- 『無題』 作者:五月 / 未分類 未分類
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「会いたいよ」
いつのまにか由紀の手がケータイへと伸びて、メールを打っていた。
ピッ 送信しました
由紀はそれをみてふぅーっとため息をつく。
そして意味もなくケータイをパカパカ開けたり閉めたりする。
「………」
どうせ返ってくるわけないのに期待してしまう。
もしかしたら、起きてるのかもしれない。わざと見てみぬふりしてるのかも。
由紀はちら、と部屋の時計を見た。
午後5時。
「向こうは今、……深夜3時か」
起きているわけがない。
由紀はガックリと肩を落とした。
あなたに、会いたい。
あなたは私のこと、どう思ってる?
アメリカへ行っても、少しは私のこと、思い出してくれてる?
私に…会いたい?
机の上にある、健二と向こうでの友達との写真を指ではじく。
1週間前、健二から届いた手紙に入ってた。
「…楽しそうね……」
こんなに楽しくしちゃって。私のこの気持ちなんて知らないんだろうな。
そう思うと、なんだか無性に悲しくなって。
由紀はベッドに倒れこんだ。
そして、ケータイをぎゅっと胸におし当てる。
「…健二」
そして、顔をくしゃくしゃにして毛布をがばっとかぶった。
毎日会えない事がとても苦しい。
まだ、帰ってくるのに1ヵ月もあるじゃない。
早く、健二に会いたいよ。
早く、その日焼けをして、八重歯を少しみせるような笑顔が見たいよ。
どうして私とつき合ったの?
置いてかれるのなら、ほっておいてくれたらよかったのに。
つき合ってすぐ留学なんて。
私の悲しみもそっちのけ。
もうやだ、別れたい…。
……でも、好き…。
ぴろろろろろろろ
ケータイが鳴った。電話だ。
由紀はがばッと起き上がってケータイを耳におし当てた。
健二!?
「もっもしもし!?」
「あっ由紀ー?」
由紀はガクッと肩を落とした。
「…、加奈?どしたの」
「なによー、テンション低ぅ」
「……今ちょっとブルーなの」
「そーいや、声が少し震えてるね。健二君のことぉ?」
「……だったらなに」
「もう別れなよ。もっといい男いるよ?しかも身近だしぃ」
「…うーん、でも……好きだから」
「あっそ。んじゃ」
「あっちょっと、何のために電話かけたの」
「何って…。暇つぶし」
「えぇ!?」
「だって今暇なの。だから。じゃねv」
「え?うん」
切れた。
一体なんなんだろう。
由紀はケータイのディスプレイを見つめた。
そして、目をめいっぱいに開けた。
メール、一件。
しかし、メールは加奈からだった。
由紀は少し落ち込んだが、とりあえずメールを開けた。
『がんばれ』
「ぷっ」
なにこれ。
由紀はおもわず笑った。
ただ一言。がんばれ。
クールに見えて、いいとこあるじゃん、加奈。
由紀はそんな自分の親友に心から感謝した。
加奈は由紀より断然頭もスタイルもよくて、いつもお世話になりっぱなし。
いろんな経験もしてて、恋愛関係でよく相談したな。
いつか恩返ししなきゃ。
由紀はケータイを折り畳んで、ベッドに放りなげた。
加奈のおかげで少しは気が楽になった。
まだがんばれる自分を見つけたから。
ぴろっぴろっぴろ
由紀は放り投げたケータイをうさんくさく見つめた。
「…………」
メール、一件。だろう。
果たして誰だろうか。
期待する自分がイヤだった。
もし、違ったら傷付くから。
でも、もしかしたら………。
由紀は目を堅くぎゅっとつぶってケータイを開けた。
そして、おそるおそる目を開けていく。
『メール一件、健二』
由紀の心臓が痛いくらいに強く胸を打ち付ける。
「わっわっわっ」
そして震える手でメールを開く。
『俺も。……いつもそう思ってる』
ねぇ、健二。
私、日本でがんばってるよ。
健二はモテるし、カッコイイし私には不釣り合いなのかもしれないけど。
私はあなたが大好き。
もうちょっと、がんばるね。
今度、私と会う時は、抱きしめて。
そして、外国であったいろいろな事を教えて。
待ってる。
遠い距離を乗り越えて。
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2005/04/10(Sun)11:51:38 公開 / 五月
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■作者からのメッセージ
こんにちは、五月です。
今回は恋愛ならではのもどかしさ、をプレゼントさせていただきました(笑
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