- 『出口の無い城』 作者:月海 / 未分類 未分類
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私は吸血鬼だ。
陽の光を浴びれなくなってからどの位の月日が経ったのかを覚えていない。唯一つ理解しているのは、血の臭いと土の匂いが混在するこの穴倉が今の住処だということだ。
この空間は闇に支配されている。光の居場所は無く、私にとっては過ごし易い環境。今の私はきっと陽の光を浴びれば死んでしまうから、この土作りの穴倉は私にとってオアシスの様なものなのかも知れない。だから闇に心細くなったりなどしない。
暗闇に眼は慣れた。
しかしながら生きるためには食事が必要だ。闇がいくらあっても、腹は満たされないし乾きも潤せない。食料が尽きたら、私はこの土倉を出て行かなければならない。
だが、今のところその心配は無かった。腹を満たす固形物。渇きを潤す液体。私がこの土倉で目覚めた時からそれは用意されていた。
そもそもこの土倉は狭すぎる。私はいつも食料と共に寝ているのだ。腹を満たす肉。渇きを潤す血液。人の死体と一緒に寝ているのだ。
暫くの間は、死体が四六始終傍らにあるという状況に恐怖した。吐き気をもよおす時もあった。しかしそんなことをしては彼らに失礼だということに気付いたのだ。彼らは食料として、私の為に犠牲になっているのだから。感謝しなければならない、恐れてはいけない。その考えに至った時、
腐臭に鼻は慣れた。
泣きたくなる時がある。この狭く暗い空間には私しかいないのだから、思い切り泣きたいと思う。けれど涙が出ない。水分が不足しているからだ。私は血を飲むだけで生きていけない。水が飲みたい、そう願う私は吸血鬼として半人前なのかもしれない。
人間の頃の記憶を思い出そうとする。私を待っている人がいる気がする。恋人だったか、妻だったか、息子だったか、娘だったか。とにかく私は待ち人の為に、吸血鬼として生き永らえる道を選んだのだ。そう思いたい。
この土倉で目覚めた直後のことを思い出そうとする。死体は五つあった。女、女、男、男、男。私は始めに女の血をすすって、男の肉をくらった。
今、食べなければ死ぬが、食べても死ぬ。それほどまでに肉が腐ってしまった。これで実質私の食料は尽きた。私はこの場所から外に出なければならない。
どうやって?
そんな問いが頭の中を巡った。私の住処に出口は無い。出られるならとっくに出ている。一体誰が私をここへ閉じ込めたのだろう。否、私はその答えを知っている。
私は神を呪いながら、眠りに落ちた。
私は大きな振動によって目覚めた。世界そのものが揺れている、そんな感じだった。土埃がひどい。揺れは収まらない。段々と強くなっている。
一筋の光が射し込んできた。陽の光だ。
私は陽の光を避けようとした。だが動けるほどのスペースも体力も無い。
光はゆっくりと広がっていく。私の生存区域が狭められていく。
私は吸血鬼だ。吸血鬼は陽の光を浴びたら、塵になって消える。そうあって欲しいと願った。
誰にも今の私を見せたくない。
やがて光は全てを包み込んだ。
「見つかりました! 生存者一名!」
発見されたのは、十日前から捜索願が出されていた六人の遺体だった。男が三人、女が三人。
S村で土砂崩れ、男女六人死亡。この事故については様々な噂話がある。
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2005/04/06(Wed)13:41:54 公開 / 月海
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