- 『必然的運命 -13-』 作者:チェリー / アクション
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『プロローグ』
左右に激しく揺れながらも車両は山道を走る。後ろからその車両を追いかける2台の車両。黒く月光によって輝くベンツ。そのベンツとは違い、前方で先ほどから危ない運転をしている車両はぼろく、今にも壊れそうな車両。2台のベンツからは黒服のいわゆるヤクザのような格好をした者達が窓から手を出して銃で発砲している。所々弾があたりながらも車両は猛スピードで前進する。こんな車両だ。どこか壊れてもほとんどなにも変わらない。ただ、弾痕が残るだけ。ファッションとでも思えばいい。
左右にゆれるためタイヤは狙いにくいらしく、ベンツではスピードはそんなに出ないようで黒服たちは困難を極めていた。舌打ちをして車両内へ引っ込み、追いつくことに専念する。
この山を越えればなんとか街に着く。そうすれば後ろの奴らも警察があるから手は出せないだろう。なんとしてでも街に着かなければ・・・・・・。運転しているのは少女。顔立ちは大人びているが、まだ運転できる歳てもない。慣れない手つきでハンドルを切り、冷や汗を流して前をじっとにらむように見つめて運転する。
どれほど進んだだろうか。少女にはとても長く感じる。助手席にはもう一人少女がいるが視線を移す余裕などない。
大きなカーブをなんとか曲がり、アクセルを思いっきり踏む。ここからは直線、助手席の少女の様子を見る。バックをしっかり両手で持ち、腰を深くして座っている。自分の運転が下手なせいでドアにすこし横から頭をぶつけたようだ。頭を押さえて涙目になっている。大丈夫ですか?と声をかけると少女は笑顔でうなずく。決して処女は無口ではない。ただ、この状況。なにかしゃべれば舌をかみそうになる。
バックミラーの目をやる。まだついてきているようだ。しかし距離は先ほどよりも遠くなっている。これなら逃げ切れるかもしれない。木々によって月光が遮られ、しばし暗闇が包む。この状況下で暗闇は不安を増大する。
月夜がようやく見え、目的の街を見渡せるようになり、希望が芽生えてくる。あとは下り坂。それも緩やかなカーブが続くだけだ。そうなると逃げ切ることは十分に可能だ。
しかしその時、前方にはなにか影があった。大きな人影だ。手には何かを持っている。肩に担ぐように持って、道路に何もせずに立っている。こちらが徐々に近づいているにもかかわらずその影は微動たりともしない。クラクションを鳴らしても反応がない。敵なのかもしれない。そう考え、轢く勢いでアクセルを再び思いっきり踏む。するとその影は手に持っていた物を前に出した。月光が反射してその影に光が差し込む。大きな、まるでナタの刃を延長したような刀だ。『危険』そう思ったときには遅かった。車両は空に舞っていた。ガードレールを越え、そして転落。運転していた少女は勢いで窓から放り出され、気を失った。
気がつくと木の太い枝から宙吊り状態になっていた。体の節々が痛い。大した怪我はない様だがやはり放り出されたあの時に負ったと思われる打撲が痛い。何とか木から降りて車両が落ちた跡を降りていく。普段胸部までしっかりと整えられている黒髪はもう散り散りになっていた。きちんと整えながら進んだ。かけていたはずのメガネも紛失。本当に最悪な一日だ。
随分ひどい。私の姿もそうだがこの転落してついたと思われる跡。おそらく車両はまるで階段から落ちるスーパーボウルのように転落したのだろう。転々と大きな跡が残っていた。少女が想像したのはあの少女の死。生きてはいないだろう・・・・・・。
そして車両を発見する。あぁ・・・・・・ひどい。そこらじゅうぼこぼこにへこみ、窓という窓はすべて割れている。まるで映画でよく大破される車両のひとつのようだ。まぁ運転免許がないため、金輪際使わないと思っていたのでそう勿体無いとは感じない。運転席側ですこし見下ろす体勢なので助手席の方は見えない。タイヤに目をやるとタイヤは横に切断されて半分しかなかった。警戒してあたりを見回す。人の気配はないようだ。石を投げて様子を伺うがなにも反応がない。聞こえるのは虫たちの鳴き声。静かに車両に近づく。助手席の見えるほうに行くと、少女はいなかった。しかもよく見れば血痕も見られない。普通なら血まみれの状態になっていてもおかしくはない。途中で放り出されたというのならその時にも血がつくはずだ。
少女は運転席側のドアの傷に気がつく。よく見れば文字のようだ。『大丈夫、街へ』と震えた文字で書かれている。文字を削って消して少女は歩き出す。その“街”へ。
-1-
さて、今日もまた一日が始まる。朝の太陽の日差し。うまそうな朝食。そして目の前にいるドレッドヘアーの親父・・・・・・。毎日朝はタンクトップとズボン。鍛え抜かれた筋肉がなんともたくましい。何に刺激されたのか突然ある日親父の頭に異変が起きた。先代は皆ハゲがいないのでハゲる心配はない、と親父は言っていたがこれでは髪が傷んではげてしまうのでは・・・・・・?親父殿・・・・・・。
こう見えても親父は道場を開いており、その師範代として毎日道場に出没する。俺も道場で現在鍛えている。親父の口癖は『2代目だから死ぬな』毎朝朝食を終えて木製のドアを開けようとすると聞こえてくる。
「学校頑張れよ。2代目だから死ぬな」
今日も「死ぬな」で始まる一日。今日高校2年になった朽木乃 燈獅(くちきの とうし)はため息をついた。燈獅・・・・・・親父がもろ画数とかっこよさから選んだ名だ。かっこよくつよく!といわれた。俺はあまりかっこよくも強くならなくてもいいのに・・・・・・と思う。将来の夢は道場の師範代。しかし、俺が本当にやりたいことは『小説家』。今日もなにかいい小説のネタはないものかと歩きながら考える。
ビルが立ち並び、多くの学生やサラリーマンの流れと共に学校へひとり向かう。う〜ん、やっぱり小説にはなにかインパクトがないとなぁ〜・・・・・・。その時だった。ガラスが割れる音と共に、燈獅の頭上に影ができる。燈獅は見上げると少女が落ちてきた。思わず少女を地面に落ちる前に抱きかかえる。
「・・・・・・え?」
間抜けな声が出る。それも仕方がない。だれもがこの状況を理解していなかった。通行するサラリーマンも、隣で先ほどまで携帯電話をいじっていた学生も。そして移る視線は少女へ。燈獅も少女へ目をやる。・・・・・・かわいい。第一印象はそれだった。だぼだぼの服にズボン。所々傷ついたかばん。そして綺麗な顔立ちと黒髪。
「走って!」
少女の第一声はその言葉。周りの人々の視線をふりきり、とりあえず理由もわからず燈獅は走る。少女を抱えたまま、とりあえず人がいないところへ。所々がちくちくする。ガラスの破片がついたのだろう。
しかし何だったのだろう。たしかビルの2階あたりから飛び出してきたぞこいつ。しかも窓からはヤク○さんがいたようないなかったような・・・・・・。少女を下ろしてしばらく現実逃避。空から少女が降ってきた・・・・・・。そういうことだ・・・・・・。確か映画であったなぁ。
「・・・・・・の」
なんだったかな。アニメだったような気がする・・・・・・。俺アニメあんまり見ないしなぁ。結構面白かったような気がする。
「あのぉ!」
「あ!な、何!?」
少女の声で現実に戻る。
「助けてくれてありがとうございます」
いまどきこれほど礼儀正しい女性は珍しい。きちんと頭を下げて手はひざへ。最近の若者は皆「サンキュウ」などで済ませてしまう。しかし、どうしていきなり落ちてきたのだろうか。理由を聞くと少女はとりあえずどこかへ安全な場所へ連れていいってほしいと言うので警察へ連れて行こうとしたが、少女が言うにはそこは見張られているということらしい。燈獅は仕方なく自分の家へ連れて行った。学校は結構サボってるからあまり気にしない。ただ、サボった日は家にはきちんと学校が終わった時間に合わせて帰る。親父に学校をサボったりすることがばれると鉛のような拳が飛んでくる。今日は多分ズボンをはいていたから道場に朝から行って修練をするつもりだろう。
燈獅は扉を開けて広い庭を見渡す。そこから見える道場からは親父の掛け声が聞こえる。修練をしているようだ。燈獅は少女を中へ入れ、部屋に案内する。
燈獅は部屋への扉の前で少女を止める。そしてひとりで部屋の中へ入った。・・・・・・まったく散らかっている。こんな可愛い少女が来るとなったらきれいに片付けていただろうに。とりあえず悪い印象を与えるものはすべて視界から放り出し、見た目だけをキレイにする。燈獅は少女を入れて、話を聞いた。
「ちょっと追われてて・・・・・・」
あまり話そうとはせず、少女はそう言うと燈獅に丁寧な土下座をして再び口を開いた。
「お願いがあります。しばらくここに身を隠させてはもらえないでしょうか?」
慌てて燈獅は頭を上げるよう言う。しかしどうしてだろうか。初対面なのに突然このような事を言い出して。土下座までして頼むなんて相当な理由があるのだろう。だが、ここまでされても戸惑う燈獅。それは親父の存在があった。親父は昔俺が初めてできた彼女を部屋につれてきたのを見て突然「息子をたぶらかすつもりか!」と言った。当然それから彼女とは別れた。「あのプレッシャーに耐えられない」と言い残して彼女は別れを告げた。
「お願いです!すこしだけでいいのです!」
涙目で上目遣いで燈獅を見つめる少女。一瞬胸の鼓動が大きく打つ。そして燈獅の決意が決まる。
「よし!わかった!」
こんな可愛げな少女の頼みを断るのは男ではない!喜ぶ少女を前に、燈獅はこれから親父との戦いを想像していた。デコピンでコップを破壊し、手刀でビンを割る親父。もはや現実を超越する存在。親父にスーツを着せればたちまちマフィアに大変身。見つかった時は命を決して立ち向かうしかないだろう。それまでは見つからずに生活をカバーしていくしかない。
「私の名前は黒弓 雛花(くろゆみ ひなか)です」
そして少女はかばんの中から制服を取り出した。しかも燈獅と同じ学校のものだ。しわができるというので壁にかけさせた。このままでは変態なのでとりあえずその制服のところに大鏡を置いて隠した。しかし、同じ学校というのが驚きだ。学校ではこんなに可愛い子は見たことなかったぞ?聞くと転校生らしい。家の場所を尋ねるが少女の家は理由があり、もうないらしい。途中一緒に少女がひとりいたのだがトラブルがあってはぐれてしまったらしい。そして燈獅と雛花との生活が始まった。
-2-
「お父様やお母様に話さなくてもよろしいのですか?」
一応同棲という形なので話さないとやばいだろう。普通の家族ならな。しかし、親父に話したところで俺は親父からの一撃を与えられ、雛花は家から出されると思うのだ。親父には無理。そう説明する。
「ではお母様だけでも理由を」
燈獅の表情が一瞬変わる。刹那頭の中に浮かんだのは母親の笑顔。
「母さんはいない」
そう一言言う。2年前に事故で燈獅の母親は他界していた。一応燈獅は仏壇に案内し、一緒に拝んだ。部屋に戻って雛花は燈獅に何も知らなくてすみませんと謝る。
「気にしなくていいよ」
しかしどうしようか。現在はまだ10時。とりあえず学校は行っても行かなくても別にどうでもいい。結構サボってるから担任もそう気にしないで確認の電話も来ないだろう。だがやることがない。話題にする会話もなく、ぽつりぽつりの会話だけが続く。燈獅はすこし緊張していた。今思えば自分の部屋にふたりきり。しかも目の前に可愛い子が座っている。
「学校へ行きましょう」
雛花はそう言い制服を取り出す。とりあえずやることもないので学校がまだ始まったばかりというなら一日でも多く行こうというのだ。そこへ燈獅の携帯電話にメールがくる。親友からだ。内容はやはり学校へ来るのかこないのかということ。単位がやばいらしく担任がそろそろ電話するとか言っているらしい。とりあえず燈獅も鞄を持って準備する。
「あの、着替えますので」
「あ、ああ。そうだった」
慌てて燈獅は部屋を出る。衣擦れの音が聞こえる。この扉の奥には雛花が着替えを行っている。男なら・・・・・・。と考えてその手はドアノブに伸びていった。心の中では燈獅の中の天使と悪魔が壮絶な戦いを行っていた。のぞくかのぞかないか。悪魔は強く、天使を蹴飛ばして燈獅を操る。ドアノブに手をかけ、ゆっくりとまわそうとしたときだった。
「燈獅、お前学校はどうした?」
そこへ親父がやってきた。汗を体中流しており、呼吸が荒い。おそらく一段落ついて休憩に入ったのだろう。サボったんじゃないだろうな、と親父の体中の筋肉か血管が浮き出る。はい、サボってました!と正直に言いそうになったがなんとか言い訳に切り替える。
「忘れ物取りに来たんだ。すぐ行く」
そうか、と親父はまた道場のほうへ向かっていった。雛花の着替えが終わり、ふたりは学校へ向かった。
雛花は職員室に行っていろいろと先生と話すらしいので燈獅はひとりで教室へ向かった。教室にはいつもどおりの風景がひろがる。うるさい会話をする女子達。トランプをする男子ども。その中に親友がいる。まずはメールをくれた、名前は扇 煉地(おおぎ れんじ)と、うわさでは御曹司という凪 臣鷹(なぎ おみたか)。そしてトランプのグループに混ざり一緒にトランプを楽しむ。
「よぉ!どうした今日は!女でも拾って遅れたか?」
当たり、と燈獅は言う。そしてロイヤルストレートフラッシュをたたき出す。掛け金をそれぞれからもらい、誇らしげに財布に入れる。残念がる煉地とは別に臣鷹は冷静に笑みを見せるだけだった。結構負けているはずなのになにか余裕を感じさせる。本当に煉地と臣鷹は性格は逆だ。大リアクションと小リアクション。そしてその中に中リアクションの俺が入って大中小コンビが完成する。
そして授業始まりの放送がはいる。といっても今日は始業式だったため、授業はないだろう。そこへ担任と少女が一人入ってくる。少女は転校生のようだ。少女が入ってきたと同時に男性陣から声が沸きあがる。燈獅も少女へ目をやると思わず立ち上がって驚いてしまった。
「どうした?燈獅」
臣鷹は冷静に言う。そして燈獅を座らせた。いつまで立っていられては話が進まない。
「黒弓 雛花です。よろしくお願いします」
そう、転校生はあの雛花だったのだ。なんという偶然であろうか。しかも席は俺の隣。本当に神様は俺と雛花を粘着テープのようにくっつけたいらしい。一日中雛花と一緒ということになった。まぁうれしくないことはない。男性陣からの視線が痛いがこの際は喜ぼう。
そして午前で終わり、雛花と一緒に帰ることになった。そしてあとから煉地と臣鷹もやってくる。煉地は雛花を笑わせようと話し始めた。燈獅は煉地に雛花を任せ、臣鷹と話す。
「知り合いだったのか?」
「ああ・・・・・・といっても今日初めて会ったんだけどな」
とりあえず大変な事情があるのだが親友達を巻き込むわけにはいかないと思い、ただ道中にぶつかったとだけ言う。本当にベタだと思うが言い訳などどうでもいいだろう。
「・・・・・・そうなんですか〜!」
雛花の笑い声が聞こえる。さすがに煉地は女性との会話がうまい。もう雛花と仲良くなり、笑いあっている。あぁ、俺も煉地のように口がうまかったらなぁ・・・・・・。すると臣鷹は燈獅の肩に手をやり、お前はお前らしさがある、と一言。そして臣鷹たちと別れ、問題の家につく。道場では多くの少年達の声が聞こえる。おそらく練習生の声だろう。親父もいるようだ。雛花を部屋につれ、燈獅は練習用の服を持った。とりあえず燈獅も2代目とし練習には参加せねばならないのだ。そして雛花に部屋を出ないように言い、燈獅は道場へ向かった。着替えをして練習に参加する。
しばらくして組み合いにうつったときだった。親父に一人ずつ組み合いを教わるため、ほかの練習生は皆座ってみていた。燈獅は座ってみていると隣に誰かが座った。隣を見ると雛花だった。
「雛花!ど、どうして!?」
雛花は制服姿のままで正座していた。父を説得するいいアイデアがあると言って雛花は組み合いの青年が終わるといきなり親父に組み合いを申し出た。しかし、親父は勧めない。
「やめなおじょうちゃん。怪我しちまうぞ?」
「大丈夫です。それとひとつ提案があるのですが・・・・・・」
それは燈獅とのことだった。なんと雛花はもしも親父に一撃でも与えることができれば燈獅との同棲を認めてほしいと言い出した。それを聞いて親父は燈獅の方をにらむ。やはり同棲という言葉がいけなかっただろう。しかし、
「わかった。一撃でも与えることができたら認めてやろう」
そして親父は練習用の服を差し出し、親父と雛花との組み合いが行われる。練習生もこれにはみな注目していた。2代目との同棲をかけた組み合い。これはもう誰もが気になる。しかも可愛い少女ということで男性陣は皆注目する。すこしだけいる女性達も雛花の戦い方気になる。そして雛花は着替え、親父対雛花との組み合いが始まった。
-3-
はじめ!という声と同時に親父と雛花は動いた。まずは親父は得意の左足での回し蹴り。雛花は上体をそらしてかわし、雛花も回し蹴りを繰り出す。親父はすぐに後退して蹴りを避ける。動きは燈獅が予想していたのよりも断然よかった。普通にここの白帯の練習生ではかなわないだろう。普通は親父の回し蹴りなど速すぎて避けられない。
雛花は一歩前に出て右の上段突きを繰り出した。親父はそれを右手で流して左手で顔めがけての突き。それを間一髪で雛花は左手で防御して一度距離を取る。すこし離れた状態でしばしふたりは対峙する。
そして親父は瞬時に前へ出て上段蹴りを下から上へ思いっきり振り上げる。雛花はそれを受け止め、上段・中段と連続で二連撃を繰り出す。親父はふたつとも防御すると雛花はもう一撃を繰り出そうとする。しかし、親父はそれを呼んで攻撃を繰り出している。これえでは避けられない。どうするんだ!?もう雛花攻撃のモーションが入ってしまう。
・・・・・・ガ!
鈍い衝撃音が道場内に響く。見れば雛花は右手で親父の攻撃を防ぎ、左足で蹴りを繰り出していた。しかし親父もそれを防御している。しかも雛花は右手で防御しているが一瞬顔ごと飛ばされた。ダメージが多少だがあるはずだ。
「うむ、見事だ」
親父は雛花をほめた。たしかに見事だ。女性でここまで動けるのはすごい。俺なら途中で死んでたかもしれない。親父は構えをといた。組み合いはこれで終わりにするらしい。
「よし!燈獅の嫁に来い!」
突如親父はそのようなことを発言する。嫁・・・・・・?何を言っているんだ親父はついさっき知り合ったばかりの女性なんだぞ?雛花もなんか言ってることがわからなくて困ってるじゃないか!
「・・・・・・え?・・・・・・あ」
すると雛花はその場に倒れだした。おそらく先ほどの衝撃で脳震盪を起こしたのだろう。燈獅は慌てて雛花を抱きかかえる。
「燈獅。同棲は認めてやる。ただし、うるさくするなよ」
親父は雛花を気に入ったようだ。まぁ同棲が許可されて良かったがこれからどうなるやら。こんな可愛い子と一緒に住めるのは確かにうれしい。しかし不安もある。彼女は何者なのか。どうして身を隠さなければいけないのか。などいろいろと聞きたいことはある。まぁ知り合ったばかりの相手にいろいろと聞くのは失礼かもしれない。少しずつ時が経過すると共にひとつずつ聞けばいいだろう。
「あれ・・・・・・?」
雛花は目が覚めると燈獅の部屋にいた。額には濡れタオルが。隣には燈獅が座っており、雛花はあれからどうなったのかを尋ねる。どうやら雛花は親父のあのセリフの前からすでに記憶が飛んでいたらしい。あの言葉も覚えていなかった。まぁそれはそれでいい。とりあえず燈獅は同棲の許可が出たことを伝える。
雛花が気を失っている間に燈獅は店に行っていろいろと生活用品を買ってきていた。歯ブラシや顔拭きタオルなど、これらがあれば一応生活も大丈夫だろう。あとは寝る場所だけだ。しかしこの部屋は結構狭い。どうするかな・・・・・・?唯一あいている場所はあの押入れくらい。中にはただ毛布があるだけで他はなにも詰め込んでいない。
「押入れがちょうど良いのではありません?」
雛花は押入れを寝る場所としてちょうどいいというがなんか失礼な気がする。あまり押し入れには入れたくはないがとりあえず雛花がいいというのであればここでいいか・・・・・・。そしてしばしの時が過ぎ、燈獅と雛花は眠りについた。
翌朝、目覚ましのアラームに燈獅は起こされる。手探りで時計を探し、スイッチを勢いよく押した。頭をかきながら燈獅はむくっと起き上がる。目をこすりながら燈獅は下へ向かおうとした。
ゴン!
突然押入れから奇怪音が響いた。ごそごそと音がして燈獅は思わず構えた。な、なんだ!?とすこし後ずさり。泥棒か!?こんな部屋に入ってもあるのは原稿とか漫画ほんとかしかないぞ!?すると押入れが開かれる。中からは涙目の雛花が。雛花の存在をすっかり忘れていた燈獅。
「お、おはようございます〜」
どうやら天井に頭をぶつけたらしい。頭を押さえながら雛花をゆっくりと押入れから出る。すると今度は足を引っ掛けて雛花は床に勢いよく転がった。さすがにこれは痛い。頭からいったぞ・・・・・・?大丈夫なのか?
「あ、あはは・・・・・・」
なんとも可愛い・・・・・・。頭をさすりながら雛花は笑顔をみせる。あぁ、これは現実なんだ。雛花と一緒に下へ行き、洗面所で一緒に歯を磨き顔を洗う。現在の時刻は6時30分。これから25分かけて朝ごはんを親父の分も一緒に作る。いつもはもっと時間は少ないのだが今日からは雛花を含めた3人分だ。そして残りの5分で朝シャンをするのだ。燈獅はさっそく料理を作っていると、雛花が手伝うと言い出した。雛花の料理の腕はわからないが、もしもうまかったら手間が省ける。とりあえず玉子焼きを焼かせて料理の腕を見る燈獅。しかししばらくして嫌なにおいが場を漂う。・・・・・・なんだ?燈獅は隣を見るとフライパンから黒い煙を放ち、それを慌てて見ている雛花。
「と、燈獅さん?こ、これは?」
あわわわわと雛花はどうしていいかわからず戸惑っている。燈獅は慌ててフライパンのおそらく玉子焼きと思われる物体を水につける。そして窓を開けていそいで換気をした。あぁ少しでも期待した俺がバカだった・・・・・・。結局すべてが終わるまで35分かかってしまった。親父が食卓に来て3人は食事をした。
「・・・・・・ん?なにかにおわないか?」
その言葉を聞いて雛花はビクッ!と肩を揺らす。燈獅は慌てて雛花をかばった。
「き、気のせいだよ。さぁ早く食べようぜ親父」
そしてふたりはそそくさと食べ終えて玄関へ向かった。はぁ、しかし雛花が料理の腕が悪いというのがすこしショックだ。雛花の手料理食べてみたいのにこれでは食べると同時に天へ召されてしまう。
「お〜い、燈獅。二代目なんだから死ぬなよ。雛花ちゃんも二代目の嫁なんだから死ぬなよ」
嫁?と雛花は燈獅の顔をみる。燈獅は気にしなくていいよ、と言って玄関を出た。そして今日から雛花と一緒の登校が始まった。
-4-
道中周りの視線がすこし気になった。おそらく雛花を見ているのだろう。こんな綺麗な少女がいるなど知らなかっただろう。しかも俺のような男の隣にいるんだ。すれ違う男子の高校生達は羨ましいだろう。女子高生も雛花を羨ましそうに見ている。綺麗な顔立ちやすらっとした足が羨ましいのだろう。女性は顔や体を気にするからな。
そして燈獅は教室へ入ると、雛花は女子たちに連れて行かれてしまった。綺麗の秘訣でも聞きたいのだろうか。俺はいつものようにトランプのグループに入った。またいつものように財布を満足させてやらねば。
「よ!うらやましいねぇ〜。もうできちゃったのか?」
煉地は燈獅と雛花がもう付き合っていると想像し、燈獅をプレイボーイとか転校生キラーとか言い始める。臣鷹も煉地がそういうとすこし笑みを見せる。まったく・・・・・・たしかに同棲したりしてもう付き合ってるも同然みたいなものだがまだ俺は雛花の事などなんにも知らない。雛花に聞いてみたいが雛花には雛花の事情があるのだからあまりふれないようにしている。
そして授業が始まり、皆席につく。はぁかったるい。こういうときはやはり物語を考えるのが一番だ。時間を忘れてまるでタイムスリップしたような感覚にとらわれる。こういう時間はあとでノートに黒板のものを書いとけばいい。
そしてしばし時が過ぎ、体育の時間へ。この時間は比較的自由だ。俺たち以外の男子達がバスケットなどで試合をしてるのでその間俺たちは話をし合っている。今日話題になったのは他のクラスに新たに来た可愛い少女の転校生についてだ。綺麗な顔立ち、すこし白いメッシュのような髪が混ざった黒髪、そして前髪をすこし残して後ろに髪を束ねているらしい。名前は白矢 円(しろや まどか)。
まったく、煉地はそういうことはよく情報を仕入れる。勉強は全然だめなのに・・・・・・。まあその情報が気にならないわけでもなく一度見てみたいと思う燈獅。
ふと女子の方をみてみた。正直なところ雛花が気になったのだ。
「雛花ちゃん、なんか活躍してしてねぇか?」
煉地にそう言われてよく見てみれば見学している女子は雛花に視線が集中している。黄色い声援が飛び、雛花にボールがわたると一気に声援が爆発。なんなんだこの声援は・・・・・・?すると雛花はコートの半分くらいからパスをもらったばかりだというのにすぐにシュート。ボールは吸い込まれるようにゴールへ入っていった。シュートフォームもままならないのになぜ入るんだ・・・・・・?
そして授業がすべて終わり、燈獅は帰る仕度をした。隣を見てみると雛花には女子達が囲んでなにやら話をしている。どうしたのだろうか。「見てみればやりたくなるよ」とか聞こえる。おそらく部活の勧誘だろう。すると女子達は雛花をつれてどこかへ。まぁ雛花と必ず一緒に帰らなければならないというわけでもないので燈獅は玄関へ。
「ふ〜られた〜♪ふ〜られた〜♪」
すると煉地は燈獅をからかう。ぴょんぴょんはねて燈獅の反応を見る。燈獅は付き合ってないよ、と一言言って靴を取る。そして大中小コンビで一緒に帰った。煉地は授業が終わったとたんあの転校生白矢 円に会いにいったらしいが姿はどこにもなく結局会えなかったらしい。
「はぁ、可愛いらしいのに・・・・・・一目見たかったなぁ」
そして煉地と臣鷹と別れ、燈獅はひとり家に向かった。いつものように扉を開けようと手をかける。すると、扉になにかダーツのようなものが刺さった。うぉ!と燈獅は手を引いた。
カカカカ!
新たに燈獅に向かって投げ込まれる。燈獅は体をかがめてそれらを回避した。そして投げ込まれたほうを見るとそこには一人の少女が立っていた。。綺麗な顔立ち、すこし白いメッシュのような髪が混ざった黒髪、そして前髪をすこし残して後ろに髪を束ねている・・・・・・。そこで思い出したのはあの転校生。白矢 円と完璧に特徴が一致する。
「雛花様を返してもらう!」
突如そのような質問をされた。しかし雛花は学校だ。
「あ、あの・・・・・・?」
どう説明すればいいか戸惑う燈獅。するとあのダーツのようなものが飛んでくる。
「私の破矢を受けなければ答える気にならないか・・・・・・」
両手に破矢を持ち、殺意がひしひしと伝わってくる。や、やばい・・・・・・。するとそこへ聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「・・・・・・円さん?」
その声を聞くと同時に円は雛花のほうを向き、確認すると雛花のほうへ駆けて行く。ひざをついて円は言う。
「雛花様、ご無事でしたか」
どういうことなんだ?現状をあまりよくのみこめない燈獅。雛花は円に何をしていたのか聞いてこの状況を理解した。
「円さん、燈獅さんはとてもいい人ですよ。しばらくここにとめてもらってるの」
円は燈獅のほうを見る。燈獅はうんうんとうなずいた。しかし円は眉間にしわを寄せてまだ疑っている様子だった。とりあえず円と雛花を中へ入れて話すことにした。
-5-
俺の部屋へ行き、円と雛花をこの狭い部屋の中へ。3人は少々きつくなってきた。とりあえず円は雛花を探していたようだ。この町には一緒に来たのだが途中トラブルがあったらしくふたりは離れ離れになってしまったらしい。そして雛花を探すのだが手がかりは雛花が持っていたあの制服しかなく、とりあえず円も転校の手続きをしてここへ。以前からここへの転校は話されていたので時間はそうかからなかったようだ。
寝泊りは近くのホテルでしていたらしく、金銭はわずかだったがなんとか2日くらいはもったらしい。円は現在の所有金額を見せた。数枚の千円札と小銭がすこし。これではもうホテルでの寝泊りはきついだろう。すると雛花の視線は燈獅へ。
「燈獅さん・・・・・・。ここには・・・・・・?」
円をここに泊めてやれないかってか?それはきついだろう。だってひとつの部屋に三人だぞ?それにこれでは俺のプライバシーはどうなるんだ?無理無理。絶対無理。それにこんな凶暴な女は入れたくない。ほんとあの破矢っていうやつ威力が恐ろしい。あの扉にめり込んでたんだぞ?
「困ってるようだし・・・・・・」
雛花は燈獅を見つめる。・・・・・・そんな目で見つめないでくれ。よしわかった!って言っちゃうじゃないか・・・・・・。円も頭を下げてお願いする。まぁ困っているようだしなぁ。でも親父がどういうかだ。
「燈獅〜。友達でも来てるのか?」
親父が下で言う。おそらく玄関の靴がひとつ多いことに気づいたようだ。そして親父はなにかまた気づいたらしく、階段をゆっくりと上ってくる。きしむ音がすこしずつ近づいてくる。おそらく靴の大きさから来ているのは女性だと気づいたのだろう。
燈獅はトイレや食卓、そして風呂などを一通り説明した。あとはこの部屋でどう生活するかだ。
「とりあえず雛花は押入れにねってるんだけど・・・・・・」
すると勢いよく破矢が飛んでくる。燈獅はびっくりしてそれをよけた。一体いきなり何をするんだこの女は!?おれが何をした!?なんか失礼なことでもしたのか?
「もう一度言ってみろ・・・・・・」
な、なに!?燈獅は一応もう一度説明した。するとまた破矢が飛んでくる。わー!と本気で燈獅は身の危険を感じて逃げ回る。燈獅を追うように破矢がどんどん飛んできて紙一重で壁に刺さっていく。そしてとうとう燈獅の袖部分に刺さり、壁から動けなくなってしまった。し、死ぬー!そこへ雛花が両腕を広げて燈獅をかばう。
「ど、どうしたの!?」
「雛花様を押入れに押し込むなんて無礼極まりありません!」
どうやら雛花を押入れに寝させていることが円の気に障ったらしい。そかしここまでしなくても良いだろ!?みてくれよこの部屋の中を!壁のダーツ板には破矢がめり込んでるし、おれの気に入っているアイドルのポスターの顔には破矢が見事に突き刺さっている。ここまでしなくても良いだろ!と心の中でしか叫べない燈獅。
「わ、わかった!わかった!雛花はちゃんと布団に寝かせるよ!」
また波乱が起こりそうだ・・・・・・。
* * * * * *
ある一室のソファーに座る青年。その青年の近くにはふたりのサングラスをかけた黒服の男女が立っていた。そしてその向かいにはテーブルをはさんで柄の悪そうな男性達がふたり座っている。
「問題の少女を見たんだな?」
「ああ、逃がしちまったけど特徴とかみんなわかるぜ。なんせ近くにいたからな」
それを聞いて青年は札束をテーブルに軽く投げる。札束をみて早速男性達はそれを拾い上げて枚数をうれしそうに数える。金にはそうとう執着があるようだ。
「しかし俺達と会うってことだけでまずいんじゃないか?」
そう言った男性の目はなにか怪しい。悪巧みを考えているような、そうとう悪く見える。懐からは銃や用語で言えばドスがちらちらと見える。かなりやばい関係の者達であろう。
「脅す気か・・・・・・?」
「そうかもしんねぇな」
すると青年はすぐに席を立ち、出口へ向かっていった。指をパチンと鳴らす。すると青年の近くにいた男女達がそれぞれ武器を取り出す。男性は懐からナイフを、女性は足をすこし強く叩き、仕込みナイフを出す。
「お、おい!まて!俺達を殺したら情報を手に入れられなくなるぞ!?」
青年は出る途中、背を向けたまま、視線だけを向けて言う。
「その金は地獄への通行料だ」
そしてドアを開けて外に出る。それと同時に銃声が聞こえ、その後悲鳴が・・・・・・。しばらくして男女が部屋から出てくる。ナイフについた血を拭いている。殺したのだろう。そして階段をおりて外に止めていたリムジンへ青年は乗り込む。男女はそれぞれ運転席と助手席へ乗り込んでリムジンは走っていった。
そしてリムジンが行き着いた先は病院。青年は車を降りて病院の中へ入る。面会時間はとうに過ぎている。しかし青年は当然のように中へ。男女たちもついていく。病院内では看護婦たちがいるが青年を見ても止めようとしない。それどころか青年に頭を下げて微笑む。
エレベーターにのり、ある部屋へ。部屋には男女たちは入らず、扉の前で待っている。青年は部屋の中に入った。薄暗く、月光だけが部屋を照らす。一定になる機械音。そして点滴のわずかな音さえも聞こえる。中央にはベットがあり、少女が静かに眼を閉じている。隅にある椅子をもってきて青年は近くに座った。しばらく少女を見つめる青年。表情はわずかに悲しみが感じられる。
「・・・・・・唯奈を救う方法は“三神器しかないんだな?」
少女に視線が向いたまま青年は言う。少女へ言ったのではない。そして闇から一人の女性が現れる。
「ええ、臣鷹様。私達がかならずや“三神器”を手に入れていせましょう」
そう、青年はあの臣鷹だったのだ。そして闇からさらに4人の影が現れる。これから運命はどんどん変わっていくかもしれない。
-6-
そして夜、親父は円の日用品を持ってきて円に手渡した。おそらく雛花にもおなじようにしたのだろう。歯ブラシやタオルなど、きちんと生活できるようにすべてそろっているようだ。
雛花に円からかばってもらう俺・・・・・・。なんかあまりかっこよくないなぁ。燈獅は1階でしばらく過ごしていた。円が恐ろしくあまり近づきたくない。いつ破矢が飛んでくるのかと思うともうびくびくだ。
風呂でも入るか・・・・・・。ゆっくり過ごす時間はやっぱり風呂が一番だ。燈獅は脱衣所で服を脱いだ。さて、ズボン・・・・・と。そうズボンを脱ごうとした時だった。
ガラッ!
そこには全裸状態の円が・・・・・・。一瞬燈獅は氷のように止まり、円をただ見る。円も同じように反応した。沈黙が場を漂う。円の体からは風呂の水滴がたれるが、燈獅の体からは冷や汗がたれる。そして沈黙を破ったのか・・・・・・。
ドガッ!
円の右ストレート。円は慌ててバスタオルで体を包み、燈獅を脱衣所から追い出す。
「お、親父にはいっぱい殴られたけど女の子に殴られたのは初めて・・・・・・」
頬を押さえ、燈獅はそう言う。しかし、風呂に入っているなら一言声をかけろよ・・・・・・。そこへ親父がやってくる。
「おい、円ちゃん風呂に入ってるから気をつけろよ?」
親父・・・・・・おそいよ。もう殴られたっていうのに。そしてしばらくして円が出てくる。目はもう軽蔑している。なにも言わず、ただ流し目だけを放ち、ゆっくりと2階へあがっていく。なにか罵声でもかけてくれればすごく反省するのに、無言で通り過ぎられるとすごく罪悪感が感じる。 ほんと円とは相性もタイミングも悪いなぁ。風呂に入りながら燈獅は憂鬱な気持ちになりながらひと時を過ごした。
時刻は11時頃。そろそろ寝ようかと燈獅は2階へ上がった。しかし2階には当然ながら円がいる。あんな事があったのでとても行きにくい。そこで燈獅は道場で寝ることにした。道場なら広さも気にしないし、何より安全だろう。親父の押入れから布団を持っていき、燈獅は道場に布団を敷いて眠りについた。
・・・・・・カッ!カッ!カッ!
深夜、燈獅は不可解な音に目を覚ます。目をすこしだけ開け、燈獅は辺りを見る。すると、なにか光るものが壁に向かって飛んでいく。・・・・・・なんだ?暗くてよくわからない。そしてその光るものはなにか人影のようなものから放たれている。
深夜に道場に人がいるということは考えられない。燈獅の心臓の鼓動が速まる。ゆ、幽霊!?まさか!?そして音が止まり、足音が近づいてくる。ひたひたとはだしのようだ。
足音は燈獅の足元近くで止まり、じっとそれから動かない。燈獅は全身から汗を流す。・・・・・・やばい!心音が8ビートを刻みはじめ、燈獅は身の危険を感じる。足に冷たい感触が伝わってくる。触られているのだ。それに驚いて燈獅は一気に布団から飛び出して道場をでる。ひゃー!となんとも男らしくない燈獅。しかしそんなこと気にしている暇はない。燈獅はどうしようもなく、食卓で椅子に座って夜を明かした。
「行ってきます・・・・・・」
翌朝、目の下に見事なほどのクマをつけて燈獅は雛花と円と一緒に家を出る。昨夜は本当に眠れなかった。う道場で寝るのは嫌だな・・・・・・。あんなことはもう御免だ。幽霊はほんと大っ嫌いだ。しかし昨夜のはなんだったんだろう。奇怪だ。ふたりに昨夜はきちんと部屋に中にいたか聞くとちゃんといるというし・・・・・・。
「ん?」
燈獅を見送り、道場にいた親父。道場の壁のわずかな変化に気づく。小さな穴がついていたのだ。まぁいいか、とまた修練にはいった。そうだ、これをあの燈獅に幽霊話として聞かせるか。すこし笑みを見せて燈獅が学校からはやく帰ってくるよう願った。
そして修練を終え、あることを思い出す。真剣な面持ちで携帯電話で電話をする。しばらくして携帯を切る。つながらなかったようだ。そして再び番号を打ち込み、電話をする。今度はつながったらしく、話をする。
「白矢護家の者ですか?すこし聞きたいことがありましてな・・・・・・」
話を聞いているうちに表情は驚愕へと変わっていく。
「ま、まさか!?それならいますぐ“三神器”を回収せねばならないのでは!?しかも黒弓武家は全滅したというならこれからはどうするのですか!?我ら朽木乃発家も対象になるのでは!?急がねば!」
そう言って電話を切り、いろいろと荷物を整える。時間がない。親父の行動からそれがわかる。親父は急いで電話をする。その相手は燈獅にだ。しかし燈獅は電話にはでない。なにかあったのかもしれない。とりあえず金銭などは問題ないように通帳などをきちんと荷物につめる。そしてそこへ黒服の男達が現れる。人数は7人くらい。不法侵入、そんなことは関係ないといった様子だ。
「ケッ!きやがったよ!」
「な、なんだこいつら!?」
燈獅たちは登校中、謎の黒服たちに道を阻まれた。すぐそこは多くの人々が歩いているというのに、そこへ行かせないかのように黒服たちは道をふさぐ。人数は5人くらいだ。しかし何が用なんだ?円はすぐに破矢を出し、構える。雛花も構えたため、燈獅も一応構える。敵なのか・・・・・・?雛花に聞くと雛花は黙ってうなずく。
そして戦闘へ。黒服たちは襲い掛かってきた。燈獅にも一人きた。燈獅は体をすこし右に移し、一撃をかわしながら右足を振り上げる。しかし、黒服は足を掴み、燈獅を地面に倒す。黒服は拳を振り下ろすが燈獅は転がって避けた。
そして足を絡めて黒服を逆に倒した。その時に携帯がなる。しかし今はかまってはいられない。燈獅は得意の瓦割りのように黒服の顔面に拳を振り下ろす。
ゴッ!という音がし、黒服は気絶したようだ。なんせ燈獅の瓦割りの10枚も割ることができる。まぁ昔からいろいろ拳を使っていたからもう拳は硬くなってしまったのだろう。まぁあまりたいしたことがないな。そこらの不良のほうが結構やるかも。周りを見るともう雛花と円は残りの黒服たちを倒してしまっていた。
「燈獅さんのお父様が危ないです!」
雛花はそう言ってきた道を引き返す。円も続いて雛花についていく。親父が危ない?燈獅は嫌な不安感を感じる。もしも親父に何かあったら俺はこの先どうすればいいんだ?いや、親父は大丈夫だろう!
そして家に戻ると家の前には黒いベンツが2台。中には誰もいない。家の中へ入ると黒服たちが倒れていた。そして親父が奥から現れる。額からは血が流れている。苦戦したようだ。それもそのはず、7、8人は倒れている。しかもナイフを手に持っていたようだ。地面にはナイフが転がっている。
「いくぞ!」
親父はそう言って家を出る。表情はひどく真剣だ。こんな親父は今まで見たこともない。
「とりあえずお前は何もわからないかもしれないが移動しながら説明する!」
そして目の前のベンツに乗り込む親父。雛花も円も一緒に乗り込む。仕方なく燈獅も助手席へ乗った。そして親父は燈獅に説明を始めた。
「三大七小家といってな、俺たち三家が“三神器”という物をそれぞれ所有して、七家が俺たちを守るためという役目をしている。黒弓家にはさらに三家の白矢家が守るという二重守護をしてる」
それほど黒弓家は重要な存在なのだろう。最近ではその三神器を狙うものが現れ、各三家は三神器を密かに移した。親父もある七小家の内の一人に渡したらしい。敵は三神器を狙っているということがわかっている。おそらく過去に一度抗争をした凪家が狙っているのだろう。あそこは資産もあるため、あれくらいの人数など簡単に動かせる。話の途中で親父は突然具合悪そうに体を傾ける。
「ど、どうしたんだ!?親父!」
車をとめて親父は深呼吸する。なにか我慢をしているのか?するとわき腹部分をすこし隠す親父。燈獅は隠す手をどけて見ると、服から血がにじんでいた。襲われた時に刺されていたらしい。
「近くに・・・・・・隠家がある」
隠家、つまり緊急時用の隠れ家のようなものだ。運転は円ができるというのでここは違法だとわかっているが仕方ないので円に運転を任せた。そして街をすこし外れて神社の前に止まった。目の前には長い階段があり、掃除をする神主が一人。車から降りた親父を見るや否や神主は驚いて親父に近づく。
「ど、どうなされました!?一也様」
その名で呼ぶのはやめてくれ、と言う親父。なぜそんなに名前を嫌がるのだろう。いや、今はそんなことを気にしている暇はない。すぐに階段を上がり、寺の中に入る燈獅たち。神主は地面を叩き、地下への扉を出す。地下を降りるとそこには機械などがあり、ここが寺とは思えなく感じる。そしてそこには女性達がおり、親父をすぐにベットに連れて行き、治療をする。てきぱきと血液パックや治療道具を取り出してすばやく治療する。
「燈獅・・・・・・」
親父は燈獅を呼んだ。手で近くに来い、と表現する。燈獅は近づき、耳を近づけると親父は言った。
「関西に行け。関西に七小家の“虎々獅家”を訪ねるんだ。車の中に地図も金もみんな入れてある。“三神器”を頼んだぞ」
いきなりそんなことを言われても戸惑ってしまう燈獅。もう一度、親父は頼んだぞ!と言い燈獅の胸をトンと叩いた。
「わ、わかったよ。親父」
「行きましょう!燈獅さん」
-7-
燈獅たちは関西、詳しいところは大阪付近なのだがそこへの新幹線へと乗り込んだ。金は親父が持ってきていたかばんの中に20万ほど、他にカードもあり。少なかったら使ってもいいとのことだ。そんなには長旅にならないだろう。燈獅はそう思っていた。
席は俺の隣が雛花。そして向かいに円といった位置。とりあえず俺は円の隣には怖くて居たくなかったから先に雛花と円に席に座らせて俺があとから座るといった方法でなんとか雛花の隣に座れた。ほっとしたのとうれしいのが混ざった気分だ。まぁ雛花の隣に座った時円の眉がちょっと動いたのが気になったがここでは暴れられないだろう?ほら、周りには多くの人々がいるのだから得意の破矢を投げれないだろ〜と心の中でうれしそうに言う燈獅。口をすこしだけにやっとして円を見る燈獅。円の額には血管が浮き出ている。おぉ!こわ!だがここでは俺とお前は同格!さぁどうだ!
「雛花、頑張ろうな!」
燈獅はそう言って雛花の手を握る。すると円の額からは恐ろしいほどはっきりしている血管が浮き出ていた。だが何度も言うがここでは同格!円は椅子の手すりをギギギギと強く握る。ど、同格!同格だ!ちょっと心配になってくる燈獅。さすがにこれはまずかったかな・・・・・・?キレたら破矢を投げてくるのかもしれない。それが脳裏によぎり、燈獅はさすがにやりすぎたと思った。
「はい!頑張りましょう燈獅さん!円さんも、ほら」
すると雛花は燈獅の左手を円の右手に移した。な、なに!?燈獅の心臓の鼓動が早くなる。円の口がニヤリと動く。な、なにかする気だ・・・・・・。そしてどんどん右手に近づいていく。お、おい!?すると円が自分から燈獅の右手を取る。そして燈獅は尋常ならぬ痛みを感じる。左手がまるで潰されそうな感覚に襲われる。な、なんて握力だ・・・・・・!これはありえない!ていうか放せ!ほんとに痛い!先ほどの手すりには掴んだ跡が付いている。燈獅の手は悲鳴を上げ始めた。メキメキポキポキと聞こえ、まるて手が「助けてぇ」と叫んでいるようだ。
「頑張りましょう。燈!獅!さ!ん!」
燈獅はなんとか手を離し、痛々しく跡がついた自分の手を見つめる。あわわわわ・・・・・・!赤々と跡がつき、まるで絞られたようになってしまった俺の手。なんだこれは・・・・・・?まるで生気を吸われた様になってるじゃないか。しかしここは男として痛がるわけにはいかない。
「あ、ああ。頑張ろう!」
ふふふ、はははと笑顔を見せ合うふたり。しばらくふふふ、はははが飛び交った。そうこうしているうちに大阪付近の駅へ。そして燈獅たちは駅をおり、“虎々獅家”へ向かった。
やはり人々の会話を聞けば「何でやねん!」とか聞こえてくる。しかし結構渋谷みたいに人が多い。燈獅はかばんから地図を取り出す。すると白紙の紙にまるで子供が書いたような簡単な地図。ここら辺と矢印で示しており、おもわず燈獅は「な、なんだこれ!?」と大絶叫。紙を落とすと裏返り、裏面には「嘘だ(笑)」と書かれていた。かばんの中を探ると地図がもう一枚。これはきちんと書いていた。
「親父・・・・・・。」
あきれて燈獅はため息をついた。あたりを見れば大きな蟹がついた看板などなにか面白いものがいっぱいある。雛花はまるで子供のようにあたりをキョロキョロ見回して燈獅を引っ張って見つけたものを見せる。
「くいだおれのキーホルダーですよ!?」
燈獅に本当に楽しそうに見せる雛花。それじゃ、買ってあげるよと燈獅はそれを買って雛花を喜ばせる。一方面白くないような表情の円。破矢を上に軽く投げるのを繰り返す。とりあえず燈獅はおにぎりなどを買っておいた。あと少しで昼時である。ここはおいしそうなものもあるからここで買っておけばいいだろう。
「雛花は昼になにか食べたいものはある?」
円にさりげなく雛花と俺のまるで彼氏と彼女のような関係を見せる。そして円にちらりと視線を送る。円の額にはまた血管が浮き出る。こ・ろ・すと口ぱくで言う円。それを見てさすがに燈獅は円からすこし距離をとって行動を控える。
にぎやかな街を過ぎ、燈獅たちはバスに乗り込んだ。結構街から離れており、山の付近に“虎々獅家”はあるらしい。バスでは最後部の席で燈獅、円、雛花という順で座らされる。円がいきなり割り込んできたのだ。ささやかな逆襲その二みたいですこし不安な燈獅。
そしてしばしバスに揺られながら3人は最終のバス停で降りた。見渡す限り山、畑、川。とりあえずここからは歩きで山に向かって行く。セミや鳥のせせらぎが自然を感じさせる。時間はそろそろ12時過ぎ。腹の虫がなき始めたので適当に座れるところを探して燈獅たちは休憩を取った。はい、と燈獅は雛花におにぎりを丁寧に渡した。雛花が隣に座っているのでおにぎりとお茶がいつもよりおいしく感じる。すこし微笑みながらおにぎりを食べる燈獅。
休憩を終え、燈獅たちはまた再び“虎々獅家”を目指して歩き出した。地図を見る限りはもうそろそろ着くはずだ。そして木々の隙間から建物らしきものが見え始める。現代ではすこし珍しい瓦の屋根に木造の一階建ての建物。とても年代物のように感じる。燈獅たちはさっそく玄関の扉を叩き、訪ねる。
「・・・・・・」
しかしなにも反応がない。いないのか?扉に手をかけると扉は鍵がかかっておらず中に入れる状態になっていた。無用心だな・・・・・・。なんどか呼びかけるが誰もこない。そこへわずかだが、なにか声が聞こえる。叫び声だ。しかしどこからだ?燈獅たちは一旦外にでて、耳を澄ます。わずかな音の声が聞こえるほうへ向かっていった。裏に回ってみるとそこには広い庭が。そしてすこし先にはまた建物がある。声はそこからだ。
「なんだ。あそこか?」
燈獅たちはその建物へ向かった。ここも木造の一階建てのようだ。しかし形は横長く、なにかの広間みたいなものだろうか。燈獅は扉を開くとそこには意外な光景が広がる。あの黒服が4人と、その黒服たちに囲まれて両手を後ろに回されて縛られている少女。頬や体中に切り傷や打撲の跡があり、その中で痛々しいのが右目部分を縦に切られた切り傷。
「な、なんだよこれは!?」
黒服たちはなにやら話し合い、手に持っていたナイフを地面において構える。どうやら殺さないようにとでも命令されているのだろうか。しかし、これならこちらが有利。黒服はそうたいしたことがないのは以前でわかっている。ただ人数が多いだけ。少女を助けるためにも燈獅たちは黒服に向かっていった。
「行こう!」
-8-
ふう、とため息をつく燈獅。黒服たちは予想通りたいしたことはなかった。まぁ前回も相手にしたから苦戦は強いられない。しかし、どこからか見られているような感じがする。殺気が混ざりとても嫌な気分になる。雛花も円もこの視線には気づいていた。だが変だ。襲ってくる気配がない。ただじっと見られ、観察するような雰囲気だ。黒服たちとの戦闘が終わると同時にその視線は近づいてきた。
出口のところには何者かが現れた。黒いスーツにサングラスをかけた男性だ。短めの髪ですこし髪をいじりながらこちらに近づいてくる。足元で倒れている黒服たちをみる男性。同じ服装だが雰囲気はなにか違う感じだ。唯一違うところといえばネクタイを外しているぐらいだ。
「結構やるみたいだな・・・・・・。だが“三神器”はかならず貰い受ける」
その言葉を聞いて円は破矢を両手に取り出す。言い方からおそらく敵。そして敵の幹部のような存在であろう。
「ここは私が・・・・・・」
円は前に出て戦いの意志を見せる。
「風間 龍明(かざま りゅうめい)参る!」
そして円と龍明との戦闘が始まる。
円は一歩前にでると同時に両手に持っている破矢を一本ずつ投げた。龍明はそれを素手で掴んで見せた。なんて奴だ・・・・・・。あの破壊力のある破矢。その破壊力は回転力にある。普通に受け止めようとするとおそらくその回転力に皮膚は絶えられずに破れてはじかれるだろう。それには円はあまり動じず再び破矢をなげる。今度は3本ずつ、計6本を一気に投げた。龍明は上体を低くしてそれらをよけ、そのまま前に前進した。円は距離を取って構える。龍明は止まり、しばし対峙する。
そして一気に龍明は距離を詰める。円は足をかけようとする。龍明は軽く飛びそれを回避。そこへ円は破矢を投げた。空中ではよけることは不可能。しかし、龍明は拳を振るう。何を考えているんだ?拳を壊す気か?燈獅は円の勝利を確信した。しかし、いきなりバチッ!という音と同時に破矢が吹き飛ばされる。
「何!?」
一体なにをしたんだ?いきなり破矢が吹き飛ばされてしまったぞ?しかもなにか電撃のようなものも見えたが。龍明の腕にはかるく傷がついただけですんでいる。円も今のにはすこし驚いていた。もう一度破矢を投げ込むが龍明はこれ以上はただよけるだけでなかなか明かそうとはしない。そして円がもう一度破矢を投げ込むために腕をすこし上げた。その時、龍明は一気に距離を詰めて円に一撃をくらわせる。同時にバチッ!またあの音が聞こえる。
円は後ろに飛ばされ、腹部を押さえた。一撃は腹部に与えられたようだ。しかしダメージはそれだけではない。体がすこししびれるのだ。龍明の両腕を見てもなにかを仕込んでいるようには見えない。とりあえず近づくのは危険だ。
そして円はあることを思いつく。敵をうまく出し抜く方法だ。円は体中すこししびれてきついが、また破矢を投げる。龍明の足元に破矢は集中している。
「動かなくしようってのか?」
龍明は笑みを見せてそれらをかわす。先ほどよりも破矢にスピードがない。これなら簡単によけれる。当たらないが円は何度も破矢を投げ続ける。龍明はしばらくよけて円の攻撃を読み始めた。これでは見切られるのも時間の問題だ。そして円がまた次の攻撃のために腕をあげると、龍明は先ほどのように一気に距離を近づける。
「おわりだ」
すると、龍明はバランスを崩した。――――なぜ?燈獅も雛花もそれはわからなかった。床を見てみると亀裂が入っている。どうなってる!?そんな顔をして床を見回す龍明。よく見ると破矢が地面に刺さっている。しかもきちんと一定の間隔で並んでいる。なぜ気づかなかったか。それは龍明はただ円の飛んでくる破矢だけに集中していたために地面に気を配らなかったからである。破矢と破矢の間には亀裂が走り、龍明のいた場所が傾く。そして円は懇親の力を込めて破矢を投げ込み、さらに蹴りを食らわす。
「ぐぁ、く、くそ!」
これは聞いただろう。すこし後ろに飛ばされ、ひざをつく龍明。そこへひとりの仮面をかぶった人物が現れる。
「な、なにしにきた!神門!」
神門は龍明の延髄をトン、とたたく。龍明は気を失ってその場に倒れ、神門龍明を抱えて瞬時に姿を消した。なんだったのだろうか。一応撃退できたようだ。
燈獅たちは縛られている少女のほうへむかった。まだそう歳はいっていないような気がする。ショートヘアの黒髪のこの少女はなぜこんな目に遭っていたのだろうか。右目はもう使えないだろう。傷が深すぎる。ほかにも痛々しく傷が所々付いておりさすがに見ていられなくなる。腕と足にきつく巻かれていた紐を切り、自由にした。
「ふう、あんがと。ほんまにきつかったわ〜」
さすが大阪。ってそうじゃなくて傷は大丈夫なのだろうか?かなり痛そうだが。というより体中血だらけだろ?俺ならおそらく身悶えている。しかし目の前の少女はなにもなかったかのように振舞う。
「ん?あぁ怪我は慣れてんねん。そんなにあんまみんといてぇな。うっといんねん」
言っている事は理解できるがしかし心配だ。とくに右目は大丈夫なのだろうか。ずっと目をつぶったままだ。すると少女は丸い小さなゴルフボールくらいの玉を手に取る。そしてその玉を右目に。義眼のようだ。義眼をはめて少女はやっと両目を開けた状態になった。
「右目はまえからや」
黒服たちもそれを知らずに拷問したようだ。すこし安心する燈獅たち。少女に肩を貸してここを出てすぐそこの家に行った。雛花と円が中で少女の治療を施した。とりあえず自己紹介をして要件を言った。
「それで、“三神器”を任せられたんですけど・・・・・・。ほかの人は?」
「わいひとりや」
え・・・・・・?と少々よくわからなかった3人。そんなまさか。想像してたのはごっつい爺さんがいると思っていたのにまさかこの人ひとりだけ?
「ワイは虎々獅 緋色那(ここし ひしな)。虎々獅家の主や」
どうやら虎々獅家は彼女ひとりらしい。しかも歳は18歳。俺より1歳年上だがなんだかそう思えない。背も小さいし顔もすこし童顔が入っている。だが苦労しているようだ。家族はもう誰もおらず一人でずっと生活してきたという。
「とりあえず三神器のことやけどな。具体的なことは教えることはできへんけど、それをワイが持ってるって事は確かや。持ち出したいんならワイも同行するで?」
あんさんたちが拷問されても、具体的なことは知らなかったら言えへんしな、と付け足す。しかしどうしようか。大丈夫なのか?同行するって体中傷だらけだぞ?同行する理由としてほかにはここは敵にもうばれているのでとりあえずここから離れることも含まれている。
「まずは離れましょう」
そうだな、と燈獅たちは家を出る。しかし緋色那はまだ家をでない。玄関から中を覗くとなにか荷物を大きなバックに詰めている。パーカーを羽織り、布を取り出して頭に布を巻いて緋色那は髪を整える。そしてクロタ!と叫ぶとどこからか猫が。バックの中に入り、緋色那はバックの紐を引っ張ってしめる。猫は頭を出した状態でじっと黙っている。移動時はいつもこうなのだろう。
はぁ、それにしてもなんかすごくやばい雰囲気になってきたなぁ。あの拷問といい、三神器ってそんなに重要なものなのか・・・・・・?でも重い雰囲気で旅するのもいやだしなぁ。なんかどんどんテンション上げるのきつくなってきたなぁ。煉地も臣鷹もいまどうしてるのかなぁ。携帯もここじゃ圏外だし。まさか凪家って臣鷹のじゃないだろうな?ま!ありえないか。猫のひげを引っ張りながら考える燈獅。するといきなり指をかまれる燈獅。あで!と指を引っ込めようとするがなかなか噛み付いて離さない。
「くそ、はなせ!」
やっと離れるとなんだかその猫は笑みを見せているように見えた。・・・・・・円みたいだ。まったく、指に歯の跡がついたじゃないか。猫にふたたび指を近づけるといきなり噛み付こうと口を開く。燈獅は猫にかまうのをやめ、緋色那の後ろから雛花のとなりに移った。次の行き先は・・・・・・。地図を見るとここからかなり離れている。現在時刻は3時。どうするか。とりあえずバスに乗り込み、また駅のあるあの街に向かった。
しかしなにか周りの視線が気になる。・・・・・・なんだろう?燈獅はその視線を追うと視線は緋色那へ。よくみれば緋色那の肌の見えるところには古傷や生傷が絶えなくある。包帯で傷は隠れているが、それでも顔の古傷は隠されていない。さりげなく燈獅は見てその傷を数える。まずは口の右部分にひとつ。そして頬、額、目、あご、など顔だけでも11箇所。まぁ周りの人々が気になるのも仕方がないものだ。
そして街に着き、夕食の食料と緋色那の怪我の治療用具も買っておき、燈獅たちは駅へ。今の時間はあの時よりも人が多く、前に行くのにも苦労する。そこへ、緋色那が燈獅たちを止めた。
「ちょっとまちぃな。あれ見てみぃ」
緋色那の視線の先には駅の柱の陰にすこしだけ見える黒服たち。あいてはこれだけの人数のためこちらには気づいていないようだ。おそらく乗り込む場所だけを集中してみて確認しているのだろう。もうすでにここらの移動できる施設は全部監視されているようだ。
「も、戻ろうか」
燈獅たちは駅から出た。しかしどうやってここを抜けるのか?あの新幹線に乗らなければここからは出られない。雛花も円も考えるがいい方法など思いつかない。黒服たちを倒すか?そう考えたが回りの人たちに被害が及ぶかもしれない。すると緋色那は歩き出した。
「こっちきぃな」
緋色那に付いて行くと国道にでた。多くの車が猛スピードで走っている。どうするんだ?タクシーでも拾うのか?しかしここからは目的地までは離れすぎている。タクシーで行くにも限界があるだろう。二つぐらいは県を通り越すのではないか?
「タクシーではちょっと無理がないか?」
しかし緋色那は目的はタクシーではないという。そして指差すほうには大型トラックが。
「タダやからいいで?」
そして緋色那は走り出した。ひとつのトラックに手を振る緋色那。するとトラックは隅で止まり、運転手が手を振って応える。知り合い・・・・・・?なにやら話し合い、緋色那は燈獅たちを呼んだ。後ろの荷台に緋色那が乗り込んだので燈獅たちも乗った。
「これ覚えときぃや。“虎々獅運送”ていうんやけど親父が残した会社や。今は代理のやつにまかせっきりやけどな」
緋色那の名前を言えば快くタダで乗せてくれるらしい。仕事が終わった後に贈ってくれるというのですこし時間がかかるが無事にいけるというなら文句は言うまい。地図を見れば兵庫県の中心くらいあたりかな。
燈獅はここの詳しい地図をみると住宅街にあるらしいが、三神器・・・・・・。どういうものなんだ?俺にできるのか?それに三大家っておれ知らなかったぞ?すごい偶然だ。ちょっとしたきっかけから知り合った雛花。しかも三大家のひとり。運命・・・・・・とでも言おうか。三神器の事件が起きてまるで引き合わせるようにことが運び、燈獅は『運命』という言葉が最近とても気になった。黒弓家、白矢家、朽木乃家・・・・・・。雛花に車の中ですこしだけ聞いたことは、黒弓家が三神器を作ったからその力の扱い方などの知識が重要なためほかよりも身分が高い状態になるらしいが、まぁまたあとで詳しく聞こう。そしてしばし揺られながら燈獅たちは目的地兵庫県へ向かった。
-9-
どれくらい時が経過しただろう。あたりは月夜に包まれ、いつしか皆眠りについていた。燈獅はふと目が覚めた。隣には雛花が寄り添って頭を燈獅の肩につけていた。ぐっすり眠っている。円も緋色那も眠っている。寝相だけはかわいい。起きれば円は怖いけどな。
今宵も月が綺麗だ。いつからだろう。月を見て心を落ち着かせるようにしたのは。起きれば感じること。それは俺を取り巻く運命。偶然?本当にそうなのか?最初は雛花が突然落ちてきたことから始まって・・・・・・。しかも俺たちは親戚のようなものなんだろ?まぁ親父は俺を親戚と接触させるようなことはしなかったが。最近は凪家、あれはもしかしたら臣鷹のいえなんじゃないかと思ってきた。
俺のこの先の運命はどうなるんだ?雛花や円がいる前ではこういうことは一切考えないでいたけど、今は頭の中はこれでいっぱいだ。親父がかばんにいれていた日記。燈獅はその日記を手に取る。密かに中を一通り見ていた燈獅。そして一文を見て衝撃を受けた。日記にはこう書かれていたのだ。
【妻小枝子(さえこ)凪家との抗争で死亡】
かなり昔につづられていたものだ。事故じゃなかったんだ・・・・・・。ほんとこれを見たとき雛花たちに笑顔を見せるのがすこしきつかった。そのほかには“氣”のことが書かれていた。
【人はそれぞれ“氣”をまとっており、修練次第では戦闘へ“氣”を活用することができる】
そしてその“氣”を扱えるための基本やコツなどが細かく書かれていた。空いた時間にやってみるか・・・・・・。燈獅は日記を閉じた。この先どれくらい俺は笑顔でいられる?この争いを乗り切れるのか?親父ならできるか?母さんならうまくやれた?こんなに不安になったのは初めてだ。目の前で争いが行われ、ケンカとは違う“命のやり取り”に燈獅の心は不安にかられていた。
「燈獅さん・・・・・・。おきていたのですか?」
おっと・・・・・・。起こしちまったかな?そういえば雛花はこの抗争にどう思っているんだろう。今日だって下手をすれば円は殺されていたかもしれない。緋色那も遅ければ死んでいたかもしれない。
「雛花・・・・・・。怖くないか?」
「・・・・・・え?」
「おれは・・・・・・正直言うと怖いんだ。見てる限りずっと“生”と“死”が取り巻いてる感じがして・・・・・・怖いんだ」
手を見ればいつの間にか震えだしている。はは・・・・・・情けない。苦笑いを浮かべる燈獅。みんなの前では明るく、なにも怖くないようにしてもやはり後からどっと不安や恐怖心が押し寄せてくる。この先この中で誰かが死ぬかもしれない。この先誰かを殺してしまうかもしれない。そんな中にいざ駆り出されると燈獅は立っていられなくなる。
「人は支えがあって生きていけるのです」
ふと雛花はそんなことを言った。
「・・・・・・え?」
「心の中には誰でも恐怖や不安などさまざまなものを持っているもの。それは支えがなければどんどん大きくなってしまいます」
雛花も燈獅と同じ気持ちだという。不安や恐怖心を抱いている。しかしそれは円が支えになり、今こうしていられるのだ。円もまた支えられているのだ。そしてその支える者もまた支えられている。人は一人では生きていけない。約束事も相手がいるからこそできるものなのだ。指きりもそう、じゃんけんや乾杯、抱擁や接吻も。些細なことは相手がいるからできるのが多い。
「私が貴方の支えになりましょう。貴方もまた、私を支えてください」
そう、人は一人では生きていけない。生きるということも教えてくれる人がいるから生きていける。燈獅と雛花は唇を重ねる。そう、これも相手がいるから、アナタがいるからできること。貴方が不安だというのなら私がその不安を消し去ってあげましょう。あなたが怖いというなら私がその恐怖を取り除いてあげましょう。だから、あなたも私の不安を、私の心の恐怖心を消し去ってください。あなたのその笑顔で、これからの運命何があっても・・・・・・。
今宵、新たな恋が生まれた。恋などいつも生まれるもの。そうかもしれない。世界で、誰かと誰かが恋をする。毎日、また誰かと誰かがどこかで何度でも。しかしそれも相手がいるからこそ成り立つのです。知り合ってほんの少しだけ、知り合ってまだ二人はすべてを知り尽くしているわけではない。しかしこれまぎれもない“恋”そして“愛”。
そして運命はまた動いていく。
-10-
「起きたか・・・・・・?」
狭い車内。そして隣には神門が。ヘルメットのような物なので声がすこし反響している。その仮面には大きく丸く目の部分に二つついており、そこから神門は見ている。龍明は辺りを見回した。外を見ると国道を走っているようだ。まだ深夜。一体あれからどれくらい俺は気を失っていた。いや、まずは――
「どうして俺の邪魔をした!?」
わずかに聞こえる呼吸音。神門はいつも不気味な雰囲気を漂わせる。ゆっくりとこちらを見て神門は龍明の体を指差す。その部分は、あの円に攻撃を与えられたところ。シャツをめくって見ると小さな穴のような傷跡がついている。神門はあの破矢を手渡す。
「それはあの女に与えられた攻撃。破矢は突き刺さり、アバラがすこし削られた。治さなければこれから先動けない。しかも相手は3人。倒して三神器を奪えたのか?」
そう言われ、龍明は悔しそうに舌打ちをして窓のほうを向く。確かに神門の言い分は正しい。しかし助けられるなんてまったく情けない限りだ。それもすべてあの女のおかげだ!へんな小細工かましやがって!外でなら絶対俺が勝てた!よりによって神門に助けられて、治癒までさせられるとはな!まったく!主になんていえばいいんだよ!
「これから戻る。残りのひとつは白(はく)が向かった。傷のことは貸しにしとく。今日も直したおかげで寿命が縮まったからな。それとあの者からの伝言。“もう失敗は許されない”と」
* * * * * * *
がぶっ!
燈獅は指に走った痛みで起こされる。思いっきり手を引っ込め、見てみるとあの猫がいた。・・・・・・まったく、なんなんだ?餌か?それともかまってほしいのか?燈獅は周りを見た。外はすこし夜が開け始めている。今は6時ごろかな。ここは駐車場のようだ。すこし遠くには看板がある。なになに?
“ようこそ、兵庫県へ”
兵庫に着いたようだ。運転手さんはもうついたから車を止めて仮眠に入ったのだろう。燈獅は雛花のほうを見る。まだ眠っているようだ。昨夜深夜に起きていたもんな俺たち・・・・・・。あれは夢じゃない。まだあの時の感触を覚えている。ふふふ・・・・・・と意味深の笑みを見せる燈獅。そこへ猫パンチが。
「あだ!」
じっと燈獅を見上げ、かばんを尻尾でたたく。・・・・・・あけろってか?ほんと賢い奴だが賢すぎるのは駄目だぞ・・・・・・?しかもなんで俺なんだよ。飼い主はあっちだろ?燈獅は飼い主――緋色那のほうに目をやる。ぐっすりと眠っているようだ。壁にもたれながら眠っている俺たちとは違って床にすこしうつぶせ状態で眠っている。ぐっすり眠ってるのに起こしたくないってか?まったく飼い主にばっかり気を使いやがって・・・・・・。燈獅はかばんの中から適等におにぎりを取り出してクロタと半分こ。
燈獅はかばんの中から地図を取り出す。いつかのあの“ここら辺”という矢印が書かれたあの地図は今回はなかった。まぁあれは親父が緊張をほぐすために書いたようなものだろう。あの時はさすがにびびったよ・・・・・・。緊張どころか危機感が沸いてきたからなぁ。
さて、これから俺たちが訪ねるのは“燕劉家”だ。日記の説明にはここは“白矢家”が【三神器】を預けた七小家のひとつと書かれている。ん?細かい説明が書かれてる。見てみるか・・・・・・。
“緋色那家”緋色那家砲脚流という武術を扱い、“燕劉家”とともに我ら三大家の武術の融合、発展に協力してくれた一家であり、三神器の生成時には“燕劉家”“桜家”とともに三神器に力を尽くしてくれた。主に朽木乃家との接触が多い。といっても最近は緋色那だけいない。燈獅を驚かすために緋色那をつれて幽霊騒ぎにしたこともあったなぁ(笑)
“燕劉家”燕劉古武術という昔の武術を扱うのが特徴。“燕劉家”は三大家の縁談などの式に色々と協力してくれるので結構世話になっている。ほかは“緋色那家”の説明にもあるとおりなのであえて説明の必要はなし。ここは“白矢家”との接触が多い。結構見る限りでは“燕劉家”の者が“白矢家”に縁談を持ち掛けてきているようだが問題の嫁によって困っているようだ。怒ると矢を投げるらしい。
“桜家”主に黒弓家とよく接触が多く、黒弓家の相談相手のようなものだろう。いろいろと移動時には足になってくれたり、黒弓家の者に稽古のコーチをしてあげたりと、心優しく気が利くいい一家である。まぁ使用人のような存在だ。
「ん・・・・・。あ、おはようございます。燈獅さん」
雛花が起きた。目をこすりながら薄目で言う雛花。あぁ、可愛い・・・・・・と、いつもながら。なんて話そうかな?話すのもすこし照れる燈獅。彼女と彼氏の関係とでも言おうか。そういう関係になったんだ俺たちは。雛花も照れた様子で鼻の先を掻く。
そして続々と円や緋色那が起きる。運転手さんも起きて近くの町まで運んでくれた。そこで運転手さんと別れ、おれたちは“燕劉家”へ向かった。朝ということであたりにはあまり人がいない。住宅街へ入り、地図と表札を見ていく燈獅。燈獅に続いて雛花たちは後ろをついていく。ここらへんのはずだが・・・・・・。すると虎々獅家のように年季が入った家が。敷地も結構広く、建物を木造の塀が囲んでいた。
「・・・・・・ん?あかん!」
突如、緋色那がなにかに感じて声を出す。どうしたのだろうか?
「血の匂いや!」
まさか・・・・・・?燈獅たちは気づかなかった。血の匂いなどするはずがないだろう。ここは住宅街だぞ?新鮮な空気しか感じない。しかし、緋色那は門を開けて中へ入っていく。おいおい!と燈獅はとめようとするが緋色那はどんどん玄関の扉を開けて中へ。しかたなく燈獅たちも続けて中へ。そこで燈獅たちは気づいた。ここはちの匂いで充満していることを。円は破矢を構える。緋色那はとりあえず血の匂いがするほうへ。円はよくここへ来たことがあったのでその先がどういうところなのかを説明しながら進む。
「貴様のようなやからに渡せるわけなかろう!」
すると先のほうから声がきこえる。声を聞く限り男性で結構歳がいっているようだ。燈獅たちは迷わず走っていった。そして居間のようなところへ。そこには対峙する声を賀したと思われる男性とレインコートに身を包んだ大柄の男性が。深くコートのキャップをかぶっているため顔が見えにくい。手には刀が握られている。
「吉光様!」
まどかがそう叫び、その吉光という男性はこちらを見た。しかし――一瞬だった。レインコートの男性は刀を思いっきり投げ、吉光の腹部部分に刀が刺さる。壁まで飛ばされ、壁に吉光ごと刀が突き刺さる。吉光は円に弱々しく手を差し出すが、事切れて手はブランと垂れた。円はレインコートの男をにらみつけ、破矢を投げ込む。レインコートの男はよけもせずただその破矢を受ける。何かある!しかし円は怒りで気づかずに向かっていった。
「貴様は死して罪を悔やめ!」
円が近づいたその時、レインコートの男は円の右頬に一撃を与える。円は殴り飛ばされ、燈獅が慌てて抱える。
「俺の名は“無芹 雅突”(むせり がとつ)・・・・・・。」
円の呼吸が乱れている。怒りと痛みが混ざり、精神は不安定のようだ。相手は大柄なためここは女性は不利だ。燈獅は雛花に円を任せて向かっていった。おそらくあの破矢を平然と受け止めたということは、服になにか仕込んでいると思われる。防弾チョッキとかそういう類のものだろう。大柄なので攻撃力も体重が乗っておそらくかなりのものだろう。
燈獅は一気に前へ出る。そして同じタイミングで雅突は先ほどのように拳を振るう。燈獅はそれをかがんでよけて腹部へ一撃を与える。やはりなにかが入っているような感触だ。そして雅突は足を上げる。燈獅はかるく横へそれてそれをかわし、足をかける。雅突はバランスを崩し、一瞬空に浮き、床に倒れるが半回転して両手で着地して後転。でかい割に結構動きはいい。
燈獅は攻撃をある場所に目をつける。それは、間接部分。先ほど足をかけたとき同じような感触があったのでおそらく前進に防具をつけている。しかし、間接部分はそれをつけることはできないはずだ。体の動きを邪魔しないためにも防具はつけることはできない。しかしどう攻撃するか、だ。おそらく相手も間接部分が弱点だということはわかっているはず。
瞬時、、雅突の回し蹴り。燈獅は両手でそれを受ける。かなりの衝撃だ。そして雅突は一気に距離を縮め燈獅にラッシュをかける。
「ぐ!」
まずい!雛花から見て流れは雅突に向いている。助けたい!しかし、手を貸したくても下手に手を出したら逆に燈獅の気がそれ、危険になってしまう。我慢して見守るしかない。
「・・・・・・死ね!」
どんどん攻撃が激しくなっていく。ガードをあけたら一撃くらってしまうかもしれない。しかし次の瞬間、雅突の動きが一瞬止まる。な!?と雅突は驚いていた。燈獅は雅突のひざに足をのせたのだ。ただ乗せるだけだ。しかし雅突が前進するためにはきちんとひざを曲げて地を蹴らなければならない。そして燈獅は雅突の顔面に懇親の一撃を与えた。
雅突は後退し、顔を手で押さえる。燈獅に好機が到来する。燈獅は一気に攻め込んだ。きれいに雅突に攻撃がくらう。
ピピピピピピピ!
突如、なにか機械音が聞こえる。すると雅突は隙を見て下がった。
「・・・・・・所詮貴様らは流れ星と同様・・・・・・輝いてもいつかは消える運命にある」
雅突はそういい残して窓を飛び出して去っていった。
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一体なぜ雅突はいきなり去って行ったのだろう。そう戦いも不利というわけではなかったはずだ。しかし、とりあえず敵がいなくなったことに一行は安堵する。
円は吉光の体に突き刺さっている刀を抜いた。刀には“燕劉家”の家紋が刻まれている。居間に置いてあったものを武器としてあの雅突に使われたのだろう。ほかの人たちはむごい死に方をしていた。おそらく“燕劉家”は全滅だろう。円は吉光を抱えて床に置く。ほかの部屋からは円の父と母が冷たくなっていた。多くの死体を前に涙を流し、しばらくずっと黙っていた。声を出し、いつまでも泣く円。
しばらく円をそっとしておいて燈獅たちは“三神器”を探した。空気は重くあまり動きたくない。燈獅は日記に記されているここの地図を見て三神器を探した。北東の部屋にあるらしい。そこへいくと書斎部屋があった。中央に机があり、部屋の壁はすべて本棚になっており、数え切れないほどの本がある。
「なんかにおうで。ここ」
緋色那は本棚の一部分を指差す。まぁ鼻が利くのはよくわかったがどうするかが問題だ。ここの部分の本を全部取り出してみるか?一部分でもかなり大変だろう。
「こういうのは本を引いたりしてみれば良いんじゃないの?」
たしかに映画や漫画ではよくあるな。だがこれだけ本があるとどれを引けば良いのか・・・・・・?ふと燈獅は日記を見た。【兄弟とマスターのカクテル】と書斎の地図が書かれたページのうらに書かれていた。机を見ればちょうどその本が置かれている。それを拾い上げるといきなり本棚が動き、奥には祭壇があった。祭壇の上には古そうな小刀が置かれていた。
「これが“三神器”のひとつか・・・・・・?」
燈獅は小刀を取った。けっこうずっしりと重い。小刀は鞘もほとんどに装飾が施されている。古そうでもかなり高価なものに見える。かばんの中に入れて燈獅たちは引き返した。円のところへ行く。
「すみません・・・・・・見苦しいところをお見せしました」
目は真っ赤になっている。いまだになみだ目の円。少々鼻をぐずり、時々背を向ける。円にはこれから先辛いかもしれない。父や母への想いが円を蝕むだろう。雛花は円をぎゅっと抱きしめる。
「泣きたい時は泣いていいんだよ?」
その言葉を聞いて円は再び泣き出す。
「私もずっと泣いてたから・・・・・・」
雛花も涙を流す。今の言葉から雛花の家族も死んだのか?雛花や親父はなにも言っていないからわからなかった。今までずっと耐えていたのか・・・・・・。
俺はみんなと比べると幸せ者かもしれない。隣にいる緋色那も家族を失っている。現在でわかっているのは“円劉家”“白矢家”“黒弓家”が二名の生存者以外すべて死亡ということ。おれは親父が死ななかっただけでも幸運だった。これからの抗争、どれくらいの犠牲があるんだ?俺は耐えられるのか?敵は心がないのか?
そして燈獅たちは駅へ向かった。かばんの中にはほかは何もなかったため、一度戻ることにしたのだ。あたりを警戒して新幹線に乗り込んだ。敵は見た限りではいなかった。そしてそれから数時間してもとの街へ。
皆だれも会話らしい会話をしなかった。おそらく雛花も緋色那も家族のことを思い出したのだろう。ずっと表情は暗いままだ。俺はなぜかわからないが親父や母さんに無性にあいたくなった。母さんはもう会えないけれど、仏前にたって一度手を合わせたい。親父には本当に飛びつきたいくらいすぐに会いに行きたい。家族というぬくもりでも感じたくなったんだろうか・・・・・・。
神社へ行き、親父に会いに行った。傷は深かったが親父の生命力が強いおかげで今は元気のようだ。元気な親父をみてこれ以上ないほどの安堵感を感じる燈獅。
「なんだ?燈獅。そんなに俺のことが心配だったか?」
心配ってわけじゃないけどほんとにあいたかった・・・・・・。まぁこんなこと恥ずかしくていえない。「そんなことない」と言っておき、そして話は“三神器”へ。
「最後のひとつ・・・・・・。雛花ちゃん。持ってるんだろ?」
親父は“桜家”がすでに全滅しているとの報告を受けていた。三神器は見つからず、おそらく黒弓家の者がまだ所有しているようである、ということだった。そのほかに“一文字家”(いちもんじ家)と“簾韻之島家”(すいんのじま家)が全滅した。
雛花は黙ってうなずいた。ということはこれで三神器はすべて俺たちが保有したことになる。あとはどう守るかが問題だ。
「わいは見つからん自信あるで。今も持ってるんやけど燈獅たちはわかるか?」
そういえば緋色那はずっと持っているというが三神器らしきものはどこにもない。
「身につけてるのが一番や」
ということでそれぞれ持っていることにした。小刀は燈獅が保有することになった。しかしこれからどうしようか。もう家には帰ることはできないだろう。敵に知られていないどこかほかの場所で生活するしかない。ここは治療する緊急病院らしくて最低限の者しかそろっていないのでここはとりあえず駄目だ。するとそこへ一人の女性がやってくる。
「七小家の“巽家”(たつみ家)の者です。用意は済みましたのでこちらへ」
言われるがままに燈獅たちはその女性についていき、車であるマンションへ。とても綺麗で現代風だ。10階くらいまである。ここには巽家、そして“雹煉寺家”(ひょうれんじ家)の兵達も一緒に住んでいるらしい。なにかあったら守るためにすぐに駆けつけれるいわば要塞だ。3階の一室に入る燈獅たち。女性は中を案内していく。窓からは学校や親父がいる神社が見える。結構眺めがいい。そしてここで新たな生活が始まった。
これで七小家はもうふたつしか残っていない。三大家もほぼ壊滅状態だ。失われた命はすくなくても50。その中にはまだ幼い子供も含まれている。これから先俺は“三神器”とともに雛花たちを守れるのか?
・・・・・・いや、守らなければならない。特に雛花。たとえ俺が死んでも守らなければ。雛花だけは絶対に守りたい。そのためにももっと強くならなければ。あの幹部と思われる雅突にさえ苦戦していたのだから。これからは携帯で親父に“氣”のことを教えてもらわなければ。もしかしたら敵は明日にでも襲ってくるのかもしれないのだから。すこしでも鍛錬ができる時間がほしい。燈獅は空に、そして自分の心に強くなることを誓った。
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はぁそれにしてもこの生活はなんだかドキドキする。部屋を見渡せば女性が3人。男性は俺一人だけだ。おっと、あとは猫一匹かな。こんな状態の生活を共にするというのは俺の人生で考えられなかった。両隣と下の住んでる人、といっても巽家と雹煉寺家のいかつお方ただが一応挨拶に行った。結構見かけとは逆に優しい人たちでなにかあったらとんでいってやる!といわれ、とても心強い。
そうそう、煉地からメールが届いた。最近学校に連日で来てない事を心配していた。どうやら臣鷹もおなじく学校に来ていないらしい。具合が悪いだけだからいつかは学校に行く、と言っておいて話を終える。そういえば臣鷹からは連絡がない。燈獅から連絡を一応してみるがなんどコールしてもつながらなかった。
「はぁ・・・・・・」
「なにため息ついてんねん」
ふと隣には緋色那が。パーカーを羽織っている。どうやら外に出るようだ。しかし、現在の状況からはあまり外にはでないほうがいい。そろそろ日が暮れてきているため夜になると危険ではないか?
「あぁ、ちょっと物買いにいくだけや。心配せんといて〜」
お、おい!と燈獅はとめようとしたが緋色那はそそくさと出て行ってしまった。大丈夫であろうか。しかし俺たちがついていくといっても三神器を任せられているし。かといって三神器を置いて出るわけにもいかない。そこで燈獅は隣の“巽家”の人に緋色那を見てやってくれないかたのんだ。
「おう!任せといてくれや」
一応緋色那には気づかれないようにしてもらうことにした。見られてるとなるといい気はしないだろう。そして燈獅は部屋に戻った。
「はぁ・・・・・・ほんとなんか気ぃ紛らわせんと落ち着かんわぁ」
ため息をつけば幸せが出て行ってしまうというが緋色那には関係ない。わいは昔っから不幸続きだったからなぁ。幸せなんて感じへんわ。半年前には家族は死んでもうたしな。その時に全身に大怪我・・・・・・。それからいろいろと巻き込まれてもう傷なんてあんま気にせんようなってもうたもんな・・・・・・。痛い、苦しい。それは当然感じる。だが表情に出さないだけ。怪我をするたび思うのが家族もこう感じながら死んだのかということ。
緋色那はゲームセンターにいた。格闘ゲームをして何度も乱入から勝ち抜いている。表情はどこか誇らしげだ。まったく得意なものといえばこれしかない。気を紛らわすためにただゲームをしていたがいつしかかなりゲーマーになっていた。これも燈獅の父のせいだ。ワイが訪ねればいつもゲームセンターかカラオケやボウリングなどだ。家にはおそらく燈獅には三大家の存在を知られないためにも入ることはなかった。燈獅の親父は燈獅にはこの抗争が終わるまでは教えないつもりだったのだろう。しかし今では燈獅はすべて知ってしまった。親父は一言も話したことはない。なりゆきでこうなったのだ。
「必然的・・・・・・運命かな」
まるで燈獅をいざなうかのように運命は動いていく。緋色那はそのことにはとても不思議な感じがしてならない。もしかしたら自分のこれからの運命も必然的になっているのではないか?そう思うとなにか胸くそ悪い!
わいは生まれてから自由なんや
緋色那はゲームを終えて外に出るとすでに日が暮れていた。腕時計に目をやるとすでに8時近くになっていた。腹の虫も騒ぎ出したので緋色那はマンションへ向かった。
「“三神器”をもらおうか」
ふと後ろから聞いたことがある声が聞こえる。緋色那は後ろを振り返るとそこにはあのサングラスをかけた龍明とかいう男性が。しかし夜ではサングラスをかけてしまえば何も見えないだろう・・・・・・。よほどサングラスが好きなのか?龍明の後ろには何人か男性達が倒れている。おそらく緋色那についてきた“巽家”の者達だろう。なんとなく視線には気づいていた。しかし彼らはかなりの実力者達だ。それをひとりで倒すとは・・・・・・。
「それは無理やな」
その瞬間、緋色那は壁までたたきつけられる。両腕になにか機械のようなものを付けられ、壁に縛られた状態になった。そして服の中を調べる。
「そんな趣味があったんか?」
すると龍明は緋色那の右腕に拳を振るう。ボキッ!という鈍い音が響いた。さらに間接部分へ一撃。
「あ!ぐ!」
「“三神器”を持ってるだろう。どこだ?」
「・・・・・・教えるわけないやろ?」
龍明は今度は右腕の指を掴んだ。
「なら教えるまで苦しみを味わうだけだ」
まずは小指を折る龍明。それでも緋色那はなにも言わない。そして薬指、中指、人差し指。緋色那の額から汗がにじみ出る。それでも何も言わない緋色那。次第に龍明は苛立ちが現れる。緋色那の腹部や頬になんども拳を振るう。メリッ!と腹部に拳がめり込む。
「ふぅあ!・・・・・・」
緋色那の口から血が混ざった胃液が垂れていく。むごい。しかし龍明には後がないのだ。“三神器”のひとつを任され今日中に持っていかなければならない。もしも失敗した場合は、おそらく“死”。そして左手の甲を肘で潰す。
「・・・・・・くっくっく。・・・・・・何度もしいや。わいは言わへんで」
緋色那が発言するたびに苛立ちが増大する。しかも笑みまで見せ始めるので余計に暴行を加える。今度は足へ。左足を思いっきり蹴って折る。
「まだまだ続くぜ」
「にゃ〜」
「どうした?クロタ」
猫のクロタは玄関の戸を引っかく。クロタを抱きかかえて燈獅は居間へ。しかしクロタは燈獅を引っ掻き回して逃げていった。まったく・・・・・・。いつになく可愛くない猫だ。
「緋色那さん、遅いですね・・・・・・」
そう言われて燈獅は時計に目をやる。緋色那がでてからもうすでに3時間は経っている。確かに遅い。燈獅は緋色那についていった“巽家”の兄さんの携帯に連絡を入れる。
「あ、兄さんですか?」
すると震えた声が飛び込んでくる。
「す、すまねぇ。俺たちが弱いばかりに・・・・・・」
なにがあったのだろうか。燈獅は事情を聞いた。とりあえずある病院へ来るように言われ、燈獅は雛花と円にも一応ついてくるよういい、病院へ向かった。
病院の一室に入るとそこには見ていられないほど変わってしまった緋色那の姿があった。ベットに座らされ、体中に包帯が巻かれている。そこへ医者がきた。医者の診断では数十箇所にわたる打撲と骨折が確認されている。現在は麻酔と点滴が効いておりしばらくは起きないだろう。
「彼女から預かりものです。これを」
それは白い玉だった。黒目ついており、おそらく緋色那の義眼だろう。しかしなぜこれを?もしかしたらこれが“三神器”か・・・・・・?
「・・・・・・言わ・・・・・・へんで・・・・・・」
緋色那がうなされながらそう言う。まだ彼女は夢の中で悪夢が続いているだろうか・・・・・・。そこへ“巽家”の兄さんたちが部屋にやってくる。入るやいきなり燈獅たちに頭を下げる兄さん達。
「おれたちがふがいないばかりに・・・・・・!」
「兄さん達のせいじゃありませんよ」
医者が言うにはおそらく完全に完治してもうまく体を動かせるかどうかは難しいのことだった。所々の骨折がひどく、おそらく骨折部分にさらに打撃を加えられたとのことだ。なんともひどいやり方だ。
「ひどいです・・・・・・」
おもわず雛花は涙を流す。円は怒りで拳を黄色くなるほど握る。これはひどすぎる・・・・・・。
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病院のほうは“巽家”と“雹煉寺家”のものが残るようなので燈獅たちはマンションのほうへもどった。本当に最近は悪いことが続く。円も最近落ち込み気味だし、雛花も口数が少ない気がする。一室に戻り、燈獅はご飯を作る。はぁ、それにしてもこんなにやる気が出ないのは初めてだ。料理が出来上がり、それぞれ食べる。なんとも味気がない。料理はいつもどおりだ。しかしやはり緋色那のことがあったからだろう。
クロタは燈獅にしつこく鳴いてくる。飼い主がいなくて寂しいのだろうか。飼い主は帰ってこないんだよ。あっちで遊んでろ。燈獅は近くにあったボールを取り出して投げる。しかしクロタはその場を動かなかった。
そろそろ時刻が11時くらいになる。燈獅は居間でクロタと戯れ(具体的にはただクロタが横になってる俺の上に乗ってるだけ)しばし何もせず時を過ごしていた。雛花と円はそれぞれ私室にいって居間には燈獅ひとりしかいない。
キィィィィン・・・・・・
どこからかかすかに音が聞こえる。どこからだ?燈獅はむくっと起き上がり、そのかすかな音のほうへ歩いていく。足音を立ててしまえば聞こえなくなってしまうほど本当にかすかな音だ。するとわずかに開いている雛花の部屋の扉。そこからわずかだが光が漏れている。燈獅は覗いてみるとそこには髪留めを外していた雛花が背を向けて座っている。
もしかしてあの髪留めが三神器のひとつか?光は雛花を包み、部屋をわずかに照らす。すると扉が開いていく。燈獅があけたのではない。あれ?と燈獅は下を見てみるとクロタが扉を頭であけていた。キィと音がし、その瞬間光が消えた。雛花はすこし驚いた状態でこちらを見る。慌てて立ち上がる。
「と、燈獅さん?」
まったく、クロタのせいでよく見れなかったじゃないか・・・・・・。これではただの覗きだ。
「あ、ああ。ちょっと光ってたから、気になって・・・・・・」
すこし沈黙が漂う。燈獅は足でクロタを追い出して一応二人きり?という状態にする。
「そ、その髪留めが“三神器”?」
「・・・・・・う、うん。」
本当におれが想像していた“三神器”とは全然違った。あの小刀ぐらいだろうか。まともに三神器と呼べるものは。燈獅はとりあえず雛花にお休みと言って部屋を出る。あのままいてもどうしようもない。居間へ戻り、また横になって時間を過ごした。
* * * * * *
「あら、三神器を手に入れられなかったのですか?」
龍明は大広間に呼ばれた。目の前には一人着物を着た女後ろに黒子のように顔を隠している者達が7人。神門や雅突ともうひとりの穂乃火はいない。
「仕方なかったんだよ!もってなかったんだから!」
本当にこいつは嫌いだ。いつも気取っているような様子で後ろの奴らを引き連れてまるでゲームの主人公一行だ。
「後はないと言いました。・・・・・・ではあなたには“あれ”の餌にでもなってもらいましょう」
するとうしろの7人が前へ出る。“あれ”には近づきたくない。龍明は逃げることを選択する。どうせそろそろここからはでようとしていたんだ。臣鷹も俺はただ金で雇われているだけで恩やかりなどない。7人が一気にそれぞれ武器を取り出して襲ってくる。この人数では龍明はかなり不利である。
龍明は腕から“氣”で練った電撃を放出し、停電させる。この女の手口はわかっている。視線が合えば“氣”で操作させるという力だ。これではなにもできまい。近くの窓から飛び出して龍明は脱出した。ここは3階ぐらいだ。龍明は電磁力を利用して街灯へ。
「・・・・・・追いなさい。奴が寝返ったら厄介よ」
7人は窓からどんどん飛び出していった。
チクショウ!いつからうまくいかなくなった!?あの円とかいう女のせいで神門には借りを作っちまうし!しかし敵から身を守るには“敵の敵は味方”という言葉どおりにやってみるしかねぇ!だが、追ってくるあの野郎どもはどうする!?
すると目の前に神門がいた。神門は龍明に手招きをする。なにを考えているのかはわからないがとりあえずいってみるしかないと思い龍明は神門についていく。神門は車を用意しており、その車に龍明は乗り込んだ。
「また借りを作っちまったな・・・・・・」
「それはどうも」
しかしなぜ神門がおれをかばうんだ?逆にこれが知られたら立場がやばくならないか?ヘルメットのようなその被り物のせいかいつ見ても神門の考えが読めない。
「そろそろ終わるかもしれないからどこかで身を隠してるんだな」
しばらく走ったところで神門は龍明を下ろした。まったく・・・・・・何を考えているんだか・・・・・・。
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2005/05/10(Tue)23:15:55 公開 / チェリー
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■作者からのメッセージ
ふぅなんだかそろそろいっぱいになってきたので新しく変えたほうがいいでしょうか?なんだか書くとき重くなってきたような感じなんですよねぇ。とりあえず次回のはほかにあたらしく書きます〜。
今回は雑かもしれません。ていうか雑ですね。急ぎすぎてる感じですねぇ・・・・・・すみません・・・・・・(泣 次回から次回からと言っておいてなにも変わらない私(泣 ご感想ありがとうございます〜
甘木様、上下 左右様、京雅様どうもありがとうございます〜。今日はほかのサイトで読みきりを2作作ってたのでもう疲れ気味で眠くて・・・・・あ・・・・・・・もう駄目・・・・・ね・・・・・む・・・・・・い・・・・・・・
・・・・・・ども・・・・・・です・・・・・・♪ (何