- 『電話奮闘記(自伝)読みきり』 作者:Town Goose / 未分類 未分類
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原稿用紙約5.45枚
季節は秋、冬へと移り変わろうとしていたとても曖昧な時期。そんな中で、俺はある悪夢に襲われた。
信じられないかもしれない。でも、これだけは聞いてくれ。
あれは二学期の期末試験のことだった…・
悪夢発生2時間前
その時、俺は風邪を引いていた。そう、熱は37度を超え、体中が鉛を括り付けられたかのように「熱」と言う理不尽な存在に体の主導権を奪われていた。通常ならここで休んでいただろう。しかし、今は期末試験という生徒の永遠の宿敵が待ち受けていた為、俺は意地らしくも軋む体を無理やり引っ張りながら学校へ向かおうとした。
だが、このままでは確実に死んでしまう。そう思ったちょっぴりユーモラスな俺は、鞄の中に病院の診断書と、携帯電話をバックの中に放り込んだ……そう、携帯電話を放り込んだのだ。
ここで、題名を思い出して欲しい「電話奮闘記」。そう、これが俺の悪夢の始まりだった…。
悪夢発生1時間前
電車に揺られ約一時間、俺はようやく学校へ付いた。さすがに試験前なので、すべての雑念を振り払い、気持ちが引き締まる。そう、その時、気持ちを引き締めてはいけなかったのだ。よし、今、俺が、注意してやろう。お前、肝心なこと忘れてるぞ。
そんな俺の忠告も、この時の俺は無視しやがった。なに真剣な顔して理科2の教科書なんて開いてやがんだ。今見ていると、さすがの俺もイライラしてくる。
キンコーン…・・
試験開始の間の抜けた予鈴チャイムが、中3D組と言う空間に残響した。まあ、俺にしてみれば悪夢の始まりのゴングにしか聞こえねえけどな。
数分後、先生は理科2の問題と解答用紙を配り始めた。何も知らない俺は、ただ、問題用紙を後ろから透かして、どんな問題なのか見ようと躍起になってやがる。知らぬが仏の逆のことわざってなんだったかな?まあいいや、とにかくそれだ。
悪夢発生5分前
おっと、俺が目を放している隙に、俺はもう見直しを始めてやがる。…と、言うことは…・もうすぐだな。さすがの俺も、そわそわしてきたぜ。
カリカリと、鉛筆の芯を削る規則的な音がどんどん周りから消えてゆく。
決定事項ってのは、見てるだけでいらいらする。しかもそれがバットエンドならなおさらだ。何でこんなことしちゃったんだろうな。ってか、誰に問いかけてんだよ俺は…・
事件発生 カウントブレイク
タータータ、ターター、タ、ターター…・・そんな間の抜けた音楽は突然鳴り出した。とうとう始まってしまった。うわっ、俺のやつ、顔青くなってんじゃん。そう、それは携帯の着メロだった。その緊迫した試験と言う空間の中で、それは明らかに異質だった。え?誰の携帯かだって?おい、ちゃんと話聞いてたのか?ああ、そうか、俺をいじめたいんだな。ああそうだよ!俺の携帯だよ!
ああ、俺のかばんが先生によって漁られてゆく…・今思ったんだが、何で俺のかばんを真っ先に漁り始めたんだ?それだけは謎だ。
ああ!先生の奴、なんて嬉しそうな顔してるんだ!ちくしょー…なんていってちゃまずいな。…いや、でもやっぱり許せん。
事件発生後 禁断症状との闘い…そして、解放
30日間、俺は良く耐えていた。夢の中で、携帯がなぜか机の上に置いてあって、それのせいで現実と幻想とが曖昧となり挙句には、家の中で携帯が無いと探し出す始末だ。
そして、今、ようやくその禁断症状から解放されるときがやってきた。大会議室。そこには教頭先生、生活指導の先生、担任の先生、そして俺と母親がいた。俺、なんかちょっと嬉しそうな顔してる。母親、本当にすまなそうな顔してる。
すいませんでした。その心からの俺の一言により、とうとう俺の分身は帰ってきた。ああ、ほんと嬉しそうな顔してる。よかったな、俺。
その後…
電話が帰ってきた。その喜びから俺は、ある、俺自身に降りかかった呪縛にまったく気付くことが無かった。おい、俺、なんか勘違いしているようだが、ここからが本当の戦いだぞ…。そんな元祖ジャンプみたいなくっさい台詞を勇気を出して言ったのにもかかわらず、俺はまったくの無反応。まあ、そのことに気付いたときの顔が見ものだな。
翌朝、俺は、携帯を鞄の中に…・入れられなかった。ほらミロ、俺の言ったことちゃんと聞かねえからだ。俺は、鞄を目の前にし、携帯を握り締めたてをプルプルと痙攣させてやがる。…・バッドエンドだ。コイツはもう、携帯を学校に持ってくることは出来ねえ。
――――ガチリ
時間軸の、かみ合う音がした。
ああそうさ、俺は今、携帯を片手に、鞄と睨み合っているのさ。
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■作者からのメッセージ
短い自伝記です。実際のお話です。今も携帯を学校に持っていくことが出来ません…校則(拘束)の呪縛…・泣けるぅ