- 『我輩は犬である(01)〜』 作者:8maro / 未分類 未分類
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原稿用紙約9.35枚
端的に言わせてもらう、我輩は犬である。
端的に言わせてもらう、貧乏一家の飼い犬である。
端的に言わせてもらう、既に人生の峠を越した年齢である。
端的に言わせてもらう、本日は曇り空なり……
それまでの自問自答と全く違った流れの思いが頭を通過し、ふと我に帰ると庭のすみにある己の城、まぁ俗に言う犬小屋の中で、その城の主…「犬」は不毛の自問自答に終止符を打った。
先刻から降るに降らない、晴れるに晴れないこの微妙な天気は「犬」にそんなチョット哲学めいた思想を抱かせるに充分な時間を与えてくれていた。
カタンといつものドアを開く音が「犬」のましてや敏感すぎる耳に届いた時、誰よりも早く「犬」は悟った
「帰ってきたな……」と……
午後4時、この今日の天気にも似た全く微妙な時間にお帰りなさったのは、この城…いや、この家の主、三木三平である。
自称作家…まぁその頭につく「売れない」の形容詞はこの際だから割愛させて頂こう。
その40代も半ばにして見事な無精ひげに、ヨレヨレの服、グシャグシャな髪型…一線を退いた老人かと思わせるような姿は何度見ても見飽きず、「私」に不思議な興味を与えた。
「また負けちまったよ…」
分かっていたさ、三平が本日のパチンコの成果を虚しくも一人呟いた瞬間、予想が的中した事に喜ぶ「私」が居た。
「こうでもしないとやっていけない」
大都会東京の一戸建て事情なら「私」にだって分かりきっている。一家を支える大黒柱がこんなでは、この、他に例を見ない超小型一戸建て2LDKが東京都葛飾区にある事実も疑ってしまう。
まぁ年収6万円の彼を支える「彼女」あってこその家なのだが…
「私」にとってこの家での生活は、「そうでもしないとやっていけない」程、自堕落で、面白みの無いモノであった。
両隣を葛飾というお国柄に似合わぬ新興住宅、前を人道りの少ない道路、そして後ろを「アレ」に挟まれたこの家の立地条件は端的に言うと最悪。
ときおり道路を洒落た服を着た同種族、犬が通るのだが、彼らも決して「私」には興味を示さない、むしろ「私達」を敬遠している。突然空き地に家が建ち、その家の住人も得体の知れない作家と、その妻である「彼女」、そして犬…いや「私達」だけだとしたらまだ住人も人間特有の愛想を振り撒いたかもしれない…だが、後ろの「アレ」と関わりたくないのだ。ここの住人らは…
くだらないトバッチリの所為で転居早々に住民わから見限られた「私」だが、別に気にも留めては居ない。以前もそうだったから…
「この家の住人の素性を知れば誰だってそうなるさ」
空に「私」の呟きが放たれた時、「私」の目前に迫った黒い影を見つけ、思わず顔を上げると、先程からつまらなさそうにしていた三平の姿があった
「今日もボロ負けしちまったよ」
一々うるさい三平はまたも結果を「私」に今度は面と向かって話しかけた。
2LDKの住宅にしては広めの庭だが、大の大人2人…1人と一匹では少し狭苦しく感じ、いつも以上に三平の顔をアップで見て、軽い吐き気を催した「私」だが
「クゥ−−ン」
と少しだけ同情を踏まえた物悲しげな声で鳴いてやった。
…これだ。
全く何なんだろう人間とは…
こんな犬との会話に三平は…ほら
「そうかぁ〜〜分かってくれたかぁ〜」
そう言って、さらにその顔を「私」に近づける…分からない…「私」には分からない
「私」は三平の血を分けた子供でもなければ、三平の愛しの人であるとも思えない、いや後者に至っては思いたくも無い話である。
「我々」犬は、いや生物は自らの遺伝子を残すのに必死である。自分の子供を可愛がる気持ちは理解でき無くない。だが、余所者で種族すら違う「私」に三平は何も求めている?
他の人間、「我々」をペットとして飼う人間皆に問いたい。
「我々に何を求めている?」
「私」は食べても美味くないし、卵も産まないし彼らに還元できる物など何1つない。
結局「我々」を可愛がって何をしたいんだ人間は――?
カタンと聞きなれたドアの開く音が長くなるであろう考察を速めに切り上げさせられ、丁度良い退屈しのぎをすぐに奪われた「私」は少し不快そうな顔を上げ、来客を見た。
見ずとも分かっているのだが来客は予想通り、「彼女」である。予想は的中、だが倍率は一倍で配当は掛け金と同額……この家の事実上の稼ぎ頭であり、三平の妻でもある三木有紀子である。くだらない一人脳内予想ゲームを続ける「私」に有紀子は近づき頭を撫でてくれた。
これだけ見れば貧乏だが、幸せな子供の居ない夫婦と思う人もいるのだろう。
しかし、有紀子の仕事は……娼婦である。
いや、今はキャバ嬢とでも言った方が良いのかはしれないが、仕事は同じである。
「チョット、薬を飲み忘れて」
そうとだけ言うと有紀子は以外と綺麗に片付けられた台所から、手早く薬を手に取り、水も使わずに流し込んだ。それを背中で見送った三平を見向きもでずに
そうすると無言で仕事場に行ってしまった。いや、仕事場と言ってもすぐそこ、この家の…真後ろにある風俗店に行っただけなのだが。
住宅街に、文字通り突然現れた風俗店、周りの住人の冷たい視線を一手に浴びた風俗店登場から既に2ヵ月余り、同時に出現した三平家も同じ期間をココで過ごしている。
まぁ風俗店とお近づきになりたい奴などそういないのだろうが、以外や以外、三平家の裏にある「アレ」――風俗店はなかなか繁盛してる様子だった。
それも端正な顔立ちと底を尽かない喋りにより、店一番人気を誇る有紀子あっての事なのだろが……
「我々」、犬は種を残す為に交尾をする、それは無論人間も同じである。だが「我々」は決してその行為に快楽だけを求めず、常に畑に種を宿す――
だが、有紀子はどうだろう?
この二人の関係、三平と有紀子のパット見で関係無さそうなこの二人が知り合ったのは、二年以上前になる…らしい。
その頃には「私」はまだこの家にいなかったから詳しい事は分からないのだが、三平の身の上話を聞く所によると、やはりこの二人は店で知り合い、恋に落ちたらしい。
適当に昔聞いた話を思い出していると目の前を洒落た服を着た犬が通っていた。
「私」には全く興味を示さずに……
「私」はその時、1つだけ本日の退屈を紛らわす自問自答に答いを見出した気がした。「我々」犬に人間が求める物、いや求めるモノとそうで無いモノ、それにより犬も2種類に分かれる。
「狗」と「犬」
「狗」は人という存在に使われる、古来より狩りや漁のパートナーとしての人間の家畜
「犬」はそのような見返りを人が期待せず育てる…ペットのようなモノ
…だとするなら、「私」も目の前を通る洒落た肥満気味のこの犬も「犬」なのであろう――
いや…けしてソレは「我々」犬の世界に限った事でもないはずだ。そこまで考えると「私」は自分の考えに自己陶酔している「私」の存在に気づき、何か――そう、今まで知り得なかった…
――真理――
そうとでも呼ぶべきモノを見出した。人間も「犬」と「狗」この2種類に別けられるのではないか?
そう考えると少しづつ、見えていなかったものが見えてきて、見る見る目の前の景色すら違って見える。「私」はそこから一気にこれまでの自問自答に終止符を打つ答えを頭の中で整理した。
人間でも全く同じことがいえる。誰かに利用され、誰かに使わされるための存在である「狗」。そうだ、良い例がすぐ近くにいる――有紀子である。対価を受け取ってはいる物の、彼女は男に利用され、文字通り「使われて」いるではないか。他にも、、、そうだ
例えば会社の「社員」も「社長」という存在に「使われ」――
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2005/03/27(Sun)18:11:15 公開 / 8maro
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■作者からのメッセージ
まず最初だけ…小分けで上げてきますんでよろしくお願いします。