- 『彼ハ、風ニナル』 作者:捨て猫 / 未分類 未分類
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全角5725文字
容量11450 bytes
原稿用紙約18.95枚
◆It's a strang story
―彼ハ、風ニナル。
―そこは白い箱の中。
―風どころか、太陽の光さえ、ない。
―意味不明な機械に繋がれている、彼の体。
―生まれた時から、こうなのだ。
―しかし、彼は知っていた。
―この世には風があることを…。
―だから、求めた。
―風になることを…。
―彼ハ、風ニナル。
1,出会い
―ジリリリリリリリリリリリリリリリリリ
朝、それは曖昧な時。いつの間にか始まり、終わる時間。人によって長さが違う世界。
彼女にとってはこの時からが朝だった。心地よい眠りに、終止符をうつ不快な音、目覚ましの音。この音を好むものは少ないと思う。
―ジリリリリリリリリリリリリリリリリリ
まぁ、終止符を打たれない者もいるが…。しかし、それでも目覚ましはあきらめないで鳴り続ける。
―ジリリリリリリリリリリリリリリリリリ
これだけ大きな音でも目を覚まさないものなのか…。
―バコンッ!!
…バコン?音が止まった。不快な音が止んで、再び夜と同じ静寂がくる。
「…ん。」
彼女も気持ち良さそうに眠りに入った。これで彼女の眠りを妨げるモノはない。
目覚まし君、君はよく頑張った。えらい。ただ、回避能力がないうちは彼女を起こすと言うことはあきらめたほうがいいかもな…。
彼女の寝ているベットの下に壊れた目覚まし時計も寝ている。時間は七時前で止まっている。この季節の朝にしては少し暗い気もする。
どこにでもあるようなアパートの一室。彼女はその中で生活していた。彼女の名前は園崎林檎(そのざき りんご)。
「…ん。」
彼女は寝返りをうつ。とても気持ち良さそうに寝ている。彼女は高校生だ。もちろん学校もある。なのに、寝てる。
彼女はすでに両親を亡くしていた。普通なら親戚の誰かが引き取るものなのだろう。しかし、彼女の家は違った。彼女の両親は周りの反対を押し切って結婚したらしい。つまり、駆け落ちというやつだ。そんな子の面倒などみたくもないというのが親戚のものたちの言い分だった。しかし、毎月の仕送りは来る。かなりの額が。いったい彼女の親はなにものなのだろう。なぜ仕送りが来るか?彼女が決めたのだ。親戚が話しているところにいた彼女は散々な言われ方をして、仕舞いにはもの扱いし始めたのだ。そこで彼女が一言。
「いいよ、お金だけくれれば自分で生活するよ。」
よく考えれば普通そんな意見は無視されるのだろう、しかし大人とはよくわからないものでその意見に反対する理由がないとかいい始めて、今に至る。
「…んん。」
それにしてもなかなか起きないな。今日という日が特別だと気づいていないのか、まぁあたり前か。人間と言うものはいつどんなことが起きるなんて知らないのだから…。しかし、だから希望を持って生きていけるのだろう。
「…もう、食べられないよ…んん」
……………。まぁ、なんだ。とりあえず起きるまでまってみよう。
―彼は、考えていた。こんな生活に意味があるのかと。
―なぜ、こんな体なのに生きているのだろう、と。
―そして、決断した。
―風になると。
―そうだ、風ニナルンダ。
「もうっ!なんで目覚ましが壊れてるのよ!!」
毒を吐く彼女、しかし、壊したのは彼女本人だ。
「ああっ!遅刻しちゃうじゃん!」
かなり慌てている。ご飯もろくに食べないで、鞄になにやら重そうな本を沢山つめて、出かけていった。…はやい。こんなに早く動けるのになぜ朝、寝ている時はあんなにもグズグズしているのだ?よくわからん。
部屋の鍵をかけ、階段を滑るように落ちて…。そして走っていく。
交差点でおばあさんがうずくまっていた。彼女は急いではいたが、そういう人を無視できるほど器用ではない。
「大丈夫ですか?」
駆け寄って、いや進行方向を変えておばあさんに声をかける。しかし返事はなく、ただ唸っているだけだった。微妙に変化はしたのだが、彼女は気づかない。こんな街中なのに、おばあさんに声をかけた人は林檎だけだった。まったく、余計なことはしないってか?人助けを余計と判断しやがって…。周りの人たちは彼女とおばあさんを避けるように動いている。
「すぐ救急車呼びますから安心してください。」
林檎は励ますように言いながら鞄から携帯電話をとりだし、番号をおす。そしてここの住所、目印になるものを的確に言うとすぐに救急車が来た。あの、いやな音を鳴らせて…。
救急車からは二人降りて来て、担架におばあさんを乗せた。かなり手際がよくて驚いた。人間はなぜ…。林檎も成り行きでつきそうことになった。学校は…まぁいいのだろう。
時計はとっくに八時を回っていた。
「命に別状はありませんよ」
医者から、まぁ定番と言えば定番の科白を聞かされる。そしてご協力ありがとうございましたと言われて医者は何処かに行ってしまった。林檎は大きな白い箱の中に一人残されてしまった。学校に行くには遅い…行こうと思えば行けるのだが、今日は気分が乗らないと言うか、行くべきではない、そんな気がする。そして病院の中を歩いていると、なんだか他の場所とは違う雰囲気をもつ部屋を見つけた。なぜかはわからないが、その部屋に入らなくてはいけない気がして、いけないとはわかりながらその部屋に入ってしまった。
「失礼します。」
まぁ一応、ノックと挨拶は欠かさない。しかし案の定、中には誰もいなかった。部屋の中は本当に同じ世界ということを疑いたくなるような雰囲気だった。薄暗く、静かで、生物というものがなにもなかった。部屋を見渡すと、向こうの部屋が見えるようにガラスがあった。ガラスを一枚挟んだ向こうの部屋のベットに誰か寝ていた。なにやらいろいろと機械に繋がれていた。
「なに、アレ…」
そう、それは人とは言えないような感じだった。体中にコードが張り巡らされて、なんの機械かよくわからないものに繋がれていた。間違いなくソレは人間だった。恐る恐る近づいてみる。
「――――っ!」
ソレは苦しそうにに寝ていた。いや、他の人がみても、普通の寝顔となにも変わらないというだろう。しかし、なぜか苦しそうに見えたのだ。
静寂が訪れた。ここは太陽の光も、風も、ない世界。
2,
―彼ハ、風ニナル。
―誰カガ、彼ヲ尋ネテキタ。
―彼ハ、自分ヲ見ラレルコトガ嫌イダッタ。
―異様ノモノヲ見ル目ガ、嫌ダ。
―誰カガ、泣イタ。
―彼ノコトヲ見テ泣イタ。
―今マデニ、ナイ出来事ダッタ。
冷たい何かが頬をつたい落ちる。哀れんで出てきたのだろうか。いや、そんな器用なことができるとは思えない。つまり、悲しいのだ。同じ人間なのに、違う扱いを受けているものをみて。
「あなたは…誰?」
誰に言っているのか…。声が聞こえるわけがない。それに聞こえたとしても、こんな扱いを受けているものが話せるわけ、ない。
「私は、林檎。園崎林檎」
彼女は何を考えているのか。名乗ってなにがある。自分が救世者だとでも思っているのか。もちろん返事など返ってこない。彼はとても返事ができる状態ではない。部屋の中に一枚の紙があった。
========報告書=============================
患者名: 藍川 優 (あいかわ ゆう)
病名 : 原因不明の植物状態
患者番号: F-2374 jtskl
203×年 ×月 ×日 金曜日
報告:
患者は約十四年の間、寝たきり状態である。患者の親は延命を希望しているが、見舞いなどはあまり見られない。母親が二週間に一度来るので、状況はそのときにまとめて話をしている。患者の体は成長を続けている。病気の原因は一向にわからない。未だに名前を読んでも反応しない。医師たちの間では延命する意味があるのかなどという声も聞こえてきている。しかし、この病気を解明しないことには新たに犠牲者が出たときも、対処できず死なせてしまう恐れがある。よって、我々はまだこの病気について研究する必要があるのだ。以後監視を続ける。 以上
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どうやら二年前の資料みたいだ。
彼女は絶句した。この少年は自分と同い年であるということにも驚いたのだが、それよりもこの少年がすでに死んだものとして扱われているということだ。しばらくその報告書を持って呆然としていると、部屋のドアが開いた。
「あら?お見舞い?珍しいわね。」
一人の女の看護師が入ってきた。友達かなにかかと聞かれ、いいえと答えると一瞬驚いた顔をしたがすぐにそう、と呟いて黙ってしまった。
「そうよね、生まれてからずっとここにいるんだもの。お友達がいるわけないわよね。」
看護師はかわいそうに、と呟いて、そして
「楽にしてあげたい。」
と静かにいった。一瞬林檎はどういう意味かわからなかったが、そういう意味なのだ。
つまり、すでに人間として扱われていない彼を救ってあげたいという意味だ。看護師はなに言ってるのかしらね、と笑った。看護師の名前は尾崎 綾(おざき あや)というらしい。五年前に転任してきてずっと彼を見てきたと言っている。そして、いつも救いたいと願っていたらしい。しかし、そんなことをすればもちろん仕事を失うだろう。だから看護師はできないでいた、そしてそれをとても悔しがっていた。そのあとは軽く冗談を言い合ったりして看護師は仕事があるからと言って出て行った。なんでも看護師の話によると、母親こと藍川 裕子(あいかわ ゆうこ)もそんなことを願っているらしい。しかし、父親はそれを認めなかった。なんと機械を無理やり抜いたこともあったらしい。そのあとしばらく母親は来なくなったという。
それからお見舞い部屋というもの(ここ)が設けられたそうだ。病室には鍵がかかっていて鍵は院長がもっているらしい。しかし、最近は院長も信用が落ちて鍵を別のものに渡すという話もあるらしい。ちなみに院長の名前は小林 仁(こばやし じん)だ。
そのあと、林檎は食堂でご飯を食べることにした。
時計の針は十二時半をさしていた。
林檎はなぜ彼のことを考えているのだろう。まさか、本当に救えるとでも?はは…んなわけないか。
林檎は心に誓っていた。彼を救うと。硬く心に決めた。しかし、方法がない。どうするか。鍵は院長が持っているらしい。いや、すでに別の人に渡されたのか…。結局いい案が浮かばないまま時間だけがすぎた。時計の針は三時をさしている。彼女はお見舞い部屋でずっと彼をみていた。
彼女は疲れ切っていた。いろいろ考えただろうか。もう後半のことはよく覚えていない。
気がつくと自宅の部屋で寝ていた。たぶん、あのあと彼をしばらくみて、…帰ってきたのだろう。そして意識が戻ったのは一度きり、そのまま深い眠りに落ちていった。
―彼ハ、風ニナル。
―そこは白い箱の中。
―風どころか、太陽の光さえ、ない。
―意味不明な機械に繋がれている、彼の体。
―生まれた時から、こうなのだ。
―しかし、彼は知っていた。
―この世には風があることを…。
―だから、求めた。
―風になることを…。
―彼ハ、風ニナッタ。
だから、林檎はそのニュースを見たとき驚いた。いつもならなかなか起きない彼女だが今日はなぜか早く起きれたのだ。
十六年寝たきりの少年が自殺。
「…………。」
言葉がなかった。それになんだ?自殺?おいおい…彼はとても動ける状態じゃなかったんだぞ…。とにかく彼女は急いで病院に行った。今度は階段から落ちないで…。
病院にいきながら考えていた。なぜ自分がこんなに他人のことを考えているのか。その答えは、割と簡単で単純だったのかもしれない。しかし、彼女はまだ気づいていない。
彼の病室の前には白衣を着た人の姿があった。何人もいたがその中に尾崎という人の姿はなかった。また、院長らしき人がいたが名前は聞いたことのない人だった。藍川家の人の姿は確認できなかった。なんでも、延命処置の機械を自分で抜いたらしい…。いや、正確には藍川優本人が延命機器のコードを持っていたということだった。自分で抜いたのか、それとも…。あまり考えたくないことだった。彼女は泣いていた。病室の周りにいるやつらは泣きもせず、淡々と自分に与えられた作業をしているだけだった。彼女は泣き疲れた。そしてそのまま藍川 優の顔を見ることなく家に帰宅した。結局学校を二日も休んでしまったわけだが、今の彼女にはどうでもよかった。
それにしても、なぜ話したこともない人物のことをおもっているのだろう。理由はもうわかっていた。彼女は、彼のことが…。それを恋と呼ぶには難しすぎるだろう。なんせ、相手は話せないうえ、もうこの世にいないと。思いを伝えることなく終えた。それでも、それ以外理由は思いつかない。しかし、もうどうでもいいことだ。
3,終幕
―彼ハ、風ニナル。
―このくだらない生活を捨てて。
―泣いてくれた人がいたのに。
―思ってくれる人がいたのに。
―それでも…
―僕ハ、風ニナル。
キーンコーンカーンコーン
チャイムが学校に響きわたる。あれから彼女は何事もなかったかのように生活している。
しかし、どうしても腑に落ちないことがあった。なんでも、彼の部屋の鍵は開いていたらしい。つまり、ダレニデモコロセタ。ということだ。まさか今のこの世の中に限って、無抵抗の人を殺すだろうか…。そんな人がいるわけないのだが、なにか引っかかっている。
なぜだろうか彼女は知っているような気がする。重要な何かを…。
ニュースでも散々な言われ方をしていたが、すぐにさめて今日も新しい事件を散々な言い方をしている。
彼女は気づくだろうか。彼は本当に救われたのか…。いろいろ疑問は残る。しかし、今となってはこの事件の真相を知っているものはいないだろう。
この不可解な事件を追ってとある探偵が捜査するのだが、それはまた別のお話。
to be contnued…
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2005/04/10(Sun)13:08:27 公開 / 捨て猫
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■作者からのメッセージ
なんか、終わりがすっごく微妙になっちゃいましたね…。いや全体を通して面白いかすら危うい小説?です。つまらないモノを読ませてごめんなさい。でも、書いてる時ってすごく楽しくて、やめられないんです!><
悪いとこいっぱいあって言うのがめんどくさいかも知れませんがアドバイスをいただけるとうれしいです。
本当にこんな作品に目を通していただき、ありがとうございます。(土下座)
でわ、また書かさせていただきたいと思っていますのでよろしくお願いします。