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『井の中の蛙【読みきり】』 作者:影舞踊 / 未分類 未分類
全角4197文字
容量8394 bytes
原稿用紙約12.3枚



 井戸の水飲んだことあります?
 僕はありますよ。一回中りましたけど…
 冷たくて、結構おいしいんです。
 井戸って結構深いでしょ?
 あんなところに落ちたら発狂しちゃいますね。
 怖くて、寒くて、暗くて。
 あっ、でもそう考えたら井の中の蛙って結構勇気ありますね。







 僕にはとっても仲のいい友達がいます。もう親友って言っていいんじゃないかなぁ。当時の僕らの間じゃ、親友って書いて「ダチ」と読むのが流行ってました。「ダチ」いい響きですよね。誰が考えたんだろう?みんな大人になるにつれてこういう言葉は使わなくなっていきます。世間体、了見、恥ずかしい、忘れる。いろんな理由があると思いますけど、僕は忘れないです。ずっとずっとこの言葉を使っていきたい。親父になっても「これわしのダチや」とか言ってたら、何やこの親父とか思う反面、かっこよくないですか?

 僕の友達の話をちょっとしてみたいと思います。聞いてくれる人がいたら恥ずかしいんだけどね。でもやっぱり誰も聞いてくれなかったら話したくないですね。なんか矛盾した事言ってる気がするけど、しょうがないです。僕はこういう性格なんで。
 僕の友達ははっきり言っていいやつでした。あぁこの場合「でした」って言うのは適切じゃないかもしれない。今もいいやつだから、いいやつです、かな。今から話すのは僕が高校に入った時くらいの話。彼とは中学校から知り合って、1年生の1クラス、席も僕の前ですぐに仲良くなった。初めて来た中学校で、友達100人出来るかな的なノリで話しかけてきたのは僕じゃないです。僕はこういう性格なんで。
 まぁそんな訳で僕と彼はすぐに仲良くなりました。それからの中学校での2年間、同じクラスになることはなかったけど、僕と彼の「ダチ」関係は続きました。
 高校1年生。僕と彼は別に一緒にこの高校に入ろうとかって決めてたわけじゃないです。男同士でそんなキモイことはしません。ただ「ダチ」ですから。いい加減この言葉遣いむかつきますね、でも最後まで聞いて下さいね。「ダチ」ならば自然とそこへ向かうのです。僕と彼は自然とその高校へと入学しました。たくさんある高校の中でも変わった高校でしたけど、僕と彼は「ダチ」でしたから。
 はい、すいません。軽く嘘をついていました。僕と彼は「ダチ」でしたけど、そんな不確定要素で数ある高校の中で変わっているこの高校に一緒に入るなんてことはないです。そりゃちょっとはあるかもしれないですけど、簡単に言うと僕と彼はともに、頭がすこぶる悪かったということです。
 高校1年生。誰でも心ときめきます。僕だってそれなりの感受性を持ってますしね。彼はそんなこと見向きもしませんでしたけど。言い忘れましたが、彼はちょっとはにかみやさんで、おてんばでした、やさぐれ者でした、平たく言うと不良でした。不良なんていってもただ煙草吸ったり、ちょっと髪の毛染めてみたり、つまりは大人になりたい症候群です。子供のままでいたい「ピーターパンシンドローム」なんかよりはずっといいと思うんですけどね。でもダメです。中学校の2年生ぐらいからそんな感じになっていった彼は、先生方からの評判がよくありませんでした。高校生になって、丸くなるかななんて大きな間違いです。だって彼は僕の「ダチ」なんですよ。そう簡単に信念を崩すはずがありません。僕は別にそんな事気にしなかったし、むしろ憧れてました。僕はこういう性格なんで。
 僕にとって大事なのは学校の勉強でも、親に誉められることでも、みんなから慕われることでもありません。「ダチ」を増やすことです。友達じゃないです、親友です。ここにきても「親友」をそのまま読んでいたのなら、僕の話を聞くのをやめて下さい。
 すいません。軽く嘘つきました。僕は臆病な人間です。こういう風に聞いてもらえるなんてそうないことなんで、勝手がわからなかったんです。でも「親友」は「ダチ」と読んでください。ごめんなさい。では話を戻します。
 彼は中学校の時に何度か大きなケンカをやりました。実際に現場を見たのは2,3度ですけど、その時僕は彼が強いんだということを確信しました。大きなケンカ意外にも、小さなケンカはよくやっていたそうです。そしてそれまで負けた事はないと言ってました。胸を張ってそういいきる彼は、たくましく、かっこよく、紛れもない僕の「ダチ」でした。
 何度か煙草を吸わせてもらったこともあります。はっきり言ってその味は苦くて、とても人間の吸う空気じゃありませんでした。でもそれをおいしいと言って吸う彼は大人で、またかっこよく見えました。でも煙草を吸うのをかっこいいというのは子供です。今ではやっとその事がわかりましたけどね。あっそれから、話の腰を折るようで悪いんですけど、煙草は正確には呑むと言うんだそうです。でも、あえて僕は吸うと言わせてもらいます。僕は頭悪いですから。
 彼はいつも笑ってました。そうかと思うと次の瞬間には何かを考え込んでいるようであったり、見ているだけで彼と一緒にいるのは楽しかったのです。ある種の力を手に入れたとでも言うのでしょうか。僕は彼の隣にいる自分が誇らしく、同時にそんな僕に文句一つ言わない彼に感謝していました。彼も僕も考えてたことは一緒だったのかもしれません。それでもそういうことは口には出しません。それが「漢」ってもんですから。読み方はあえて言いませんよ。
 彼と僕の距離が出来るようになったのはいつごろからだったか覚えてないです。高校1年生の中盤。完全に僕と彼は会わなくなりました。なんでなのかはわからないですけど、気づいたら僕の隣に「ダチ」はいませんでした。僕は彼と何度か接触しようとしましたが避けられました。完全に僕は、彼の視界から消えていました。どうしてなのかを問いただすのが僕にとっての最優先事項でしたけど、僕はその次に気をつけなければいけないことに気づきました。
 僕と彼はその学校で浮いた存在ではありませんでした。でも1年生としては浮いた存在でした。特に彼は髪の毛を染めて、煙草も吸って、おまけにケンカも強く、態度がでかいので上級生から目をつけられていました。もちろんその傍らにいた僕もその標的です。彼が僕の隣からいなくなって、僕は不安と楽しさのない学校生活を過ごしました。彼が僕の隣からいなくなって1週間、僕はやはり彼の力を借りていたのでしょうか。でも違います。彼のような「漢」なら、そんなみみっちいことはきっと言いません。
 そんな事を言っていても、僕が目をつけらたのは変わりません。その日僕は上級生の人たちに声をかけられました。ものすごく下手に下手に気をつけて言葉を使って喋ったのですが結局はダメでした。放課後、僕は上級生に呼び出されて古い部室前に呼び出されました。ここはずっと前から使われなくなって、1部屋だけ物置として残された格好のリンチポイントです。涙が出ました。足も震えました。下手したらおしっこも漏らしそうでした。嘘と思うかもしれないですけど、こんな怖い人たちに囲まれてこれから自分がどうなるのかを想像したら誰でもそうなります。僕は臆病です。弱くて、友達も少なくて、もてなくて、それでも信じることはあります。誰かが僕を助けてくれると。ヒーローは強くて、賢くて、弱いものの味方です。でも、いつもヒーローは遅れてやってきます。彼もそうでした。
 僕の前に颯爽と現れた彼は本当にヒーローに見えました。でも彼はヒーローじゃないです。彼も僕も頭が悪いですから。でもそんな彼からは勇気を貰いました。彼が登場したことで先輩達はいきり立ち、僕たちを袋叩きにしました。彼は強くて、かっこよかったけど、やっぱり馬鹿です。僕も入れて2対12。勝てるわけがなかったです。口からも、鼻からも、頭からも血が出ました。殺されると思いました。でもそんな中で僕が目にしたのは彼が必死に闘ってる姿でした。殴られながらも、必死に、僕のことを気にしながらも、必死に、僕は弱い自分が許せなかったです。痛みのせいか、彼の行動のせいか、僕の目からは涙が出て先輩達はそれを見て笑いました。
 帰って行く先輩達。助かったと思いました。あちこち傷だらけで、制服もぼろぼろでした。お金も取られました。
 でも、僕の隣には彼がいました。
 気づかない振りをして気づいていたのかもしれない。僕を避けていたのにどうして助けてくれたのか。僕はここぞとばかりに聞きました。彼は言いました。
「ダチだから」
 と。泣きそうでした。でも既に僕は泣いていて、それ以上泣けませんでした。詳しい事情を聞くとこういうことです。彼は先輩達に目をつけられているのを知っていた。そして、そろそろ先輩達が痺れを切らす頃だろうと。その時に僕が一緒にいると巻き添えを食うから、僕と距離を置いたのだと。そして、僕と距離を置いた間何をやっていたのか、と聞くと、昔(といっても中学)の友達を集めていたということでした。
 その次の日、僕らは彼の「ダチ」と一緒に先輩方へ厚くお返しをした。

 わからないこともわかろうとせず、知らないことには目を瞑り、僕らはそんな馬鹿ばっかりやってました。自分達が世界の中心で、地球は僕らを中心に回っていました。生活の中には笑いが溢れて、時々辛い失恋なんていう痛みもあったり、それでも地球は僕らを中心に回って。
 丁寧な言葉や、賢い言葉なんて使い方も意味もわかりません。ちょっと砕けた言い方の僕らの言葉。僕らの世界でだけ通じる言葉。その甘い蜜に群がる虫を食べる僕らは蛙でした。成長していく中で変わるもの、変わるべきもの、変わらないもの。知るべきことがたくさんあって、一生懸命違う虫も食べました。
 意味不明な言葉と会話。それで笑えてた僕らは幸せだった。



 あの時の倉庫前での会話。
 そっけなく返す彼と、意味不明なことを口走った僕。
 それでも久しぶりに話した彼との会話だったからか。
 今でもその会話は鮮明に覚えている。





―井の中の蛙は大海を知らんねやって
―ふ〜ん


―でも大海なんて知らんでええよな
―くっそ、いったいわぁ
―聞いてや
―あ?





―だって蛙って淡水生物でしょ?
―知らん









―あっ、でも湖には出て行こうよ
―うるせぇ
2005/01/18(Tue)16:59:42 公開 / 影舞踊
■この作品の著作権は影舞踊さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
馬鹿っぽい書き方になってしまいましたがどうぞ笑って下さい(笑
とりあえず影舞踊はこんな性格ではないです(ん?
最後と最初のところが書きたくてですね。今回はもうそこだけ(いや、でもそんなこともな…(了
感動もへったくれもない気がしますが、感想・批評等頂ければ幸いです。
読んでくれた方々ありがとうございます。
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