で、じいちゃんが何をしているのか、人間はおろか、街にいるアンドロイドすら知らない。
 知っているとすれば、孫である僕か、じいちゃんによって制御されている極一部のヒューマノイドくらいなものだ。
 当然、誰も知らないのだからアンドロイドの量産は、じいちゃん一人では到底無理だ。
 だから、じいちゃんが制御している極一部のアンドロイド達が、会社でのアンドロイド生産を行っている。
 もちろん、制御を受けているので、会社の情報を外部に漏らす事など一切無いので、街の人達は、じいちゃんが裏で何をやっているかなど全く知らないのである。
 
 「おはよう、ぼっちゃん。朝から釣りかい?」
 「おじいさんに、『またうちの店にも寄っておくれ』って言っておいてね」
 僕が社長の孫という所為もあるが、こうやって話しかけてくれる人も、もしかしたらじいちゃんの開発したアンドロイドかもしれない。
 
 (こうして実際に接してみても、やっぱし人間かアンドロイドかなんて、分からないよな…)
 
 いつものことながら少し妙な気はしつつも賑やかな朝市を抜け、静かな湖へとたどり着いた。
 辺りには既に何人かの釣り人が来ており、朝日が眩しく反射する湖に向かって糸を垂らしていた。
 僕も針に餌を付け、湖の中へ投げ込む。それからしばらくはアタリが来るのを待つだけだ。
 
 (それにしてもじいちゃん、あんなになるまでよく頑張るよなぁ…)
 
 僕のじいちゃんも、もう年だ。あまり無茶を出来る体では無いのに、アンドロイドの改良、開発に関しては全て自分一人でこなしている。
 過去に一度、「僕にも手伝わせて」と言ってみたが、「これを人に受け継がせる気は無い」と、手伝いはおろか、研究室に入ることも許してはくれなかった。
 
 (くそっ、今度絶対に研究室を覗いてやる…)
 
 と、釣りに集中せず、雑念だらけで竿を握っていると、突然大きなアタリが来た。
 「おぉっ、こいつはなかなか大物だ!」
 グイグイと勢いよくしなる竿を手に、しばらく悪戦苦闘をしていると、僕の後ろを『スッ』と影が過ぎった。
 「ん、なんだ?」
 背後に何かの気配を感じた瞬間、首筋に強い衝撃を受け、思いっきり前へと突き飛ばされた。
 「えっ…」
 突然受けた強い衝撃に、意識が朦朧とする。
 池に落ちながらも、なんとか後ろを振り向くと、暗くなり始めた視界の中で人が去っていくのがぼんやりと見えた。
 そしてそのまま意識は途絶え、湖へと落ちた。
 
 
 
 「うっ…んん……」
 僕は再びベッドの上で目を覚ました。
 「あれっ、なんで…」
 ベッドから体を起こそうとすると、首と背中に激痛が走った。
 「うぐっ!!」
 だがその痛みのおかげで、はっきりと目が覚めた。
 
 (そうだ、たしか釣りの途中で誰かにいきなり後ろから殴られて…)
 
 辺りを見回すが、ここは僕の部屋で他には誰もいない。
 時計を見てみると、既に夕方を示していた。
 「くそっ、いてて…」
 痛む体をベッドから起こし、中身が空だとシグナルを鳴らしている腹を沈めるべく、食べ物を求めキッチンへと向かう。
 よろよろと廊下を壁伝いに歩いていると、研究室のほうからじいちゃんと女の子の話し声が聞こえて来た。
 (あっ、そういや朝見せてもらった女の子の新型アンドロイドの起動実験をするなんて言ってたな…)
 気になった僕は、じいちゃんから「入るな」と言われていたが、「覗くな」とは言われていない、と勝手に決め込んで、こっそりと廊下脇にある研究室の中を覗いてみた。
 
 (おぉ〜、すっげぇ広いじゃん)
 
 中のあまりの広さに驚いていると、さっきの会話の続きが聞こえて来た。
 「ったく、なんであんなことをしたんじゃ…、近くにいたアンドロイドに助けられたからよかったものの…」
 「なんでって言われても…」
 「プログラムを書き換えるだけじゃ、と言ってあったじゃろう。あんな酷い方法でなく、もっとましな方法があったじゃろうに…」
 なにやらじいちゃんが、そのアンドロイドと話している。
 僕は気になって、もう少し様子を見ることにした。
 「だって、アイツが『じいちゃん』だなんて馴れ馴れしく呼ぶんだもん。しかも私の裸見たし。だからついでに…」
 
 (アイツ? アイツって僕の事か?)
 
 何か嫌な胸騒ぎを感じたが、どうしても話の続きが気になって、そのまま聞いてみることにした。
 「は、裸はともかく、アイツなんて呼ぶもんじゃない。一応はお前の兄さんなんじゃからな」
 「はぁい、おじい様…」
 それを聞いた瞬間、あまりの衝撃に愕然とし、その場にへたり込んだ。
 「誰じゃ!?」
 へたり込んだ時の物音に気付いたのか、じいちゃんがこちらへ近付いてきてドアを開けた。
 「きっ、聞いておったのか…」
 「どうしたの? おじい様?」
 とたとたと足音が近づいてきた。
 「あっ、お兄ちゃん。その…、さっきはごめんね。つい…」
 普段より遥かに低い位置から目線を送った先には、今朝部屋で見た時と同じ顔で、笑って誤魔化そうとする女の子の姿があった。
 
 
 …はじめまして――――。
 
 
 僕は初めて会う妹に、二度目の挨拶を交わした。
 
 
 〜〜終わり〜〜
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2005/05/26(Thu)01:16:07 公開 / 夢幻焔
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■作者からのメッセージ
 えっと、メチャクチャ久しぶりに投稿するんですが、ほとんどの方がはじめましてになると思います。はじめましてm(_ _)m 夢幻焔(むげんほむら)という者です。
 久しぶりに良いネタが浮かんだので、思いっきり書いてみました。未熟な上に長い間書いていなかったので、何度も見直したのですが、ボロボロで色々と誤字脱字等々あるかも知れません。こんなモノですが、感想、酷評を頂けたら幸いに思います。
 失礼します。