- 『球根な私の一日 【タイトル変更】』 作者:夢幻花 彩 / ショート*2 ショート*2
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原稿用紙約10.6枚
――目が覚めたら、わたしは球根になっていました。
びっくりしました、だって球根です……って、球根?!ちょっと待って、っていうか待とう、待ってくださいお願いだから。あのさ、なんで球根になんなきゃいけないわけ?!訳わかんないよ?
私は自分の姿を鏡に映してみる。球根になっている、というのは頭が球根、あの玉葱の形をしているということだ。目も鼻も付いていないのにどうやって見えているのかとか突っ込まないでね、私にも判んない訳だし。
……全部標準的サイズの私のスタイル。ドット柄のパジャマの襟、その上にあるのは、
――見事なまでにつるんとした球根。禿げるより切ない。
ところで、多分今あなたは私が頭が球根になったとか言う割りに落ち着いてるなぁとか思ってません?確かに普通ならもう発狂してるんだろうね、どんなに冷静な人でも半狂乱くらいなのかな?
んじゃなんで私がこんなに冷静……でもないけどまぁこんなもので済んでいるのかと言うと、一週間くらいから世界中の人の頭が何か花の形に見えるようになったから免疫が付いた、とでも言っておこうかな。あ、そこで私の気が狂ってるって思っちゃ駄目だよ?私にしかそう見えないんだから確かにそうかもしれないけど、ね。
びっくりした、何て可愛いもんじゃない。だって朝目が覚めて、リビングに行ったら巨大なポピーと桜草――お父さんとお母さん、が「お早う」って言った。
あんまりにも気持ち悪いからぎゃぁぁぁって叫んで朝ごはん食べずに家を出て、駅に言ったら私が名前を知らない花まで凄いいっぱい歩いてて、気を失って倒れた。はっと気がついたときには、タンポポが大丈夫ですかって聞いてきて、また意識が遠のいていった。
みんなには普通に見えてるらしい。っていうかそうじゃなかったら今頃世界は崩壊だ。だって花は可愛いけど自分がそうなるもんじゃない。なっちゃいけないと思う。間違いなく駄目だ、狂ってる、おかしいありえない。
とりあえず必死で慣れようとした一週間。すみれの表紙の雑誌を買ってみたり、撫子が主人公の月9も見て慣れたり。だからなんとなく、慣れたっていうか予測してたのだ、自分ももしかしたらある日何かの花に見えるかもしれない、と。
そう、予測はしてたんだ。チューリップだとか百合だとか、菖蒲、薔薇、向日葵、紫陽花。カスミソウとかだって。
だけどさぁ。なんで「球根」なわけ。頭を、あー、もとい球根を触ってみる。キュッて最低の音がした。
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キャベツの話す(一応言っとく、渾名じゃなくて文字通りキャベツ)世界史を適当に聞き流しながらって言うよりまったく聞かず、私はさっき名づけた『THE・植物顔大事件っ!!』のことに付いて考えていた。にしてもわれながら安直な名前だな。それ以前に社会科はキャベツかよ。渋い顔してたのに効きもしないむやみに高い化粧品代で家計がヤバイ悩める主婦の味方になっちゃった。
さて、私はこの一週間で、気付いた事がある。それは、花が性格を表している、という事だ。……ん、なんか当たり前すぎてあんまり反応ないなぁ、仕方ないけど。あ、んじゃこれは?あのね、同じ種類の花でも枯れそうだったり、すごい綺麗だったり、色とかだって皆少しずつ違うんだ。これ結構面白いよ?例えば、あり得ない位に可愛かった子とかがもう茶色く変色した雑草だったりとか、優しいんだろうけど顔はなぁ、って子が真っ白できらきらした白百合だったりとか、兎に角その人の性格がちゃんと判る。ちなみに憧れだったサッカー部の室内先輩、へんな色した苔みたいなので超幻滅しました、むしろもう嫌いです。
と。……あれ、なんだかとても気付いてはいけない事に気付いてしまった気がする。うわ、最悪なのですけど。
枯れてても皆普通に花とかせいぜい草だったりとかした。あの、私は……?
きゅうこん。もしくはたまねぎ。……なんとかっていう漫画の男の子でそんなような頭の形した男の子がいた気がするけど私は花も恥らう(!)十五歳の乙女なのだ。こんなだけどでもやっぱり女の子なんです神様。私の事虐めて楽しいですか。そりゃ他の人にはまともに見えてるか何か知りませんけど洋服買う時何着れば良いというんですか、あー違う違う、それ以前に球根って私いったいどんな性格だよ。
私が苦悩している間に勝手にキャベツの授業は終わっていたらしい。はっと気付くとスイートピーとホウレン草がお弁当を持って私の席に来ていた。多分声のトーン的に笑ってるんだろう。表情が判らなくて困る。いやホウレン草が笑ってたりするのをみたらもう二度とそのビタミン源、食べられなくなるわけだけど。
「何してんの、そんな悶々とした表情して」
「そうそう」
球根がそんな顔をしているところも見たくない気がする。微妙に突っ込みつつお弁当を開いた。……あのさ我が母君、頼むから玉葱入れるのはやめよう?
「うわー、あたしホウレン草嫌いなんだけどー」
「あ、んじゃあたし食べてあげる」
ホウレン草がスイートピーの方に手を伸ばし、ホウレン草のソテーを食べる。嗚呼共食い。かなり切ない。ところでどうやって何処で食べてるんだという突っ込みもなしでよろしく、私にも判んない。天からそこまでちゃんと考えてなかった……ま、いっかという適当な声が聞こえるのは気のせいという事にしておこう。
私はぶすっとしたまま玉葱を除くお弁当をぺろりと平らげそのまま席で寝る事にした。何も考えなくてすむし楽だ。ホウレン草たちは完全無視した。
しろくてふわふわしたくうかん。これは、ゆめ……?
『ママー見て面白いよー球根が歩いてる〜』
『指差しちゃ駄目よ、向こう行きましょうね』
なに、わたしのこと?
『うわ、あれキモくない?球根ってかたまねぎだしね?』
『あ、ホントだ〜!!馬鹿じゃない?よく平気でその辺歩けるよね、あたしだったら恥ずかしくて死ぬ〜』
『あはは、っーかさ、まずあたしらみたいな普通の人間だったら球根にはなんないし?』
『あ、言えてる〜』
うざい。むしろおまえらがだまれよばーか。
私が悪いわけ?外見が他の人と物凄違くて変だったら、もう存在しちゃいけないっていうの?他の人と物の捉え方とか考え方、そういうのが違って、人に害を出さなくても変わってたらもうその時点で人間失格?変人?ヤバイ人?例えどんなにそれが理にかなってても?まだ完成途上でも?駄目なの、何で?納得いくように説明して。
次の瞬間、球根が爆発した。思わずぎゅっと目をつぶって、白煙が消える頃になって私は目を開ける。震える手で鏡を取り出した。
――ちょっとピンクがかった白の、水仙。なんだ、私結構綺麗じゃん。
これから花開くかもしれないのに。
これから最高の花が咲くかもしれないのに。
どうして中途半端に咲いた花が、咲く前の花を笑う事が出来る?
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――目が覚めたら、私は人間に戻っていました。
全力で疲れた、っていうか夢のくせに一週間とか長すぎるから。ああもう、これから学校いくのしんどいんだけど。熱があることにしてさぼってやれ。
本当にあの夢で熱がでたのか関係ないのか、絶対後者だろうけど事実熱があって、私はベットでくるくると回る世界を睨む。ホウレン草、もとい芳子から「大丈夫ー?一応言っとく、今日社会科の河辺センセ、休み」メールがあった。知らないってそんな事。絶対あいつ私がさぼったって思ってる、どうせさぼるつもりだったからいいんだけど、そんな事を思いながらふと窓ガラスに映る自分の顔をまじまじと見た。
つるんとした球根、一瞬だけそう見えて、焦って瞬きしたらもうそれは見慣れた普通の何の変哲も無い私の地味な顔になっていた。
今は球根でも、いつか綺麗な水仙になれる日が来るように、私は毎日を堂々と球根らしく生きていこう、何て臭いことを考えて自分で馬鹿らしくて笑った。
終わり
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2005/04/17(Sun)00:26:16 公開 /
夢幻花 彩
■この作品の著作権は
夢幻花 彩さんにあります。無断転載は禁止です。
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■作者からのメッセージ
この物語はフィクションであり、実際の人物、団体、夢幻花 彩には一切関係ありません。……。……ごめんなさい。私の名前をみて「タイトルはあれだけど真面目にはかいてるんだろう」とか思って読んでくださった方、特にごめんなさい。じつはギャグモノも書こうと思えば書けたんです(汗)今まで騙してごめんなさい(号泣)
とりあえずこの間書いた恋愛モノでスランプ抜け出しきれず指休め。適当に書いたのです。そんなもの投稿するな、そういう世界ですよね、ホントに今日の夢幻花はもう謝る事しかできません、ごめんなさいっ(顔面蒼白)
さてさて。虐めない程度にレスください。
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再・ごめんなさいです。ふと昨日の清掃の時間、学校の中庭でみた球根をみてさり気にこの小説の事【球根な一週間】を思い出し、気付いてしまったのです。そう――
……一週間、も球根じゃないし。
とりあえず、本当にお許しくださいっ。無視してそ知らぬふりをしようかとも思ったのですが気になって気になって(涙)
それではこんな馬鹿みたいな小説を読んでくださった方、本当にありがとうございました。とくに「真面目」期待された方。ちなみにこれなんで書いたかって言うと、始めの一行と「禿げるより切ない」書きたさです(汗)ついでに後半に入ってからの展開は何も考えてない夢幻花の脳の代わりにこの十本の指が打ってくれたのです、本当にありがとう、いつも酷使してゴメンね、指さん(まったく、世話が焼けるなぁ By夢幻花の両指)ってそんな事はどうでもよいのです、指より何より、それでも呆れずレス下さった皆様っ!このご恩はいつかきっとっ!!(本当なかなか読みにいけなくてごめんなさい 涙)
さて。