- 『必然的運命 ―エピローグ―』 作者:チェリー / アクション
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まだ時刻は7時を回ったところ。燈獅は今現在起きたばかりで目はまだ眠そうに薄めになっており、燈獅はその目をこすりながら居間へ。するとそこには雛花がいた。
「おはよぅ・・・・・・」
「お、ほはようございます」
燈獅は台所へ。朝ごはんを作らねばならない。雛花に作らせるのは昔に危険だということを体験していたので決して「速く起きたんだったら朝ごはん作って」とは言わない。なんせ雛花は玉子焼きを消しカスに変えてしまういわばマジシャンだ。
「あの燈獅さん。ちょっと行ってきますので朝ごはんはまだいいですよ」
ちょっと行ってくる?よく見れば雛花は着替えていた。そして玄関のベルがなり、雛花はそそくさと行ってしまう。
「お、おい」
燈獅は玄関から出て行く雛花を目で追う。隙間からはあの“巽家”のお姉さんが見えたので、まぁ外に出るとしてもほかに人がついてるなら安心だろう。
カリカリカリ・・・・・・
ふと燈獅は足に激痛を感じる。なんだ!?と見てみるとクロタが俺の足に爪を引っ掛けて遊んでいるのだ。コラ!っとクロタを拾い上げようとすればネコパンチ。まったく、飼い主がいなくなって寂しいのだろうか。
「おはようございますぅ・・・・・・」
すこしして円が目をこすりながらやってくる。
「あぁ、おは・・・・・・!?」
燈獅は円をみて硬直した。円の胸のボタンがはだけてブラが見えている。朝からいきなり刺激が強い。燈獅の視線に気づき、円はゆっくりと視線を下へ。現状に気づいて慌てて胸を隠す。そして燈獅をにらみつける。
「い、いや見てないよ」
シュ・・・・・・バス!
燈獅が座っていたソファーに破矢が刺さる。円は「一度死ね」と一言。見たけどそれはお前のせいだろ・・・・・・。なんでそんなこと言われなければならないんだ・・・・・・。
「燈獅さんと円さん、仲良くしてるかなぁ・・・・・・」
車両の窓からかすかに見えるマンションを見る雛花。突然何か気になり雛花はすこし心配になった。
「大丈夫でしょう」
運転しているのは“巽家”のお姉さん。“巽家”は現在当主が死亡しており、一応その当主の候補らしい。名前は“巽 翡翠(たつみ ひすい)。長い黒髪と口紅がなんとも色っぽい。しかもスーツを着こなしているのでそれに渋さも追加される。
「しかし一也様に突然会いたいとは、なにかあったのですか?」
雛花の表情がすこし暗くなる。
「う、うん・・・・・・」
「失礼しました。無駄な詮索ですね」
翡翠は頭をすこし下げる。なんともとても礼儀がよく、良い印象を受ける。男性なら誰でも恋に落ちてしまうのではないか。
「そ、そんなに気を使わなくてもいいですよ」
「ふふ、ありがとうございます。」
そして車はあの神社へ。木々から多くの葉が舞い降り、階段は前に来た時よりもすこしだけ落ち葉に覆われているような気がする。雛花は車を降りて翡翠と共にながい階段を上っていき、一也のもとへ。
「おう!元気にしてたか!?」
一也はダンベルで運動しながらベッドに座っていた。個室に移り、現在は本当に元気すぎるほどにまで回復している。
「はい、元気です。今日はちょっとお話が・・・・・・」
気を利かせて翡翠が部屋を出る。今日の雛花はすこし様子が違った。いつもの笑顔を見せず、表情は重く感じる。そして雛花は一也にあることを話す。
「・・・・・・本当なのか!?なぜそんなことを!?」
「ごめんなさい・・・・・・でも」
一也はすごいけんまくと大声で雛花の言葉をかき消す。
「でもじゃない!どういうことかわかってるのか!?」
雛花はだまって一也の言葉を聞いた。どういうことをしたのかはわかっている。和也の言うことは正しいのだ。
「わかっています。この抗争、私の命を捧げて止めてみせます」
雛花はまっすぐ視線をそらさず言う。覚悟を決めたその言葉。一也は冷静さを取り戻し、これからのことについて話し合う。通路にいる翡翠を呼び、一也は翡翠に一通り事情を説明した。
「おまえの“治癒施氣”で解放後なんとかできないか・・・・・・?」
「それは・・・・・・わかりませんが“治癒施氣”は通常傷や病を直すものです。そういうものには記録もありませんから・・・・・・はいとは・・・・・・しかしおそらく可能性は低いかと」
一也は雛花の頭に手を置き、なでる。燈獅にはこのことはいえない。ここに来た時のささいなあいつらの仕草からふたりが好意を抱き合っているのはわかっていた。まぁ親父の貫禄ってやつか?
「燈獅には・・・・・・?」
「もちろん、まだ言ってません。昨夜すこし危なかったですけど・・・・・・」
さて、どうする・・・・・・。できれば違う方法を取りたいがもしも敵が“三神器”を奪って事態が急変したら?俺はまだ動けないし、それぞれの力あるものたちはもうすでに死亡している。燈獅にすこし強引なやり方で“氣”をまとわせるか・・・・・・。
「“三神器”は発動させずに、事を終えよう。戻ったら燈獅を呼んでくれ」
「はい・・・・・・。よろしくお願いします」
そして雛花と翡翠は部屋を出てマンションへ。燈獅のためにも“三神器”は絶対に・・・・・・。まずはあいつが強くならなけりゃ話にならない。
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「私の“治癒施氣”で緋色那さんの退院はおそらく2週間は縮むと思います」
現在、翡翠の“治癒施氣”で緋色那の治療が行われており、あの大怪我は現在は大分よくなってきたようだ。“治癒施氣”は本当に便利なものだ。“氣”で傷口の細胞を活性化し、再生を行う。かなりの高技術のため使用できる人間はほんの一部らしい。
「それはよかったですね!」
雛花は喜んで両手を重ねる。そしてしばらくして車はマンションへ。
「燈獅さん、お父様がお呼びです」
はい!喜んで!と燈獅は部屋から逃げるように出てくる。そして円が燈獅を追うようにこちらへ。いや、現に追っているのだろう。円は雛花をみて手に持っていた破矢を隠し、何もなかったかのように振舞う。
「それにしてもどうして親父が?」
車の中で燈獅は翡翠に聞いた。それはわかりません、と翡翠は言う。・・・・・・なんだろう?そろそろ結婚しろってか?いやいやいやそんな〜♪ってなに俺は妄想を膨らませてるんだ!そして車は神社へ。まったく、この地下と神社のギャップは激しすぎる。神社には寂しそうなおっさんがいるがここには看護婦さんがよりどりみどり!いやぁ親父もいいところにいるなぁ。そして燈獅は父一也がいる個室へ入った。雛花の時のように翡翠は部屋には入らず、ドアのところへ。
「親父、元気?」
ああ、と腕立て伏せをしながら親父は言う。ていうか元気すぎだな。親父は腕立て伏せを終え、さっそく本題に移る。
「強くなりたいか?」
まぁ男なら誰でも一度は強くなりたい、と思うだろう。燈獅もそうだ。守る人がいるから強くなりたい。“倒す”ための力ではなく“守る”ための力がほしい。
「・・・・・・ああ」
「そうか、“氣”についてはいくつかわかってるな?」
燈獅はあれからあの日記に記されていた“氣”についての文章を読んで“氣”の練り方とかをやってみてはいるが中々うまくいってなかった。それもそのはず、“氣”というものは普通最低5年は修行しなければ扱えないほどの代物だ。
「まぁ普通なら5年はかかるがここは俺の“氣”をお前に送ってお前の体内の“氣”を強引に引き出すという方法がある。まぁ可能性は五分五分だ。試すだろ?」
燈獅は迷わず首を縦に振る。そして親父は燈獅の腕を掴む。親父が目を閉じると同時になにか掴まれた部分には変わった感覚を感じる。冷たいものが這いずるような感覚だ。これが“氣”か?
「よし、あとは待つだけだ」
“氣”がうまく起きれば明日には体に“氣”がまとっているらしい。でもこれならみんなやってみればもしかしたら100人中50人は氣を使えるのでは?と燈獅は思ったのだがそう簡単にいくものではないらしい。
「俺みたいに“氣”送れる奴がいないとな。それに送る際には同じ血族じゃないとうまくできない。ま!あとは運次第だ」
そして燈獅が部屋を出ようとした時だった。
「おい燈獅。雛花が好きか?」
突如、そのような質問をし、燈獅はびっくりして足をつっかえる。
「な、なんでそんなこと突然聞くんだよ!?」
「いや、なんとなくな・・・・・・」
親父はすこし笑みを見せるが目は真剣さを感じる。しばし沈黙の沈黙が場を漂い、燈獅はしばらくして恥ずかしがりながら言う。
「ああ、好きだよ」
「そうか、じゃあな」
そっけない別れを言う親父。しかしなぜいきなりあんな質問を?燈獅は考えながらひとまず帰る。翡翠にマンションまで送られ、部屋へ。TVを円と見ていた雛花。燈獅に気づいて雛花は「おかえりなさい」と言った。なんとも可愛い。といつも思う。円は視線を一瞬こちらへ移したがすぐにTVへ。なんとも可愛げがない。円の隣にはクロタが座っていた。・・・・・・似たもの同士。そう思いながら靴を脱いで中へ。
「“三神器は明日に厳重な場所へ移動させるという決定が出されましたので明日まで“三神器”をよろしくお願いします」
翡翠はそう言ってドアを閉める。そうか・・・・・・。明日“三神器”を渡してしまえばもう俺達は安心だ。雛花と一緒にデートをしたりできるんだ。はやく明日になればいいなぁ。雛花とデートしたい!
「不純!」
すると突然円はそう言って燈獅めがけて破矢を投げてくる。とっさに燈獅はちかくのフライパンを手にとって防御する。フライパンに破矢がめり込みなんとか防ぐことができたが前より威力上がってない?
* * * * * *
「明日、“三神器”が厳重な場所に送られるとの報告がありました。よって明日にその“三神器”を渡すところへ行き、奪う作戦を実行します」
「その報告は確かか?」
そう言ったのは臣鷹。座りながらテーブルの先の着物姿の女性“憐”(れん)に問いかける。四方の壁は装飾が施され、この部屋自体が宝のような空間にふたりはいた。光は臣鷹の後ろの窓から差込み、まだ朝方のようだ。
「ええ、なんといっても私達“五連心”の中の報告ですから。あ、それと龍明が抜けました。現在は“四連心”とでもいいましょうか」
すこしだけ笑みを見せる憐。そして憐は部屋を出た。すれ違いに一人の女性が中へ入っていった。すこし赤毛で背が若干小さいその女性。すこし場とは雰囲気が違うように思える。
「臣鷹様、御呼びでしょうか」
臣鷹は静かに視線を女性へ。この女性の名は簾燕 穂乃火(すえん ほのか)。“四連心”のひとりである。
「ああ、天咲病院ちかくで“三神器”を持っているあいつらの一人を部下が目撃したという情報があった。そこでお前に調査してもらいたい。もし見つけた場合は“三神器”をここへ持ってきてくれ。龍明は失敗したらしく、それどころか逃げたらしいからな」
穂乃火は頭を下げて部屋をでる。
・・・・・・燈獅。できれば親友のお前に危害を加えたくない。だが、引けないんだよ。大切な人のために“三神器”が必要なんだ・・・・・・。
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あれからしばしの時が過ぎ、日が暮れ始めていた。その頃携帯電話が鳴り、翡翠は電話にでる。
「はい、翡翠です」
電話の相手は一也だった。
「成功ならそろそろあいつの“氣”が起きはじめる。頼んだぞ」
「わかりました」
翡翠はマンションを上がって燈獅たちがいる部屋へ行った。チャイムを鳴らすとしばらくして雛花がドアを開けた。
「どうしたんですか?」
「失礼します」
翡翠は用件を伝えず中へ入っていく。一体どうしたのだろうか?という感じで雛花は翡翠についていく。居間には燈獅がいる。燈獅は翡翠に目をやると同時に体の異変を感じ始めた。
「う・・・・・・ぐ!」
翡翠は倒れかける燈獅を支える。燈獅は汗をびっしょりかいている。先ほどの元気さがもうどこにもない。
「ど、どうしたんですか!?」
雛花は状況が飲み込めずただあたふたするばかりだった。
「燈獅さんの“氣”がおき始めたのです。ただ、すこし方法が違うため、落ち着くまですこし苦しいと思われます」
翡翠は燈獅の胸部分に手を当てる。その手はわずかながら光を帯びている。“氣”を送っているのだろう。そして雛花は燈獅を見守り、翡翠が燈獅に“氣”を送り続けて約1時間・・・・・・。
「・・・・・・終わりました」
燈獅の表情は落ち着き、どうやら無事に終わったようだ。
「大丈夫ですか・・・・・・?」
「ああ、大丈夫だ」
燈獅は腕部分を見てみるとかすかだがなにかが見える。これが“氣”か?
「手に光を集めるイメージを思い浮かべてください」
翡翠の言うとおりにすると手にそれは集まっていく。随分変わっているものだ。本当に半透明で目を凝らさねば見えないというほど確認しにくい。しかしこれではなにか頼りなく思える。こんなので強くなれるのか?
「あなたの血族からいくと“大地”との相性がいいと思いますのでそれで相手に打撃を与えればいいと思います」
あとは日記に記されていると思いますし、と簡単な説明で翡翠は部屋を出て行く。
「それにお二人の邪魔をしてはいけないので」
部屋を出る寸前に聞こえた翡翠の言葉。燈獅と雛花は顔を見合わせては恥ずかしがる。そこへ突然何かが投げ込まれる。燈獅は間一髪のところでそれをよけ、投げてきたほうへ目をやるとそこには円が。物陰からじっと片目で見てくる。
「不純」
そういうと物陰から消えていった。・・・・・・怖!燈獅の頬には赤い線が走る。かすっていたのだ。
そしてそれからまたしばしの時が過ぎ、新たな訪問者が燈獅たちを訪ねる。雛花はドアを開けるとそこにはサングラスの男が一人。チューリップハットをふかくかぶり、どこでも見るような普通の服装だった。
「・・・・・・あ!龍明っていう人!?」
雛花の声を聞いて続々と燈獅と円がやってくる。
「お、おいおい!待ってくれ!話を聞いてくれ!」
龍明は両手をあげて戦う気がないということを証明する。しかし敵をすぐには信頼するわけにはいかない。
「だったら何をしに来たんだ!」
両手を上げたまま龍明はいう。
「もう俺は敵じゃない。とりあえず入れてくれ」
だが中には“三神器”がある。やはり入れるわけにはいかない。まずはどういうことかその場で説明してもらうことにした。
「俺はもう奴らの組織とは抜けて、今では奴らに追われている身だ」
だから敵の敵は見方ということでここに頼ってきたというわけか・・・・・・。結構肌の見えるところには生傷が見える。携帯電話も壊れた、と壊れた携帯電話を。金もない、とカラの財布を見せた。
「緋色那はお前が・・・・・・?」
一番聞きたいことはそれだ。すると龍明はその言葉を聞くと同時にその場で土下座をした。
「わるかった!あれは俺自体もう後がなかったから・・・・・・」
円は容赦せずに破矢を龍明の両手を貫く。
「おぐわぁ!」
さらに円は破矢を投げようと構えるが、燈獅が円を止めた。燈獅は両手を押さえる龍明の顔面を思いっきり殴り、中へ入れた。できればこんなやつ中へ入れたくないのだがいろいろと敵の情報を教えてもらえそうだ。傷は罪の意識をはっきりさせるため、と円が提案して翡翠は呼ばないことにした。雛花は龍明に両手をしつこく突っつきさりげなく怒りの意をみせる。
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そしてあれから龍明にいやというほど敵の情報を色々と聞いた。五連心の存在や組織の首謀者の特徴などだ。その内容からおそらく敵は臣鷹であるということは間違いないようだ。まぁそれは予想していたことだったが、現に本当だということがわかるとそれはそれでショックだった。
「もういいだろ!?」
龍明は腕を痛がりながら言う。今考えてみればただの布しか巻いていなかった。とりあえず燈獅は医療箱を持ってきて龍明の腕を手当てを施す。イメージとしては雛花や円が普通やるのだが不器用だしなによりご立腹だ。しかしそこへ強引に円が入ってくる。いきなり医療道具を奪い取り、龍明に治療を施す。
「お、おい!」
龍明は不安になってくる。愛用のサングラスもすこしずり落ちてしまっていた。逃げる龍明を捕まえて円は龍明の手に巻いてあった布をきつく締める。・・・・・・医療道具はもう関係ないようだ。
「いだだだだだ!」
少々なみだ目になっている龍明。それをすこしうれしそうに見る雛花。・・・・・・なんだこの光景は。
そしてそれから約1時間ほどしたときだった。龍明はてきとうな部屋に突っ込んでおいた。円がいろいろ見張りをしているから大丈夫だろう。燈獅は、ベランダに出て座って月を眺めていた雛花のもとへ行った。
「今夜も月がきれいだな」
「うん・・・・・・」
良い雰囲気じゃないか?よし、燈獅!ここは肩に手を回すんだ!お前ならできる!燈獅は心のもうひとりの燈獅の声を聞いて何とか行動に移そうとする。しかし、現実はそう甘くなく燈獅の腕は思うように動かない。雛花がすこしでも動くたびに腕はぴたりと止まる。はぁ・・・・・・また今度だ!いつもそれだ・・・・・・。
「・・・・・・明日には私達の役割も終わりだね」
そう、明日には“三神器”を渡して燈獅たちはもう“三神器”を守らなくても良い。学校にも普通に通える。あとは“巽家”や“雹煉寺家”の者達に任せればいいのだ。
「そう!明日の取引が終われば俺たちは遊んだり!デートしたりできるんだよな!」
燈獅はうれしく言う。雛花とずっといろんなことをしたかった。一緒に街を歩いたり、一緒に映画を見たり、一緒に外で食事したりと考えれば色々と浮かんでくる。はやく明日が来てほしい、そう心で願っていた。
「・・・・・ごめんね」
「・・・・・・え?」
突如雛花の口から出た言葉は燈獅が予想していた言葉とは違い、意外なものだった。燈獅は一緒に喜んでくれると思っていた。あまりにも予想外の言葉に燈獅は思わずソラミミか何かだろうと思った。
「ごめんね・・・・・・」
雛花は確かにそう言った。月を見ず、うつむいてしまった雛花。それはどういう意味なのか、燈獅にはわからなかった。雛花に瞳からは雫が滴る。月光によって輝くその一滴の涙。涙もその言葉の意味も燈獅にはわからない。雛花の心の中には苦痛が渦巻いていた。
「・・・・・・あり・・・・・・がとう」
雛花は次から次へとあふれる涙をぬぐいきれず、燈獅に顔を見せないようにしてベランダから立ち去っていった。
「雛花!」
どうして雛花は泣いていたんだ?俺はなにか悪いことをしたのか?ひとりベランダに残されて燈獅は考えていた。
雛花は部屋に入ると鍵をかけてベッドに飛び込んだ。必死で漏れる声を抑えようと顔を枕に突っ込む。
――わかってた。この恋はかなわないことを
――わかってた。私の運命はあれからすでに決まっていたことを
――わかってた。これは必然的なことであってもう引き返すことなどできないことを
これは現実。ただ時が進み、運命を刻んでいく。恋をしたとき心の中をよぎったのは私のこれから先の運命。
『この抗争、私の命を捧げて止めてみせます』
覚悟を決めたはずだった。この言葉で恋を諦めることにするはずだった。でも・・・・・・
「できないよ・・・・・・。燈獅さんが好きなの・・・・・・」
恋と裏腹に運命はそれを阻むように突き進む。“奇跡”。いつか読んだ作品ではよくそういうのが起きる。しかし、現実には起きるはずがないのだ。現実を突きつけられると私は立っていられない・・・・・・。
明日は“三神器”を渡す日。そこで燈獅ともお別れになる。運命を変えることは不可能。運命とは生まれる前から定められ、生まれた時に“死”という必然的な運命を刻まれる。
「一緒にずっといたいよぉ・・・・・・」
あふれ出る涙。燈獅を思うほどその涙はあふれる。燈獅を思うほど明日がずっと来なければいいと思う。一緒に街を歩きたい!一緒に映画を見たい!一緒に外で食事をしたい!燈獅とずっとずっと一緒にいたい!神様はこういうささいな願いでも聞き入れてくれないのだろうか。
枕がぐっしょりと濡れ、雛花はなおも涙を流した。
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臣鷹は携帯電話を手に取った。ボタンを押して耳元へ当てる。
「穂乃火、どうやら今日は現れなかったようだな・・・・・・。そこで明日にやつらは“三神器”の取引を行うらしいから、それにでてもらう。今日は戻って来い。」
そして電話を切る。・・・・・・唯奈。後もう少しでお前に太陽の光を見せれる。臣鷹の心の中は唯奈でいっぱいだった。しかしそこへ燈獅の表情がよぎる。親友を取るか唯奈を取るか・・・・・・。明日の取引に組織が乗り込む作戦、多くの死者が出るのは予想できる。武力と武力の衝突は多大な被害を与える。もしかしたら燈獅も死んでしまうかもしれない。確認では雛花も一緒におり、“三神器”を所有しているということがわかっている。彼女もターゲットの一人だ。
テーブルに手を置き、リズムを取るように指でトントンと叩いた。考え事をするときの臣鷹の癖である。目を閉じてずっとしばらく考え事をする。
・・・・・・俺には唯奈が必要なんだ
作戦は変更できない。・・・・・・わかっている。俺が迷っていれば組織の者達も不安がる。俺は凪家を支えるものとしてここに座っている。母さんや父さんは抗争で10年前に死亡している。“三神器”を奪うことは復讐でもある。だが俺は彼らを全滅させるということはしない。“三神器”で唯奈を救ってそれで終わりだ。唯奈と一緒なら抗争など関係ない。ただ、唯奈を救うためなら・・・・・・どんなことをしてでもやらなければ。
* * * * * *
翌朝、燈獅は目を覚ましていつものように洗顔と歯磨きをして居間へ。そこにはすでに着替えを終えた雛花が黙って座っていた。
「おはよう、雛花」
昨夜の涙の理由はずっと考えてもわからなかった。涙の理由・・・・・・さすがに聞けるはずがない。しかしどうも気になってしまう。雛花を傷つけてしまったのだろうか。
「おはよう・・・・・・ございます」
雛花の瞳はすこし赤くなっている。あれからずっと泣いていたのだろう。はぁ俺そんなに雛花を傷つけたのかなぁ・・・・・・。雛花の近くに座るが話しにくくしばらく沈黙が場を漂う。本当に場の空気が重い。雛花はずっと下を向いてただ黙ってしまっている。
「雛花・・・・・・?」
雛花はゆっくりと燈獅のほうを向く。
「・・・・・・はい?」
雛花の表情は無表情でどこか暗い感じがする。
「おなかすいた?」
「・・・・・・いえ」
・・・・・・話が続かない。いつもなら些細な会話も円に妨害されない限り永遠と言って良いほど続いているのに。雛花の言葉はなにか心が抜けたような感じになっている。そこへ円がやってくる。
「おはようございます・・・・・・」
「おはよう・・・・・・」
雛花の元気のない言葉に円は異変に気づく。下を向いている雛花をすこし見つめ、燈獅をにらみつける。しかし雛花の様子からここでは言わないほうがいいと思ったのか黙って座る。
・・・・・・さらに場の空気が重くなった。龍明はなにかキッチンとかをさっきからチョロチョロ移動してるし。手にはジュースを勝手に持って部屋に戻ったりしていた。あれは俺のジュースなのに・・・・・・。
「着替えてくるよ」
燈獅は立ち上がって着替えるために一旦部屋へ。すると着替え終えるときにドアがノックされた。燈獅は慌てて着替えをすませてドアを開ける。ドアをかけると円が立っていた。中へ燈獅を戻し、ドアを閉める。
「雛花様になにをした?」
それは俺も聞きたい。あんな状態では雛花に聞くことなどできるはずがない。
「俺が聞きたいよ・・・・・・」
「原因はあなたしかいないでしょう!?昨夜だって最後に一緒にいたんじゃないの!?」
しかし昨夜はただ話をしただけで・・・・・・。俺がしたことは肩に手を回そうとしただけだ。なぜ雛花が泣いていたのかなど何もわからない。
「いや、だけど昨夜は・・・・・・」
「最低!」
円は燈獅の言葉を遮ってそう言うと部屋を出て行った。・・・・・・最低か。確かになんらかの事情で俺が悪いのならそうかもしれない。理由はわからないけど雛花に謝ったほうがいいな・・・・・・。
そして居間に戻り、雛花の側に寄った。円は着替えをしに行った様で居間にはいなかった。まぁそれならそれで好都合だ。
「雛花・・・・・・。ごめん。俺が何をしたのか正直わからないけど・・・・・・」
雛花は黙って首を横に振った。また目がなみだ目になってきている。
「違うの・・・・・・。私が悪いの・・・・・・」
するとそこへ玄関のチャイムが鳴った。燈獅は無視しようとしたが一定に何度も鳴るため、仕方なく玄関へ行った。扉を開けるとそこには翡翠がいた。
「取引の時間1時間前になりました。着替え、食事などを済ませてください。すこし遠いため余裕を持って出発します」
「え、ええ。わかりました」
燈獅は居間へもどった。居間には円と龍明がおり、着替えも済ませている。燈獅はとりあえず簡単な料理を作って皆に差し出す。
「料理も作れるのか?」
龍明は関心して料理を食べる。しかし手を怪我している為少々苦戦しているようだ。卵エッグにベーコンを絡めたものとトーストだ。しかし朝食など雛花のことが気になってあまり食べることなどできない。
「あんたもついてくるのか?」
龍明はどうするのはふと気になる燈獅。
「できれば行きたいな。これだし」
龍明は両手を見せる。敵がきたらどうすることもできないということだろう。まぁ連れて行ってもこれなら危害など加えることはできないだろう。とりあえず“巽家”の人達にあとで龍明を任せるか・・・・・・。
「わかったよ。あとでどこか安全な場所を用意してもらおう」
そして燈獅たちは食事を終え、翡翠の用意した車へ乗り、取引の場所へ向かった。
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車内では龍明が助手席へ。そして俺と雛花と円が後ろの席へ。とりあえず俺は円に隅に押されて雛花の隣に座れなかった。燈獅は雛花のほうへ目をやった。雛花はずっと外を見ていた。それにしても雛花の言葉がいつまでの引っかかる。なにがごめんなのか・・・・・・なにが悪いのなのか・・・・・・。
ドゥゥン!
するといきなり後ろでついて来ていた“巽家”や雹煉寺家”の乗っていた車が爆発した。
「な、なんだ!?」
車を止めて燈獅たちは降りた。普通の道路でこんなことが起きるなんて・・・・・・なんて大胆なことをするものだ。おそらく中にいた人たちは死んでしまっただろう・・・・・・。回りには普通に車が走っている。通行人などで野次馬ができてきた。炎上した車の前にはひとりの少女が立っていた。歳は雛花と同じくらいだ。赤い髪が少々混じり、赤い眼をしており、不気味さが伝わってくる。
「乗ってください!」
翡翠がそう言い、車へ燈獅たちは乗り込んだ。少女は車へ向かって駆けて行く。翡翠は思いっきりアクセルを踏み、車を出す。
ガガン!
車の天井がすこしへこんだ。どうやら車の天井に飛び移ったようだ。翡翠は勢いよく車を操作して道路を外れて狭い道へ。思いっきり曲がったのだがまだ天井にしがみついているようだ。すると翡翠の側のカーウィンドウが割られる。ビルとビルの間の道なので少しでも操作を誤るとビルの壁にぶつけてしまう。
燈獅たちは現状を理解しようとするが、やはりこの状況ではそれは難しい。ただ、わかることはこの板一枚の上には敵がいて俺たちの命を、“三神器”を狙っているということ。
「大丈夫ですか!?」
「ええ!きちんとつかまってください!」
ビルにかすれ、車は大きな衝撃音と振動が響き渡る。するといきなり割られた窓から炎が放たれ、おもわず翡翠は操作を誤ってビルの壁にこすれながら車はしばらくして止まった。
円は天井に向かって破矢を数本投げた。すると、天井から少女は飛び降りて車の正面にでてきた。燈獅たちは車を降りて少女を警戒する。おそらく先ほどの攻撃は“氣”で炎を繰り出したのだろう。龍明の炎バージョンと思えばいい。
「お、おい穂乃火!おれは寝返ったんじゃないぞ!?わかるな!?」
龍明は腰を引きながら燈獅たちの後ろへ。・・・・・・男だろ?もっと男らしくしろよ。相手が怖いのか苦手なのか、どうも龍明はどんどん後ろに下がっていく。
「あとは頑張ってくれ!なにかあったら携帯に連絡してくれ!多分でるから!」
そういい残して龍明は逃げていった。まぁ戦力には入れていなかったし彼はどうでもいい。今はこの目の前の穂乃火とかいう少女をどうにかせねばなるまい。女ということもあって少々手を出しにくいが“巽家”や“雹煉寺家”の仇をとるためにも、これ以上死者が出ないように彼女を倒さねばならない。
「すでに各地でキミ達を守る者たちは始末されている。もうこない」
「さがって!」
燈獅は雛花たちを後ろに下がらせて構えた。そして穂乃火は燈獅にかけていった。炎を拳と足にまとっている。どうやら服や肌にも多くの“氣”を纏わせて燃えないようにしているようだ。まずは穂乃火の回し蹴り。燈獅は体をかがめてそれをかわす。熱気が通り過ぎる。
そして燈獅は体を起こすと穂乃火は口から火を噴いた。あまりの出来事に驚愕するが口を閉じた時に多少予感を感じていたため体は反応して横によける。体がうまく動く・・・・・・!?いつもと違い体が妙に軽い。昔なら先ほどの炎などよけられなかっただろう。燈獅は穂乃火の攻撃をうまくかわしてどんどん攻めていく。穂乃火は手刀の構えをして切りかかろうとする。炎が纏っているため攻撃は倍増だろう。だが・・・・・・
ガ!
手刀は空を切り、穂乃火の頬には燈獅の拳がぶつかった。穂乃火からみる視界がくらりとゆれる。一瞬頭の中が真っ白になった。
なぜ攻撃が当たらない!?
・・・・・・私は勝つんだ!臣鷹様のために私は絶対勝つ!
穂乃火。炎をまたうまくできたようだな
ありがとうございます。
もしかしたらな、この抗争で俺は死ぬかもしれない
え?
その時はお前のその炎で俺の体を灰にしてくれ
私は臣鷹様のために必ずや“三神器”を手に入れてみせる!臣鷹様のためなら私はどんなことだってしよう。たとえこの体朽ちてでも。
穂乃火は両腕を広げた。すると炎が一気に両腕から、そして体全てを多い、穂乃火は両腕を燈獅に向ける。腕からは炎の剣が出てくる。
「参る!」
穂乃火が前へ一歩でたその時、穂乃火の頭部に掌が繰り出された。瞬時に距離を埋め、燈獅は穂乃火が攻撃をする前にすでに終わらせていた。
私は・・・・・・勝・・・・・・・つ
「よし!」
穂乃火は倒れ、全身を包む炎は消えていった。燈獅は雛花の方を向いた。しかし、そこには意外な光景が見えた。雛花と円、そして翡翠の後ろになにかが落ちてきたのだ。それは振り返る雛花を強引に引っ張って連れて行った。
「雛花ー!」
「と、燈獅さん!」
あれは雅突だ!円と翡翠を殴り飛ばして用意されていた車に雛花を押し込んだ。
「返してほしければ“三神器”をもってこい!」
そして車はどこかへ去っていった。
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「龍明!あいつらのアジトを教えてくれ!」
燈獅は龍明に連絡を取っていた。とりあえず電話番号を事前に聞いておいて良かった。穂乃火は俺の最後の一撃で気を失っているため聞くことができなかった。そして龍明から詳しい場所を聞く燈獅。
「おい、どうしたんだ?」
「またな!」
燈獅は携帯を切って地図で場所を確認する。雛花雛花雛花!あせる気持ちだけが燈獅を襲う。雛花になにかあったらどうする!?おれは雛花を守れるのか!?雛花をまたこのてで触れることができるのか!?
「・・・・・・獅さん」
ここだ!いかなきゃ!雛花を助けなければ!
「燈獅さん!」
「なんだよ!?」
雛花が連れ去られたことで半ば混乱状態になっていた燈獅。そのおかげで隣にいた円の声も燈獅の耳には届いていなかった。
「落ち着いてください!」
「わかってる!わかってるよ!」
しかし心の中はどうにもならない。雛花の事ばかりを考えてしまい、“三神器”のことなんか燈獅の心の中には一瞬わすれられていた。
「翡翠さん!車を出してください!」
「まって!」
円は燈獅の頬を手で叩いた。
「落ち着いてください!冷静になって!」
頬を叩かれたことによって燈獅は徐々に冷静さを取り戻していく。そうだ。冷静にならなければ。今こんな状態で行っても動けたもんじゃない。
「もしも敵が大勢いたらどうするんですか?」
「ああ・・・・・・すまない」
燈獅は冷静に考え始める。すると翡翠はどこかへ連絡を取り始めた。しばらく誰かと会話をし、電話を切った。
「現在各地で凪家の者達が目撃されているようです。おそらくアジトには少数だけでしょう」
燈獅は覚悟を決める。
「“三神器”は渡さない。そして雛花を助けよう!」
そして燈獅たちはアジトへ向かった。翡翠の実力はわからないが円もついているのでおそらく大丈夫であろう。五連心とかいうのも、穂乃火と龍明はもう戦うことはない。それなら勝機が出てくるはずだ。
大きな門が目の前に聳え立つ。迎えるように門が開かれ、燈獅たちは中へ足を踏み入れた。門が開かれた先には大きな寺のような建物が建っていた。周りはすべて庭に囲まれている。燈獅は背中のリュックに入れていた三神器を確認する。一応のため身につけていたほうがいい。
「翡翠さんはどうしますか?」
「・・・・・・私はおそらく足手まといになるだけだと思いますので待っています」
そして燈獅と円中へ足を踏み入れるとそこは静粛に包まれていた。足音だけが響き渡る。大きな広間があり、中央部分には地下への階段があるだけだ。早く雛花を助けたい。燈獅の足は少しずつ速まっていく。
「落ち着いて、なにか気配を感じます」
すると奥の階段から雅突がやってくる。円は破矢を用意する。
「来たか・・・・・・。おまえらの性格からすると“三神器”を素直に渡さないだろうな。ま、あの女があれだからな」
不敵な笑みを浮かべて近づいてくる雅突。円は雅突に向かっていった。
「ここは私に任せて!先に行ってください!」
燈獅は黙ってうなずいて階段を駆け下りた。階段をおりると直線の道が続いていた。壁にかけられている灯篭だけが道を照らす。奥へ進んでいくとそこにはまた広間が広がった。中央には臣鷹が立っている。
「臣鷹・・・・・・」
「燈獅、“三神器”を渡してくれ」
臣鷹の表情は冷たいほどに無表情だった。
「・・・・・・できない。雛花を返してくれ」
燈獅はリュックをおいた。
「なら、俺を倒してから行け。ここで会うか、あの世で会うかはお前次第だ」
そして燈獅と臣鷹との戦いが始まった。両者、その言葉が終わる後に同時に距離を縮めて攻撃を繰り出した。臣鷹のまるで電光石火のようなストレート。これは集中してみないとまともにくらってしまう。しかし、そんなことよりも燈獅の頭の中にあったのは・・・・・・
・・・・・・俺たちはもう戻れないのか?
・・・・・・臣鷹と、煉地と一緒に学校を帰ることなどもうできないのか?
さらに回し蹴りが繰り出され、燈獅は両手で防御するがすこし後ろに圧されてしまう。かなりの衝撃だ。“氣”を纏わせているため攻撃力がハンパではない。“氣”を覚えていなかったらこの両手はどうなっていただろう・・・・・・・。
そして燈獅の攻撃。まずは左足で回し蹴りを繰り出した。臣鷹は体をかがめてそれをよける。そしてさらに右手の攻撃。と見せかけて再び左足の攻撃。臣鷹は一瞬反応が遅れて攻撃をくらってしまう。だが臣鷹もひるまずに右手で燈獅の頬に打撃を与えた。
そして燈獅の左、臣鷹は後ろに一歩下がってよける。攻防は五分五分といった所。しかし・・・・・・。燈獅は右手を振るうと同時に左足での攻撃も同時に繰り出す。臣鷹は左手で右手を掴み、右手で左足もつかむ。そして足で燈獅の腹部に思い切り体重を乗せた蹴りを繰り出した。燈獅は壁に叩きつけられる。
「俺は親友のお前を傷つけたくはないがこれは運命なんだよ」
腹のところからなにかがこみ上げてくる感覚が燈獅を襲う。燈獅は吐き気をおぼえ、吐血まじりの胃酸や胃液を吐き出した。さすがにこれは苦しい・・・・・・。腹を抱えてしばし動くことが辛い。そこへ臣鷹はかまわず向かってくる。蹴りをさらに加えようとするが燈獅は間一髪でその蹴りをよける。しかし臣鷹の後ろへ繰り出された拳が当たり、燈獅は飛ばされた。
・・・・・・強い。・・・・・・おれは勝てないかもしれない。そんな考えが頭をよぎる。臣鷹の攻撃がどんどん繰り出され、燈獅は意識が朦朧になるまでに弱まっていた。視界がかすれ、頭が揺れる。
・・・・・・雛花。
私が貴方の支えになりましょう。貴方もまた、私を支えてください
いつか雛花が言った言葉を思い出す。・・・・・・支え。そうだ、俺は支えられてばっかりだ。今度はおれが雛花を支えてやらないといけないんだ。この手で雛花にもう一度触れたい・・・・・・。もう一度・・・・・・会いたい!
臣鷹の右手から繰り出す攻撃を燈獅は左手で掴んだ。
「何・・・・・・?」
燈獅は“氣”を右手に集中させた。そうだ、“氣”を集中させるんだ。右手に“氣”が一気に集まり、燈獅は臣鷹に右手を繰り出した。臣鷹はよけようとするが捕まれているため、防御することにした。しかし左手だけでは防げるはずがなかった。
ガ!
臣鷹の左手をはじき、燈獅の右手が臣鷹の胸部分にめり込んだ。臣鷹は血を吐き出してひざをついた。
「がはぁ!ぐぅ・・・・・・」
勝負は決した。しかし燈獅の体力も限界だった。燈獅も尻をついて座り込んでしまった。しかし勝ったのだ。
「雛花を返してもらうぞ、臣鷹」
「ご機嫌よう、臣鷹さま」
そこへどこからか女性の声が聞こえる。この緊張感をなにも感じていないのか、というくらい軽い言い方だった。
「あらぁ?負けてしまいましたのですか?それは残念」
燈獅は声の方を振りむくと着物を着た女性が現れる。
「憐・・・・・・!?」
憐は雛花をつれていた。
「雛花!」
憐は強引に雛花を引っ張って燈獅のリュックのほうへ。あれには“三神器”が入っている。
「・・・・・・三神器は三大家と元の一家の凪家にしか発動はできないぞ?」
「ええ、わかっていますよ」
不敵な笑みを浮かべる憐。一体なにを考えているのかわからない。リュックから“三神器”を取り出した。三神器は発動して共鳴して光る。そして雛花の体が光り始めた。
「・・・・・・え?」
「知らなかったようね、この女は三神器のひとつを体に取り込んで自ら三神器になったのよ」
まさか・・・・・・と声を失う燈獅。それでは三神器を発動した時雛かはどうなるんだ?ひとつの小刀の三神器が徐々にまぶしいほどに光る。
「私は黒弓家の血を引いてるのよ。だが、ほかの血も混ざってる。それだけで迫害されたのよ。わかる?三神器は私の復讐のために使わせてもらうわ」
小刀の三神器は細かくなって憐の体にしみこんでいった。そして次は球状の三神器がさらに光りだす。そして細かくなってまた憐の体内に。そして次は・・・・・・・。
「雛花!」
燈獅は力を振り絞って雛花の側に駆け寄ろうとした。しかし、あともう少しで、ほんの少しのところで体が硬直する。
「動かないでちょうだい」
すでに憐は変化していた。通常目を合わせて動きを止める憐の氣だが、三神器をふたつも取り込んだことによって念じることで動きをとめることができるようになっていた。雛花は燈獅のそばに駆け寄った。
「ごめんなさい・・・・・・いままで・・・・・ありがとう」
雛花が燈獅に抱きつくと同時に雛花は消えた。
「あははははははははははは!」
憐は高笑いをしてふたりを見る。力が満ち溢れ、憐の側の壁などは欠けていく。
「感謝するわ!臣鷹さまには、そうねぇ。あの寝たきりの子に止めでも刺してあげましょうか。ごめんなさいねぇ。あういうふうにしたのは私なのよ。思いっきり引いてあげたわ!本当はあなたに復讐をしてもらうつもりだったけど、彼女は寝たきりになっちゃうし、彼女のために三神器使うとかほざくからこうなるのよ?」
絶望がふたりを襲った。憐の言葉などもう耳には入っていない。
「貴様!」
そこへ翡翠がやってくる。
「あら?その声は神門のようね。」
そう、翡翠は神門だったのだ。内通者も翡翠である。すべては臣鷹のために動いていたのにこんあ裏切られ方をして翡翠は怒りを隠せない。
「神門・・・・・・」
奥から雅突と円もやってくる。異変を感じたのだろう。憐は小さな小石を数個拾い上げ、ふっと息を吹きかける。すると小石はまるで弾丸のように飛び、翡翠たちを吹き飛ばした。
燈獅さん・・・・・・。
そこへどこからか声が聞こえてくる。直接頭の中へその声が聞こえてくる。
・・・・・・雛花?
最後に・・・・・・あなたのために・・・・・・
「ん・・・・・・?なんだ?」
突如、憐の体に異変がおき始める。動きが鈍くなっていく。足のほうに目をやるとねずみ色になっている。いや、石になっているのだ。
「な!?なによこれ!?」
燈獅さん・・・・・・いままでありがとうございます
「雛花・・・・・・!」
「な、どうして!?これは!?なぜ!な・・・・・・・ぜ・・・・・・」
憐の動きが完全に止まった。表情は驚愕と絶望で固まっていた。燈獅の動きも自由になった。最後に天へ手を差し伸べた憐のその姿はまるで神に助けを求めたような・・・・・・そんな感じだった。
こうして最後にひとつの命によって。ひとつの抗争が幕を閉じた。
―エピローグ―
「雛花!次はここに行こう!」
燈獅は雛花の腕を引っ張って街中の店へ。本当に気持ちは最高だ!雛花とこれからずっとずっと一緒にいられるんだ!また燈獅は店の中に入って雛花といろんなところを見て回る。そして店をでるとすぐにまた雛花を引っ張って駆けて行く。
「次はここに行こう!」
しかし、雛花を引っ張っろうとしたがその手はまるで石のように動かせなかった。雛花のほうへ振り返ると雛花は泣いていた。
「ごめんね・・・・・・」
「・・・・・・雛花?」
雛花の体が光りだした。あのときのように・・・・・・。
「ありがとう」
燈獅は雛花を抱きしめようとかけるが、燈獅が掴んだのは空だった。
「雛花!」
チチチチチチチ
小鳥のさえずり、明るい太陽の陽射し・・・・・・。夢だったのか・・・・・・。燈獅はむくっと起き上がる。そして部屋を出る前に押入れをあけた。そこにはただ毛布だけが置かれていた。
――おはようございます、燈獅さん――
あのおきの言葉はもう聞こえない。そうだ・・・・・・もう雛花はいない。あれから1ヶ月。よくあういう夢を見る。夢は人の願望を移すというが俺の願望はやはり雛花と一緒に・・・・・・。いや、もう考えるのはよそう。ほら、また涙を流してるじゃないか。いつも夢のあとは押入れを開けてしまう。
いつものように朝ごはんのしたくをして燈獅は親父と朝食を食べた。前とは違い、会話は少なくなった。そして燈獅は学校へ向かった。学校にはもう円はこない。崩壊しかけた白矢家を支えるために現在は大変らしく休学をとっている。そうそう、緋色那は現在は恐ろしいほどの回復力で現在はまだ包帯を巻いている状態だが元気に病院内を動き回ってるという。緋色那にも俺から雛花のことは話した。
燈獅はいつものように教室のドアを開ける。そこにはあのときのようにトランプグループがいた。煉地も臣鷹もいる。抗争が終わり、話し合いによって凪家はもとの四大家に戻った。しかし、黒弓家が絶えたため、現在は三大家である。
学校の帰りに臣鷹に呼ばれ、燈獅は病院へ向かった。庭のようなところで待っていると臣鷹は車椅子を押して現れた。車椅子に乗っている人物は臣鷹の恋人唯奈だ。あのあと、臣鷹の目的を知った親父は“気”の達人達を呼んだ。現代治療がむりなら“気”で治療してみようということだ。翡翠も治療の一員に入り、あれから一週間寝ずに唯奈に“気”を送り続けてとうとう唯奈は太陽の光を見ることができた。
「はじめまして」
燈獅は笑顔でいう。自分のことのようにこれはうれしい。
「はじめまして、燈獅さん」
臣鷹はまえより表情が和やかになった。幸せのひと時だろう。現在唯奈はリハビリさえすれば学校にも通えるようになるらしい。
燈獅は夕方街を見下ろせる丘へ向かった。あれから一ヶ月・・・・・・。いや、一ヶ月などたっていたのか?あれから俺だけ時が止まったように感じる。もう小説家になる夢なんかやめだ。雛花がいないとなにも手がつかないし、おれには向いていなかったと思う。雛花がいないとなにも俺はできない。
「これも必然的・・・・・・運命だったのか?」
運命とは生まれた時から決まっていると誰かは言う。しかしまた他の誰かは運命とは切り開くものだと言う。
雛花が消えるのはすでに決まっていた・・・・・・?
俺には雛花を守ることなど最初からできなかった・・・・・・?
臣鷹の愛する者は目が覚め、俺の愛する者はもう触れることさえできない。臣鷹が羨ましいな・・・・・・。また燈獅は涙を流してしまう。誰かに見られる心配はない。ここは最近見つけた場所で人は来ることがない。絶好の眺めでおれの特等席だ。
会いたい・・・・・・。
燈獅さん・・・・・・
私が貴方の支えになりましょう。貴方もまた、私を支えてください
ありがとう
黒弓 雛花と申します
ごめんね・・・・・・
わたしも泣いてたから・・・・・・
雛花のいろんな言葉を思い出す。もう会えない。だけど・・・・・・
「俺は会いたい!運命?こんなのが運命なのか!?雛花は消える!?そんなことが運命だったって言うのか!?だれか答えてくれよ!」
燈獅は泣きながら尻をついた。泣き続け、そしていつしか夜になった。涙をぬぐい、燈獅は立ち上がった。
「さよならなんて言わない。そんなことを言うともう本当に思い出にも会えなくなる気がするから・・・・・・。それに雛花はそばにすっといてくれる気がする・・・・・・」
燈獅は空を見上げた。
「だから・・・・・・また、会おう。雛花」
そう、また会おう。夢の中だけでもいい。お前を忘れることなくおれはずっと、生きていくよ。
少女は静かに目を開けた。まぶしい太陽のひかりが飛び込んできて思わず手で日陰を作る。少女はあたりを見回した。草木が茂り、小鳥のさえずりが遠くから聞こえる。少女は立ち上がって歩き出した。
――どこへ?
それはわからない。だって今の状況もよくわからないのだから。
――ならなぜ歩く?
誰かが私を呼んでいる気がするから。この先に私は行くべきだと思うから。
――なら、走るんだ
少女は走った。めいいっぱい足を上げて、そして茂る木々を手でどかしてみると、そこには街が広がっていた。
ここは・・・・・・。
――覚えてるはずだ。愛する人が待つ街なのだから。
私は消えたはず・・・・・・
――これもひとつの“必然的運命”
さぁ、愛する人のもとへ・・・・・・。織姫と彦星は永遠に一緒でなければならないのだ。迷うことはない。不安がることはない。これも“必然的運命”なのだから。そして少女は街に向かって走っていった。涙がどんどん滝のように流れ出した。会いたい、会いたい、会いたい!叶わなかったこといっぱいやろう!雛花ははだしの足でも関係なく、ずっと街に向かって走っていった。
「燈獅さん、今すぐ行きます!」
これも必然的運命であり、すでに決められていたのかもしれない
The End・・・・・・。
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2005/05/17(Tue)17:12:39 公開 / チェリー
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■作者からのメッセージ
これにて完結です。さて、今回のテーマですが【結ばれるべきふたり】という感じです。私は織姫と彦星は年に一度というのではなくずっと一緒にいるべきだとおもいましたのでねぇ。まぁ燈獅と雛花も最後には再開を果たすような感じです。奇跡や運命さえも彼らを圧したのです。あまり長くは語りません。やはり私が言いたいことは作品のほうを読めばわかると思いますので。それではご愛読ありがとうございました。