- 『噛む男』 作者:ケイショウ / 未分類 未分類
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全角3815文字
容量7630 bytes
原稿用紙約11.5枚
噛む男
いつもの様に目覚まし時計より少し先に目が開く。かといって起きるわけではないけれど。また,寝る。
しばらく寝ていると目覚まし時計が鳴る。止める。5分後に鳴る。止める。また,鳴る。しょうがないからムウムクと上体を起こすわけだ。思いこみの低血圧と低体温でやっぱり5分は動けない。さながら,朝一番の人間カメレオンだ。
そうこうしていると東向きに作ってある部屋の窓の障子が燃えはじめる。そう,オレンジ。太陽の日差しや情景をオレンジと表現するのはインテリっぽくてあまり好きじゃない。でも,ブランキーは好きだよ。
そんなことを思いながらもやっぱりオレンジってのは本当だとも思って,そんな曲を書こうとも思って,日が長くなったなとも思う。ただそれだけ。
夕焼けは好きだ。特に夏の夕焼け。切なくってやり切れなくってほのかに薫る。自殺するならもってこいだよね。そうだろう?飛び降りだろうかね。ベスト。
人間カメレオンは虫を食わない。人間だもの。
パンをチン。牛乳をチン。牛乳は噛んで飲む。カチカチカチカチ。パンも噛んで飲む。でも牛乳よりは噛まない。栄養的に偏った朝食とも言えないようなでも有難く感謝していただくいわゆる朝に食した物を噛んで砕いて流し込みくだらないことのようなことを考えている。
そんな朝。こんな朝。朝は朝。
職場へは車で向かう。決まってタバコを1本吸う。速度は五十キロくらいをキープ。時間にして約十分。「曇天模様の空の下」口ずさみながら犬歯について考えた。
職場に着いてロッカーを開けて備え付けの鏡に映してイーってして犬歯を観察。あまりとがってない。むしろ滑らかだ。ちょっと残念。な〜んだ,な〜んだ,って。意味無し。しょうがないしガムを二つ三つほど口にほりこんで噛み噛み。噛み噛み。おおよそ四時間は噛み噛み。昼食の時まで噛み噛み。タバコを吸いながら,お茶を飲みながら噛み噛み。
気が付けばあの朝のオレンジはオレンジ色から黄色になっていた。玉子の黄身の黄色とは違うよ。でもあれはたぶん絶対黄色って色だと思うよ。
踊りだしたくなるような黄色。目を覆いたくなるような黄色。ただただ拝む黄色。
メロディーは聞こえてこないかわりにあの黄色を全部噛みつくしてやろうかと,野望願望希望などと頭が動き脳味噌は間違えなくシナプスを成長させている,さまをまた噛み食ってやろうと空を舞い旋回状態から獲物を見つけて急降下するトンビのように速度を上げてゆくけれども黄色は黄色でしかないよう。そうなのかと目を凝らして西川きよしばりに目を剥いて見る,が,目の奥がなんだかむずがゆく,明らかに毛細血管詰まり気味で,相変わらず噛み続けているガムには味はもうとっくにない。はははと,高飛車な嫌なちょっと臭い匂いのする女のような高笑いをしてその場を納めてしまおうと大笑いをはじめて腹が痛くなってきたのでぴたっとやめてふと隣を見たらこの前セックスをした娘が優しくも力強く少しつり目の目は緩くなり顔は可愛らしく微笑んでいる。どうゆうことかと訪ねてみたいと思っていることはいるのだがそんなことよりも。ね。ね。
たぶんガムの味が無いことと噛み続けていることだけが間違えのないことで,今ここで頭の中で目の前で起こっていること,はたまた妄想創造回想あるいはキチガイはあの黄色の奴に起因しているのであろうと。思う。
でも本当はとゆうか全然そんなことはどうでもよくて,マジでこの衝動だけがリアルに頭と体を支配しているのだと感じた。
噛みたい。
噛むよ。
ぐ〜っと顎に力を入れてゆくといよいよ食い込みはじめる。感触が歯を通って歯茎を伝わり鼻のちょっと奥あたりを通り頭の先に到達する。脳味噌の中ではたぶんアドレナリンやらミソクソが垂れ流されてるんだろう。聴覚は音無き音を捉える,でもたぶん音もないかも,いや解らない。瞳はギラギラではなくたまらなくその物を見ている。食い込んで,犬歯が噛み込んで,ねじってやろうか,ひぱってやろうか,かみちぎりたい,噛みちぎりたい,食い込んで。ぐるぐると回り始めるてまぜこぜになって。
衝動と行動が一つとなった。
メロディーが聞こえた。
夕焼けは好きだ。特に夏の夕焼け。今は夏ではないけど今日の夕焼けも好きだ。
もう少しだけ。
そう思わせた。
そして僕は腕を噛んだ。
そうそう,僕の名前は堅壱。男。23才。射手座。天才肌でもち肌。タバコと酒と音楽と自然と単車とその他諸々生きている実感を味わえることや物を探して見つけて楽しんで苦しんで飽きちゃって暮らしている人間。
そして噛む男。
噛む男 ポチのミミガー
むかつく、気持ち悪、アホぼけ糞、と、ホットカーペットの上、ニットの上着は埃まみれでテロテロで黒色。あ〜そうか昨日は三治と飲みに行ったんだ。膀胱破裂寸前、漏らさないための生理現象に男だ男だと妙に納得し思い知らされながらテントちゃん。厠で用を足し。厠の脇の大工の作った立派な総桧の犬小屋からは愛犬ポチがおねだりの目をして飛びついて脚にまとわりつく。
「今はダメ」
ポチに言ってみるけれど。解るはずもなく。しょうがないので相手をしてやるかとしゃがめば右足左足と順番に手をかけて顔中を舐めてきやがる。たまに噛む。今度は手。素肌の所は全部舐めてしまいたいらしい。
可愛くて、従順。いつでも消してしまえる。愛犬ポチ。たのむよ。
と、まー飲み倒した次のは気分が悪い。休日なのによ。
しかしながら日本のこの小さな田舎町の家の庭から見上げる空は本日快晴。
コーヒー一杯。となる感じの今というかあの時というか。コーヒーはあまり好きじゃないし。
お茶お茶。お茶だろーよ。
お茶を飲みなにかをつまみ、そうそうブランチってやつだね。朝と昼の間に飯を食らうのって。タバコ吸いすぎであやふやベロで味なんてわかるかよ、アホぼけ糞、と、やっぱり気分が悪い。
ゴボ、ゴボ、オエ、オエっと。
吐き散らかしてしまおうか。
吐いてしまえと、らくになるぞえと、お前は誰だ、背中をさすってるんか、たたいてるんか、吸い散らかした灰皿はスローモーションで日本家屋の2階の八畳間を回転しながら吸い殻、灰の雨を降らしている。グニュウグニュウとポンプが稼働して押し出し作業を開始。大口のジャグラーがヤニまるけの歯をちらりとのぞかせながらそれら全て、またその他の臭いものまずいものをあの大口で受け取りまっせーっと火のついたたいまつ三本クルクル回してジャグリング。なんじゃこりゃ〜。声に出して、鉈をだして、こいつらの脳天かち割って、砕いて、つぶして、全部流したるわー。気合いをこめて力むんだよ。気合いをこめて突っ込むんだよ。
あっ、
電気が切れた。60ワットの裸電球。北側の裏の裏、日の当たらぬ厠は昼間でもくらい。胃液臭いというかなんていうか知らないがとりあえず酸っぱい口内感覚が第2波を誘発する。我慢。しんよ。なんで。しるか。あ〜エンドレス。暗い。確かあっこの棚の奥に電球一個あったし換えとかなあかんな〜。第3波来る。第4第5第6。はは。ははは。はははは。微笑。胃微笑。と、やっとの思いで厠より脱出し。ポチ御殿に目を向ければやっぱり。準備万端。尻尾フリフリ。もー今日はほっといてくれよ、またきたらこの前ベロベロで帰ってきた時のようにお前の耳噛むぞって脅す眼力、精気も無く虚ろに空中を漂う。匂いも漂う。
三治は相変わらずコーラをゆっくりとゆっくりと飲んでいる。
「ミミガーお待たせしました」
アロハシャツ姿の巨乳度八十パーセントの店員娘が笑顔で去ってゆく。最近ケツも良いなと思っているもんだから後ろ姿も重要重要。ドリンクメニューのアルコール部門を全部飲み尽くしてやると三治に宣言し上から順番に飲み始める。この食感がたまらんさー。コリコリーコリコリ。三治も食う。黙って食う。そしてコーラをちょろりと飲み。
「最高の曲線を表現したいんだよ」
ベロベロバーの錯乱狂気本気の大演説が始まった。眼球は制御不能となり左右で別のものを捉えて二重三重の輪郭どもがアルコールを加速させる。さらには色彩も奪われて酒が青く見える。いや、たぶん青い酒ではなかろーか。大まかな味覚を残して口の中は食感だけとなり明きグラスの残った氷をバリバリバキバキと噛み砕きながら唾液に氷、愚論珍論を展開、吐き連ねていくのである。これは一興とカツラも買えないであろうケツのあたりがすり切れたスーツの貧乏ハゲサラリーマンがノロノロと輪に加わり負けじと愚問珍問を投げてきやがる。カッチ〜ン。オラオラオラと進んでいきハゲサラリーマンのハゲ頭を新品の割り箸でペチペチしばき。その輝く肌色の艶やかなハゲ頭にくっきりと歯形を付けておいた。
帰り際の忘れ物チェックを終えて三治の車から降りる。バイバイ。もう3時はまわっている、にもかかわらずポチは尻尾フリフリに待ちかまえてやがる。
「あっミミガーみっけ」
「きゃーん」
毛むくじゃらの三角耳はちょっと臭かった。が、なかなか良い歯ごたえだったなと。
ありがとうポチ。
もう少しだけ。
明日も俺は相も変わらず南国食堂に三治と二人でかけてゆくのだろうな。
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2005/02/27(Sun)10:34:38 公開 / ケイショウ
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■作者からのメッセージ
噛む男の続きを書いて見ました。まだ完結ではありません。
あと2、3回でまとまれば良いなと思っております。
御意見ご感想等頂けましたら幸いです。
よろしくお願いいたします。
あっねこふみさん「、」直しました。ご指摘ありがとうございました。