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『甲冑兵戦記   第零幕〜第3幕』 作者:ギギ / ファンタジー ファンタジー
全角27943文字
容量55886 bytes
原稿用紙約84.4枚
おや、お客様どうなさいました?お席を立たれて…

―――えっ?お帰りになる…それはまたどうしてでございましょう?

―――なかなか幕が上がらない?開演してからまだ5分と経っておりませんよ?
これはまたせっかちなお方でございますな。
演劇という物は開幕までに少々準備がございますので…

―――はぁ、作用でございますか…
しかしこの町にいらしてこの劇をご覧ならずにお帰りになられるのは、ちともったいのうございます。
残念ながら券の払い戻しには応じかねます故…。

―――解りました。お客様には特別に幕が上がるまでの間、私めがこの物語のさわりの部分だけこっそりお話しして差し上げます。
その上でお帰りなさるかどうかを決めてくださいまし。
それからでも遅くはないでございましょう?

―――あっ、そうでございますか。お聞きになると。ありがとうございます。ただし、このことは他の人に申されては駄目でございますよ。くれぐれもご内密…

―――えっ、私でございますか?申し遅れました。私めは当劇団の客席係でございます。
名前は…いえ、私の名前などどうでもよいのでございます。私などの名前よりも舞台に立つ役者たちの名前をお見知り置きくださいませ。
それでは、恥ずかしながら語らせていただきます。お聞き苦しい部分もございますが、なにぶん不慣れでございますゆえ、平にご容赦のほど。

―――想像してくださいませ…
 緑の草原を緩やかな風が渡り、稜線の向こうに天を貫くように霊峰カレートと呼ばれるそれは大きな山がそびえ立っております。
頂上付近は常に雲に吸い込まれ山の全貌をうかがい知ることは叶いません。
この地方に伝わっておりますアディス神話なるものでは、大昔その頂に神が降りてこの世界を想像したとされていまして、熱心なアディス教信者は朝と夕方の1日2回、この山に向かって祈りを捧げるのでございます。
さて、この物語の舞台でありますミヤマ大陸の丁度中央に位置するこのカレート山を境に、東を東邦(ラウド)。西を西邦(ミウド)と呼ばれております。
東邦と西邦は互いの文化の違いから、長い間争いを続けておりましたが、今からおよそ50年前、カレート山を取り巻く稜線、カレート連峰を境に互いの領土に侵入しないことを条件に戦を止めたのでございます。
その後、東西の邦境での貿易はあるものの、この『カレートの誓い』と呼ばれる条約はその後50年もの間破られることなく現在に至っております。
物語の始まりは東邦でも最西端、グランという国の邦境にほど近い街道(バルード)。
このバルードというのはですな、西邦との戦争時に物資の補給路に使われた街道でございまして、今では西邦の文化を運ぶ商行路として使われております。
そのバルードを馬で行く2人の旅人の姿がございました―――


第零幕   序章

「ちょっとリュン、この分じゃグラン・カーレに着くのは夜になっちゃうわよ!」
前を行く馬上の人物が振り返り後ろの人物に声を掛ける。
年の頃は20歳前後と言ったところで、まだ顔に幼さが残るが、整った顔立ちで飾れば誰もが振り返る美女になるだろう。
口元に紅を引くこともしてはいないドすっぴんなのだが、それがまたこの娘本来の美しさを出している。
後ろで結わいた豊かな黒髪を前に垂らし、ふくよかな胸の隆起の上で揺れ、艶やかな光沢でその存在感を周囲にアピールしていた。
そして皮を鞣した上着からすらりと伸びた手足は野生動物のようなしなやかさがある。
「はあ…。しっかし、カレート山は高けぇなぁ〜。この辺りまで来るとその高さが良く分かるな。まさに神様がおわす霊峰だ…ウン、ウン」
自分の言に自分で納得したように頷きながらリュンと呼ばれた男が答える。
歳は前を行く娘と同じくらいでこちらも黒髪。しかしこちらは娘とはうって変わり、あまり手入れをしていそうにない髪は、それに素直に答えるがごとく、まるで藁を束ねたようであった。
馬の鞍には野営用の荷物となにやら棒のような物に荒っぽく布を巻き付けた物がくくりつけられている。
娘と同じように皮の上着をなのだが、時折その隙間から銀色の繊維が覗き、陽の光に反射している。
顔立ちは一応整っているのだが、2枚目とは言い難く、タレ目のせいか全体的に寝ぼけているような印象をうける。
さえない3枚目といったところか。
「あんた人の話聞いてる?少しペースを上げましょうって言ってるの。」
娘が馬を隣に寄せてリュンの馬に合わせる。
「どうでもいいけど、そのふざけた馬の乗り方やめてくれない?なんか見ていて腹が立ってくるから…」
リュンという若者は後ろ向きで馬に乗っていた。右足を組んで馬の背にのせ、両手を合わせて頭の後ろに回して上半身を馬の首に預けて寝そべっていた。
垂らした左足で器用にバランスを取っている。
「何をそんなに焦って居るんだ?ユウヒ」
娘の文句にも全く意に介さずリュンが言葉を返す。
ユウヒ。これが娘の名前だった。
歩くたびに動く馬の首に合わせてリュンの頭が前後に動く。確かにおちょくっている様に見えなくもない。
「あんたも少しは焦りなさい!この辺りの夜盗の中には甲冑兵を所有している奴も居るって宿の女将も言ってたでしょう!」
「甲冑兵かぁ、そいつは物騒だなぁ…でも、グラン・カーレに入るのは暗くなってからの方がいいと思うんだけどなぁ」
「―――なんでよ…」
ユウヒの形の整った左眉がつり上がる。
リュンはゴソゴソと懐をまさぐり、折り畳んだ紙切れを取り出しユウヒに手渡した。
「昨日のパズの町で見つけてさ、記念になるかな〜って思って持って来たんだけど…」
受け取ったユウヒは怪訝そうな眼差しをリュンに送り、紙切れを広げそこに書かれた事を読んで絶句した。
「なっ…なにこれ!」

――――――――
盗賊リュン・パーサーとその相棒ユウヒ・グレース
右の者を捕らえた者に1500ラウズを進呈。生死を問わず。
ただし、生かして捕らえた者はさらに500ラウズ増額し2000ラウズとする。

リュン・パーサー特徴
乱髪でタレ目。全体的に寝ぼけた顔立ち。無計画にして無鉄砲。絵に描いたうつけ者を地で行く男

ユウヒ・グレース特徴
容姿端麗の美女。しかし、せっかちでヤキモチ焼き。沸点が低く切れやすく凶暴。

――――――――

読んでいるユウヒの肩が小刻みにふるえている。
「全く頭にくるよなぁ〜」
ふてくされたようにリュンがつぶやく。
「な…なお、ユウヒは怪しげな術を使い男を誑かすので心するべし。グッ・・グランシス帝国王宮管理官付き国領巡視団団長…」
「いや〜俺も腹が立ってさ〜。たったの2000ラウズだぜ〜?せめて10000ぐらいにしないとハクが付かないよな。ハクがさ。」
ユウヒが持っていた紙を引き裂き、もの凄い形相で睨みながら喚いた。
「そんなもん付けてどうするのよ!そもそも怒るところ違うでしょーが!!」
形の良い眉が縦になり、流し目をされたら普通の男なら骨抜きになりそうな目は完全に三角に変形している。
「なんなのよコレ!手配書じゃないの!何で私が賞金首になんなきゃならないのよ。意味わかんない!」
「だってさ、お前好きな職業選べばって言ったから…1回なってみたかったんだよなぁ、おたずね者って」
のんびりといった口調でリュンが言う。
「あんた馬鹿!?おたずねされちゃってどうすんのよ。第一賞金首は職業じゃないでしょ、職業じゃっ!最っっ低。何考えてんのよまったく、どうしてあんたはそうなのかしら。馬鹿で無計画で無鉄砲で…ああ、なんか頭痛くなってきた。天国の父様、母様、そちらに行くのはそう遠くないかもしれません。」
手を額に当て、天を仰いだ。怒りすぎて軽いめまいを起こしたらしい。
「う〜ん、良く俺を分かってるじゃないか。さすがはユウヒ…でもそこまで言われるとなんか照れるな。」
「け、な、し、て、ん、の!照れるな馬鹿っ!もう知らないっ、ここで野たれ死んじゃえ!」捨てぜりふを吐いて馬の腹を蹴り、ユウヒは走り出した。
「ちょっ、ちょっと待てよユウヒ!何でそんなに怒るんだ!?お〜い!」
リュンも慌てて前に向き直り、馬を走らせる。
「凶暴ってのがマズかったかな?やっぱりアルに文面頼んだのが失敗だったな…」
少し見当違いなことをつぶやきながらユウヒの後を追う。
追いかけて来るリュンの馬蹄の音を背にユウヒはさらに馬を加速させた。
「…せっかく2人きりで楽しい旅が出来ると思ったのに…リュンの馬鹿!!」
乗り手の怒りに呼応するがごとく、馬はぐんぐん加速して東邦最西端であるグラン国の首都グラン・カーレに向かってバルードを疾走していった―――


―――このグラン・カーレに向かう2人の若者は一体何者なんでございましょう。話に出てきた”甲冑兵”なるものも気になってございます。そもそもこの甲冑兵とはですな…

―――おっと、開幕を告げるベルが鳴りました。そろそろ第一幕がはじまりますので私めの話はここまででございます。後は本編をご覧いただきたいのですが…

―――あっ、ご覧になって行かれる、そうでございますか。ありがとうございます。

―――えっ、私も一緒にでございますか?…
しかし、大変うれしゅうございますが、やはりお断りさせていただきます。
他に仕事もございますし、私はこの物語の筋を全て知っております。加えて私めは話たがり屋でございまして、きっとこのお話しをつまらない物にしてしまうのでございます。

―――おっ、幕が上がり始めましたな。私めは裏方の仕事もがざいますので、この辺で失礼させていただきます。

―――ええ、私めは物語の終わり頃、また戻って参りますよ。
それでは開幕でございます。どうぞごゆっくりご鑑賞あそばしませ…




第1幕

 グラン・カーレの都市城壁がおよそ半クー(約1.5km)先に見えてきたのは、ユウヒの予想通り辺りが薄暗くなってからのことだった。
2人の言い争いから2回の小休止を挟み、幸い夜盗に襲われることもなくここまでたどり着いた。
ユウヒはあれ以来すっかり機嫌が悪いらしく小休止の間も必要最低限の言葉しか発せず、時折リュンの口から漏れる軽口にも全く耳を貸さない様子だった。
ユウヒの怒りの原因を作った張本人であるリュンは、根本的に怒りの原因を取り違えており、なんでそんなに怒るのか分からないと言った様子で、それがかえってユウヒの神経を逆撫でていた。
ユウヒは確かに怒ってはいたが同時に内心喜んでもいた。
日頃ほとんど2人きりで過ごすことのないだけに、このような喧嘩でさえこの上なく楽しく思えてくる。しかし自分の気持ちを素直に表現できず、ついリュンにきつく合ったってしまうのだった。
彼女はリュンを愛していた。
もちろん彼女はその気持ちをリュンには伝えていない。はたから見れば彼女の態度から容易に察することが出来るのだが、当のリュン本人はその事に全く気づいていない。
しかしユウヒはその秘めた思いを決してリュンには伝えないと心に決めていた。
今更という気恥ずかしさや、素直になれないという性格的な問題もあったが、それ以上の問題が彼女の前に越えることが困難な壁となって立ち塞がっていた。
手を伸ばせば触れられる、その吐息さえ肌で感じる事の出来る距離にいながら、果てしなく遠い存在。それが彼女から見たリュンなのだった。


2人が町の入り口に着いた頃にはすっかり暗くなっていた。
グラン・カーレは城塞都市になっていて町の廻りには高さ30クール(約9m)の城壁で囲まれており、入り口は東西南北4つ。それぞれ大きな城門が設置されている。
現在2人が着いたのは東門(ラウド・ミュール)だった。
門の両脇に身の丈 20クール(約6m)の青い鎧を纏った巨人の像が1体づつ、地面に剣を突き立てた姿勢で立っている。
「あれ? 『ウログラス』じゃないか。グランの正式甲冑は『影光』じゃなかったっけ? 」
リュンが巨人の像を見ながらユウヒに声をかけた。
「そうだけど……別に変な事じゃないでしょ。ウログラスは多く出回っている甲冑兵の一つですもの。」
たいして気にした風もなくユウヒが馬を降りながら答える。
この巨人の像は生ける鎧、「甲冑兵」と呼ばれる戦闘兵器である。
人間で言う胸から腹に掛けて着装漕という操縦席があり、そこに人間が潜り込んで操縦する事になる。
甲冑兵を操る人間は着装者または契約者と呼ばれる。
これは初めて操縦する際にその機体と契約してはじめて操縦することが出来ることからそう呼ばれる。
先ほども述べたが甲冑兵は生きていてそれぞれ自我があるのだ。
自我といっても喋ったりする明確な物ではなく、感覚的には馬などに近い。
その機体との相性が合えば契約が成立し晴れて所有者となる。馬に例えたが、まさに馬が合うといったところだ。
操縦といっても着装漕には座席はなく、着装者の体が入る窪みがありそこに体を納めると上に上がっていた胴当てが降りてきて体が固定される。手や足も同様に防具のような物で固定される。正面には甲冑兵の目から見た映像が投影される映像板と機体の状態を示す計器が2,3個並んでいるだけだ。
着装漕の頭頂部、丁度操縦者の頭の上に、レグール(星石)と言われる直径5cmくらいの透き通った緑の水晶のような石が埋め込まれている。
この石が甲冑兵の全機能を司っていて、着装者の手足にはめられた防具に模した伝達具から伝わる人間の動きを忠実に機体に再現させる。
そう、甲冑兵は「乗る」のではなく「着る」のだ。
動力源はミュータンと呼ばれる青い液体を機体の後頭部から補給し、それを全身に張り巡らされた結筋管に流し循環させることにより動かす。
「遅閉めの東門だから大方どっかの中古甲冑兵を配置して居るんじゃないの? 」
「そうかなぁ……それにしては綺麗な甲冑だな。鎧も剣も使った形跡がないし……」
リュンも馬を降り、近づいてしげしげと真っ青な巨人を見上げる。人間で言う丁度胸に当たる部分に、三日月を象ったグラン国の紋章が赤く描かれている。
「門に立たせるから甲冑を換装したんでしょ。そんなことより早く手続き済ましちゃってどっかで夕ご飯にしましょうよ。あたしもうお腹ペコペコ。」
夕飯という単語に反応してリュンも振り返る。その言葉で先ほど感じた違和感はこの男の頭の中から追い出されてしまったらしい。
「それもそうだな。俺もめちゃくちゃ腹減ってたんだ。」
そう言うと、早足で入都の手続きの列へ並び始めた。
「全く、現金なひとね……」
ユウヒはため息を一つ付き、リュンの後に続こうとして不意に振り返り、青い甲冑兵を見上げ、独り言のように呟く。
「……間違いなさそうね。知らせてないけどリュンは何かを感じ取った。さすがは…・・」
何かを言いかけたが、最後は言葉を飲み込んだ。
物言わぬ甲冑兵の面覆いを付けた顔を見つめるその整った瞳には、なにか強い猜疑の色が伺える。
ユウヒは先ほどはとぼけていたが、リュンが感じた漠然とした違和感の正体を知っていた。そしてこのウログラスと呼ばれる甲冑兵がココに立っているという事実を正確に分析していた。
彼女はそれを調べるためにリュンの旅に同行したのだ。
―――本気なのね。でもそんなことはさせないわ。私が絶対……
「おーい、ユウヒ次だぞ〜! 」
列に並んでいたリュンが呼んでいる。見るともう前の人が手続きを終えようとしていた所だった。
「お前だって腹減ってんだろ〜、早く来いよ〜。 」
「ちょっと! そんなおっきな声で言わないでよ、恥ずかしいじゃない! 」
ユウヒが文句を言いながらリュンの横に並んだ。廻りの人はクスクスと忍び笑いをしている。年頃の娘に対して、デリカシーの欠片も持ち合わせてないリュンであった。
「まったく、鋭いんだか、鈍いんだか……」
「鋭い?……なにが? 」
不思議そうにリュンがユウヒの顔をのぞき込む。鼻のすぐそばまで顔を近づけて来るリュンに、ユウヒは狼狽した。
「なっ、何でもないわよ。ほっ、ほら、呼ばれたわよ。」
顔が赤くなっているのを自覚していたユウヒは、それをリュンに悟られないよう、さっと踵を返して受付に向かった。
ユウヒは荷物の中から鑑札を出し、受付に渡す。
「リュン・パーサー。男、年齢25歳。職業機織り職人……ユウヒ・グレース。女、年齢26歳。同じく機織り職人と……」
入都受付の官吏は、渡された鑑札に記載されている事項と本人達を見比べて確認した。
それらしくしているだけで、本当は鑑札に記されている国証印が本物であるかどうかを見るだけなのだが、単調な作業なだけに時々旅人をからかい半分で対応していた。
中には賄賂を受け取っている者もいると言う噂だ。
「ふむ……なんか引っかかる……」
鑑札を見ながら、官吏はもっともらしく呟いた。
「なにがでございますか? 」
ユウヒが聞き返した。
昼間、リュンが持っていた手配書の事が頭をよぎったが、すぐに違うことが判明した。
官吏は鑑札を渡したユウヒに舐めるように視線を這わせた。若くて美形なユウヒを見て、なにか卑猥な想像を頭の中で巡らせている。そんな表情だった。
「その鑑札は本物でございますよ。ちゃんと国証印だって押してありますし……」
「そうではない。…誰がそう申した。それにわざわざなんでその様なことを申すのだ? 偽物と言ってないのにことさら本物を強調する……怪しいな……」
官吏がユウヒを睨む。凄みを聞かしているつもりだろうが、ユウヒは全く動じない。しかしユウヒは芝居がかった声を出した。
「そんな……言いがかりにございます! 」
「言いがかりとはなんだ。無礼な奴め! これは別室で吟味せねばなるまい。」
官吏が席を立った。

―――年頃の若い娘に目を付けていちゃもんを付け、吟味と称して別室でいかがわしい事   をする魂胆ね。下手に付いていったら何をされるか分かったもんじゃない。きっと   この手で何人もの女を毒牙にかけてきたんだわ……許せない!

「……分かりました。」
ユウヒはそう答えて立ち上がった。
「えっ、取り調べ行くの? 」
意外そうにリュンがユウヒに聞いた。
「大丈夫よ。何も悪いことしていないんだもの。すぐ戻ってくるわ。」
そう言ってユウヒはリュンにウインクをした。そして官吏と一緒に、奥の部屋へと消えていった。
受付にはもう一人の官吏とリュンが残った。そしてもう一人の官吏が独り言のように呟いた。
「気の毒にな……」
「ええ、本当にお気の毒で……」
リュンも同じく呟く。
「んっ、どういう意味だ? 俺はあんたの連れのことを言ったんだぞ。」
「えっ、ああ、そ、そうですよね。心配だなぁ……」
慌ててごまかすリュンを官吏は怪訝そうな顔で見る。確かに端から見ればおかしな会話であった。
「まあいい。それよりあんた脇に避けといてくれ。あんたの連れは時間が掛かるからな。よし、次の者、前へ……」
と言いかけたとき、奥の扉が開き、ユウヒと先ほどの官吏が出てきた。外見から見る限りでは入る前と変わらない様子だった。そして何事も無かったように自分の席に着いた。
「……おい、ずいぶん早いな……どうした? 」
隣の官吏が小声で耳打ちする。
「ん、……何がだ? ああ、この方達の事か。うん、特に疑わしい所は無かった。俺の勘違いだったようだ。あっ、ユウヒ殿、リュン殿、お待たせいたしました。入都を許可します。ようこそグラン・カーレへ……」
先ほどの高圧的な物言いとはうって変わり、まるで官職のお手本と言えるような丁寧な言葉で通してくれた。隣の受付官吏もまるで人が変わったような相棒を見て、驚いてる様子だった。
「ありがとうございます。それではリュン行きましょう。」
そう言ってユウヒは馬の手綱を引きながら町の中に歩みを進めた。あっけにとられたリュンも慌ててその後に続く。
「ユウヒ、お前奴に何をしたんだ? 」
隣に並んでリュンがユウヒに問いかけた。ユウヒはニコッとして腰袋から小さなガラス小瓶を取り出した。中には緑色の砂が入っている。
「ちょっとね、彼の記憶を操作したの。今の彼は初めて役職に就いた使命感に燃える新人官吏よ。まぁ、少し色を付けて置いたけど。」
「なるほど……」
「術の効果は2,3日ってとこ。」
「お前にしてはずいぶん軽い刑じゃないか。」
リュンは以外そうに聞いた。ユウヒはああいう輩はもっとも嫌いなタイプで、報復には容赦がなかったからだ。リュンも人の弱みにつけ込むのは好きではないが、ユウヒの罰には、なにもそこまでやらなくとも、と思うのだった。
「それだけで済ます分けないじゃない。私はそこまで甘くはないわ。」
―――やっぱり……
「暗示を掛けたの。彼の真相心理の奥の方に。術が解けてまた良からぬ考えを起こしたときに発動するようになっているわ。」
ユウヒはにんまり笑みを浮かべる。
「彼が事に及ぼうとするとね、フフッ、彼男として完全に役に立たなくなるのよ。『フラン』(魅了)って『砂術』の応用でね、脳に焼き付けたから一生解けないわ。」
お転婆娘がいたずらを仕掛けた時のような笑顔だったが、その内容とのギャップが激しいだけに、リュンの背中に冷たい物がは走った。少しだけさっきの官吏に同情した。
「おまえな……私事でそんなに簡単に『砂術』使って平気なのか?教戒に縛られているんじゃなかったっけ? 」
ため息混じりにリュンが言った。
『砂術』(さじゅつ)とはカレート山付近で採取される『レグ』(星砂)と呼ばれる緑の砂を媒体に、超自然の力を引き出す術の事で、これを使う者を『砂術師』(さじゅつし)と呼ぶ。
術が引き起こす事象は、レグと他の触媒を組みあわせて発動させる事により様々なバリエーションが存在する。
ただし、レグを持っていれば誰でも術を発動出来るわけではなく、長年の精神修行と素質によって初めて砂術をコントロール出来る。
摩訶不思議な超自然の力を行使する砂術師ではあるが、決して万能ではなく複雑な法則や所属砂術師組織の『教戒』という色々な戒律に縛られており、おいそれと術は使えない事になっている。
ユウヒは砂術を操ることのできる数少ない砂術師なのである。
「あら、自己防衛手段として行使しているんだもの教戒には抵触しないわ。」
ユウヒはさらりと言ってのけた。
「自己防衛って言ったって……なんか屁理屈ぽいな……」
「俗人にはそう聞こえるかもしれないけど私たちには大事なの。それにあんな世の女の敵をのさばらして置いたら被害者が増えるだけでしょ?これは立派な社会貢献よ。」
物は言い様である。
「くだらない事で時間食っちゃった。さ、馬預けて食事に行きましょ。あ〜、良いことしたらさらにお腹空いた。ご飯ご飯〜♪ 」
ユウヒは上機嫌で夜の町に乗り出していった。
そんなユウヒの後ろ姿を眺めながら、リュンは男としてユウヒだけは敵に回したくは無いと、心底思い天を仰いだ。
夜空には綺麗な三日月が恥ずかしそうに薄雲に隠れてそんな2人を覗いていた。
三日月を象ったグランの紋章。
リュンはふとそんなイメージを連想させた。
「三日月の都か……風流だねぇ。」
と、のんきに呟きながら歩き始めた。
しばらくしてその三日月が完全に雲に隠れてしまった。
それはこれから始まるこの国を発端にした大きな災いを暗示しているかのようだった。
やがてそれは火種となり、大陸全土を揺るがす動乱の幕開けとなることを、2人はまだ知るよしもなかった。


第2幕


グラン・カーレの町は各門より中央に向かって伸びた大通りがあり、東門通りをラウド・パセ『東の陽光』。西門通りをミウド・ロッテ『西の山』。北門通りをパウド・ロウ『北の風』。そして南門通りをスウド・ロマ『南の雲』と呼び、それぞれ門の名前と意味にちなんだ名前が付いて町の中心にある王宮に繋がっている。王宮の廻りには堀があり、跳ね橋によって町と繋がっている。
町は4本の大通りと王宮を中心にして円を描くように敷設された3本の道によって4区画に区切られていた。
城壁側からそれぞれ商業区、工業区、居住区、国政施設区と4つに分かれている。
中央に行くに従って、居住区では身分が高く、その他の区は重要施設になっていく。
街の人口は7千人弱で、これは東邦の都市の中では大規模な部類に入る。
リュンとユウヒが入都した東門に続く通り、ラウド・パセと西門通りミウド・ロッテは主に商業が盛んであった。
ラウド・パセは夜であるのに明るく、人通りは多かった。それもそのはずで、通り沿いには等間隔でガス灯が設置してあった。
ここグラン・カーレの地下には巨大な天然のガス溜まりがあって、そこから銅管で街の大通りや街の各所に配管し、街灯を整備してあるのだ。この時代では画期的な技術である。
このため、このグラン・カーレは『月明かりの都』とも呼ばれていた。
「ロマンチックな街よね・・・・・・ 」
街灯の明かりに照らされた石畳の通りを歩きながら、ウットリと言った感じでユウヒが呟いた。
門近くの厩に馬を預けて、2人は食堂を探しながら並んで通りを歩いていた。彼女にとってリュンと2人で夜の街を歩く事が嬉しくてたまらないと様子であった。
通りには大小様々な商店が軒を連なり、客足を自分の店に向かわせるべく努力している。露天商も多く出ていて、あちこちから胃袋を刺激する魅惑的な臭いが立ちこめて行き交う人を誘っていた。
「う〜ん、アレもうまそう・・・・・・ いや、あっちの串焼きも肉汁がこう・・・・・・」
リュンは夜の街にウットリしているユウヒとは対照的に、鼻をくすぐる臭いの誘惑の虜になっていて、廻りをキョロキョロとせわしなく見ながら、今夜の夕食選定に没頭している。
「困った。どれも、これも食べたくて、決められん・・・・・・ 」
「・・・・・・ あんたってムードを壊す天才ね、まったく。・・・・・・ 涎拭きなさい、涎」
「お前だって腹減ってんだろ? そろそろどっか入ろうよ。もう腹減って死にそ・・・・・・ 」
リュンはお腹を押さえてユウヒに言った。今にも倒れそうな勢いだ。
「あ〜あ・・・・・・ はぁ、なんで・・・・・・ 」
――こんな人好きになっちゃったんだろ・・・・・・ 手ぐらい繋いでくれたって良いじゃない!・・・・・・
ユウヒは声にならない呟きを胸の中でつき、ため息を吐いた。
「わかったわ。ココなんかどうかしら? 『パセの安らぎ』亭、・・・・・・ グラン産の地鶏を使った鳥料理が絶品・・・・・・ あら、宿泊も出来るのね。値段もそこそこだし・・・・・・ ねえ、ここにしましょうよ」
ユウヒは丁度、2人の立ち止まった右手にある店を選んだ。
店は値段の割に3階建ての石造りという立派な店構えで、入り口の左右に龍の彫刻を施した柱があって訪問者を迎えている。
入り口の左側に手書きの先ほどユウヒが読んだ看板が立てかけてある。
「鳥料理か・・・・・・ いいねぇ、グラン産地鶏は有名だもんな。よしっ、ココにしよう」
2人は店の戸を潜って店内に入った。

店内は夕食時ということもあってか結構混んでいた。
1階は広い食堂で2階まで吹き抜けになっている。奥にはカウンターがあり、その先は厨房になっているらしく時折大きな声で女給達が取ってきた客の注文を復唱したりしていた。
カウンターの上には2階の廊下があって、両側には緩い弧を描いた階段が2つあるのが見える。おそらく宿は2階なのだろう。
2人は宿の手続きは後回しにして、食事にするため、とりあえず開いているテーブルに腰を下ろした。すると程なくして若い女給が注文を取りにやってきた。
「いらっしゃい、お2人さん。ここらじゃ見ない顔ね。旅の人?」
年の頃はリュンやユウヒと同じくらいで、長めの髪を束ねて後ろで結んでいる。少し濃いめの化粧を施し、ふっくらとした赤い紅を引いた唇は豊かな愛情を想起させる。
胸元をすこし大きめに開いた上着は、胸の谷間を強調していて男性客の心をくすぐる目的が有るのだろう。
驚くほどの美人ではないが、見る者を引きつける魅力がある娘であった。
リュンも自然に胸元に目が行ってしまう。
「ああ・・・・・・、今着いたんだ・・・・・・ うぐっ! 」
リュンが突然呻いた。
リュンの一瞬の視線の動きをユウヒは見逃さなかった。テーブルの下で向かい合ったリュンの向こう脛をつま先で蹴ったのだ。
品書きを渡しながら不思議がる女給に、何食わぬ顔でユウヒが対応した。
「着いたばかりでお腹空いちゃって。旅の途中はたいした物食べていなかったから・・・・・・ お勧めは何かしら?」
「そうね・・・・・・ もも肉の香草焼きなんかどう?10種類の香草と特製スパイスを利かせた当店自慢の料理よ。スープにするのも良いけど、なんと言っても焼いたのに限るわ。グラン鶏のおいしさを一番堪能出来る食べ方ね。香草を使ってるから旅の疲れも吹っ飛んじゃうかも」
聞いてるだけでお腹が空いてくる娘の明るく丁寧な説明で、ユウヒも無性に食べたくなってしまった。
「じゃあそれを2人分頼むわ」
「それと・・・・・・ サラダと、チーズ入りの堅焼きボスク(パン)ってところでどうかしら? これで値段の割にはボリュームあるわよ」
続けて娘はサイドメニューも選んでくれた。こういう客が多いのか、手慣れた感じで次々と選んでいく。
「そうね、お任せするわ。」
「じゃあ決まりね。お酒はどうする?」
「それは結構よ。そうね、おいしい水をいただけるかしら?」
「わかったわ、ちょっと待っててね、今持ってくるから・・・・・・」
注文を取った紙を握り、女給の娘はは早足でカウンターに戻っていった。途中何度かなじみらしい客の追加も頼まれ、にこやかに客に対応している姿はとても好感が持てる。この店の看板娘と言った感じだった。
「なによ、デレ〜っとして胸元なんかチラ見しちゃって。いやらしい・・・・・・ 」
まだうなってるリュンを睨みながらユウヒが言った。
「少しは加減しろよ・・・・・・ だいたい変な目で見てないって。あんな服着ているんだから嫌でも目に入っちゃうだろ」
「どうだかね〜 可愛い娘だったもんね〜 」
ユウヒが軽蔑の眼差しを送ってくる。こういう話ではリュンには分が悪い。ユウヒに勝った試しが無かった。それに一瞬みとれたのも確かであった。
「お前な・・・・・・ なんだ、妬いてるのか?」
冗談で言ったリュンだったが、ユウヒは本心をズバリと言い当てられ顔を赤らめた。
「ばっ、馬鹿言わないでよ、何であんたなんかにヤキモチ妬かなきゃなんないのよ! 」
「じょ、冗談だよ、そんなに怒ること無いだろ・・・・・・ 」
そこに先ほどの女給が、水と堅焼きボスクを持ってやってきた。
「旦那さん、こんな綺麗な奥さん怒らしちゃだめよ。でも喧嘩するほど仲が良いって言うわね。羨ましいわ。」
どうやら2人を夫婦と勘違いしたらしい。
「お2人さん見てると私も早くいい人見つけて結婚したくなっちゃうわ」
「い、いや俺たちは夫婦じゃなくて、その・・・・・・ 幼なじみって奴で・・・・・・」
少し照れながらリュンは女給に説明する。
――フフッ、照れちゃって、かわいいじゃない。
ユウヒは照れ隠しに頭を掻くリュンの姿を見て、溜飲が下がっていくのを感じた。なんのかんの言いながら、所詮は惚れた方の負けである。
「なんだ、そうなの? とっても息が合っているみたいだったから、あたしてっきりそうなのかと思っちゃった。ごめんなさいね」
女給はユウヒに向かって言った。
「ううん、気にしないで」
ユウヒはすっかり機嫌がよくなっていた。女心は山の天気と同じで、コロコロ変わる。リュンでなくとも男には理解できない永遠の謎だった。
「ところで、お2人さん、どこからいらしたの? 」
「ミスルムからさ」
リュンの答えに女給は驚いた。
「へぇ〜、わざわざ『帝都』から大会見に来たって訳? 」
「・・・・・・ 大会?」
「えっ、大会見に来たんじゃないの?」
女給は意外そうに聞いた。
「・・・・・・ 私たちは反物の買い付けに来たの。こっちのは質が良いから向こうじゃ良く売れるのよ。いつも運んでくれる人が病気で倒れて困っちゃって。それじゃあ観光も兼ねて行ってみようってことになったんだけど・・・・・・ 大会って? 」
「じゃあ本当に知らないんだ。五日後から始まる甲冑兵闘技大会の事よ。いつもは2年に1回開催されるんだけど、5年前の内乱でしばらく中止になっていてね、やっと今年から再開されることになったのよ」
「へぇ・・・・・・ それでこんなに人が多いのか・・・・・・ 」
テーブルに置かれた堅焼きボルクを取りながらリュンがつぶやく。
「ええ、しかも今回は『御天主様』まで見に来るって言うじゃない。そりゃ人も集まるわよ。ねえ、お2人さんは帝都に住んでるんでしょ? 『御天主様』には会ったことある? 」
女給は目を輝かして言った。
「御天主さま? 」
「『銀王』様よ、ディア・アルメス・カルバート6世皇帝陛下に決まってるでしょ」

ディア・アルメス・カルバート6世は東邦24国のうち、このグランを含めた10カ国を属領に持つ、東邦最大の国、グランシス帝国現皇帝である。
5年前、即位の折り、それを不服とした王弟ヒュンメルは、主立った家臣と共に謀反を起こした。その内乱の舞台になったのが、このグラン国であった。当時このグランを統治していたのが王弟ヒュンメルだったのだ。その内乱は『グランの乱』と呼ばれる。
国主側は直ちに討伐に乗り出した。
数的に圧倒的に不利だった王弟派だったが、この混乱に乗じて隣国である『グリフス国』『ドルキア国』『ストーリア国』の3国が王弟派に荷担し、その見返りに領土拡大を狙った。
そして、王弟派は国主の妻である王妃を人質に取り、国主に王座を返上するよう迫った。
対策を練るべく国主側は一時進軍を停止せざるを得なくなった。
両軍はこのグラン・カーレの東に位置する『ルーラン平原』でにらみ合う形となる。
そのとき、功を焦ったドルキアの指令官が前線に王妃を連れだし、国主側を恫喝した際、誤って王妃を殺害してしまったのだ。
美しく、誰に対しても優しい王妃は帝国内でも人気が高く、帝国民はこの悲劇を大いに悲しみ、王妃の死を悼んだ。
5年経った現在でも、帝国内各地で催される『グランの乱』の演劇で、この『ルーランの悲劇』の場面では、未だ多くの観客が涙すると言われている。
この悲劇をきっかけに国主側は全帝国軍の半分を討伐戦に投入。王妃の弔いに燃える国主側は圧倒的な強さを見せ、瞬く間に王弟派は鎮圧された。その後王弟は処刑された。公式には自害となっている。
その後、カルバート6世はすぐさま王弟派に荷担した3国に派兵、わずか1年で3カ国を平定し、その属領を現在の10カ国としたのだった。

「カレート山の頂上まで行って『天啓』を得たとかで『半神』におなりになったんでしょう? それで長い髪が毛先まで白銀に輝き、『銀王』と呼ばれるのにふさわしく、眩しいくらいに美しいって噂よ。おまけに凄い美形でまさに神の使いって感じ。恐れ多い事だけど、あたし一度で良いからご尊顔を拝見したかったの・・・・・・ 」
女給は恍惚とした表情で2人に言った。
「いくら帝都に住んでいるからって、私たち一般都民が皇帝陛下に会えるわけ無いわよ。でも私、10カ国平定記念のパレードで陛下を遠くから見たことがあるわ。確かにあなたの聞いた噂通り、眩しいくらいの美しい白銀の御髪がそよ風になびいていたわ」
「いいなぁ・・・・・・ あたしも絶対大会・・・・・・ と言うより、銀王様を見に行くんだ・・・・・・ 」
リュンは甲冑兵闘技大会には興味があったが、女二人の憧れの銀王話について行けない。一人堅焼きボスクをほおばっていた。
「ところで、ここ泊まれるんでしょ? まだ部屋は空いてるかしら? 実は着いたばかりで、まだ今夜の宿を決めていないのよ」
「そうなの?・・・・・・ う〜ん、どうかしら、一昨日辺りから泊まり客が増えているから・・・・・・ そろそろお肉も焼けてる頃だから、運んでくるついでに聞いてくるわね」
そういって娘はカウンターの方へ行き、今度は階段を上がって2階に消えていった。おそらく空いている部屋を確認しに行ったのだろう。
程なくして、料理を盆に載せて女給が帰ってきた。
「お待ちどおさま。当店自慢のグラン鶏もも肉香草焼きで〜す。どう? なかなかボリュームあるでしょ? 味も保証付きよ」
女給は自慢げに言い、料理を手際良くテーブルに並べる。とたんにテーブルを香草とスパイスの絶妙な香りが支配した。
皿の中央にもも肉を乗せ、廻りに荒っぽく切ってただ煮ただけの野菜が取り囲んでいるだけという盛りつけと言うには何ともシンプルすぎる見栄えだが、逆に表面にこんがりと焼き目の付き、そのつなぎ目から肉汁が滴っているもも肉をより一層引き立てていて、食する者を魅了していた。
たしかに大きさも彼女の言う通り、ボリュームもあり食べ応えがありそうだ。
「いや、ほんと旨そうだな」
リュンは今にもかぶりつきそうな表情で、テーブルの料理に顔を近づける。ユウヒもみっともないからやめなさい、とリュンに注意するが、先ほどから鼻を擽る臭いに反応してお腹が鳴っていて、女給に聞かれないかとヒヤヒヤしていた。
「それと・・・・・・ お二人さん同室でもかまわない? やっぱり混み合ってきていて、1部屋しか空いてないのよ」
「えっ!?」
ユウヒが狼狽して声を上げる。
「いや、でもそれはちょっと・・・・・・ ねぇ・・・・・・ 」
ユウヒは照れながら、曖昧にリュンに同意を求めて促した。ユウヒにとっては嬉しいような、恥ずかしいような、複雑な心境である。しかし、そんな乙女心を全く分かってないこの男は、ケロっとした顔でこう答えた。
「えっ? 俺は気にしないよ。だって旅の途中、何度も野営用の寝袋で隣同士グースカ寝てたじゃないか。大体幼なじみに変な気なんか起こさないから大丈夫だって。お前も気にするなよ」
―――なによーっ、女として見てないその言い方! 照れるぐらいしてくれたって良いじゃない!・・・・・・ さっきの夫婦と勘違いされたときの照れは何だったのよ!
「何よ、失礼ね! グースカなんて寝てないわよ! 寝袋に入っていくらも経たぬうちに鼾掻いてたのはあんたでしょうが! あたしなんかいつ夜盗に襲われやしないかって常に警戒しながら寝てたのよ! 」
そんな2人を羨ましそうに眺めながら、女給は2人の口喧嘩に割って入った。
「まあまあ、どっちみち部屋は1部屋しかないんだから・・・・・・ それで、どうするの? 他をあたる? 」
怒りが納まりきらない様子のユウヒだったが、諦めたようにため息をついて答えた。
「・・・・・・はぁ、確かに仕方ないわね。お願いするわ」
「じゃ、決まりね。あたしはフィアナ。部屋係も兼務してるのよ。この時期人手がたりなくって。お二人さん名前は・・・・・・ 」
「ああ、私はユウヒ。こっちの朴念仁がリュン」
まだ怒ってるらしく、言葉に刺があるユウヒだった。その仕草にフィアナはクスリと笑いながら言った。
「フフッ、じゃあユウヒさんとリュンさんね。・・・・・・ リュン?、不思議とどっかで聞いたような名前だけど、気のせいかしら?・・・・・・ まっ、いいか。しばらくの間宜しくね。ようこそ『セパの安らぎ亭』へ・・・・・・ じゃ、あたし宿泊の手続きしてくる。食事が終わったらお部屋に案内するわね」
そう言ってフィアナは去っていった。
2人は本格的に食事に取りかかった。空腹だったこともあってか、料理は2人の旅の疲れを幾ばくか癒し、不機嫌だったユウヒも次第に怒りが薄れ幸せな気分になっていった。
そして十分に料理を堪能した後、2人はフィアナに案内され、2回の客室に入った。
部屋にはテーブルが1つに椅子が2つ。あとはベッドが1つあるだけだが、それだけでスペースの半分を占めてしまう狭い部屋だった。
正面に南東に面したテラスに繋がる窓が一つあり、セパの通りを見渡せるようになっていて、天気の良い朝には、気持ちの良い陽光が差し込むであろう事が想像できる間取りだ。値段の割には良い部屋であろう。
「朝は朝食が用意で次第呼びにくるわ。それじゃ、ゆっくり休んで旅の疲れを取ってね。お休みなさい・・・・・・ 」
そう言ってフィアナは1階に降りていった。
「さてと、寝るとするか・・・・・・ 」
リュンはそう言って荷物の中から野営用の寝袋を取りだし床に敷きだした。それを見てユウヒが慌てて言った。
「ちょっとリュン、ベッドはあなたが使っていいのよ。私は砂術でどこでも寝れるんだから。なんなら、空中で寝ることだってできるわ。」
「女のお前を差し置いて、男の俺がベッドを使えるか? それにさっき言ってたろ? 野宿ではゆっくり眠れなかったって。俺は床で寝るよ。なに、外に比べれば雨風凌げるし寒くもないんだから天国さ」
リュンはそう言って、ハハッと笑った。ユウヒはリュンのその言葉が、自分の心の奥に心地よく染みていくのを感じていた。
他人から見れば些細なことかもしれないが、自分を女として扱ってくれて、さらに自分の体のことを気遣ってくれる。そんなさりげないリュンの優しさが、たまらなく嬉しかったのだ。
「でも・・・・・・ あたしが勝手に着いてきた訳だし・・・・・・ 」
ユウヒは尚も遠慮する。しかし一緒に寝ようとは、彼女性格からして口が裂けても言えないのだった。
「いいって、しつこいなぁ・・・・・・ 俺はもう寝るぞ。その代わり明かりはお前が消してくれよ。」
リュンはそう言って、さっさと寝袋に入ってしまった。
「・・・・・・ うん。ありがと・・・・・・ 」
ユウヒはそう言って明かりを消そうとした。すると、疲れていたのか早くもリュンが鼾を掻き始めた。
「相変わらずね。でも・・・・・・ 優しい人ね、リュン・・・・・・ 」
そう言うとユウヒは、何か思い付いた表情をしてから毛布を引きはがし、体をくるんでリュンの隣に横になった。
寝心地の良いベッドよりも、多少堅い床の上でも愛する男の隣の方が、ユウヒにとって一番心地よい場所なのだった。
「お休みなさい。リュン」
そう言ってユウヒは部屋の明かりを消し、リュンが寝ていることを確かめたうえで、その頬に軽くキスをした。
それは、普段素直になれない自分ができる精一杯の愛情表現であった。

一方、客室を後にしたフィアナは階段を降りてカウンターの奥にある厨房に向かった。
厨房には3人の男が料理を作っている。
鍋の前に立っていた男の横を通り過ぎて、さらに奥の執務室へ向かう。
立ち入り禁止の文字がドアに表示してあり、フィアナのような女給が入ることは許される場所ではないのだが、不思議なことに誰も注意しない。
フィアナは何の迷いもなくドアを開き中に入った。
部屋には本棚が並び、中央には応接セットが一式。奥には大きな事務机と、その後ろに金庫が置いてある。
机には大柄の男が1人座っていて、入ってきたフィアナに声を掛けた。
「フィアナ様、あの2人連れは何者です? 食事の時もずいぶん話し込んでおられたようでしたが・・・・・・ 」
年の頃は40を過ぎた辺りと言ったところか、顎髭を蓄え一見宿屋の頑固親父と言った感じで、およそ女給に敬語を使うタイプの人間には見えない。
それにフィアナに声を掛けるその目には、鋭く光るものがあった。
「別にたいした話ではないわ。ただの世間話よ。ただ、帝都から来たっていうんで気になったの」
「帝都からですか? まさか帝都からの密偵ではありますまいか? 」
「今のところはなんとも言えないわ・・・・・・ 反物の買い付けって言ってたけど、それは恐らく嘘ね・・・・・・ 」
フィアナは髪を解き、ソファーに腰を下ろした。
「では、やはり・・・・・・ 始末いたしますか? 」
男の目に緊張が走った。
「先走らないでクレモンド。もう少し様子を見ましょう。無理に一部屋空き部屋作って泊まらせてあるんだから。正体が掴めないと手の打ちようが無いでしょ。ただ、泳がせておくけど監視は怠らないで頂戴。」
フィアナはきつめの口調でクレモンドと呼ばれた男に告げる。自分の考えを曲げない、強い意志が感じられる声音だ。
「分かりました。ただ、時期が時期です。用心せねばなりませんな」
「分かっている。でも片っ端から人を殺めるわけにはいかないわ。」
「・・・・・・ 確かに。・・・・・・ フィアナ様、兄上様は・・・・・・ ヒューム様は本当にやるのでしょうか? 」
フィアナは少し考え、クレモンドに言った。
「・・・・・・ ええ、兄はやるでしょう。あの人は銀王に対する復讐心で生きているもの・・・・・・ 」
そう言ってフィアナは唇を噛んだ。そんなフィアナを見るクレモンドの顔には、深い悲しみの色が浮かんでいた。
「なんとしても兄を止めなくては・・・・・・ たとえ兄と差し違えてでも・・・・・・ 」
「・・・・・・ 討てますか? 兄上様を?・・・・・・ 」
そのクレモンド問いにフィアナは答えなかった。
――― その役だけは私が引き受けます。フィアナ様に兄殺しをさせるわけにはまいりません。
沈痛な趣で両手を組み、思い詰めた目で一点を見つめるフィアナを眺めながら、クレモンドはそう心に誓うのだった。
不意に、フィアナが思い出したようにクレモンドに問いかけた。
「ねえクレモンド、さっきの2人組何処かで見覚え無い? 偽名かもしれないけど、リュンとユウヒって名前なんだけど・・・・・・ 」
その問いに少し考え、クレモンドが答える。
「・・・・・・ はて? とんと記憶にはございませんな」
「そう・・・・・・ 誰かに似ていると思うんだけど・・・・・・ 思い出せないわ。やっぱり気のせいかしら?」
「フィアナ様がそう仰るなら、やはり密偵、あるいは帝国政府要人では・・・・・・ ? 」
「かもしれないわね。まあいいわ。どっちみち正体が分かればおのずと分かる事だから」
そう言ってフィアナはこの話を打ち切り、立ち上がった。
「じゃあ、私は女給の仕事に戻るわ。まだ片づけが残っているから」
「申し訳ありません。フィアナ様にその様な事をさせるとは・・・・・・ さぞお恨みかと存じます。亡きお父上にあの世でなんとお詫びをいたしたらよいやら・・・・・・ 」
クレモンドは申し訳なさそうにフィアナに頭を下げた。
「何言ってるのよ。もう慣れたわ。それに貴方には感謝しているの。家が取りつぶされて、こんなになってまで私たちに付いてきてくれているでんすもの。恨みなんてこれっぽっちも感じてないわ」
フィアナは笑顔で答えた。そんなフィアナの姿に、クレモンドの心はわずかだが癒されていくのだった。
「じゃ、行くわね。ああ、それといいこと、ここを出たら貴方はお店の主人。私は女給。この数日は日雇いの人間も雇って居るんだから忘れて敬語なんて使っちゃ駄目よ」
そう言ってフィアナは執務室を後にした。
一人残ったクレモンドは思い詰めた様子で椅子から立上り、ドアに鍵を掛けた。そして書棚から一冊の本を引き出す。すると音もなく書棚が横に移動して隠し扉が現れた。
その扉のノブに手を掛けて止まり、こう呟いた。
「・・・・・・ 今は亡き我が君、カイエン様。フィアナ様は良いお方に育っておいでです・・・・・・ もとより私の命、無い物と思っておりますが・・・・・・ フィアナ様がヒューム様を討つ。それだけは命に替えても避けねばなりません。この不肖クレモンドの不忠義、どうかお許し下さい。」
クレモンドは、そう亡き主君に詫び、悲しみと後悔に表情を曇らせながら扉の向こうに消えて行った。




第3幕


 明くる日、その日は朝からいつになくセパ通りは沿道に人が集まり、賑わいを見せていた。
まだ夜も明けぬ頃から、1組、2組と沿道に場所取りの人が集まりだし、通り沿いの早開けの店が開店する頃には、大勢の市民が沿道に集まっていて、皆思い思いの格好で通りの門の方から来る「何か」を待っていた。
 リュンとユウヒは、そんな通りの光景を、店の1階で少し遅めの朝食を取りながら眺めていた。
「はのひとはちは・・・・・・ はにほはってるほ? ・・・・・・ゲホッ」
 リュンは食後のお茶を運んできたフィアナに外の騒ぎを聞いてみたのだが、口の中にボスクをいっぱい詰め込みながら喋っているせいで何を言っているのかまったく聞き取れない。しかも詰め込みすぎで、どうやら喉につかえたらしい。
「誰も取ったりしないんだから、もうちょっとゆっくり食べたら? みっともないったらありゃしない・・・・・・」
 そう言ってユウヒはため息を付く。言われた当の本人は卓に置かれたお茶を奪うように取り、喉につかえたボスクを無理矢理胃に流そうと悪戦苦闘中でユウヒの言葉は耳に入って無い様子だ。
 そんな二人の様子にクスクス笑いながらフィアナが答える。
「今日の午後から大会の予戦が始まるの。それでその予戦に出場する甲冑兵が、このセパ通りを行進して会場入りするのよ」
 どうやらリュンが何を言っていたのか理解できたらしい。
「それを見物するためのこの騒ぎって訳か・・・・・・ 」
 何とか窒息死を免れたリュンが、納得したように答えた。
「別に行進して会場入りしなくても良いんだけどね。ほら、甲冑使いって目立ちたがり屋が多いじゃない? それに”流れ”の参加者も居るからね。目立って仕官しようって輩も多いのよ」
「なるほどね・・・・・・ まぁ、帝都の大会でもそんな連中はごまんと居るからな」
「各国の団体戦は無いから帝都の大会のような派手なパレードじゃ無いけど、何機もの甲冑兵が行進していく様は結構迫力有るわよ〜。日頃娯楽が少ないから、みんなが熱くなるのも無理無いわよ」
 確かに沿道に集まった市民の数を見る限り、フィアナの言う事もうなずける。ましてや久々の開催となればなおさらだろう。
「内乱終結から5年経ったとは言え、みんな不安なんだと思う。だからこんな事でも便乗して景気を付けようとしているのよ・・・・・・ 」
 そう言いながら、店の入り口の向こうに見える騒ぎを眺めるフィアナの瞳は、幾ばくかの寂しさを含んでいた。
「そうね・・・・・・ 彼らにしてみれば、上の都合で戦争が始まって、犠牲になるのはいつも民である自分たち・・・・・・ こんな事でもなきゃやってられないかもね」
 ユウヒも通りに目をやって呟いた。通りには先ほどよりさらに人が増えた様子で、沿道はかなりの混雑になっている。掻き入れ時と思い店を出そうとしていた露天商達は、あまりの混雑ぶりに商売にならないと判断してか、早々に店を畳んでいるのが見える。
「あたし、もうすぐ朝の仕事片づくから、表の行進見物しに行こうと思ってるんだけど、リュンさん達、一緒に見に行かない?」
 リュンとユウヒは二人で顔を見合わせて、少し考えてからユウヒが答える。
「う〜ん、午前中に問屋廻りするつもりだから・・・・・・ リュン、あんた行って来なさいよ。問屋廻りは私が行って来るから」
「そう? そうだな・・・・・・ それじゃお言葉に甘えて見物してこようかな」

―――別行動って訳ね。まあいいわ、誰かに尾行してもらおう・・・・・・ クレモンド!

 フィアナは何気なく奥のカウンターに目をやる。カウンターの向こうに立つクレモンドは無言で頷いた。
「じゃあ決まりね。ユウヒさん、少しの間リュンさん借りるわねっ」
 フィアナは何食わぬ顔でユウヒをからかう。
「だからっ! 私たちはそういう関係じゃ無いって・・・・・・ 」
 少し頬を赤らめながら必死に否定するユウヒとは対照的に、リュンはフィアナの言った意味が分からないと言った様子で首を傾げ、最後のボスクに齧り付いていた。
「あはははっ、ユウヒさんわかりやす〜い。じゃ、店長、そういうことで。コレ片づけたら行ってきま〜す! 」
 フィアナはカウンターの奥に居るクレモンドにそう宣言すると、空いた皿を片付け始めた。
「最低でも昼食の一刻前には帰って来いよ。うちにはお前を遊ばしておく余裕は無いんだからな!」
 そう憮然とフィアナに言い放ち、クレモンドは奥に消えていった。 

―――油断は禁物。ご無理なさいますな、フィアナ様・・・・・・

「は〜い、わかってま〜す!」
 フィアナは元気良く答えた。 

―――大丈夫よクレモンド。こんな華奢そうな優男・・・・・・ 油断してたって遅れは取らないわ!

「いやー、朝から食った食った」
 その華奢そうな優男と心の中で評された男は、ボスクの最後の一欠片を口に放り込み、満足げに腹をさすっているのだった。


 いったん部屋に戻ったユウヒは身支度を整えると、出がけにリュンにくぎを差す。
「いいこと、危ないまねはしないでよね。一応『影守』は残すけど、私が居ないんだから。くれぐれも面倒なことに首をつっこまない事! わかった!」
 きつめの口調でリュンに言う。そのまるで保護者のような口振りにリュンが口をとがらせながら文句を言う。
「大丈夫だよ、いちいち子供扱いするなよ。ユウヒは心配性だなぁ・・・・・・ 」
「あんたの大丈夫が い、ち、ば、ん、大丈夫じゃないでしょ! 子供の方がまだ物わかりが良いわよ! あんたときたら、いつも先のこと考えずに動いて、めんどくさがり屋のくせに結局面倒な事に巻き込まれるんだから! 付き合わされるこっちの身にもなってよ! 全くあんたは無計画で、無鉄砲で、その上・・・・・・ 」
「あーっ、分かった、分かった。十分注意するし、自重するよ」
 リュンはうんざりといった様子でそう答え、ユウヒの小言連続攻撃を遮った。
「それと・・・・・・ さっきフィアナが言ってたこと・・・・・・ 本気にしないでよね! 」
 何となく口ごもった感じのユウヒの言葉にリュンは首を傾げながら答える。
「なんか言ってたっけ? いやースマン。朝飯旨くて夢中で食べてたからあんまり聞いてなかったんだよ〜」

―――少しでも、期待した私が馬鹿だった・・・・・・

 がっくりとうなだれて、ため息をひとつ。
「何でも無いわ! それじゃあ行って来ます! フィアナと、な・か・よ・く・ね! 」 フンッ、と鼻を鳴らし、いきよいよくドアを閉めてユウヒは出ていった。ドアの衝撃で壁に掛かっていたカレート山の絵が ガクッ と傾く。 一人部屋に残ったリュンは、まるで嵐が過ぎるのを待っているネズミのように、首をすくめながら呟いた。
「しかし最近あいつ怒りっぽくなったなぁ。あんなんじゃ、絶対・・・・・・ 」
 ユウヒが地獄耳であることを思い出し、リュンは慌てて最後の言葉を飲み込んだ。

―――絶対嫁に行けないぞ・・・・・・

 心の中でそう呟き、自分もフィアナと出かける用意を始めるのだった。


 表の通りに出たユウヒは、改めて通りの混雑ぶりに驚いていた。一人かわせばまた一人行く手を塞がれ、なかなか前へ進めない。とうとうユウヒはセパ通りを行くのを諦め、一本裏通りを行くことを決心して路地を曲がった。
「ふぅ、凄い混雑ね。仕方がない。ちょっと遠回りだけどこっちから行きましょう」
 路地を曲がり、セパ通りの一本裏の通りに出る。裏通りはセパ通りと比べて人通りは少なかったが、それなりに通行人が行き交っている。裏通りと言っても、そこそこの道幅が有り、朝から仕事に向かう人や、午前中の買い出しに向かう引き車などが往来している。それは何処の街でも見ることの出来る風景であった。
 やっとまともなスピードで歩くことが出来る事に満足したユウヒは、街の中央に向かって歩き始めた。
 大通りほど綺麗に整備された町並みではないが、似たような住宅が建ち並び、通り沿いに店が並ぶ。午前中特有のすがすがしい空気が、表通りの熱気に当てられたユウヒの肌に心地よく、爽快な気分になってくる。
 廻りの景色を眺めながら歩いていたユウヒだったが、不意に立ち止まり、懐から街の地図を出して目を落とす。自分の現在地を確認している様子だった。

―――店を出てから等間隔で付けてきているわね。人数は・・・・・・ 恐らく二人。尾行技術はお粗末だわ。ほっておいても問題なさそうだけど少々鬱陶しい・・・・・・ そろそろ巻こうかしら?

 ユウヒは見ていた地図を懐に仕舞い、いかにも目的地を確認したといった風で、路地を左手に折れた。左手の人差し指と中指の間に小さなガラス小瓶が握られている。右手にはいつの間にか黒い手袋がはめられ、鳥の羽を一枚手にしていた。右手で小瓶の栓を抜き、中の砂を撒きながら素早く印を切る。そして砂術発動の為の呪言を呟く。すると足下から小さなつむじ風が巻き起こり、羽が舞い上がる。次の瞬間、ユウヒの姿が霞のごとく消えてしまった。リ・マール『転移』と言う砂術である。
 下位のリ・マラ『小転送』(単物質転送)ならともかく、リ・マールの様に複雑な元素構成の生命体を別の場所に転移させる術は、比較的高度な砂術であり、高い精神集中と複雑な呪言詠唱を必要とする。それを歩きながら、造作なくやってのける所に、ユウヒの砂術師としての技術の高さが伺える。それもその筈で、ユウヒは彼女の属する組織で、『組織開闢以来の天才術師』と言われ、長に次ぐ実力を有する高位砂術師なのであった。
 すぐに二人の男が、ユウヒの曲がった路地に姿を現す。しかしユウヒが居ないことに気づき慌てた。
「おい! 居ないぞ! 何処に行った!? 」
「そんな馬鹿な・・・・・・ 確かにこの路地に入ったんだ! 俺はちゃんと見たんだ! 」
「間違いないんなら何故居ないんだ!? 」
「わかんねぇ、わかんねぇよ・・・・・・ 」
 二人の男は当惑しきった顔で今曲がった路地の入り口を見、そしてセパ通りに繋がる出口を見る。二人はフィアナの店の厨房に居た男達だった。
「またセパに出たのかもしれん・・・・・・ 」
「馬鹿言え、あそこまでどんなに急いで走ったって、俺たちが曲がるまでに出れるわけはねぇ!」
「気づかれていたか・・・・・・ とにかく、もう少し良く探そう。ロキはセパ通りを頼む。俺は元来た道を探す」
「わ、わかった」
 男達はそう言って二手に分かれ、路地を出ていった。
 果たして・・・・・・ ユウヒは路地の向かい、石造り4階建て集合住宅の煙突の上に立ち、二人の様子を眺めていた。およそ遠目に見、会話など聞こえる距離ではないが、砂術によって、視力、聴力を増幅したユウヒにとっては、造作もなく見聞きすることが出来る。
「フフッ、私を尾行なんて甘い甘い。私は風・・・・・・ 風は感じることは出来ても、見ることは出来ないわ・・・・・・ 」
 そして煙突から飛び降りる。足が離れた瞬間、またしてもユウヒの体は消えていった。


 その頃、リュンはフィアナと二人でセパ通りの混雑の中を、中央に向かって進み、少し坂になっている所の中腹に若干の隙間を見つけてそこを陣取った。幅広いセパ通りを長く見渡せるなかなか良い場所である。
「凄い混雑だな・・・・・・」
 やっと落ち着いた場所に来て、リュンが一息を付いた。フィアナも同じような感じで答える。
「ほんと・・・・・・ 凄いわね。でもここならよく見えるわ。・・・・・・ そろそろ来る頃ね・・・・・・ 」
 そう言ってフィアナは通りをのぞき込む。すると辺りの群衆がざわめきだした。
 
ズゥン・・・・・・ ズゥン・・・・・・

 重苦しい音と共に、辺りの地面が地震のように揺れる。その音が近づいて来るに連れて、規則的な機械音も聞こえてきた。そして大き鎧を纏った巨人が通りに現ると、沿道の観衆から どっ と歓声が上がった。
 背の高さは、ちょうど道沿いにある3階建ての集合住宅と同じくらいで、ごく一般的な甲冑兵のサイズである。
 甲冑兵には今現れた大きさの他に、一回り大きいサイズの重甲冑と、少し小さめの軽甲冑があり3種類に大別される。重甲冑は動きが鈍いが、装甲が厚く、力も強い。反対に軽甲冑は装甲が薄く、全体的に軽く作られていてスピード戦闘を信条とする。今現れた中量級甲冑兵は、その2つの種類の丁度中間に位置する機体で、パワー、スピード共にバランス良く作られている万能機的扱いだ。重・軽甲冑兵は両者ともどちらかに偏った調整で、乗り手を選ぶが、この甲冑は扱いやすく、大陸ではもっともポピュラーな甲冑である。 最近でこそ、このように3種に分類されるが、大昔はこの中量級の甲冑兵しか存在しなかったと言われている。
 リュンは先頭を歩いてくる甲冑兵を見る。頭は丸みを帯びた兜を付け、頭頂部に羽根飾りが付けられている。顔は面覆いがが被さり、その奥に生き物を思わせる目が、キョロキョロとあたりを伺うように動いているのが見える。胸から胴にかけて、青銅色の甲冑の縁に金色の模様があしらってある。剣が装着されている腰回りは、何枚もの装甲板を組みあわせた上に、キラキラ光る鱗状垂れが付いていて、観衆の目を引きつけていた。全体的に派手なイメージの機体だった。
 不意に胸の装甲板が開き、中の騎士姿の男が顔を出す。結構2枚目の色男で、どこぞの公子様という印象の男だった。
 その男が沿道の観衆に手を振ると、詰めかけた観衆の中の若い娘から黄色い歓声が上がった。
「これはまた立派な機体だ。さぞや有名な工で作られた機体だろうて・・・・・・ 中の騎士様も有名な騎士様なのだろう」
 リュンの隣に立っていた中年の男が腕組みをしながら呟いた。
「ほんと、立派な甲冑兵ねぇ〜 ねえリュンさん」
 フィアナも隣の男に同意して、歩いていく甲冑兵を眺めながらリュンにも同意を促す。
「う〜ん、多分違うよ。あの装着者も恐らく流れだな・・・・・・ 」
「えっ、そうなの?」
「何ぃ? おい兄さん、なにを根拠にそんなことが言えるんだ? 」
 二人と全く反対の意見を言ったリュンにフィアナと隣の親父が顔を向ける。リュンは全く動じず、目を細めて甲冑兵を見ながらこう続けた。
「まず、機体の稼働音。ミュータンと冷却水を循環させる心肺ポンプの音が不規則だ。筋結官に『溜まり』が出来ているんだろう。箇所は恐らく・・・・・・ 右足の膝裏だ。左足に比べて足の運びに若干の遅れがある。あの子、あまりちゃんと整備されてないな。」
 いつになく真面目な顔でリュンが答える。そしてさらに指摘箇所を上げていく。
「一般の人にも分かりやすい点を上げると・・・・・・ フィアナ、あの子の目を見てごらん。」
 そう言われてフィアナと親父はもう一度甲冑兵の顔を見る。
「あの子の目、さっきからキョロキョロとせわしなく動いているだろう? あれはこういう状況に慣れていないのさ。そして左手。剣の鞘に掛けている。騎士が剣の鞘に手を掛ける意味を思い出してごらん」
 二人とも左手に注目する。確かにリュンの言う通り、左手が剣の鞘に掛かっている。
「本物の騎士ならこんなお披露目の席では絶対にしない。装着者が伝達具から手を抜いているから機体の自然動作なんだろうけど、甲冑兵は馬と同じ。日頃の癖が結構出るもんなんだ。恐らく常日頃から周囲を警戒しながら生活している男なんだろうな。」
 「なるほど・・・・・・ 」
 親父が感心したように唸る。
「機体は外装をいじっているけど『バリューン』が原型。中の素体は恐らく『トゥモル甲商』製だな。機体年齢は動作の滑らかさからいって30年前後。ただ、いじっているのはどうも外だけみたいだな。甲冑も色んな機体から流用している。肩当てが『トリオス』。籠手が『ケルフィー』。脛当てと胴当ては『烈風』・・・・・・ でもあれじゃバランス悪いだろなぁ」
 確かによく見ると、何となく何処かで見たような部位ばかりだった。
「見てくれだけ良くして、大方、仕官目当てに派手な飾りで目立ちたいんだろうけど、あれじゃ5分と戦えないよ」

―――この男、ただ見ただけで、ここまで情報を洞察出来るのか・・・・・・ さっきまでとはまるで別人のようだわ。やはりただ者ではない・・・・・・

 フィアナは今までのリュンに対する考えを一部修正して、先ほどとは違った目でリュンを見る。
「いやいや、兄さんの眼力には恐れ入った。しかし詳しいねぇ〜。おたく、この辺じゃ見ない顔だけど・・・・・・ 旅の人?」
 親父は感心しきった様子で話しかけてきた。リュンも持ち上げられて気分が良いらしく、機嫌良く受け答えた。
「ええ、『ミスルム』から昨日着いたんです。仕事で来たんですが、闘技大会が有るって聞いてつい仕事を忘れて見物に来てしまいました」
「ハハハッ、兄さんも相当病んでいるクチだね。そうか、帝都からか、そりゃあ目が肥えているだろうて。いや、儂も大好きでな、しかし女房の奴はどうもコレがわからん。一発大金当てれば考えも変わるんだろうがな・・・・・・ 」
「『闘券』ですか・・・・・・ 」
 甲冑兵闘技大会は政府公認の賭けの対象になっていて、闘券とは勝敗を予想して賭ける金券の事だった。大穴が当たれば一攫千金も夢ではない。
「そうさ、だから兄さんみたいに的確な情報はとても参考になる。なぁ、兄さん、次の機体はどうだい?」  
「ああ、アレはですね・・・・・・ 」
 リュンは親父との会話に夢中になっていた。フィアナはそんなリュンを見ながら、一人考えにふけっている。

―――しかし、この男は一体何者なのかしら? このとぼけた感じは演技なの? とても騎士って感じには見えないけど、さっきの指摘は甲冑を着たことがないと絶対出来ない推理だし・・・・・・

「おっ、あれは・・・・・・ 結構強いと思いますよ」
 リュンの声にフィアナは我に返り、通りを見る。丁度5番目の機体が行進してくるところだった。焦げ茶色の甲冑であちこちに刀傷があり、前を行く甲冑と比べて少々簿らしく映った。機体を飾る装飾はほとんど無く、籠手や肩当てなどは、分厚く頑丈そうで、恐らく剣が使用不能になった際、殴ったり、体当たりなどを想定しているのだろう。最初に来た甲冑兵とは対照的で実戦向きと言えた。
 そして腰に携えている剣が特徴的だった。大きく反り返った幅広に刀身で、『斬曲刀』と呼ばれる。東邦ではあまりお目にかかれない武器である。
「あの薄汚れた機体がか!? あんな機体が本当に強いのかい? 」
 親父は少し納得がいかない様子だった。
「元は『トリオス』だな。相当いじってあるけど機体の音も調子がよさそう。しっかり整備されていてバランスも良い。他の機体より少し高い音がするでしょう? 恐らく瞬間的な瞬発力を高めるために、筋結管を高強度な物に交換していて、それ用に心肺ポンプの圧力を高めに調整してあるんだ。凄いことするなぁ。確かに膂力は2割増しぐらいになるだろうけど、じゃじゃ馬で使いにくいだろうに・・・・・・ 使いこなせる自信があるからなんだろうな。何気ない足の運びも、大胆だが隙がない・・・・・・ 」
 目を輝かしてリュンが説明した。リュンの熱っぽい説明に、親父も興奮気味に頷いている。
「あの機体、確かに強いわ。有名な機体ですもの・・・・・・ 」
 リュンの説明を黙って聞きながら甲冑兵を見ていたフィアナ言った。
「フィアナ、あの甲冑を知っているの? 」
 リュンと親父がフィアナを見た。フィアナは甲冑兵を見ながら続ける。
「腰の斬曲刀、胸に剣を抱く女神の紋章・・・・・・ あたしも見るのは初めてだけど、あれはアルガイム傭兵騎士団。それも団長デイル・ガストーンの駆る『ダウロビーネ』よ・・・・・・ 間違いないわ」
「おお!あれが・・・・・・ 」
 親父が歓喜の顔で呻く。闘券購入に有力な情報を得て、頭の中で早くも儲けている自分を想像している様子だった。
「俺も聞いたことがある。かなりの腕利きが揃った傭兵団で何処でも引っ張りだこらしい。ただ、団長が変わり者で、気に入った仕事しかしないって噂だ。」
「ええ、破額の大金積み上げても首を縦に振らなかったと思えば、数千ラウズで仕事を引き受けて見たり。確かに変わっているみたい。一体どういう基準で選んでいるのかしら? 」
「人とは違うところに価値観を見いだしている人物らしいね、そのガストーンって団長は・・・・・・ でもさぁ、フィアナやけに詳しいね」
「えっ!? あっ、ああ、お店に来るお客さんに聞いたのよ。うちにはそういう関係のお客さんも時々くるから・・・・・・ 」
 唐突に聞かれ、フィアナの顔が一瞬険しくなる。しかしすぐに平静を装って誤魔化した。
「なるほど・・・・・・ それもそうだね」
 リュンはさして気にした風もなく、また通りに目を向けた。フィアナはあれこれ詮索されなかったことで安堵する。しかしココに長居をしては、またいつぼろを出すとも限らないと判断し、リュンの腕を少し引っ張りながら声を掛けた。
「ねえリュンさん、あたしお昼の買い出しがあって・・・・・・ その・・・・・・ ちょっと付き合ってくれると助かるんだけど・・・・・・ 」
「え、そうなの? 俺は別にかまわないよ」 
 その答えに、フィアナは感激したように喜び、リュンの腕に抱きつく。
「ほんとう? 嬉しい! お客さんにこんな事頼むの凄く失礼だと思ったんだけど、うち人手が足りなくて・・・・・・ ごめんなさい」
 フィアナはさも申し訳なさそうにリュンに言う。その姿は、誰でも助けてあげたくなるような愛くるしさがあった。
「なんの、なんの、おやすいご用さ。それじゃ、俺たちはこれで・・・・・・ 」
 リュンはそう言って隣の親父に別れを告げる。
「なんだ、もう行くのか? もっと色々聞きたかったんだが・・・・・・ 仕方ない。いや、良い情報を貰ったんだ、良しとするか。兄さん、ありがとうよ!」
 親父はまだ名残惜しそうだったが、そう言ってまた廻りの観衆に混じり、通りに歓声を送っていた。
 リュンとフィアナは、熱気と歓声に満ちたセパ通り後にして、買い出しのために裏通りに抜ける路地に入っていった。

2005/04/05(Tue)09:51:02 公開 / ギギ
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■作者からのメッセージ
ヘタレな私が何とか挫折せず、第3幕がUP出来ました。うっすらとキャラの中身が見えてきましたでしょうか? 一言でモロバレしている節がありますが・・・・・・ 
次の第4幕では、やっとこ物語の核心に迫っていく予定です。(引っ張りすぎ?)
実は次を通り越して、第5幕を書いてしまうというどっかの首相みたいな頭の悪い事をしでかし、どうやって持っていこうかと途方に暮れております。
この間に、色々な方の作品を楽しく読ませていただきました♪
5幕は内容ががらっと変わり、小休止的な試みを画策しておりまして、読んで下さっている方々が着いて来れなくなるんではないかと不安で一杯です。どうぞ、生暖かい目で見守って下さい。
皆様のご意見は大変勉強になります。是非ともまた感想、批評のほう、宜しくお願いいたします。   ギギでした。

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