- 『走る男 【読み切り】』 作者:rathi / 未分類 未分類
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俺は今、走っている。
走る。走る。ただひたすらに、がむしゃらに、しゃかりきに走る。
息も絶え絶えで、膝はがくがくで、腕はもう肩より上には上がらなくても走る。
背広で、革靴で、最悪な条件を満たして、時速四キロというまあまあのペースを保ちながら走り続ける。
なんで俺が走らなくてはならないだろう。という自問自答は、三桁を越した辺りで数えるのを止めた。というより、数えられなくなった。
部長の馬鹿。部長のアホ。部長なんか死んでしまえ。部長なんか豆腐の角にぶつけて死ね。
罵詈雑言を心の中で唱え続ける。空しい抵抗だと知りながらも。
――じゃ、そういうことで頑張ってくれ。
部長の糞ムカツク笑顔と、嫌味にしか聞こえない労いの言葉を思い出した。
身体の奥底が熱くなり、時速五キロまでペースが上がる。
だがそれも長くは続かず、逆にオーバーペースのせいで時速三キロまで落ち込んだ。
こんな企画を考えた奴はアホだ。屑だ。死んでしまえ。馬に蹴られて死んでしまえ。
重大な話があるからって、意気揚々と会議室に言ったら糞ムカツク部長が一人だけが居て、
――じゃ、君。師走だから走ってきてよ。今度の会議で決まったんだ。
だとさ。
何の脈絡も無しに、こっちの気分などお構いなしに、準備させる時間すらくれず、企画はスタートした。
スタート地点は会議室から。実に、馬鹿げている。こんな馬鹿げている企画、止められるならばさっさと止めてしまいたい。
だが、足を止めた時点で俺は『クビ』だ。リスとトラだ。負け犬人生まっしぐらだ。
――じゃ、ゴールしたら賞金をあげるよ。二百万円だよ。二百万円。
付け加えるように、ゴールしたら平社員から課長にランク上げしてあげる、とも言っていた。
つまり、いわばこれは頭なんぞ一切使わない昇級試験。文化系の俺に全く相応しくない企画というワケだ。
ふざけている。馬鹿げている。糞ムカツクからゴールして、二百万をもぎ取ってやる。
だから俺は走る。走る。ただひたすらに、野を越え山を越え、三日三晩ぶっ通しで。
ギネスに載るんじゃないだろうか。なんて思ったりもしたが、昔テレビで見たときはもっと走っていた気がする。
嗚呼、水が欲しい。時折降る雨では足りなさすぎる。
人間の身体の六十%〜七十%は水で出来ているんだ。今の俺は四十%あるかどうかすら疑わしい。
水。水。水。誰でも良いから水をくれ。このままでは水分が全て蒸発してミイラになる。
公園に差し掛かったとき、俺は天使を見た。いや、お迎えが来たとかそういうのじゃない。噴水があったんだ。
迷うことなく、噴水に突撃していく。
水を飲もうとするが、ホースを口の中に突っ込まれ、最大出力で噴出されているような気分になる。
それでもなんとか飲む。飲まなければ死んでしまうのだから。
嗚呼、潤った。人間は水なしでは生きていけないのだな、と実感した。
満たされた俺は走る。走る。しゃかりきに、野犬に追いかけられながら、合計六日間ぶっ通しで。
ランナーズハイ、という言葉がある。これは、走っていると脳内ドルフィンが分泌され、疲れが一切なくなる、という現象だ。
いつになったら来るのだろうな。このランナーズハイ、ってのは。俺の脳内ドルフィンは渇いているのか。ちっとも分泌される様子すら見せないでいやがる。
あ、そうか。昔、俺はマラソンの時に楽しいことを考えながら走り、疲れを紛らわしていた。それを今応用すれば。
なにかないだろうか。楽しいこと。面白いこと。
駄目だ。なんにも思いつかん。脳に酸素が足りない。タリナーイ。酸素欠乏症デースヨー。
駄目だ。いろんな意味で楽しいが、駄目だ。あっちの世界へゴールは勘弁願いたい。
嗚呼、なんで俺は走っているんだろうな。賞金の為なのか。あの会社に居たいからなのか。あの部長が糞ムカツクからなのか。
二百万円は欲しいが、命を賭けてまで欲しいとは思わない。
嫌味臭いヤツらばかりの会社に、こうまでして居たいとは思わない。
部長が糞ムカツクなら、とっととこんな企画止めてしまえば良い。
もう、分からん。
分からなくなったから、止まろう。
俺は止まった。徐々にスピードを落とし、完全に歩みを止めた。
辺りは薄暗く、空を見上げると、もう既に一番星が出ていた。
これで俺は会社をクビになった。リスとトラだ。負け犬組だ。
でも、気分は晴れやかだった。
これで良い。これで。
晴れやかな気分に浸っていると、トラックが俺の前に止まり、運転手が声を掛けてきた。
――あんちゃん、背広がズタボロだけど、どうした。
走っていたらこうなりました、と素直に答えると、運転手は手を叩きながら爆笑した。
ついでに、目的地まで乗せていって下さい、とお願いすると、親指を立てて気持ち良く了承してくれた。
――ところで、目的地ってどこなんだ。
「……あれ?」
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2005/01/15(Sat)14:10:24 公開 /
rathi
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■作者からのメッセージ
はい、何の考えも無しにつらつらと書いてみました。
ストーリーもへったくれもありません。
単なるお馬鹿小説です。
ではでは