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『ダイエット』 作者:銭亀 / 未分類 未分類
全角1347.5文字
容量2695 bytes
原稿用紙約4.5枚


 
 夏のある夜
 


 すっかり日が暮れた川沿いの道。川の流れだけが聞こえる無音の空間。
 たまに吹いている風が涼しくて心地よい。
 リリリリリ……
 ジー……ジー……
 どこからか聞こえてくる虫の鳴き声。
 道の端に生えている枯れかかった雑草は音楽好きの虫達の集まりの場所。みんなそろって合唱中。
 リー……ジー……ジー……
 おもわず聞き入ってしまいそうな虫達の鳴き声。さあ合唱もいよいよクライマックス。
 みなさんそろって……
 グシャ
 突如鈍い音が演奏を途絶える。
 哀れにも次の瞬間には目印の枯れた雑草はひしゃげていた。
 合唱会は見る影もなし。虫達は自分達が死んだということさえも気がついていないだろう。
 大きな影が大地を揺るがして前進する。ふぅ、ふぅと激しく息をしながらどすん、どすんと大きな音をたてて走っている。
 とにかく大きな影だ。何メートルくらいあるのだろうか?川岸の小動物からみたらゴジラのようなものだ。
 それは人間の男だった。眼鏡をかけていて髪はマッシュルーム刈り。かなりの長身で185以上もありそうな身長。たらこ唇ににきび顔。
 そしてなにより太っていた……
 
 
 


 「俺は女の子の手を握ったことどころか女の子と話をしたこともない。」
 まさに今の俺はこんな状態だ。あいさつでさえここ2年間していないような気がする。
 そんな俺は現在高校2年生。本来なら青春真っ只中の時期だ。
 しかし俺に青春という文字は無い。俺にあるのはギャルゲーとガンダムの豊富な知識くらいだ。
 ――自分でも分かっているさ。俺がもてない理由くらい。世間から見たら俺はいわゆるオタクというものなんだろう。
 デブで眼鏡でマッシュルームカットで運動嫌いときたら、まぁ世間が俺をオタクと認めても間違ってはいないだろう。第一俺自身自分がオタクだって認めている。
 だがしかし周りからブタだのデブだの言われてただ黙っている俺ではない。小学生の頃の俺はいたずらっ子で、よく女の子のランドセルにトカゲだの蛙だの忍ばせたものだ。
 おかげで俺はいつも女子の敵だった。そして月日は流れて……今じゃこの有様だ、女性とは2年以上会話を交わしていない。
 しかし俺にはギャルゲーがあったから、ガンダムがあったから、「今まで」の俺は別に女と話さないことを気にしていなかった。
――そう「今まで」の俺はだ。
 2、3日前のある日。俺は初めて不覚にも恋をしてしまった。この俺が!ましてや女なんか糞食らえの会の会長であるこの俺が!
 本屋でレジ打ちをしている彼女を見かけた時、一目ぼれというものなのだろう……とにかくこんな感情は初めてだ。
「美しい……」
 気がつくと俺はそんな言葉を発していた。あぁ目の前に咲き乱れる一輪の花……。彼女は俺の人生の中でなによりも美しく見えた。
 とにかくこんな感情は生きていて初めてだ。できることなら今すぐにでもこの気持ちを彼女に伝えたい。
……しかしこんな俺がアタックしに行ったところで結果はもう見えているだろう。
「失敗」
 運命はこの2文字に決まっている。
 だが俺の決心は強い。俺の心も今まで冷めきっていた分、熱く!メラメラと燃え上がっている!
 やってやろうじゃないか。
 俺はダイエットの道を決心した。

2005/03/31(Thu)17:57:41 公開 / 銭亀
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