- 『黒電話』 作者:月夜野 / ショート*2
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「もう君と喫茶店には絶対行かないから」
電話ごしで君はそう言って、ガチャンと切った。未だに黒電話の君の家に電話をすると、僕は小学校のときの連絡網を思い出すんだ。普段電話しない女の子にかけるときのような緊張感を、君にも感じてしまう。
今日は風も穏やかで心地の良い秋晴れだったから、君を誘って散歩したかった。そして僕が頻繁に通っているお気に入りの喫茶店でコーヒーを飲みたいと思ったんだ。以前にも君と行ったことあったけれど、黙って煙草をくわえて新聞を読んでいる僕に愛想をつかして、君は盛んに薄い青色の髪留めの具合を気にし、レモンティーの二杯目を頼んでいたっけ。
電話が苦手な僕はまた言い訳ができなかった。またしても、「ガチャン」、だ。僕という存在のメインスイッチを押されて、電源を切られた気分になったんだ。今日は一言二言、用意してきたというのに。
仕方なく外出する。鉄の扉がガチャンと音をたてる。リスタート。電源がまたはいる。買い換えたばかりの靴を履き、一人であの喫茶店に行く。一人の、時間。君のことを懐かしい思い出のように遠くへ追いやってしまう時間。
・・・別に頑固に守ってるわけでもないんだよ。黒電話が置いてある君の家に行く勇気が、まだ僕には無いだけなんだ。
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2005/05/10(Tue)05:09:52 公開 / 月夜野
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■作者からのメッセージ
電話で話すことは好きですか? 私は携帯電話で長時間話すことがいまいち好きになれません。お金もかかるし、なによりも自分の内側にある大事な領域を侵食される感じがあるためかもしれません。
ストーリーのほうは「不器用な男」がテーマです。小気味良い会話や劇的な物語展開がいかんせん上手く書けないので、こういったSS以下のごく短い文章になってしまいます・・・。ご指摘を受けたのにまた短い物語です・・・。これまでに書き留めた物語はごくわずかですが、次回は膨らませて愛されるキャラクターを作り上げたいと思います。