- 『黒いイナズマ 【5話】』 作者:武丸 [ブガン] / 未分類
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【序章】
人類は数え切れない程、何かを創造して来た。
車、列車、飛行機、など。
その様に人類は創造物、思想、理想。を世の中に確立している。
しかし、人間では困難な作業や危険な作業など人には限界があった。
そこで、人は今の先端技術のコストを倍増して、まったく
新しい物を創り上げた。
『感情を持ったロボット』
感情を持ち生身の人間の様に話し、生活する。
そんなロボットが開発されたのだ。
便利の為に手間と御金を費やしたあげく、それと引き換えに
人間の作業の限界を超えたのだ。
そして『感情を持ったロボット』の完成を記念として、
人類は新しい時代に突入した。
『ハイレベル世紀』又の名を『メカニクル世紀』
『第一記・黒の輝き』
ハイレベル世紀13年、感情を持ったロボット。
別名メカニクルの第一号機が完成し新たな世紀に突入してから13年が経過した。
人類はメカニクルと共存し、メカニクルを労働者として、あるいは使用人として、使っていた。
ある日、またもや一つのメカニクルが開発され誕生した。
新しく建設された様な新品の建物の部屋。
その部屋の真ん中に設置されている台の上で黒いボディーをしたメカニクルが仰向けになっている。
台の近くで数人の人達が話し合っていた。部屋は少し暗く、一人は白い服を着て理科系の男だ。
「完成だ……。今までに無い防御力に優れたボディー、そして攻撃力」
「そうですね。ロチェス代表、このメカニクルは暴走したメカニクルの処理の為に作られた
のですから……。そうだ、このメカニクルのパートナーを選ばなければいけません」
「そうか。では、奴はどうだ?」
そう発言した一人の男が部屋の出入り口の扉を開けて10代後半ぐらいの年齢のある少年を連れ出した。
少年は少し礼をして部屋の中に入った。
「私の息子だ。どうだ?」
理科系の男は目を疑ってこう言った。
「息子?まだ子供じゃないですか」
「今、18歳だ。子供に見えるが訓練は積んである。このグループの者にしたいのだよ」
「と、言うと……息子をナイングループの後継者に?」
「そうだ」
北アメリカ、ミシガン地方に大規模な施設が建っている。
その施設の名を『ナイングループ本部』である。
メカニクルが作られ、電子頭脳の異常や故障により暴走するメカニクルが現れてから人々は
メカニクルとの共存に疑問を感じた。そこで、人とメカニクルは暴走メカニクルの対処の為に、
ハイレベル世紀9年、ナイングループを北アメリカに設立した。
そして設立してから4年が経過し、ナイングループは地球全土までに広がった。
しかし、ナイングループもメカニクルと人間との共同組織である為に組織内でメカニクルと人との間で
一つの事件が起きた。メカニクルはその事件を、こう名づけた……。
『人間、メカニクル独占支配事件』
名前の通り、この事件は人間が独占して支配してきたメカニクルの反乱である。
ナイングループ内で人間が支配していた為にメカニクルは自由の為にナイングループの人々に反乱したのだ。
その反乱メカニクルのリーダーとなったのが、ナイングループの労働メカニクル、『ゼクス』である。
反乱の主導者となった為にゼクスは人間により破壊された。
その後、反乱は止まりメカニクルの為の人権法律が成立した。
『メカニクル適用法』である。
ナイングループ内で起こった反乱前を第一次ナイングループとして反乱後を第二次ナイングループとして、
新たなナイングループが誕生した。その新たなナイングループ、第二次の創始者は、『ロチェス・エバ』代表である。
そして、息子を『ライン・エバ』
「ロチェス代表、息子さんを戦わせると?」
部屋の中で、ロチェスとその息子ライン、そして開発者、3人は今なお話し続けていた。
「ライン、出来るだろ。この黒いメカニクルとパートナーになり
暴走メカニクルの処理を頼みたい」
ロチェスは率直にラインに言った。ラインは少し黙り込んだが頷きこう答えた。
「うん、父さん。だけど絶対、破壊しなければいけないの?」
「暴走したメカニクルを捕まえ電子頭脳を再度、直すなど手間と御金、
そして何より、暴走したメカニクルを捕まえるのが困難だ。
仕方が無いことなのだよ……」
その言葉に納得したようにラインは頷いた。
そこに黒いメカニクルが仰向けになっている台の横で開発者が口を挟んだ。
「ロチェス代表、第二次ナイングループの第一号機として、
この黒いメカニクルの名前をどうしましょうか?」
「うむ。このメカニクルは刀を武器とするから……。セイバーにしようか」
ラインは瞳を閉じた黒いメカニクルをじっと見つめた。
「(セイバーか……。僕の戦友になるんだね……)」
『第二記・よみがえりの記憶』
暗い部屋で一機の黒いメカニクルが眠っていた。電子頭脳に電源が入っていない為だ。
そこに暗い部屋を明るくしたのがロチェス・エバだ。
彼はナイングループ人間部隊代表である。
なぜ人間部隊に分かれているのか?それは簡単だ。ただ単にメカニクルと区別するためだ。
当然、メカニクル部隊、通称メカ部隊もある訳でそこに人間部隊がある。
暴走メカニクル一機に対して人間部隊一人とメカ部隊一人との2人1組でメカニクルの処理をするのである。
「このメカニクルは大量生産型じゃないんだ。大切にしないとな」
ロチェスはそう言って、メカニクルのそばに寄った。
そうして、手でメカニクルの胸部分のカバーを開け中にあるスイッチを押した。
それはメカニクルの電子頭脳電源であった。
またたくまにメカニクルの電源が入りメカニクルの部品との間に光が発した。
何秒後には光が止み、ロチェスは光で目をさえぎっていた腕をどけて、黒いメカニクル『セイバー』を見た。
「うむ、第2次ナイングループのメカニクル第1機の目覚めだ」
黒いメカニクルが目覚め、初めての言葉を口に出した。
「御前が俺を起こしたのか?」
「そうだ。君には役割がある。その為に君は目覚めたのだよ」
「役割……。俺の使命か?」
「そう言うことになるな。セイバー……」
「セイバー?」
一瞬黙り込んだセイバーは自分の名前に気づき「セイバー?」と繰り返した。
「そう、君はセイバーだ。今は目覚めた寸前だから、君にインプットしたデータが電子頭脳に定着していない。
もう少ししたら、何をすべきか。分かるはずだ」
ロチェスは一言残して部屋を出た。セイバーは電子頭脳のデータの普及まで部屋の中で残った。
北アメリカ、ミシガン地方、ナイングループ本部。
カナダと北アメリカとの境目の地方に設置されている本部はメカニクル製造工場と各地の
ナイングループ施設とのやり取りや暴走メカニルの発見設備の整った施設。
いわゆる中枢施設と分かれている。
その中枢施設の中でラインは暴走メカニクルの情報を得ていた。
中枢施設は五階建ての構造になり、ラインは中枢施設の情報の心臓である。五階にいた。
そこは大きなモニターが壁に設置され、至る所にパソコンが置いてあり、人やメカニクルが様々な仕事をしていた。
「すいません。暴走メカニクルはどうでしょうか?」
ラインはパソコンに向かって仕事をしている情報員に尋ねた。
情報員とは暴走メカニクルの発見などを仕事とする人の事だ。
「おいおい。俺の名前はラウルだぜ。今のところ異常は無しだ。異常発生次第つたえるぜ」
ラウルはメカ部隊一員のやり手の情報収集者だ。青いボディーが印象的だ。
「ラインさんよ。今、流行の暴走メカニクルを知ってるか?」
「さぁ〜?知らないよ」
「電子頭脳の故障で暴走してる訳じゃないんだが、自発的に暴走するんだ。
一番困難な指名手配者だ。そのメカニクルをブラックメカニクルって呼ぶんだ。知っといたら損は無いぜ〜」
「あ、あぁ〜」
「あれ?おかしいな〜」
ラウルはパソコンを眺めた。パソコンには近辺の地図が写されており、一つ赤い点が点滅していた。
ラウルは赤い点滅の位置を把握して点滅の付近を拡大した。
「これは、暴走メカニクルだな。行けるか?ライン」
ラインは一瞬驚いた。そこに後ろから誰かが歩いてきた。ラインは後ろを向いた。
「ライン、初めが肝心だ。暴走メカニクルは攻撃をしてくるかもしれん。生と死だ……。
大丈夫、危険があれば当然たすけには行く」
ラインに一言喋ったのは父、ロチェス・エバだった。ラインは安心して頷き、セイバーのいるメカニクル製造工場の、
部屋に向かった。
その頃、セイバーは電子頭脳のデータの普及も終わり、
セイバーと言う存在のあり方を知った。役割や生まれた理由……。
しかし、セイバーは目を丸くしていた。
「なんだ……この記憶は……!? 俺が知らない記憶。誰の物なんだ」
セイバーの見ていたもの。それは一体何なのか?
電子頭脳のデータが異変を起こしたとでも言うのだろうか?
だとすればセイバーは電子頭脳が故障し、暴走する可能性だってあるはずだ。
しかし、セイバー自身、異常は無さそうだった。
セイバーが何かに悩んでいるとき、扉を開いたのがラインだった。
ガチャ。と扉を開きラインはセイバーを見た。何かにうなされている様に見えて、ラインは異変に気づいた。
「セイバー、どうしたの?」
セイバーはラインの声に反応して口を開いた。
「御前は……ライン・エバ」
データの中にインプットされていた顔と名前を一致させラインの名前を声に出した。
「セイバーどうしたの?頭を抱えて、心配事でも?」
「いや、違う。俺のデータの中に……ゼクスと言うメカニクルのデータが入っているんだ。
それだけじゃない。ビーム銃で撃たれるシーンが薄っすらとデータの中にある」
ラインは驚いた。なぜならゼクスとは、ナイングループ内で起こった事件で破壊され処分されたからだ。
そのゼクスのデータがなぜセイバーの電子頭脳にあるのかラインは驚きを隠せなかった。
「もしかすると……セイバーの電子頭脳はゼクスの電子頭脳を再利用したのかもしれない。
だとすれば、ゼクスのデータと記憶が偶然にも残っていたんだったら話は通る」
『第三記・戦場と命』
ゼクスのデータと記憶が、セイバーの電子頭脳にあった。
事実か。嘘か。それは分からないが、セイバー自体に異常は無かった。
そのことについてはラインとセイバーは、大きく考えずに気にしないようにした。
「そんな事より、セイバー、仕事だよ。位置は……この近くのベイシティ。
近くって言っても、それほど近くじゃないから。飛行自動車で行こう」
飛行自動車とはナイングループが独自に製造した飛行用の車である。
タイヤが無く、かつてない飛ぶ自動車である。かなりのスピードである為に、人の手では操縦しづらい、その為
障害物察知センサーがついていて、障害物を避けれ、オート操縦が出来るのだ。
「飛行自動車? 飛行できるのか?」
「あれ? セイバーには飛行自動車のデータは書き込まれてないのか。じゃあ一旦、飛行自動車の場所に
行くか……。ここはメカニクル製造工場だから、工場と中枢施設と繋がっている渡り廊下を渡って、
中枢施設の2階の出動ルームに向かう……」
「ああ、分かった」
セイバーには内部地図が書き込まれている為、ラインの言った経路は理解できた。
ライン達は任務を迅速しなければならない。だから走っていくようにした。
メカニクル製造工場のセイバー開発部屋の扉を開けて、機材やメカニクルの電子頭脳、部品を開発している
ルームを走って行き、工場と中枢施設との渡り廊下も走る。その間、渡り廊下の窓から辺りの景色が見える。
窓から景色を見ながら、景色が後ろえと遠ざかっていく。
丁度、渡り廊下と連結している階は2階だ。すぐさま2人は飛行自動車のある所へと直行しようとした。
2階、全てが出動ルームと呼ばれる階である。その為、2階全てに至る所にはメカ部隊や人間部隊の者達が忙しそうに
飛行自動車を使い出動していた。
「セイバー早く僕達も出動しよう。えーと、飛行自動車はどこだ」
ラインは指を指し示した。
示した場所は飛行自動車が横に並び、出動する飛行自動車の前の壁が上にスライドし、短い滑走路が出る仕組みに
なっていた。そしてその滑走路を利用して飛行自動車が発進する様に作られていた。
ラインとセイバーは走って飛行自動車の元へ行った。
飛行自動車にまたがり、前にある電源スイッチを押した。エンジンがかかり、後部から火が発する。
「セイバー、前にパソコンの様な物があるでしょ。そこに出動場所を打てばオート操縦になるから……
やってみて」
言ったとおり、横に伸びたハンドルの真ん中には小さなモニターとキーボードが設置してあった。
セイバーはキーボードで目的場所を『ベイシティー・メカニクル処分所』と打った。
同じくラインも目的場所を打った。
そして、2人は出動準備が出来た合図を送り、ハンドルを構え、アクセルを踏んだ。
2機の飛行自動車は滑走路を抜け、空へ飛んだ。
「これから始まるんだ。戦場に……」
「ライン、御前は武器を持たずに行くのか?」
「いや、違うよ。ちゃんと持ってきてるさ。飛行自動車の椅子は開けれて、その中に物を入れる事が出来るんだけど
その中にビーム銃を入れてるよ」
「そうか……。それにしても速いな飛行自動車。目的地が見えてきたか?」
前にある風景に、あるビルがあり屋上にはベイシティと大きく書かれた看板が立っていた。
ビルが建ち並び、森林や森が建設されていた。下にはメカニクルや人々が行き交い、楽しそうにショッピングする者もいた。
「それにしても、メカニクル処分所になぜ暴動を起こすんだ?」
「セイバー、それは行かないと分からないよ」
「それもそうだ。ん? もう着くのか?」
オート操縦にしている為、スピードが勝手に落ちていくことが分かった。
少しずつ下に降りていく飛行自動車。下には大きな施設が建っていた。長い一本の煙突があり煙を吹いている。
その周りには住宅地や建物は無く、処分所の周りに覆われている森林が見えた。
「メカニクル処分所……か」
飛行自動車は完全に地上に降りて、2人は飛行自動車から降りた。
静かにメカニクル処分所の方に歩く。
歩いている時だ。何か低く大きな音が聞こえた。
「なんだ!? 暴走メカニクルか!?」
高い声を張り上げ、セイバーは周りを見渡す。そこに確信したようにラインが言った。
「そうかもしれないよ。セイバー行こう!」
2人は音の元へと耳を頼りに走った。そこには処分所を破壊する暴走メカニクルが遠くに見えた。
メカニクルはバズーカ砲を両手で構えて、破壊していたのだ。
「やめろ! 暴走メカニクルか……電子頭脳でも故障したか?」
暴走メカニクルはセイバーの声に気がつき、セイバーの方に体を向けた。
「俺は……電子頭脳など故障していない……。俺は罪も無いメカニクルが破壊されるのを止めるために
処分所を破壊している。……君達はナイングループなんだろ? だから僕を処分するんだろ?
しょうがないね。僕は罪を犯しているんだから、だけどね。君達。これだけは言わせてくれ。ある人物に聞いたんだが、
君達は罪も無いメカニクルを処分している様だね。だから僕はこの処分所だけでも破壊して、君達の強引な行動を
止めることにしたんだ」
暴走メカニクルは電子頭脳の故障ではなかった。となれば、このメカニクルは自発的暴走。ブラックメカニクルだ。
ブラックメカニクルは下を見ながら、ラインとセイバーに悲しそうに話した。
そこにセイバーが口を挟んだ。
「そんなことは無いはずだ。ナイングループは暴走メカニクル、ブラックメカニクル以外の罪もないメカニクルなど
処分していない。誰から聞いた?」
顔をしかめ話すセイバーにブラックメカニクルは、ぼそっと呟いた。
「……それは言えない。あの方は大切な人だから」
「まぁ、良い。そんな戯言を言う奴なぞ、見つかるのも時間の問題。俺達の敵だろう。
それより俺はさっさと御前を処分したいんだ。それが任務なんでな」
セイバーは軽く話し、話し終わってから確かめるようにラインの顔を見た。
ラインも少し考えながらも頷いた。それはブラックメカニクルの言っていた『大切な人』のことを気にしたのだろう。
しかし、今の任務はブラックメカニクルの処分。ブラックメカニクルと喋っている時間は無い。
「うん、やるしかないね。セイバー」
「ああ、ここは俺一人でやる。どうせ奴も覚悟してるだろう」
「そうだな。俺は覚悟してるぜ。ナイングループ部隊さん」
その言葉に納得し、セイバーはゆっくりとメカニクルの前に立ち、背中の刀を抜いた。
そして、メカニクルの右肩に刀を当てた。ゆっくりと上へと刀を挙げ、ザッ! と言う音と共にメカニクルの肩めがけて刀が
降りた。刀はメカニクルの肩を通り、そのまま素早く斜めに斬れた。メカニクルは斜めに真っ二つになり、斬れた上部分は
重力により斜めにスライドして落ちる。しかし電子頭脳は、まだ負傷していない。
その為、メカニクルは一言、漏らした。
「俺は……ここで処分される……生きれなく……なることは……悲しい……しかし、泣けないんだよ……
ロボットだからな……」
そう言うと、まぶたを閉じ、メカニクルの身体は地面に落ちた。人間のように涙を流せない悲しみはロボットでしか味わえない。
ロボットとして生まれた悲しみは『死』と言う狭間で分かる事……。それはラインとセイバーにとっても辛かった。
どれほど感情を持っていても、それを涙で語ることが出来ない悲しさ。それは死ぬよりも辛かっただろう。
ラインとセイバーは、そう思っていたに違いない。2人は顔を見合わせ、ナイングループ本部へ戻る為、飛行自動車の元へと
歩いて行った。
『第四記・黒の戦士』
セイバーは前回の任務でブラックメカニクルの最後の言葉が気になり、電子頭脳の精神機器が狂ってしまった。
その為にセイバーはメカニクル製造工場でメンテナンスを行うことにした。精神機器はメカニクルにとっても大事なもので、
そこが故障してしまうと、暴走メカニクルになる危険があるからである。
中枢施設5階にいたセイバーは、ラインからメンテナンスを受けたほうが良いといわれ行こうとしていた。
「セイバー、一人で行けるか?」
こう言ったのはナイングループのメカ部隊代表エイガルだ。中枢施設からメンテナンスルームまでセイバー一人で行けるか
心配したからだ。エイガルのがっしりした体系は周りのパソコン、大型モニターなどの光をバックに前が暗く、後ろが光って
映った。暗く顔が見えにくかったが、セイバーはがっしりとした体系に気づきエイガルだとすぐに認識した。
そして、エイガルの心配した言葉を打ち消すようにセイバーは言った。
「大丈夫だ。エイガル。俺はそこまで弱っちゃいない」
「そうか。それならいいが……今日は休め。分かったなセイバー」
「ああ。すまん……しかしエイガル、俺の任務をしてくれる代わりがいるのか?」
そう言ったのには理由があった。メカニクルの製造が大幅に増え、暴走メカニクルも比例して増えた。
そしてナイングループは暴走メカニクルを処分する仕事が何倍にも増えたからだ。
一人でも抜けると、処分が追いつかなくなることがある。
心配しているセイバーにエイガルは軽く言った。
「それは大丈夫だ。セイバーの代わりはメカ部隊所属マックスがやってくれる」
「マックスだと?」
その口調から分かることはセイバーが、まだ会っていない者だと分かった。
エイガルは自分から見て左側の壁を見た。そこには壁を背もたれとして腕を組んでいる黒い大きな体が見えた。
「マックス……? 俺と一緒のカラーは少し引くな……」
「まぁ〜そう言うな。同じ色のメカニクルなど沢山いるだろう? それよりマックスの紹介だ。奴は第一・二次ナイングループ
メカ部隊所属の者だ。周りと少し違うのがナイングループの製造工場で製造されていないことだ。
マックスは、名の知らないある研究員から貰ったメカニクルだ」
「名の知らない研究員?」
「ああ。第一次ナイングループの設立の時にマックスを地球の為に役立てたいと言って、去っていったんだ」
セイバーは納得したように頷き、エイガルにメンテナンスに行く合図を送り、メンテナンスルームへと向かった。
早速エイガルはマックスの所へと歩いていき、任務の知らせをすることにした。
「マックス、セイバーの代わりになることは知っているな」
エイガルに気づいたマックスは壁から背中を離してエイガルの前に立った。
「ああ。情報員から聞いた。……それで、まだ任務は無いのか?」
顔をしかめてエイガルは取ってつけるように言った。
「それは、私にではなく情報員に聞いてくれ。私はメカ部隊代表であり指揮官だ」
「分かったよ。聞けばいいんだろ」
少し怒ったような言い方はマックスの特徴だ。そして近くのパソコンと向き合っている情報員にマックスは怒鳴った。
「そこの情報員さん。えーっと……エスか。エス、何か任務は無いか?」
エスとは女性型メカニクルで、情報員の中でも優れた判断力を持ち、慕われているメカニクルだ。
エスはマックスの強引な言い方に怒る様子もなく、ただ新鮮な応答をした。
「はい、先程マッキノーシティ・094ポイントにて暴走メカニクルが確認されました。今、現地付近に部隊がいませんので、
マックスさんとアーマスさんが行ってくれれば助かりますが」
「分かった」
マックスは任務を認識し、早速仕事に取り掛かろうとした。背もたれとしていた壁から離れ下へ降りる階段へと歩き出す。
まわりのメカニクルや人達の喋り声のざわめきにビクともせずマックスは堂々と歩いているように見えた。
階段をゆっくりと降りて、飛行自動車のある2階へと降りるとマックスは辺りを見た。
「アーマス……あそこか……」
首をなで、『アーマス』を探した。マックスが探していた人物は飛行自動車のそばに立っていて、煙草を吹かしていた。
煙を出しながら立っている人物は、いつでも出動できるように飛行自動車のそばに立っているようだった。
マックスは『アーマス』という男の元へと移った。
「ん? マックス仕事か?」
シルバーの眼鏡に真面目そうな顔……。サラリーマンのような男だがクールは誰よりも負けていなかった。
「ああ、アーマス。マッキノーシティだ」
アーマスという人物は様子を伺うかぎりマックスのパートナーの様だ。
そして、『アーマス・トーマス』は煙草を真下の灰皿に置き、指でつぶした。
「3分で片付ける……」
アーマスは一言漏らし、飛行自動車に乗ろうとした。
自動車が道路を走り、人々やメカニクルが歩く。会社に働く人、人の手伝いをするメカニクル。
道が二車線あり、その道の向こうにはビルが建っている。一般的な風景。だがその風景を壊す物があった。
空に灰色の煙が舞い上がり、その下は自動車がひっくり返り火を噴いている。近くの人々は驚き、当然近くから非難していた。
付近の警察のパトカーが周りを囲み、火を噴く車の近くには一機のメカニクルが立っていた。
「そこを、動くな!って言っても無駄だな」
そう言ったのは近くの警官だった。電子頭脳を故障したメカニクルには言葉の意味が理解できない。
しかし警察官の役目はまず地元住民の保護、非難の指示。そしてもう一つ暴走メカニクルの最低限の攻撃。
攻撃とは暴走メカニクルが住民へと被害の食いとめのためである。
メカニクルは頭を抱えながら、一歩か二歩、ゆらゆらと前後左右へと揺れ動いている。
警官は尚も同じ体制で包囲を固めていた。
「まだナイングループの掃討部隊が来ないのか〜?」
ビーム銃を構えている一人の警官が愚痴を吐いた。まだ新米の警察官のようで警官服がぎこちない。
新米の横にビシッと銃を構えている警官がその言葉を聞き、横を向いた。
「おいおい、愚痴を言ってもしょうがねぇよ。掃討部隊が来るまで辛抱……」
と、言っている矢先に、遠くから低いエンジン音が聞こえた。静かな空の空気の間を通るような低い音だ。
そのエンジン音はしだいに距離をちじませ、こちらに向かってくるように聞こえた。
「そろそろ、おでましだ」
愚痴を言っていた男は、一言、言って空を見上げた。
丁度、上空には二機の飛行自動車がゆらりと飛んでいた。ゆっくりとアクセルを外すようにエンジンもしだいに
力を無くして、地上へと降りた。乗っていたのは当然、マックスとアーマスであった。
そこに一人の男警官が二人の元へと走ってきた。
「ナイングループ本部のメカ部隊マックスさん。人間部隊アーマスさんでありますね。私はマッキノーシティ警察署の
カーホンであります。わざわざありがとう御座います」
その言葉遣いには目上の人に対する口調のように聞こえる。
なぜならナイングループ『暴走メカニクル掃討組織』は地球全土に至る各警察署の一つ上の組織であるからだ。
「で、暴走メカニクルの状況は……?」
アーマスが質問する。警官はメカニクルの方に顔を向けて話し出す。
「はい、見る限りでは精神機器の故障だけだと思われます。その他の運動機器は故障していません」
「では、反抗的に攻撃してくると……?」
「多分そうでしょう。精神機器の故障によりメカニクルの行動は制御出来ません。更に運動機器は働いていますから
意味無く攻撃する危険性は予測出来ます」
「分かった。なら早速、処理に取り掛かる。君達の部隊は撤退させても良いぞ」
「はい、分かりました。後を頼みます」
警官は素早く去っていき、全警官に撤退命令を出しているようだった。
アーマスとマックスは警官達の撤退を確認してから任務に取り掛かろうとした。
暴走メカニクルは火を噴いている車の横で立っている。二人はゆっくりと歩き出した。
暴走メカニクルの近くへと、もうじき来たかと思えば、その標的は顔を二人へと向け睨みつけた。
「……ア、ア、ガッ……!!」
口を大きく開け、訳も分からない言葉を発してメカニクルは尚も睨みつける。
その睨みつけた表情にマックスは何かに驚いていた。しずかな空気に流れる緊張感をアーマスも感じていた。
「アーマス……なぜか分からないが俺はあいつを知っているような気がするぞ……記憶データが故障しそうだ」
『第五記・破壊が使命であること……』
何か、恐ろしい空気に押されながらもアーマスとマックスの二人は立っているだけだった。
「どうしたんだ? マックス……お前の記憶データにあのメカニクルの記憶があると言うわけか?
あったとしてもなぜ怖がる?」
「怖がっちゃいねぇよ! ただ俺はあいつに何かを感じるんだ」
マックスはいつもの冷静さを無くし、メカニクルの事で一杯なのだろう。その証拠にマックスの両手は
硬く頑丈に握り締められていた。アーマスはその拳に何か恐ろしい物を感じていた。
暴走メカニクルを処理することを忘れていたことに気づいたアーマスは、ハッとしてメカニクルに目を移した。
その時、異様な空気にアーマスは飲み込まれた。その空気に気づいた瞬間アーマスは上空からゆっくりと降りて浮遊する
一機のメカニクルに気づいた。他のメカニクルには無い異様なオーラを発し腕を組んで浮遊していた。
緑色のボディーに目も口も無いシルバーの仮面で顔を覆いかぶさっていた。
そのメカニクルはマックスを見て、ゆっくりと声を仮面の奥で発した。
「そうだろうな……兄貴……その暴走しているメカニクルは兄貴の構造データを元に作られている」
火を噴いて横転している車の横で立っている暴走メカニクルは『兄貴』と言われたマックスのデータを利用して
作られたと言うのだろうか? マックスはその言葉に大きく反応した。
「……『兄貴』……とはどういうことだ?……!」
マックスは『仮面』を睨んだ。
「『兄貴』?……そのままだぜ。お前は俺の兄貴だ。そうか……記憶データが無いのか〜。
だとしたら兄貴が作り出された理由も知らないんだな」
「どう言うことだ?! 俺はナイングループのメカ部隊に配属される為に生まれたんだ!」
マックスのボルテージは上がり、マックスの足は一歩前に出ていた。
アーマスはこのやり取りに言葉を出せず、ただ立ちつくしていた。そして再び『仮面』の奥から低い響きの声が出た。
「兄貴……本当の任務は新しい世界を創りだすことだ。ただ俺はそれを伝えに来た。
そうだ。この暴走メカニクルは俺が処分してあげよう。ただ兄貴達を呼ぶための偽の暴走メカニクル……」
そう言うと仮面のメカニクルは、シルバーの『仮面』をおもむろに外した。
仮面の奥は顔の表情は無く、灰色の機材の塊だった。表面の下部には平らな鉄板があった。
そして、まもなく灰色の鉄板がゆっくりと前に数センチが出て、上にスライドし中から丸い頑丈そうな銃口が出た。
その銃口を下にいる暴走メカニクルに標準を合わせた。銃口から高エネルギーの光が発した。
そして数秒後……銃口から白い光のビームが暴走メカニクルへと降りた。
一秒か二秒だろうか? そのビームは暴走メカニクルを貫通して地面を殴った。
大きな音が空気の流れを逆流するように突風がマックスとアーマス達に飛び掛った。
「なんてパワーだ……」
アーマスは仮面のメカニクルを見て、一言つぶやいた。
浮遊してゆったりと、仮面を再び頭にかぶせた。そしてゆっくりと上昇し、その後風と共に飛び去っていった。
雲が一割か二割ほどしかない。晴れる一日。火を噴いていた車も付近の警察署などの仕事により
片付き、市民は安心して再び一日を過ごすことになった。
しかし、その矢先。マックスは『仮面のメカニクル』が言った数々の言葉に頭を悩まされていた。
そこにパートナーのアーマスが吹きかけた。
「マックス。気にするな。さっきの事は何かの間違いだ。ここはナイングループ本部だぞ。
まわりの人やメカニクル達に迷惑をかけては、こちらも悪い」
「分かっているさ。アーマス……俺は気にしては無いさ……」
マックスはそんなことを言いながらもアーマスには当然悩んでいることなどすぐに分かった。
ナイングループ本部五階の出入り口で話していたマックスは、いつもの背もたれの壁へと向かった。
「どうしたんですか? アーマスさん?」
後ろから言ったのはライン・エバだ。二人の話を聞いていたのか? ラインはマックスを気にした。
アーマスは後ろを向き、ラインに話した。
「いや、小さな事だ。気にしないでくれ……」
「そうですか……じゃあ、僕は中に入りますから少しどいてくれますか?」
「ああ、すまんな」
アーマスは横にそれて、ラインを中に通した。
入った瞬間だ。大きな情報員の声が鳴り響いたのは……。
「緊急事態です! ナイングループ本部へ不明の通信が入ります! 大型モニターです!」
ラインは目の前の大型モニターへと目を移した。
「誰だ?」
モニターには見知らぬ男が一人映っていた。白い研究服をまとい、なんだか若い男に見える。
若き研究員というところか?
「……私は『新たな世界』を目指す、一人のメカニクル研究員であり、あと少しで世界の支配者となる
男だ。別に言うならば私はマックスの製造者であり『ゼクス』の製造グループの一員だった男だ。
まわりからは『若き実力者』と呼ばれていたんだが……私を知っているかな? ナイングループの諸君。
なぜ、私がナイングループ本部の通信回路を勝手に操作したのか?
知りたいか? それはマックスに用があるからだ……数年前にマックスを製造しナイングループへと
引き渡した。なぜならマックスを強くするためだからだ。そしてマックスを引き渡してから数年が経った。
マックスは貢献しているだろ、諸君。それは元々マックスは高性能として製造したからだ。
まぁ、前置きはこのぐらいにして置いて、本題に入ろう。
マックス……君を連れ戻しに来た。新たな私の世界に君を招待するのだよ。
マックス、破壊を楽しみたいのなら私の所へ来るが良い。ナイングループの使命は破壊だ。
暴走メカニクルを処分するという『破壊』の使命なのだよ。私の所へ来れば破壊をぞんぶんに快楽できる
どうだ? マックス」
マックスは壁にもたれて何も言わない。しかしそこにアーマスが言葉をかける。
「マックス! お前は奴に耳をかすな!」
しかし、アーマスの声もむなしく届かなかった。マックスは壁から背中を起こしまっすぐに立った。
その瞬間マックスの目は赤く光をだし、そのまま目を赤に目を染めた。
そこに駆けつけたセイバーが言った。
「あれは……! あの症状は精神機器の異常発生の証拠だ。ナイングループのメカニクルには精神機器が異常発生したら
目が赤くなる仕組みがある。それがマックスに起こるとはな……」
「どういうことだ! マックス! お前はおかしくなったのか! お前は言ってたじゃないか!
暴走メカニクルを処分することで人々を守れるのなら自分の体を授けると……!」
アーマスの声はマックスには届かなかった。マックスは植物のように口をきかなくなったのだろうか?
しかしマックスは口を開いた。それは驚くものだった。
「……破壊……破壊が俺の……快楽……な……の……か?」
そうマックスは自分を見失っていた。
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2005/05/16(Mon)15:02:04 公開 / 武丸 [ブガン]
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■作者からのメッセージ
少し複雑な内容ですので解釈がしずらい
かもしれません。投稿するのに手惑い
ました。その点も評価、文章の構成などに
ついてのアドバイス、ヒントを頂ければ
光栄です。
宜しく御願いします。
もしもアドバイス等をしてくれた方々、
感謝します。
余談ですが利点も言ってくだされば、
その点もかねて今後に役立てたいと思い
ますので御願いします。
勝手ながら感想の方を、このように
まとめて下されば幸いです。
皆様の意見ありがとうございます。
なるほど、と言う事があり、風景文章など
の詳細を次回の投稿に役立てたいと思います。