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『るいはともをよぶ?【読みきり】』 作者:影舞踊 / 未分類 未分類
全角3873文字
容量7746 bytes
原稿用紙約11.25枚



―バイキンマンってかっこええない?
―頭もええし、何回負けてもへこたれへんやろ?
―アニメは悪役おらんかったら成り立てへんからね。
―どや?欲しいやろ、バイキンマンの友達。









 誰だって心に閉まっておきたいものはある。それを知られると恥ずかしかったり、申し訳なかったりと、いろんな気持ちがそこにはある。
 自分のために隠しているんじゃなくて、相手のことを思って隠していることもある。相手を傷つけないように。そう思っているのに、俺達はそれを守ろうとして傷つけあった。

 恥ずかしいって気持ちを初めて知ったのは、俺が5歳の時だったと思う。もちろんそれ以前にも思ったことはあるんだろうが、覚えてない。だから曖昧かもしれないけど、5歳の夏、俺は恥ずかしいって気持ちを知った。

 幼稚園でのお遊戯の時間、わんぱくだった俺はいつも先生に怒られて、いつも誰かを泣かしていた。まあ、今じゃ使わないかもしれないけど、ガキ大将ってやつだ。
 俺の周りにはいつも似たような悪がきが集まってて、俺はその親分だった。毎日毎日悪戯三昧。とにかくそれが楽しくて俺達はいつも外を駆け回った。帰っていく園児に向かって泥団子を投げたり、近くの畑の作物を引っこ抜いたり、スカートめくりなんて当たり前でそれが挨拶だった。
 幼稚園でも、小学校でも、中学校でも、高校まで来れば少なくなるけど、いじめってもんがある。無論俺の幼稚園時代にもそれはあった。いじめられるやつってのは決まって「きたない」やつ。俺達の中ではそれがルールだった。外で遊んで汚れて「きたない」わけじゃない。家が貧乏だからとか、毎日同じ服を着てるからとか、そういう「きたない」だ。園児ぐらいの年齢は一番たちが悪い。言葉が喋れるようになっているのをいいことに、何が言っちゃいけない言葉かなんてものは微塵も気にしない。相手がそれでどれだけ傷つくかなんてのはわからないし、気にせずに喋るのが当たり前なのだ。
 俺の幼稚園は果物の名前で組を分けていた。俺とそいつは同じレモン組。そいつの名前は大野、でもあだ名は「バイキンマン」だった。アンパンマンという漫画を知ってるだろうか?聞くのも野暮なくらい誰でも知ってる名作だ。その中に出てくるアンパンマンの敵役、バイキンマン。先生もアンパンマンごっこの名前かと思っていたのか、彼をそう呼ぶ俺達に注意をしなかった。レモンを腐らす「バイキンマン」、彼はいつもそう呼ばれていた。
 別に彼が悪いわけじゃない。でもそれが楽しかったんだから仕方がない。俺達はバイキンマンをいじめた。後ろからついたり、外で遊ぶ時仲間に入れてやらなかったり、でもそいつは泣かなかった。俺達はそれがむかついて、そいつをいじめるのをやめようとはしなかった。絶対泣かしてやる。絶対。
 幼稚園のお昼ご飯。給食の食べ物ははっきり言ってまずい。今の俺はそうは思わない(逆にあれだけの予算でうまく作ると思う)が、当時の俺はそう言っていた。格好をつけるためだったのか、家ではもっと上手いもん食ってんだぜって感じで、全く意味がわからないが給食はまずいと豪語していた。だから必然的に残すのも多くなる。決まって俺はその残ったものを、バイキンマンのお皿に移していた。そいつは文句を言うどころか「ありがとう」と言ってそれを受け取っていた。全部綺麗に平らげる。俺はそれを見て優越感に浸っていた。バイキンマンと出会って、2ヶ月が経っていた。

 暑い日だった。幼稚園のレモン組では外の暑さで遊びたくない子供達がグダーっと寝転んでいる。もちろんこんな中でも外で遊ぶのが俺達健康優良児だ。梅雨の季節に晴れた快晴の日。せっかくのこんな日に外で遊ばないでどうする。俺達は疲れも知らずに走り回った。
 それだけ暑い中で暴れまわれば汗も出る。喉も渇く。家から持ってきていた水筒に入った冷たいお茶を飲む。お酒を飲んでいる父親の真似をして友達と笑い合う。先生にタオルで汗を拭いてもらい、服を着替える。俺は横目でバイキンマンを見た。水筒を持ってきてないのか遊戯部屋にあるお茶の入った大きなやかんを一人で持ち上げて、コップに入れようとしている。先生は慌ててそれを止めにいき、そいつはすまなそうにコップを持つ。俺達はそれを見てけらけらと笑った。
 次の時間はお昼寝の時間だった。子供の頃というのはすぐに寝てしまう。あれだけ遊んだ後ならば当然でもあるが。子供が睡眠が多いのは体の疲れを知らずに動き回るからなのかもしれない。部屋の中は暑くて寝苦しかったが、薄い布団から足を出して、俺は案外すぐに眠りに落ちた。

 どれぐらい寝たのだろうか。俺は股間にぬるいものを感じて目を覚ました。何度か経験のあるできごと、寝る前にあんなにお茶飲まなきゃよかった、なんて思ってももう遅い。俺の股間から染み出たそれは布団を侵食し、大きな地図を作っていた。俺は周りを見回す。暗い部屋。入ってくる風。いない先生。まだ誰も起きていない。俺はそっと布団を抜け出て自分の服を置いてあるロッカーに向かった。途中誰かの足を踏みそうになって無理な姿勢をとったりもしたが、何とか誰も起こさずにそこまでたどり着けた。もう一度誰も起きてないのを確認してからズボンを脱ぐ。パンツは替えを持ってきていなかったので、とりあえずさっき履いていた汚れたズボンに履き替える。濡れたズボンを押し込み、次にどうするかを考える。その時俺の頭に名案が浮かび上がった。
―バイキンマン!
 俺はそろっとそいつのところまでいって、ゆっくりと起こす。そして半ば脅すように場所を代わるように言う。そいつは何も知らずにそれを了承し、地図の描かれた俺の布団へと歩いていく。後ろめたい気も少ししたが、俺にとってのそれは名案以外のなんでもなかった。地図のかかれてない布団に入ったはいいが、そこから寝られるはずもなく、俺は目を閉じて先生が来るのを待った。

 案の定オネショは見つかった。バイキンマンの寝ていた布団で。俺とそいつの寝る場所を覚えているやつがいたかもと思ったが、バイキンマンのオネショ事件の前でそれは取るに足らないことだった。先生はしょうがないわねと言ってその布団を乾かし、そいつはまた申し訳なさそうに謝っていた。そいつが俺のオネショの身代わりになったことには驚いたが、それでも泣かなかった俺はそいつにまた腹を立てた。そして、俺は言った。
「きたないのぉ〜。バイキンマンのオネショに触ったら病気になるんとちゃうか〜」
 ごめんなさいと言えばよかったのか。否、当時の俺にそんな言葉を言う勇気はなかった。
 バイキンマンは泣いてしまった。
 今まで何をしても泣かなかったそいつに対して、俺はどんなことを言っても泣かないと勝手に定義づけていた。そのオネショは俺のものだということもなく、そいつは黙って泣いた。周りの奴等はそいつが初めて泣いたことに歓喜し「やったな」と口々に俺に言い寄ってきた。なんでかわからないけど、周りの声が聞こえなくなった。しんとした中で笑うやつらと泣くバイキンマン。
 気づけば俺は駆け出していた。誰にも何も言わず部屋を飛び出してグラウンドの隅っこまで見つからないように、見つからないように、走って、逃げた。
 グラウンドの隅っこ、汚れたズボンをはいた自分。恥ずかしかった。きたなかった。消えなかった。ジンジンしてくる鼻頭。むずむずしてくるまぶたの上。熱くなってくる喉の奥。
―バイキンマンは「きたなくない」
―「きたない」振りをしてるだけだったんだ
 俺が守ろうとしたのは安っぽいプライドで、バイキンマンが守ろうとしたのも…俺のプライド?
 いつもいじめてた俺を守ろうとした?そんな馬鹿な話がどこにある。俺は…最低なやつだ。
 ぽろぽろとこぼれる涙と止まらない嗚咽。
 気づくと俺の隣にはバイキンマンが来ていた。
「100円でものすごくたくさんお菓子買える方法教えてあげよっか?」
 唐突に切り出した会話に涙声が少し感じられる。俺はその方法を知っていた。俺も…バイキンマンと…同じ。
「しっ…とるっ…わ」
 涙にむせながらもいつもの強い感じを出そうと必死の俺。上手く喋れない自分にもどかしさを感じ、地面を叩く。バイキンマンは知っていた。俺が自分と同じだってことを知ってて黙っていてくれた。そんな俺の安っぽいプライドを守るために。俺よりも何倍も何倍も頑張って、俺のプライドを守ろうとしてくれていた。
「ごめん、結局ばれてしもた」
「も……ええっ…わ」

 結局ロッカーに押し込まれていた俺の濡れたズボンは見つかって、俺のオネショだということはみんなにばれた。でもそれでよかった。バイキンマンの汚名返上が出来てよかった。
 その後も俺の周りの奴等は俺を避けることはなかったし、バイキンマンは避けられた。でもバイキンマンはやっぱり泣かなくて、でも俺が皿に移そうとする残り物を受け取るときには抵抗するようになった。
 表面上は怒っていたが、密かに笑って俺はそれを食べた。

 バイキンマンへの対応がいじめであって、いじめでなくなった時、それは思い出となって俺とバイキンマンの中で生き続ける。バイキンマンはわかっていた。俺が弱いことを、自分と同じだと言われるのを恐れていたことを。くだらない理由でかっこつけてた俺より、ずっとずっとバイキンマンは偉かった。
―ごめん。バイキンマン。


―そんで、改めて思うけど、



―バイキンマン。





―かっこええよ。やっぱ。



2005/01/25(Tue)01:26:27 公開 / 影舞踊
■この作品の著作権は影舞踊さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
最初と最後の―の部分が関西弁なんでおかしいと思われた方もいらっしゃるかもしれません。主人公と彼は関西人なので(文中での会話で
「るいはともをよぶ?」という題、あえて感じにしなかったのはある部分をもじってるからです(誰でも気づくし、思いつくわ(ごめんなさい;;
いじめっつう暗い題でしたが、最後はハッピーエンドかな(問題解決みたいな(ハ?

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