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『悲しいピエロのお話』 作者:捨て猫 / 未分類 未分類
全角5073文字
容量10146 bytes
原稿用紙約16.25枚
























  ――あなたはピエロを知っていますか?――


  ――あの道化ですよ――


  ――なにをしても笑われるだけの存在――


  ――失敗ばかりして、文句を言われる日々――


  ――それでも、ピエロは頑張ります――


  ――なぜって?――


  ――それは――












   『笑われる者の代名詞、道化』

 今宵は、私の物語にようこそいらっしゃいました。さきほど、紹介に預かりました、ピエロです。私は笑われるために生まれました。だから笑われる以外のことをされたことがすごく少ない生き物です。それでも、私は頑張れます。だから、この話も、どうか笑ってあげてください。それ以外の反応には対応できないので困ります。それでは、始まり始まり……。

          パチパチパチ。



 1,ピエロ誕生

 お祭りのように賑やかなパレードが開催されています。この国では、年に数回サーカス団を呼び、国民の疲れた心を癒そうとする動きがありました。そのお祭りは3日間行われます。そして、今日はその貴重な日の初日。この日は学校も、仕事もすべてお休み。いつも一生懸命働いている人の代わりに、この3日間はサーカスの人たちが頑張ります。国民はこの休みの日をだらだらとすごしません。パレードに参加します。サーカスの人たちもこの日が楽しみです。年に数回しか見てもらえないけれど、こんなにも多くの人に喜んでもらえることが幸せでした。しかし、そんな日なのですが、一人だけほかのものと違う雰囲気を持つものがいます。道化師、ピエロです。賑やかな音楽が流れている広場から少し離れた物陰で、こっそりと練習していました。ステッキを投げ、掴む、ただそれだけ。しかし、彼はその簡単な作業ができませんでした。何度も練習しました。何度も、何度も。
 このお祭りは、5日間かけて行われます。初日は屋台などの準備、サーカス団の人と国民とが仲良く話をする日です。2日目、3日目、4日目とパレードを行い、5日目に後片付け、お別れ会を行うのです。
 今日はまだ初日、ピエロは自分にそう言い聞かせ、練習しました。明日が本番、大丈夫成功するから……、と。
 
 なぜ年に数回あるはずなのにできないピエロがいるのかと言うと、このピエロはパレードに出場するのが初めてなのです。
 ピエロは前回のパレードが終わり、そのあとすぐにサーカス団に入りました。ピエロはあこがれていたのです。空中を縦横無尽に動き回る、空の鳥、空中ブランコに……。けれどもそれは叶わぬ夢でした。なぜならピエロは高所恐怖症だったのです。そのことに気づいたのは始めての練習の時。もうすでに王国からは離れて、次なる大陸に向かっている途中だったので、ピエロは引き返すこともできませんでした。そこでピエロは自分にできることはなにものか、と一生懸命練習に参加しました。しかし、どこに行っても邪魔者扱い。地の王者、猛獣使いになろうとしたこともありました。しかし、ライオンに食べられそうになり、断念。次に挑戦したのが、体を使いいろいろと表現する、現の達人、異国の雑技に試みたのですが、骨折とあまりに情けない結果。ピエロも当時自分自身に嫌気がさしていました。それでも、このサーカス団の人たちはピエロのことを罵ったりはしませんでした。笑うことはあってもそれはまるで、暖かい目でピエロのことを見守っているようでした。そして、あるときサーカス団員の一人、感動を与える者、劇を行う人に言われました。
 「お前、クラウンみたいだな」
 と。ピエロはそのときクラウンというものが何なのかわかりませんでした。サーカス団員のその人は丁寧に教えてくれました。クラウンとは一般的に道化、ピエロのことをいうのだと。笑いを与える者、ピエロ。ピエロは自分にもできるのかと尋ねました。するとその団員はたぶん君に向いていると思う、と優しく笑って言ってくれました。これがこのサーカス団のピエロ誕生です。

 2,笑わせるとは、感動させること。

 ピエロはクラウンの仕事について学びました。ピエロはそこで重大な勘違いをしました。クラウンとは間抜けに振る舞い馬鹿にされればいいのだ、と。そしてサーカス団の中で行われる予行練習で、見事に失敗してしまいました。ピエロは適当に、いい加減に馬鹿らしく行動すれば笑いは起こるものだと思っていました。確かに笑いは起きました……、呆れられて、失望する諦めに近い笑いが……。ピエロは考えました。何がいけなかったのか、なぜ同じ笑いでもこうも違うのか、と。一人で長い間悩んでいると地の王者、猛獣使いの人が話しかけてきました。
 「クラウンとは馬鹿にされればいいのではない」
 と、そしてこうも言いました。
 「簡潔に述べれば、愉快な笑いと、馬鹿にする笑いだ」
 と。ピエロはそれでも答えが見出せません。しかし、なにか手がかりを手に入れることができたような気がしてきました。ピエロはお礼を言うと再び練習に入りました。そして、二度目の予行練習。今度は僅かですが、笑ってもらえました。この前とは確かに違う、愉快な笑いが起こりました。ピエロは気持ちがよくてしかたありませんでした。サーカス団の人たちは口々にピエロのことを話しました。空の鳥、空中ブランコの人からこう言ってもらえました。
 「面白かったよ」
 と。ピエロはうれしくてうれしくて涙がでてきてしまいました。憧れの空の鳥に褒めてもらえてピエロはクラウンを演じてよかったと心のそこから思いました。

 3,新たな壁

 ピエロは愉快な笑いを起こす才能があったようで、みるみるうちにその演技はよくなっていきました。ピエロもやっと自信がついたころに、ある事実を聞かされます。
 「クラウンはステッキを使うんだよ」
 と。使うと言ってもただ振り回せば言いのではありません。綺麗に、早く、美しく見せなくてはならないのです。今までもそうであったようにピエロはそんな作業がとても苦手です。しかし、ピエロは諦めませんでした。失敗を繰り返しても、何度も何度も。しかし、一向に上達しません。ステッキを持つと手が震えてしまい。うっかり落としてしまうのです。手が震えるのはきっとトラウマだと思います。体をそのとおり動かそうとしても、意識の何処かで、失敗すると考えてしまっているから手が震えるのです。ピエロはそれでも練習しました。諦めず、何度も。もう本番まで時間もないというのに成功したことがありません。そろそろパレードが開催されるというのに。
 
 そして、パレード初日になりました。この日はまだ話をするだけで、本番ではありません。明日が本番の一回目です。だから、ピエロはこの本番前最後の日を大事に使います。ご飯も食べずに、ずっとステッキを握っています。それでも手の震えはおさまりません。
 そして、次の日になりましたピエロはやれるだけのことをやろうと心に近いステージに出て行きました。

 4,パレード

 クラウンは最初に出てきて、会場の空気を和らげ、最後にもう一度でてきて、しっかりとステッキを使いこなし感動を呼び込みます。最初にでて空気を和らげるのはピエロの得意なことです。客愉快に笑ってくれました。そして、次は地の王者が行う、猛獣使い。会場がおぉ、と歓喜をあげています。ライオンが火の輪をくぐるのだからそれはすごいでしょう、けれどライオンも頑張っていますが、地の王者も負けていません。火を恐れるはずの獣に火の中に行けと、命じることができるのです。それだって実にすごいことです。猛獣使いが終わると、次は……体でいろいろと表現する、現の達人、異国の雑技で人々は悲鳴を上げたり、歓喜をあげたり、とても楽しそうです。そのあとは空中を縦横無尽に動き回る、空の鳥、空中ブランコです。会場のテンションはすでに最高潮です。雄叫びを上げるものなどもいます。次は感動を与える者、劇です。これには会場も一回静まりましたが、いいそー、と声がかかり、また盛り上がりました。そしていよいよピエロの出番です。ピエロがステージに出てくると、早速野次が飛んできました。しかし、道化は笑われてなんぼですので、微笑み返します。そしてステッキを取り出し、すばやく動かしました。自分でもいい調子だったと思います。しかし……

  ――カランッ、カラン――

 手が震え、ステッキを落としてしまいました。
 「おいおい、せっかくいい気分なのに台無しじゃねぇか!」
 怒鳴り声が聞こえました。
 「引っ込めよ! いらねぇんだよ」
 野次と一緒にビールの缶も飛んできました。頭に当たりました。笑いが起きます。
  ――いつかのあの嫌な笑い――
 そして、その日のステージは幕を閉じました。ピエロはというと、広場の隅で泣いていました。誰にも、相談できません。ピエロは自分のせいで今日のステージが台無しになったと思っています。下手な慰めなど無意味でした。ピエロは自分を罵りました。そして泣き止み、決意を固めて、団長のところに行きました。それからこう言いました。
 「明日の公演で私は使わないでください」
 と。団長は驚きました。しかし、決意の固まったピエロの表情を見て団長は許可しました。そして、ピエロはまた隅でなき始めました……。誰にも聞こえないように、そっと。

 5,決意

 次の日の公演は見事に成功しました。ピエロはますます悔しくなりました。やはり自分には無理なのではないのか、と。その日の夜もなきました。一人で、誰も来ないようなところで……。しかし、そいつはそこにきました。笑って、明るく。
 「あっ! ピエロさんだ!」
 顔を上げると、幼い少女が目の前にいました。とても元気で、この世の悲しいことなど知らないような屈託のない笑顔でピエロをみます。ピエロは初め戸惑っていました。そして、少女が口を開きます。
 「今日お調子悪かったのですか?」
 と。何かがピエロの心に訴えた……。
 「楽しみにしてたのにでてこなくて」
 ピエロはなんとも言えない気持ちになりました。目の前にいる少女が悲しそうな顔をしています。ついには涙を流してしまいました。ピエロの前で涙は禁物なのに……。ピエロは忘れていたようです。ピエロは笑いを与える者、すごくなくてもよくて、かっこよくなくてもよくて、失敗してもよくて、たとえ、罵られても、馬鹿にされても、笑ってくれる人がいる限り、ピエロはピエロなのだ。それがどんなにつらくても……、それがどんなに理不尽でも……。ピエロは気づいたのです。誰もがピエロを笑う、と。そして、誰もがピエロを笑わない、と。ピエロはその小さな女の子に誤りました。もちろん心の中で……。そして、自分にできることすべてをして、少女を笑わせました。少し前まで当たり前のこと、忘れてしまっていたこと、今思い出したこと。ピエロは彼女に別れを告げこう言いました。
 「明日、ステージでね」
 と。ピエロは再び団長のところに行き、お願いしました。
 「明日、ステージに立たせてください」
 と。団長はもちろん、と言ってくれました。

 そして、パレード最後の日。サーカスは順調に進み、最後のピエロまでやってきました。ステージにでると、また野次が飛んできます。しかし今度は大丈夫、気にならない。不思議な気持ちでした。手も震えていない。ピエロがステッキを大きく上に投げました。

   ――ヒュッ!クルクルクル……――

 空中で回転しながら落ちてきたステッキをピエロは見事に掴むことができました。会場はワッ!となりました。



  ――あなたはピエロを知っていますか?――


  ――あの道化ですよ――


  ――なにをしても笑われるだけの存在――


  ――失敗ばかりして、文句を言われる日々――


  ――それでも、ピエロは頑張ります――


  ――なぜって?――


  ――笑ってくれる人がいるから――


  ――笑わないでいてくれる人がいるから――












 6,エピローグ

 後日酒場でサーカス団員全員で飲んでいると、ピエロに缶を投げたおじさんがやってきました。そしてこういいました。
 「あの時は悪かったよ……、最後の日のは感動したよ」
 と。ピエロは微笑み言います。
 「なんのことですか? 最近物忘れが多くて……」
 酒場の空気が和み、愉快な笑い声が響きました。





                           fin
2005/04/17(Sun)03:33:18 公開 / 捨て猫
■この作品の著作権は捨て猫さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
てくてくてく……どこっ!
 「いてて」
バコンッ!!
 「うわっと!」
チュドーーーン!!!!
 「うわーーーーー!!!!」

 どうも、この度は『悲しきピエロのお話』を聞いていただけて光栄です。ありがとうございました。これを読んだ人の心が少しでも愉快になることを望んでいます。

アドバイス・感想など書き込んでいただけるとうれしいです。あ、あと好きな動物でも(何!?
意見などはメールでも受け付けています。この作品だけでなく、小説の書き方のアドバイスやコツなんかをきけたらいいなぁ、などと思っています。

 それから、今までの作品にコメントをしてくれた方々、本当に心から感謝しています。皆様の作品にもしっかりとした感想を書けるように頑張っています。よろしくお願いします。

 それでは、またお願いします。以上。
簡易感想でも喜ぶ捨て猫でした。
      ありがおとうございました。
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