- 『スサリ』 作者:兵藤晴佳 / ファンタジー ファンタジー
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原稿用紙約21.6枚
私は落伍した。全くの油断である。隊はもうとっくに隣国まで行ってしまったことだろう。追いつくためには、この「渇き野」を抜けるよりほかはない。
「渇き野」は、国境に広がる乾燥した荒野である。日中は灼熱の地獄であり、夜中は獣の跋扈する魔界となる。だから、正気の人間は昼でも夜でもここを通ろうなどとは考えない。それを思いついた私は、おそらく、もはや正気ではないのだろう。
気が付いたら私は16歳ぐらいだった。それ以前のことは覚えていない。思い出せなくても差し支えはないだろう。
その時はもう革鎧を身にまとって背中には剣、利き腕でないほうの手には巻上機付きのクロスボウを提げていた。剣は片手持ちであるが、両手で振るうこともあるため盾は敢えて持っていなかった。クロスボウはアーバレストと呼ばれる、あぶみ式のものではなく、弦に更なる弦が付いていて、これを滑車で巻き上げて矢をつがえるのである。一言でいうと、私は常日頃から武装し、金で命をひさぐ傭兵であった。正確に数えたことはないが、おそらく30は越しているだろう。だいたいの年が分かっていればいい。どうせ前払いの金で売る命である。死んでも泣くものはない。
それでも、私がムキになって隊に追いつこうとするのは、いつのまにか意地や誇りといった美徳が身についていたからに違いない。こんな生き方をしているが、修羅場をくぐって命を何とか永らえることができていれば、学はなくとも知恵はつく。この10年とちょっとの間に出会ってきた傭兵仲間は、あるものは死に、あるものはまだ生きてどこかへ行ってしまったが、その中のひとりとして私は忘れたことがない。そして、彼らが決まって口にしていたのは、この一言である。
「いつ死ぬか分からないが、遅れだけはとりたくない」。
これまで迂回して行軍してきた経験から、ここを徒歩で抜けるのにだいたい3日と見積もって、それだけの水と食糧しか持ってこなかった。あとは、重くなったなと感じたところで捨ててしまった。前払いの金で調達した装備もけっこうあったが、日除けマントの下に残っているのは、いつもの革鎧と剣とクロスボウだけである。矢は1ダース背負っていたが、夜中に襲ってくる獣を追い払うのに皆使ってしまった。銀の矢が1本だけ残してあるが、これは我ながらみみっちいと思う。傭兵仲間のバクチで巻き上げたものに過ぎないが、捨てるのがなんだか勿体無かった。元の持ち主はその直後の戦闘で死んでしまったが、それは別に関係ない。
この3日間、昼間はマントに身を包み、うずくまって熱さをしのいできた。夜になってようやく、月と星を頼りに歩き出すのである。これが最後の夜であった。これで日が昇るまでに国境を越えられなければ、私は足元で砕ける獣の骨の仲間入りをすることになる。こんな荒野で何を食っているのか知らないが、恐らく人間に真似はできないだろう。
私は見えるはずもない荒野の果てを眺めやって、ふと気付いた。月明かりに一面銀色に光る何かが、どこまでも広がっている。しばらく歩いて、足元の感触が変わったのでふと地面を見ると、しゃれこうべが月明かりに白く光っていた。見渡せば、辺り一面ぼんやりと銀色に光っているのは、無数の人骨であった。
背後で何かが動く気配に、クロスボウを片手に背中から抜いた剣を、振り向きざまに大上段から振り下ろした。手応えはない。しかし、相手は確かに目の前にいた。薄汚れたローブが剣風の名残に揺れている。だが地面を踏まえる足はなく、フードの奥にはぼんやりした光が2つ瞬いている。
うわさに聞くデスレイス(死霊)であろうと直感した。傭兵仲間に、夜営地でこれに出会った奴がいると聞いたことがある。もっとも、そいつも次の日に死んだから、本人に確かめる術はない。もしこれがその死霊であるならば、剣を振るったところで意味はない。私は、剣をすててその場に座り込んだ。クロスボウは手に持ったままである。背中には1本の矢もないのであるし、あったところで利かないのだから無用の長物である。
死霊は私を見下ろし、低い声でつぶやいた。俺の話を聞いてくれるか、と。私は答えなかった。ガセかもしれないが、死霊と口を利いたら生気を吸い取られると聞いたことがあったからである。
死霊は、しばらく私の返事を待っていたようだが、痺れを切らしたのか(もっとも我慢というものがあるのかは知らないが)かすれた声で語り始めた。
スサリは、衛士だった。ここに昔あった、御影石の要塞の門を守っていた。
この国の王はこの砦が自慢で、最前線であるにも関わらず、1年のほとんどをここで過ごした。なんとなれば、要塞を守る兵団は王国最強であり、隣国に睨みを利かせ、近隣の国々にも名を轟かせていたからだ。
あいつは当直の日にはいつも日が昇る前には門の前に立っていて、日が沈むまでぴくりとも動かないという噂があった。隣国を睨む要塞の、よく磨かれた御影石の壁が照り返す真昼の光は前が見えなくなるほど眩しく、そして熱かった。俺達はよくさぼってこっそりしゃがみこんだり、目を閉じて居眠りしたり、ときにはこっそり帰ったりしたものだが、スサリはいつもまっすぐ立ったまま、隣国へと続く乾いた大地の彼方を眺めているのだという。
俺は全く信じていなかった。スサリだって人間だ。腹も減れば、汗も出る。あれだけ暑くて眩しいのだから、まばたきだってしたくなるだろう。いっぺん確かめてやろうと思っていたが、不思議なことに同じ日に当直が当たることはなかった。だから俺はいつも衛士仲間の噂を話半分に聞いていたし、あからさまに笑い飛ばしたりしたものだ。
だいたい、噂などというものは尾ひれがつく。ある者は、実はスサリは目を開けて立ったまま眠ることができるのだという。またある者は、スサリは不死身の身体で、切っても突いても死ぬことはないのだという。しまいには、スサリは大昔の魔法で作られたゴーレムだという者まで現れる始末だった。
そんな話が出るたびに俺はまぜっかえしていたものだが、あるときとうとう機会がめぐってきた。あまりおれがバカにするものだから、衛士の一人が代わってやると言い出したのである。本当だったら人と交代してまでやりたい仕事ではないが、売り言葉に買い言葉という奴で、俺は本来立つはずではない日に当直に立つことになった。
俺はまず、日が昇る前に来なくてはならなかった。スサリがいるかどうかをこの目で確かめなくては意味がない。
スサリはいた。夜明け前のぼんやりとした青い光の中で、まるで石の巨人のように突っ立っている。手に持った矛の柄は石畳に垂直に立てられ、まるで突き刺さっているように見える。
衛士の持ち場は、砦の周りを巡る深い堀にかけられた、長い橋を渡ったところだった。俺はおはようと一声かけて、門を挟んだ反対側に立った。スサリは、ぴくりともうごかず、おはようの「お」の字も口にしない。俺は朝から臍を曲げることになった。
やがて日が昇り、御影石の壁の照り返しが辺りを包んだ。こういうときに限って、勤務はきついものだ。その日はいつもより暑く、しかも全く風がなかった。眩しい照り返しの中に時々雲の翳りがよぎるときに見える赤銅色の横顔がいらだたしい。俺はあいつを睨みつけ、何とかこっちを見ないかと舌を出してみたり、大きな声で悪態をついてみたりしたものだが、あいつは見ているのかいないのか、聞いているのかいないのか、やっぱりぎょろりとした目を微動だにさせず、まっすぐ前をみつめていた。
俺の足元には、様々な大きさの石ころが転がっていた。何の気なしにそれを拾い上げて思った。本当に、ゴーレムなのだろうか?
真っ白な照り返しの中に、いちばん小さな石ころを投げてみた。手応えはない。しばらく経って、ぽちゃんという水音が聞こえた。もう少し大きい石を投げてみた。ぽとん、という音がした。当たったらしい。しかし、その石はどうやら俺とスサリの間におちたらしく、石の上でからん、という乾いた音を立てた。思い切って、割と大きな石を投げてみた。手応えがあった。こん、ころん、という大きな音がして、石は足元に戻ってきた。結構痛いはずなのだが、スサリは声もたてず、動いた気配もない。
なんだか、面白くなかった。照り返しの向こうで、スサリが俺の無駄な努力を嘲笑っているような気がした。無論、スサリが笑うわけがないのだが、あいつの腹の底が見えた気がした。俺は渾身の力をこめてその石を放った。鈍い音がして、石は戻ってこなかった。しばらくして、俺の鼻に鉄の臭いがもそもそと忍び込んできた。風がないので、その臭いを吹き払ってくれるものはなく、俺は激しい胸のむかつきを覚えてうずくまった。うずくまって初めて気付いた。俺のサンダルの足元が、べっとりと濡れていた。臭いの元は、これだった。指で触ってみた。ねっとりとした感触があった。血だった。
そのとき太陽をうっすらと雲が横切ったのか、照り返しがちょっと和らいだ。その一瞬、俺は石畳を横切って俺とスサリを結ぶ真っ赤な道を見た。スサリが血を流していた。スサリの耳から血の泉が湧き、肩を、腕を、指を濡らし染めて、足元の石ころにしたたっていた。
俺は吐き気を覚えて、門の脇にある通用口から中に戻った。もう日はさしこんでこないのに、目の前はあの照り返しで真っ白だった。頭の中には、スサリの流した血の色がこびりついていた。
次の当直の日、詰所に顔を出して気が付いたのは、壁に貼られた割り振り表だった。スサリの番に、大きなバツがついていた。皆に聞いてみると、誰も事情を知らない。よく考えてみれば、俺が怪我をさせたからだということは明白なのだが、なぜかその時は俺のせいではないという気がしていた。あれほど噂になっていたスサリがいざいなくなってみると、誰も気に留めていなかったのもそのせいだろう。次の当直のときも、その次も、スサリの番には大きなバツがつけられていた。そしてとうとう、バツさえもつけられなくなり、スサリのことを口にするものは誰もいなくなった。
それからしばらく経ったある日のことである。俺達は衛士隊長に呼び出された。整列している前を、ふんぞり返っているのだかいないのだかよく分からない、でっぷり太った隊長が行ったり来たりしながら回りくどい口調で述べたのはだいたいこういうことだった。
隣国が周辺の国々と結んで戦をしかけてきた。正規軍が救援にくるまで王をお守りして要塞を守れ……
いままでとは違うのだ、と誰もが感じていた。誰かが死ぬだろう、と誰もが考えていた。そして誰もが、自分が死ぬだろうとは考えていなかった。要するに、大変なことが起こったと分かってはいるが、結局他人事だったのだ。
割り振りが決められ、俺は城壁の上で見張りをすることになった。はっきり言って貧乏クジだった。できれば俺だって城壁の中にいたい。だが、こういうときは誰もが冷たいもので、俺は憐れみと軽侮の視線を一身に浴びながら、持ち場に向かった。
城壁の上から眺める大地は、広かった。どこまでも続く砂っぽい地面には、遮るもののない太陽の光のほかは、何一つない。だが、その太陽が頭の上に輝くころ、俺は自分の運命を呪うことになった。
乾いた大地の向こうから、雲霞のごとき軍勢が押し寄せてくる!
俺は見張り台に備え付けの角笛を取り、渾身の力で吹き鳴らした。この音は要塞内に響き渡り、急を告げるはずだったからだ。だが、いつまで待っても要塞の兵が動く様子はない。みるみるうちに、地の果てから押し寄せる黒い波は人の姿をとり、おらび声は次第に高まってくる。そして、その人の波のうねりは、その背に何か大きな筒状のものを乗せていた。
それがモウラー(破城鎚)だと分かるためには、俺はかなりの間、棒立ちになっていなくてはならなかった。要塞の兵はなぜ動かないんだろう、王はこの要塞にいるはずじゃあないのか、そんな考えがぐるぐると頭の中でおいかけっこを始めていた。しばらくすると、城壁の内側から声がするのに気付いて目が醒めた。少なくとも士気が高まって発するものではなかった。どちらかといえば罵声である。慌てて覗き込んでみると、小隊長が武器を持った衛士たちに追い掛け回され、悲鳴をあげている。
俺は全てを悟った。王はこの要塞にはいない。兵も動くことはない。なぜなら、この要塞には衛士を除いては人っ子ひとりいないのだから。この要塞と俺達を囮にして、王は兵達に守られて逃げたのだ。恐らく、衛士隊長も知らなかったことだ。城壁の中に残った衛士達は要塞の中がもぬけの殻になっているのに俺よりも早く気付いたに違いない。その怒りは衛士隊長に集中した。今や地位や階級には何の価値もなく、価値があるのは力と数だけだ。
だから、俺がここに長居する理由は全くない。衛士隊長の肥えた身体が切り刻まれるのを見届けた俺は、そう踏ん切りをつけた。ここが落ちたら俺達は離れ離れの弱い敗残兵となる。落ちる前に逃げることだ。俺は衛士たちが角笛の音も聞こえないほどリンチに夢中になっているうちに城壁を降り、城の門の脇にある通用口からこっそり外風がに出ることにした。
そこには、あいつがいた。スサリだ。相変わらず、地の果てを見つめたままぴくりとも動かない。その姿がはっきりと見えることから、俺は空が珍しく曇っていることに気付いた。いや、曇っているわけではない。あれは、隣国の軍勢の巻き上げる土埃が、空を覆っているのだ。
それなのに、こんなときに、スサリはなぜここに立っているのだろう?
しばらく考えて、俺は今日がスサリの当直の日であることに気づいた。この男にしてみれば、耳の傷が癒えたから、長い間休んでいた職場にようやく顔を出したに過ぎないのだろう。だが、今はそんな場合じゃない。俺はスサリに近づいて、逃げろと言った。
スサリは答えなかった。これはいつものことなのだが、こんなときだから俺は無性に腹が立った。おいお前と怒鳴りつけたが、スサリはやっぱり振り向きもしない。殴りつけてやろうと襟首をつかんだが、びくともしない。俺は諦めた。よく考えれば、俺がスサリの命を心配してやらなくてはならない義理は、どこにもないのである。勝手にしろと吐き捨てて、俺は要塞を後にした。さて、どっちに逃げよう?
しばらく経って、俺は小高い丘の上から要塞を見下ろしていた。丁度ここからは、要塞の前後を見渡すことができる。ここを後にすれば丘陵地帯に入り、第三国へと逃れることができる。逃げ遅れた連中のことは、もう考えないことにしていた。特にスサリのことは……
俺の気が変わったのは、要塞から火の手が上がったときだ。衛士たちが戦わないで降伏した証であるのはいうまでもない。これで全てが終わったはずだった。だが、俺はどうしたわけかスサリのことが気になって仕方がなかった。あいつは、もう守るべきものがないことを知っているのだろうか……。
そこで思い出されたのが、あの石の一件だった。スサリに俺の声が聞こえないはずはなかった。城の中の乱闘が音で察せられない筈がなかった。何よりも角笛の音に気付かない筈がない。気付かないとすれば……あの時、スサリの耳には異変が生じていたのだ。俺の投げた石が、スサリの耳をつぶしていたのだ。
俺は丘を駆け下りた。何でそんなことをしたのか分からない。もう、隣国の軍勢はスサリにも破城鎚が見えるくらいのところまで迫っていることだろう。そんなところに駆け込むのは、軍馬に踏み殺してくれと言っているようなものだ。もちろん、スサリも死ぬだろう。逃げたって逃げられなくたって同じ事だ。もし理屈をつけるとすれば、だから俺は戻っていったのだろう。スサリの最期を見届けなくてはならない、そんな気がしたのだ。
俺がスサリの姿が見えるところまで戻ったとき、大地の轟きは背中を震わせるまでになっていた。だが、俺は振り向かなかった。まっすぐ城門に向かって走った。城壁の中からは、陽炎が立ち昇っている。城内が燃えているのだ。だが、スサリはそんなことはお構いなしである。あいつの仕事は、外敵から橋と門を守ることなのだ。
吶喊の声が、聞こえていた。角笛が吹き鳴らされる。ときおり響くカーンカーンという音は、無数の兵士が打ち鳴らすお互いの槍や矛の音だろう。俺は、スサリに向かってまっすぐ走り出した。
スサリが、初めて動いた。橋の中央にのっそりと足を踏み入れ、矛を高々と掲げた。門に近づく不貞の輩を脅しつけるときの、俺達の作法だ。もっとも、衛士になってこの方、1度でも使った者がいるかというと、誰もいないのだが。
「主の許しなくここを通すわけにはゆかぬ。」
スサリが大音声で呼ばわるのを、俺は聞いた。無数の矢音が空気を裂く音がする。
「今すぐ立ち去れば何も咎めることはない!」
これが1対1なら、相手はその場にひれ伏したろう。だが、今はどう考えても勝負になる数ではない。
「通るか!ここを通るならば命はない!」
命がないのはスサリのほうだ。軍勢を真っ二つに割って先頭に現れたものを見ればわかる。高さが俺の身長の10倍はある門に向かってごろごろと動いているものは、一撃で門扉をぶち上げるだけの大きさを持っていた。破城鎚だった。それは、足を踏ん張り、矛を手にしたまま両腕を大きく広げたスサリの身体に吸い込まれるかのように、まっすぐ突進して城内に消えた。かつて城門があったところからは炎が滝のようにあふれた。スサリが何か叫んだようだったが、それはもう聞こえなかった。轟音、鬨の声、蹄の音、俺はすでに、そういった音という音の波の中に飲み込まれていた。
月が西の空に傾くまで、死霊のつぶやくような語りは続いた。私は実を言うと、この長い長い話をそれほどまじめに聞いていなかった。クロスボウの巻き上げ機を回しながら、聞くともなしに聞いていたのである。むしろ、この時、私が考えていたのは、この死霊が話の後に自分を生かしておくはずがないということである。
死霊の声が途切れ、話が終わったと感じたところで、私は懐に隠し持った銀の矢をクロスボウにつがえてそのぼんやり光る眼の辺りに放った。フードが吹き飛び、それまで全く感じなかった風がざっとやってきて全てを吹き払った。あとには何も残っていはしない。ただ、真っ青な月明かりが斜めに降り注いでいるばかりである。
とんだ時間つぶしだった。月の方角から歩いてゆくべき方角を察した私は、先を急ごうとしてふと気付いた。背後から、月の青い光を照りかえすものがある。振り向くと、そこには今までなかった御影石の要塞がそびえていた。
要塞にはそれを囲む乾いた深い堀があり、橋の向こうにある破れた城門の奥では、廃墟が真っ青な光に満たされている。そして、その城門の前の堀には橋がかかり、そのたもとに矛を手に立っているのは……
私は要塞を背にして歩き出した。もうすぐ夜が開ける。要塞が本当にあるのかどうか、あそこに立っているのが人なのか石像なのか確かめている暇は、私にはない。夜の天蓋を覆っていた深い青の帳は開かれ、東の空は白々と明けはじめている。何より、国境は目の前だった。
(完)
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■作者からのメッセージ
皆様、先日はたいへん失礼いたしました。改心したつもりで短編から始めてみたいと思います。ファンタジーのつもりですが、ちょっと文体が無愛想になりすぎたかもしれません。