- 『 つかまえとけ』 作者:かお丸 / 未分類 未分類
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全角5801.5文字
容量11603 bytes
原稿用紙約25.7枚
パリーンッ……
今日も学校のガラスが一枚割れた。
「こいつです!こいつですよ割ったのは!僕はちゃんと見てましたから!こいつ窓の近くにいたし!故意的に学校の公共物を…公共物を…!」
「いやいやいや確かにあたしは窓の近くにいたけど実際割ったのはコイツですよ先生!明らかにこっち側から拳使ってパリーンと一発…」
「まぁまぁ。分かったから。どっちも悪いのね」
「何を上手くまとめてんですか!」
教師はなんとも口が上手い生き物だ。
今日もどっちつかずの判決を下し、両方に反省文を書かせた。
あたし、笠井芽美。美しい芽が出るっていう意味で【めみ】。なにかが抜けた名前だってよく言われてるけど、そこにツッこむ奴はもういない。
あたしは性格が悪いらしい。友達に結構逃げられるほうだ。
でも、どちらかという一人でも生きていけるタイプだからそういうのは気にしない。
「友達いないからって、気を引くよーなマネするんじゃないぞ、芽美」
「だからアンタが割ったんでしょーが!」
あたしたち二人は並んで座って反省文を書いた。コイツ、とにかくアタシを陥れたいらしいな。
こいつの名前は大坂肇(おおさか はじめ)。あたしの幼馴染だ。
いや、幼馴染じゃない。腐れ縁だ。
肇はあたしと違って人気者だ。男友達も多いし、女にもモテるし、はっきり言って妬ましい…。
今回のガラスの件は本当に、本当にアイツのせいなのに…。周りの奴らはほとんどアタシがやったと思ってる。
肇、普段から株上げておくとこういう時に便利なんだな…
芽美はひとつ学習した。
「芽美、帰ろ」
放課後。肇は珍しくあたしを誘った。
「…。今日美容室行こうかと思ってたんだけど」
「予約してんの?」
「いや、してないけど」
「じゃぁいいじゃん別に。っていうか…オマエついにその変な頭を改正しようってのか?!」
「変な頭?!」
「そのなんか被ってるみたいな髪の毛。切っちゃダメだろ。ネタがなくなる」
「ネタだと?!ネタにしてたの?!」
「このクラスの人大体はネタにしてます」
「ヒドーっ!」
「よし!帰ろう」
そう言うと肇はあたしの腕を引っ張った。
正直言う。 こういう仕草にはいつもドキッとしてしまう。
まったく。女に慣れてることが丸分かりだ。
こういうのに、あたしも弱いのか。と自分が恥ずかしくなってしまうのだけれども。
でも今は、ずっとこのまま喧嘩友達でもいいと思ってる。思ってしまう。
二人で正面玄関を出たとき、肇の友達軍団と鉢合わせた。
「おっ、肇ちゃん。これやるよ。マックのクーポン」
「まじで!ありがと。んじゃ一緒に行く?」
「行く!」
芽美は笑顔で答えた。
「いや、芽美、オマエに言ってない」
「…」
肇の首を、思いっきりマフラーで絞めてやった。
肇の友達軍団は、苦笑しながら去っていった。
あたしは美容室に行くのを取りやめて、肇にマックでおごらせることにした。
「このクーポン、一枚で3つくらいまで頼めるデショ。1こ持ち帰りにしようよ」
「えー。いいよそんなセコイ真似…。んじゃ俺席とっとくから、オマエ好きなの頼んできて」
そう言って肇はあたしに財布を渡した。
なんだかんだ言って優しいのが、いつも妙に気に入らない。
まぁ、そういうのも好きな自分がいるのが一番気に入らないんだけど。
芽美が注文しに行ってる間、肇は一人席を確保して携帯をいじっていた。
「あのー…すいません」
「え」
肇に話しかけてきたのは女子高生2人組だ。茶髪にパーマ・厚化粧でいかにも今時な女子高生といった感じである。
「あの、メアドとか教えてくれませんか?」
「逆ナン?」
肇の意外な反応にビビったのか、女子高生2人組は急に「ちょ〜うける〜」を連呼して爆笑した。
「そぉでっす!かっこいいなって思ったんでぇ」
「いいよ。ハイ」
肇は軽々しく自分の携帯を差し出した。
そこに丁度、クーポンを大量に利用し終えた芽美が帰ってきた。
「えっ・なに、彼女もち?!」
肇の携帯を手にした女子高生が不味い顔をしてその携帯をテーブルに置いた。そしてそそくさと二人で去っていった。
その帰り際、「何であんな可愛くない子と付き合ってんの〜」と小声で言っているのが芽美には丸っと聞こえた。
それが聞こえた瞬間、芽美の顔は歪んだ。
「…オマエ何でこのタイミングで来るんだよ」
肇のこの一言が芽美のスイッチを押してしまい、気づいたときには持っていたおぼん丸ごと肇に投げつけていた。
幼馴染の定番といえば、家が隣同士であること。
当然のようにアタシたちも隣同士の家に住んでいる。
そして、当然のように肇はあたしの家に上がりこんでいる。
芽美には弟がいる。なので両親と弟と自分とで4人家族の楽しい食卓――のはずなのだが、ちゃっかり居座っているあたりが気に食わない。
そしてそれにプラスして、うちの父母弟そして猫…全ての家族が肇のことをお気に入りなのが気に食わない!あぁ、気に食わない。
「聞いーてくださいよお母さん!芽美のやつ、店先で注文の品全部僕にぶっかけたんですよ!僕のおごりだったのに!」
「あらま〜…ったく恥ずかしい子だねぇ。肇くん制服汚れなかったの?」
「汚れましたよそりゃぁ〜!特にファンタはキツイですよ」
「そんなに汚れてないでしょうが!」
芽美は必死に抵抗した。が、やはり普段から株が上がっている肇には到底叶うまい。
「しかもね、今日またコイツ学校の窓ガラス割ったんすよ。そんで僕まで反省文書かされたんですよ〜」
「またか!今学期入って何枚目なんだ〜また父さん学校に謝らなきゃダメなのか?」
「だから割ったのはあたしじゃないんだってば!」
「ねぇちゃん。醤油取って」
「自分で取れ!」
まるで我が家は子供が3人いる家庭だ。
まぁ。肇の家の両親はちょっと変わってるのは分かるけど。
父親は1年のほとんどを外国で過ごすような仕事をしているとか聞いた。どんな仕事かは分からないし、顔もあんまり知らない。
母親は水商売。すごくキレイな人だとは知ってるけど、水商売の意味が分かった頃はけっこうショック受けた。
兄弟もいないし。寂しいのは分かるけどね。
「おい肇ぇ!ゲームしようぜ」
「今日は何だ?スロファイか?」
「だからって小学生と同レベルになるなよ…」
しかもスロファイって…
パリーーンッ……
「今日もですね先生…。僕は分かりますよ、先生の苦労!でも割ったのはコイツですから!全ての罪はこいつにありますから!」
「肇ーっ!!今のは決定的にあんたでしょうが!あたし指一本触れてないんだけど!あんた今思いっきり手ぇ滑らせたでしょうが!」
「まぁまぁ…。今日もとりあえず二人とも反省文書いときなさい」
「だから何であたしまで書かなきゃいけないんだってば!」
またもや教師に丸く収められた。
この前と同じように、並んで座って反省文を書く。もう慣れっこだ。毎回同じ文章だ。
「…。あ。肇。手ぇ血出てる」
「ん」
ガラスの破片で切ったんだろうか、左手に少し血がついていた。
「あぁ、コレはガラスにぶつけたときの」
「やっぱりアンタが割ったんじゃん!」
「あ〜痛い痛い痛い。治療しなきゃ。保健室行かなきゃ」
「保健室行くほどでもないでしょ。はい、ティッシュあげるから拭いときな」
芽美はポケットからティッシュを取り出して肇に渡した。
そのとき、バチッと目が合ってしまった。
ダメだ。こういうときに意識してしまう。
今思うと、二人きりの教室。夕方。
絶好のシチュエーションじゃないか。
芽美は恥ずかしくなって目を反らした。
肇はまだこっちを見ている。なに・なに?!
幼馴染からついに発展しちゃうってか?
「芽美」
名前を呼ばれて、ドキがムネムネするのが頂点に達した。やばい。やられる。
「な… なに」
「このティッシュ、水に流せるって本当か?」
教室に、悲しい風が吹いた。
「ねぇねぇ。肇ちゃんってさぁー、今誰と付き合ってるか分かる?」
この言葉が耳に入ってきたのは、あたしがトイレに入った直後だった。
あたしはトイレの個室のドアに張り付いてその会話に耳を澄ませた。
声からいって、これはクラスの女子だ。昔あたしとも仲良かったけど、さりげな〜くアタシを省いて今でも良い顔してるあいつらだ。
「え。4組の子じゃないの?」
「あぁ、あの子とはもう別れたらしー。っていうかアタシもはっきりと別れたわけじゃないのにさぁ。超浮気症だよね」
「わっかるー!あたしも最近付き合ったし」
「しょっちゅー女をデートに誘ってない?」
「わっかるわかる〜!」
キャイキャイと会話が盛り上がる中、個室の方では怒りの炎が燃え盛っていた。
(あの野郎…!!どんだけ女で遊んでんだ… そのうちきっと先生にも手ぇ出すんじゃないのか?今時のティッシュが水に流せることも知らなかったくせに)
「じゃぁアレは?笠井芽美」
「あぁ!それはナイ!」
芽美は固まった。
「でもさぁ前から思ってたけどだい〜ぶ仲良くない?隣の家に住んでるとか言ってたしさぁ〜絶対一回はやってるって」
「それは有り得るー!でもさ肇ちゃん言ってたけど、芽美は本当にただの幼馴染だって〜。きっと恋愛対象には見れないんじゃない?」
「芽美の片思いとかだったりして」
「それうけるー!」
キャハハハ、と下品な笑い声が響いた。
芽美は我慢しきれなかった。内側から思い切りドアを蹴り開いた。
バァン…と音がしてドアが倒れる。正確に言うと、ぶっ壊れる。
それと同時に、女子軍団の笑い声もピタリと止まる。
「は… 芽美。 い、いたの」
全員がヤバッ、という顔をした。
「もう 遅い」
そのとき、女子軍団にとって芽美はアレより怖かったに違いない。
本当に腹が立つ。
あたしの片思いだ?恋愛対象に見られてないだ?隣の家に住んでるから一回はやってるだ?
勝手な想像を膨らますんじゃねぇ 若 僧 が
今夜の食卓にもまた、当たり前のように肇も座っていた。
「お母さん!今日はコイツ、ついに女子トイレのドアまで壊したらしいですよ!もう先生が何人も集まって大騒ぎになってましたもん」
「えー!うそぉ。じゃぁ明日あたり電話くるわねぇ…困るわねぇまた学校に呼び出しくらうだなんて」
「… …」
今日はあたしも反発できない。事実だ。あのドアをぶっ壊したのはあたしだ。
「ねえちゃん、何かムカついてたの?」
弟め、分かったような口を利くんじゃない。心の中でそう唱えつつ、あたしはご飯をひたすら食べ続けた。
「芽美。ご飯食べ終わったら星見に行こう。今日はオリオン座が見えるはず」
「… …」
「あらっ、いいわねぇ星だなんて!ちなみにお母さんはふたご座よ」
「お父さんはおとめ座だぞ」
「俺、山羊座ー!」
この家族、あたしの神経を逆撫でしているとしか思えん。本気でそう思った。
寒いのにあたしは肇に引っ張られて外へ出てしまった。
「おー。星。星〜なにがなんだか分からんな」
「分かってるような事言ってたくせに」
「や。それはオマエを外に連れ出す口実」
「だと思った」
「なんだ。バレてんのか」
「当たり前じゃん」
「何でオマエ、トイレのドアぶっ壊したんだ?」
「それが聞きたかったの?」
「あぁ。だってオマエが公共物を壊すなんて初めてじゃん」
「いっつも窓ガラスあたしのせいにしてるくせに…」
「まぁまぁそれは。」
「…じゃぁ聞くけど。何であんたはそんな簡単に女で遊ぶの?」
「女で遊ぶ?またまたぁ、人聞きの悪い」
「人聞き悪くて当然でしょうがよ。大坂肇と言えばあっちでもこっちでも付き合っただの何だの。そういう噂しかないじゃん」
「そうなんだ。へぇ」
「へぇじゃないでしょ!あんた今まで何人の女に手ぇ出してんだよ」
「いいじゃん別に。向こうを傷つけてるわけでもないし」
「傷つかないわけないでしょ!!」
急にあたしが大声を出して、肇は一瞬驚いたようだった。
「ていうか何でそんなことオマエに言われなきゃいけないのさ」
「うるさい!答えてよ」
「答える意味なんかないだろ」
「答えてよ!!」
あたしはいつの間にか泣いてしまっていた。
「なに泣いてんの」
「…… …」
恥ずかしい。
肇の前で泣いたのなんて何年ぶりだろう。幼稚園のとき、転んで泣いてしまった時以来だ。
「ねぇ 答えてよ …」
あたしは肇の恋愛対象じゃないの?
「… 芽美。どうしたんだ急に」
「急にじゃない。ずっとそうだった!どうせあたしは肇にとってただの幼馴染だよ」
「何言ってるん」
「だってよくよく考えるとあたし肇のメアド知らないし!」
「別にメールする用事ないだろ」
「ほら!」
「だって芽美はいつでもそこにいるじゃん。」
「… は」
「…ていうかオマエなぁ。俺のこと好きならさっさと言えよ。そういうオマエも悪いんだぞ」
「はぃ?あたしが悪い?!」
「俺のこと逃がさせるなよ。いっつもつかまえとけ」
「… … 」
「わかった?」
「分かる訳ない…。今のあんたの発言、めっちゃ受け身じゃん!納得いかない!」
「あ・そう。ならいい」
「よくない!」
「じゃぁ、つかまえといてください。」
「はぁ?!」
「これでいい?」
「アンタねぇ…あんたねぇ!!」
あたしは自分で顔が真っ赤になるのが分かった。肇が、ニヤニヤしながらあたしの頬をつついた。
まったくもって、調子が狂う。
「あ。今回の反省文まだ書いてないっしょ。手伝ってやろっか」
「いいよ別にー。また同じ文章書くし」
「アハハ!バカの一つ覚えってやつですなぁ」
「あんたも同じでしょうが!」
その後、あたしはトイレのドアを壊した理由を嫌味なくらい肇に聞かせてやった。あいつはただ、笑うだけだったけど。
夜9時過ぎ。今頃気づいたのだが、近所迷惑だったことは言うまでもない。
ドシャーンッ… …
「あ。」
「あ。」
例によってまた壊してしまった。
争う間もなく、二人の反省文行きが決定した。
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2005/02/09(Wed)11:53:50 公開 / かお丸
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■作者からのメッセージ
初です。
なんだか後のほうが小さくなってしまったような気がするのですが…Uuぇ
もしよかった感想いただけると嬉しいです。