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『スポンジ・ブレード第一回』 作者:パクパク / 未分類 未分類
全角16174.5文字
容量32349 bytes
原稿用紙約45.75枚
ネクロルはそんな彼女を見つめ、考えた。自分と自分が訓練した六人の喪神者は、ジャエンシ全体のただひとつの希望だ――と、自分はいま、そういった。たとえそうだとしても、すこしは光明があるのか? <辛辣な語り手>と五人の喪神者は、身内に狂気を宿している。たとえライザーがレーザーを満載してやってきても、たとえこんなちっぽけなレジスタンス勢力で<天使>どもの進軍をくいとめられるとしても、たとえすべてがもくろみどおりにいったとしても、そのあとは? かりに<天使>どもが明日にでも全滅してしまったとしたら、喪神者たちはどこに居場所を見つける?
(ティプトリーJr/ル・グイン他『20世紀SF(4) 1970年代 接続された女』(河出文庫)より引用)

ACT#1「覚醒は永遠の落下の始まりか、と青い空は俺に語りかけた(回想1)」

 俺の意識は覚醒した。ここは何所だ?何処かの誰かに問いかける。俺は誰だ?何でここにいる?ここは何処かのサーバーでそのサーバー内に存在する何処かの世界の何処かの国の何処かの都市の何処かの高層ビルの屋上。で、俺は藍田西藤(アイダ サイトウ)34歳、WSUO(Would Safety Union Organizationの略。世界安全組合)の主に戦闘や諜報を専門としている電脳特殊部隊AVM(A Vacant Mindの略。うつろな心)第七部隊第四課に主属。俺はある任務の為にこの場所にログイン(接続)した。
「錐島(キリジマ)、目標の現在位置をモニターに写せ。それと何処からハック(侵入)しているかルートを確認してからログアウト(接続遮断)出来ないように回線を潰しておけ」
『全て準備万端だ。目標のログインエリア(接続場所)も抑えてある。モニター出るぞ』
 その瞬間、視界が反転。緑色の迷路のような盤が姿を表した。赤いマークがその緑色の盤の上でチカチカと点滅していた。
 目標は巨大ネット犯罪団グループ『呉禁団』の頭領、岐波聡史(キワ サトシ)岐波聡史の簡単な経歴を説明すると、岐波聡史は若干28歳にして世界でも四つの指に入る巨大ネット犯罪団グループ『呉禁団』の頭領になる。岐波聡史が頭領になった途端に数年間活動停止をしていた『呉禁団』が活動を再開。それを合図に突如、犯罪が増加。そしてその逮捕した殆どの犯罪者は『呉禁団』のメンバーである事が分かった。その犯罪者達、『呉禁団』のメンバー達に真実を追求すると「岐聡史に命令された」と白状した。これにより、WSUOはB級犯罪者である岐波聡史に逮捕命令が出された。そして岐波聡史の逮捕、及び捕獲の任務を請け負ったのが我らAVM第七部隊第四課というわけだ。
「使用武器は?」
『使用武器はエムナイン(9mm機関拳銃。弾数は25発。単発・連射の切換えができ、連射時の発射速度は1100発/分。切換えスイッチが『ア(安全)』『タ(単射)』『レ(連射)』となっている)使用弾数は3000発』
「エムナインねぇ……しかも3000発、フルオートで三回トリガーを引いたらお終い。これだけで四つの指に入る巨大犯罪者グループに殴りこみに行けと?サブマシンガンで?」
『そう言うな、こっちだって切羽詰ってるんだ。あっちの方が何せ忙しいからな。余計な経費は出したくないんだよ』
「結局はお金で左右されるってわけか。俺たちは命がけで自治を整えてやってるのに給料もスズメの涙程度ではやっていけないぜ。本当に何でこんな仕事を選んじまったか人生最大の誤りだよ」
『まぁ、愚痴を言っても始まらない。そちらに武器を転送する。―――それとこの通信も切ったほうがいいな、奴らにハッキングされている。大した事は無いが念のためにな。それでは健闘を祈る』
 通信が切れた。その瞬間、さっきまで聞こえなかった色々な音が聞こえてきた。自動車のエンジン音、一定に響き渡る足音の波、鳥の囀り、人々の話し声。鳥の群れが高層ビルの隙間を抜けて海の方に向かって飛び去って行った。海から潮風が流れてきて頬を掠めて何処かへ消えて行った。一瞬、この世界が``作られたモノ``だという事を忘れてしまった。ネットという擬似空間が俺の眼前に何処までも続いているのだ。現実で出来ないような事がこの世界では可能なのだ。それは紛れも無い無限の自由と可能性がある。しかし、見方を変えれば現実逃避と限られた閉塞した世界で閉じこ引篭もりの集団が馴れ合い、補填し合うしている奇妙な世界がそこにはあった。しかし、ここは俺の現実そのものであり、俺は閉塞された世界の住人なのだ。
「お前らか?俺たちの通信をハッキングしようとしたのは」       
 後ろを振り向くと二人組の男がいた。一人は小柄でパーカーのフードを目深まで被っており顔は分からない。もう一方は黒人らしき男でサングラスを掛け、こちらも顔が見えない。その男は「アイラブインターネッツ」と書かれた白いシャツを着ていた。俺はサーチモード(人物、文字、食べ物などをインターネットで探索をする事が出来る)でこの二組をサーチしてみた。間違いない。こいつらは『呉禁団』のメンバーだ。すると黒人らしき男がポケットから、トカレフTT1933(日本で暗躍しているオートマティック拳銃。7.62mm×25弾(モーゼルミリタリー)を使用。命中率はあまり良くない。装弾数は合計 8発)パーカーの男はポケットから9mm拳銃P220(自衛隊で頻繁に使用される拳銃。主に幹部指揮官や砲・戦車乗員が携行する護身用拳銃。SIG社では弾数15発のP226を軍用としているが、自衛隊では民間型P220を使用している)を取り出してこちらに向けて構えた。
 やるしかないか。
 刹那、二人組みの男は同時にトリガーを引いた。一発、二発、三発、四発……計十発。鉄の塊がこちらに向かって飛んできた。無駄だ。俺はFDEモード(F=fight D=defense E=evasionの略。攻守回(避)の白兵戦に特化されたモード)をONにした。回(避)銃弾を避けて相手の近くまで詰め寄る。攻。膝蹴りで黒人の溝に当たり倒れた。驚いたパーカーの男は俺に向けて銃を十一発弾を乱射した。馬鹿が、そんなんで俺に当たる筈、無い。守。俺は飛び上がり相手の背後を取って後部を一発殴った。パーカーの男は一瞬よろめいたが体勢を立て直して振り向いてトリガーを引いた。が……弾切れだ。
「ばぁか。無駄撃ちしすぎなんだよ」
 男はカチカチと俺に向けて情けなくトリガーを引いていた。俺はそんな哀れな男の顔面を一発拳で殴ると吹っ飛んで動かなくなった。こんな奴ら相手にFDE使うんじゃなかった。これで相手に手の内を読まれたな。クソ。俺はなぜかエムナインを握っていた。遅いんだよ、錐島。倒しちまったじゃないか。しかし、こいつらこの俺にハッキングするとはいい度胸じゃないか。じゃあ、次はこっちの番だ。ハッキングモード(セキリティなどプロテクトを解除する場合に用いるモード)に切り替えた。その瞬間、全てが黄緑色に染まった。ビルも人も空も海も全てだ。世界が俺色に染まって行く。
 ガチャ
 黒人の男がうつ伏せになりながらこちらに向けて拳銃を構えていた。こいつ、気絶したんじゃなかったのか。黒人の男は口元に嫌な笑みを浮かべトリガーを引き絞った。俺は咄嗟に後ろにバク天した。ドン。と、銃声の音の次に重力で縛られた俺の体は下に下に落ちて行った。ハッキングスタート。空中で消滅していく俺を黒人の男は口を開けて呆然と見ていた。消え行く意識の中でただ見えたもの……それは青い空であった。

ACT#2「仮想世界で交わされた死の口付けの味は」

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お名前:ユウカ               入場者二人:ホタル、カオル
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カオル>俺は今、一次関数の所やってるよ。難しいよな、あれ
ホタル>そうだねぇ。もう、私なんかぜんぜん、わかんないよ
>ユウカさんが入室しました。
ユウカ>こんにちわ
カオル>こん
ホタル>こん(^0^)
カオル>お初です>ユウカさん
ホタル>お初!
ユウカ>始めまして
カオル>あ、そうだ知ってる?
ホタル>何?何?
カオル>『電脳怪談』てやつ
ホタル>電脳怪談?何それ?
カオル>ユウカさんは知ってます?
ユウカ>知ってますよ
ホタル>だから、その電脳怪談って何?
カオル>知らないの?結構、有名な話だよ
ホタル>何!
カオル>う〜ん、ユウカさん?
ユウカ>はい
カオル>悪いんだけどホタルに教えてやってくれない?俺、ちょっと今から買い物に行かんといけないからさ
ユウカ>いいですよ
カオル>じゃあ、頼みます。落ちるな
カオルさんが退室しました。
ホタル>おつー!
ホタル>で、ユウカさんその電脳怪談って何?
ホタル>ユウカさん?お〜い
ホタル>ゆ
>ホタルさんの回線は強制切断されました。
>ホタルさんが退室しました。
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お名前:                 入場者0人:
======================================================================

***

「被害者の名前は英田智明(アイダ トモアキ)年齢は32歳無職独身で両親と共に住んでいる。『中学生集合!』というサイトにあるチャットルームの常連。HN(ハンドルネーム)は「ホタル」この被害者は俗に言う、ネカマ(ネットオカマの略)で中学生の女子と偽っていたようだ。第一発見者は母親で息子の部屋を掃除しようと部屋に入ると息子、被害者がパソコンの前で白目を開けて床に倒れていることを発見し通報した。しかし、被害者は既に死んでいた。死因は心筋梗塞(心臓の冠状動脈の、血栓などによる閉塞、急激な血流の減少により、酸素と栄養の供給が止まり、心筋が壊死(えし)した病態。激しい狭心痛、ショック状態などが起こる。中年以後に多い)死亡推定時刻午後4時17分」
 ここはエリアコード1014、δ(デルタ)サーバーにある特殊部隊AVM第二支部、第七部隊第四課『作戦会議室』その部屋は何時もの様に重苦しい沈黙で満たされていた。作戦部長の錐島博一(キリジマ ヒロカズ)はクリップに挟まれた分厚い紙の束をテーブルの上に置いた。それを見計らって俺は少し手を上げて言った。
「しかし、何でその事件をうちが担当しないといけないんだ?あっちの仕事だろう」
「いや、これは俺らの仕事なんだ」
 錐島はそう言いその厚い紙の束の一番上の紙を抜き取った。
「被害者、英田智明がチャットから強制切断された時間と死亡推定時刻がピッタリなんだ。それに奴はディスプレイマスク(西暦2015年にインターネットをより快適に使用する為に開発された。インターネット利用者の80%が使用している。しかし、よりリアルに鮮明に画像や素早く情報を参照することが出来る反面、事故も多い)を付けたままだった。」
「でも、それだけではその事件が電脳で起こったと証拠にはなりません。外部からの可能性も考えられないですか?」
 特殊部隊AVM第七部隊第四課に入隊してきて間もない最年少の新人、和明道夫(カズアキ ミチオ)が聞いた。錐島は首を横に振った。
「それは限りなく0だ。外部からの侵入は認められない。それに心筋梗塞なんてどうやって外部からするんだ」
「だから、和明が言いたいのは事故なんじゃないかって事だ。心筋梗塞なんて誰にでも起こりえる事だ、不思議じゃないだろう。それに電脳で起こったダメージがフィードバックして身体に―――いや脳に影響することは分かるが心筋梗塞は聞いたことは無いな」
 川口真中(カワグチ マナカ)は首を傾げて言った。錐島は溜息を吐いて意味も無く首を振った。さっきまで黙っていた富士夫爺(本名、富士夫剛史(フジオ ツヨシ)特殊部隊AVM第七部隊第四課、課長。皆から富士夫爺と親しまれている。昔は伝説の刑事だったらしいが真か偽りか)が口を開いた。
「―――十年前。2025年、10月11日」」
「2952事件」
 俺はまるで誰かに操られるように自然に言葉が出ていた。富士夫爺は頷いて言葉を続けた。
「あれは、あるサイトの掲示板に妙な書き込みがあったことが発端だった。書き込み者の名はユウカ。その書き込みの内容は簡単だ『この書き込みを見た物は三日以内に同じ書き込みを3つしなければ死ぬ』最近ではそんな事を書き込む馬鹿はいないが当時としては都市伝説などで有名な話だ。確か、昔これと似たようなもので呪いのビデオを見てしまった者は一週間以内にダビングして誰かに見せなければらない、とか言う映画が昔あった。まぁ、その話はいい。
 その書き込みがあった三日後、最初の被害者が見つかった。死因は心筋梗塞。今回の事件と同じようにパソコンの前で白目を開けて死んでいた。その被害者はそのサイトの常連だった。それから全国で相次いで被害者が続出、同じ状況、同じ死因、その被害者達は全員そのサイトに関わった者達だった。そして四日目にそのサイトは封鎖。最後の犠牲者はその管理人だった。元々、個人運営の小規模なサイトだったので被害は少なかったのがせめてもの救いだった。しかし、その一週間後ユウカと名乗る人物が某大規模掲示板に書き込みをした―――2952人にも及ぶ大惨事、2952事件を」
 富士夫爺は言葉を止めて錐島を見た。
「被害者の死亡推定時刻に『中学生集合!』のチャットルームにいた人物は被害者含め3名。一人は被害者、英田智明。二人目はHNカオル、本名渋崎幸助(シブザキ コウスケ)年齢は14歳ごく普通の中学生。彼は事件が起こった時間は買い物に出かけていた。彼の母親、住民の証言もあり、彼は白だ。そして問題なのが三人目HNユウカ」
 その言葉に会議室にいた十数名の第七部隊第四課の隊員達が一斉にざわめいた。錐島はテーブルを掌で二回、ドン、ドンと叩いて「静かに!」と言った。はっきり言うと俺は戸惑った。そしてその戸惑いを口から発していた。
「しかし、ユウカ―――いや、能美瓜八子(ノミウリ ヤコ)は捕まった筈だ」
 言葉の通りだ。HNユウカ、本名能美瓜八子、当時18歳。あの事件の後、WSUOの懸命な捜査の末、逮捕に成功。それから彼女の自宅調査をした結果、大量のコンピューターウィルスDK( Death kissの略。死の口付け。新型コンピューターウィルス)を発見した。これが決定的な証拠となり、被告人能美瓜八子は懲役550年を言い渡された。若干、18歳が2952人を一瞬にして殺害したと言うニュースがあっちで話題になったそうだ。その新型ウィルスであるDKは見たものの脳に直接信号を送り、血液の流れなどを自由に操ることが出来る一種の強力なバイオ兵器、いや電脳という空間を融合した電脳バイオ兵器。
「それがな、藍田。もし、この事件が立証されれば犯人は彼女じゃなかもしれないんだ」
「どういう事だ?」
「被害者のパソコンのメモリーを調べてみたんだ。べっとりとプログラムにこびり付いていやがった。DKはWSUOによって完全に撲滅した。なのになぜ十年後の昨日、その事件が起きたのか。それもまったく同じウィルスが。能美瓜八子は独房の中、じゃあ誰がやったんだ?」
 ざわめきが沸き起こる。和明は手を上げて言った。
「でも、ブラックマーケット(闇市場)に流出した可能性もあります。模倣犯の線は?IPとかは無いんですか?」
「模倣犯の線は否定できないのも事実だ。IPの件についてだが……」
 そう言って錐島は目を閉じた。そして腕組して徐に言葉を放った。
「……IPは存在しないんだ。つまり犯人は幽霊かもしれん」

ACT#3「予想外の展開、予想通りの展開(回想2)」

 俺はゴミ袋が積った山の上にいた。ハッキング成功。これくらいの防壁、本気出すまでも無いか。俺は起き上がり錐島に通信した。
「目標の本拠地点に到着した。これより岐波逮捕、及び捕獲作戦を開始する」
『了解。二十分後に機動隊(電脳機動隊の略。主に治安警備や災害警備にあたる専門的な集団警備力と機動性をもつ電脳警察部)を送る。危なくなったら直ちに帰還しろ』
「なぁ、最初から機動隊に任せた方が良くないか。こんな武器で戦力は望めないし、経費削減て言ったって機動隊の出撃要請でかかっちまったら意味無し。それと岐波、お前この十五年間組んでいて分からないのか、本気で俺が負けるって思ってんのか?」
『事実、そうなんだが。出撃要請が出た以上、やるしかないんだ。下っ端の俺達に選択権は無いからな。それとお前が負けるとは思っていないが念の為だ、念の為』
「はいはい、分かったよ。……錐島、ここの建物の全体マップと潜伏中の岐波聡史の所在地を写せ」
『OK、後数分でマップが出るぞ。それと通信モードはONでいいか。何かあった時に役立つからな』
 辺りを見回すとそこは廃墟のビルらしき建物であった。壁には悪趣味な落書きがされて床は茶色に変色していて空き缶などのゴミが散らかっていた。長年放置されていたらしい。まさに敵の隠れ家て感じがするな。ここはエリアコード3714、Λ(ラムダ)サーバー。俺はゴミ袋の山から飛び上がり、床に着地した。しかし、マジでこれ一つで戦えって?俺はエムナインのマガジン(弾倉)に弾がちゃんと入ってるか確認してから安全装置を外した。
 行くか。
 俺は走っていた、何処までも続く螺旋階段を。岐波聡史の所ぃ在地はこのビルの屋上。それにしても何で人っ子一人いないんだ。どうなってるんだ?百五段目を上り切った所で俺は錐島に通信した。
「みんなマクドナルドでハッピーミールセットでも食いに行ったか?」
『いや、さっきまで反応があったんだがおかしいぞ。突然、反応が消えたんんだ。どうなってるんだ』
 ドン、ドン、ドン、と地を揺るがすような轟音が鳴り響いた。何の音だ?グリップを握る手が強まる。
 ドォォォン!
 後ろを振り返ると100メートル先に電脳人型兵器ゴーレム(正式名はTX-21-374。電脳生体陸軍決戦兵器。全長300メートル。重力350kg。その姿が神話に出てくるゴーレム(ゴーレム(golem)は、ユダヤ教の伝承に登場する架空の生物(?)。 golemとはヘブライ語で「胎児」の意味。作った主人の命令だけを忠実に実行する召し使いかロボットのような存在。運用上の厳格な制約が数多くあり、それを守らないと狂暴化する)にそっくりなのでその名前がついた。右腕にはガトリングガン、左腕にはロケットランチャーを装備している。TX-21-374はAI(人工知能)であり、操縦者も操作も必要ない。バイオウェポン(生体兵器)である)が壁を壊してこちらに近づいてくる。おいおい、マジか、何でこんな所にゴーレムがいるんだ!
「おい、錐島!どうなってるんだ。何で電脳陸軍御用達のTX-21-374がいるんだよ」
『分からない、どういうことだ。藍田、今はその場を切り抜けろ!どう足掻いても今のお前の装備では歯が立たない』
 分かってるよ、それぐらい。俺はエムナインの切り替えスイッチを『レ』にして近づいてくるゴーレムに向けてトリガーを引いた。が、やはりビクともしない。放たれた弾丸は虚しく地面に落ちた。するとゴーレムがこちらにガトリングを装備した右腕を向けた。ヤバイ。ドドドドドドン!と音と共に弾丸が俺を目掛けて飛んできた。俺は横に飛んで銃弾を避けた。右肩に鈍い痛み。壁にぶつけてしまったようだ。クソ。壁にぶつけてしまった右肩を押さえて階段を全速力で上った。後ろからズシン、ズシンと嫌な轟音を発しながら近づいてくる。俺はとにかく、上を目指した。
 着いた。
 そこは広間のような場所であった。オンボロの水が出ない噴水、グチャグチャニ原型を崩されたベンチ、枯れた花々。そこに岐波聡史、いや人の姿は無かった。とにかく今は何所かに隠れなくては。俺は噴水の裏側に隠れた。来た。ゴーレムが広間に姿を現した。俺は錐島に通信を入れた。
「錐島、聞こえるか?」
『ああ、聞こえている。今そちらに機動隊を送る。撤退しろ』
「いや、ここで俺が片付ける」
『馬鹿野郎!二度目だがお前の今の装備では勝てない。それぐらい分かるだろう?』
「それじゃあ、俺の面子が無いんだよ。それにこんなアホらしい任務とショボイ装備にしたのはお前だろ、逆切れかよ。悪いが俺は任務を完璧に遂行する」
『もし、お前が死んだら彼女が―――』
 通信を切った。それ以上は聞きたくなかった。俺はエムナインのからっぽになったマガジンを床に置いてジャケットから三百弾入ったマガジンをセットした。ガシャン、ガシャンと奇怪な音を発しながら広間を見回している。俺を探しているようだ。右、左、上、下と何度も首を動かしていた。ゴーレムが左を向いている時にエムナインによる一斉射撃。無理かもしれないがこれにかけるいしかない。合図は1、2の3だ。一つのミスも許されない。ゴーレムは右を向いて、左に移ろうとしていた。今だ。
 1…2…の…3!
 俺は噴水の裏から飛び出してトリガーを引いた。地面に落ちる弾丸の山。爆風、そして何かが壊れる音。弾煙で周りが見えない。俺はクリアモード(鮮明に映像を写す事が出来るモード。主に潜入・戦闘の時に用いられる)ゴーレムはまだ、生きてる。左腕をこちらに向けて構えている。ロケットランチャー!?回避できない。その刹那、体中に激しい痛みが襲ってきた。
 畜生!左腕を吹っ飛ばされた。
 しかし、何とか急所は免れた。床に倒れた俺に向けてゴーレムは再び標準を合わせた。ドーンと音と共に爆発。俺は左に転がって避けた。床には巨大な円形の穴が開いた。こんなのまともに食らったら再生不可能だ、プログラムごと吹っ飛ばされる。俺は立ち上がり体勢を立て直し後ろに二、三歩下がった。さっきの俺の攻撃でガトリングガンは使用不可能になったようだ。ロケットランチャーの装弾数計五発。今ので二発使用したので残り三発、これを耐え切るしかない。ガチャ、弾が詰められる音が聞こえた。とにかく、こいつの攻撃を回避する場所に逃げなくては。来る!俺は横に転がって柱の裏側に隠れた。ドォォンンンン!弾は柱に直撃し、さっきの床と同じように渦巻き模様の穴が出来た。俺は胸ポケットからマガジンを取り出してそれを口で咥えてエムナインにセットした。
 ガチャ。また、あの不吉な音。ここにいても柱が壊されて丸見えになるだけだ。さっきから数えていたのだが敵がロケットランチャーを装弾して発射するまで約十秒かかる。その十秒の間が勝負だ。ガチャ、装弾が完了したようだ。さっきと同じように1、2の3で飛び出して一斉エムナインによる一斉射撃。1…2…の…3!俺は横にサイドステップしながらゴーレムに向けてトリガーを引いた。やはり、無駄か。弾は硬いアーマーに弾き返された。それに気づいたゴーレムはこちらに向けて発射した。かわしてみせる。FDEモードON。その瞬間、全てがスローモーションになった。いける。回(避)俺は飛び上がった。誘導弾!?こちらに向けて小型ロケット弾が直進してきた。守。俺は持っていたエムナインで小型ロケット弾目掛けて弾丸を発射した。爆発、その反動で壁に叩きつけられた。もう、痛みも感じない。残り、一発。このまま、けりをつける。俺は起き上がり、エムナインを床に捨てた、そしてゴーレムに向かって突進した。ガチャ、装弾される音。1…2…の…3!ゴーレムの死角(ゴーレムの死角は後ろ)に潜り込んだ。攻。俺は右腕のデーターを変換した。
 ゴーレムは振り返ってロケットランチャーを構えて放ったが俺は身を屈めて避けた。砕けろ!懇親の力を込めてゴーレムの懐に当てた。グキッ、バキバキバキ。骨の砕ける音。ゴーレムの懐には巨大な円形の穴が出来た。瞬間、爆発。辺りは光で満たされた。死ぬのか俺は?体が消滅していくのが分かった。終わりなのかここで?何所かの誰かに問いかけた。
「いいえ。あなたはここで死なないわ」
 声のする方を振り返ると黒いコートらしき物を羽織った青い肩までかかる髪をした女が言った。女は俺の手を引っ張った。
「行きましょう。あなたには死なれては困るのよ。計画の遂行の為に」
 反転。暗闇の中でその女の声が何回も頭の中でリフレインした。

ACT#4「過去の遺産、自分という存在を捨てた日(回想3)」

「美波(ミナミ)と秀平(シュウヘイ)は元気か?」
 昼下がりの午後。いや、この世界に時間という概念は存在しない。俺がそう決めただけだ。だから、本当の事を言うと朝かもしれない、もしかしたら夜かもしれない。目に映る映像が俺に「昼下がりの午後」という認識をさせているだけに過ぎない。では、今日は何月何日何曜日の何時何分何秒なのだろうか?仮想世界というのは現実世界に限りなく近いが、現実世界で必要不可欠な時間という概念が欠落していた。現実世界に近づこうと思うあまり、色々な歯車が欠落している世界。完全にはなれない不完全な世界。この世界は人間と似ていた。完全を求めようとするあまり、不完全な存在。それは人間に限ったことでは無い、なぜならこの世界もまた現実世界の不完全を完全に近づける為に作られた世界なのだから。
 特殊部隊AVM第二支部の二階にあるカフェテラス『スターダックスコーヒー』隊員達の憩いの場であるこの場所は怒涛の喧騒や話し声も無く何時ものように人が疎らで静寂であった。外から室内に光に限りなく近いものが射していた。俺と錐島は一番奥の席に座っていた。錐島はコーヒーを一口飲み(実際には飲んでいない)俺の質問に答えた。
「二人とも元気にしてるよ」
 俺は安直の溜息の後「よかった」と呟いていた。美波というのは妻で秀平はただひとりの俺の息子だ。二人とはもう八年近く会っていない。たぶん、これからも先も会う事は無い。会いたい、だけど会えない。なぜなら俺は仮想世界の住人であるから現実の世界に足を踏み入れる事が出来ないからだ。だから、現実世界と仮想世界を行き来できる錐島に美波と秀平の事を聞いた。
「藍田。何でお前は美波さんと秀平君に会いにいかないんだ?時間と場所を指定してくれれば二人を電脳に連れて行ってやることも出来るんだぜ。そうすれば会うことが出来るだろ」
「八年近く経って何を今更って思われるよ。現実世界では死んだとされているからな。それに美波と秀平はたぶん俺の事を憎んでいる。だから、会う勇気が無いんだ」
 当たり前か。家族の事なんかほったらかしで仕事に明け暮れていた。そしてある日、突然居なくなった。心配もしただろうし、迷惑もかけた、もしかして俺が死んだと聞かされて悲しんだかもしれない。これは単なる言い訳かもしれない。俺だって会える事なら会いたい。しかし、俺の心はそれを許さないのだ。

***

『行きましょう。あなたには死なれては困るのよ。計画の遂行の為に』
 TX-21-374、別名ゴーレムの爆発に巻き込まれた時、俺を光の指す方へ導いてくれた黒いコートらしき物を羽織った青い肩までかかる髪をした女。輪郭までは思い出すことが出来ないが彼女が黒いコートらしき物を羽織って肩までかかった青い髪はハッキリと新鮮に思い出すことが出来た。彼女は誰だったのだろうか。もしかしたら死神だったかもしれないし?どうしようもない俺に神様が送ってくれた使徒かもしれない。まぁ、助かったんだからどっちでもいいが。
 俺が発見されたのは爆発から数分後の事と錐島に聞かされた。左腕のデーター、左右の足のデーター、中腹のデーター、背骨のデーター、筋肉のデーターが完全に吹っ飛ばされていたらしい。後、一撃で生命保持機能(体を保つための重要コア。すなわち、心臓である)停止寸前だったそうだ。修復経費は$30000(日本円にして300万円)もちろん、俺のスズメの涙給料の半年分から引かれるわけだが。普通、組織が持ってくれるだろ。本当に金銭面に関してはケチな組織だよ、マジで。俺がその事を言うと錐島は「お前がさっさと撤退すればこんな事にならなかったんだよ。少しは反省しろ!」と怒った。経費削減の為だとは言え、エムナイン使用弾数3000発だけで巨大ネット犯罪団グループに特攻させる、まるで第二次世界大戦中の爆弾持って敵地に突っ込む特攻兵のような酷い事をさせといてそれは無いんじゃないの。俺はこんな無謀な作戦を立てたお前に説教したいよ。
 動隊が駆けつけた時はもう既にゴーレムは粗大ゴミと化し、AVM第七部隊第四課は毎度の事ながら電脳警察第八部隊第二課、別名電脳機動隊から「俺達は清掃会社じゃないんだよ。ふざけてんのか?」と愚痴をタラタラ言われ、そのせいで富士夫爺の眉間の皴が三本に増えた代わりに約二十本以上の僅かな白髪が抜け落ちたそうな。
『呉禁団』メンバー及び、岐波聡史の消息は不明。回線を潰していたからログアウトは不可能の筈だが別の回線に乗り移った可能性も否定は出来ない。あの時、俺を殺そうとした『呉禁団』メンバーのパーカーの男とサングラスをかけた黒人らしき男に事情聴取をしてみたが「分からない」の一点張りだ。しかし、奴らの証言で分かった事が一つだけある。奴らの言うには俺があのエリアにダイブした時、確かに『呉禁団』メンバー及び、岐波聡史はあのエリアコード3714、Λ(ラムダ)サーバー内にいた。では、俺がハッキングして防壁を破った時、あのエリアに『呉禁団』メンバー及び、岐波聡史はいたのだろうか。奴らは確かにあのエリアにいた。反応を消失したのは俺が螺旋階段の百五段目を上りきった時だ。その反応の消失と同時にゴーレムが壁を破壊して出現した。岐波聡史が俺がハッキングする事を知っていて罠を張っていたのか?それはありえるかもしれなし。現に岐波聡史は俺がエリアにダイブした事を見計らって二人の刺客を送り込んだ。でも、どうやってゴーレムを手に入れたんだ。あれは電脳生体陸軍決戦兵器、あれを手に入れるには何重もの防壁を突破しなくてはならない、この俺でも苦戦する防壁を潜り抜け、あれを手に入れたとは思えない。リスクが大きすぎる。ブラックマーケットにだってあんな代物は無い。軍でも三佐以上(電脳軍事上層部は計七つの階級に分かれている。上から順に将軍、大佐、中佐、少佐、大尉、中尉、少尉となる)及び政府の上層部の人間しか解除する事が出来ない、それに岐波聡史は巨大ネット犯罪団グループの頭領を覗けばただのチンピラだ。となると答えは一つしかない。
 軍上層部及び、政府上層部の誰かが岐波聡史と繋がりがある。
 岐波聡史が利用しているのか、岐波聡史が利用されているのか。恐らく後者だと思うが。となると……チンピラ逮捕騒ぎから国家政府の大騒動だ。もしも、軍事上層部、及び政府上層部の誰かが犯罪者と繋がりがあるという事はこれはもう第七部隊第四課は介入出来ないわけだし、これは単なる俺の想像に過ぎない。しかし、もし軍事上層部、及び政府は岐波聡史を使って何をする気なんだ。あんなチンピラ、巨大ネット犯罪団グループ『呉禁団』の頭領と言うことを除けばこの電脳空間内に数え切れないほどいる。もしかして岐波聡史が若干28歳で『呉禁団』の頭領になったのに何か関係があるのか。
 俺を爆発から守った黒いコートを羽織った青い肩までかかる髪をした女が最後に言った「行きましょう。あなたには死なれては困るのよ。計画の遂行の為に」計画?どうやら俺が死なれると彼女の計画が遂行できないらしい。だから、俺を死の淵から救った、と言うわけか。となると後々、俺も厄介事に巻き込まれそうだ。俺は知らず知らずの内に運命というプログラムの中に書き込まれているようだ。

***

「―――おい、聞いてるのか?」
「聞いてるよ」
 とは、錐島に言ったものの考え事をしていて気がつかなかった。俺は味の無いコーヒーを一口飲んだ。錐島は溜息を吐いてから内ポケットからタバコを取り出し口に咥えた。そして慣れた動作で口に咥えたタバコに火を点した。ユラユラと白い煙が上に伸びていった。俺はその白い煙に触発されるように口を開いていた。
「脳だけになった俺を見て美波も秀平も気分がいいものじゃないぜ。それにこの声も体も顔も……全てプログラム上で俺が再構築しただけだ。自分が思い浮かべた姿と他人が見た姿は違うだろう?たぶん二人が俺を見ても誰だかわからないと思う。それにこの性格だって、前の俺とは違うかもしれないしな。自分では分からないんだよ。他人が見るものと自分が見るものとでは大きな裂け目がある。意思の一致はありえないんだ。だから、美波の知っている夫は秀平の知っているお父さんはもう、何処にもいないんだ。だから、俺は電脳―――マトリックスの住人なんだよ。現実で生きていく事が出来ない、タヌキだ」
 錐島は押し黙り、白い煙を吐いた。長い沈黙。『スターダックスコーヒー』の店内には人は疎らだがこれほどの静けさでは無い筈なのだが今日はどういうわけか水を打った様に静かだ。いや、俺がそう思っているだけなのかもしれない。本当はもっと騒音に塗れて耳が塞ぎたくなるほど五月蝿いのかもしれない。
 俺がそうだと、決めつけているに過ぎないのだ。
 すると突然、ピピピピピと微かな音が何処からとも無く聞こえてきた。錐島はタバコを吸殻入れの底で潰してゆっくりと「何だ?」と言った。
『錐島、それと藍田、二人ともそこにいるか?至急、会議室まで来い。話はそこでする。では』
 富士夫爺は何時にも増して厳しい声で用件を伝えると早々と通信が切れた。錐島は立ち上がり「―――だとよ」と言って背中を向けた。
「錐島、お前休暇取れ。疲れてるんだ」
 そう言って錐島は出口に向かって歩き出した。俺はそんな後姿を見ながら「ああ、分かってるよ」と呟いた。

ACT#5「襲撃、プログラムの塵に埋もれて(もしくは要領の悪い虐殺1)」

『分かっていると思うが今回はただの潜入では無い。能美瓜八子の救出だ。近接戦闘は極力避けろ。奴らは並の武装と数じゃない、弾が幾らあっても足らん。そしてこの第四犯罪者投獄(極刑に値する者が入れられる世界で最も恐ろしい刑務所)は世界最高水準のプロテクトがかかっている。この防壁を突破できるのはお前しかいないんだ』
 俺は今、エリアコード0027Ω(オメガ)サーバーの第四犯罪者投獄プロテクトレベルCにいた。無茶な作戦を立てるよな、本当。今回の任務は第四犯罪者投獄のS級(犯罪者レベルは五つに分けてS、A、B、C、D、Eとなっている)犯罪者特別牢獄に監禁されている能美瓜八子の救出だ。しかし、これはもはや犯罪だS級レベルの。
「しかし、マジでやるんすか?もし見つかったらゲームオーバーですよ?第七部隊第四課はこの襲撃事件の責任を追求されて全員、ここのお世話になるんすよ?それよりここを襲撃した俺はどうなるんですか?見つかれば即、射殺ですよ?ねぇ?ちょっと?俺が相手にしているのはチンピラ、せいぜい良くてヤクザすよ。軍事ではないすよ。相手は戦術のプロフェッショナル。自信ないす」
『……お前何時から口癖が「〜〜〜ないす」になったんだ』
「あ、ばれた?」
 通信越しの僅かな沈黙の後、錐島の溜息と富士夫爺の「馬鹿者」という声が聞こえた。
「悪い、悪い、冗談だって。それでは能美瓜八子救出任務を開始する」
 通信を切り、壁にもたれ掛った。空元気をして見たものの内心かなり境地に追い込まれているようだ。これでこういう任務は最後にして欲しいよと、切実に願った。俺は肩に提げていたM4A1(軍特殊部隊正式採用ライフル口径5.56mm。装弾数30発)にマガジンを入れた。今回ばっかしは経費もクソも無いってか。俺は右手に持っていたアタッシュケースを開いた。AVM第七部隊第四課が開発した万能カスタムケース『ナンデモ屋(名付け親は富士夫爺)』さすが、S級ランク犯罪者専用カスタムボックス、重装備が惜しめも無く入っていた。俺はM203グレネードランチャー(破壊力はあるが隠密性に欠ける武器。戦場向き。M433デュアルパーパス弾を使用)をM4A1に装着した。それから入っていたマガジン、デュアルパーパス弾を腰に巻かれたバッグにありったけ詰めた。後はグレネード(手榴弾。広範囲に爆破する)スモークグレネード(手榴弾の変化形。煙を広範囲に煙を撒き散らす)をベルトに巻いた。それと念の為にベレッタM92-F(米軍正式採用拳銃、口径9mm。装弾数15発)を懐に入れておいた。
 チンと音と共にエレベーターは停止した。たぶん、錐島も富士夫爺もみんな本気なのだろう。狂ってやがる。だってそうだろう?政府直属の特殊部隊にしてありながら政府直属の刑務所を襲撃するなんて馬鹿げている。証拠を奪還する為とは言え、いくらなんでも無茶苦茶だ。もし、この事がバレた時、どうするつもりなんだ。……やはり、錐島も富士夫爺も俺と同じように気付いているのかもしれない。一ヶ月前の岐波聡史事件、そして今回のDK事件。二つの事件は何処かリンクしている。二ヶ月前の岐波聡史事件も政府の中止要請により、真相は結局は分からずじまいになった。そして今回のDK事件、奴らは何かを隠し通そうとしている。
 政府が一枚噛んでいる俺は壁にもたれ掛るのを止めて開いた扉に向かって歩き出した。
「―――止まれ!でなければ撃つぞ!」
 邪魔だ。俺は走りながら通路の真ん中で立ち塞がっている警備人に向けてトリガーを引いた。ドドドン!乾いた音と共に頭を打ち抜かれた警備人は呆気無く床に倒れた。俺はその警備人の死体を飛び越えて右通路の壁に隠れた。敵は計五人、ガードアーマー兵。装備はCOLT M16A-2(米軍正式採用アサルトライフル口径5.56mm。装弾数30発)ショットガン(散乱銃。広範囲に弾をばら撒く)ユニット装備。楽な相手じゃないな。俺は新しいマガジンを取り替えて体半分飛び出してトリガーを引いた。ズドドド!一瞬の内に通路の壁は蜂の巣のようにデコボコになった。二人殺ったか……残り三人。再び空になったマガジンを床に捨てて新しいマガジンに取り替えた。通路から同じガードアーマーを装着した4人の守備兵がやって来た。増援!?クソ、キリが無い。畜生、荒っぽいがしょうがない。俺はM4A1をガードアーマー兵どもに向けて投げた。円を描きながら空中で落下していくM4M1。FDEモード。回(避)俺は壁から飛び出し、ガードアーマー兵どもに向けて走った。ガードアーマー兵どもの発射した数千の弾丸が俺目掛けて直進してきた。俺は左右に弾を避けながらガードアーマー兵どもの懐に飛び込んだ。攻。俺は空中でM92-Fを取り出し、弱点である頭を撃ち抜いた。まず……一人。そしてその横にいたガードアーマー兵の溝に蹴りを入れた。二人目。俺は右手でガードアーマー兵どもに向けて投げたM4A1をキャッチしてトリガーを引いた。ドドドン!五人のガードアーマー兵どもは力なく床に倒れた。そこには火薬の匂いも血の匂いも無かった。
 床にはレベルAと書かれていた。最後の大仕事だ。俺はセキリティドアの前に立った。この先に能美瓜八子がいる筈だ。俺はハッキングモードをONにした。幾多の防壁を潜り抜けてきたがたぶん刑務所の最重要エリアの防壁を相手にするのはこれが初めてだ。周りが黄緑色に染まっていった。次の瞬間、俺は無限に数字が羅列する世界へと堕ちて行った。

***

 光さえも無い無限に続く暗黒の空間に六人の老人達が丸テーブルを囲んで座っていた。顔は分からないが口調からそれが老人である事が分かった。一人の老人が言った。
「この計画、本当にうまくいくのだろうな。失敗は許されないのだぞ」
 その言葉にもう一人の老人が口を開いた。
「ゲシュタルト崩壊かね?君はこの計画に賛同していたではないか?」
 その言葉に老人達は「うむ」と頷いた。そして他の老人が言った。
「全ての準備は整っている。後は始まりの音を待つだけだ」
「しかし、奴らAVM第七部隊第四課が何か感づいている。野放しにして置くのか?」
「取るに足らんよ、泳がせておけば良い.」
「それではこのまま計画を持続させる。異議は無いな?」
 沈黙。
「異議は無いようだな。それでは解散」
 老人達は闇に溶けていった。

(続く)



2005/01/30(Sun)10:56:38 公開 / パクパク
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■作者からのメッセージ
連載二回目になります。
この作品は全部で第四回まであるのでそれまでよろしくお願いします。でも、ぜんぜん先が見えない(汗:
それではご質問、ご感想待っています!
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