- 『夢の詩声 [読みきり]』 作者:トロヒモ / 未分類 未分類
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全角2418文字
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原稿用紙約7.85枚
夢の詩声 〜序章〜
目にはいつも見える空も、その時は遠くに感じた。
耳を澄ますと聞こえる海の声、肌では、涼しい風の歌声を感じる。
不思議な感じがしたんだ、あの日…君を見た時から。
実際に話したのも、その時だけだし。見たのも、その時だけだった。
ついこの間のようにも思えるけど、ずっと前の事のようにも思う。
君といっしょにいれたあの時間(とき)を。
俺の名前は、奈良原 巧海(ならはら たくみ)地元の中学2年生、年でいうと14歳。もち独身!
そして、俺の夢は伝説の貝殻をみつける事。その話をすると、家族はもちろん村のみんなも俺を笑う。みんなに笑われようが、これは俺の夢だ!とは言ってみるものの、実際まだ「存在」の証明もできなかった。くやしいけど現実だ…
あの日も確か貝殻を拾いに行ってたんだ。
「今日も貝殻拾いかい?」
俺が家から外に出ようとすると、母さんは必ず言う。本当にそうだし否定はしないけど、なんか嫌な気分になる。だって、絶対にバカにしてるもんな。
少し気分を悪くしながら、俺は自分の家を出てすぐの長い坂を走り抜けていた。
この坂を走るときは、悪い気分も吹き飛ばしてくれる気がして、すごく気持ちが良い。坂のふもとに着くと、少し前までの嫌な気分はもう感じない。坂を下り右に曲がると木々が生い茂る小道がある。木々の間から抜ける光を浴びながら歩くのはたまらなく気持ちがいい。そんな感情であるいてると向かい側から知ってる顔が歩いてきた。
「おっ、たくじゃん!また貝殻拾い?」
なれなれしく話しかけてきたのは、幼馴染の結城 葵(ゆうき あおい)って奴。いつも俺をからかって楽しんでるんだ。けど、俺は大人だからそんな事は無視してるんだ。
「おい、たく。無視しないでよ!」
でも、俺は大人だから聞いてやる時もある。
「なんだよ?」
「今日の夏祭り、誰と行く?」
「しむけん達と」
しむけんとは、俺達の同級生の篠村 健一(しのむら けんいち)のあだ名だ。身長がデカイからよく高校生とかに間違えられるけど、高校生は見た目だけのスポーツバカ。
「ふぅ〜ん、じゃあ、あたし等と行かない?」
もちろん、俺は女となんか行きたくなかったけど、大人だから女の頼みはできるだけ聞いてやるべきだと思うわけで…
「べ、べつにいいけど」
巧海の顔は気張ってガチガチだった。活舌も悪かった。
「じゃあ、夕方の6時に殿町公園でね」
「お、おう」
うわ〜、やばいよぉ〜、俺は葵以外の女は緊張して話せないよ〜。
巧海はもうすでにドキドキ気分で小道をまた歩き始めた。
君と初めて話した時もちょうどこんな気分だったのかな…
貝殻を拾い集める時の時間は、経つのは早いもので、気付いた時には夕日のオレンジ色が俺を照らしていた。辺りは全てオレンジ色に染まっていた。
俺がその景色に見入っている時、君は夕日に頬を染めて海を見ながら歩いて来た。
気になりながらも葵との約束を思い出した俺は、家に帰ることにした。
今でも思い出せるあの不思議な気持ちは、その時の俺の心を一杯にしていた。
家に着くと、しむけんがいた。格好はつんつるてんの半ズボンにTシャツが1枚。
「巧海〜!やっと帰ってきたか」
待ちわびたと言わんばかりに走ってきた。
「先に行っててくれないか?」
俺は手に持ったたくさんのコレクションを早く、家に持ち帰りたかった。
もちろん、しむけんは俺の準備ができるまで待ってると言っていたけど、断った。
まだ一人になりたいとも思っていたけど、何より落ち着きたかった。
しばらくして、夏祭りに行こうと坂を走ってくだった。空はすっかり暗くなり、花火の音があちらこちらから聞こえてきた。もう目の前には明かりの灯った提灯(ちょうちん)が小道の木々に列を作った光っていた。
なぜか不思議と俺の足は明かりとは逆の方に進んでいた。
今思うと君が俺を呼んだのではないかと思える。
明かりはすっかり見えなくなり、気付いたら海辺にいた。無心で君に会いたいと思う自分がいたんだ。ここに来れば、また遇えるんじゃないかな…と思ったんだ。
少し息をきらして、僕は海辺を見回した。
やっぱり君はそこにいた。感情の高まりはもう最高潮だった。
「き、君!」
咄嗟に声がでた。
君は俺の方を振り返ってくれた。そして笑顔を見せてくれた。
きっとこれが愛想笑いだとは最初から分かっていたんだ。けど、なぜか嬉しかった。
「こんな所で何してるの?」
心臓が飛び出そうになった。
「この海の声を聞いてるの」
透き通るようなキレイで、今にも消えそうな声だった。
「海の声?」
あの時の俺は、君の話より声に聞き入っていた。
「そう、海の声。耳を澄ましていると聞こえてくるの。とても美しい声」
そう言うと君は目をつむった。俺もつられて目をつむった。
すると、不思議と声が聞こえてきた。海だけじゃない、風も浜辺も貝殻も木も全ての声が聞こえた。全ての声が重なると、とてもキレイな歌声に聞こえた……
すっかり聞き入ってしまったと思い、目を開けると君は俺の目の前から消えていた。
君がいた場所には虹色に光る貝殻があった。
その時、俺は悟った。君の正体はこの貝殻。そして伝説の貝殻。
俺の夢は伝説の貝殻をみつける事。採ることではない。
それからもう10年が経った。君とはあれが最後だったけど、俺の心の中にはあの時のあの気持ちは決して忘れる事は無いだろう。10年経っても、20年経っても。
また君に遇えると良いな。そう思いながら毎年ここに来て、君たちの歌声を聞いている。
10年経った今でも、あの時の気持ちを忘れないように。
どんな人だって、子どもの頃、夢を見るんだ
大人になっても、夢を見るんだ
その夢を忘れないように…歌に刻もう
あなたが持てる全ての気持ちを心に刻もう、夢の詩で…
完?
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■作者からのメッセージ
正直、今やりたい事も無いし、夢も無い。けど、きっと気が付かないだけで実はもってるかもしれない。だから自分の代わりに、夢を追う少年を見てみたかった。というのも一つ理由としてありました。短いし、分かりづらいかもしれませんが、多くの人に読んでほしいです。読んでいただければわかるのですが、必要?という所がたくさんあると思いますが、また別の代で出す予定です。 よろしくおねがいします!