- 『柵のむこうに』 作者:zenon / ショート*2 ショート*2
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全角1554文字
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原稿用紙約5.4枚
「うひょー」
人間の声とは思えない叫び声をあげ、近藤は温泉にとびこんだ。大きな水しぶきができる。そしてその直後にまた叫び声がした。
「うひゃー」
さっきの叫び声とはまた違う、今度は悲鳴のような近藤の声。
「どうした?」僕は訊いた。
「あたっ!」
「『あたっ』って何だよ」
「いや、い、いや、反動で足の指を角にぶつけちまって」
近藤は顔をしかめてそう言う。
「ばかだなぁ」
近藤は思いっきり温泉にとびこんだとき、足の指を仕切りの石の角に当てたという。近藤は続ける。
「うわー皮むけてるよー」
いちいち実況するな。皮がむけてたから何だ? そんなことで死なないだろう?
「薄皮とれたー、うわきもちわる」
何かが起こるたび喚き声をあげる。うるさいなあ……。
「うっせえよ近藤」
思わず思っていたことが口に出てしまった。
「お前こそでかい声張り上げてうっせえよ」
近藤自信が一番うるさいということに、まだ気付いていないようだ。
「お前のほうがうっせえんだよ」僕は反論する。
「なぁなぁ」
近藤は自分が窮地に追い詰められていると気が付いたのか、いきなり話題を変える。
「この竹か何かの柵の奥、女風呂だよな?」
嫌な予感。
「え……? 何でいきなりそんなこと言うんだよ」
大体近藤が何をしようとしているのか予想はついたが、あえて口にはしなかった。
「お前も鈍い奴だなぁ。女風呂を覗くんだよ! の、ぞ、く、の!」
近藤に鈍い奴と言われるとは。屈辱にまみれながらも一応言っておく。
「やめとけよ。後でどうなるかわかんねえぞ」
これは後で先生に怒られたとき、「なんでお前は注意しなかった!」と巻き添えを食らわないようにするための予防線というものだ。
「見つかんねえって」
自信満々の近藤。
「けどさ、この柵かなり高くねえか? どうやってのぼるんだよ?」
話にのってみる。すると近藤はにやけた顔でさらに続ける。
「おいおい、誰ものぼるとは言ってねえぞ。」
「どういうことだよ?」
「あはは山下君、君はまだこの柵の盲点に気付いてないようだね」
どこかの有名大学の教授っぽく近藤は言う。
「これは細い竹が何列にも並んでできている。つまり、」
「その竹と竹の間から見る……ってわけか」
「せーいかい」
所詮近藤。大体言うことは予想できたが……。
「思いついたら即実行、早速覗いてみましょう!」
そう言いつつ、近藤は竹と竹の間に指を挟み、少しずつ、少しずつ広げていく。
「お―――――!」
柵のむこうを見て、馬鹿みたいな大声をあげた。とほぼ同時に、
「きゃ―――――!」
鼓膜が破れそうな、高い叫び声。そしてその数秒後また柵のむこうから叫び声がする。
「すねこんどあ―――――!」
興奮のあまり、柵の向こうの女子が何を言っているかよくわからない。とにかく単純に言えばこうだ。近藤は覗いてすぐ、女子に見つかった。
「おえおええええ、やべえええよよおおおよおおおお!」
今さらそんなことを言ってももう遅い。
「どうしよどうしよどうしよどうしよどうしよ……!」
しかしなぜか近藤の顔は笑っていた。こんな状況を楽しむ近藤になぜか感心していたとき、僕の頭上から、
――バコッ
桶が落ちてきた。偶然にも桶の角があたった。気を失いそうになった。
「だいじょうぶかやましたあああ!」
「お前らはなぁ……」
47歳保健体育担当植野浩之の怒号が廊下に響いた。お前『ら』……。なぜ、何もしていない僕まで怒られなきゃならないんだろう。
植野の説教は15分くらい続いた。僕は何度も関係していないと説得しようとしたが、興奮している彼の耳にはちっとも入っておらず――。
楽しい修学旅行のはずだったのだが、植野の説教で終えることとなりそうだ。
「おい山下あ! きいてんのかあ!」
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2005/03/30(Wed)20:35:12 公開 / zenon
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■作者からのメッセージ
はじめまして。zenonと申します。この掲示板でははじめての投稿となります。
これは、ずいぶん前に書いて保存してあったもので、この前もう一度見直してみると、変なところがありまくりでした。
そのようなところを修正したのですが、やはりまだ修正すべき点は多数あると思います。
自分が書いたものは主観的に見てしまうので、客観的に
そのような点をずばずば指摘してください。