- 『SARA 記憶のない少女 』 作者:チェリー / 未分類 未分類
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全角24052文字
容量48104 bytes
原稿用紙約70.05枚
プロローグ
少女は見知らぬ部屋で目を覚ます。壁や天井、少女が眠っていたベットや服までもがすべて白で統一されている。
少女は身を震わせる。空気がひやりと冷たく、薄着の服装であった少女には辛い。
ここはどこだろう。私は一体何をしていたのだろう。私は誰・・・・・・?いくら考えても何もわからなかった。
少女は手首についている腕輪に気づいた。SARAと書いている。
「・・・・・・サラ?」
これは自分の名前なのだろうか。
少女は部屋を出た。とりあえずここは嫌な印象を受ける。通路に出ると通路も白で統一されていた。歩いている者は誰もいない。いくつものドアがあり、どこまでも続きそうな長い通路のを歩いていくと階段を見つけた。
少女は下へ向かった。下へ向かえば出口があるはずだ。それくらい時間が経っただろうか。やっと出口らしき扉を見つける少女。そのほかにはロビーのようなところがあるが、少女は扉を選んだ。扉を開けると先ほどよりも冷たい空気が流れてくる。外はもう日が暮れており、白い粉雪が舞っている。少女は思わずその粉雪を見て手に取る。体温によって粉雪は解けた。この粉雪さえも少女はわからなかった。
そしてうっすらと積もる雪の上を我慢しながら歩いていく。どこからか足音が聞こえてくる。複数の足音で「探せ!」と叫び声が聞こえた。自分を探しているのだろうか。とっさに近くにあった車両の荷物が置かれている所へ乗り込む少女。そして足音が近くまで来ると同時に車両は発進した。荷物の中を探り、少女は大きなコートを見つけ、迷わずそのコートを羽織った。そのぬくもりに安堵し、いつのまには少女は眠りについてしまった。
FILE1
「・・・・・・復讐の時が来たぞ」
少女は目を覚ました。なんだったんだろう今の声は。男性の声だった。いつの間には車両は止まっている。
ガタン!
運転手が降りてきたようだ。少女は慌てて車両から降りた。そして少女の視界には深夜でありながら人々は街を歩き回り、街灯や多くの照明に照らされた街が広がった。高層ビルが立ち並び、それを縫うようにフリーウェイが思わず口が開いてしまい、少女はあたりを見回す。
少女はしばらく当てもなく街を歩いていった。靴がないので歩くたびに足が冷たく、少女は表情を少しゆがませる。しだいに空腹も襲ってきた。ふといい匂いがして、少女はその匂いにつられて行った。そして行き着いた先には小さな店屋であった。『パンひとつ320wel』と書かれている。その小さな看板の上にはパンが置かれている。
「・・・・・・おいしそう」
パンを買いに来た人々を見て、その『320wel』は紙とコインということを理解する。しかし、ポケットを探っても道端をみてもコインや紙は見つからない。少女は仕方なくパンを買うのをあきらめ、また歩き出した。
人々が徐々に少なくなっていき、街を照らす照明もすべて消えた頃、少女はまだ歩いていた。空腹で体がふらつく。腹部を押さえるが空腹はやむことがなかった。力が入らない。とうとう少女は倒れてしまった。空腹で何も考えることができない。視界が薄れていく。どうなってしまうのだろう。少女の頭に『死』というものがよぎる。そして少女の意識は途絶えた。
体が揺さぶられる。そして頬をたたかれた。少女はうっすらと目を開いた。そこには青年が一人少女の目の前に立ち膝をついていた。
「大丈夫か・・・・・・・?」
青年の後ろには誰かが倒れている。地面にはナイフが落ちていた。少女を襲おうとしたようだ。おそらく青年はそれを見て助けたのだろう。頬には浅い切り傷がついていた。
「名前は?」
名前・・・・・・?
一体そう答えればいいのだろう。自分でもわからないのに。その時目に止まったのは腕輪だった。
「・・・・・・サラ」
青年はサラを抱えて歩き出した。まだ意識があったのは奇跡に近いと言う。この国『スファン』の夜の気温は−5℃以上という記録が普通であり、この街は特に寒い地域だ。今日も−8℃だった。サラの髪の毛は少し凍っており、手には若干凍傷が見られる。しかし、サラが羽織っていたコートのおかげか体はまだぬくもりがわずかに残っている。だがこのまま放置していれば死んでいただろう。青年が発見したのは運が良かった。
「俺の名前はアシル」
そしてアシルが向かった先は3階建ての一軒家だった。ここはもとは酒場だったらしく、今はアシルがここを買い取って生活しているという。中へ入ると男女がふたり待っていた。
「・・・・・・その少女は?」
左腕全体に刺青をした男性は静かに目を開けて言う。アシルはただ拾ったとだけ答える。男性はのそのこ言葉を聞いてかるく笑った。
「リース、なにか温かい飲み物を」
リースと呼ばれた女性はキッチンへ向かった。あたりには酒場で使われていたと思われるテーブルや椅子がある。あまり動かされていないようだ。サラはひとつの椅子に座らされ、リースはスープの入ったコップを差し出した。
「さぁ、飲んでみなよ。おいしいよ」
サラはコップを手に取る。暖かい温もりが手に伝わってくる。スープを飲むと体中に暖かさが伝わっていく。
「警察には・・・・・・?」
さきほどの男性がアシルに言う。この男性はジン。アシルの仕事仲間である。そしてリースも同じくアシルの仕事仲間だ。
「この街をどういう街か知っているだろう?警察に言っても持て余されるだけだ。市民からの情報を待とう。」
この街は治安が悪く、警察はほとんど手を出さない最悪な街である。しかし、発展しているため、多くの人々がこの街に住み着いている。昼は平和だが、夜になれば犯罪者がうようよしている。
警察に助けを求めようとしても逆に警察も犯罪に加わる始末である。だから人々は警察署には近寄ることをしない。そして一定時間になるといっせいに家へ戻るのだ。我々の仕事は警察の代わりにその犯罪者を取り締まったりすることである。捕まえた犯罪者は警察署へ行かず、治安改善組織へ渡す。警察署などに渡したら金ですぐに出られるからだ。治安改善組織はそういった犯罪者しか扱わないため、サラのような人をさしだしても逆に困ってしまう。自分達で面倒を見て行方不明者の情報を待つしかない。
「だが、お前が連れてきたんだからお前が面倒を見ろよ」
そしてジンは2階へあがって行った。アシルはどうして倒れていたのかサラに尋ねる。そしてサラは今までのことを話した。
「記憶喪失か・・・・・・」
FILE2
そして1週間後・・・・・・
サラの記憶喪失には困ってしまったものだ。サラは知識的なものは言葉や文字以外なにもわからなかった。一から教えていき、アシルは大変な日々をすごしていた。最近ではアシルたちの仕事についてくるので気が散ってしまい、いつもよりも疲れてしまう。
今回の仕事では本当に大変であった。犯罪者を捕まえるのだが、20万welという小物であった。いつもならこんな小物などすぐに捕まえて治安改善組織に引き渡すのだが、なんとその犯罪者は近くにいたサラを人質にとろうとしたのだ。ギリギリのところでジンが犯罪者を取り押さえて、なんとか事なきを得た。
そしてアジトへ戻り、サラはジンにこっぴどくしかられたのだった。サラを部屋に戻し、晩飯抜きだ!とジンは怒鳴った。まぁジンにしてはこれは優しいほうだ。リースは慰めようとサラの部屋へ向かったが、ジンは自業自得なんだよ!と言って止めた。ジンは椅子に腰がけ、TVを見ながらアルコールの高い酒を飲んでいる。イライラしているときはいつもあの酒を飲む。
「アシル!お前も行くなよ!あいつは反省が足りないんだよ!」
そこでアシルはこっそりサラの部屋へ行った。サラは泣いていたようで背を向けて顔を見せなかった。
「仕事についてくるのは今日でやめるんだ」
しかしサラは嫌だと首を横に振る。ひとりではいたくないようだ。日常にまだ慣れていないらしく、電話が鳴るにしても不安になってしまうという。アシルは隣に座った。そしてアシルは携帯をサラに渡す。アシルはあまりにも不安そうなサラを見て仕事についてこさせないで家で連絡させるのようと思っていたが、ついてきてもいいが仕事をしているところからは100m以上はなれた場所で待つこととし、連絡は2回までという条件にかえた。サラの表情が見る間に輝いていった。
「ありがとう!」
飛びつくサラの頭を押さえて、アシルは部屋を出た。
そしてさらに1週間後・・・・・・
ジンはある日張り紙を持ってきた。それには人を探していると書いてある。特徴を見るとサラと一致する。そのほかに腕輪を持っているというのでさらに間違いないと見てジンは早速下に記してある連絡先に連絡した。
「すぐに引き取りに来るってよ」
アシルはサラの部屋に行き、今のことを話した。しかしサラはそれを聞くとずっとここに居たいと駄々をこね始めた。だが、サラの記憶がないのも引き渡せばすべてわかるのでサラのためにも引き渡したほうがいい。それに携帯はそのまま持ってていいから仕事の時間でなければいつでも連絡していいとアシルは言う。しかし、サラはそれを聞いても駄々をこねる。それを見かねてジンはサラを抱えて1階へ連れて行った。
「行きたくないよ〜!」
「さぁ、わがまま言うな」
ジンはサラを席につかせ、逃げないように入り口付近に立った。サラは観念したのか、椅子に座らせられて黙ってしまっている。リースはサラの大好きなジュースを差し出すが、サラはあまり口をつけない。
そこへ表から車がくる音が聞こえる。
「来たようだな・・・・・・」
「サラちゃん、楽しかったよ。また会えたらいいね」
サラはうなずくがため息もつく。そして扉がゆっくりと開かれる。しかし、入ってきたのはなにかアーマーを身にまっとった戦闘員らしき人物達が5人。中心に赤髪のリーダーらしき男性が前に出て、指を鳴らした。すると後ろの4人が一斉に四方へ散った。襲ってくつもりだろう。サラ以外に飛び掛ってくる。
アシルはサラを2階へ行くよう言い、3人はそれぞれ構えた我々は凶暴な犯罪者を相手にしてきたのだから、普通の訓練をした者では相手にならないだろう。戦闘の末にアシルたちは4人の戦闘員たちを倒した。しかしあのリーダーらしき赤髪の男性がいないことに気づくリアンたち。
「サラが危ない!」
サラは2階の広間へ向かった。ここなら1階よりは広くないが逃げ回れるくらいはできるだろう。テーブルの下に隠れてアシルたちが来るのを静かに待った。すると後ろから声が聞こえてきた。
「隠れているのはわかっているんだよ」
サラは驚いて後ろを振り向くが誰もいない。テーブルから出て辺りを見回した。ソラミミだろうか。そこへサラの目に前に天井から埃が落ちてきた。サラは恐る恐る上を見上げると天井にはあの赤髪の男性が天井にぶら下がっていた。サラは思わずしりもちをついてしまう。アシルたちの元へ行こうとするが捕まってしまい、気絶させられてしまう。
アシルたちは2階へ向かい、サラの部屋や広間へ行くがサラはいなかった。残るは3階である。3階へ向かうと窓の前に立っている赤髪の男性が立っていた。アシルたちを見ると赤髪の男性は笑みを浮かべて窓から飛び出していった。アシルたちは窓から外をのぞくと赤髪の男性は隣の屋上へ飛び移っていた。まさか、とおもわずアシルは口に出した。隣のビルには道路を挟んでいるため、7メートルくらいはある。決して飛び移れる距離ではない。
赤髪の男性はアシルたちの視界から消えていった。
アシルは助けに行くことを提案する。どうみても引き取りに来たという態度ではない。我々を殺し、サラを連れ去るという様子である。リースも賛成する。ジンも嫌々だが人助けということで賛成した。
そしてあの赤髪の行き先を1階で倒れている戦闘員に聞いた。しかし、戦闘員は口を割らない。強引にでも口を割らせたいが戦闘員はいきなり数を数え始めた。
「10・9・8・・・・・・」
アシルたちは爆弾を所持していると察知し、アジトを飛び出した。すると、アジトの1階は跡形もなく吹き飛んでしまった。それであの赤髪が向かった先を知る手段はなくなってしまった・・・・・・。頭を抱える3人に一人の男性が声をかける。あの赤髪の行き先を知っているという。男性の名前はフェイクス。治安改善組織の一員だという。
赤髪の名前はウルフ。他国の犯罪者だが、最近この町へやって来たらしい。たびたび目撃されるが最近になって大企業『アイフリード社』へ出入りしているのをフェイクスは目撃し、彼はなにを企んでいるのかを知るために尾行したという。
「今日もアイフリード社から戦闘員と出てきてここに向かった。おそらくアイフリード社にウルフは戻っただろう」
アイフリード社は結構近い。フリーウェイを通れば10分程でいける距離だ。そこへアシルの携帯が鳴った。サラからだ。しかし、電話に出ると男性の声が聞こえる。
「追ってくるなら歓迎するぜ!」
サラの助けを呼ぶ声が聞こえる。通信が途切れ、アシルたちは車両へ乗り込む。
「絶対に助けだそう!」
そしてアシルたちはアイフリード社へ向かった。
FILE3
この街をすべて眺めることができるフリーウェイ。観光スポットとして人々はここへよく足を運ぶが今の時刻では人の気配はない。それもそのはず、現在は深夜である。いくら景色が良くても深夜はかなり冷えるため、誰も外へも出ようとはしないだろう。
このフリーウェイは多くの大企業へ直接つながる車両通路もあり、そのなかに『アイフリード社』への車両通路ある。しかし、この時間だと会社はもうほとんど終わっている通行する車両はすべて隣町やこの街へつながる車両通路しか通らない。ほとんどの車両がなにかの運搬などの仕事で通っているのだろう。大型車両が多い。
「やつらは何が目的なんだ!?」
アシルは苛立ちを隠せなかった。車両はかなりのスピードを出しているが、あのウルフの身のこなしならもうアイフリード社についてしまったかもしれない。サラを抱えたままでも建物から建物へ軽く飛び越えていってしまうほどだ。奴らはサラをどうするつもりだろうか。
「急いでくれ!」
リースはアクセルを思いっきり踏み、さらにスピードを出した。車両を運転し、『アイフリード社』への車両通路を探す。アイフリード社はかなり有名な会社である。機械系の開発で有名である。この車両もアイフリード製である。普段はあまり世間のことなど興味のないアシルだが、この会社だけは印象に残っていた。
「ジン、アイフリード社について何か知っているの?」
あの時ジンはアイフリード社という言葉を聞いて少し様子がおかしかった。ジンはあまり話したくないようだが、言っておいたほうがいいだろうというので話し始めた。それは3ヶ月くらいまでさかのぼる。ジンはささいなことからある女性とであった。名前はローズ、モデルのような整った容姿で長い美しい髪が特徴的だった。仕事はデザイナーとしか聞かれていなかった。それから徐々に会ったり食事をしたりしていたという。いつもは怒りっぽく、あまり女性に興味がない印象を受けるジンにはめずらしい。
最後に会ったのは1週間前だ。ローズはアイフリード社に入社したと言ってジンは名刺をもらった。
そしてローズはそれからこつ然と姿を見せなくなったが、その頃に治安改善組織から『キラー・ローズ』という名前を聞いた。他国で人々を切り刻む犯罪者であり、3ヶ月目から他国では突然『キラー・ローズ』による犯罪が起きなくなり、どこかへ行ってしまったというが最近この街で起きた事件がローズによる犯行と似ていると言う。目撃者が言う特徴も似ている。
もしかしたらジンはローズが『キラー・ローズ』であり、アイフリード社にあのウルフのように雇われていたら?と思ったのだ。ローズが現れないよう祈るジン。すると、車両は何か音がすると同時にバランスを失い始めた。その音の正体はタイヤのパンク音だ。前輪の右側のタイヤがパンクしたようだ。それも隣を他の車両が通過した時に起こったことだ。その車両は前方で止まっている。慌てて車を止め、アシルたちは車両から出る。前方の車両から出てきたのは、
「ローズ!」
ジンはそう言った。確かに美しい女性だ。しかし今は見とれている場合ではない。ローズの手には刃物が握られている。やはり『キラー・ローズ』本人ようだ。止まっている車両の奥にはアイフリード社へと続く分かれ道があった。おそらくそこへ行くことを阻止しようとしたのだろう。車両のタイヤの傷跡も切り傷である。まさか走行中のタイヤを切れるとは相当切れ味がいいのだろう。普通なら触れただけで弾き飛ばされるだろう。
「今は『キラー・ローズ』よ」
ローズはこの先で待ち構えている戦闘員のことをアシルたちに教えた。どうやらかなりの数らしい。正面も裏側も蟻一匹は入れないほどだという。このまま行くのはただ命を捨てるだけだだから諦めて帰るよう言うローズ。しかし、サラが連れ去られたのに諦めるわけにはいかないと、アシルたちは忠告を聞かなかった。それを聞いてローズは指を鳴らした。するとあの時と同じ格好の戦闘員が現れた。人数はあの時よりも少し多い7人。ローズは戦い気がないようで車両に乗ってアイフリード社の方へ向かっていった。
アシルたちは戦闘員と激しく交戦する。戦闘員の実力はあの時とそう差はないが、人数が多いので苦戦してしまう。自分を守りながら仲間を守らなければならない。苦戦しながらも何とか戦闘員を倒し、車両がないためアシルたちは歩いてアイフリード社へむかった。
アイフリード社の正面には多くの警備員や戦闘員が見張っていた。正面からはどうやってでも進入することは不可能であろう。裏口を回ってみるがここも同じである。そこへアシルの携帯に連絡が入る。知らない番号だ。今はそれどころではないと無視するが、しつこい。仕方なく電話に出ると連絡してきた相手はフェイクスだった。どうやってこの番号を調べたのか聞くと、治安改善組織に情報が残っていたという。用件を聞くとなんとアイフリード社につながる別の通路を教えてくれるという。ただし条件はウルフを連れてくることだ。危険ではあるがサラがかかっているため条件をのむ。どうせアイフリード社に行ったら戦うことになるだろう。
どうやらこのアイフリード社へは正面と裏口、そして地下からも入ることができるらしい。地下は特別なシステムが働いているため、戦闘員や警備員は少ないという。それほどその特別なシステムを通り抜けることは難しいのだろう。地下のシステムは普段は緊急時用らしい。普段は火災などから非難するために働いているもので、そのシステムというのはその地下の通路を通ると後ろから分厚いシャッターが降りはじめるらしい。今回は侵入者用に改良したものでこちら側から進入すれば後ろのシャッターが閉め始めるというシステムだ。なおシャッターがひとつ閉まるのに3分かかるが今回は改良されているため1分でしまる。そのシャッターが5つあるので5分で通過しないといけないことになる。長い通路でしかも警備つきなので厳しいであろう。アシルたちは迷わずその地下へ向かった。
FILE4
「ここか・・・・・・」
地下への扉へ目の前にするアシルたち。それぞれ覚悟を決め、中へ入った。かなり奥におそらく内部へつながる扉がかすかに見える。そして、警報が鳴り出した。警報を聞いてアシルたちは走り出す。天井を見上げるとシャッターが降り始めている。このまま警備員や戦闘員がいないのなら突き進めるのだが、やはり出てきた。
「一人が遅れてもかまわず進んでいくんだぞ!」
リアンはそう言って戦闘員に足をかけて、また駆け出す。無理に戦う必要はない。シャッターが敵の進行をふさいでくれる。ジンとリースもアシルと同じ方法で敵を転ばしていく。これなら3人一緒に内部にいけるだろう。そう思っていたが、ジンが足を掴まれ遅れをとってしまった。第3のシャッターをアシルとリースは通過するがジンは間に合いそうにない。
「俺にかまうな!行け!」
リースは足を止めそうになったが、サラのためにもふたたび駆け出す。そして戦闘員たちをかわし、すべてのシャッターを通過する。
「ジン、大丈夫かな・・・・・・?」
「・・・・・・あいつなら大丈夫さ。信じて進もう」
そう、ジンなら大丈夫なはずだ。おれたちはいつも最後は3人で乗り越えてきたのだから・・・・・・
そしてアイフリード社内部へ侵入した。内部は廊下も壁もすべて白で統一されており、一定距離で植物が置かれているので清潔感を漂わせる。まるで病院に来たような感覚だ。内部は静まり返っており、アシルたちの足音だけが響き渡る。いくつもの扉があるが入らないほうがいいだろう。どこかに地図があるはずなのでそれを見てからじっくり探すことにした。
そこへ戦闘員がやってくる。アシルたちはとっさに物陰へ隠れた。見回りのようだ。どうやらさきほどの通路での警報音はシャッターによって遮断されていたようで見回りは我々がここまで来ていることなど気づいていなかった。おそらくこれないだろうという油断からもあるだろう。戦闘員は一人のようだ。アシルは後ろから襲い、近くの部屋に連れて行く。
「サラの居場所を吐いてもらおうか」
戦闘員に拷問まじりの関節技をかけるリース。さすがに戦闘員は秘密を漏らしてしまう。どうやらサラは今夜このビルから孤島へ連れて行かれるらしい。あと1時間で屋上から来るヘリに乗せられるという。戦闘員を気絶させ、屋上への階段かエレベーターを探した。
「ふう、さすがに困ったな・・・・・・」
ジンは戦闘員を倒したのはいいものの閉じ込められたままだった。前も後ろもシャッター。あたりを見て回り、どこか出られそうな場所を探す。
「通気口か・・・・・・」
壁の少し高いところに通気口を発見する。狭いがふたを開けてジンは入っていった。まるでスパイ映画のようだ、と笑ってしまう。しかし本当にせまい。体中に埃がつき、幾度も挟まりそうになった。
まったく、あいつが戻ってきたらこの苦労を話してやらないとナ・・・・・・
しばらく進んでいくと出られそうな場所を発見する。アイフリード社の庭らしきところにつながっていた。どうやら人工で作られているようだ。足元には木々の根が張りめぐらされており、水が流れている。人の気配はなく、あたり一面木々でそれ以外何も確認できない。しばらくさまよってやっと内部へつながると思われる扉を見つけた。ジンは扉を開けて内部へ入った。そこにはあの戦闘員が3人いた。
「・・・・・・ついてないな」
戦闘員はジンを見るやすぐに襲い掛かってくる。ジンは軽々と攻撃をかわしていく。そして一人ずつじっくりと観察して様子を見る。それぞれの最大攻撃を見ているのだ。一人は最大4回だが残りは3回でおわる。スタミナを維持するためであろうか。最後の攻撃を避け、冷静に対処していく。攻撃を受け、壁にたたきつけてまず一人。もう一人は最後の攻撃にカウンターで倒した。そして仲間を呼ぼうと逃げようとした最後の一人は足をかけて気絶させた。物陰に3人を隠し、アシルたちを探しにジンは進んでいった。
「アシル!地図あったよ!」
壁の大きな地図を見つけるリース。
「地下10階か・・・・・・そういえば来る時緩いスロープだったな。こんなに降りているとは思わなかった。」
「ここエレベーターがあるみたいよ」
アシルとリースは屋上へ行けるエレベーターを地図で確認し、エレベーターへ二人は向かった。
「待て!」
アシルはリースを止めて、物陰からエレベーターの所を覗いた。念のためである。エレベーターには誰もいないようだ。そしてエレベーターへ行こうとした時だった。
「誰もいないと思っていたのか?」
物陰から戦闘員が現れる。56人はいる。そして後ろからも同じくらいの人数が現れる。これでは多勢に無勢である。徐々に距離を詰める戦闘員達。どうするか必死に考えるが通路は完全の前後ふさがれてしまった。逃げ道はもうない。
諦めるか・・・・・・?いや、そんなことはできない。サラが待っているんだ!
その時だった。エレベーターの扉が開いた。押していないはずなのに、と戦闘員達は驚いて振り向いた。すると、エレベーターの前に立っていたのはジンだった。ジンは消火器を持っていた。そして消火器で一気に戦闘員達をひるませる。
「さぁ!乗れ!」
そしてリアンたちはエレベーターに乗り込み、屋上へ向かった。しかし屋上へ直通するわけではなく、屋上の下の階46階までである。しかし、少しおかしい。普通ならエレベーターに乗ったということがわかったのならエレベーターを止めるはずである。何事もなく
46階へ着き、アシルたちはエレベーターを出た。そこには一人の男性が立っていた。ウルフではない。
「俺はイエーガー。まぁ名乗ったところで短い付き合いになるのは変わりはない」
青い目に黒が混ざった銀髪、そして額の十字架の刺青が特徴的だった。イエーガーは構える。
「イエーガー・・・・・・」
「お前は・・・・・・ああ、あの時の・・・・・・。師の仇でも取りに来たのか?」
師・・・・・・。昔アシルは武術を習っていた。師の名前はフラン。若干20歳という若さでスファンダリー国の武術の大会で女性初の優勝を勝ち取った人物である。当時父が失踪した頃にフランの武術を習っていた。ほかにも多くの人々が習っていたがある日フランは何者かに襲われて死亡した。その時アシルが見たのは額に十字架の刺青がある男性だった。
「さぁ、かかってこい」
FILE5
イエーガーは3人を相手にするのに妙に余裕のそぶりを見せる。通路が狭いため、3人一緒に攻撃できないとわかってか、それとも奥の手があるのか、しかし何があるとしても急がなければならない。そろそろ1時間経ってしまう。苛立ちを隠せないアシル。サラのことが気になってどうにも戦闘に集中できない。
「あんな娘のことが気になるか?好意を持つとあとで困ることになるぞ?」
好意?そんなことで俺はこんなことをしているのか?いや、ありえない。ただサラが連れ去られたから、アイフリード社には渡したくない気がしたから助けにきただけだ。そう自分に言い聞かせるアシル。しかし、困ることとは?何が困ることなんだ?頭の中にサラのことやささいな疑問が渦巻く。しばらく無言のまま攻めもしないでずっと構えていた。
「お前にはあの娘は守れない。師も守ることができなかったんだからな」
笑みを見せながら言うイエーガー。挑発しているのだ。ジンとアシルと戦闘を変わるよう言う。アシルを良く知るジンは心配していた。アシルは怒りで我を忘れるとなにも考えずに突っ込んでいってしまう。
「守ってみせる!」
アシルの動きが変わった。怒りで我を忘れたのではない。興奮気味だが、きちんと攻めることができる。徐々にアシルの形勢が有利になっていく。イエーガーもさきほどの余裕がなくなってきている。そしてイエーガーの振りが大きくなった攻撃をすかさず見逃さずにカウンターで大ダメージを与える。これはかなり効いただろう。
「なぜそんなに頑張る?あの娘の正体を知ればなにもかも変わってしまうんんだぞ?」
「そんなことはどうでもいい!助けを求めているなら俺達は助けに行く!」
イエーガーは高笑いをした。何がおかしい!と聞くがイエーガーは答えない。上着を脱ぎ捨てた。上着の下には変わった物が付けられていた。手袋が肩の部分まで伸ばされているような感じのものだ。イエーガーは構えなおす。先ほどと構えが違う。違う戦い方をするのか?すると手袋の拳部分から肩にかけて炎が宿る。完全防火物だろう。そしてサングラスをかけた。目を炎から守るためであろう。
そして新たな攻撃を繰り出す。アシルは苦戦しはじめ、また形勢が変わってくる。どう攻撃を対処すればいいのか、正直わからないところだ。避けても炎が身を焦がし、防御をしてもまた身が焦げる。
師はこういう時どう戦っただろう。あの時どうしてやられただろうか。この炎にやられたのか?
「アシル!一度代われ!」
ジンは交代するよう言うがアシルの耳に聞こえていなかった。
確か師は言っていたな。『いくら強い武器を手に入れても自身は強くならない。強い武器ゆえ、わが身を傷つけることがある』
アシルは前に進んでいった。イエーガーはアシルの顔めがけて攻撃を繰り出す。アシルは目を閉じた。これで一応は炎から目を守ることはできるが、攻撃はどう見るつもりだだろうか。ジンとリースはいつでも代わる準備をする。
攻撃は見えなくてもその炎の熱さが距離を知らせてくれる。攻撃を避けて少し熱いが我慢してイエーガーの腕をはじく。それと同時に足でイエーガーのサングラスを蹴った。はじかれた腕からの炎がイエーガーの目を刺激する。イエーガーがたまらず目を閉じてひるんだ。その隙を突いてアシルは最後となる一撃を放った。
「過ぎた炎はお前の身をも焼き尽くしちまったな」
勝負は決した。もうイエーガーは戦えない。そしてアシルたちは屋上へつながる階段へ向かった。そのときだった。ピンと音がして足になにか引っかかった。足元を見ると細い糸が切れた状態で落ちている。すると、天上から液体入りのビンが次々と落ちていく。こんなものがあるとは気づかなかった。そして鼻をつくこの匂い。これはガソリンの匂いだ。液体が散らばっている側にはタンクが置かれている。
「負ける時は死ぬ時だ」
アシルたちは爆発させる気だと察して一気に階段を駆け上る。そして爆音が響き渡る。屋上へ飛び出し、ぎりぎりで爆発に巻き込まれることは免れたようだ。なんとも恐ろしい男だった。我々ごと吹き飛ばそうなんて恐ろしいことを考える。
「ヘリが・・・・・・もうない」
目の前には何もないヘリポート。強風がなびき、あたりはただ夜景が広がるだけだった。
「遅かった・・・・・・のか」
守れなかった・・・・・・。自分の非力さを実感するアシル。無念を隠し切れない。悔しそうにアシルは床をたたく。ジンも、リースも自他を向いてしまった。あのイエーガーによってかなりの時間が過ぎてしまった。するとそこへ一機のヘリがやってくる。アイフリード社の者ではないようだ。ヘリポートに着陸して中から出てきたのは、フェイクスだった。
「まだ諦めてないなら乗れ!」
アシルたちはすぐに乗り込んだ。まだすべて終わったわけではないようだ。そしてヘリは飛び出した。街から海へ向かっていく。フェイクスはアイフリード社の行き先について話し始める。どうやらアイフリード社は研究所がある孤島へ向かったようだ。ここも研究所のようだがおそらく、影武者のような存在だったに違いない。そして孤島が見えてくる。フェイクスはヘリを操作して孤島がはっきりと確認できる位置につくやミサイルを撃ち込んだ。
「おい!あそこサラがいるんだぞ!ミサイルなんか打ち込むなよ!」
「大丈夫!彼女が死んでたら俺を殺せ!」
冗談まじりにいうが冗談にならない。サラが死んでたら本当に殺してやろうか。しかし、ミサイルは研究所というよりその周りを狙っているようだ。近くで梯子を下ろしアシルたちを下に送る。フェイクスはしばらくおとりになるらしい。
そして戦闘員はフェイクスの思惑通り、ヘリのほうへ向かっていく。その隙を突いてアシルたちは研究所へ入っていった。
FILE6
研究所内部はアイフリード社のようには清潔感は漂っておらず、所々にヒビ割れが見える。それに通路は薄暗く、アイフリード社とは正反対だ。内部には戦闘員はおらず、まるで我々が潜入してきてもいいような気がする。そしてしばらく進むと通路が三つに別れている。それぞれの通路に我々の写真がおかれている。右がジン、左がリース、そして真ん中がアシルの写真がおかれている。写真には『COME ON』と書かれている。
「なにか引っかかるけど行ってみる?」
「・・・・・・そうだな。ジン、リース。死ぬなよ」
ジンは笑みを浮かべる。
「お前もな」
そして3人はそれぞれの通路を進んでいった。
「・・・・・・ローズ」
ジンが進んだ通路の先には少し広い何もない四角い空間が広がり、そこにはローズが待っていた。ローズの手にはナイフが握られている。そしてまたナイフを二つ取り出し、そのナイフでジャグリングをして見せる。最後にナイフを3本とも右手に持つ。そして左手に新たに3本のナイフを取り出した。
「ジン、そろそろ私達のつながりを断ち切りましょう」
「お前とは戦いたくない・・・・・・」
仕事の緊張感をほぐすための休みの日々、ジンはコーヒーを片手に時間を持て余していたが楽しいと思えた休みの日など少なかった。しかしローズと出会ってから、ローズと過ごしたあの時間、あの日々、心から楽しいと感じた。ずっと一緒にいたい。そう思っていた。ローズがいなくなったあの時もよくローズと出会った場所でローズを待った。あの時に戻れないのか・・・・・・。
「無理よ」
突如ナイフが投げ込まれる。そしてふたりの戦いが始まった。ローズはナイフを投げて攻撃する遠距離型の戦法である。少々近距離での戦闘を行うジンには相性がわるい。それにナイフはかすっただけで服ごと体が綺麗に切りつけられる。近づくにつれて危険になるだろう。しばらくローズによる一方的に攻撃される戦闘が続いた。ジンは冷静にローズのナイフを数えた。6・5・4・・・・・・。そろそろナイフを補充するだろう。補充する時は両手をナイフ入れに入れて距離をとる。
「補充する時に攻撃しようとしても近づくことができるかしら?」
ジンの魂胆を察してローズは警戒して一気に距離をとった。
ドン!
ローズの背中に何かが当たった。ローズは後ろを見るとそこは壁であった。いつの間には角に追い込まれていたのだ。やられた!ローズはそう思った。ナイフを補充する時に攻撃すると気をとらせ、本命は距離をとることができず、逃げ道がないこの部屋の角に追い詰めることだったのだ。そしてジンは一気に距離をとった。ナイフを投げようと手を振り上げてもひじが壁に当たり、先ほどのようにナイフをうまく投げることができない。そしてジンはもう目の前に来ていた。だが、ローズには奥の手がある。それは・・・・・・
バシュ!
足元からナイフが飛んでくる。靴を細工していたのだ。靴からジンの顔めがけてナイフが飛んでくる。それを避けると、ローズは直接ナイフで刺そうとした。ジンはローズの腕を掴んでとめた。そしてナイフ入れを奪った。
「終わりだよ・・・・・・ローズ」
ジンはローズを倒すことができたが、あえてしなかった。ローズももうすでに勝負がついたことはわかっているはずだ。
「そう・・・・・・ね。」
ローズは手にしていたナイフを落とした。そしてローズは力が抜けたように座り込んだ。ローズはアイフリード社に入社した理由を話した。正式には表でのアイフリード社ではなく、裏のアイフリード社に入社したのだ。『キラー・ローズ』という異名を買われ、スカウトされたのだ。社長直々にローズと対談し、ローズは『故郷を、そして家族を奪った“フランツェ国”への復讐』という要求を言った。詳しく言うと現在も国を統一する国王を暗殺してほしいという無理な要求を社長は快く引き受けたという。これからやろうとしている具体的な内容を聞かれてローズは納得したという。
「復讐してもなにが残るんだろうね・・・・・・。今ではもうわからないわ・・・・・・」
ローズの表情は悲しみに満ち溢れていた。目には涙が浮かんでいる。
「ローズ・・・・・・」
その時だった。ローズの目に止まったのは、後ろで銃を構えた男性の姿。ジンを狙っている。ローズはとっさにジンを突き飛ばし、床においてあったナイフを投げた。そして、銃声が響き渡る。男性は肩にナイフが当たり、肩を押さえて逃げていってしまった。ローズは倒れこんだ。撃たれたのだ。ローズの胸部分には血がにじんできている。
「あなたなら・・・・・・止めてくれる。そう思ってたのかな。私のやろうとしてることは正しくない、止めてくれるあなたを心の中で私はどこかでそう感じてたからかな・・・・・・」
そしてローズは静かに目を閉じた。最後に愛してると言い残して・・・・・・。
「・・・・・・ローズ。俺はキミを救うことができたかもしれない・・・・・・」
あのとき、どうして自分はローズの心中を悟ってやれなかったのだろう。普段のローズのそぶりからなにかわかったかもしれない。自分はローズのことを何もわかってやれなかった。ジンはローズをつよく抱きしめた。
FILE7
リースは通路を進んでいくと薄暗い広間にでる。なにかがいる気配がする。薄暗くてその先の通路への扉もわからないためじっくり探さないといけないだろう。リースは広間へ足を踏み入れた。殺気が漂い、どこからか見られているような気がする。
はやくサラちゃん助けてあげたいのに、面倒なことになんなきゃいいなぁ・・・・・・
今なにをされているのか、どうしてサラをさらったのかなどいろいろ考えるリース。しかし理由はどうあれサラを救うことは変わらない。『助けを求めているなら俺達は助けに行く』アシルの言ったあのときの言葉が思い浮かぶ。アシルらしいと、笑みを浮かべるリース。ここになにがいるにしろ、かならず生き延びてみせると心に誓う。
「女を刻むのは一番だぜ!」
その時、声と同時に背中を切りつけられる。声がしてとっさに避けたが浅い切り傷がついた。爪のような傷跡だ。しかも攻撃は下から上へ繰り出され、声は天井のほうから聞こえたのでおそらくウルフは天井にさかさまの状態でぶら下がっているのだろう。移動している音が天井からかすかに聞こえる。そしてウルフの攻撃が次々と繰り出される。幸い食うを切る音で攻撃する瞬間や、正確ではないが位置はなんとなくわかるので深い切り傷は負うことはない。しかし、このままではまずいだろう。闇に目が慣れてもウルフは黒い服を身にまとっているようでなかなか位置を確認できない。とりあえず動き回り、なにかいい案がないかと考える。
「おいおい!逃げてばかりか!?」
ウルフはリースを楽しそうにからかう。リースはかまわず動き続ける。どうすればいいのだろう。こちらが音のするほうへ向かってもウルフは距離をとってしまう。落とされるのを避けるためであろう。攻撃にあわせてこちらも攻撃しようとしたが、両手で左右から攻撃してきて、リースはとっさに首を引いた。あうやく顔がスライスされるところだった。いくら料理好きのリースでも材料のように斬られるのはごめんだ。左右の頬に新たに切り傷がついて、血を拭いて冷静に考える。
とりあえず落ち着いて考えよう・・・・・・なにか方法があるはず・・・・・・
まず相手がこちらの位置がわかるというのがとても不利である。
・・・・・・位置がわかる?
そういえばどうして位置がわかるのだろう。それに先ほどからかすかに聞こえる機械の音。もしかしたらウルフは暗視ゴーグルをつけているのではないか。リースは次の攻撃を待った。近くならウルフの顔が少しだけでもわかるはずだ。そして攻撃がくる。ギリギリまで待ち、確認して避けた。たしかにウルフはなにかをつけている。
「どうした!?来いよ!」
ウルフは追いかけて容赦なくリースに攻撃する。リースの背中や肩など、体中に切り傷がついていた。リースはポケットを探る。“あれ”があるはずである。そしてその“あれ”を見つけ手にした。再びリースはウルフの攻撃を待った。空を切る音と同時に手にしていたものを前に出した。
シュ!
それはマッチだった。アジトはランプがあるため、リースはよく雰囲気を出すためにランプに火をつける。その時に用いられるのがマッチだ。幸いたまたま今日はマッチをポケットに入れたままだったのだ。ウルフは天井から落ちて暗視ゴーグルを投げ捨て、しばらく目を手で覆って身悶える。リースは容赦せずエイ!とけりを入れる。足のばねが強いリースの蹴りならかなり痛いだろう。それも人体急所の“水月”を狙って攻撃したのだから普通の人間は立てない。リースはマッチの火をつけて扉を探した。壁を探っていくと扉の手触りがする。
「待て!」
その時、ウルフは薄目を開けて立ち上がった。なんという奴だ。これにはリースも驚いた。確かに“水月”を攻撃した。精神力が強いのだろう。ウルフは左手を前に出した。何をするつもりだろうか。すると左手は変形していく。義手のようだ。それも特別に改造している。くらくて確かではないが義手はチェンソーのようなものに変化した。チェンソーに似た音が広間に響き渡る。そしてウルフはリースに襲い掛かった。慌てて避けると見つけたあの扉が真っ二つに割れた。リースはなにか受け止めるものがないかとあたりを手探りで探すと壁に棒状のものが当たる。手触りから鉄の棒だろう。ここは結構古い感じなので取れるかもしれないと思い、それを引っ張るてみると思惑通り取れたのでさっそく使うことにした。しかしこんなもので受けとめられるのか少し不安だ。ウルフは再び襲い掛かる。そしてリースは鉄の棒で受け止める。削れる大きな音と、火花が散る。
「死ねぇ!」
男性の力と女性の力ではやはり競り合いは負けてしまう。もう目の前にチェンソーが迫っている。リースは死を悟った。
サラちゃん!ごめん!
しかしその時、突如ウルフの力が抜ける。リースはその隙に避けるとウルフは倒れた。チェンソーも止まり、動かなくなる。一体どうしたのだろうか。
「危なかったな。」
フェイクスがウルフを気絶させたようだ。
「ありがとぉ・・・・・・。ほんと危なかったよぉ・・・・・・」
リースは胸をなでおろす。受け止めていたあの棒を拾い上げてみると棒は半分になりかけていた。九死に一生を体験してリースはもう腰が抜けかけていた。オシリを打ったと言ってフェイクスの手を借りて立つ。フェイクスはどうやらヘリを特殊に改良して自動操作をしたらしい。今外の警備兵や戦闘員は無人のヘリを相手にしているだろう。研究所内へはいってあの三つの分かれ道の通路をたまたまリースが入ったところを通ったら先ほどの状況だったらしい。リースは信じてもいない神に感謝した。
「あそこが奥につながってるんだな?」
「うん、それ以外扉はないからね。行こう」
FILE8
サラ・・・・・・この先にいるのか?
アシルの脳裏にはサラの笑顔が浮かぶ。またサラの笑顔を見れるのか、不安になる。この計画を企てた奴にサラをさらった理由を問いたださねばと思うアシル。そして進む先には人影が見える。もう少し近づかないと顔は確認できない。そして近づいていくとそれは意外な人物だった。
「久しぶりだな。アシル」
「お、親父?」
確かに父アーディンだった。スーツ姿で、タバコを吸っている。昔はなかったあごひげを蓄え、昔と雰囲気はかなり違うように感じた。しかし、父は5年前に失踪したまま行方不明であった。父アーディンが失踪した理由はおそらく母と妹を過去のフランツェ国と当時住んでいた国スファンダリーとの戦争で失ったのがきっかけである。その時父は自分と共に隣町へ出向いており、知らせを受けて戻ってきた時はもう家は粉々だった。父は必死に母と妹を探して、泣いていたのを覚えている。それから1週間経ったある日、戦争は止み、父は突然いなくなった。もしかしたら復讐するためであろうか。あの時はアシルもフランツェ国を怨んでいたが現在はあまり怨んではいない。それに復讐心を抱いても自分には復讐できる力などない。今も健在するフランツェ国は今やスファンダリー国を含む多くの国と同盟を結んでいる。人々は過去のことを水に流し、それぞれ平和の道を歩み始めたのでこれでいいとアシルは思った。
そして、アーディンはこの事件の首謀者であると自ら言ってみせる。どうしてサラをさらったのかをアーディンは説明した。
「あの娘の正式な呼び方はSARA(エス・エー・アール・エー)。機械だ」
通称SARA(エス・エー・アール・エー)001。人型超精密兵器であり、外見から人と見分けることはほぼ不可能である。夢も見れば食事もし、風邪もひく。体温も状態で変化し、脈や心音もすべて表現できるよう作られている。感情もあり、涙を流すことも可能である。そして電力を送れば体内でその電力は最大に上昇し、放出する時は100倍以上という力になる。電力というと破壊力はそうないと想像されるが、威力が上がれば電力は鉄を瞬時に溶かすことも可能である。SARAの名前は開発者スファン、アスカ、ルイヴァート、そしてアーディンの四人の頭文字から付けられた。
サラが機械・・・・・・?そんな馬鹿な!?
「あれはおれたちの復讐のために作られた。そしてあの国を崩壊させる」
アーディンが設立したこのアイフリード社。表側では機械系開発の大企業だが、裏では兵器開発というものだった。ウルフの変化する義手もここで開発された。だが、この復讐にひとつ問題がおきた。それは、開発者の一人スファンがサラを復讐の兵器にせず、世間に公表して社会に貢献すべきだと言い出した。そんなことは当然賛成しないため、どうしても公表するというのでスファンは始末された。そしてスファンが始末され次の日サラが勝手に起動した。普通ならサラはこちらが起動コードを押さないと発動することがない。おそらくスファンが自動起動させたのだろう。
「復讐なんかするものじゃないよ!親父!」
「お前は母さんと妹を殺されてなにも感じないのか?」
その言葉を聞いてアシルは声を詰まらせる。確かに殺されて怒りや悲しみ、さまざまなことを感じた。復讐したい、そう思ったこともあった。しかし、復讐してもなにがあるだろうか。いまさら亡くなった者が戻ってくるのか?それに復讐をすることで新たな復讐が生まれるのではないのか?そのことを伝えてもアーディンはまゆ一つ動かさず、なにも反応しない。戯言だと一言言うだけだった。
あの時の親父はどこへいったのだろう・・・・・・
昔の親父は大好きだった。強く優しく、よく親父と行動してたっけな・・・・・・
しかし、目の前の親父はもう別人である。復讐に身を任せたただの復讐者だ。このままではひとつの国が滅ぼされ、サラを人殺しの兵器にさせてしまう。
「人間でなくてもまだ助けたいのか?」
所詮機械。人と結ばれることなどできない。人の流れとサラの流れは違うのだ。プログラムにも老いるというものは入れていない。老いる人間と違い、サラは半永久的に活動する。
「サラが助けを求めてる。理由はそれだけで十分だ」
たとえ父であってもこの先は進ませてもらう、と構える。しかしアーディンは動かない。構えをせずただ、腕を組んで新たにたばこを吸う。しばらくふたりは無言のまま動かなかった。そして静かにアーディンは言う。
「好意を持ったのか?」
突如、そのような質問にアシルはどう答えていいかわからなかった。好意・・・・・・。今までサラに対してはっきりと思ったことはない。しかし、今考えてみればそうなのかもしれない。明確には「愛」という言葉で言い表すことはできない。
「わからない・・・・・・。でも、俺にはサラが必要だと思う。」
アーディンは少し笑みを見せた。タバコを吐き捨てる。組んでいる腕を下ろす。アシルは無意識に解いていた構えを再び構えなおす。その瞬間、アシルは打撃をくらい、数メートル吹き飛ばされた。あまりの速さに反応できなかった。
「お前にはかまう暇はないんだよ。今はSARAの復讐の最終段階を済ませなければいかんからな」
そしてアーディンは奥へ去っていった。
FILE9
通路の先にはホールのような空間が広がっていた。奥には扉がある。おそらくそこにサラがいるのだろう。アシルたちはホールで合流した。みな少し怪我を負っているようだが、無事のようだ。フェイクスは合流したのを確認すると脱出用のヘリを用意するといってきた道を引き返していった。そしてそれぞれ覚悟を決め、扉へ向かった。扉を開ける前にアシルは言わなければならないことを伝えた。
「今回の事件の首謀者なんだけど、俺の親父なんだ・・・・・・」
おそらくこの扉を開ければ父アーディンは待っているだろう。決して自分の父だからといって手加減をしないように言う。
「誓ってくれ。」
ジンとリースはしばらく戸惑って言葉に行き詰ってしまうが、アシルの今まで見せなかったような真剣な目にジンとリースは誓った。
最後の親孝行、それは親父を止めることだ・・・・・・
そしてアシルは扉を開けた。扉の奥では父アーディンが何か機械の画面に向かって打ち込んでいる。アーディンが操作咲いている機械の前にはサラがいる。サラは機械の椅子に座らされている。呼びかけてもサラは反応しない。サラが座っている目の前は窓もなく、景色を見渡せる。おそらくあの電撃を放出するために窓などを取り除いたのだろう。海の先には陸が見える。アーディンの振り向かずにしばらく打ち込み、打ち終えると放送が流れた。
『SARA、SD砲発射まで10分』
「俺を倒さなければとめられないぞ?」
アーディンはそう言ってゆっくりと振り向く。アーディンは上着を投げ捨てた。鍛えられた肉体、そして無数の傷跡が見える。もう歳は50近くだというのに肉体は若さを保っているようだ。そしてアーディンは胸に埋め込まれている機械を軽くたたいてみせる。
「これは俺の命だ」
胸にあるコアという機械。アーディンに命を吹き込み続けると同時に壊れればアーディンの肉体ごと100m内を消滅させてしまう。コアを壊して無事に逃げる時間はおそよ5分。10分以内にアーディンを倒し、5分でここを出て行かなければならないことになる。
親父を倒すことは親父を殺すこと・・・・・・。
しかし、倒さなければ多くの命が犠牲になる。アシルたちは構えた。アーディンもゆっくりと構える。そしてカウントが始まると同時に戦いが始まった。
アシルたちはコンビネーションで攻めた。ジンが仕掛け、左右からアシルとリースが同時攻撃をする。普通なら突然の戦法に一発はくらってしまうがアーディンはジンの攻撃を右手で受け止め、その状態でリースの蹴りを避け、残った左手でアシルが攻撃する前に攻めを潰した。ジンは蹴りを繰り出すが、アーディンは掴んでいた腕を引っ張ってジンを投げ飛ばした。恐ろしいほど力が強い。
「あと8分」
アシルたちは戦法を変えてまた向かっていった。3対1だというのにアーディンは難なく互角、いやそれ以上の戦いを繰り広げた。アシルたちはどんどんアーディンの攻撃をくらう。少しの間に傷が増えていった。このままでは間に合わないかもしれない・・・・・・。アシルは口から出た血をぬぐう。そして油断したのかリースは攻撃をくらってしまい、形勢が一気に傾いた。
どうする・・・・・・?
あせり始めるアシル。みな体中怪我を負い、うまく体を動かせなくなっている。ジンは一度攻めを止め、リースの様子を見た。肋骨、左腕が骨折している。戦うことは不可能だ。女性のからだではやはり攻撃を耐えることは無理のようだ。
「・・・・・・ごめん。」
サラちゃんを助けたいのに・・・・・・
体が思うように動かない・・・・・・
リースの振り絞った声。かなり辛いようだ。しばらく休んでいるよういい、ジンはアシルと共にアーディンに向かっていった。
「あせるな、冷静に攻めるんだ」
「わかってる!」
そしてアシルにジンは胸のコアだけを狙うよう言う。アシルにやらせるのは酷かもしれないが、ジンは自分はおとりになるという。若干背の小さいアシルでは攻撃に耐えられるか不安である。なのでがたいもいいジンが攻撃を受けたほうがいい。
「あと5分」
そしてジンが前に出る。ふたりなのでさきほどよりも不利だと思うが、時間がないのだ。そしてアーディンの繰り出された攻撃をジンはわざと受けた。アーディンの腕を掴み、アシルはその間にコアに攻撃をくりだした。しかし、アーディンはぎりぎりで避けてしまい、コアには軽く触れただけだった。アーディンはジンが掴んでいるその腕をはずし、距離をとった。うまくいったと思ったが、失敗に終わってしまった。しかし、これが逆にいい方向へ向かっていった。アーディンはすこしコアを気にしはじめたのだ。
「ジン、少し休んでいてくれ」
アシルはそう言ってアーディンに向かっていった。ジンはそういわれても一緒に戦わないと勝機がないと思い、動こうとしたが、あのアーディンの攻撃を直接受け止めていたため、体が思うように動かない。肋骨を数本もっていかれたようだ。
くそ・・・・・・!目の前にはサラがいるってのに・・・・・・アシル、なにか策があるのか!?
アーディンの先ほどのしぐさ。コアにはかすった程度でアーディンは過剰に距離をとった。攻撃をあおられてアーディンは警戒したようだ。しかしそれがあだになった。アシルはコアに攻撃を繰り出すと見せて他の場所を攻撃する。いわばフェイントである。アーディンはフェイントに引っかかってコアを両手でかばう。アシルの攻撃がクリーンヒットする。アーディンはすぐに反撃するが、アシルはまた向かっていく。今まではほとんど攻撃を見ず、感覚で避けていたアーディンだが、1対1という状況で、コアをはっきりと狙っているのがわかるとコアへの攻撃を防御しようと過敏に反応してしまうのである。
そしてあと30秒のところで勝敗を決する一撃が繰り出された。攻撃したのは・・・・・・
「アシル、見事だ・・・・・・」
FILE10
「成長したもんだな・・・・・・」
アーディンはひざをついた。コアに亀裂がはいる。これ以上手を出さなくてももうすぐ壊れてしまうだろう。
「さぁ・・・・・・親父」
アーディンは操作してカウントをとめる。アシルはサラを抱えて運んだ。アーディンの体が徐々にやつれていくように見える。髪にはさきほどよりも白髪が少々目立つように思える。ジンはリースに肩を貸した。コアが壊れれば3分でここが消滅する。そのためにここを出る準備はしておいたほうがいい。できればすぐにでもここを出て行きたいがアシルはまだここを出ようとはしなかった。
「勝った理由はお前のほうが正しかったから・・・・・・だな」
アーディンはわずかだが笑みを見せた。だが、悲しみも感じられる。アーディンは復讐に身をささげ、しまいには息子にも拳を振るった自分を悔やんだ。しかし、この計画は皆の心に残る復讐を果たすための計画。止めることはできなかった。何度も家族の顔が浮かんだが一度走り出した列車は止まることができなかった。
「お前のおかげで暴走列車は止まったよ・・・・・・」
アーディンはポケットに入れていたロケット・ペンダントと写真を渡した。ロケット・ペンダントは戦いの最中に壊れてはいけないとポケットに入れいていたのだ。裏には“エレナ”と刻まれている。母の名前だ。母の唯一の肩身らしい。そして写真は家族と最後に撮ったものだ。
「その娘を守り抜いていけ。・・・・・・お前は自慢の息子だよ」
アシルの目に涙が浮かぶ。
「親父・・・・・・俺も最高の父親だと思う」
親父の息子だからこそ止められたんだ・・・・・・
アーディンは照れるように笑った。そしてアーディンの体にヒビのようなものが入り、コアが壊れた。
「さぁ!行け!」
そしてアシルたちは出口へ向かった。体のところどころがいたいので少し走るのが辛いが、3分以内にヘリに乗っていかなければ死んでしまうことになる。そしてアシルたちは外へ出てフェイクスのヘリを見つける。
「おーい!はやく乗れ!」
アーディンはタバコを吸った最後のタバコになりだろう。ちゃんと味わって吸わねば。
「エレナ・・・・・・アシルはいい息子に成長したよ。ミレェナ、お前の兄さんな、とても強くてかっこよかったぞ」
そしてヘリが島を出て少ししたとき、島は爆発して消滅した。
アシルたちはアジト近くの海辺に下ろされた。
親父・・・・・・たとえサラが機械だとしても、流れる時が違ってもおれはサラを守り続けてみせるよ・・・・・・
「これでアイフリード社も終わりだな。ウルフも死んだし、俺は組織に戻るよ」
フェイクスはそう言ってヘリで去っていった。しばらくしてサラが目覚める。辺りを見回してこの状況が良くのみ込めていないようだ。サラはさらわれてから気絶していたようでこれまでのことは何も知らなかった。
「サラ、もう大丈夫だ」
ジンとリースは先にアジトへ戻るといってその場を離れた。サラを立たせる。ずっと抱えているのは少々疲れる。
「これからはずっと一緒だ」
アシルは笑顔を見せる。もう誰もサラを襲うものはいない。いるとしても守ってみせる。アシルは愛するものとしてこれからずっと守っていくことを心に誓った。
「うん!これからはずっと一緒だね!」
まるでふたりを祝福するかのように雪が舞う。そしてふたりは口付けを交わした。
ヘリの中でフェイクスは携帯電話を手にした。
「治安改善組織ですか?・・・・・・えぇ、アイフリード社の今日の事件についてレポートを送ります。アイフリード社が雇っていた多くの犯罪者や所有していた兵器はもうありません。・・・・・・えぇ、前に話した問題の兵器も破壊されました。・・・・・・わかりました。」
そして電話を切ると再度またかけなおした。
「兵器は無事アイフリード社からほかの手に渡り、あなたの国は無事崩壊の危機から逃れました。それと治安改善組織の資料も・・・・・・。SARA001はブラックボックスが解ければ力を発揮するでしょう。ええ、わかりました。ありがとうございます。それではフランツェ国国王」
そしてフェイクスはまた電話を切り、再びかけ直す。
「ルイヴァート。フランツェ国国王は計画に手を貸してくれるようだ。資金が手に入ったらあの国にもう用はない。まぁ、あの国王は俺を仲間だと思っているようだがな。これであとは自然にことが運ぶ。・・・・・・ああ、大丈夫だ。だれも俺のことを“スファン”だと思っていないだろう」
そして電話を切った。フェイクス=スファンは電話を切ると同時に笑った。そう、アイフリード社はスファンを始末したと思っているが、スファンは生きていたのだ。つまりスファンはSARAの開発者のひとりであり、フランツェ国のスパイであり、治安改善組織の一員でもあった。スファンはまずフランツェ国にアイフリード社と兵器のことを話し、取引をした。国をSARAから守り、知りたい資料を渡す代わりにSARAへのある計画の資金の提供を要求したのだ。そしてスパイとして治安改善組織にもぐりこみ、アイフリード社についての捜査をし、アイフリード社の状況を確認していた。フランツェ国はこの国の組織を知りたがっているので資料をすぐに手に入れれるため、一石二鳥だ。さらにアシルたちを利用することでアイフリード社にいるサラをアイフリード社から奪うことができる。治安改善組織にはよくくるアシルたちの資料があるため力量は事前に知ることができた。
「ブラックボックスを解くためだけにお前はいるんだがなぁ。馬鹿な男だ。なぁ?アスカ。」
アスカと呼ばれた女性はヘリの後ろから現れる。ルイヴァートとアスカとはグルであるが、正式にはルイヴァートはただ利用されているだけである。あくまでスファンとアスカの計画である。
「ふふ、そうね」
「これで俺達の時代が来る」
物語はまだ終わっていないのかもしれない・・・・・・。
-Fine-
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2005/04/25(Mon)00:56:59 公開 / チェリー
■この作品の著作権はチェリーさんにあります。無断転載は禁止です。
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■作者からのメッセージ
はぁ、できたぁ。なんかややこしそうで不安。じっくり読み返さないといけないなぁ。まぁこれで『SARA 記憶のない少女』はおしまいです。ご愛読ありがとうございました。最後はスファンが生きていてホニャホニャということです。中途半端w
甘木様
そうですねぇ。読んでみれば殴る蹴るの暴行ばかり、詳しいことは全然ですねw 修正したいですがまだ私の力量では無理ですので神夜様の作品や甘木様のアドバイスを頼りにまた近いうちに修正してみます。
京雅様
如き味ですかぁw納豆も技術しだいで味が変わるものですよねぇw ? 私も今日納豆食べました。私は納豆に荒びきマスタードをくわえますが家族は納豆を食べている間私に近づきません。理由はその混ざった匂いが死にそうに臭いらしいですw
『個人不幸日記』
あれは半年前の頃だったかなぁ。眉毛をいじろうとかみそりを片手にちょくちょくと剃ってました。これでいいかな?う〜ん、かたっぽがちょっと違うかな?・・・・・・・・・・・・眉毛なくなりました。
現在はふさふさあるのでご心配なくw