- 『ある日強盗と丸ごとバナナ』 作者:炎天下9秒 / ショート*2
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ある日強盗と丸ごとバナナ
「お前ら全員手ぇ挙げろ!」
深夜2時39分19秒、スーツを着た何の変哲も無いサラリーマンがリボルバータイプの銀色に光る拳銃を片手に叫んだ。男の手で鈍く光るそれは黒のスーツに映えて存在感がより一層増している。もし現実にこんなものを向けられたら失禁ものだろう。
「っせぇな、そんなでけぇ声出さなくても十分聞こえてるっつの。ってかお前らって俺しかいねぇだろうがよ」
しかし、この店員はそうではないようだ。白を基調として赤と緑の縦縞が入ったこのコンビニの制服を着た若い男は、銃を向けられているにも関わらず邪険にそう言い放った。これには強盗も一瞬唖然とする。確かにポテトを揚げている店員にそんな反抗をされるとは夢にも思わないだろう。
「なっ、何言ってんだ! 言うこと聞かねぇとぶっ飛ばすぞ!」
強盗は拳銃を持ち直し少し焦ったように脅し、右手の人差し指が軽く引き金にかかる。
「うっせぇって。第一言うこと聞かなぇとって言われても特に何も命令されてねぇっつの。あ、手ぇ挙げりゃあいいのか」
はーい、先生ここの問題が分かりませーん、と言いながら店員は両手を挙げる。強盗をなめたような発言だが、確かに命令には従っている。しかし目線は無残にも焦げていくポテトに注がれる。
自分の命令を聞かせて強盗は少し落ち着いてきたようで、左手に持っていた黒いボストンバッグをドスンとカウンターに置く。何と言えばよいか、どうやらこの強盗は強盗の黄金比な用意をしてきたようだ。
「このバッグに金を有るだけ入れろ! 早くしねぇとぶっ殺すぞ」
「お、それもしかしてバイソンじゃねぇ? 本物のコルトバイソンって俺初めて見たよ。まぁ普通に生活してれば見ないのが普通なんだけど」
飄々と話す店員に、強盗がついに怒りだした。左手で胸倉を掴み、眉間に銃口を押し当てる。それに店員は抵抗せず、両手をだらんと垂らして強盗を冷たい目で見つめる。
「てめぇふざけてんのかこの野郎! おい、ふ、ざ、け、てん、のかっ! あ!? 返事がねぇなぁ! 答えろや!」
眉間に銃口を押し当てたまま強盗は激しく店員の胸倉を揺す振る。今にも発砲しそうな目で強盗は店員に怒鳴りつける。それはどこかネジが外れたような、恐ろしいものだ。
こんな状況にもし出会ったら多分失禁どころか失神するかもしれない。店員の顔はようやく怯えたようなものになり、強盗の顔がにやりと歪む。しかし、強盗の邪悪な微笑んだ顔はすぐに一変する。
「っんだよ、みんなして。何で俺ばっかりこんな目に合わなくちゃなんないんだよ。今日だってそうだ。何だよあいつは。ヒロ君よりコウ君の方が私には大事なのって言われてもよ、一体俺のどこが悪かったんだよ。コウ君って誰だよ畜生、本当俺ってついてねぇ」
店員の言葉は段々と呟きになっていき、最後には虫の鳴くような声となり、更に泣き声へと変わっていく。その突然の様子の変化に強盗はついていけず、戸惑ってしまい、つい強盗としていってはいけない一言をぽつりと言ってしまう。
「お前も、大変なんだな」
その一言に店員が俯かせていた顔を上げる。その顔は涙が流れていたものの泣き顔ではなく、何か希望に縋るような目をしていた。
「俺、そんな事言われたの初めてだ。お前、良いやつなんじゃないか?」
そう言われて驚くのは強盗だ。無意識に言ってしまった一言に自分でも驚き、更に店員の言った言葉に驚く。しかも、面と向かって良いやつだなどと言われるのは強盗にとって初めてであり、どう反応していいか困ってしまうのである。
「こんな事するなんて、何か理由があるんだろ」
店員に言われたその言葉に、強盗の心が揺れ動く。こんな事、と言われて事の重大さを再確認したというのもあるが、確かにこんな事をしたのは大きな理由があったから。悩んだ末の苦渋の決断であったのだ。
「言ってみろよ。何、気にすんな。俺はお前の味方だ」
店員が強盗に味方だと告げるのもおかしなものだが、その言葉に強盗は負け、なぜ強盗に踏み切ったか話し始めた。
俺は、結婚するんだ。それは美人な女と結婚するんだよ。でもな、俺たち二人とも金が無くて、むしろ借金が沢山あった。だけどな、そいつの腹ん中にはもう赤ん坊が居るんだよ。赤ん坊を育てるのには否が応でも金が要る。けど俺たちにそんな金があるわけがないじゃねぇか。親戚も頼りになんねぇし借金の取立ては厳しい。
こんなんじゃ子供を育てる以前に俺たちの身が持たねぇ。そして、考えついた方法がこれさ。強盗すれば犯罪者になるが金は手に入る。金が手に入れば俺たちは二人、いや三人で暮らしていけるだろうがよ。だから、俺は今こうしてるんだよ。
語りながら強盗は力が抜けていくように店員の胸倉から手を離し、銃を持った手もだらんと下げた。
「お前、やっぱり良いやつじゃねぇか」
店員の明るい声に強盗は顔を上げる。女の為に命賭けるなんて、男の鑑じゃないかと言われ、強盗の心に忘れていた何かが込み上げて来る。今まで親戚中から除け者にされ、弾劾され、虐げられてきた。それは確かに性格上の問題かもしれない。けれどもこの強盗、根は優しく良いやつなのだ。
強盗の目に忘れていた何かが溢れ出た。
「悪かった。こ、こんなことして、悪かった。俺、自分で働いて金稼ぐことにする。邪魔して、悪かったな」
少し詰まったその声に、店員は何を愚かなと引き止める。
「待てよ! 金なら有る、お前は良いやつだ。だから投資してやるよ、いつか必ず倍以上にして返せよ」
強盗が驚きに顔を上げる。そこには店員の笑顔があった。
「ちょっと待ってろ。さっき強盗だと思ってロック掛けちまったんだ。俺のコンビニバイト歴に賭けて絶対に開けてみせるから。その間お前はあれだ、店のもの好きなの取っていいぞ」
言うと店員はすぐに真剣な顔となり、レジを開けようと四苦八苦。その様子を見て強盗はまた涙を流してしまった。この店員の気持ちを無駄にしてはいけない、俺は強盗しなくてはいけない。そんな歪んだ決意が強盗の心に生まれていた。
∽
俺の作戦は完璧だ。あとは警察が来るのを待てばいいだけで、俺はレジを開けようとする演技を続けていればいい。まさかあの強盗も今までの発言が演技だったとは思うまい。俺が彼女に振られたのは本当だから泣くのは簡単だったし、あの強盗は根は良いやつなんじゃないかと思ったのも本当だ。しかし、やろうとしていることは立派な犯罪、許せるものではない。
今強盗は店の中のものを物色しているのだろう。拳銃を向けられた時に防犯スイッチを押したから、警察が来るのはもうそろそろだろう。ハハハ、完璧だ。完璧だよ俺。でも何でこんなに完璧な俺が彼女に振られたんだろう? あ、思い出したらまた涙が浮かんできた。
何でだろうな、あんな糞女腐るほどいるってのにな。何でだろう、何であいつの顔が浮かんでくるんだろう。拳銃を向けられて本当に死ぬかもしれないと思った時に浮かんだ顔が、何で親の顔じゃなくてあいつの顔なんだろう。畜生、畜生、もう一度あいつに会いたい。もう一度あいつに会って謝りたい。俺はあいつのことを理解しようとしなかったのかもしれない。自分の都合ばかり押し付けて、自分の考えに従わせようとして。悪かった、悪かった、だから、もう一度、会いたい。
「ヒロ君!」
嗚呼、幻聴さえ聞こえてきたよ。俺、あいつのことが好きだったんだよ。それはもう大好きだったんだよ。俺が悪い事したらちゃんと叱ってくれて、俺が風邪を引いた時は付きっ切りで看病してくれた。なのに俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は。
「ヒロ君!」
何だようるせぇな。幻聴のくせにでかい声出すなよボケ。ったくしかも脳内に響くように聞こえるわけじゃねぇ。何で店内に響くような声なんだよわけわかんねぇ。幻聴ってそういうもんなのかよ。あぁもう警察はまだ来ないのかよ。
俺は強盗の動向を探るため顔を上げた。すると、そこにはあいつの顔があった。
「ヒロ君、ごめん! 私、ヒロ君が好きだった!」
何でお前が泣いてんだよ。お前が俺を振ったんだろ? 何でお前が泣いてんだよ。何だこれ、俺まで泣いちまうじゃねぇかよ。あれ、何でお前がここに居るんだよ。
「泣くな、泣くなよ。いつもの厚化粧はどうしたよ。すっぴんじゃねぇかよ」
多分、俺を思って化粧をしなければ外を歩けないと自称するこいつは、化粧する暇さえも惜しく走ってきたのだろう。息荒く肩を上下させている。
「悪かった。俺が悪かったよ。ごめん、俺、お前に自分の考え押し付けてたな。ほら、俺、謝ってるんだぜ? だからさ、泣くな、泣くなよ。俺まで泣けてくるだろうがよ」
カウンター越しに頭を抱いて撫でる。あぁ、凄く愛おしい。もう二度と手放さない。俺は、彼女のために生きよう。
「コトミ?」
びくっ、と抱いた体が跳ねた。それは夢でどこかに落ちて目が覚めたときのような、反射と呼ばれる類に分類されるだろう動き。俺は彼女のことを名前で呼ばない。では誰がこいつの名前を呼んだのか。
「コウ君?」
彼女が俺から体を離して強盗に呆然としたように目を向ける。途端、嫌なものがフラッシュバックしてきた。泣きながら家を出て行く時、捨て台詞のように彼女が言う。『ヒロ君よりコウ君の方が私には大事なの!』俺は、頭で事態を理解していたが、信じたくなかった。
「な、コトミ、違うんだ。これは」
強盗は自分の手に持っているものに彼女が目を向けていると知り、狼狽する。
『俺は、結婚するんだ。それは美人な女と結婚するんだよ。でもな、俺たち二人とも金が無くて、むしろ借金が沢山あった。だけどな、そいつの腹ん中にはもう赤ん坊が居るんだよ』
そいつの腹ん中にはもう赤ん坊が居るんだよ。そいつの腹ん中にはもう赤ん坊が居るんだよ。そいつの腹ん中にはもう赤ん坊が居るんだよ。そいつの腹ん中には、腹ん中には。
頭では理解している。
どれだけ銃が危険かということを。
頭では理解しているのだ。
俺は、強盗に飛び掛かった。俺は怒りのあまりに物凄い形相をしていたのだろう、強盗が恐れの表情で銃の引き金を引いた。左肩で何かが爆ぜる感触がしたが、無視した。立て続けに2発撃たれたが、当たったのはその1発のようだ。
銃を持つ方の右手首を右手で掴み、突進した勢いで組み伏せる。マウンドポジションをとった俺に、強盗はまだ反抗し、2回銃声が響いた。あぁ、彼女の叫び声が聞こえる。もうやめて、悪いのは私なんだからと叫んでいる。悪いのはお前じぇねぇよ、俺が悪いんだよばか。
脇腹に熱いものを感じる。畜生、かすったみたいだ。空いた左拳で思い切り強盗の顔面を殴りつける。それで怯んだようで、俺は更に左拳で殴り続ける。段々と強盗も大人しくなってきて、俺は強盗の右手首を掴んでいた右手も動員して顔面を殴った。
この強盗に憎悪の念なんて少しも抱いていない。だけど、なぜだか俺は殴り続ける。そうしなければならないという気分だった。少し、殴りつかれた。一度息をついて両手を引く。きっと俺の顔は今返り血に塗れてるんだろうなと思っていたら、銃声が聞こえると同時に俺の腹に小さな穴が開いた。
見上げた根性だよ。
だけど、俺は死ぬわけにはいかないんだよ。
彼女と一緒に、これから生きていかなきゃならないんだよ。
強盗の右手から拳銃をもぎ取り、眉間にその熱くなった銃口を当てた。
「ハハハ、負けたよ」
虫の鳴くような声で、強盗は言った。その負けたという意味は多分肉体的喧嘩の意味ではないだろう。彼女のために強盗に動いた俺よりも、彼女のために闘ったお前に負けたと言いたいのだろう。なぜか、この強盗の言いたいことが全て分かったような気になった。
何だか、俺は人生で初めて男と男の大喧嘩をしたような気分になった。その時、俺の目がひとつのものを捕らえる。
俺は、引き金を引いた。
∽
私が悪かったんだ。私は付き合ってからヒロ君は酷い人だと思い始めた。何でも自分の言うことを聞かないと叩くような、酷い人だった。だけど、たまに優しい面を出すから嫌いかどうかと言われたら、好きだった。
たまに仕事の帰りに、丸ごとバナナを買ってきてくれた。それは私が子供の頃から好きなお菓子で、ヒロ君は笑顔で持ってきた。私はそれが嬉しくて、ありがとうって言うと、ヒロ君は賞味期限今日だからだよって恥ずかしそうに言って、それを誤魔化すみたいにそんなイヤラシイ名前の食いもんお前にぴったりだからだよって言い直すんだ。
その声を聞くと、私は言いようもなく幸せになった。
何だか、生きていて良かったなぁって思えた。だけど、ある日私は浮気をした。いつも叩いたりされてた私に幼馴染のコウ君がなぐさめてくれたんだ。優しさに飢えていた私は、彼に包まれるように浮気をしてしまった。
それが、ヒロ君にばれちゃったんだよ。ヒロ君、珍しく怒らなかった。私は凄い殴ったり蹴ったりされるんだろうなって思ったんだよ。だけどヒロ君、その日はただ意気消沈して私に聞いてきたんだよね。
「俺は悪かったのか?」
まるで自分のしたことが分かってないように、私に言ったんだよね。私、思わず爆発しちゃって今までだったら言わなかったようなこと言って、逃げちゃったね。あの後、私はコウ君の家に行ったんだ。コウ君に嘘言っちゃったんだ。私、妊娠したって言っちゃたんだ。
あはは、最低だよね。分かってるよ、自分でも最低のことをしたって。何であんなこと言っちゃったんだろう。ヒロ君にばれる前からね、コウ君は私のことを大事に思ってくれて、結婚しようとまで言われてたんだよ。だけど、私の中に残ってた良心がそれを押し留めたんだ。へへへ、そこは誉めてよ。
コウ君に借金があったってことは知ってたし、実際私にもあった。でもね、まさか強盗するほど本気だとは思ってなかったんだよ。あはは、また私の最低な所だよ。ずるいよね、何で私が最低なことばっかり言わなくちゃいけないの。ヒロ君だって私に酷いことしたのにね。
それでね、コウ君の家に匿らせてもらってたんだ。でもね、ずっと頭にはコウ君じゃなくてヒロ君が浮かんで来るんだ。部屋の端で丸まってると、そこの戸を開けてヒロ君が手土産持って帰ってくるんじゃないかなって、期待してたんだ。おんなじ姿勢で6時間も動かなかったんだよ。コウ君もどっか行っちゃうし、ずっとそんなことを考えてたんだよ。
そして夜遅くなってから気付いたんだよ。私はヒロ君が好きだった。私はヒロ君に謝らなきゃいけない。そしてヒロ君にも謝らせてやろうって、やっと気付いたんだよ。何だこんな簡単なことだったのかって、お互いの悪いとこを直せばいいだけじゃんって。一回だけ、バイト先に連れてってくれた時があったよね。その場所、覚えてたんだよ、凄いでしょ?
急いでタクシー拾って近くで下ろしてもらったんだよ。そしてコンビニ行ったらヒロ君が居たんだ。泣きそうな顔して、レジをがちゃがちゃいじけた子供みたいにいじってた。私は叫びながら店内に入ったんだよね。ヒロ君ヒロ君って本当にいじけた子供以下の泣きじゃくる子供みたいにさ。
ヒロ君、私を抱きしめてくれたね。私は絶対に殴られるだろうって思ってたのにさ。ただでさえ泣いてたのに余計泣いちゃったじゃん。謝るけど絶対に謝らせてやろうって意気込んで行ったのにさ、何でそんなに簡単に謝っちゃうかな。正直肩透かしくらった感じで、更に泣いちゃったじゃんよ。
泣きながらさ、思ったんだ。
私はヒロ君が好き。
だから、死なないで!
∽
俺は何で生きてるんだろう。それにしても、お前には負けたな。あぁ、俺はお前に負けたんだよ。
高い金出して買った銃取られて、俺の眉間にあっつい銃口押し付けてな。その時に俺はもう精神的に負けたんだよな。まったく、コトミのためにこんなに命賭けられるやつなら浮気なんてしなきゃよかったんだよなコトミも。
でもな、ひとつ聞きたい事があるんだよ。
お前、何で俺を殺さなかったんだ?
やる気になればやれたろうがよ。何でわざわざ眉間に押し付けてた銃を俺の左腕に撃ったんだ? 俺はそれが不思議でならねぇんだよ。あの後大変だったんだぞまじで。
警察がぴーぽーぴーぽーやってくるし。ははは、思い出すと笑えるけどな、良い事教えてやるよ。お前を銃でばんばん撃った犯人は俺のことを何回もぶん殴ってどこかに逃走したそうだ。それで偶然居合わせた俺とお前が甚大な被害を受けながらも撃退したんだそうだ。全国ネットで流れたんだぞ全国。まぁ名前は出さないでくれと頼んだがな。
お前はこの話を聞いて怒るか? 俺はお前が怒らないだろうと思ってでっちあげたんだけどな。殺されるなって思ったとき、なぜかお前が考えてることが分かったような気がしたんだよ。お前は俺を特に憎んではいないんだな。お前は自分自身を、コトミを傷つけてきた自分自身が許せなかったわけだ。
お前は俺のことを味方って言ってくれたろ? 嘘だったろうが、味方って言ってくれたろ?
俺、それ聞いてすげぇ嬉しかったんだよね。お前の味方だって言われたことなんて無くてさ。小さい頃から目立たない位置に居た俺に親しい友達って居なかったし。何でか初対面の、しかも強盗と店員の状態でお前に信頼感を抱いちまったんよ。
何でだろうな、俺には分からねぇ。だけど、確かにお前とは気が合うと俺はもう断定しちゃってるわけよ。
だからさ、もう一度お前を信じるぞ。コトミを幸せにしてやってくれよ。
だからさ、早く起きろよ!
∽
二人が、俺を呼んでいる。
二人が、俺を呼んでいる。
浮気して逃げてった女と、俺に鉄砲向けた強盗が、俺のことを呼んでいる。
正直、俺はお前を殺すつもりだったよ。
人殺しする前って頭が冷静になるって言うけどな、それ本当でさ。頭に昇ってた血が一気に下がったような気がしたよ。それで冷静になった頭でふと思ったんだ。お前、左手を使わなかったなって。
気になって見てみたんだよ。そしたら何だか、殺す気失せちまったよ。
何で命の取り合いしてる最中に左手で丸ごとバナナ握り締めてんだよ。
ぐちゃぐちゃになってやんの。
それを見たらな、理由なんてねぇけど、殺したくなくなったんだよ。
ったく、うるせぇな。
そっちに行きゃぁ良いんだろう。仕方ありませんね行ってあげますよこのやろう。折角ジャイアント馬場と再会できると思ってたのによぉ。
あんまりお前らがうるさいから、帰ってやるよ。
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女が車椅子を押して花畑を歩く
車椅子に乗った男は悪態を吐きながらも楽しそうに笑う
女が車椅子を押して花畑を歩く
花畑の向こうからもう一人の男がやってくる
女が車椅子を押して花畑を歩く
三人は悪態を吐きながらも楽しそうに笑う
三人は、楽しそうに、楽しそうに、笑う
丸ごとバナナの物語
了
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2005/05/22(Sun)16:34:18 公開 / 炎天下9秒
■この作品の著作権は炎天下9秒さんにあります。無断転載は禁止です。
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■作者からのメッセージ
初めましてです。
この作品は以前違う名前でここに投稿したものを改稿し、再投稿させて頂きました。
注 ※主人公は丸ごとバナナです。
※誤字訂正の為更新
恋愛、コメディ、友情、色んなものを短い中にごっちゃり混ぜてみました。
こんなに短い中、無理な展開を入れなければ無理だなーと思い無理な事を無理にしてしまいました。
少し混ぜ過ぎたと思う今日この頃、感想等よろしくお願いします。