- 『コンタクトレンズ〈読みきり〉』 作者:千夏 / 未分類 未分類
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「ああ、ごめん」
そう言って彼は私の指から離れた。
無意味に高い声を張り上げ話を進める少女たちの声に混ざって、あまりよく聞こえなかったが、彼は私にごめん、と言った。
「いいよ」
私は目を擦り、振り向く彼に物を手渡した。少しキツイ言い方になってしまった、と後悔したが、彼は少し間があってからサンキュ、と言って受け取った。また少し、指が当たった。心臓が高鳴るのが分かる。
そうして彼は去っていった。物を、持って。
「なんでコンタクト忘れたりしたんだろ…」
え、なに、と隣の沙耶が問いかけた。私は笑ってなんでもないよ、と答えた。その日、私が見たものは、ぼやけた彼の微笑みと、沙耶の不思議そうに私を見る顔だった。
誰かが白い息をしながら私に手を振っているのが分かる。目を細め、近づくと沙耶だった。
「おはよう」
沙耶は、またコンタクト忘れたの、と言って、白い見るからに暖かそうな手袋をした手で私の頭を小さく撫でた。けれど身長は、沙耶のほうが私より小さい。
「ううん。今日は、ラッキーな事を願って」
沙耶は昨日見せた不思議そうな顔をして、まあいいや、と言って私の腕に抱きついた。まるで、恋人同士の様に。
それから次々と後ろから友達に会った。
おはよう沙耶&理香、というクラスの友達。おはようございます先輩、と私に向けるあいさつだったり、沙耶の部活の後輩だったり。時には先生が来るのを私たちからあいさつしたり。その中に、私は見つけた。
彼―矢崎雷―を。
彼はクラスの男の子たちと一緒に軽そうなバッグを持って登校していた。
「ぼーっとするな理香!」
一発、沙耶からのアッパーを喰らってから私はごめんと言った。ぼやけた沙耶は、とても女の子らしく見えた。
帰宅部所属の委員活動もしていない彼は、私との接点など無い。なのでああ見えて学級委員をしている沙耶の手伝いをして接点を増やしているのだ。沙耶はいまだに私が矢崎くんを好きなことを分かっていないけれど。
ぼけーっと教室の窓から空を見上げる。すると一瞬空が見えなくなり、視界が真っ暗になった。
「だーれだ!」
弾んだ声の持ち主、それは叶ちゃんだった。
「叶ちゃんでしょ?」
視界に映ったのは叶ちゃん。だが何事も無かったかのようににこにこしている。後ろから沙耶が、私よーん、とからかう様に視界に入ってきた。
声はうちで、手は沙耶ちゃんだったんやで、と叶ちゃんは言った。
私はまんまと騙されて少し顔が赤くなるのが分かった。
叶ちゃんには私の好きな人は知られている。常に細心の注意を払っていたが、バレていたのだ。
沙耶が机に何枚ものプリントを置いた。
「これ、配っといてね」
微笑み、沙耶と叶ちゃんはどこかへ行ってしまった。しょうがないな、と独り言を呟き、それでもお人よしの私はプリントを配りに、黒板のほうへ行く。前から配ったほうが効率いいのである。
「はあ」
ため息をついた瞬間、配ろうとした列の一番後ろの席からクスリという笑い声が聞こえた。
「なっ…」
私はすぐ気がつき、プリントから笑い声の主へと目を移した。その瞬間、胸が高鳴る。彼だった。
ぼやけてよく見えないが、確かに彼だ。あの席は、彼。
「槙田ってよくプリント配ってるよね」
プリント配りの私と思われているのだろうか。それは悲しい。
「ごめんね、私今日コンタクトしてないからよく見えないの。誰」
また少しつっけんどんな言い方になってしまった。コンタクトを口実にプリントの事を気にしてない素振りを見せた。彼が私の気持ちに気付いているかは別としてだが。
彼はそう、と言って黙った。私は怒らせたと思って手に持っているプリントに目を向けた。すると彼のほうからガタンという音がした。目を向けると…
「槙田理香、俺、矢崎雷。顔分かる」
かなり顔の近いところで言われた。やられた。彼は、私の気持ちに気付いていたらしい。顔が分かるかなんて、答えは一つだ。
「分かる」
顔を赤らめた私は、彼に見られただろうかと、それだけを考えていた。
「コンタクトって口実、なかなかいいんじゃん」
頭をポンと叩かれた。沙耶より少し痛かった。彼は去って行って、私は何人かいる教室に残された。
コンタクトレンズ。買わなきゃ…
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2005/01/10(Mon)11:35:46 公開 / 千夏
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■作者からのメッセージ
こんにちはッ!ちょっと久しぶりになってしまいました;;
和風というのは少し置いといて、こんなの書きましたv
曖昧な雰囲気のものが書きたくてできたのがコレです(笑)
それでは、感想などお待ちしています!!