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『薔薇乱舞の善悪 -読みきり-』 作者:Rikoris / 未分類 未分類
全角5803文字
容量11606 bytes
原稿用紙約19.75枚

 薔薇(ばら)を囲んで、舞い踊ろう。
 綺麗な紅が、舞い散って行く。
 鋭い刺は僕らを傷つけ、残されるのは消せない罪だけ。
 薔薇の香りは、罪の香り。
 僕らを罪へと染め上げる。

 ああ、僕らの悪とは何だろう?
 気付かぬままに、罪の薔薇を胸に抱かされた。
 ああ、善とは何なのだろう?
 僕らは、何もわかってはいない。

 美しい薔薇を、摘み取ってしまった。
 それが、僕らの悪?
 もう、善には戻れないのか。
 善悪の境界線は、どこにある?
 僕らは、まだ何も知らない。

 皆、病気にかかっている。
 だから皆、傷つけあうんだ。
 皆、薔薇を心に抱いている。
 貴方達の薔薇はどんな薔薇?
 どんな色?
 どんな形?
 僕らの薔薇は赤黒く、鋭く太い刺だらけ。



【薔薇乱舞の善悪】




 空には、美しい水色が広がっている。
 どこまでも澄み切ったその青空が、僕は大嫌いだった。
 だって、あいつは何もかも飲み込んで行ってしまったのだから。
 あいつはいつだって、平気そうな顔をして地上の僕らを見下ろしているんだ! あいつも、あいつの奥の太陽も、輝いてる癖して、本当はくすんでるんだよ!
「おいっ! キサマ、何ボサッとしてる!」
 怒声と共に、チャキリ、という耳障りな金属音が耳元で響く。ひやりと冷たい感触が、こめかみに伝わってきた。
 見ずとも、何かは明らかだ。
 銃剣。
 空を見据えたまま、僕はお決まりの文句を唱える。
「申し訳ございませんでした、しっかりやります!」
 言い切って、口へ入り込んで来た血生臭い臭いと、乾いた大地からの土埃にむせ返った。
 いつものことだけれど、この空気にはどうにも慣れない。
 戦闘後の、死体処理場の空気には。
「フンッ、小僧、まだまだだな! キサマのような役立たず、人手不足じゃなけりゃ、直ぐにでもこいつらの仲間にしてやるとこだぜ! まあ、今回は許してやる。今度こんなことがあったら……わかってるな?」
 軽蔑の眼差しで辺りに散らばる屍を一瞥し、僕に銃剣を突きつける無表情男は言ってきた。
「はいっ!」
 瞬間的に、叫んでいた。目の前の銃男から発される殺気が、僕の体を引き裂かんばかりだった。
 死というものに、僕は掴み所の無い恐怖を抱いていた。
 周りのぐったりとして血臭を漂わせる屍達と同じになるかと思うと、悪寒が僕を駆け抜ける。
「せいぜい、殺されないように努力することだな」
 言い捨てて、銃剣男は僕に背を向け、去って行った。
 何人の生命を奪ったか知れない銃剣を、振りかざしながら。

 仕方なしに、僕は仕事へ戻った。
 散らばる屍を、土葬のために掘られた大きな穴へと放り込んで行く。
 ドサリドサリと、単調な音を立てて、屍が折り重なって行く。
 それと共に、僕の両手は赤黒く染まって行った。



 †




 月が出始めた頃、僕はやっと休むことを許されて、宿舎へと戻った。
 宿舎といっても、トタン板一枚で造られた仮小屋だ。僕のような役立たずの少年兵には、その程度の粗末なものしか与えられない。
 食べ物すら、一日一食。それも芋一つとかで、栄養バランスなんてあったもんじゃない。
 自分の力不足のせいもあるかもしれないけど、少なくともあの銃剣男なんかは、僕の数倍はいい物を食べている。
 理不尽だ。
 昨日まで僕と仕事をしていた少年兵も、今朝起きたら屍と化していた。流行していた病気と、栄養失調が重なってしまったせいで。
 僕の仕事の監督、否、監視をしている銃剣男は哀れむ様子も見せず、僕に彼を戦場の屍と共に地の穴へ放り込ませた。
 地面は僕の大切なものを奪い、空はその魂を飲み込んで行く。だから僕は、そいつらが大嫌いだ。

 宿舎に入っても、誰もいなかった。
 仲間の少年兵達は、皆戦闘に狩り出されたり、餓死や病死をしてしまった。残ったのは、僕一人。
 僕は、ろくに武器も扱えない役立たず。だから、兵だけど戦場には狩り出されなかった。その割に体は丈夫だったから、病気もしなかったし、餓死もしなかった。そして、今は死体処理なんて仕事をさせられている。
 どうして、戦争なんてしているんだろう。この頃、よく思うんだ。争い始めた理由は、宗教の違い。一つの国に異なる二つの宗教が入って来てしまって、どちらか一方に統一しようと戦っている。
 それって、凄くおかしいなって、僕は思うんだ。どちらの宗教でも、隣人を大切にとか、他人を尊重しなさいとか言ってるのに、どうして他の宗教はそうできないんだろう? どちらの宗教だって、そんな変わりないのに。僕が子供だから、わからないのかな。
 僕には、この国全体が、皆が何か酷い病気にかかってしまってるように思える。争いという病気、欲望という病気。そんなものが、流行してしまっているように思われるんだ。ひょっとすると、争っているのは宗教の違いからだけじゃなくて、欲望っていう病気のせいかもしれないな。自分の宗教で制圧してやりたい、っていう気持ちがそうさせるんじゃないか。
 でも、僕にはどうにも出来ない。それに、少年兵として働いている以上、僕も戦争というものに加担しているのだ。いくら無理矢理させられているとはいえ、人を殺したことがないとはいえ。手を赤黒く染め上げて、人を地の底へ捨てたという事実に変わりはない。
 大きなこと、偉そうなこと何て、言えるはずない。誰にも、伝えられたものじゃないな。
 せめて同じ境遇だった、昨日まで一緒だったあの子が生きていてくれたなら――



 †



 いつの間にか、眠ってしまっていたらしい。
 硬い床から、冷たさが伝わってくる。棺桶の中の屍みたいな気分になった。
 だけどまだ、生きている。冷たさを感じるのは、その証拠だ。
 どうして僕だけ、という思いと共に、安堵が込み上げて来たのもまた、事実だった。

 宿舎を出ると、空は薄ぼんやりとした白で、陽光は弱々しかった。
 どこかで、カラスがせわしなく鳴き立てている。
 吹き付ける風が、冷たい。
 早朝、だった。
 
「小僧! 起きてたか! 遂にキサマにもお呼びがかかったぞ!」
 
 カラスの鳴き声を斬って、監視人のどなり声が飛んできた。
 視界に、弱々しい陽光に黒光りする銃剣が入ってくる。それも、二つ。
 一つはいつも監視人が持っているもので、もう一つは少年兵用に簡略化改造されて輸入されている物だ。
 嫌な予感が、頭をつんざいた。近付いてくる簡略化された銃剣に、めまいを覚える。
「小僧、本日付けで戦場へ赴いてもらう。キサマのような奴でも、頭数くらいにはなるだろうと上のお慈悲だ。足手まといにはならないようにしろよ」
 目の前まで来た監視人は、やけに大きく見える簡略化された銃剣を、僕へ突き出した。
 恐る恐る手を伸ばして、受け取る。ズシリ、と腕に銃剣の重量が伝わってきた。
 心から恐れていたことが、やって来てしまった。けれど、拒むことが出来ないのはわかっていた。そんなことをしたら、その場で殺されてしまうだけだ。
「早速行くぞ、案内してやる。歩け」
 それは、僕が逃げないように、ということなんだろうか。
 僕の背後に回って、監視人は銃剣を僕の背に突きつけた。
 冷たい金属の感触に、僕は足を踏み出した。


 †



 斜陽が地を照らし始めた頃。やっと、戦場へとたどり着いた。
 そこは、当然のごとく荒れていた。
 砂漠のごとき、荒野だった。砂埃が舞い上がって、砂嵐のように視界を遮ってくる。
 だが、そこに生えるのはサボテンなどではなく、太い棘をつけたいばらだった。所々に、毒々しい紅の花をつけていて、不気味だ。
「現在はほんの一時的に休戦中だ。が、いつまた戦いが始まるかわからん状態だ。気を引き締めていろ」
 監視人は言って、僕を仲間のいる場所へ、案内した。

 荒野の隅の、小さな仮小屋。
 そこに、僕より先に狩り出された少年兵達はいた。
 皆、うなだれていて、無表情で。感情を表に出せない病、にでもかかってしまったかのようだった。
 僕のことも、わかっていないみたいだった。自分に与えられた銃剣を、宝物でもあるかのように抱えて、うずくまっている。
 今の彼らには、それしかないんだ。引き返すことは出来ないんだ、誰かの美しい薔薇を摘み取ってしまったから。感情に浸ってはいられないんだ、罪の薔薇に押しつぶされてしまうから。
 そう、悟った。
 彼らの銃剣は、鈍い光を放っている。隙間から差し込む斜陽のせいなのか、黒いボディが赤みがかっているようにも見える。きっと相当の修羅場をくぐってきたんだ。
 僕も、彼らのようになってしまうんだろうか。そう考えると、足先からぞわぞわと、恐怖が競りあがってくる。
 僕も、誰かの美しい薔薇を、摘み取らなければならないのだろうか。
 僕の抱く罪の薔薇は、もうつぼみになっている。それが開花するのはさほど怖くはないけれど、美しい薔薇を摘み取ることは何より恐ろしかった。

 突然、爆音が響いてきた。
 だっ、と周りの少年兵達が、いっせいに小屋を飛び出して行く。
 開戦の合図だ。
 僕も、少年兵達に続いて、おずおずと小屋を出て行った。
 
 鼓膜が、はちきれそうだった。
 悲鳴がこれでもか、というほど飛び交っている。爆音も、いくらかの銃声もだ。
 いばらの花が、薔薇が、巻き込まれてぱらぱら舞い散っている。
 人の持つ、美しい薔薇も摘み取られて、散って行く。
「おいっ! 何をボサッとしている、役立たず! 足手まといにはなるな、と言っただろうが! 銃を構えろ、突っ込め!」
 監視人が僕を見つけて、言ってきた。
 彼は銃剣を構えて、敵兵の薔薇を今にも摘み取ろうとしていた所だった。
 無視するわけにはいかなかった。そんなことをしたら、あの銃剣がこちらを向くかもしれない。
 僕は恐る恐る銃剣を構え、敵陣へと突っ込んで行った。

 助けて、やめて、と叫ぶ声が、耳をつんざく。
 僕と同じくらいの、少年兵達だった。
 どうして! どうして子供が犠牲になるんだ!
 この戦争を引き起こした人達は、高みの見物をしているに違いない。部下や僕らみたいな子供に、全てを押し付けて。

 敵軍の少年兵が、撃たれて足を負傷した。運悪くか、僕の足元に倒れこむ。
 もだえる、少年。哀願の表情で、彼は僕を見つめてくる。
 殺さないで。
 その表情は僕に、訴えていた。
 恐怖が、僕の心を締め付けた。これから先に起こることの予感に、銃剣を持つ手が震える。
「何してる! お前、こっちの人間だろっ!」
 僕の服についた紋章を見てか、同じ無彩色の服を身に着けた少年兵が叫んで来た。
「そいつは、敵だろうが! とどめを刺せ!」
 悲鳴の中に響く仲間の言葉が、僕の心を突き刺した。
 殺せと、彼は言った。敵を殺せ、と当然の表情で。
 それは、人間を殺せ、と言うことで。戦争中であれば、罪にはならないのだろうか。どうしてあんなにも当たり前のように、あのようなことが言えるのだろう。
 殺さなきゃいけない、でも、殺したくない。
 矛盾した二つの恐怖が、僕の心をかき乱す。
 手だけではなく、銃剣を支える腕さえも、震えて来た。取り落としそうになるのをこらえて、唇をかみ締めながら、銃口を目の前の恐怖に向ける。哀願だった顔を、蒼白が覆いつくした。
「やれぇっ!」
 さっきの少年の一声に、眼が覚める。
 何を、しようとしていた?
 美しい薔薇を、摘み取ろうとしていた。
 何故? 自分が、助かるために?
 一瞬でもそんなことを考えた自分が、恐ろしかった。
 カタカタ音を立てる銃剣が、下へ下へ、下がって行く。
 銃口が、地面へ向いた。
「やらないってのかっ? そんならっ!」
 足元の蒼白に、少年兵の銃口が向けられるのを、眼の端に捕らえた。
 頭を、撃ち抜くつもりなんだ!
 そう悟った。頭で考えるより先に、身体が動いていた。
 僕は、銃剣を投げ捨てた。鈍い音を立てて、それは草のない荒れた台地に転がる。
 間に合ったのが、不思議だった。
 僕は倒れこむようにして、傷ついた少年に覆いかぶさった。
 刹那、一際大きな銃声。
 沈み行く太陽の朱と、散り行く薔薇の紅が、僕の瞳に焼きついた――



 †


 それから数ヶ月して、やっと戦争は終わりました。
 多くの犠牲を払った戦争は、何の解決ももたらしませんでした。
 ただ、犠牲が出ただけ。ただ、悲しみが生まれただけ。
 それでは何も解決しないのだと、やっと人々は悟ったのでした。
 そして、それを教えてくれた人々を、特に少年兵達を弔うために、戦地となった荒地にはそれらの人々の名前と追悼文の刻まれた石碑が建てられました。
 あの、死体処理という辛い仕事をさせられ、あげくに戦争に参加させられた少年の名も、刻まれていました。少年が最後に守ろうとした敵兵の名も、少年と同じ境遇であった餓死してしまった少年の名も。そして、少年を撃ってしまった少年の名も。
 石碑には、このような追悼文が記されています。

『あなた達のおかげで、わたし達は知りました。戦争では、暴力では、何も解決はしないのだと。何が悪かったのか、誰が悪かったのか、今ではもうわかりません。ただ、どうか安らかに――』

 誰が、悪かったのでしょうか。誰が、悪いというのでしょうか。
 敵兵を守ろうとした少年は、悪でしょうか。その行動は、罪でしょうか。
 その少年を撃ってしまった少年は? 死体処理をしていた餓死してしまった少年は? 彼らの、敵と呼ばれていた人々は?
 本当に悪い人なんて、いないのではないでしょうか。
 善悪の境界線は、所詮人間が決めたものです。ですから間違いもあれば、ずれもある。それが全てではないのです。

 荒地の薔薇は、今日も咲き誇っています。
 乾いた風に、紅の花弁が舞い散ります。
 いばらは、石碑に棘を食い込ませ始めています。それを壊そうとするかのように、罪を消そうとするかのように。
 石碑はいずれ、なくなるでしょう。けれど人々の罪は、なくなることはないでしょう。起きてしまったことは、取り返しがつかないのですから。

 もう、このようなことを起こしては、なりませんよ。

 風に乱れ舞う紅の花弁は、犠牲者を代弁して、そう訴えているようでした。
 
















【終】


 
2005/02/04(Fri)23:05:09 公開 / Rikoris
http://www1.c3-net.ne.jp/rikoris/main/index.html
■この作品の著作権はRikorisさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 短編第三弾です。前の短編の、二倍くらい量があります(笑 かけた時間も半端ではなく(苦笑 一日徹夜して書いたという伝説が(何 そんなに時間かけたなら長編続き書けよ、という感じですが、何気にあっちが詰まってるので気分転換に(ェ
 こういう戦争もの(?)は、初めて書きます。兄が百年戦争について世界史のレポートの宿題とかで調べてて、勝手に図書館で借りてきた黒死病の本をペラペラめくってたら何か浮かんできました(ナゼニ。本当は、黒死病の本の表紙にあった死神さん(?)を病気に例えたものになるはずだったのですが……書いてたら変わってきてしまいました(汗 しかし、題名が凄いですね(苦笑 長いというか、ごついといいますか(?)で。乱舞というのを使いたかったという噂(ぉぃ  
 えと、流血シーンとか期待してた方(危ないって)、すみません。血の描写というのは本当苦手(というか嫌い?)なものでして、比喩で済まさせていただきました。(なので、わかりにくい場所がちらほらと(汗 )
 こんな物でも、読んでくださった方有難うございます。
 感想、アドバイス、批評、など頂けると幸いです。
 小説書く時間と、マイパソコンが欲しい、と切に願いながら(何、早く長編更新したいなと思いつつ、Rikorisでした。
(今更ですが、大幅修正。話の流れは変わってませんが。これで矛盾点はなくなったはず……です)
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