- 『英雄伝説 七聖士物語 第1話』 作者:蒼月 / 未分類 未分類
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全角14279文字
容量28558 bytes
原稿用紙約48.9枚
<プロローグ>
この宇宙には人類と呼ばれる生き物がいる。
それは地球だけではなく太陽系を超えたずっと先の数々の惑星にもいえることであり、
私たちと同じ背格好をした人類と呼ばれる生き物が地球と同様、
一つの星を支配するほどまでに栄えていたのだった。
特に神族、悪魔族、魔法族、妖精族、魔物族といった一族の星はひときわ目立つものがあり、
星全体が一つの国のようになっていた。
そして、星同士の交流も行われ友好同盟を結んだり、時には戦争を行った。
この物語はそんな世界で起こった、強き戦士達のお話である・・・。
1話「始まりの日」
「なんか・・・小腹が空いたなー。」
ため息まじりに一人の青年が言った。
今日は久しぶりに何も無い日だ。
だが、こういう日に限ってテレビはなにもやっていないし、特にしたいことも見当たらない。
かといって勉強する気にもなれない。
「しかたねー。コンビニでも行くか。」
少年は立ち上がって、すこし身だしなみを整えて上着をはおる。
彼の名前は一ノ瀬 勇気(いちのせ ゆうき)。
地球の日本に住む、17歳。鹿草高校2年生だ。
彼は幼い頃両親を事故でなくし、今はマンションで一人暮らしをしている。
バタン。外へでると少し肌寒い風が吹いていた。もう日も落ちて暗いのでなおさら寒く感じる。
明日から新学期。もちろん春であるのは確かだがまだ夜は少し冷える。
(早く暖かくなんねーかな・・・。)
そんなことを考えながら鍵をかけてくるっと後ろを向いたそのときだった。
どんっ。
何とぶつかったのか認識する間もなく、地面にしりもちをついた。
「いってー・・・。」
反射的に閉じていた目を開くと、目の前には自分と同じかっこうでしりもちをついている、自分と同じ歳ぐらいの女の子がいた。
まわりを見ると、ダンボール箱が2つ落ちている。
どうやら、二つ重ねて持ち上げてきたので、前が見えなかったらしい。
「ごめん!だ、大丈夫か?」
勇気が思い出したように立ち上がって手を差し伸べると女の子はこちらを見上げて
「いえ、大丈夫よ。こちらこそ、ごめんなさい。」
と言って、手をかりずに立ち上がり、ダンボール箱を再び重ねた。
「手伝おうか?」
勇気はそう言ったが女の子は
「結構です。」
と、冷たく言って勇気の隣の部屋の鍵を開け、ダンボールを持ち上げた。
「もう、すぐそこですから。」
付け加えるようにそう言うとその女の子は部屋の中に入っていってしまった。
(無愛想な子だな・・・。)
引越してきたのだろうか。そういえば、隣の部屋は空き部屋だった。
「まっ、いっか。」
勇気はつぶやくと目的地であるコンビニへ足を運んだ。
<翌日>
クラス替えの発表を終えて、ようやく席に着く。
自分はA組だった。
といっても特進コースのクラスはAとBしかないので、メンバーにそれほど変化はない。けれど新しい校舎は少し新鮮だ。
今日から3年かと思うと少し不思議な気分になる。
この前入学してきたように思うのに・・・。
時の流れとは早いものだ。
そんなことを窓の外を眺めながら考えていると、担任の先生が入ってきた。
「皆さん、お久しぶりです。私が今日からこのクラスを担任する。植木です。よろしくお願いします。さっそくですが、皆さんに今日から一緒に勉強する新しい仲間を紹介します。」
クラスの皆がざわつく。
(今の時期に転校生か・・・。めずらしいな。)
勇気は皆とさわぐわけではなく、ただそう思った。特に興味もない。
「では、入ってきてください。」
がらら・・・
が、入ってきた女の子を見て勇気は驚いた。
昨日ぶつかったあの子がいたからだ。
同じ歳くらいだとは思っていたが、まさか同じ学校で同じクラスになるとは・・・。
クラスのざわつきがいっそう高まるのが分かる。
それもそのはず、昨日は暗がりでよく見えなかったが、なかなかの美人だ。
ウェイブのかかった髪が腰まで伸びていて、気品を漂わせたきりっとした面持ちは、どこかお嬢様や女王的なオーラを感じる。
「エミリィー・アリルジェイドです。よろしくお願いします。」
その子が相変わらずの無愛想な物言いでそう言うと、先生は説明を進めた。
「えー、彼女は外国からの留学生で、日本を学びに来たそうです。皆さん、仲良くしてあげてください。では、貴方の席は・・・。」
先生が後ろに置いていた空き机を勇気の横へと運んだ。
「貴方の席はここね。一ノ瀬くん、色々教えてあげてください。」
「は、はい・・・。」
エミリィーはこちらに近づいてくると、「よろしく。」とだけ言って座った。
「は、はい。よろしく・・・。」
昨日のことは、覚えているのだろうか・・・?
ふとそんな疑問を抱いたが、
それ以上話す気にもなれなかったので先生の話に耳を向けた。
キーンコーンカーンコーン・・・
授業終了のチャイムがなる。次は休み時間。
別に授業が嫌いなわけではないが、なぜかすこしほっとする。
(やっと終わった。)
「きりーつ、れい!」
日直の人がそういい終わると、クラスの数名の女子がこちらに向かってくる。
「ね、エミリィーちゃんって呼んでいい?」
「どこから来たの?」
「こっちの生活ははじめて?」
クラスでも明るくて元気な女子グループだ。
さっそく友達になりにきたらしい。
それでも、やはり彼女は顔の表情を変えず、ため息をつくと
「悪いけど、私、用事があるの。失礼。」
とだけ言って教室から出て行ってしまった。
「何、あれー?」
「感じわるー。」
その子たちが顔を見合わせて言い合う。
まぁ、そりゃそうだろう。だれでもあんな言い方されたら腹が立つ。
(言い方ってもんがあるよな。)
勇気はその現場を横目で見ながらそう思った。
「ね、勇気くんもそう思わない?」
急に自分にふられて少しどきっとする。
「え・・・?」
何も盗み聞きしてたわけじゃないが、あからさまに聞いてたことをさらけだすのもどうかと思うので、とりあえず聞き返してみる。
「転校生の子ちょっとかんじ悪くない?」
するとグループの一人がむすっとした顔でそう言った。
「ああ・・・。あの子ね・・・。」
「そうそう!今の聞いたー?」
「うん、まぁ。」
「あんな、言い方ないよねー?何様なのよ!」
まぁ、同感だが、何もそこまでよってたかって言う必要はないと思う。
それに、このまま放ってほけば噂になること間違えなしの勢いだ。
ここは相手をなだめるべきだろう。
「・・・でも、もしかしたら理由があるのかもしれねーじゃん。」
「理由って?」
「緊張してたとか、ちょっと疲れ気味だったとか・・・。」
「でもぉ・・・。」
「ま、どっちにしろ一面だけで評価つけんなって。いい奴かもよ?」
「う、うん。」
「そうね・・・。」
「留学とかで疲れてたのかもね・・・。」
どうやら納得してくれたらしい。
「そうそう。だから、あんまよってたかって文句言ったんなって。」
「やっぱり、勇気くんっていい人よねぇー。」
「あ、そうだ、この前言ってたカラオケ行く?」
「勇気くんに来てほしいんだけどなぁーvv」
そういえばこの前誘われたんだった。
本当は何もないがやっぱり気が向かない。
「え、遠慮しとくわ。ごめん。」
「え〜?なんでぇー?」
勇気がそういうと女の子たちはすごく残念そうな顔でになった。
心の中に罪悪感が押し寄せる。
「俺、その日用事があるから・・・。ごめんな。また、誘って。」
「つまんなーい。」
「じゃっ、俺、行くとこあるから。またな!」
とりあえず、昼ごはんのパンをとってその場から逃げる。
人からのせっかくの誘いを当然の如く断ってしまう自分は、ある意味あの子と同じなのかもしれない。
でも、どうも苦手だ。女ってのは。
昔からよく女子に追っかけられたり、告白されたりされてるからかもしれない。
対応の仕方に困るので、知らず知らずのうちの避けるようになった。
そういった意味ではエミリィーのような子は新鮮だ。
まぁ、だから好きってことでもないが・・・。
ノリでついかばってしまった。
向こうからしたら、余計なお世話だったかもしれない・・・。
と、ふと目をやるとほかのクラスの前でエミリィーを発見した。
どうやら、他のクラスの人と話してるみたいだ。
話をしてる人の一人は女の子で髪を大きなみつあみで束ねているのが印象的だ。
優しそうでどっちかっていうと、可愛いかんじ。
もう一人は意外なことに男子で、がっちりめの体格に気さくな雰囲気がする好青年ってかんじだ。
そういえば、他のクラスにも転校生がいるっていうのを誰かが話してたような気がする。
もしかしたら、その人たちかもしれない。
(なんだ、友達いるんじゃん。)
勇気は何故かちょっと安心して屋上へその足を向けた。
今日は文句のつけようのない快晴であり、屋上でお昼を食べるにはもってこいだ。
なのに、いるのは俺一人だけ・・・。
基本的に綺麗な屋上じゃない。ベンチもなけりゃ、何も気の利いたものが何もない。
だから大抵の人は中庭とかで食べるらしい。
中庭は綺麗に整備されてるからな。当然といえば当然だ。
まぁ、清潔面ではシートをひけば問題ないしある意味ここは穴場だ。
(もったいねー話だ。)
そんなことを思いながらお昼ご飯にてをかける。
お昼ご飯といっても質素なもんで、パン2つだが・・・。
「いただきまーす。」
誰に言うでもなく手を合わせていったその時、ばんっと屋上のドアが開く音がした。
勇気が目をやるとそこにはエミリィーがいた。
「あ。」
ふとそんな声をもらすとむこうは少し眉をひそめる。
「何?」
「いや、なんでも・・・。」
「そう。」
彼女はどこに座るか迷っているのかきょろきょろ辺りを見渡している。
お弁当袋を持っているところを見ると、どうやら昼食をとりにきたらしい。
「なぁ、一緒に食わねぇ?ここ座っていいぜ。」
勇気があまったシートの部分をあけて言う。
まぁ、断られそうだが、このままほっておくのも人としてどうかと思う。
彼女は少し考えてやがてこういった。
「ええ。ありがとう。」
「ぇ・・・?」
また、そんなこえをもらすと彼女が眉をひそめた。
「何?貴方が誘ったんでしょ?」
「あ、はい。そうっすね。すんません。」
「何で謝るの?」
「いや、なんかノリで・・・。気にすんな。」
「まぁ、いいけど。」
そう言うと彼女はぱかっとお弁当のふたを開けると丁寧に食べ始める。
けど、彼女は食べることに集中しているのかまったく話そうとはしない。
一人のときはともかく、人がいるのに(しかも真横に)沈黙が続くのは居心地が悪い。
(何か話すことねーかな?でも下手なこと言ったら答えてくれなさそーだし・・・。)
そんなことをパンをくわえながら考えていると、意外なことに、彼女から話しかけてきた。
「ねぇ、貴方の名前は?」
「え?名前?そういや、言ってなかったな。俺は一ノ瀬 勇気。よろしく。」
「・・・・・・。」
なぜか彼女は深く考え込んだようにうつむいて動かない。
「どうかした?」
勇気が聞くと顔をあげて、
「いえ、なんでも。」
と相変わらずの無表情で答えた。
「な、ならいいけど。」
(名前聞いて考えこむとは・・・。)
なんなんだ。一体。本当に変わった人だ。
「ねぇ。」
と、また向こうが話しかけてくる。
「ん?」
「一ノ瀬くんは私の隣にすんでる人?」
やっぱり昨日のこと覚えてたんだ。
隣に住んでるかって聞かれても彼女がどこに住んでるのか本当のことは分からないが、多分隣の部屋なんだろう。
「多分、そうだと思う。」
とりあえずは無難な答えを返しておく。間違えだったら困るしな。
(っていうか、そんなことを聞いてどうするんだろ?やっぱり昨日のことが気になっていたんだろうか。)
が、次の瞬間、勇気はエミリィーから信じられない言葉をきくことになった。
「なら、今日一緒に帰らない?」
「・・・はい?」
一瞬言葉が認識不可能だった。
(なんですと・・・?)
まさかそんな言葉が返ってくるとは思ってもみなかった。
「駄目かしら?」
「いや、駄目ってことはねーけど。今日、俺部活だしな。」
今度は言い訳じゃなく本当のことだ。
仮にもサッカー部のキャプテン。休むわけにもいかない。
「そう。なら、終わるまで待ってるわ。」
「え・・・?」
またこの人は何を言いだすんだ。
待ってまで一緒に帰りたい理由でもあるのだろうか?
「迷惑?なら、いいけど。」
そういう彼女の顔は何が不満なの?とでも言いたげな恐ろしい顔だった。
「いやぁ!めっそうもございません!そうさせていただきます!」
断ったら殺されそうな雰囲気に勇気が言うと、エミリィーはいぶかしげな目線をなげかける。
この人は自分がすんごく怖い顔をしていることに自分では気づいていないのだろうか・・・。
「いつごろ終わるの?」
「うーん、5時半ごろかなー。」
「わかったわ。校門で待ってる。」
「お、おう。」
(なんか、よめねー奴・・・。一体なんでまた・・・俺なんだろ・・・。)
勇気はパンにふたたびかぶりついて考えた。
もしかしたら、仲良くなれるかも。そう思うとちょっと嬉しくなる。
しかし、今までいろんな女の子に言い寄られてきたが、いきなり一緒に帰ろうってのも初めてだ。
でも、この子の場合、そんな理由で誘ったんじゃなさそうだとなんとなく思った。
「何?さっきからにやにやして・・・。」
「ぇ?してました?」
「してた。」
「あ、なんでもねーです。」
まさか、仲良くなれそうだったから嬉しかったなんていえない。
「あら、そう。不審者がられるから程ほどにね。じゃあ、ごちそうさま。」
そう言うと彼女はお弁当箱を袋にしまうと立ち上がった。
「もう、食べたのか?」
「悪い?」
「ぃぇ・・・。」
どうやらまたご機嫌を損ねたようだ。
無駄な質問はやめたほうがいいみたいだな・・・。
「じゃあ、ありがとう。また、放課後ね。」
「おう。わかった。」
彼女が去っていく後姿を見送りながらしみじみ思った。
(俺、今日、無事に帰れたらいいな・・・。)
ようやく部活も終わり、やっと下校だ。
いつもならゆっくり帰る準備をするところだが、今日は人を待たせている。
さっさと服を着替えて鞄を手に取ると「おつかれさん!」とメンバーに声をかけ、門まで一気に走った。
「おう、待った?」
と門の壁にもたれかかって本を読んでいたエミリィーに声をかける。
すると彼女は顔を上げて本を鞄に直しながら
「いえ、大丈夫よ。悪いわね、無理言って。」
と言ってこちらを向く。
「いや、いいよ。んじゃ、行きますか。」
「ええ。」
そういうと、どちらからともなく歩き出す。
やっぱり勇気の方が断然身長が高いので、勇気はエミリィーの歩調にあわせて並んで歩く。
(ちょっと勘違いされそうなシュチュエーションだな・・・。)
そんなことを思いながら今度はこっちから話しかけた。
「なぁ、俺、君の事なんて呼べばいい?」
これは部活の間中考えてやっと思いついた質問だった。
この質問なら絶対に何か答えなければならない。
後は流れで話は続くもんだ。・・・この子の場合はどうか分からないけど・・・。
「エミリィーでいいわ。」
案の定、向こうは返答してくれた。勇気は心の中でガッツポーズをとると話を続ける。
「そっか。俺のことは勇気でいいよ。」
「わかった。」
「ところで、なんでまた俺を誘ったりなんか・・・?」
「・・・話せば長くなるんだけど。」
エミリィーの顔がいつもの無表情から少し真剣な表情になった。
このまま立ち話することもない。
長いならどこかでゆっくり話しをしたい。
「あ、じゃあ、近くにある中央公園ででも話さねー?ちょうど喉かわいて、なんか飲みたくてさ。」
事実、喉がすごく渇いていた。あそこなら、もうすぐ日も沈むし、もう人も少ないはずだ。
「ええ。かまわないわ。」
「じゃあ、行こっか。」
<中央公園>
相変わらずここは綺麗だ。ごみがひとつも落ちていない。
花や木なんかも色々植えてあるので、季節ごとにいろんな風景が楽しめる。
町の中心に位置するこの公園は、住民のいこいの場として親しまれている。
昼間なんかはにぎやかなもんで、遊びまわる子供たちや噴水で待ち合わせをする人々、楽しく雑談をかわす人々なんかであふれかえる。
だが、やはりもう時間が時間なので人は少ない。
ぽつりぽつりといくつか人影が見られるくらいだ。
しばらく歩くとエミリィーは、
「あそこのベンチで話しましょう。」
と、あたりに人がいない場所をさしていった。
どうやらあまり人に聞かれたくない話のようだ。
「わかった。じゃあ、俺ジュース買ってくるからよ。待ってて。」
勇気はそう言うと自動販売機を目指して走った。
エミリィーはふぅっとため息をつくとベンチに座った。
(さて、どうやって切り出そうかしら・・・。)
しかしまさか向こうからこの場所を言ってくれるとは思わなかった。
元々エミリィーは勇気をここへ誘うつもりだったのだ。
なぜなら、ここでエミリィーは別の待ち合わせがある。
そして、彼にも待ち合わせている人たちと会わせるつもりだった。
どうやら、彼らはまだ来ていないようだ。
とりあえず彼らが来るまでの間少しだけでもあの話をしておくか。
そんなことを考えていると、頭上から勇気ではない声がした。
「姉ちゃん、一人かい?」
見上げると20代だと思われる男3人がこちらを見下ろして怪しく笑っていた。
「だったらなに?」
エミリィーは相手をにらみつけて答える。
が、相手はひるまず続ける。
「俺たちと一緒にお茶でもいかない?」
「いかないわ。」
悪いがこんなバカっぽい奴らに興味はない。
お茶なんかしてもちっとも楽しくないだろう。
何が嬉しくてそんな誘いにのらなくちゃいけない。
「まま、そういわずに!」
「悪いようにはしないぜー?」
というか、こんな馬鹿馬鹿しい話に付きあわされてる地点で十分悪いようにされてると思う。はっきり言って時間の無駄だ。
「ほらぁ!いこうぜ!」
こっちが反応しないでいると、相手がぐいっと手をひっぱったのでこっちは立ち上がるはめになった。
「行かないって言ったのが聞こえなかった?馬鹿もここまできたら逆に天才ね。」
流石に腹が立ってきた。こっちが大人しくしてればいい気になって・・・。
「く・・・。こんの、くそアマ!こっちが下手にでりゃ調子づきやがって!!」
相手の一人がエミリィーのむなぐらを掴んだそのとき、
「おい、お前ら何してんだよ!」と勇気の声がきこえた。
まったく、来るのが遅い。もう喧嘩を売ってしまった後だ。
「あ?こいつの連れか?てめぇ。」
「どっちにしろ、大したことなさそーっすよ。2人だし。」
「いっちょやっちまうか。」
(あー、もう。騒ぎはできるだけ起こしたくはなかったのに・・・。)
エミリィーは心中で悪態をつくとぼそっとつぶやくように言った。
「どこの世界にもどーしようもない奴っているのね・・・。あんた、何様?」
エミリィーの言葉に全員がエミリィーへと視線を移した。
(挑発してどうすんだよぉ!!ってか人がいない間になにがあったんだ!?)
勇気が怒った相手の顔を見て心の中で叫ぶ。
勇気は何でそんなことになったか状況把握すらできていない状況だった。
なのにどんどん話は進んでいく。
「今、なんつったぁ?」
「あら、また聞こえなかったの?一度、医者に診てもらってくることを勧めるわ。」
「もう、こいつ容赦ならねぇ!ぶったおす!」
そういって相手がこぶしをふりあげた。
(助けねーと!!)と、勇気が思った時には当然遅かった。
こぶしを止めるには遠すぎる距離だ。
が、エミリィーはそれを避けて、伸ばされた腕をつかむとそのまま背負いなげで相手を倒した。
「あんたが先に手だしたのよ?だからこれは正当防衛。」
「女のくせに生意気な!」
(まったくむかつく連中だ。さっさとひきさがればいいものを。)
そんなことを思いながら、エミリィーは他の二人のほうへと目線を向けた。
だが今さらこっちが引き下がるわけにもいかない。
とりあえず、これ以上怪我を負わせると面倒だ。
向こうが逃げるように仕掛けるしかない。
「何?男だったら偉いとか思ってるわけ?まぁ、かかってきてもいいけど・・・」
そういうと、エミリィーは地面にむかって思いっきりこぶしを振り下ろした。
すると、めきっというにぶいおとがして地面がありえない程にへこむ。
「これに、勝てる自信があるならこればいいわ。」
「ひぃ!」
「ばけもんだぁ!!」
そんな声をあげながらこっちの思惑通り、男たちはそういうとどこかへ逃げ去った。
「つ、つえー。」
勇気は思わずそんな言葉をもらした。
まさか、彼女がそんなに強いとは思ってもみなかった。
見た目以上に中身もすごいらしい。
「この程度で逃げるなんて・・・。馬鹿の上に腰抜けなんて最低ね。」
エミリィーが去っていく相手の背中をにらんで立ち上がるとぱちぱちぱちっと拍手の音が後方から聞こえた。
音のするほうを反射的に見るとエミリィーが昼休みに話していたあの二人がいた。
「流石ね。」
みつあみの女の子がにっこり笑って言う。
「あら、もうきてたの?だったら見てないで助けてよ。」
エミリィーがむっとした声でそう言うと今度は男の方がくくっと笑って言った。
「助けるも何も、エミリィーがあいつらみてーなんに負けるかよ。」
「そうよ!それに、助ける間もなくやっちゃったじゃない。無茶言わない!」
みつあみの女の子もくすくす笑って加勢する。
(まったく薄情なんだから。)
「・・・ま、いいけどね。」
エミリィーが言うと男の方が真面目な顔になって、
「それより、あいつが勇気?」
と、勇気に目線をやって言う。
「そうよ。」
エミリィーも勇気に目を向けた。
二人の視線は決してにらみつけているわけではなかったが、平和的ともいえないものだった。
第一、なんで自分のことを知られているのかが気にかかる。
それに、さっきのエミリィーの拳の破壊力・・・。
とても同じ年の女の子のものは思えなかった。
理由はわからないが、不良とからんでいたし・・・。
頭の中でそんなことをぐるぐる考えているうちに恐怖心が押し寄せてきた。
(何かしらんが、こえー・・・。)
もしかして、自分は目をつけられていて、見えないところでぼこぼこにされちゃったりするんだろうか・・・。
そんなことをつい考えてしまう。
勇気が訳が分からなくて戸惑っているのを見て、女の方がにっこり笑って近づいてきた。
「まぁまぁ、そんな目で見たらこの子だって困るじゃない。とりあえず、説明しなきゃ。」
「えと、君たちは・・・?」
勇気が言うと、何を訊こうとしているのか察したか、その女の子がにっこり微笑んで言った。
「私はサファイア。サファイア・ベリガード。で、あっちは・・・。」
そう言って男の方へと目をやると男の方も、
「カルーファ・カスタロイザだ。よろしく。」
と自己紹介してくれた。
「気軽にサファイアとカルーファってよんでくれていいから。」
サファイアと名乗った少女がそう付け加える。
自己紹介してもらったのはいいが、まだ状況がいまいちつかめない。
説明って何だ。エミリィーにはもちろん、他の二人に危害を加えた覚えはない。
でも、いいことってこともなさそうだ。
「長居は無用よ。用意ができたなら、さっさと行きましょう。」
エミリィーが言うと「そうね。」「おうよ。」と二人が返事をして、歩き出してしまった。
(えーっと、俺はどうしたらいいんだ・・・?)
ジュースを持ったままぼーぜんと立っていると、サファイアは勇気のほうに向き直って、
「あなたも付いてきて。」とだけ言って、またエミリィーの後についていった。
(一体俺はどこで何をされるんだろう・・・。)
足を進めるのに少し躊躇していると、サファイアが「早くぅ!!」と手を横にふって大声をあげてきた。
そう言われては無視できない。
幸い、サファイアは悪い人じゃなさそうだし・・・。
(いくしか・・・ねぇか・・・。)
勇気は意を決すると、小走りで3人に追いついた。
足を進めるにつれ、さらに謎は深まる。
なんで森の中に連れてこられたんだ。俺は。
まぁ、このへんでは森もそう珍しくはない。
少し歩けば森ぐらいいくらでもある。
だが、連れてこられる場所が森って何ですか。
空を見上げると夕日が空をオレンジ色に染めていた。
(もうすぐ日が沈むんですけど……。)
やっぱりだんだん不安にってきた。
森のひんやり感と薄暗さが不安感をさらにかきたてる。
「ここよ。」
サファイアがふと足をとめて言った。
「もう準備はバッチリだから。」
「ええ。」
サファイアのセリフにエミリィーは頷くと
「じゃあ、そろそろ本題に入りましょうか。」
と、勇気の正面に立って話し始めた。
勇気はごくりと生唾を飲み込む。
やっと謎が明かされるわけだ。
(よし!なんでもこい!)
心の中で自分に気合をいれる。
「まず、初めに言っておくことは私達は地球人じゃないってこと。こっから気が遠くなるくらいずっと遠くの魔法星からやってきた魔法人よ。貴方達の星でいう、魔法使いってやつね。」
なんでもこい、と思ってはいたが何だそりゃ。
(なんてこと言い出すんでしょ。この人たちは。)
勇気はただ呆気にとられて何も言えなかった。
この人達はひょっとすると宇宙人とか信じてるSFマニアなのだろうか…。
もしかして、それの実験に付き合えとでもいうのだろうか…。
なぜか3人の背後には魔方陣らしきものがある。
あれでUFOでも呼び出す気か?
「あ、俺あんまそーゆーの信じてないっていうか…。せっかくだけどUFO呼ぶのは3人で…。」
勇気がそういうにも関わらず、エミリィーは真剣なまなざしで続けた。
彼女もそう簡単に信じてもらえるとは思っていなかったし、まず信じろというほうがおかしいとも思っていた。
「信じられないのもわかるけど、事実よ。なんなら証拠を見せてあげる。」
そういうと彼女はすっと右手を空にかざした。
すると、その手の上にすうっと光が集まって火の玉が浮かび上がる。
「ね?」
彼女は手のひらを勇気の目の前にもってきて言った。
「す、すっげー。これが、魔法……。」
「信じた?」
つぶやくように言う勇気に、エミリィーはおそるおそるたずねる。
何も、すぐ信じてほしいなんて思ってはいない。
まず普通信じないだろう。逃げられるか、よくてタネはなんだ?って聞かれるか…。
それでも信じてもらう必要があった。
それに全てがかかっている。
「おう!信じた!!」
が、呆気なくその望みは叶えられた。
正直、こっちが信じられない。
「ほんとに…?」
疑わしげに聞き返すと
「本当だって!!」
なんとも元気な返事が返ってくる。
(一週間で信じてもらえればいいほうだと思ってたのに…。)
エミリィーはすぐには返す言葉を思いつかなかった。
ただ目を輝かせてこちらを見つめてる勇気に疑いの目を向けることしかできない。
だが、勇気は本当に信じきっていた。
なぜか今までそんなものあるはずもないと思っていたはずなのに、
実演されると不思議とそれが頭の中にとけこんで、タネがあるなんてこれっぽちも疑えなかった。
自分でもどうしてかわからないが、魔法はあったんだと妙に納得できる。
「で、その魔法人さんは俺になんの用なんだ?」
勇気のその質問に、エミリィーはとりあえず気を取り直し続けた。
「突然だけど、私たちの住む魔法星がルギータっていう悪魔族の王に支配されようとしてるの。」
「それで?」
「その王はとことん根の腐ったやつで、人類の住む星々全てを己の配下にしようとしてるの。人類っていうのは、私たちのような体の形を持つ生き物のこと。地球以外にも人類が生きてる星は多々あるわ。私たち、魔法族を含めてね。それで、手始めに私達の星が狙われたのよ。神族の女王、アルテナ様のおっしゃることでは、ルギータは伝説の力を持つ七聖士にしか倒せないとのこと。7人全員を集めて行けば望みがあると、そうおっしゃったわ。そして集まったのが私とサファイア、カルーファの3人の七聖士。そして貴方が4人目の七聖士なの。」
「え…?」
流石にこれには驚いたか、勇気は戸惑いの色を隠せないようだったが、エミリィーはそれに構わず勇気の前にひざまずくと言った。
「魔法星、次期女王として、七聖士のリーダーとして貴方にお願い申し上げます。我らと共に魔法の星へ来ていただきたい。そして、共にルギータを倒してはくださりませんか?強制はしません。もし、いやだというのならそれも構いません。はっきり言ってもし、ついて来るのであれば普通の生活はできない。とても過酷な日々になるでしょう…。それをふまえてご決断をしていただきたい。」
そう。信じてもらえたからって油断はできない。
一緒に来てもらわなければ意味がないのだ。
断られる覚悟だってできている。まず、急に言われて承諾はできないだろう。
「おう!いいぜ。もちろん、行く!」
が、また驚きの返答が返された。
「え…。」
エミリィーはその予想外の答えに顔を上げて、そんな声をもらす。
何を言ってるんだ。この人は。
エミリィーにはそう思うことしかできなかった。
「あなた、自分が言ったことがどうゆうことなのか、分かって言ってる?」
なぜか付いて来いといった自分が心配しているこの状況が、すごく矛盾したものだというのはもちろん分かってはいるが、安易に考えられてすぐに弱音を吐かれてもこっちだって困る。
「何だよ、ついてきて欲しいんだろ?じゃあ、問題なんかねーじゃん。」
が、勇気はけろっとした顔でそう答えた。
(何でそんなことが簡単にいえるんだろう。絶対バカだ。)
エミリィーはそう思いながら説得を続ける。
説得…なんておかしな話だ。来るように説得しにきたはずなのに…。
「そうだけど、貴方が思ってるほど簡単に決めていいことじゃないのよ。」
エミリィーがそう言うとサファイアも心配そうな顔をして言った。
「そうよ。無理しなくていいのよ?これからたくさん戦わなきゃならない。生死がかかってるの。」
サファイアは心配性だから、絶対にそう言うとエミリィーも思っていた。
なんせ、私ですらそう思うんだ。
だが、やっぱり勇気はけろっとした顔で答える。
「無理に言ったりなんかしてねーよ。人が困ってるんだったら、助けに行くのは当然だろ?」
「それは、そうなのかもしれないけど…。でもね…。」
まだ何か言おうとしているサファイアの声をさえぎって、勇気は続けた。
「それに、人類って俺たち地球人も入ってるんだろ?だったら、他人事とも思えない。俺に守る力があるんなら、喜んで手を貸すぜ。それとも自分の命が惜いってんなら、たくさんの命を奪われてもいいって言うのか?俺は死んでもそんな腰抜けなんかにはなりたくねー。まぁ、遅かれ早かれ、そんなやつがいるんだとしたら無関係に暮らしていけるのも時間の問題だろ?だったら、やるに決まってるじゃん!」
そういわれると、サファイアは口をつむった。まだどこか不満そうではあるが…。
だが、勇気の言うこともごもっともな話だとエミリィーは思った。
むしろ、その言葉は断られたときに自分が言おうと思っていたセリフに比較的近い。
続く沈黙を破ったのはカルーファだった。
「まぁ、いいじゃん!こいつがいいって言ってるんだ。俺たちに止める権利はないだろ?それに、元々連れに来たのは俺らの方なわけで。そもそも、止める理由事態ねーだろーが。こいつが来てくれるってんなら、そいつに越したことはない!そーだろ?」
エミリィーは少し考えてやがて口を開いた。
「そうね…。わかったわ。」
本人が良いと言ってるんだ。もういいか。決心も固いようだし。
エミリィーは勇気の方に向き直ると話を進めた。
「では、貴方に魔法の力を与えます。向こうの魔方陣の上に立っていただける?」
「ああ!」
勇気が言われたとおりに魔方陣の上に立つとエミリィーは、
「貴方は何もしなくてもいいから。」
と言って鞄の中から緑色の液体の入ったビンを取り出し、ふたをはずすと魔方陣の上にそれをぶちまける。
「じゃあ、いくわよ。」
そう言ってエミリィーが両手を前につきだすと魔方陣が金色に光り始めた。
そして時間がたつにつれ、風ではない何かの流れが強く勇気を包みこむ。
それはとても不思議な感覚で、今まで味わったことのない未知の感覚なはずなのに、どこか懐かしい気分になった。
(なんだろう…。この感じ…。前にどこかで…。)
やがて包みこんでいた何かの力が弱まり、魔方陣の光も消えさると、エミリィーは手をおろして、
「終わったわよ。」と言った。
そうは言われてもこの上に立ったときとなんら変わらないような気がする。
「本当にこれで魔法が…?」
勇気が疑わしげに言うとエミリィーはむっとした表情で言った。
いや、もうこの顔はむっとしてるとかいう可愛い表現をしてはいけないような気がする。
「信じてないわけ?」
「い、いや、そうじゃないけど!変わった感覚がないっつーか…。」
「大丈夫よ!エミリィーの腕は確かよ。信じていいから。エミリィーも、そんなににらまない!」
すかさず、サファイアのフォローが入る。
サファイアの力は偉大だ。
エミリィーもサファイアに言われるともう怒らない。
エミリィーは不満をため息に変えて吐き出すと、鞄を手に取り、顔だけをこちらに向けて言った。
「明日、ここで魔法の使い方を教えるわ。部活が終わったら来なさいよ。いいわね。」
そしてその場から立ち去ってしまう。
どうせ同じマンションなんだ。一緒に帰ればいいのに。
本当に愛想がないというか、なんというか…。
勇気がエミリィーの後姿を見送りながらそんなことを考えていると、
「よし!俺らも帰るか!」
と、カルーファが少し良い雰囲気でない場を取り直すように明るく言う。
「そだな。」
勇気が答えるとカルーファは3人分の鞄をとってこちらにきて渡してくれた。
「ありがと。」
そう言って勇気が受け取ると、カルーファはぽんっと勇気の肩に手をのせて、
「これで晴れて仲間だな!お互い色々大変だろうけど、頑張ろうぜ!よろしくな!」
と笑って言ってくれた。
「おう!こちらこそ!」
だんだん元気がみなぎってきた。
そっか、仲間か。いい響きだ。
わくわくと嬉しさのあまりに顔がゆるむのに気づく。
サファイアもカルーファもどうやらいい人のようだ。
それに、一緒に話してて安心できる。
いや、エミリィーと話すときが特別に怖いだけなのかもしれないが…。
けど、いつかエミリィーともこうやって笑いながら話せればいいと思う。
「それじゃあ、帰るか。」
「そうね!勇気くんも一緒に帰りましょう!私たちもね、同じマンションなの。」
「もちろん!」
1話(完)
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■作者からのメッセージ
初投稿です!
未熟者ですが、頑張ってるので読んでいただけると幸いです。
この作品は、私が小学校の頃から考えてるお話で(もちろんその頃とは話がだいぶ変わってますが)、ノートにせっせと書いていたものを書き直したものです。
HPほうにも載せています。
続きはそちらにもあるので、よければそちらのほうにも顔をだしていただけると感激です!