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『再会のトランプ 』 作者:Rikoris / 恋愛小説 恋愛小説
全角3066.5文字
容量6133 bytes
原稿用紙約11.6枚

『信じれば叶うよ』
 そう言ってくれたのは、君だったね。
 今の僕があるのも、そのお陰。
 君と約束したから。
『あきらめないよ』
 そう答えたのは僕。
『絶対だからね』
 君は言ったね。
 それが君の別れの言葉で。
 約束を最後に、僕らはそれぞれの道を歩み始めたんだ。
 
 僕は、マジシャンになりたいって思ってた。
 君は僕に、信じてればなれるって言ってくれたね。
 嬉しかったよ。
 そして僕は努力したんだ。君と別れてからも、ずっとずっと。君の言葉を力にね。
 君にまた会えると信じて。
 そして僕は、夢を叶えたんだ。君のおかげだよ。

 そろそろ良いよね?
 君に会いに行っても。
 約束、条件は果たしたよ。
「ありがとう……君のおかげで、僕は夢を叶えられたよ」
 そう伝えたいな。今度は、直接。

 そう思いつつ、僕はポスターの中の彼女へ語りかけた。




 ざわめきが聞こえる。私を待つ、ファン達のざわめきが。
「リィ、早く! ファンは待ちくたびれてるわよ!」
 マネージャーが、楽屋の扉ごしに叫んでくる。
「すぐ、行きます!」
 そう叫び返し、私は手に持っていた広告の紙を机へ置いた。

 最年少日本人天才マジシャン、来韓!

 広告には、でかでかとそう記されていた。その中に居るのは彼。私に、勇気と前に進む力をくれた。
 衣装のポケットから、色あせたカードの束を取り出す。
 約束を忘れないように一枚に一文字ずつ記した、マジックカード。
 詰まる所、ただのトランプなのだけれど。
 彼の努力が詰まったカードの束は、彼との再会のカード(切り札)。だって……
「リィ、早く!」
「はいっ!」
 マネージャーの声に私ははっとして、カードの束をポケットへしまった。
 今日もよろしくね。
 もはやお守りのようになってしまっているそれらに、心中で呟いて。

 私は楽屋を飛び出した。舞台へ立つために。

 彼も頑張ってるんだ。私も頑張らなきゃ。ファン、待たせちゃダメだよね。

 胸の中に鼓動。もうすぐ彼に会えるかも。
 約束の条件は果たしたから。私は歌手になれたのだから。
 会いたいな。来てくれるかな。
 期待が募って行く。

 来てくれるよね。約束忘れてないよね。
 私が持っているように、あなたも再会のカード、持ってるよね。信じてるよ、真時(まじ)。

 走って辿り着いた舞台裏で、ポケットに手を当て念じる。
 再会のカードの感触が、緊張を静めてくれた。
 
 さあ、行こう!




 君は、歌手になりたいって言っていたね。
 君なら出来るって、君の歌を聞いて僕は言ったんだ。
 本当にそうなったね。
 僕はもうすぐ君の国へ行くよ。
 韓国へ。
 ショーのためっていうのもあるけど、わざわざそこにしたのは君に会いたいからなんだよ。
 君はカードを持ってるよね? 再会のカードを。僕も持ってるよ、再会のカード(切り札)である、再会の箱を。
 君は僕を忘れてないよね。信じてるよ。信じれば叶うと言ったのは、君だろう?
 やっと約束を果たせるね。

 再会のカードを入れる再会の箱を見つめながら、僕は君に語りかける。

 カードと箱が、再会のカード(切り札)が、世界さえ越えられると信じて。
 君にこの想いが、伝わると信じて。

『間もなく着陸致します……』

 アナウンスがスピーカーから流れた。
 韓国への飛行機内。
 座席に座っていた僕は、窓の外へと目を向ける。どこまでも青い空は続いている。この空はきっと、全てを繋いでいる。
 世界と世界を、そして君と僕を。再会のカード(切り札)のように。
 一年ライブ宣伝ポスター内の君にしか今は会えないけれど、もうすぐ会える。約束を果たせる。会ったら君に言うんだ。
 
『頑張ったね、そしてありがとう』





 今日が、私が歌手デビューして初めてのライブ期間の最終日。
 彼、来てくれないのかな。
 期待が不安に掻き回される。
 約束したのにな。私がデビューしたら、初めてのライブ期間に来てくれるって。
 観客を目で追うけれど、彼はいなかったのだ。
 写真を良く見て彼の姿を焼き付けておいたから、すぐわかるはずなのに。彼の為の歌も用意したのにな……
 アンコールに歌うことにしていた日本語のその歌に、瞬く間に近づいて行く。
 まだダメなのに。まだ歌いたくないのに。
 最後に彼に、聞かせたいのに――





 まだ十分はある。彼女、リィのライブ会場は空港の目の前だ。
 しかし、ライブ終了までに間に合うか? いや、何としても間に合わせなければ。
 飛行機を降り荷物を受け取ると、僕は駆け出した。目指すは、歌手リィのライブ会場。
 
 やっと会えるんだ。
 やっと約束が果たせるんだ。
 カードと箱が、切り札がやっと一つになるんだ。
 
 期待に胸が高鳴っていた。





 終わってしまう。アンコールの前の最後の歌が。

 早く来て。次は、あなたの為の歌なんだよ。

 ポケットに触れて念じる。
 カードが、箱へ伝えてくれるんじゃないか。そんな気がしたから。

 そしたら……

「リィー! 頑張れ!!」

 その声は雑踏の中、何故か自然と耳へ入ってきた。

 来てくれたんだ。

 扉の前に立つ彼は、重そうな旅行鞄を持っていて。こっちに着いてすぐ飛んで来てくれたんだな、って思った。
 紺と藍のシルクハットは、紛れもなく写真で見た彼のもので。

 凄く嬉しいよ。あなたに会えて。アンコール、聞かせられるね。約束、果たせるね。

 私は彼にちょっと笑いかけて、

「これから、アンコールを歌います」

 宣言した。
 彼は、笑い返して私に拍手を送ってくれた。

 胸の高鳴りを抑えて、歌い遂げるよ。この歌をあなたの為に。聴いて、お願い!

 私は願いを心に、大きく息を吸い込んだ。
 ピアノ伴奏が流れ始めて、ファンが沸く。
 私は歌い出した。彼への、かの歌を。

「あなたの為 この歌を歌いましょう
 あなたはまだ 覚えて居てくれてますね?
 私はずっとあなたのこと 待ち続けて居ます
 信じれば叶うんだと 思っているから
 再会のカードを 持っているから 出会えますよね
 だってそれがあなたとの 約束だもの」

 そうして歌い切ると、ファンからの大拍手が待っていた。

 約束、果たせたね。



 約束は空港で。
 私が国へ帰らなきゃいけなくなって、彼は空港へ見送りに駆けて来てくれた。
 息を切らせたまま、綺麗なバンドで括られたカードを、彼は箱から出して無言で差し出した。
 カードには、文字が書いてあった。
 そっと受け取ってバンドを取って、私はそれに目を通した。
 小さい両手一杯に、カードを扇形に広げて。

『また あいたいです
 だから やくそく してください
 かしゅに なって
 ぼくも あきらめないよ
 なれたら かならず また あいましょう』
 
 習いたてのつたない平仮名で、五十四枚に五十四文字つづられていた。
 それから彼は言った。
『君がかしゅになって成功して、らいぶを開いたら、僕は会いに行くよ。その時までに僕も、まじしゃんになってるから。
 カード、失くさないでね。僕の持つ箱とぴったり合うカード、それは再会のカード(切り札)だから』
 そうして、私と彼は、指切りを、約束をした。
『絶対だからね』
 そうして約束は結ばれたんだ。
 それが、約束の日。
 



 再会のカードと箱は今日、一つになった。
 僕と私の元で、それはいつまでもあり続けるだろう。
 約束の日と再会の日は、いつまでも忘れない。
 僕と私は、いつまでも一緒に――




2005/03/05(Sat)12:36:18 公開 / Rikoris
http://www1.c3-net.ne.jp/rikoris/main/index.html
■この作品の著作権はRikorisさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 ご無沙汰しております。
 一ヶ月と一日ぶりの投稿です。いない間に色々と改装が行われていて、凄いと思いつつ戸惑っております……(汗
 この作品ジャンル選択、恋愛でいいですよね(ちょっと不安……)最後の四行は、リィと真時の合同視点……のつもりです(上手くできてるでしょうか(汗 )。
 お読み下さった方、ありがとうございました。感想、批評、アドバイスなど下さると嬉しいですm(._.)m
 
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