- 『勇敢なる戦士(読切)』 作者:朔羅 / 未分類 未分類
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原稿用紙約9.85枚
公園の芝生の奥深くで、石を削る俺。墓場にあるしっかりした墓石ではなく、ブロックみたいな石を削ってるので、かなり文字がガタガタした感じになる。
「もう5年になるのか…。」
トーンの低い声で呟いた。それに気付いたかのように、赤毛を2つに束ねてる15歳の女の子が、顔を覗かせた。
「そうね。でもって、ガンお兄ちゃんだけが20歳だし。」
「関係ねぇだろ!」
きゃははと幼く笑う、女の子の名前はリンダ。俺の名前は、さっきリンダが名前を言ったように、ガンという。思えば、5年前は今の彼女と同じ年齢だったのだ。それに、マイナスな事実を脳に植えつけられて、生きてきた。
リンダは俺の手を引っ張って、芝生に座った。俺も彼女の隣に座る。
「ねぇ、リーお兄ちゃんってどんな人だったの?どんな過去があったか知りたいんだ。」
俺は目を丸くした。だけど、自分の気持ちを精一杯コントロールすればいい、そう思った。
「じゃあ、聞いてくれるか?」
リンダは大きく頷いた。
あの墓石に刻まれているのは、俺達の仲間だった。その中には、俺の弟とリンダの姉、そしてリーと言う少年だった。もう1人仲間がいたが、遺体が無残だったため、墓に入れることが出来なかった。
俺達は、普通の人間ではない。モンスターだった。俺と弟はデーモン、リンダと姉はウェアウルフ、墓にはいない少年はウィザード、リーはバンパイアだ。人間界にいて1番辛かったのは、人間達による虐めだった。俺は最初、モンスターだからと思っていた。でも、それに疑問を感じ始めた。
「俺は何もしてないのに、人を殺してないのに、どうして?」
幼い頃、頻繁に泣き明かした。もう10年以上前だ。モンスターになってしまったところを、マスコミやらクラスメートやらに見られたら、もうそこでお終いだ。暗い人生が待っている。俺達はクラスメートに見られて、退学にさせられた。そして追い討ちをかけるように、親からも追い出された。
道で泣き明かす俺だったが、弟は一晩中泣いているようだった。誰も見てはくれない、嫌がられるだけだ。絶望感に浸りながらも、耐えなきゃ、我慢しなきゃ、と思っていたが、もう無理だった。
「ヒカリガホシイ…。」
これが俺の願いだった。
何日かして、1人の少年と出会った。黒い服を身に纏った少年だが、瞳だけは緑色に光っていた。精肉店で倒れてたのを、見つけたんだ。少年が起き上がると、俺を睨んできた。だけど、怒りとかは感じられなかった。憎しみと悲しみが入り混じった、助けを求めてる目。口の周りには黒っぽい血が付いていた。
「お前、もしかしてバンパイア?」
「…消えろ。」
もうこの言葉には慣れている。「死ね」「キモイ」「消えろ」「失せろ」、何度も何度も投げかけられてきた。
「それ言ったって、俺は何もしねぇよ。」
「嘘だ。俺を裏切るんだろ?」
突然の言葉に、俺は掴んでいた腕を離してしまった。
それから精肉店に向かうと、その少年に出会った。殆ど毎日だった。だけど、1つだけ分かった事がある。
彼が人を食らっていないのに、追い出された事。
多分、牛やら豚の血でも飲んでいるのだろう。だけど、口の周りに血が付いているので、人を食らったバンパイアだと思われたんだろう。
それを少年に告げると、小さく頷いた。
「俺も誤解され続けたよ、人間に。」
「…モンスター?」
「あぁ、俺はデーモンだよ。名前はガン。宜しくな。」
「俺は…、リー…。」
途切れ途切れの言葉しか使わないが、そこから悲しみが伝わってきた。俺達は意気投合し、弟ともよく遊んでいた。
彼の過去は、リー自身から話してくれた。
「1ヶ月前に蝙蝠に噛まれたんだ。それからなんだ、体に異変が起こり始めたの。昼に外に出ると皮膚が溶けるし、十字架見るのが嫌になったし、おまけに…、
兄貴の血を食らった。
両親は兄貴をばかに愛してたから、俺を簡単に部屋に閉じ込めたよ。親父と母さんと兄貴は何度も俺に言ってきた。
『悪魔の子供だ。』
『こんな子、産むんじゃなかった。』
『いい加減にしろよ、俺の評判が下がっちまうだろう?』
でも、友達にはばれてないだろうって、そう思った。その時までは望みを持ってたんだよ?だけど、兄貴が幼稚園中に広めたんだ。兄貴は俺と1つ上なだけだからな。誰からも見放されたよ。先生にも、友達にも。で、何か事件があると、俺が呼び出されるって訳。皆言うんだ、『こいつがやった。』って。俺は何度も言ったんだよ、『やってない。』って。それ聞いた先生なんて言ったと思う?
『悪魔のいう事なんて信じません。』だってさ。
悪魔が全員嘘つくと思うか?善人ぶってる奴が1番危ねぇのによ…。それから俺は家を抜け出して、ホームレスになった。たまに俺の幼稚園の同級生が来るんだけど、俺に十字架突きつけて逃げるんだよ。
孤独に、自分を愛してる方が楽だ。」
リーの頬は赤く染まり、目には涙を浮かべていた。だけどその涙は、俺を苛立たせた。屋根から中々落ちてこない雨粒のように、泣きそうで泣かなかった。悲しければ、辛ければ、泣けばいいのに。だけど、リーは泣かなかった、笑いもしなかった。
あれから俺達はつるむようになって、グループを結成した。リーも徐々に明るくなっていき、思いやりのある少年に変身した。だけど、彼の心は脆く崩れ去って言った。
モンスターハンター達によって、リンダは姉を亡くした。側にいたリーを庇ったのだ。そして、次に俺の弟、ウィザードの少年…。この3人の死因は、全て一致していた。
リーを守るため、救うため、蘇生させるため…。
リーは3人が死んだ後、一晩中泣き明かした。
「俺のせいだ…、やっぱり俺が生きてなければ…っ!」
自分に責任を感じている、自分のせいだと思っている。俺はそれに何も言えなかった。俺だって弟達を亡くしたと言うショックは消えない。俺はリーに近付いて、抱き締めてやった。僅かだが、泣き声がとまった。だけど、また泣いた。リーが落ち着いた後、俺に聞いてきた。
「俺の存在理由って…、何?」
俺にも分からない、その答え。でも、これだけは分かる。
生きていく上では、生贄が必要なんだって。何かを得ようとしても、どちらかを捨てなければいけない。買い物と一緒。欲しい物があれば、金を出さなくてはならない。だから、生きていく上でも、そういった犠牲を払わなくてはならないって。でも、人が死ぬ理由なんて、俺にだって分からない。
そして5年前の今日、地獄の扉が開いた。俺、リー、リンダの内の誰かがこの中に飛び込めば、地獄の扉は閉じる。だけど、この中に飛び込んだら待ってるもの、それは…
死。
ここで命を捨てなければならない。リーとリンダを助けたいという思いと、死への不安が頭をよぎる。
―ここで俺が飛び降りれば2人を助けられるけど…、もっと生きていたい―
凄く複雑な気持ちになった。だけど、俺より幼いこの2人を救いたい。そう決心した。
でも、もう遅かったのだ。
扉の縁に足を向けた時に見えたのは、飛び込んでいくリーの後姿だった。リーが小さく、小さく、そして光に包まれた。
ロープを伝って、下に下りた。地面は何ともなかった、赤く染まってる事を除けばだけど。リーは額から血を流していた。量は半端じゃなかった。死に顔はただ眠っているだけのようで、声をかければ目覚めるのではないかと思った。
「起きろよリー。ほら、活動時間だぞ…?起きなくていいのかよ…、なぁ…っ。」
だけどリーは何も答えなかった。口を閉じ、目を瞑っているだけの人形になっていた。リンダは俺を後ろから抱き締めてくれた。悲しみに暮れている俺を気遣って…。
リーの頬に、俺なのかリンダなのか分からない涙が、何滴も垂れた。
これを聞いたリンダは、顔がブルーな雰囲気になっていた。
「ひょっとしたらリー兄ちゃん、私達より酷いかも。」
リンダの両親は、元々ウェアウルフだったからなのだろうか。俺もそう思う。バンパイアになってからの8年間耐えてきて、幸せを掴んだと思ったらすぐ解き放たれた。
彼を知らない他人によって。
リーが他人と距離を置いていた理由は、あの時の言葉にあった。
「善人ぶってる奴が1番危ねぇのによ…。」
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2005/02/06(Sun)17:35:25 公開 / 朔羅
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■作者からのメッセージ
1番怖いのって、やっぱり「いい人」なんでしょう。人の心情って、実際には分からないんですよね。
そんな人達を、今回はモンスターに例えてみました。外見で判断されているっていうの、多いですね…。