- 『fall in love』 作者:五月 / 恋愛小説 恋愛小説
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惚れ薬、といのは魔女たちの永遠の課題である。
たとえ、物を空中に浮かばせることができても、壊れたものを一瞬で直せても、
人の気持ちは動かせない。
しかし、恋というものは人を良い方にも悪い方にも変えるもので、魔女が恋をすればかならず惚れ薬に手を出すという。
たとえ、それが偽りの恋愛だとしても。
あなたの目にうつりたい。ただ、それだけ。
たとえ無駄なことだとしても。所詮、女の子だから。
「沙菜ちゃん、今日はどこ行こうか?」
容姿抜群、頭脳ももちろん、性格もやさしいというまさに女の子の理想の男、由(ゆい)が私がだけを見ていた。
そのことがとっても嬉しくて私の気持ちは高揚した。
「どこでもいい。由が決めて」
由は指をあごにのせて「考えるポーズ」をした。
「そうだな、ゲームセンターにでも行こうか?」
「うん!」
沙菜は力一杯うなずいた。
そして二人は手をつないで、ゆっくりと歩き出した。
頭の上でゆれる少しとんがった帽子は魔女のしるし。
しかし、真っ黒ではない。これからは魔女もオシャレに生きて行こうと沙菜は決めていた。
普通の女の子のようにめいいっぱいオシャレをして、いろんな恋をして、生きて行くんだ。
沙菜は胸をいっぱいにして、毎日を生きていた。
そんな、幸せな日々。
ある日、町で彼を見かけて一目惚れをした。
カッコよくて、そばを通り過ぎるだけなのに死にそうな程心臓がバクバクした。
しかし、それもつかの間のあいだ。
オンナ連れだった。
しかも、私はめざとく左の薬指にはまっている指輪を見つけてしまった。
まるで頭の上に石が落ちてきたようなショックだった。
そして、魔女である私は魔法へと手がのびた。
今だ成功したことのない研究。魔女の永遠の課題、惚れ薬だ。
まだまだ未熟な魔女で、師匠にも無理だと言われたけれど。
私はいままでないぐらい必死に取り組んだ。
あの女なんて、捨てさせてやる。そして、彼は私がもらう!
淡い恋が悲劇を呼んだ。
奇跡的に完成した、惚れ薬。
師匠も承認して、私は本格的な魔女の印をもらった。
師匠はこれを売るべきだと言ったけれど、私は断った。
あの人のために作ったのだから。
そして、こういう関係ができた。
由は婚約を破棄して、私だけのものとなった。
幸せ。私は今、とっても幸せ。
だけど、この胸の透き通る感じはなんなのだろう。
甘い言葉も、耳を通り過ぎてしまう。
「好きだよ」と言われても素直に喜べない。
どうして?
由のことが大好きでしょうがないのに。
ジュースを買って惚れ薬を魔法で中に入れた。
さりげなく、彼のもとへ持って行って。告白して、これをあげた。
彼はやさしくて。
沙菜にやさしく断った後、ジュースは受け取ってもらえた。
所詮、惚れ薬。
所詮、偽物の恋愛。
それがここまで悲しいなんて。
顔では笑みを浮かべたけれど、心の中はいつも曇り空だった。
「ごめんなさい」
沙菜がそう切り出すと、由は首をかしげた。
「何がだい?」
沙菜は由の顔を直視できなかった。
うつむき加減で言葉をつむぐ。
「やっぱり無理です。元に、戻って下さい」
そして驚き顔の由の目の前で、どこから出したのか杖でひとふりした。
「ばかだね、あんた」
師匠が笑い飛ばした。
「惚れ薬なんて、所詮そんなもんさ。偽物の愛、結構じゃないか」
「うん…。でもやっぱりつらかったから」
「そう?」
周りの木々がさわさわと心地よい音を出す。
日も照って沙菜は、まるで心があらわれるように感じた。
「そうだ、ひとつ教えてあげようか」
師匠がずい、と顔を寄せてきて二人の帽子がぶつかった。
「?」
「惚れ薬、成功したものはいないって言われてるけど…」
師匠はにやり、と口の端をあげた。
「実はみんな完成してるんだ。ただ、発表しないだけ」
沙菜はびっくりして、軽いショックを受けた。
「本当?でもなんで?」
「それはね……」
師匠が沙菜の耳にささやいて、沙菜は目を大きく開けた。
そして、目を細めて微笑んだ。
「まったくその通りだね、師匠」
………「偽物の恋なんて、つまんないからさ」
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2005/04/08(Fri)15:14:53 公開 / 五月
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■作者からのメッセージ
この作品は、自分自身あんまり好きではないのですが、いろいろな意見を聞きたいと思って投稿しました。
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