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『夢の小悪魔』 作者:捨て猫 / 未分類 未分類
全角4464.5文字
容量8929 bytes
原稿用紙約15.25枚





◆It's a dream.














 ケケケ。俺様は人の夢の中に入り込んで遊ぶ悪魔さ!ん?なんでそんなことするのかって? ケケケ、それならお前たちは何で生きてるんだよ。俺様に夢に来るなと言うのは死ねって言っているようなもんさ。俺様は夢の中でしか生きられないからな、ケケケ。
 さてと、今宵は誰の夢ん中に入り込むかなぁ、ケケケ。


 


 ――夢とはなんで楽しいのだろう――


 ――夢とはなんで悲しいのだろう――


 ――夢とはなんで怖いのだろう――


 ――夢とはなんで儚いのだろう――


 ――それは、簡単なこと――


 ――それは、夢だから――










   ――夢、それはどんなにすばらしいものでも所詮、夢――

                            アグリス=レンジ







 1,

 彼女の名前は、加納 綾香(かのう あやか)。十五歳にして父親を亡くした悲しい少女だ。その日は雨で視界が悪かった。今日は特別に学校まで迎えに来てくれるはずだった。しかし、いつまでたっても父親は来なかった。そして、迎えに来たのは、父親ではなく、母親だった。雨は強くなり、雷までなり始めた……。
 初めはすぐ父親に会えると思い、怒っていた。しかし、怒鳴っても、泣き喚いても、返事をしない、父親の体。彼女はそれでもまだ、泣き喚き、そして怒っていた……。
 彼女と、彼女の父親は仲がよかった。たぶん誰がみても微笑ましいほどいつも笑っていた。彼女は父親のそばにいるときは、いつも笑っていた。また父親も笑っていた。そして、母親はその光景をみることが大好きだった。どこにでもある、暖かい家庭、……それは一瞬にして奪われた。別になんてことない、たまたま出てきた猫をよけようとハンドルを切っただけだ。そこにたまたまトラックが来たという、不運な事故だった。
 幼い彼女には悲しすぎる現実だった。彼女は笑わなくなった。あの日から、今日まですっと。もう、一ヶ月ほどたつというのに、その家庭の時間は止まってしまったかのようだった。きっと、この家庭に夢とか言うものはもうないのだろうな……。
 
 そして、ある日の夜のことだった、その家の屋根の上に子供の影があった。その横には、黒い猫がいた。その黒猫がしゃべる。
「本当にやるつもりなの?」
黒猫が聞いた。少年のような影は、ケケケと笑ってこう言った。
「退屈してるからな」
黒猫はやれやれという感じでうな垂れた。
「ったく、フィーは本当に悪魔なのか怪しいもんだよ」
「ケケケ、そんなことにこだわるなよ」
 フィーと呼ばれた子供の影をした悪魔は笑っている。
「こういうことは楽しんだもん勝ちさ、ケケケ」
 黒猫は再びやれやれとうな垂れた。

 そして、悲しい家庭はその夜『夢』を見た。

 雨だった、いつの日かと同じように土砂降りだった。空は曇っていて、隙間ひとつないほど雲が分厚い層を作っていた。いつの日かと同じように彼女は校門の前にいた。横にはこの前と違い、母親がいた。彼女は、あの日を思い出していた。すごく悲しくなってきた。気がつくと涙が溢れてきていた。自分でも止められないほど。結局そこでも父親と会うことはなかった。そして、目が覚めた。天井が滲んではっきりと見えない。夢を見ていたのだと彼女は気づく。そして、急に寂しくなってきて、また涙が出てきた。そして、声を上げて泣いていると廊下を走ってくる音が聞こえた。そして、部屋のドアが開く、入ってきたのは父親だった。そして、父親はいなくなる前と同じように、優しい声で
「どうしたんだい? もう大丈夫だよ」
 と彼女を慰めた。そして、大きな手を彼女の頭の上に乗せてなでている。彼女は父親の姿を確認してからすでに泣き止んでいたのだが、父親はそれでも優しく、いつまでも彼女の頭をなでている。
「な? もう大丈夫だろ? さぁ、朝ごはんを食べに行こう」
 父親はしばらく頭をなでたあと、リビングに足を運んだ。彼女は、なんで父親がここにいるのかなどと言うことは気にしなかった。そんなことより、また話ができたことを素直に、そしてとてもうれしそうに喜んでいた。
 リビングに行くと母親がご飯の支度をしていた。一ヶ月前までは当たり前の光景、たった一ヶ月なのにひどく懐かしく感じた。
「あらおはよう、やっと起きたのね」
 母親が明るく言う。テーブルの上には三人分の食事が並んでいた、テレビではどうでもいい朝のニュースが流れている。そして彼女は、朝ごはんを食べながら久々に暖かい家庭を満喫する。しかし、彼女は、どうしても聞かなくてはならないことがあった。そう、なぜ父親が生きているか、だ。そのことを聞こうと父親の顔を見る。
「――――っ!」
 父親の顔は今までと明らかに違っていて、優しい父の面影などなくなっていた。そして、その世界は急に真っ暗になった。彼女はテーブルを挟んで、父親と向き合う。もう、いまさら世界がどうなろうと知ったことではなかった。そして彼女は聞いた。
「なぜ、生きてるの?」
 彼女はそれが父親ではないことに気づいていた……。それでも、聞きたくないことだった。聞けば絶対にもう二度と会えなくなると心のどこかでわかっていたからだ。それでも聞いた。ありったけの勇気を振り絞って、聞いた。
「ケケケ、まさか自ら夢を捨てるとは、大したもんだよ」
 父親の形をしたソレは言った。もう優しい雰囲気など影も形もなかった。
「なぜ、生きているの……か、それは夢だからだ」
 それは、意味不明なことを言った。彼女はなにを言っているのかわかっていない。それでもソレは話を続けた。
「お前が望んだ夢なんだよ、これは」
 彼女はただ、黙って聞いている。
「お前が殺してしまった父親に会いたいと願う、夢だ。わかったかい?」
 彼女は一瞬なにを言われたのかわからなかった。なんだって?私が……どうした?と彼女は自分に聞いた。そして、言われたことを心の中で繰り返す。ワタシガコロシタ。
「違うっ!」
 彼女は否定した。あれは事故、そう事故だった。猫が飛び出してきて……。
「なにが違う? お前が迎えに来てもらわなければ事故は起きなかった」
 そう、あの日は彼女が駄々をこねて迎えに来てもらったのだ。だから、彼女は自分が殺してしまったのかも知れないと、考えて、そして苦しんでいた。そして、この父親の形をしたソレは無造作に彼女の心の傷をいじる。
「あれは、猫が……」
 耐え切れなくなった彼女は、なんとかこれだけを言えた。いつも自分に言い聞かせてきた科白、言い訳、唯一気持ちをごまかせる呪文。そこに再び追い討ちがかかる。
「ケケケ、そうか、お前の父親は猫のために死んだのか」
 ソレはとても嫌な笑い方をする。
「お前の父親はお前のために死んだのではなく、猫のために死んだのか」
 そうかそうか、とソレは頷いている。彼女は心に電気が走ったような錯覚を覚えた。彼女は泣き始めた。彼女が言い訳にしていた科白には、父親の死を否定してしまうような、そんな気がしてきたのだ。
「お前の父親は、猫のために死んだのか。ケケケ。笑えるなぁ」
 彼女の心は殴られた。蹴られた。ナイフで切り刻まれた。しかし、彼女は負けなかった。それは、譲れない、譲りたくない意地のようなものだった。
「ふざけないでっ!」
 大声で叫んだ。
「そうよ! お父さんは私が殺したのよ!」
 彼女は泣き叫んでいた。文句あるのかという感じでソレを見据える。
「そうだ、お前が殺した。それでいい」
 ソレは、満足そうに笑っていた。ひどく腹の立つ笑いだった。
「お前は父親を殺したことをいつも思い出し、苦しみながら生きなくてはならないのだ、ケケケ、ケケケケケケケケケケケケケケケ」
 それは大声で笑い出した。彼女は、もうどうにでもなれといった感じでソレに言う。
「もう、どうしようもないじゃない! どうしろって言うのよ!」
 彼女は泣き叫ぶ。そして、静寂が訪れた。彼女は途中から、下を向いてうつむいてしまっていた。が、あまりにも長い静寂に耐え切れなくなって前を向く。
「――――っ!」
 そこには、彼女の知っている父親がいた。そして、めったに見ない顔をみた。いつもの笑顔からは想像ができないほど、えらく悲しい顔をしているのだ。
「綾香……。すまない」
 父親はそれだけを言うと笑って消えてしまった。
「おいおい。なに沈黙なんかしてるんだよ」
 さっきのヤツの声が聞こえる。なにをとぼけて、さっきの父親の表情が脳裏をよぎった。本当に、こいつだったのか?今こいつはなんだか知らないような口調である。
「悲しすぎて、言葉も出なくなっちまったのか? ケケケ」
 それはもう声しか聞こえない。それでも、こいつのムカつく笑い方には腹がたつ。
「ふんっ! いいもん。私が殺したとしてもお父さんは私を恨んだりなんかしない」
 自分に言い聞かせていた、だけど、ソレは返事をした。
「そんなの思い込みだ、ケケケ」
「それでもいい」
 彼女は即答した。さっきより声が遠くなった気がする。そして、視界は完全に真っ暗になった。

「綾香、起きなさい。朝ですよ」
 母親の声で目が覚めた。彼女は夢のことを覚えていた。そして、今まで母親のことを考えていなかったと自分を見つめなおし、言った。
「ごめんなさい。心配かけて」
 と、母親は彼女を見つめる。そして、笑って変な子ね、と呟いた。彼女も笑い返した。



 「ケケケ、人間は面白いな」
 悪魔が笑っている。屋根の上でいつまでもケケケ、と笑っている。そこに空から白い服を着た女の形をした何かが降りてきた。
 「人間で遊んでそんなに楽しい?」
 その女は明らかに怒っていた。黒猫が反論しようとする、がフィーがそれを制す。
 「やめとけ、クロ。こいつに何を言っても無駄さ」
 ケケケ、と力なく笑う、今までとは違う雰囲気だった……。
 「悪魔は地獄に帰れっ! 消えうせなさいっ!」
 その女は容赦ない。フィーという悪魔がどのような存在などという細かいことは無視、悪魔というだけでこの扱いだ。
 「ヤダネ、ケケケ。俺様は遊び足りないんだ」
 少し声に元気が戻ってきた。そして、言った。
 「人が見る儚い夢をいじるほど楽しいことはないからなぁっ!」
 ケケケ、とフィーは笑った。そして静かに消えた。
 女はまだなにか怒鳴っていた。その様子を影で見ながら黒猫が言う。
 「フィーも苦労するね」
 まったく、素直じゃないんだからとため息はつくが、黒猫、クロもなんだかんだ言って結構楽しそうだ。













   ――夢、それはどんなに悲しいものでも所詮、夢――

                          アグリス=レンジ






   ――夢だとわかっているのに真剣に考えてしまうのはなぜだろう――


   ――それは、簡単――


   ――それは、夢だから――




                    to be contined...

2005/04/15(Fri)02:01:17 公開 / 捨て猫
■この作品の著作権は捨て猫さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
目玉焼きをパンの上にのせて食べるのってかなりおいしいですよ(笑)
 
 どうも、この度はこんなつまらない作品を読んでいただきまことにありがとうございます。
 なんだかよくわからないものを書きました。話の流れも無理があるし、何が書きたいのかよくわかりませんね、ごめんなさい。つまらないものですが読んでいただけたことを心から感謝します。表現力もぜんぜんよくならないし……。

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 簡易感想で雄叫びを上げるほど喜ぶ捨て猫でした。
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