- 『心の夢』 作者:五月 / 未分類 未分類
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ひとりの女の子が走っている。
「はぁっ……はぁっ」
年は中学生くらいで、長い髪をなびかせ、必死に走っている。
夜の学校は、月明かりが眩しく見えるほど真っ暗で、恐ろしくて。
しかもここはどこの学校か見覚えがない。
でも、ひとつだけ分かっていることがある。
私は、だれかから逃げているんだ。
* * *
「またひとりがみつかったぁーっ」
廊下に大きな声が響き、窓ガラスがビリビリ反響した。
ある教室に身を隠していた女の子、心(こころ)はビクッと体を震わした。
(またひとりっ!?どうしよう)
この教室には内側から鍵がかからない。
ここもじきに見つかるかも知れない。
心はだるい体を起こし、廊下へと出た。
怖い、怖い。
(私は何から逃げているんだろう?)
それすらもわからなくて胸の中は不安と恐怖でいっぱいだった。
とても、恐ろしいものから逃げている、ということだけがわかっている。
廊下は見つかりやすい。
心はこの階の上の3階へと向かった。
* * *
だんだん冷静になってきた……かもしれない。
第一の疑問、この学校の正体がわかったのだ。
3階へ向かう道のり、教室の風景…。
心はひらめいた。
(ここは、私の行く中学校だ…)
でも、どこかタッチが違う。でも全然見覚えのない場所でもない…。
「あっっ」
心は何かにつまづいて、廊下に派手に転げてしまった。
そのおかげで膝を強く床に打ち付け、大きく擦り剥けてしまった。
「いったぁ…」
目の端に涙が盛り上がる。
(やだ、なんで泣いてるの!?)
心は普段、泣かないように、泣かないようにと毎日をすごしていた。
なのに転けただけなのに涙がでてくるなんて…。
やはり緊張感からか。転けたのをきっかけに涙はどんどん溢れてきた。
涙を手の甲でぬぐい、どうにか起き上がると急に胸がしめつけられるような恐怖につつまれた。心は両手を胸にあて、シャツをぎゅっと握った。
(逃げないと!!)
心は膝を擦りむいた痛みも忘れて、一目散に廊下を走った。
目指すは3階。階段を一段、二段と抜かして、歯が鳴らないように歯を強く食いしばってのぼる。
心の中はとても怖いのに、頭はなぜだか驚くほど冷静だった。
まるで体が二つに離れてしまったようで気持ち悪かった。
心は3階のいちばん端の教室へつくと、ドアを思いきり開けて、思いきり閉めた。
* * *
「音楽室……」
黒塗りのピアノが月光で鈍くひかっていて、壁にはベートーベンたちが飾られている。
幸い、音楽室にはだれもいなかった。
でも、ピアノや壁の絵が心をひどく不安にさせたので、心はもう一つ奥の音楽準備室の中へ入った。
準備室は、内側から鍵がかけれるようになっており、鍵をかけて用心のためにほうきで突っかけ棒をした。
するとどっと安心感が押し寄せてきて、心はその場でへたり込んだ。
これでそんなに簡単にはみつからない…。
夜が明けるまでにみつからなければいいのだから…。
それでも念には念をかけて心は壊れたティンパニの影に腰掛けた。
するとだんだん眠気がやってきて、意識がもうろうとしてきた。
(はぁ、すこし、休もう…)
* * *
「あ、久美子。おはよう、どうしたの?」
久美子はどことなくうつろな目をして校庭を歩いていた。
顔も青白くなっている。食べてないのだろうか?
「ううん…。おはよう」
「う、うん。ねぇ、保健室行ってき?なんか調子悪そうだよ」
肩をさすると、久美子はいい、と心の手を振払った。
「でも、このまま授業はキツイよ?」
「……うーん。じゃあ、トイレ行ってくる…。吐きそう…」
「うん、行ってきな。付いて行こうか?」
「…いいよ。じゃあ」
すると久美子は手を振って「ばいばい」と行った。
心は「わざわざバイバイと言わなくてもイイのに」と思ったが久美子に手を振ったのだ。
それが、久美子を見た最後。
* * *
「はっ」
心は胸を押さえて目を開けた。
嫌な夢を見たんだ。悪夢。だけど、実際にあったこと。
心は心を落ち着かせるために深呼吸を何回かした。
そして、この学校について考えてみることにした。
(この学校は……モンタージュなのかも)
ところどころに見覚えがあるのに、全部を見ると印象がない。
考えられる中ではきっと、前の小学校と今の小学校と中学校だろう。
けど、まだわからないことがある。
私は、なにから逃げているの?
つかまると、どうなるの?
わからない………。
でも恐ろしい恐怖にかられることだけは明確だ。
どうしてこんなことになったのだろう。
それもわからない。
「どうして?」
もしかして記憶喪失?
思い出せないことがこんなにつらいなんて。
心は唇をぎゅっと噛んだ。
すると廊下に…いや、きっと学校中に大きな音が鳴り響いた。
カァーン、カァーンカァーンカァーン……
心は今までにない至福感を得て、それと同時に体中に鋭い痛みが広がった。
この追いかけっこが、終わったんだ……。
* * *
「心っ心ッ 聞こえる!?」
私は薄く目を開くと、涙顔の母親の顔が飛び込んできた。
体中が痛い。
「よかったっ ううっ 生きてるわ…っ」
目だけで部屋を見回すと、母親の他に父親、妹、そして看護婦さんがいた。
私は口を動かそうとした。
するとそれに気付いた母親が「しっ」と部屋をしずめた。
「……こ…ここは…?」
「ここは病院よっ。あなた、学校が壊されるとき、中に突っ込んで下敷きになったのよ!」
ああ。
そうだった。
心の通う学校が廃校になって壊されるとき、中に入って自殺しようとしたんだ。
昔、いじめで自殺した心の親友、久美子がそこで死んだから。
毎日がいじめのくり返しで、切なくて、悲しくて。
唯一支えてくれた久美子が「どんなにつらくて死なない」と言ってたのに裏切り、あっけなく死んでしまった。
久美子をひきとめればよかったという後悔。
いじめで友達もできない毎日。
久美子が死んだ学校で私も死のうと心に決めたのだった。
じゃあ、あの夢は悪夢?心の中を写した、夢なのか。
あんなに怖いと思って。終わったときものすごい安心できた。
やっぱり、本音では怖かったんだね…。
これからは一生懸命生きようか。
あの悪夢は私の人生をかえてくれた。
そして、一生、あの夢は忘れない。
もし、苦しくなったら、あの夢を思い出そう。
死ぬことよりもつらいこと、悲しいこと、怖いことなんてありえないんだから。
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2005/04/04(Mon)17:18:17 公開 / 五月
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■作者からのメッセージ
初投稿です。
上手にできているか不安ですが、感想など
くれたらうれしいです。